ウツロの世界

    作者:相原あきと

     深夜24時、都内某所にある建設途中のビル。
    「おーい、そこに誰かいるのかー?」
     工事途中のビルの中を懐中電灯で照らし、その気配に向かって語りかける。
     男は今年警察官になったばかりで、この職業に対して夢も希望も失っておらず、あるのは理想と熱意というアツイ男だった。
     だからこそ、このビルのそばを通りかかった時に感じた気配を、そっとしておく事もできずに調べようとしてしまったのだ。
    「よし、ここは市民の安全の為にも警官の俺が確認するべきだな」
     暗闇に対する本能的な恐怖を、己の正義感で打ち消して男は1歩1歩と足を進める。
     そして……。
    「力も無いくせに……分不相応な正義感……」
     工事現場の闇の中から『影』が現れた。
     真っ暗な闇の中にぽっかりと浮き出た異質な黒。
    「だ、誰だ!」
     今にも逃げ出したくなる恐怖を押さえ込み、影に向かってピストルを構える警察官の男。
     だが、それは影に対して逆効果だったようで……。
    「その程度の力で……教えてやるよ。理想と現実がどれだけ乖離しているかを……な」
     影はゆっくりと広がると、バクンっ! 警察官を包み込むように飲み込んだのだった。

    「みんな、シャドウについては勉強してある?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(小学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
    「今回、みんなにお願いしたいのは……六六六人衆との戦いで闇堕ちした学園の灼滅者が起こす事件の、阻止よ」
     闇堕ちした灼滅者、名は赤秀・空(あこう・うつろ)。
     珠希の予測した未来によると、彼は都内のとある建設現場に現れるらしい。このままだとそこを通りがかった若い警察官が犠牲になってしまうと言う。
    「彼はまだ完全なダークネスになってないわ。ただ……」
     珠希は表情を曇らせる。
    「ただ、元人格の性格が反映しているせいか、説得するのが大変かもしれないの……」
     珠希が言うには、赤秀空を説得するには以下のポイントがあるらしい。

     ポイント1。
     顔見知り以外には酷く冷淡であり、いっさいの興味が無い。

     ポイント2。
     かつて自身が参加し、失敗した依頼の参加者達、および闇堕ち原因となった依頼の参加者達は信用していない。

     ポイント3。
     目に見えない感情を理解せず、綺麗事と実現性に乏しい言動を嫌う。

     ポイント4。
     ある少女の所へたどり着く為なら手段は問わない。

     最後の1つは、彼が踏み留まっている理由とのことだ。
    「私たちの言葉が届いて説得ができれば、対象の戦闘力も落ちるんだけど……」
     説得ができなかった場合、赤秀空の戦闘力は灼滅者の10倍ほどの強さとなる。相手はたった一人とはいえ、相当辛い戦いになるだろう。
    「彼と出会うには、警察官の代わりに建築途中のビルに入っていけば大丈夫よ」
     そうすればバベルの鎖に引っかからないで接触が可能らしい。
     珠希は次に赤秀空の戦闘時の行動について説明する。
     珠希によれば彼が使うサイキックはシャドウハンターと影業のもの、さらにシャウト等も使ってくるらしく、戦闘中は誰か1人を集中的に狙って戦闘不能に追い込もうとするとの事だった。関わりが深い人ほどこの時に集中して狙われやすいそうだ。
    「それと……これは彼の元からの性格なのか、ダークネスのせいなのかわからないけど……戦闘で誰かが重傷に追い込まれたら、彼はその重傷者を人質に逃亡をはかるわ」
     珠希の言葉は裏を返せば、重傷者が出た場合はほぼ逃げられるという事だ。
    「みんな、今回の依頼では彼をなんとか説得するか、それを諦めて戦闘でいかに重傷を出さずに彼をKOできるか、たぶん……どちらかに絞って意思統一をした方が良いと思う。中途半端にどちらも……は、お勧めしないわ」
     珠希はそこまで言うと灼滅者達の顔を見回し。
    「もちろん、彼を助ける事ができれば万々歳だけど……どうしても助けられない場合は……もう助けるタイミングは無いと思う、だから……」
     珠希は言葉を飲み込むのだった。


