「じゃあ俺は帰るから、あるとちゃん戸締まり頼むね」
「はい、お疲れさまでしたー」
少女が、最後まで残っていた青年を一礼と共に見送れば、工場を改装して作られた倉庫に残るのはただ一人。
「やっぱり、冷えるな」
倉庫に暖房もなく、工場だった頃の名残である窓は換気の為か開けっぱなしになっていて、外に浮かぶ月が中を覗き込んでいた。
「晩ご飯、今日はあったかいものがいいだろう。まだこの時間ならスーパーもぎりぎりやっているはずだし……」
思考を独り言という形で洩らしてしまうのは、寒さを誤魔化す為か。どちらにしてもバイトを終えた少女が寒い思いをするのはあと僅かの筈だった。
「忘れ物無し、電源の切り忘れもない。さ、帰るか。お母さんも待って――」
確認を終えて帰路につこうとした少女を異変が襲わなければ。
「くあっ」
突如、少女は頭を押さえ。
「貴様ぁぁぁ!」
片目をつむったまま、怒声を放ったのだ。
「何が『我が元に』だ。母さんとあたしを捨ててどっかに出てったくせに」
ぎりり、と噛みしめる歯の中で僅かに犬歯が長さを増すが、少女は怒りが収まらないとばかりに誰も居ないはずも場所へ向け罵声をぶつけ、暴れ出す。
「何が父だ! 大嫌いだ、馬ぁ鹿! 畜生めぇぇぇっ!」
入り口付近の何もない場所で良かったかもしれない、もっとも周りが見えていないかのような少女にとって倉庫の中のものを気にするような余裕など無かったのだろうが。
「今更出てきて何の用があるってんだ。あたしの家族は母さんだけなんだよ、今までもこれからも母さんとふたぁりぃっ!」
激昂しすぎて呂律が回らなくなってきたのか、それとも伸び出していた犬歯のせいか。
「はぁはぁ……」
わめき散らした少女は、暴れ疲れたのか息を乱してはいたが、いつの間にか顔から険しさがとれていて。
「帰ろう……」
そう、口にしつつも少女が歩き出したのは、いつもの帰路と別方向だった。
「一人の少女が闇堕ちし、ダークネスになる事件が起きようとしている」
エクスブレインの少年が告げた少女の名は、不渡平・あると。
「不滅の『不』に渡るの『渡』、これに平らの『平』で『ふどひら』って読むらしいが、まぁそれはおいといてだ、彼女が堕ちかけてるのはヴァンパイアだ」
ヴァンパイアは闇堕ちする時親しい者や血縁者を闇堕ちに巻き込むことがあり、今回もそのケースらしい。
「違いがあるとすれば、本来闇堕ちした時点で無くなるはずの人間の意識を彼女が残しているということだが」
つまり、あるとはダークネスの力を持ちつつもダークネスになりきっていない状態であるとのこと。
「もし、彼女に灼滅者の素質があるのなら、闇堕ちから救いだして欲しい。そうでないときは――」
完全なダークネスになる前に灼滅してくれとエクスブレインは言った。
「さてと、それで彼女についてなんだが、高校一年で母子家庭。闇堕ちに巻き込んだのはたぶん彼女が幼い頃に蒸発したらしい父親だろうな。闇堕ちする時の光景からすると間違いないだろう」
ひたすら罵声や怒声をぶつけ暴れていたとエクスブレインの少年は説明する。
「もう一つ特筆すべき事があるとするならだな、胸がかなり大きい。暴れる時にぶるーんぷるーんと、何というかごちそうさ……あ、ちょっと待てそんな目で見るな、冗談だ、冗談」
思いっきり無駄な情報を追加して灼滅者から白い目で見られた少年は慌てて頭を振るとポケットを漁って一枚の写真を出す。
「まぁ、なんだ、それでこれがその少女だ。闇堕ちするのはバイト先の倉庫で一人残って戸締まりをしようとした瞬間、よって周囲には誰も居ない上に屋内だ。闇堕ち直前に倉庫に踏み込めば、鍵は開いているし一般人と接触することもない」
戦闘になればあるとはダンピールのサイキックに似た攻撃をしてくるだろうが、あるとを救うのならば、戦闘は避けられない。
「闇堕ちした一般人を救うには戦ってKOする必要があるからな」
また、アルトと接触し人間の心に呼びかけることでダークネスとしての戦闘力を下げることも出来るだろう、と少年は言う。
「堕ちかけであろうと相手はヴァンパイアだ。侮れば手痛いしっぺ返しを喰らうかもしれない。あるとを救うという意味でも説得は効果的だと思うぜ」
そして、説得に使えるものがあるとすれば、あるとが父親に抱く憎悪や敵意、といった反発心だろう。
