●探し物を求めて
夜の街中。遊び歩いている者や会社帰りの者など様々な者が行き交うそこを、一人だけ周囲から浮いた格好の者が歩いていた。
黒を主体にした和ゴス。ローヒールのサイハイブーツ。そして黒い猫耳に尻尾。
すれ違う人々はその姿に一瞬視線を向けるものの、コスプレだとでも思っているのかすぐに逸らす。
だがそれは間違いだ。猫耳も尻尾も作り物ではない。
彼は淫魔であった。
「中々見つからないものですね……」
呟きながら、彼は周囲へと視線を巡らす。しかし幾らそうしても、目当てのものを見つけることは出来なかった。
彼が探しているのは銀色の髪をした長髪の女性である。その髪色は日本では珍しいため、居ればすぐに分かるだろう。
だが珍しいからこそ、今のところ目にすることが出来ないでいた。
幸いなのは、学生服を着た男の姿も見かけないことか。彼にとって強い嫌悪感を示す対象であるそれは、銀髪の女性とは逆に珍しい存在ではない。
こちらも今のところ目にしてはいないが、少なくともこちらはそう遠くない内に目にしてしまうだろう。
もっともだからどうというわけでもないが。その時は、その衝動のままに行動するだけである。彼にそれを忌避する理由はない。
――本来ならば。
「……意外としぶといですね」
誰かに語りかけるように彼は呟いた。それは彼の内側、そこに微かに残っているモノに向けられたものだ。
「あんな偽りのものに縋ったところで意味はないでしょうに」
そう言いつつも、実際のところ彼はそれをあまり気にしていなかった。どうせ時間の問題である。
今の彼には時間など幾らでもあるし、目的にしても特に急ぐ必要性を感じていない。
最終的に目的を達成することが出来るのならば、それでいい。
「さて、あなたは今何処にいるのでしょうか……カエデ」
呟きながら、彼は再び街中へと視線を巡らせるのだった。
●堕ちた先
「実はとある淫魔の行動を予知したのですが……」
そう言いつつも、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が言いよどむには訳があった。断片的な情報の中で見かけた淫魔。その容姿に見覚えがあったからである。
服装は違う。格好も淫魔に近い。普段している赤いマフラーや白い羽根のアクセサリーを、身に付けていない。
けれど。
「おそらくは、七篠さんに間違いはないかと……」
七篠・神夜(お姫様の為の夜想曲・d10593)。先日の六六六人衆が起こした事件の際、その身を闇に堕としてしまった者の名だ。
「七篠さんはどうやらカエデという名前の銀髪で長髪の女性を探しているようなのですが……」
理由はよく分からない。姫子に読み取れたのは、あくまで目的だけだ。その原因や理由といったものを読み取ることは出来なかった。
「また、ラブリンスターと接触を図ろうともしているようですね……」
だがそれはあくまで目的のためのようだ。目立つことが出来れば見つけやすくなると思っているようでもある。
「ただ、真面目に……というか、ひたすらそれだけを目指す、というわけではないようです」
あくまで最終的に目的が達成できればいい。そういうことらしい。
「そのためか今はまだこれといった問題を起こしていないようですが……あくまで今はまだ、です」
そのうち何かを引き起こしてしまうのは確実だ。そうなってしまえば、いつまでも神夜の意識は耐えていられないだろう。
しかし今ならばまだ間に合う。
「七篠さんは目的の女性を探すためにとある街中に現れます」
時間と場所は姫子が指定するので、その時その場所に行けば会えるはずだ。
夜ではあるものの、光源となるものは十分にあるのでそこは気にしないでいい。
「一般人の方に関しては人払いをする必要はありますが、特に避難誘導などをする必要はないでしょう」
目的の人物がそこに居ない以上、神夜も特に邪魔をしたり一般人を狙ったりはしないはずだ。
「七篠さんは闇堕ちした時に使用していた武器、即ちバイオレンスギターと鋼糸で攻撃してきます」