    参加者
    椿森・郁(カメリア・d00466)
    雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)
    篠崎・結衣(ブックイーター・d01687)
    嘉納・武道(柔道キャッチャー・d02088)
    ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)
    天峰・結城(全方位戦術師・d02939)
    堀内・真澄(へっぽこ番長おぶざいやー受賞・d03730)
    野神・友馬(マスクドレイモンド・d05641)

    ■リプレイ


     夜空には朧雲が流れ、星々は光を遮られて地上を漆黒の闇が覆う。
     そんな夜。
    「結局、彼はどういった人物だったのです?」
     事件を起こす元武蔵坂学園の灼滅者、闇堕ちした対象を知らぬ天峰・結城(全方位戦術師・d02939)が他の7人に問う。
    「一言で言うなら、穏やかで礼儀正しい人、だよね」
    「そうですね……。しっかりした、穏やかな人という印象でした。でも、目を開けたまま寝てたり、やや掴み所のない人でもありましたが」
     椿森・郁(カメリア・d00466)が答えれば、同意するように篠崎・結衣(ブックイーター・d01687)も続く。
    「私の知る赤秀先輩は、野球の知識が豊富で純粋に野球の好きな先輩……ですね。嘉納先輩はどうですか?」
     雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)が嘉納・武道(柔道キャッチャー・d02088)の方を向いて聞く。
    「そうだな、俺が一番感じたのは、こうと決めた事に意地を貫き通そうとする頑固さだな」
    「それだけじゃないですよ! 赤秀さんは私に裏表無く接してくれましたし、試合に負けたら励ましてくれたり。あ、後、お好み焼きを作るのが上手です♪」
     堀内・真澄(へっぽこ番長おぶざいやー受賞・d03730)が笑顔で話せば、お好み焼きの事を知らないメンバーが「へ~」っと驚く。
    「俺は正直、よく分からねぇ……皆の話を聞いていても認識の差があるようだし、俺だけ変な見方をしていたかと戸惑うくらいだ」
     そう言いつつも瞳に覚悟を宿すのはヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)だ。いや、覚悟を持っているのはヴェルグだけではない、ここにいる8人は全員がある主の覚悟を決めていたのだ。
     やがて未来予測より早い時間にビル前へ到着し結衣が殺界結界を使用する。これで警官への対応は十分だろう。
     そのビルは天井と床はあれど建設途中だからか全ての壁が無かった。暗い夜空の下、ぽっかりと口を開けているようなビルの正面を見据え結衣はボソリとつぶやく。
    「……あの人達の分までとは、言えないですが……」
     今回、結衣は色々な人に託されてしまった。だから、せめて精一杯、自分なりの言葉を紡ごうと結衣は思う。
    「なんだかんだで凄い人間臭い奴だと俺は思う」
     ビルの闇を見つめたまま野神・友馬(マスクドレイモンド・d05641)が言う。
    「……ただちょいと孤独っつーのかな、一人で何でも抱え込みすぎてるような気はするね」
     誰もいないビルに1人、赤秀空はいる。
     誰からも必要とされない建設途中のビル、光の差さないその場所はまるで彼の心を体現するかのようだった。
     最初に足を踏み出したのは……郁だった。
    「どうしても戦いたい敵が居るって聞いた時、ちょっと恋みたいだって思った……実際は、そんなロマンチックな話じゃなかったけど」
     それは決して的外れな認識ではない。執着という意味では、だ。
     灼滅者は次々に歩を進め、入り口付近から持ってきた光源で中を照らす。
     そして『彼』は、音も立てずに8人の前へと現れる。
     一回り大きな人型の影、だがよく見れば影の内部に身長170cm程の全身真っ黒な無貌の人型が存在する。
    「よう赤秀、お前のことだ。頼みもしない事をとか、無駄な事をと思うだろうが……俺達にとって必要な事だから、此処に来たぜ」
     武道が重圧に耐えつつ空に宣言する。
     対してダークネスの返答は――。
    「俺が必要? 薄っぺらい言葉を使うなよ。必要だと言うなら、どう必要なのか……言ってみろ」
     感情の無い冷たい声で、無貌なる空が8人を睥睨する。


