阿佐ヶ谷地獄~安らぎは永遠に外れ

    作者:幾夜緋琉

    ●阿佐ヶ谷地獄~安らぎは永遠に外れ
     早朝の杉並区は阿佐ヶ谷の市街地。
     始発も走り始める前の時間……早朝マラソンに精を出す人達が居たりして、さわやかな朝の一時。
    『な、なんだあんたたちは!! おい、来るな、くるんじゃない!!』
     しかしそんなさわやかな一時には似つかわしくない、荒れた声。
     ……呻き声を上げて、街中をうぞろうぞろと歩く人外の生物、アンデッド達が平和な一時を破壊し、事態を理解していない一般人達へと襲いかかっていた。
     そして……そんな一般人達を襲うアンデッド達の手には、何か禍々しい雰囲気を纏ったナイフが握られており……一般人らを襲う際に、そのナイフで命を奪っていく。
     ……その動きは、一直線に何かに向けて、次々と一般人を襲撃していくのであった。
     
    「皆さん、集まって頂けましたね? それでは……説明を始めます」
     姫子が集まった皆を見わたすと共に、真摯な表情で説明を始める。
    「皆も覚えているでしょうが、先日戦ったデモノイドは覚えていらっしゃいますか? そのデモノイドが東京の阿佐ヶ谷に現われてしまったみたいなのです。このままでは阿佐ヶ谷周辺が壊滅してしまう事でしょう……急いで、阿佐ヶ谷に向かって欲しいのです」
    「本来デモノイドは、ソロモンの悪魔の『アモン』によって産み出された生物の筈なのですが……今回は何故か『アンデッド』の襲撃により産み出されてしまっているのです。彼らは儀式用の短剣の様な物を装備しており、その短剣にて攻撃された者の中からデモノイドとなる方が現われている模様です……未確認ではありますが、少し前にソロモンの悪魔の配下らが行っていた儀式に使われていた短剣と、この儀式用の短剣は同じ者である可能性がありますね」
    「……でも、今はこれ以上の被害を生み出さない事が大事です。アンデッドと、そして産み出されてしまったデモノイドの灼滅を、皆さんにはお願いしたいのです」
     続けて姫子は詳しい情報について説明する。
    「今回、皆さんにお願いするのは、阿佐ヶ谷市内で暴れているアンデッド達を討伐してきて頂きたいのです。アンデッド達は市街地に入り込み、市民達に襲撃を仕掛けているみたいなのです」
    「相手にするアンデッドは4人なのですが……既にデモノイドになってしまった一般人の方々が一緒に居るようです。一人でもかなり強力な相手ですが、それが二人現われている模様です」
    「デモノイドらは自分の苦しみを現さんが如く、雄叫びを上げています。彼らを救う事は出来ませんが……厳し心を持ち、厳しい戦いではありますが、デモノイドと、アンデッドらを倒してきて下さい」
     そして最後に。
    「厳しい戦いにはなると思います。ですが……皆様の力で、少しでも事態を良くしなければまずい事になります。皆さんの力を課して下さい。宜しくお願いします……」
     深く姫子は、灼滅者達に頭を下げるのであった。


    参加者
    玖珂峰・煉夜(顧みぬ守願の駒刃・d00555)
    不知火・響哉(紅蓮の焔・d02610)
    武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)
    相馬・凪(日常に微睡む・d06008)
    禰宜・剣(銀雷閃・d09551)
    アイネスト・オールドシール(アガートラーム・d10556)
    朝倉・くしな(ヤル気はいつも空回り・d10889)
    クリミネル・イェーガー(笑わぬ笑顔の掃除屋・d14977)

