阿佐ヶ谷地獄~闇を裂く光

    作者:飛角龍馬

    ●死者達の行列
     南阿佐ヶ谷駅は、東京都杉並区に位置する地下駅である。
     通勤時刻ともなれば多数の利用者で混み合う駅だが、始発前のこの時間、プラットホームに立つ乗客はいない。時刻は、午前四時前。駅も束の間の静寂に包まれている時刻。
     そんな夜明け前の静けさを破ったのは、不気味に反響する、亡者の呻き声だった。
     静かだったホームにおぞましい声が重なり、響く。音は徐々に近づいてくる。
     やがて、声の主――腐臭を放つアンデッドの群れが、線路を歩き、ホームの両脇から侵入してきた。背広を着ている者が多く、その手には、一様にナイフが握られている。
     広く出回っているナイフではない。儀式で使われるような短剣である。
     アンデッドの群れは虚ろな声を漏らしながら、緩慢にホームに這い上がる。
     始発前のホームは、瞬く間に無数のアンデッドと呻き声で満たされた。
     彼等が赴こうとしている場所は、このホームではない。アンデッド達は、駅の利用者がそうするように、ホームの階段を昇り、地上を目指す。
     地下鉄の入り口から続々と上がってくる、亡者の群れ。辺りに響き出す呻き声。
     夜明け前の街は、まだ寝静まっている。
     無数のアンデッドは、その足を、人々が眠る住宅街に向けていた――。
     
    ●武蔵坂学園・教室
    「そして繰り広げられるのは、無数のアンデッドによる殺戮劇。状況は正に地獄と呼ぶに相応しいものだ」
     琥楠堂・要(高校生エクスブレイン・dn0065)は沈痛な面持ちでそう告げた。信頼の対象である灼滅者達を前にしても、彼の表情は晴れぬまま。事態はそれほどに深刻なのだ。
    「敵はアンデッドだけではない。デモノイドと呼ばれる存在を、諸君も耳にしたことがあると思うが」
     鶴見岳の戦いで暴勇を誇った、蒼き巨体――デモノイド。それが今回の惨劇の舞台となる阿佐ヶ谷にも出現すると要は語る。
    「既に知っているかも知れないが、デモノイドは、かのソロモンの悪魔、アモンにより生み出されたものだ。だが、今回は何故かアンデッドの襲撃により出現している」
     強調するように人差し指を立てて、要は言う。
    「その仕掛けは、恐らく、アンデッド達が手にしている儀式用のナイフにある」
     南阿佐ヶ谷駅から出現したアンデッド達は、それぞれ儀式用と思われるナイフを手に、住宅街の住民を襲う。主な凶器は、亡者達が手にしたそのナイフであり――デモノイドは、その短刀で刺された者が、恐るべき変異を起こすことで生じるという。
    「確証はないが、その短刀は以前、ソロモンの悪魔の配下達が儀式で使用していたナイフと同様のものである可能性がある」
     だが、と要は灼滅者達を見回して、
    「今は犠牲者の数を少しでも喰い止めるのが先決だ。絡まった糸を解きほぐすのは後でも出来る。諸君には、アンデッドと、生み出されてしまったデモノイドの灼滅をお願いしたい」
     言うと要は、事件に関して更なる説明を始める。
     
