ベッドの上で

    作者:西灰三

     艶かしく女が動く、その度に男の呻き声が漏れる。
    「どう? 気持ちいい?」
    「……ああ」
     薄暗い部屋、シンプルな作りのその中に寝台が一つ。その上にいるのは二つの影。
    「じゃあもっとサービスしてあげる」
     片方は艶かしい肢体を持つ女。ただ、普通の女では無く、体のあちらこちらから異形が飛び出ている。それさえも艷多く見えるのは淫魔と呼ばれる存在故か。
    「嬉しいな」
     もう片方は男。筋骨隆々とした求道者、アンブレイカブルである。双方が動く度に幾ばくかの苦痛と、それ以上の快楽を示す声が部屋に響く。それらが行われることしばらく。事を終えたそれぞれはベッドの上に二人腰掛けている。
    「……それじゃ、例の件よろしくね」
    「ああ、分かった。またな」
     そう言って部屋を出て行く淫魔、残されたアンブレイカブルはふう、息を付いた。
     
    「まあマッサージしてただけなんだけどね」
     有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)はぶっちゃけた。はい、変な事考えた人手上げて。どうやら歌って踊って体も揉めるアイドル淫魔らしい、売り出し方を間違えてる。
    「そんなアイドル淫魔の営業活動だって。自分たちの邪魔しないでって他のダークネスのところお願いしてるみたい」
     ここでは出せないような行為をセットに。
    「えっちなのはいけないと」
     それ以上いけない。クロエはこほんと咳払いをして話を続ける。
    「ボクが察知できたのはアンブレイカブル。みんなにはこれを灼滅して欲しいんだ。淫魔の方を狙っちゃダメだよ、アンブレイカブルと一緒に襲ってくるから」
     クロエはそう言って詳しい状況を説明し始める。
    「みんながアンブレイカブルを襲いやすいのは淫魔と分かれてすぐくらい。ちょっと一息入れてる所に攻め込めば確実にアンブレイカブルと戦えるよ」
     やること自体はシンプルだという。
    「もちろん戦闘力はダークネスだから、それは忘れないでね。一人でみんなと戦えるくらいの実力はあるから。ストリートファイターとロケットハンマーのサイキックを使ってくるよ」
     気をつけてほしいことが一つあると、クロエは言う。
    「マッサージを受けた気分的なものだろうけど、本人的には体が軽いらしいの。怖いものなしに全力で攻撃してくるから気をつけて。それさえ凌げればこちらに攻撃のチャンスは巡ってくるはずだから」
     いかに耐え、いかに攻撃するか。それが勝負の分かれ目だと。
    「さっきも言った通り、みんなにお願いしたいのはアンブレイカブルの灼滅。逆にアイドル淫魔には手を出しちゃダメだからね。大切なことだから2回言ったよ」
     クロエは説明を終えて灼滅者達を送り出す。
    「みんなならきっとどうにかなるよ。それじゃ頑張って来てね!」


    参加者
    天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)
    叢雲・こぶし(エレクトリッガー・d03613)
    星置・彪(藍玉・d07391)
    ロザリア・マギス(死少女・d07653)
    八坂・ひさぎ(エンジェルボイス・d07932)
    山伏・武士(サムライ・d09817)
    戯・久遠(薄明の放浪者・d12214)
    三条院・榛(円周外形・d14583)