使用するサイキックも、バイオレンスギターと鋼糸、そしてサウンドソルジャーと神薙使い相当のものだ。
「基本的に七篠さんは、学園に来るより前の出来事に拘っているようです」
そして学園での出来事を全て偽りだと思い込もうとしている。おそらくは今の支えとなっているものを否定しようとしているのだろう。
「ですから、説得する際にはそこら辺が焦点になるかと思います」
「おそらく今回助けることが出来なければ、もう七篠さんを元に戻すことは出来ないでしょう」
かといって迷っていては致命的な隙を生んでしまうかもしれない。それは非常に危険だ。
「もし救出することが出来ないようでしたら……」
敢えてその先を言わず、姫子はただ、よろしくお願いしますと頭を下げたのだった。
参加者 | |
---|---|
天鈴・ウルスラ(ぽんこつ・d00165) |
瀬高・優姫(小学生幼姫狐・d01850) |
エーミィ・ロストリンク(黒い魔狼のオルトロス・d03153) |
レイン・ティエラ(フローズヴィトニル・d10887) |
霧野・充(夜の子猫・d11585) |
天槻・空斗(焔獣蝕す宵闇の剣・d11814) |
ディアモンド・セージ(傷物の怪物・d12439) |
クラリス・ランベール(ダークネススレイヤー・d14717) |
●
神夜は街中を歩きながら、さてどうしたものかと思っていた。
銀髪で長髪の女性も、学生服を着た男も見つからない。他の一般人は元からどうでもよく、かといってこのままでは時間を無為に過ごすだけとなってしまう。
「まあ時間は沢山ありますので、それも構わないのですけれど」
そんなことを呟いた時だった。不意にその身体に衝撃を感じる。
しかし衝撃とは言ったものの、それはとても小さなものだった。誰かとぶつかった時よりも小さな、音で表すのならば、とん、という、その程度のもの。
方向は後ろ。位置は腰の辺り。
「やっとみつけたよ、神夜おにーちゃん」
そして、そんな声が聞こえた。
そこに居たのは瀬高・優姫(小学生幼姫狐・d01850)だ。両手でしっかりと、しかし優しく神夜の身体へと抱きついている。
見下ろす神夜と見上げる優姫の視線が重なった。
その瞬間神夜の動きが止まったのは何故か。だがそれに構うことなく、優姫は言葉を、自分の想いを紡いでいく。
「みんながまってるから……いっしょにかえろ?」
手を取り、自分の胸にあて。
「わたしがわからない? 優姫だよ、夢じゃないよ」
反応はない。けれど、気にしない。
思うことは、ただ一つ。
「ほら、神夜おにーちゃんがこのマフラーえらんでくれたんだよ」
――ぜったいつれもどす!
「なぁに? まだゆめだとおもってるの?」
にっこりと、笑顔を向けた。
瞬間、神夜の握られていない方の腕が振り上げられた。
それが何のためのものだったのか。おそらくは、本人すらも自覚していなかっただろう。
だがその意味を確認する機会が訪れることはなかった。
その前に、優姫がその場を離れたからである。
自然と神夜の視線はその後を追う。
そしてその先に、人波を遮るように彼女達は立っていた。
「おや……」
腕を下ろしつつ、順にその顔を眺めていく。彼女達の視線が自分に真っ直ぐ向けられていることなど分かっているし、そこに様々な感情や想いがこめられているのも分かっている。
だから。
神夜はその顔に、笑みを浮かべた。
「初めまして。私に何かご用ですか?」
「……っ!」
その言葉が示す意味はそのままだ。お前達の事など知らない。
つまりは、そういうことである。
だがその程度で諦めるのならば、最初からそこに立ってなどいない。
「久しぶりデース、カグヤ」
先の言葉など知ったことかとばかりに天鈴・ウルスラ(ぽんこつ・d00165)が前に出た。
とりあえず予告通り殴って連れ戻すのは確定だが、それだけで取り戻すことは出来ないことも分かっている。それに何より、言いたいことが山ほどあった。
「ユウキを放って何をしてやがりますか。ホワイトデーはとうに過ぎたでゴザルよ。お姫様にお返しもせず何してるデース」