    ●守るべきもの
     阿佐ヶ谷の街には、中杉通りという、ケヤキの見事な並木道がある。
     寝静まった住宅街で、アンデッド達による大殺戮が繰り広げられ始めた頃、夜明け前の中杉通りを、何の変哲もないワゴン車が走っていた。
     運転手は若い男性。そして後部座席には、小学生くらいの少年の姿があった。
     車を運転しているのは少年の父親で、二人は親子で釣りに行く途中だった。
     少年には、母がいない。早くに病気で亡くしているためだ。妻を失くした夫は、子供に出来る限りの愛情を注ごうと、親子一緒に過ごす時間を多く取ることにしていた。
    「まだ眠いだろ? 早起きしたからなぁ」
     ハンドルを握りながら語りかける父親に、眠い目をこすって頷く少年。
    「……ん? なんだ、アレ」
     ふと、運転席の父親が目の前の光景に首を傾げた。車が何台か、不自然な位置で車道に停められている。よく見れば、薙ぎ倒されたように横転している車さえあるではないか。
     事故でもあったのだろうか。そう思い、ブレーキを踏む父親。
    「……大変だ」
     彼は、倒れた車の周辺に、血を流して倒れている人を見つけて、慌ててワゴンを停めた。
     車で待っていろと子供に告げ、自分はうずくまる人に駆け寄る。声をかけて抱き起こしてみたが、既に事切れていた。胸には刃物で刺されたような傷跡。
     一体、どうなってるんだ――突如遭遇した非日常を前に、彼の身体を緊張が走り抜ける。
     その耳に、不気味な呻き声が届いた。
     辺りを見回せば、車の影から歩み寄って来る亡者達の影、影、影――。
     驚きに目を見開いて立ち上がる。一歩後ずさり、一目散に車に戻ろうとしたが、亡者達の動きは見た目よりも遥かに素早かった。
     ナイフで身体を引き裂かれ、ほとばしる鮮血がアスファルトを濡らす。
     それでも彼は身体を前に進めていた。目の前には、異常を察して車から降りようとしていた息子の姿。命を懸けて守ると誓った、掛け替えのない――。
     腱を切り裂かれ、遂に倒れる。息子の名前を呼び、彼は力の限りに何度も叫んだ。
     逃げろ、と。
     亡者によって、彼の背に遂にナイフが振り下ろされる。断末魔の呻き。
     完全に致命傷である筈のその一撃は、彼に死よりも残酷な変異をもたらした。
     青く変色する皮膚。変容する骨格。膨張する筋肉――人間が人間でなくなる異音。
     父親が化け物に変わる様子を前に、息子は足をすくませていたが、次の瞬間、踵を返して逃げ出した。足がもつれて転ぶ。怪我をしながらも更に走る。父親の叫びが届いたのか。惨劇を前にしての逃亡は、余りにも勇気のある行いと言えた。それでも、所詮は子供の足だ。
     変異を遂げた蒼き怪物が少年を肉塊に変えるまで、そう時間は掛からない。
     
    「――救えない者は多いが、救える者も皆無ではない。諸君であれば、或いは」
     語り終えると、要は一縷の希望を託すように、灼滅者達を見渡した。
    「阿佐ヶ谷は武蔵坂学園からそう遠くない距離にある。移動に手間は掛からないだろう」
     余りに近すぎるのが気になるところだが――顎に指を添えながら要はそう呟いて、
    「ともあれ、今は被害を喰い止めるのが第一だ。状況は厳しいが、諸君の力を以ってすればそれも可能だと信じている」
     そう言って小さく頷くと、
    「諸君にこの事件を託せること、光栄に思う。……どうか、宜しく頼む」
     胸に手を当て、要は灼滅者達に深く一礼した。


    参加者
    月代・沙雪(月華之雫・d00742)
    ジュラル・ニート(サラダ十勇士・d02576)
    五美・陽丞(幻翳・d04224)
    渡橋・縁(かごめかごめ・d04576)
    トリハ・エーレン(暴力神父・d05894)
    十津金・旭(桜火転身トツカナー零五・d06921)
    出雲・八奈(赤瞳・d09854)
    ルナール・シャルール(熱を秘める小狐・d11068)