    「赤秀さんは私の大好きな草野球を共に楽しむ大切な仲間です!」
     空の言葉に反応するように一歩前にでたのは【大帝国草野球クラブ】の4人だった。その1人、真澄が必死に叫ぶ。
    「試合の勝敗に一緒に一喜一憂したい! 私達には赤秀さんが必要なんですよ!」
    「一喜一憂? 勝手にすればいい」
     目に見えない感情を理解しない空が冷たく切り返す。
    「で、でも、私は! よく赤秀さんに突っ込まれたり、それが楽しかったんです! だから、赤秀さんがいなくなったら、もう一緒に楽しめない……そんなの、そんなの嫌です!」
     真澄の精一杯の想いが言葉に乗せられる。
     だが――。
    「……そう」
     興味無さげに呟く無貌の影に、真澄の脳裏に人数不足のチームにふらりとやってきた赤秀や草野球の祝勝会や残念会、お好み焼きを焼いてくれた優しい赤秀の姿が走馬燈のように通り過ぎていく。
    「先輩……」
     無貌の影が言葉を発したケイの方を見る。
    「私はここ最近、野球では鳴かず飛ばずでした……。ですが先日の試合でホームランを打ちました。嬉しかったです……」
     ケイを知る仲間達がうなずく。
    「先輩は野球が好きですか? 私には野球をしている先輩がとても輝いて見えました。この人は本当に野球が好きなんだな……と思いました。私は先輩と……また皆で野球がしたいです」
     ケイの言葉に、少しだけ無貌の影が首を傾げる。
    「好き……というのはわからない。だけど、野球は……」
     何か考え込むように腕を組む。
    「赤秀っ! 俺達の声が聞こえるか? 聞こえてなくても聞け!」
     それをチャンスと見た武道が強く呼びかける。
    「俺達の繋がりは野球だけだ」
     無貌の影が武道を見る。
    「けどな、クラブの連中はお前が帰って来るのを待っているぞ。クレバーで緻密な投球を持ち味にしている頑固で意地っ張りなお前を、だ」
     武道がまっすぐ影を見つめて言葉を続けようとする。
    「だから……――」
     だが、野球やろうぜ、の言葉は赤秀空の言葉に遮られる。
    「だから? 俺の必要は無い。ホームランだろうと何だろうと、勝手にやっていればいい」
    「おいおい、野球のルールも忘れちまったのか?」
     野球は1人じゃ出来ないんだ、と友馬がしゃべりだす。
    「覚えてるか? 今度バッティング勝負しようって約束した事をさ。俺、お前と勝負するの楽しみにしてたんだ。そりゃあ約束は目には見えないし、不確かな物かもしれない」
     友馬に無貌の影が視線を向ける。
    「けどな、それでも、俺にとってその約束はお前との大切な繋がりなんだと思っている」
    「ツ、ナ、ガリ……」
     少しずつ赤秀空の表情が悲しそうに歪んでいく。そして影は顔の端に手をかけるとマスクを脱ぐように表情を変える。
     そこに現れたのは――。
     無貌。
     まるで、必死な仲間達の心をダークネスがあざ笑うかのように。
    「ツナガリ……結局、ソレも目に見えないだろう?」
     無貌の影が無感情に言い放つ。
     その言葉と共に静寂が訪れる。
     だが、その静寂を破るように。
    「いくらあなたが嫌おうと、赤秀先輩が過ごした時間や築いた関係は、確かに在ったものです。ここに集った私達がそれを証明している」
     結衣だった。
     小さな体から精一杯絞るように、静かに、けれど全員にその声は聞こえた。
    「なら、証明してくれ」
     無貌の影の言葉に、結衣が言葉を選ぶように語る。
    「赤秀先輩……皆と出かけたのを覚えていますか? あの時買った先輩のマグカップ、今でも部室にありますよ」
    「………………」
     影が揺らぐ。
    「あのマグカップがある限り、夕暮れの海鳥部はあなたの居場所であり、その部員はあなたの仲間です。部長も皆も、赤秀先輩が戻ってくることを望んでいます」

     ――バシッ!