「何と言われましても、私は私の望むことをしているだけですけれど。そもそもあなたはどなたで、お姫様とは一体誰のことなのですか?」
敢えてそう言っているのだということは分かっている。それでも俯きそうになってしまう優姫の肩に、ウルスラの手が乗せられた。
「心配無用でゴザルよ、ユウキ。きっと大丈夫デース」
その言葉には何の保証もない。確証もない。けれどウルスラは、絶対そうだと信じている。
そしてそれは、他の皆も同じだ。
けれど同時に、もしかしたら……という不安を抱いてしまうのも、仕方のないことだろう。
そんなディアモンド・セージ(傷物の怪物・d12439)の手を、霧野・充(夜の子猫・d11585)がそっと握った。
「大丈夫です、皆で一緒に帰りましょう」
それは自分に向けた言葉でもある。
一緒に帰る。
そのための勇気を。決意を。強く固める。
その想いは、十分にセージにも伝わった。
「ありがとう充さん……おかげで、もう怖いものはありません……」
勇気を貰うかのように、充の手を握り返した。
そんな様子を一通り眺めた後で、神夜はふむと一つ頷く。
「何をしたいのかは分かりませんが……どうやら私の邪魔をしたいようですね。ならば仕方ありません、ここはダークネスらしく振舞うとしましょう」
言うや否や、鋼糸を振りぬいた。
狙いは――優姫。
が、それは届く前に叩き落された。
「お姫様を護る騎士が姫を襲ってどーすんだ。全く、俺に代役なんてさせんなよ」
その前に飛び込んだのは、天槻・空斗(焔獣蝕す宵闇の剣・d11814)だ。
その身を包む学生服に、すっと神夜が細められる。
必然的に戦闘の雰囲気となってしまったが、まだ説得を諦めたわけではない。だがこうなってしまった以上、戦わないわけにもいかない。
ウルスラが周囲へと殺気を放ち、一般人の避難を行う。それは割と緩やかなものであったが、本当に神夜は一般人に興味がないのだろう。特に何をするでもなく、黙って見ていた。
それを確認した後で、レイン・ティエラ(フローズヴィトニル・d10887)はスレイヤーカードを掲げた。口にするのは、解放の言葉。
「君に誓う」
――いついかなる時でも、仲間を救う刃であることを。
「神夜は俺達の仲間だ……ダークネスなんぞに好き勝手されてたまるか」
殲術道具に包まれた身で、構える。
そして。
「サプラァーイズ、カーニバル! Yeah!」
ウルスラの言葉で、戦闘が始まった。
●
「……ハロウィンの時出会った神夜くんがロストリンク邸を訪ねてきた時は嬉しかったな。クラブにいてくれた時間は短かったけどそれでもみんな……わたしも含めて君が居て楽しかったって思ってる!」
ロストリンク邸。それはエーミィ・ロストリンク(黒い魔狼のオルトロス・d03153)の住む屋敷であり、所属するクラブ仲間達の集まる場所である。つい先日までは、神夜もそこに居た。
しかしエーミィに挨拶もせずそこから居なくなっただけではなく、その直後に闇堕ちしているとはどういうことか。
これはもう、お灸の一つもすえる必要があるだろう。
だからエーミィは、遠慮も容赦もする気がなかった。
「いえ、そのような偽りに満ちたものを私に向けられても困るのですが」
「偽りの思い出なんかない! 全部真実だ!」
自分の想いと、この場に来れなかった皆の想い。その全てを込めて。
「わたしが家主として神夜くんにしてあげられる最初で最後のこと。それは……闇落ちから救うことだ!」
言葉と共に、炎に包まれた拳を叩き込んだ。
「カグヤァ! 帰ったらデートに行くと言ってたでゴザろう。お主は学園で大切な人と過ごす日常を大事にしていた。それを嘘だとは言わせんデース!」
叫ぶウルスラが手に持つのは、思い出のギターだ。かつて一緒に演奏した時に使用したそれを見せ付けるように構える。
「クリスマスの時一緒にライブしたでゴザろうが! カグヤはノリノリでマイクパフォーマンスまでしてやがったデース!」
それを思い出させるようにかき鳴らした。
「Fa-la-laのみんなも、綺麗な月が出てるからのみんなも、蒼桜のみんなも……みんなみーんなまってるよ!」