    ■リプレイ


     懸命な逃走も虚しく、少年は再び態勢を崩して前のめりに転んだ。
     蒼色の巨人が地響きを立てて迫る。呻き声に似た叫びを挙げて剛腕を振り被る。
     中杉通りの路上に少年の残骸が散る――その直前、疾風さながらに割って入った者があった。振り下ろされた腕が無敵斬艦刀に止められる。
     使い手の名は出雲・八奈(赤瞳・d09854)。
    「君! 今、この辺りはどこも危険だよ! この場は私達が収める……!」
     デモノイドの薙ぎ払う一撃を避けつつ、八奈が少年に言葉を投げる。
    「こっちだ屍人ども!」
     少年に襲いかかろうとしていたアンデッドは、トリハ・エーレン(暴力神父・d05894)が放った大震撃によって、一斉に足止めを喰らった。
     殺戮劇を止めようと戦場に乱入してきたのは、勿論、彼等だけではない。
     ――狙い、知らないけど。たくさん、人。巻き込む。赦せない、ね。
     ルナール・シャルール(熱を秘める小狐・d11068)が鋭く敵を見据え、カードを構える。
    「フェルヴール!」
     高らかな解除コードと共に彼女が取り出したのは、フルートを大きくしたような武器。棒術の要領でそれを敵に突きつけると、杖から生じた荒れ狂う竜巻がアンデッドを強襲した。
     怯まずに突撃してくる五体の亡者を、トリハが身を呈して喰い止める。
    「敵の攻撃は俺が引き受ける!」
     アンデッドの集中攻撃を受け切って見せるトリハ。奮戦する彼を、癒しの光が包み込む。
     その温かな光を作り出したのは、後列の癒し手、五美・陽丞(幻翳・d04224)。
     ――敵の初撃は何とか受け流せたかな。ここで喰い止められれば。
     モスグリーンのセルフレーム眼鏡の奥から陽丞は戦況を見定める。元が人間だと言うデモノイドを前に、彼は複雑な表情を見せた。
    「……酷い事をするね。全て助けられる訳じゃないのは分かっているけど」
     彼が視線を後ろへ遣ると、少年を保護して手近な車に匿う、四人の仲間の姿が見えた。
    「ロックは……開いてるな。こいつなら取り敢えず安全だろう」
     手頃なライトバンを見つけたジュラル・ニート(サラダ十勇士・d02576)が仲間を招き、
    「この、位置……なら、大丈、夫、ですよね」
     辿々しく言って、渡橋・縁(かごめかごめ・d04576)が頷いた。
    「暫くここに隠れていて貰えないですか?」
     少年の手を引いて車に駆け寄り、言ったのは月代・沙雪(月華之雫・d00742)。
     怯えながらも何とかバンの後部座席に乗った少年に、十津金・旭(桜火転身トツカナー零五・d06921)が「落ち着いて聞いて欲しいんだ」と諭すように告げて、
    「今、君のお父さんはあの化け物に乗っ取られようとしているんだ。ボク達にもお父さんを助けれるか判らない……だからお願い、手伝って。『がんばれ』って、『そんな化け物に負けないで』って呼び掛けて!」
     まだ声を放てる状態にはないが、代わりに、少年は旭達に問い掛けた。
    「……お姉ちゃん達、は……?」
     旭が安心させるように笑みを見せて、
    「ボク達は、キミ達を護るヒーローさ! ――転身!」
     掛け声と共に、旭の体が白い鯨を思わせるバトルスーツに包まれる!
    「トツカナーモビィスタイル!」
     決めポーズを取り、敵に向け疾駆する旭。
     一方、最前線では――苦戦しながらも、四人の灼滅者が懸命に敵を喰い止めていた。
     トリハが何度目かになる攻撃を受け止め、陽丞とルナールが回復に専念。その上で八奈が的確に攻撃を仕掛け、防衛線は辛うじて保たれていた。
     だが、攻撃を一身に受けるトリハの消耗は、ディフェンダーと言えど激しい。
     デモノイドが咆哮。槍状に変異した片腕をトリハに突き出す。
     命中の直前、後方からジュラルの放った制約の弾丸が蒼き巨人の胸を穿った。
     悲鳴を上げるデモノイド。傷ついたトリハに、沙雪が防護符を飛ばして癒す。
     そして、
    「――神芝居を、始めよう」
     カードを構え、力を開放する縁。瞳も髪も赤みを帯びて、完全な戦闘態勢に移行。
     武器を構えた彼女と八奈が前衛に躍り出て、ここに灼滅者八名の陣形が完成した。