「戦場になる倉庫は広い。しかも入り口周りにはものがないから戦うにはうってつけだ。業務の前にはここで朝礼や準備運動をしたりするぐらいの広さがあるからな」
倉庫自体は明かりもついているので、必要なのは戦闘と説得のみということか。
「あるとが救えるかはたぶんおたく等にかかってる。よろしく頼むよ」
そこまで言い終えると、少年はぺこりと頭を下げ一行を送り出す。途中、不穏な発言もあったがなんだかんだ言って件の少女が心配なのだろう。
「しっかし、よかったよなぁ……あれ」
そうだと、思いたい。
参加者 | |
---|---|
九条・已鶴(忘却エトランゼ・d00677) |
不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452) |
風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902) |
一・威司(鉛時雨・d08891) |
水走・ハンナ(東大阪エヴォルヴド・d09975) |
花廼屋・光流(シャドウインザモアレ・d10910) |
柾・菊乃(同胞殺しの巫女・d12039) |
細野・真白(ベイビーブルー・d12127) |
●倉庫での出会い
「さて。道を違えそうなお嬢さんの救出といこう」
夜の静寂を一・威司(鉛時雨・d08891)が僅かに破った。
「あぁ」
頷きを返した風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)の瞳に映るのは、前に立つ仲間の姿と窓から明かりの漏れる灰色の建物。一見すればただの工場に見えるそれが、倉庫であることを灼滅者達は事前の説明で知っていた。内部の簡単な構造も。
(「不渡平さんは自力で精一杯生きている。その前向きで強い心を、ダークネスになんて汚させるものか」)
施錠がまだの入り口から身体を滑り込ませた孤影が中へと進めば、一人の少女が窓を一つ一つ確認しながら壁際を歩いていた。おそらく、その少女が不渡平さんであるのだろう。
「チッ、巨乳め」
遠目にもはっきり確認出来る豊かな胸元と自分の絶壁を見比べ不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)は舌打ちする。
「嫌いな者の巻き添えで闇堕ちとは、たまったものではないのぅ」
と境遇には同情していたが、それとこれとは話が別なのだ。
「何にしても、今の内だよね」
九条・已鶴(忘却エトランゼ・d00677)が指摘したように身を隠すのならば。少なくともまだ推定あるとは灼滅者達に気づいていない、今しかない。もし、あるとが灼滅者達の居るところまで来てしまえば闇堕ちは始まってしまうのだから。
「一応、殺気を放っておきますね」
と花廼屋・光流(シャドウインザモアレ・d10910)は侵入直後に仲間達へ断りを入れていた。もっとも、エクスブレインが一般人と接触することもないと明言している以上、一般人除けの意味はない。念のため、とでも言ったところか。
(「彼女も親父が蒸発した口か……今思い出しても虫唾が走るわ。親父……母さん……境遇は私と殆ど同じね。こっちは残した借金もあったけど」)
迫り来る接触を前に、水走・ハンナ(東大阪エヴォルヴド・d09975)は複雑な表情を浮かべて近づいてくる少女を見つめ。
「おうちに向かわず、どこへ行かれるのですか?」
「そっちは、帰り道ですか?」
声をかけたのは、柾・菊乃(同胞殺しの巫女・d12039)と細野・真白(ベイビーブルー・d12127)。
「まだスーパーが開いている筈だからな、寄り道して夕飯のおか……誰?!」
反射的に答えかけた少女は、他者から声をかけられたことに気づいて誰何の声を上げ。
「くあっ」
(「やはり……」)
突然、頭を押さえた。エクスブレインの言に従っていたのなら、接触は闇堕ちの直前。
「貴様ぁぁぁ!」
「これはお話出来るような状況じゃありませんね」
説明するような時間も質問して答える時間も存在し得ない。片目を閉じ顔を歪めた少女は怒声を放ち、歯を食いしばるなり罵声をぶつけ出す。
「それでも声は聞こえるはずだ」
だから、威司や光流は当初の予定通りに説明する。
「キミの心の中にある闇を払いに来た……」