    ■リプレイ


     部屋の扉を開けて女が出てくる、もっともただの女ではなく体の各部に色々付いた淫魔と言うことは見るものが見れば分かる。女は持ち歌なのだろうか、小さく歌を口ずさみながら建物の外へと歩いて行く。
    「……ん?」
     淫魔がくるりと振り返る、何かに気付いたのかはたまた何となくか。ダークネスの直感は油断のならない話ではあるが。
    「………。まいっか」
     歌を再開して淫魔は帰って行く。しっかりとその様子を確認した叢雲・こぶし(エレクトリッガー・d03613)が物影から現れる。
    「……もう戻ってこないよね」
     ほっと胸をなでおろして彼女は呟く。彼女を始め他の灼滅者達も続く。
    「淫魔もふざけているようで中々油断のならない相手ですねえ」
     天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)が呟く。あんな淫魔とて灼滅者よりもはるかに強いダークネスであり、その力を全力で遊びに使うような連中である。どんな頓痴気な手段でも気をつけねばならないだろう。
    「地道な営業活動は大事だろうけど、マッサージ出来るなら転職すればいいのに……」
     星置・彪(藍玉・d07391)が小さく意見をこぼす。もっとも淫魔の事だから単純に趣味の線も捨てきれない。……そういう場を得るのにも楽なのかもしれないが。その辺りについ思い当たってしまった山伏・武士(サムライ・d09817)顔を赤らめる。
    「そういうことっていけないと思うよ! うん!」
    「oh! そういうことに興味のあるお年頃デスか。YESだね! ……その辺り詳しク」
    「どういうことって、えとえっと」
    「うちらはまだしらんくてええと思うで」
     慌てる武士にロザリア・マギス(死少女・d07653)が追求し、八坂・ひさぎ(エンジェルボイス・d07932)が止める。そんな女3人がかしましい話をしている間にも、戯・久遠(薄明の放浪者・d12214)と三条院・榛(円周外形・d14583)が扉の前に立っている。
    「さて、今回の相手はどれ位の強さなのだろうな」
    「さてねえ、どうなんやろか。さてと」
     久遠の言葉を返しつつ榛は扉に向かって構える、久遠もまた同じ。
    「ダイナミックお邪魔しまーす!」


     金属が砕ける不快な音と共に扉が役目をなさなくなり部屋の中への道が開かれる。
    「騒がしいな、それとも別の客か」
     静かにかつ威圧的な声が奥にいる男から発せられる、ベッドに腰掛けているそれは何処か楽しげに灼滅者達を見ている。その余裕の佇まいと満ち溢れる戦意、目標のダークネスにそれは相違ない。
    「ちょっと楽しくなってしまって、こういうの」
    「奇襲するのならもう少し静かにしたほうがいいぜ」
     皐にアンブレイカブルは言う、これでは先手を取るどころではないだろう。もっともこの武人相手にそんなことが出来たどうか。
    「調子がよさそうだな」
    「さっきちょいとばかり揉んでもらったところだからな」
     久遠の言葉に答えつつ男は静かに立ち上がる、体の関節を軽く動かし調子を確かめているようだ。
    「そんなので喜ぶなんて鍛え方まだ甘いんじゃないですか? ウチの兄弟なんて体力馬鹿だからマッサージがなくとも元気に走り回ってますけど?」
    「坊主、良い事を教えてやろう。戦いに置いて一瞬の隙は命取りになる、俺はそいつを減らしたいだけだ」
     体の動きの一つ一つを確かめ、軽く震脚を踏む男。彪の背後の壁に罅が生じ砕ける。
    「女の色香に惑わされたのかと思いましタが……そうではないようデスね」
    「いい女さ。戦いの次くらいにはな」
     ロザリアの幻滅はとりあえず回避されたようだ、目の前にいるのは武に妥協を許さない武人。ひさぎは逆に男とさっきまでいた淫魔のやり方に眉を潜める。
    「あんなんアイドルやない、もっと別の何かや。アイドルっちゅうもんは歌と演技で夢を売る仕事なんや」
    「夢という名の嘘を売るのか、ならお前の呼ぶアイドルとやらとは違うだろうな。確かに俺の体は調子がいい」
     男は構えにいつでも入れる態勢を取り、灼滅者達に訊く。
    「で、ただ話に来た訳じゃないんだろ」
    「一つ手合わせを頼みたい」
    「いいねえ、そうでなくては」
     久遠の答えに笑みを見せる男。
    「後ろの乳臭い嬢ちゃん達も相手してくれるんだろうな」
    「ち……!?」
    「そう、尋常に勝負だよ!」
     微妙に気にしているこぶしを榛がなぐさめている間に武士が見栄を切る。何はともあれ目の前にいる敵はダークネスであり、敵なのだ。
    「『武装瞬纏』」
    「いざ、尋常に勝負だよ!」
     スレイヤーカードから各自武器を取り出し、戦いは始まった。
    「さあ始めようぜ」