    「さ、鬼さんこちらっと!」
     旭が構えを取って撃ち出したご当地ビームが、デモノイドを直撃する。
     怒号を挙げて拳を振るう蒼き巨人。ディフェンダーの旭はその重い攻撃をも防ぎ切る。
     デモノイドに満ちるのは、怒りか、悲しみか、或いは更に複雑に絡まった感情か。八奈は巨人の攻撃目標が少年に向けられていないことに安堵。同時に、この強大な敵に宿る悲哀を感じ取っていた。八奈は以前にもデモノイドと刃を交えたことがある。
     前は戻れなかった――今回は?
     救いの可能性を手繰り寄せるため、八奈はアンデッドを取り巻く空気を凍てつかせた。
     フリージングデス。
     凍りつく肉体もそのままに足を前に進めようとする亡者達。
    「そう簡単にはいかないのですよ」
     その邪悪な進撃が、強力な結界によって阻まれた。沙雪が展開した五星結界符だ。
     足止めを喰らう亡者達。
    「まずは一体――これで!」
     口調と雰囲気を一変させた縁がアスファルトを蹴り、アンデッドの一体を捉えた。目にも留まらぬ刺突は亡者の身体を無数に穿ち、急所を突かれた亡者が倒れ、動きを止める。
     同胞の脱落さえ、アンデッドには些末事。一体が紫色の夜霧を展開すると、残った三体が一斉に手にしたナイフを構え、怨念の塊を放出した。
     灼滅者の前衛と後衛が、呪いに満ちた気配と不気味な唸り声に包まれる。夜霧の効果もあり、負の思念が撒き散らす毒はおびただしいものがある。
    「だとしても。倒れさせはしない」
     味方に犠牲を出すなんて、俺が赦さない。
     陽丞が対抗するように素早く夜霧を展開。先に前衛の傷を癒し、メディックの効果で毒を洗う。ルナールの歌声が霧の向こうから響き渡り、傷が深いトリハを支えた。
    「この程度の霧で外すわけにはいかんよな」
     ジュラルが狙い澄まして放ったバスタービームだったが、狙われた亡者はこれを防御。
     アンデッドは防御に優れたディフェンダー。突破は簡単ではない。
     車内で祈るように見守る少年にも、容易ならぬ戦況であることは見て取れた。
     壁役となっているアンデッドを迅速に減らし、数の優位でデモノイドを圧倒する。
     それが灼滅者達の選んだ戦法だ。
     亡者どもが盾の役割を果たしている以上、理に適った戦い方だが、必然、アンデッドを片付けるまでの間は相応の抵抗を受けることになる。
     アンデッドが身を盾にして耐えている間に、デモノイドが吼え、前衛に襲いかかる。標的は主に防御を担う旭とトリハだ。隆々たる剛腕が執拗にトリハを襲う。
    「やらせない! 盾は一人だけじゃないんだ!」
     その重い一撃を、旭が受け止める。その間に戦神降臨で自己回復を行うトリハ。癒し手が必要なだけ回復を行い、攻撃できる者が敵陣に突撃する。
     それは攻守のバランスが取れた陣形の成せる業だ。
     味方を補助するべく、ルナールがデモノイドにディーヴァズメロディを歌いかける。
     呻き苦しむ巨人めがけ、沙雪が続けて導眠符を投げた。
     亡者の一体を斬艦刀で横薙ぎに両断して、八奈が蒼き巨人に叫ぶ。
    「子供が見てるんでしょ。なら、見せてよ。おとうさんの格好いいところを!」
    「正義の心を取り戻すんだ! 守るべき者のために!」
     旭の言葉も重なり、デモノイドの目が一瞬見開かれた。
     その醜悪な怪異の口から、悲鳴じみた声が挙がる。頭を押さえて後ずさった巨人は、何かに抗うように暴れ、周囲のアンデッドを玩具さながらに薙ぎ払った。
    「行ける。もう一体……!」
     機を逃さず、倒れ込んだ亡者に、縁がフォースブレイクで止めを刺す。
     ジュラルが口笛を一つ、片膝をついた亡者の上半身をバスタービームで吹き飛ばして、
    「お前達の陰謀は、このボクが灼き尽くす……!」
     惨禍を引き起こした亡者に怒りを燃やす旭。彼女の心を具現化したかのようなレーヴァテインが、最後のアンデッドを葬り去った。
     