    ■リプレイ

    ●安息の町の下
     阿佐ヶ谷駅周辺に現われたアンデッドと、それを倒す為に集結した灼滅者達。
     姫子より話を聞いた彼らは、アンデッドが徘徊していると聞いた街中を急ぐ。
    「……しかし、近いな……武蔵野から」
    「そうだね……学園に近い場所への襲撃に、デモノイド、と……厄介な事だ」
     武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)と、相馬・凪(日常に微睡む・d06008)が肩を竦める。
     確かに阿佐ヶ谷から武蔵野は数駅程度しか離れておらず、近い。
     そんな場所に現われたのだからこそ、何か関連がありそうと思うのも当然……。
    「これはやはり、何らかの大きな動きの為の牽制という匂いがプンプンするな……とはいえ今やるべきは目前の標的の灼滅だろう。ならば一刻も早く済ますのが最善の手、か」
     と、勇也の言葉に。
    「そうね。こんな往来で地獄絵図になるなんて……冗談じゃないわ」
    「状況は中々に厳しいようだが……覚悟を決めて挑まないとな」
    「そうじゃな。好き勝手暴れおってからに……これ以上の被害が出る前に、ちゃっちゃと灼滅してまわんとな!」
     禰宜・剣(銀雷閃・d09551)と玖珂峰・煉夜(顧みぬ守願の駒刃・d00555)に、アイネスト・オールドシール(アガートラーム・d10556)が威勢良く声を上げる。
     ただ、アイネストは口にしないものの、心の中で。
    (「でもしかしわからんなぁ……眷属にする為に、死体を回収するでもなく、デモノイドを作る事が兵隊を補充出来るアモンはともかくとして、屍王にとって何の得になるんやろ? 刺殺した人間が、死体から出来るデモノイドは屍王の眷属として使えるとでも言うんやろうか?」)
     と考える。
     ……でも、今ここで考えていても、答えは出てこない訳で。
    「まぁ……深く考えずともいいだろう。僕はただ、脅威になる存在を殺すだけだ。アンデッドは解体……だったかな」
    「そうですねっ! 敵はデモノイド二体っ……手強い相手が二体も居るとなると、大変だとは思いますが、頑張りますよっ!」
    「そうだな。デカブツ二体とはなかなかキツイ現場だけど、やるしかねぇ……さぁ、ヒーロータイムと行こうぜ!」
     凪に朝倉・くしな(ヤル気はいつも空回り・d10889)と、矜人が声を上げる中。
    「……大丈夫?」
     クリス・ケイフォード(小学生エクソシスト・dn0013)が、真摯な表情を浮かべている千結に声を掛けると。
    「デモノイド……以前会った時には、救えなかった。今回も倒さなければいけないみたいっすけど……増やす存在であるアンデッド達をどうにかして、デモノイドを救いたい。助ける事は無理でも、なるべく苦しまずに……」
    「……うん、分かるよ、その気持ち。僕達も、出来る限り……苦しまずに、送りたい所だ。でも……今回はデモノイドが二体居るという話。こちらも油断は出来ないよ」
    「分かってるっす。だから……精一杯皆さんをサポートしたいっす。みなさんにも勿論、無事でいて欲しいですから」
    「そうだな……宜しく頼むぜ」
     不知火・響哉(紅蓮の焔・d02610)がクリスと千結の頭を撫でながら言うと、それにクリミネル・イェーガー(笑わぬ笑顔の掃除屋・d14977)も。
    「そうやね。んじゃま、デモノイドとアンデッドとゴツイ奴らが並ぶけどまぁ、気合い入れて頑張っていこうや!」
     そんな威勢の良い言葉を挙げつつ、姫子に聞いたアンデッドとデモノイドの暴れる市街地へと向かうのであった。