「あなたは今化け物になりかけ、俺達はそれを食い止めに来たんです」
と。
●少女の心
「出でよ! 灼滅の精霊よ!」
カードを手に、落ちかけた少女を見つめながら、闇へ蝕まれかけた同胞を救うべく、ハンナは叫ぶ。
(「あんな酷い目に合うのはもう私だけで十分。ヴァンパイアの好きにはさせないわよ!」)
現れたバイオレンスギターのネックに手を添え、もう一方の手で握ったガン+ナイフ『G.K.』のグリップを力強く握ってむき出しになったコンクリの床を蹴り。
(「目の前で闇に堕ちようとしている彼女を見過ごすわけには参りません」)
ハンナと違い境遇の違いから感情に共感出来なくても、あるとを救いたいという思いなら菊乃も変わらない。
「お父さん……なんて呼びたくはないよね」
「っ、当たり前だ!」
(「あの反応、間違いなさそうですね」)
已鶴の口にした言葉に叫び返した様子を見て、自分の考えが間違っていなかったことを確信し。
「それ以上踏み込んじゃダメよ。貴女も父親と同じになるわ」
仲間があるとにかける声を聞きながら、菊乃は片腕を異形化させる。
「このままお主が母を置いて何処かへ消えてしまえば、お主もお主達を置いて消えた父親と同じになってしまうぞよ」
「うぅっ」
伸びゆく犬歯を露わにしつつも歯を食いしばった少女は、読魅の声に顔を歪め。
「うああぁぁっ」
それでも内の闇を外からの言葉だけで御すことは出来ず、緋色のオーラを刃に変えて振りかぶる。どのみち戦闘は避けられないのだ。呼びかけで少女の身体が発していた威圧感は若干薄れはしたものの、あるとの中に闇はまだ残っていたから。
「少々強引なのだが、君を止せてもらう」
「うぐっ、あぁぁぁああっ!」
「くっ」
説得は戦いへと転じる。振り下ろされる巨大化した菊乃の腕、押し潰そうと包み込んでくる孤影の殺気。その双方に傷つけられながらもあるとが手にしたオーラの刃は、ハンナの手にした殲術道具とぶつかり、同じ緋色のオーラを散らして。
「はぁっ!」
「わっ、っと」
力量の差で後方にはじき飛ばされたハンナがたたらをふむ。
「あるとさんは、お母さん想いの、やさしい人――」
「うぐっ、あたしは……」
倉庫の一角は、戦いに彩られた。いや、戦いが全てではなく説得も続いてはいたが、それも結局は心の内で闇と戦う少女を言葉で援護するという意味で戦いだった。
「くあっ」
真白の声に動きが止まった瞬間、撃ち込まれた漆黒の弾丸の弾丸があるとの肩を貫き。
「あわせます」
読魅の展開した霧に包まれた光流は霧に宿る魔力に強化された身体を前に運び、手にしたWOKシールドを少女へ叩き付けた。
「お父さんを憎む心が、あなたを暴走させているんです」
光流の言はある意味で正しい。本来ならばネガティブな感情であるはずの憎しみと父親への反発心が、少女の完全な闇堕ちを防いでいるというのは皮肉だったが。
「君がその人を怨むのは、当然だろうと思うよ。でもね、復讐、なんて。考えちゃいけないよ」
已鶴は敢えてその先にある一つを否定し。
「彼を怨むくらいなら、向こうが羨むくらい、幸せになればいい。あんな奴が今更入る隙のないくらいに」
別の一つを勧める。むろん、それは逆効果になりうる危険な賭でもあった。
「じゃあ父さんを憎むの止めて仲良くヴァンパイアするとしよう」
などと、完全にダークネスになってしまう可能性さえあり得たのだから、あるとの父への反発を取り除けば。
「お母さん、待ってます、一緒に帰りましょう」
「ご自分の胸に手を当てて考えてみてください」
だから真白や菊乃が言葉で繋ぎ。
「うぐ、母さん……」
「経験あるのよ……私も小さい頃に親父が蒸発してね。結構な借金まで残して……」
よたよたと後退する少女を眺めながら、今度はハンナが語り出す。むろん、この間も衝撃波や弾丸が飛来し、外の戦いも続いている。
「ヴァンパイアになれとかね……勿論私の答えはNOよ。次現れたらブッ○してやる気でいるわ。でも私一人じゃまだ勝てないのは明白……だから私は強くなる為、ダンピールの道を選んだのよ。貴女も来ない?」
そんな中、ハンナが示したのは、ある意味で已鶴とは真逆の選択肢。
「あた……しは……」
闇に蝕まれつつあった一人の少女は。
「あぁぁぁっ」
次の瞬間、オーラの刃を振りかぶり、斬りかかってきた。
●船頭多くして?