     無貌の影の腕が動き、自身の顔へと投げつけられたソレを手でキャッチする。
     それは大帝都で使われている野球ボールだった。
    「それも、繋がりの証明だ」
     ボールを投げた主、友馬が言う。
     そして影が……。
    「お、俺は……必要、なのか? ……違う、彼らはお人好しなだけだ……俺の、『彼』の事を、まだ理解していないだけだ……」
     少しずつダークネスから発せられる重圧が軽くなってきている気がした。
    「どうしても戦いたい敵とは、ケリが付いた?」
     郁が言い放つ。
     ピクリ。
     影が停止し。
    「悔い……残ってないの?」
     郁の言葉に反応するように、影が何かを呟いた。
     それはある少女の名、かつて助ける事が出来ず、そして今となっては唯一の――。
    「本当にそれで良いのかよ」
     ヴェルグだった。
    「あいつを倒すのが目的なんだろう? それを達成する前に死なないように堕ちたんだろうが」
     爪が食い込み血が流れるほど強く握ったヴェルグの拳、血の代わりに火の粉が落ちる。
    「このままだとお前は消えちまう……。今まで重ねてきた努力も、何もかも、全部意味が無くなるんだぞ」
     灼滅者達は肌で感じ取っていた。
     最初に現れた時ほど、赤秀空から強大な重圧を感じなくなっている事に……。
     僅かに、暗い影の中から光が顔を出そうとしていた。
    「……わかったよ」
     苦悶するかのように無貌の影が呟く。
    「そうだな……彼が俺にのまれないのは、その執念のせいだ……その通りだ、わかった……約束する」
     無貌の影が誰ともなく言葉を繋げ。
    「……俺がその少女を殺す!」
     仮面を脱ぐように表情を変える影。
     現れたのは無貌なれど口だけが釣り上がったかのような狂気の笑み。
     光は再び闇に飲まれ一気に重圧が膨れ上がり、次の瞬間、無貌の影の足元から幾本もの黒き蔦が生まれ、まるで槍のように灼滅者を襲う。
     説得に集中していた灼滅者達は突然の出来事に対応ができない。
     だが――。

     ズババッ!

     影で出来た蔦達が中空でバラバラに切り刻まれた。
    「手段を選ばずに力を求めて、その得た力で誰かを害することは赦されない」
     僅かな光りでキラリと蔦を切った鋼糸が輝く。
    「それでも誰かを害するのなら、害悪としてお前を潰させてもらう」
     結城だった。
     8人の内で唯一、赤秀空との接点が無い彼。
     だが、だからこそ冷静に警戒を続けていた。
     鋼糸が再び手の中へと戻り、逆の手には解体ナイフが握られる。
     そんな結城を無貌の影が見下すように。
    「今のは残念だった……けど、次は無い。彼とは……取引が成立した」
     無貌の影の足元から、締め殺しの蔦が幾千本と地を這うように生え広がって行く。