    ●粗暴者
    『ウ……グァアァ……』
    「ひ……や、やめろやめろ!! くるなぁぁ!!」
     呻き声を上げる蒼い身体のデモノイドが、一般人に向けて襲いかかろうとしている。
     そこに到着した灼滅者達……。
    「こっちだ、こっちに逃げろ!!」
    「そいつらは危ない奴らですから、今すぐこっちに!!」
     登、銀静が切羽詰まった叫び声と共に、一般人に向けて避難指示。
     その声に危機感を感じた一般人は、取る者取らずと言った感じでその場からどうにかこうにか逃げていく。
     そしてそれと入れ替わるように、灼滅者達が。
    「さて……猟犬の出番やな」
     ニコニコした笑みが、感情の見えない薄ら笑いを浮かべるクリミネル。
     ツカ、ツカとデモノイド及びアンデッドの下へと歩いて行くと、それに対しアンデッドが。
    『アゥウァ……ゥゥ……!』
    「……五月蠅いなぁ?」
    『グ……ゥ……』
     攻撃を嗾けてくるアンデッドに、速攻の鋼鉄拳を叩き込み、怯ませる。
     そして響哉も、それに合わせて敵の進行方向と、一般人の退路の間に陣取って。
    「悪いけど、ここから先は行き止まりだぜ?」
     と挑発してみる。
     ……その灼滅者達の動きに、アンデッド四匹、そしてデモノイド二匹が。
    『……ゥゥゥ……』
    『ガァ……ウゥ……』
     呻き声を上げて、そして六匹が次々と攻撃を仕掛けてくる。
     アンデッドはそこまで攻撃力は高くないものの、デモノイドの攻撃は重く、痛い。
    「っ……中々楽しい戦力差。だけど……それがどうした!!」
     何処か剣が嬉しげに言葉を告げながら、鏖殺領域を展開。
     そしてそれに煉夜も頷きながら。
    「全くだ……確かに強力ではあるが、その方が腕が鳴るぜ!」
     と言い、シールドバッシュでデモノイドに怒りを付与。
     そして響哉、クリミネルのクラッシャー二人が。
    「……!!」
    「燃えちまえ!」
     封縛糸をデモノイドの一体に放つクリミネルと、アンデッドに対してレーヴァテインで炎を付与する響哉。
     更に勇也がアンデッドのもう一体にレーヴァテインで、更に付与。
     アンデッド二体の身体が炎に燃え上がる……グアアア、と呻き声を上げて苦しむ。
    「……苦しいよね。でも……僕達はキミ達を倒さないといけないんだ。ごめんね」
     クリスは予言者の瞳、そして千結も高速演算モードで自己強化を施す。
     そして中衛のジャマーでアイネストは、アンデッド4体に向けてブラックウェイブの武器封じで、攻撃力を下げていく。
     又、メディックであるくしなは。
    「……まだ、みなさん大丈夫ですかっ?」
     と確認する。
     幸いダメージは酷いものではなく、クリミネルがサムズアップで応えると。
    「なら、まずは動ける数を減らすことが先決……くしなさん、行くよ!」
    「はいですよっ!! これ以上暴れさせませんっ!」
     凪はデモノイドの一体に向けてペトロカース、くしなは導眠符で、皆が攻撃していないアンデッドに催眠を叩き込む。
     そして次のターン、アンデッド達は怯み行動が遅れるも、デモノイドは怯む事無く攻撃。
     今度の攻撃は勢いも強く、ガッツリと剣に……と思ったが。
    「っ……」
     すっ、とその攻撃を受け止める勇生。
    「勇生!?」
    「危なかったな……油断すんな、だが無理もすんなよ」
     サムズアップするも、体力の減少は大きい……そしてもう一体のデモノイドは、煉夜へ。
    「ッ……大丈夫だ。こいつは俺が抑える! 他は皆、任せるぜ!!」
     と言いながら、自分にドラゴンパワー。それにくしなが。
    「わ、分かりましたっ……今治しますっ!!」
     とすぐシールドリングで煉夜を回復。凪も闇の契約で勇生を回復する。
     そして、アンデッドらがまごついている間に攻撃。
    「行くぜ!!」
     とりあえず間近にいたアンデッドに地獄投げを喰らわせ、後方にバックドロップすると、それにクリミネルが黒死斬で斬りつける。
     更にクリスがホーミングバレット、千結がデッドブラスターでアンデッドを攻撃し……一匹目が倒れる。
    「アンデッドはどうにか攻撃重ねれば大丈夫そうだな。んじゃ、そっちは任す。俺はデモノイドに対峙する!」
    「そうね……頼むわよ」
     勇也と剣が頷きながら、矜人が相手にするデモノイドへターゲット。
     勇也が戦艦斬りで切り込むと、剣も。
    「哀れね……せめてその悪夢を、ここで終わらせてあげるわ!」
     と雲櫂剣で攻撃。又、矜人、勇生もヒットアンドアウェイを行いながら、チクチクとデモノイドにダメージを与えていく。
     無論、その位のダメージで倒れるような柔な敵ではないが、着実なダメージを与えるように動く。
    『ググゥゥ……!』
     ……呻きつつ、ギロリと睨み付けるデモノイド。
     でも、そんなデモノイドに対し、決して灼滅者達は怯む事は無い。
    「……終わらす。必ずなぁ」
     クリミネルはニヤリと笑い、そして次のターン……再度封縛糸でデモノイドにインファイト、勇也がレーヴァテイン、アイネストがヴェノムゲイル。
     対し響哉、クリス、千結、剣がアンデッドへと攻撃を行う事で、アンデッドへ攻撃。
     ……デモノイドの体力を削りながら、アンデッドを確実に一匹ずつ灼滅するように動く。
     6ターン目に二匹目のアンデッド、9ターン目に三匹目を倒し……十ターン目。
    「はぁ……はぁ……さすが、デモノイド二匹となると、大変だね」
    「そうやね……皆大丈夫か? 後もう少しや。気張って行くで?」
    「ああ……勿論だ!」
     凪、アイネストに頷く響哉。
     ……そして。
    「……これで、トドメをささせてもらうぜ!!」
     既にかなり弱っているアンデッドに、響哉が渾身の地獄投げを叩き込み……最後に残ったアンデッドも崩れ落ちると、残るはデモノイド二匹。
    『……グ……ゥ……』
     さすがにデモノイドも、灼滅者達の強さを認識したのだろうか……両者が唸り声を揃える。
     そんなデモノイドに対し。
    「さぁ……後もう少し、頑張って下さい!」
     銀静が発破を掛けると、それに剣が。
    「そうね……必ず倒すわ」
     静かに闘志を燃え上がらせ、対峙するデモノイドへ構え、雲櫂剣。
     更に勇生、銀静も連携し、一気にデモノイドを追い詰めて。
    「……終わらす」
     クリミネルが一言呟きながら、鋼鉄拳をデモノイドに正拳突きにて喰らわせると……喰らったデモノイドは、ウグゥゥゥ……と断末魔の悲鳴を上げて灼滅される。
     ……残るはもう一匹の、煉夜が対峙していたデモノイド。
    「さぁ……カーテンコールといこうか。アンコールはなしだけどな!」
     煉夜が言い放つ言葉……それに対し、デモノイドは……素早くその場からの逃走を図る。
    「っ……逃がしませんっ!」
     くしなが咄嗟に導眠符、合わせ凪もペトロカースを放つが、その攻撃も素早い動きで以て躱すと共に。
    「っ……逃げ足だけは早ぇな!」
     とアイネストが、逃げ去るデモノイドに言い放ち……そしてデモノイドの姿は、朝靄の影の中に消えていくのであった。