     男は目にも止まらない速さで踏み込む、灼滅者達の視線が追いついたのは男が移動を終えた直後。
    「どちらからにしようかね」
     男の視線にはロザリアと久遠、二人が守りに徹しようと察知しての動きだろうか。つまりは防御ごと打ち破るつもりだろう。
    「お前の力、どれ程のものか見せてもらうぞ」
    「ハ、口だけじゃねえといいな」
     雷を込めた拳を久遠に向かって振り下ろす。ダークネスという強者の一撃はいとも容易く彼の防御の上から痛手を与える。
    「ぐ……!」
    「おいおい、まだ序の口だぜ、この程度でそんな顔されちゃ困る」
     痛みに歪無表情を見せる相手に余裕の口ぶりで男は笑う。
    「そっちの嬢ちゃんもあんまり俺を見くびらないほうがいい、そうやすやすとは思い通りにならねえぜ」
     裏から回り込んでいたロザリアのシールドバッシュを男は余裕で受け止める。はじかれるようにしてロザリアは間合いを取る。根本的に灼滅者とダークネスでは地力が違うのだ。
    「これが武というモノ……」
    「分かってくれるとは嬉しいね、礼にお前にもコイツをくれてやろう」
     先程久遠打ち据えた一撃と同じように雷を纏わせる。
    「……私達を忘れてしまっては困りますね」
     皐の鋼の如き拳が男の背後から襲いかかる。
    「忘れてちゃいねえ、ちょいとばかり迷ってただけさ」
     皐の拳に男も自らの拳を合わせる。相当の硬度を持つ同士の衝撃は互いにダメージにならずに終わる。すぐさまに皐は武器を構えて次の攻撃に移れるように態勢を整える。逆に男は周りにすぐに視線を動かす。こぶしの放つ制約の弾丸もあっさりと弾かれてしまう。
    「……こいつも当たれば怖いってトコだな」
    「わたし流剣術を思い知るでござるよ!」
     こぶしが気を引いた瞬間、武士の彗星を思わせる矢が男の体に突き刺さる、同時に男の体に満ちていた力が失われていく。
    「やるねえ、それくらいはやってもらわねえと」 
    「これも兵法だよ! 真の侍は何しても良いんでござるよ~」
    「全くだ」
     男は続こうとした榛をあしらいながら、久遠とロザリアを攻撃していく。鍛えぬかれたダークネスの一撃は重く響いていく。
    「こんなとこで倒れさせませんよ」
     そんな男の攻撃を減じさせているのが彪の影だ。するすると素早く男の体を縛る事で攻防を阻害している。その隙にひさぎが癒しの声で回復を行う。
    「そや、まだその時やない」
     彼女の放つ癒しの力が戦線を維持する。如何に守勢に回っていようともダークネスの攻撃を多くは受けられない、それを支えているのが彼女である。
    「さあ、もっと俺を楽しませてくれよ!」
     男は吠え、その拳は一層激しさを増していく。