     まるで空間を蔦が覆い尽くさんとする勢いで、赤秀空の影が広がり死角から狙い討つように影が灼滅者を襲う。
     その攻撃は一撃で体力の半分を持って行く程強烈だった。
    「今日の私は回復番長です」
     傷を受けた仲間を真澄が天使のような歌声で癒す。
     初依頼であろうと関係無い、自身が未熟なのも承知の上、それでも真澄は赤秀の為に精一杯自分ができる事をする。
     今回、赤秀空の逃亡を阻止する為には誰一人重傷を出してはならなかった。
     それを行う作戦として、真澄と武道が他者回復に専任する事はもちろん。
     秀逸だったのはディフェンダーの友馬、ヴェルグ、ケイの3人が怒りのバットステータスを与え、敵からの集中攻撃を散らすという作戦だ。
     攻撃面では結衣がバッドステータスを確実に命中させ、さらに結城が。
    「そう簡単には逃がさない」
     ジグザグに変異したナイフの刃で影の蔦を斬り飛ばす。
     狙われる事が無い点を最大限に活かすため、結城は防御を捨てて攻撃だけに集中してナイフと鋼糸を煌めかせ続ける。
     だが、無貌の影はそれらを受けながらも灼滅者達への攻撃に手を緩めない。
    「どんな言葉も……全て、綺麗ごとだ」
     無貌の影がクラブのスートが浮かび上がった両手を振るうと、波のように足元の影がざわめき締め殺しの蔦が1人1人確殺しようと襲いかかる。
     その殺意の蔦を、別の影が……いや影で出来た別の植物が絡め取る。
    「じゃあ私がここに来たこともあなたの嫌いな綺麗事かな」
     影を郁子(むべ)の蔓にかえた郁だった。
    「ああ、その通りだ」
    「ううん、違う」
     幾本の影の蔦が郁を襲うが、郁はそれを身を捻ってかわし、無理な分は自身の蔓で防ぎながら即座に言葉を続ける。
    「私は赤秀先輩に伝える為に来た」
    「………………」
    「ダークネスとしてじゃなく、人間の赤秀先輩としてやることが残ってるだろう……って」
     ピクッ。
     動きが一瞬鈍った影の蔦達の中を、日本刀を構えたヴェルグが一気に走り抜ける。
    「空、お前の代わりにダークネスがあの少女を殺すと言ったが……それでは意味が無いだろう」
     ヴェルグが通り過ぎた後ろで、締め殺しの蔦影が一斉に燃え散ったのだ。
    「空、あの少女とケリとつけるのは……お前自身だ」
     震え始める無貌の影、だが。
    「黙れ」
     一言言いきると猫背から一気に跳躍。
     向う先はディフェンダーの中でも一番HPが低く、つまり重傷に一番近い者。
     ケイだ。
     赤秀空の全身を纏う影が大きく膨らみ、そのままケイを飲み込もうとする。
    「赤秀!」
     横合いから武道が大声で声をかける。
    「何時までも燻ってんじゃねえ! 今が意思を貫き、意地を通す見せ所だろ! 外角低めコースギリギリにシンカーを決めるようにな!」
     その瞬間、灼滅者達は幻を見た。
     無貌の影の後ろで、ダークネスを掴んでその動きを止める赤秀空の姿を。
     それは僅かな隙だった。
     だが、その隙をケイは逃さず接近し――。
    「先輩、戻ってきて下さい」
     拳で無貌の影を殴り飛ばした。
     そして……倒れる無貌の影。
     赤秀空を覆う影は、皆が見守る中で闇に溶けるように……消えて行った。


    「う……」
     ゆっくりと空が身を起こすと、そこには8人の灼滅者達がいた。
    「戻ってきた……ようだな」
     ヴェルグの言葉に、結衣がほっとしたような声で。
    「疲れました……割りに合わないので、今度、お茶でも奢って下さい」
     結衣の言葉。さらに追い打ちをかけるように真澄が。
    「お茶だけじゃ足りませんよ? お好み焼きも食べに行きましょう♪」
     笑顔で空を見詰める。
    「俺……は……」
     何かを考え込むように上を見上げて目を閉じる空。
    「こういう時は『そんな事より野球やろうぜ』って言えばいいんでしたっけ?」
     空を気付かうようにケイが言うが、何もしゃべらない空に、郁も「テスト受けれなくて残念でしたねー」とちゃかすように話しかける。
     やがて、空は目を開くと夜空を見上げたままポツリと言う。
    「どうして……」
     消えそうなほど静かに。
    「お前が何を求め、何を考えているのか……正直言って俺には分からない」
     ふと、空が友馬の言葉の続きを待っている気配がした。
    「だけど、俺はお前に戻ってきて欲しかった……大事な、仲間だからな」
     友馬の言葉に空が自身を助けに来てくれた仲間達を見回し。
    「……ありがとう」
     想いの詰まった、一言だった。
     それは空を知らない結城ですら「友達思いの孤独主義の頑固者と言う認識は……間違ってなかったようですね」と納得させた。
    「赤秀、一つだけ言っておくぞ」
     少し強い口調で武道が言う
    「お前が執着する少女を倒す為、また闇堕ちする事があっても……その都度俺達はお前を連れ戻す」
     それは決意とも脅迫とも取れる言葉だった。
     そして空は、赤秀空という少年は。
     スッと目を閉じると横に首を振り――……。

     いつの間にか夜空からは朧雲が去り、暗闇の中には輝く星々の光が瞬いていた。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 15/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 7
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