    ●永遠に
    「……なんとか、終わった……疲れたぁ……」
    「そやなぁ……疲れたわぁ……はよ、休みたいわぁ」
     デモノイド一匹がその場を離脱し、朝の心地よい静けさに再度包まれるその場。
     さすがに強力な敵、デモノイドを二匹同時に相手するというのは、心底まで疲弊しきる様な激しい戦いとなり……凪とクリミネルだけで無く、他の仲間達も息を荒げていた。
    「はぁ……はぁ……でも、まだやることがある……か……」
     そう煉夜は言うと共に、倒したデモノイドの元へ。
     当然もう姿はないものの……戦闘の痕跡が残っている。
     そこに跪き、手を合わせる……。
     暫しの静寂の後、煉夜は。
    「……彼らも歪められたとは言え、元は人間だ……ちゃんと、罪は背負う」
     と、自分に咎を背負うが如く、深く呟く……それにクリスも。
    「……そうだね。例えデモノイドと化したとしても、元は人間……僕達は、その責任を負わなければならない……だからこそ、必ず……その責任を果たさないとね」
    「ああ……」
     クリスにこくりと頷く煉夜。
     そして弔いを終えると共に……デモノイドが逃げていった方向を、くしなと剣が地図を元にして確認。
     スーパーGPSを基にして、その方角の当たりを付けて、それをメモに残しておく。
     ……そして全てを終えると共に。
    「ま、何はともあれ……一端戻るとするか。おそらく、まだまだ続くだろうしな」
    「そうやね……他の皆が持ち帰る情報もあるやろうしな」
     勇也に頷くアイネスト。
     そして灼滅者達は、早朝の市街地を後にするのである。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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