「っていうか、結局どっちなんだよ! 思いっきり意見割れてるじゃねーか!」
何というか、ごもっともである。説得で弱体化した威圧感が心なし復活しつつあるように幾人かの灼滅者が感じたのは、気のせいか。
「妾達と一緒に来れば、お主の嫌いな父親を灼滅の名の元に、思う存分ぶん殴れるぞよ」
「うっ」
何というか、一言一言はたぶん心に届いている。読魅の『殴れる』発言に至っては思わず動きを止めて大きな隙を生じさせてしまうほどに。
「俺は、俺達と同じ力を持つ人に、憎しみに囚われたまま生きてほしくないです!」
「えーと」
その一方で、光流の発言に、ハンナの目が泳ぐ。俺達と言われても私は復讐推奨しちゃってるんだけどとでも言うかのように気まずげに。
「ほら、そこの人が目を逸らしちゃってるだろ」
すかさず指摘を入れてくるのは、あるとの内のダークネスなのか、それともあると自身か。
「……あぁ、そうか。ずっと、一人で抱え込んできたのかな」
一瞬生じた沈黙の後、已鶴が再び口を開くも。
「誰にも言えずに、苦しかったでしょう? ねぇ、おいでよ、あると」
「いや、『おいでよ』じゃなくてだな……」
ただ、空気がカオス過ぎた。
「君が心から笑える場所が、寄り添える場所かきっと、あるから」
漆黒の弾丸を形成しながらの語りかけは、優しく真摯なものであったのに。
「船頭多くして船山に登る」
現在の状況を一言で現すなら、まさにこれだろう。
「やぁっ」
「くっ」
微妙な空気が形成されたまま、少女と八人の戦いは続く。
「くらうが良いっ」
菊乃が捻りを加えて突き込んだ妖の槍の穂先をかろうじてかわした直後、読魅のロケットハンマーが弧を描いて迫り。
「もうすこし心を開いて、ダークネスに負けるな!」
「っ、きゃぁ」
更に別方向から飛来したつららがあるとの身体へ突き立つ。
「はぁ、はぁ……」
なんだかんだいっても灼滅者達の言葉に内なるダークネスの力が削がれた上での八対一だ、少女が追い込まれはじめたのは言うまでもない。
「お母さんから、あるとさんを取らないで!」
真白の声と共に出現した赤の逆十字があるとを引き裂き。
「ぁ……母さ」
「わたしもお母さんと二人きりでした。いまも、大好き。あるとさんのお母さん、悲しませないであげて」
さんざん振り回された少女とおそらくは内のダークネスだったが、真白の言葉は闇に抗うあるとの心に届いたらしい。
「くっ」
内なる闇はまだ抗おうと、緋色の刃を作り出す、が。
「おいでよ、こっちに」
「しまっ」
足下からせり上がってきた已鶴の影に飲み込まれ。
「そのまま道を違えてしまえば、父と同じ道を歩む事になる。キミ自身が父親と同じように厄災を振りまく存在になってしまうぞ」
「うぐっ」
威司のガトリングガンから連続で撃ち込まれる銃弾を受けて刃を振り上げたまま傾ぎ、たまらず膝をついた。声をかけられる度、徐々に少女の力は弱体化して行く。
「その力はもっとあなたのため、あなたの守りたいものに使えますよ!」
「あ……」
そんなあるとへ灼滅者達が見せつけるのは、ヴァンパイアの力。ただし、力をコントロールし、人を守り救う為の力。つまりはダンピールの力で。
「そこじゃっ」
「きゃぁっ」
訂正、約一名別の目的で胸を狙って紅蓮斬を繰り出していた灼滅者も――。
「単なる気のせいじゃ気のせい。偶然。たまたまじゃ」
居たような気がしたが、気のせいだったらしい。
「ともあれ、これで終いよ。帰ってくるが良いぞ」
「な」
言いつつ読魅が向けた視線の先には。
「解放して見せます」
WOKシールドを構えて駆けてくる光流の姿と。
「貴女の運命、浄化するわ!」
バイオレンスギターをかき鳴らしはじめたハンナの姿があって。
「くぁっ」