言いながら優姫が見せるのは、Fa-la-laの皆と共に撮ったプリクラだ。距離があり、小さくとも、神夜の目にはしっかりと映っているはずである。
だが。
「……いい加減にしてもらえませんか。偽りと分かっていても、そろそろ不愉快です」
否定する神夜の顔は、確かに不機嫌そうに歪んでいた。しかしそれは、効果があるということだ。
何の意味もないのならば、ただ無視されるだけであっただろうから。
「七篠様と過ごせた日々はとても楽しいものでした。例え、今の七篠様が否定したとしてもダメですよ? 私たちの心には、しっかりと残っているのですから」
皆の傷を癒しながら、ディアモンドは神夜へと語りかける。
「だから、戻ってくるまで、何度でも呼びかけますからね! 七篠様……帰りましょう。皆様のところへ。七篠様には、帰るところがあるのですから!」
その心の、命じるままに。
何としてでも、連れ帰って見せる。
「ですから、いい加減に……!」
苛立ちが混じり始めた神夜の攻撃を、クラリス・ランベール(ダークネススレイヤー・d14717)は黙って受け止めた。
初対面であるクラリスには、神夜に向ける言葉がない。神夜が攻撃を仕掛けてくるのは、あくまでクラリスが銀髪で長髪だからだ。
むしろダークネスに異常なまでの敵意を示すクラリスとしては、救おうとするよりもそのまま灼滅しようとする方が自然かもしれない。
実際そういう懸念があるのか、周囲から時折警戒染みた視線が向けられるのを感じている。
それに関してどうこう言うつもりはなかった。クラリスとしては、自分の信念に基づいて行動するだけだ。それを曲げるようなことは、するつもりがない。
だからクラリスは、ただ黙って神夜の攻撃を受け続けた。
「付け焼刃の改造で何処までいけるか……踏ん張れよ、バカ剣」
攻撃を受ける頻度という意味では、空斗も高かった。しかも問題は普通に攻撃してくるのではなく、捕縛しようとしてくるところだ。ディアモンドによってすぐに治療がなされるものの、動きづらいことこの上ない。
だがそれでもその手に蝕之陽剣『ExEklipse』――通称イクスを持ちながら踏ん張る。
正直空斗としても思うことは色々とある。しかしそれを口にするのは、救った後だ。
だからその為にも。向かってくる攻撃を、叩き落した。
「学園、覚えていらっしゃいますでしょう?」
そっと、充は神夜に話しかけた。
「クラスや、クラブの皆様と過ごした大切な場所です。そこで過ごした日々も、出会った方も偽りではないです。偽りでしたら私たちはここにいません」
しかしそれは戦闘によって生じる音に負けない程に力強い。
その言葉が、届くように。
「学園に、瀬高様と皆で一緒に帰りましょう。七篠様のお帰りを、皆様待っております。お花見の約束も果たさなくては」
その想いが、響くように。
「……っ、黙ってください。私には、やるべきことがあるのです」
「過去に縛られると未来には進めないよ。でも学園にいた時のお前には大切なヒトがいた」
それは前を、未来を見ることが出来たという証だ。
レインはそう言いつつ、神夜の目を真っ直ぐに見る。
「今を見ろ! お前にだって大切なヒトがいるじゃないか。今ココにいるヒト以外にも……沢山のヒトが、神夜の帰りを待ってるんだ。さっさと……戻ってこい!」
幾ら偽りだと言ったところで、自分達が偽りにはさせない。
その意思を示すように、影の刃が神夜の身体を切り裂いた。
「っ……! まだです……私はまだ……!」
もがく神夜の前に、すっと優姫が降り立った。
その顔には変わらず笑みが浮かんでいる。
が。
さすがに優姫にも色々と文句があるのである。さっきからずっと偽り偽り言い続けてることとか、そもそも闇堕ちしたこととか、他にも色々。
でも、まずは戻ってくれないと、何も出来ないから。
「れんらくもないままずっとドコほっつきあるいてたのさこのダメてーしゅ!」
言いながら、殴り飛ばした。
「ったく……いい加減目ぇ覚ませこのアホウ!」
「みんなが待ってる! 戻ろう神夜くん!」