     数の上で優位に立った灼滅者だったが、激戦は尚も続いていた。
     アンデッドの防御もあり、デモノイドはまだ無傷に近い状態だったのだ。
     灼滅者八名の集中攻撃を受けながら、蒼き右腕がディフェンダーを薙ぎ払う。
    「この力、やはり侮れないですね……」
     沙雪が清めの風を送り前衛を回復。
    「倒すだけじゃ駄目なんだ。可能性がある限りは」
     ――待っている人がいるのなら、その人のところに帰ることが一番なんだよ。
     苦悶するデモノイドを見据えながら、陽丞がトリハに癒しの光を送った。
    「救いと解放を望むその心に、響け――!」
     ルナールの歌声が目に見えない波動となって巨人を包み込む。
     暴れるデモノイドの一撃を、縁が手にした妖の槍と天之瓊矛で防ぎつつ、
    「帰ろう、待ってる人がいるでしょう?」
     血走った目が縁を見据える。瞳に宿るのは、救いを求めるかのような思念だ。
     その巨体に影が纏わり付き、縛る。
    「諦めるな、抗え。こんなところで終わっていい筈がないだろう」
     影業を伸ばしたジュラルが呼びかける。
     身を縛る影をそのままにデモノイドが悲鳴を挙げた。
     ――戦う者じゃない、戦闘能力があるだけの被害者。救けられる保証もない。
     無闇に振るわれる剛腕を避けながら、八奈が嫌な予想を断ち切るように首を振る。
     ――知らない、結果なんて。やれることがある。なら、全部全部やりきって、微かな糸があるなら引き寄せる!
    「それが私! 出雲のやなだ!」
     振り下ろされた槍のような腕を、八奈は斬艦刀で受け止め、そして――
    「頑張って……!」
     暗雲を裂いて光明が差すように、車から降りた子供が叫んだ。父親と、灼滅者達に。
    「子供が見てるんでしょ! だから、見せてよ。おとうさんの格好いいところを!」
     ギリギリと堪えながら八奈が訴える。
     しかし、デモノイドはその言葉にも、ただ苦しげに絶叫を挙げるだけ。
     心には響いた。だが、闇を一掃するには余りにも、足りない。
    「……ああ」
     誰よりも早く理解したのは、眼鏡の奥から冷静に事態を見据えていた陽丞。
    「――ッ」
     縁もまた武器を構えながら歯噛みした。
     最早、救えない。希望は完全に断たれている――。
     思えば、片手間の説得で救い出せるほど簡単なものではなかったのだ。掛ける言葉も、多くが一貫性と具体性を欠き、説得力を持たせることができていなかった。更に言えば、自陣に攻撃を加えられた時点で、デモノイドは眼前の灼滅者を完全なる敵と看做していたのだ。
     しかしこの結果も、激戦を想定すれば仕方ないこと。
    「帰れないなら、せめてここで終わらせよう」
     陽丞が植物の蔓に似た影業を伸ばし、斬影刃で巨人の身体を裂いた。
     それを皮切りに、灼滅者達が容赦なく攻撃に転じる。
     割り切ろうと、ジュラルがバスターライフルを構える。
     デモノイドが狂ったように振り下ろす剛腕を、トリハが斬艦刀で受ける。怒り、悲哀、無念さ、変異した人間の恨みを受け止めようとするかのように。
     悔しさを抱いて旭がレーヴァテインを放ち、ルナールが雷の名を関するロッドから轟雷を巨人に落とした。
    「せめて、安らかに……」
     沙雪の導眠符がデモノイドを催眠状態に陥れ、八奈が戦艦斬りで巨人の片腕を切り落とした。ジュラルがライフルの引き金を引き、放たれた光線が巨人の残った腕を吹き飛ばす。 
    「これで、お仕舞い……!」
     縁が踏み込んで放ったフォースブレイクが蒼き巨人に直撃した。
     体内を荒れ狂う力にデモノイドが痙攣。
     その瞳から光が消える。
     蒼き巨人は血を吐き、地響きを立てて遂に地面に倒れ伏した。
     

     アスファルトに崩折れた少年に、沙雪が言葉を掛けた。慰めではなく、この場に留まる危険性を諭す為に。茫然自失した少年は涙を零しながらも、抵抗の素振りは見せなかった。
    「屍王と悪魔、手でも組みやがったのか。だとしたら面倒だな……」
     陽丞の癒しに礼を告げ、トリハが呟く。
    「学園が目を付けられたのですかね。この状況も大規模な陽動と考えられますが……」
     沙雪の意見にトリハが頷き、彼はルナールが拾い上げた儀式用の短剣を見遣った。
    「そんなモンで化物が生み出せるなんざゾッとするな」
     縁は能力を解放したまま、周囲に気を配る。今のところ敵の気配はないが、出来るだけ早くこの場から離れる必要がある。
     警戒しながら、かたまって道を行く灼滅者達。
     トマトジュースを飲み、ジュラルは束の間の一服。ソロモンの悪魔に思いを巡らせる。
     ――アンデッドを使って高みの見物か、それとも……。
     ともあれ、今は危地からの脱出を優先させなければならない。考えるのはその後だと、八奈は縁と共に、集団の殿につく。
     肩を落としながら歩む少年を見て、陽丞は先程までの戦いを振り返っていた。
     少年の父親を救えなかったのは残念だが、味方は誰も大きな傷を負うことはなく、少年も救うことが出来た。可能だと思われていた戦果は全て勝ち得ることができたのだ。
     それで充分と言うことはできる。少年の父親も我が子を守りたいが故に身を犠牲にしたのだから。
     それでも。
     旭は歩きながら、血が滲む程に拳を握り締めていた。
     ――ボクは怒ってる。自分の手を汚そうとせずこんな事件をひき起こした卑怯者に。
     ソロモンの悪魔、アモンを初めとした強大な敵に、旭は燃え上がる怒りを覚えていた。
     しかし彼女自身も判っている。今は少年を保護し、この街から逃れることが最優先だ。
     だけれど。いや、だからこそ。
     旭は白み始めた空を見上げ、敵を射抜くかのように睨みつけた。
     いつか決着を付ける、その時まで。
     ――この怒り、取って置くッ!

    作者:飛角龍馬 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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