「あるとさんの力になりたいんです。お父さんに、言ってあげましょう。あるとさんのままで」
衝撃に意識が遠のきつつある少女は真白の声に答えるように、かすれた声で吐き捨て、崩れ落ちた。
「大っ嫌いだ、バーカ」
と。
●全てはたぶんちちのせい
「……ん」
「気づいたようだな」
「良かった、目が覚めたのね」
暫くして、意識を取り戻した少女が最初に目にしたのは、自分を取り囲む灼滅者達の顔だった。
「私も親父に捨てられた身だしね……学園に来るなら歓迎するわ」
あるとを安心させる為にか満面の笑みを浮かべたは、満面の笑みを浮かべて言葉を続ける。
「お互いに親父をブッ○しに行ける様精進し――」
一部音声が伏せられた気がするのは、気のせいだろうか。
「助けを欲しければ、いつでも学園へ来てくれ。みんな喜んで力を貸そう」
ともあれ、新たに力へ目覚めた後輩に協力を惜しむ気など孤影にはない。予め準備していたのか武蔵坂学園の入学案内を取り出すと、上半身を起こし冷たい床に座り込んだ形になっているあるとへそれを差し出し。
「……そうだな。助けてくれたのだし、恩は返したい」
短い沈黙を経て案内を受け取った少女は、母さんに相談してみると答えると入学案内を持ったまま立ち上がり。
「色々てこずらせてくれたが、まぁ良い。武蔵坂学園へようこそじゃ」
入学が確定したという訳ではないものの、期待の持てる返答へ頷いた読魅はあるとにむけて手を差し伸べる。
「あ、あぁ。こち――」
たぶん、誰もが握手を求めたものだと思っただろう、当の読魅を除いて。
「うむっ」
「あ」
次の瞬間、読魅が差し出したはずの手はあるとの胸を鷲掴みにしており。
「ちょっ、な、何をす」
「クッ、この大きさといい弾力といい、妾より年下の分ざべっ」
当人抗議に構わず不埒な行為を行おうとした読魅は、孤影のチョップに沈黙した。
「そう言うことは、最低でも許可を得てからするものだろう」
男性陣が胸の話題をしたら容赦なく鉄拳制裁するつもりだった孤影だが、女性同士とはいえやりすぎだと判断したらしい。
「はぁはぁ……ありがとう。助かった」
思わぬ襲撃を受けたあるとは呼吸を荒くしつつも孤影に礼を述べ、立ち上がるも気づかぬ事が二つあった。
(「……私の方がちょっと勝ってるかな?」)
どさくさに紛れて盗み見た少女の胸と今見下ろしている自分の胸をハンナが見比べていたことと。
「あるとさん……おむね、大きいの、お母さんみたいです」
真白が密かにあるとの豊かな胸を見ていたことだ。まぁ、少女は少女でそれどころではなかったのだろう。
「では、美味しいお蕎麦屋さん行きませんか? 知ってるんですよ、学園にいらっしゃったら、ぜひ」
「蕎麦か、良いかもしれ……あっ」
光流に声をかけられまんざらでもない表情だったあるとは倉庫の柱に取り付けられていた柱へ目をやり、固まると。
「出ていってくれ」
と灼滅者達に告げた。
「早く施錠して行かないとスーパーが」
「っ!」
心ない一言かと思えば、少女にとっては一大事だった。
「すまない」
「ま、間に合うといいですね」
一行は慌てて倉庫から退出し、入り口であるとと別れた。その後、少女が閉店前にスーパーへたどり着けたかを灼滅者達は知らない。
「これもあいつのせいだ、大っ嫌いだ! 畜生めぇぇぇっ!」
罵声を放ちながら駆け出したあるとの背を見送って帰路に着いたのだから。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年3月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 13
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