ウルスラの拳が、エーミィの弾丸が叩き込まれるたびに、少しずつ神夜の身体から力が抜けていく。それでもその顔は、何かに耐えるように歪み続けていた。
だが、事ここに至って、その行為はこう呼ばれるのである。
無駄な足掻き、と。
がしりと、神夜の頭が空斗によって掴まれる。
「とっとと、御姫様に泣かれて喧嘩して仲直りしてきやがれっ!! この大馬鹿野郎がっ!!」
そしてその頭に、手加減無用の頭突きが叩き込まれた。
ちなみに当然であるが、頭突きとは互いの頭をぶつけ合うことである。
つまり。
「ごふっ……しまった……つい勢いで……」
その場に、二人同時に倒れこんだ。
●
「……あ~」
地面に大の字になった神夜は、何処かすっきりしたような顔をしていた。
しかし不意にその顔の前に何かが差し込まれると、パシャリという音と共に閃光が走った。
それはすぐに消えたが、あまりに突然のことに数度瞬きを繰り返す。それからふと真横に視線を向けてみれば、そこには何故か横に並んでいる優姫の姿があった。
「わたしと神夜おにーちゃんとの2ショットってなかったよね」
視線に気付いた優姫が笑みを浮かべると共に、その手に持っていたカメラを見せ付けるように横に振る。つい、苦笑が浮かんだ。
気が付けば、神夜から猫耳と尻尾は消えていた。
「ほら、神夜おにーちゃんのためにみんなきてくれたよ」
そう言って優姫は立ち上がると、両手を広げた。まるで神夜に、それを見せ付けるように。
一瞬、神夜は何と言ったものか迷ったが、この状態で言うことなど決まっている。
「……ごめん。それと、ありがとう」
言った瞬間、ディアモンドが泣き崩れた。喜びつつも、その涙はしばらく止まりそうもない。
困惑する神夜だが、そのぐらいは甘んじて受けるべきだろう。
「……おかえり。いままでありがとう」
「……ただいま。こっちこそな」
エーミィは自然とロストリンク邸での事を思い出していた。そこに神夜が顔を出すことはもうないかもしれない。けれど、また何処かで顔を合わせることもあるだろう。
だから無事に救出できたことを、今はただ喜ぶ。
「……ん、姫様のご帰還だな」
呟きながら、レインは神夜に駆け寄ろうとするギンを宥め、しーっと人差し指を口に当てた。
神夜の横には、逢えなかった分を取り戻すとばかりに優姫がべたべたとくっついている。あそこを邪魔するのは、さすがに悪い。
ぱたぱたと揺れていたギンの尻尾が、力なく垂れ下がった。
充はそんな皆の様子を、後ろから見守っていた。安心したその顔には、ただ微笑みが浮かんでいる。
空斗も同じく、その様子を遠巻きに眺めていた。言葉をかけるのは、他の連中に任せる。言いたいことは、後で言えばいいだろう。
今はただ、無事救えたという余韻に浸る。
クラリスは何も言わずに、そっと背を向けた。
さっき触れた時に伝えた言葉は、果たして通じただろうか。
(「素敵な友達を大切にね」)
心の中で、もう一度だけ同じ言葉を呟いた。
「あっ、みんなできねんしゃしんとろー」
それは唐突だった。あまりに唐突過ぎたので、ついクラリスもその足を止めてしまう。
「お、いいでゴザルな」
しかもウルスラが同意したので、皆何となくやる気になっていた。さすがにその空気で抜けるとは言い出しにくい。
でも、まあいいか。そう思って苦笑を浮かべた。
問題はその場にシャッターを押せる通行人が居ないことだが、別に急ぐ必要もない。もうこの場には、九人が揃っているのだから。
のんびりと待てばいい。
そんな彼らの頭上には、月。降り注ぐ光が、優しく照らしていた。
作者:緋月シン |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年3月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 15/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 9
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