    「テクノ!」
     ロザリアと共に守り手を務めていたビハインドのテクノが男の手によって打ち砕かれる。元々の耐久力が高くなく、かつその役回りをしていれば一番最初に倒れるのも道理だろう。だがその彼の果たした役割は敵の隙を作ること、彼の相棒であるロザリアが動く。
    「グッ……」
     男の脇腹を力場の盾で殴り、自らに注意を向けることに成功するロザリア。その彼女に向かって研ぎ澄まされた技の一撃が突き刺さる。
    「………」
     確かに強力な一撃ではあったが彼女を打ち倒すには及ばない。それは共に肩を並べる久遠の援護が合った故。ロザリアは口の端を上に上げる。
    「我流・堅甲鉄石。そう簡単に倒させるわけにも倒されるわけにもいかん」
     霊犬の風雪が浄霊眼でロザリアを癒し戦線を立て直す。傷ついた彼女の代わりに皐が前に出る。
    「いくら戦闘狂と言ってもここまでです」
    「俺はまだ戦えるさ!」
     男は飛び込んでくる皐を迎撃しようと拳を振るおうとする。だがその動きを纏わり付いた影が一瞬制する。
    「――!」
     タイミングが一拍遅れたそれは皐の剣によって打ち払われる、そしてそれに驚く間もなく彼の二太刀目がその鋼の如き腕を深く切り裂いた。
    「……クッ、やってくれるな……!」
     男は影の主、彪を睨めつける。彼が放つ影によって相手の動きに精彩が欠けていっていく、狙い定めたそれは確実に相手の力を削いでいる。
    「僕らは非力でも一人じゃない。 力任せの筋肉バカには負けない!」
     彪はその視線に負けない意志を持って相手を見据える。ここが機と判断したひさぎは声を上げる。
    「今がチャンスや!」
     ひさぎの呼び出した風の刃が動きの鈍った男の体を切り裂く。
    「この新しい侍の力を思い知るんだよ!」
     朱色の弓を構えて制約の力を相手に射る武士に続いてこぶしが同じ技を放ち相手の動きそのものを制していく。
    「アンブレイカブルさん、体の調子はどうかな?」
     こぶしに問われるまでもなく男の動きは先程までの激しさとは打って変わって鈍くなっている。
    「南無阿弥陀仏」
     榛がその機に乗じて彼女らの束縛の技を援護するように剣を走らせる。ますます男は勢いを失っていく。
    「俺はまだ終わっちゃいねえ」
     近くにいた榛を投げ捨てようと腕を伸ばすがそれも届かない。そして辛うじて動く男の目が捉えたのひさぎの影、星の力を持つ弓を携えて踊るようなステップで回りこむ。
    「ダークネス、汚いで。 アイドルの存在を汚さんといて。 うちの夢、汚さんといて」
    「手段を選んでいる内は欲望なぞ叶えられまい」
    「……あんたは地獄行きや」
     放たれた矢が男の胸に突き刺さり、倒れるよりも早くその身は消滅していった。


    「アンブレイカブルさん、討ち取ったり~!」
     武士が勝鬨を上げる。部屋に残ったのは灼滅者のみ。
    「……ダークネス相手とは言え、斬りつける感触が気持ち悪かったわぁ……」
     榛が手をひらひらと感触を振り払うように動かす。慣れない戦い方だったからか。そんな慣れない彼をいたわるように武士がマッサージをする、怪力無双で。
    「……淫魔が他のダークネスを牽制してまでやりたい事って何なんだろ……あんな曲作る人達の気持ちはわからないや」
    「淫魔……あっ。はうぅ、ここって。……」
     彪のつぶやきに先程までここにいた淫魔の事を思い出しこぶしが顔を赤らめる。別になにかやましい事はなかったはずだけれど想像力豊かなのだろう。
    「……本当のアイドルは体やのうて夢を売るんや」
     そんなこぶしを横目にひさぎは俯いていた。ひたすらに己を心情と相容れなかったダークネスの言葉がまだ残っているのだろう。
    「高みへ至る過程はそれぞれだ。正解などありはしない」
     久遠は小さく呟いた、果たしてそれはひさぎの耳に届いただろうか。
    「俺は闘いの先に何を見出すべきなのだろうな」
     拳を握り久遠は思いを馳せる。武の狂者の残していったものをそれぞれ胸に秘めて灼滅者は部屋を後にした。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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