魔法少女は灼滅者を討つ

    作者:るう

    ●とあるアーケード街
    「やあっ! てやっ!」
     ミニスカートの少女の掛け声と共に、虹色の光条が空を走る。
     見る者が見れば、その様子からはアニメの戦う魔法少女が連想されたであろう。だが彼女の倒す『敵』は、悪い魔女でもなければ、その手勢でもない。
     そこに横たわるのは、落ち度のない、ごく普通の人々であった。だが彼らは、次々とその命を奪われてゆくのだ。
    「これで……最後っ!」
     呆然としたままの幼い子供を魔法で貫いて、ようやく少女は魔法のロッドを降ろす。
    「ごめんね? でも、悪い人たちを誘き寄せるには、こうするしかないの」
     ほくそ笑むようなその口元は、彼女が反省とも謝罪とも無縁であることを、いやそれ以上に、彼女がこの惨事を楽しんで行っていたことを物語る。
     けれど不意に、彼女は夢見る少女の顔をして、ひとつ呟いた。
    「でもこうすればきっと……『灼滅者』さんたちも『改心』してくれるよね?」

    ●武蔵坂学園、教室
    「大変です……。とある町に、ダークネスが現れます」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)の表情は、沈痛だ。それもその筈、彼女は灼滅者たちを、ダークネスの中でもひときわ危険な六六六人衆のもとに送らねばならないからだ。
    「現れるのは、序列五七三位、通称『殺人魔法少女』です。その名の通り、魔法少女の姿を取って、事件を起こします」
     自らを正義と称する彼女だが、その精神は邪悪な六六六人衆のもの。正義を自称するのは彼女の本性が正義だからというわけでは決してなく、完全に彼女の歪んだ道楽のようだ。
    「そのことから考えると……彼女が未来予測の中で口にした『改心』という言葉、真意は灼滅者の『闇堕ち』にあると見て間違いないはずです」
     近頃、六六六人衆が灼滅者の闇堕ちを目論んで事件を起こしている。殺人魔法少女も、そのゲームに参加している一人なのだろう。
    「エクスブレインの私が、みなさんを導かなければならない事はわかっています……。でも正直今回、満足いく情報をお渡しできるか、自信がありません」
     殺人魔法少女が事件を起こす前に迎え撃ち、撤退させる。それだけ聞けば簡単なことでも、彼我の力量差まで考えると、著しく困難な任務となりそうなのだ。
    「殺人魔法少女は、特別な魔法の杖を武器とします。バスターライフルの能力を組み合わせたマテリアルロッド、というのが一番近いでしょう」
     六六六人衆の扱う武器にしては異色に見えるが、その破壊力は五七三という序列に相応しいもの。見た目のファンシーさに騙されれば、運命は尽きたも同然。

    「彼女は事件前、近くのビルの屋上で犠牲者となる人々を眺めるのを好みます……その時に挑むのが、現時点で最も勝機のある方法なんです」
     ある程度戦って灼滅者たちが倒れなければ、魔法少女は殺戮を断念して退散するはずだ。それまで持ちこたえれば、灼滅者の勝ちになる。
    「もしかしたら耐え切るには、彼女の目論見通りにしなければいけないかもしれません……でもできる限り、皆さん揃って帰ってきて下さい……」
     だが忘れてはならない。最も重要なことは闇堕ちしないことではなく、六六六人衆の殺戮を止めることなのだと。


    参加者
    アプリコーゼ・トルテ(中学生魔法使い・d00684)
    ゲイル・ライトウィンド(風纏う癒しの光輪・d05576)
    黒咲・瑞穂(黒猟犬・d05998)
    霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)
    志那都・達人(風吹き澄ます者・d10457)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    西音寺・響(黒狐姫・d13867)
    宮代・庵(小学生神薙使い・d15709)

    ■リプレイ

    ●ビル上の邂逅
     魔法少女は辺りで最も高いビルの屋上から、地上を見下ろしていた。
    「世界はこんなにも美しいというのに……どうして灼滅者なんてものがいるの?」
     センチメンタルな表情。だが次の瞬間には、それは歪んだ狂喜の表情へと変わっていた。
    「これ以上の好き勝手はさせないっす!」
     少女の目の前に箒を横付けして視界を塞いだのは、普段着姿のアプリコーゼ・トルテ(中学生魔法使い・d00684)。箒の前後にすまし顔で座る犬と猫は、彼女の使い魔だろうか?
    「やっぱり出たわね灼滅者! たった一人で来るなんて、今すぐこの場で退治してあげる!」
     少女の杖に宿るどす黒い渦を見て、アプリコーゼは慌てて着地。犬と猫も彼女に続いて箒から飛び降りる。
    「トルテちゃん、危ないワン!」
     アプリコーゼに命中するはずだった魔法はしかし、彼女を守るように飛び込んだ犬により妨げられる。だが魔法を受けたのは、犬ではなく一人の男だった。
    「……ってところでしょうかねぇ? まさか、この年になって魔法少女の従者になるとは……いやはや。おや? 貴女も魔法少女ですか」
     男――紅羽・流希(挑戦者・d10975)は犬の姿を解き、苦笑しながら術を受けた胸元をさする。武器はまだ、持っていない。まるで話し合いにでも来たかのようだ。
    「同じ魔法少女なら、変身シーンくらい、待って欲しいっす!」
     アプリコーゼもロッドを少女に突きつけ、厳重に抗議する。彼女はまだ、変身を遂げていない。

     どうやらすぐには襲い掛かってこない相手を見て、少女は芝居がかった動作で空を仰いだ。
    「もしかして、私の願いが通じたの!? 私は『正義の魔法少女』だから、みんな安心して『改心』していいのよ!」
    「いや~、あなたが魔法少女さんですか?」
     三つ目の声が、辺りに聞こえる。見ると今度は猫の姿が消えており、代わりに西音寺・響(黒狐姫・d13867)がフレンドリーに話しかけていた。
    「あなたの魔法はどんなのか、見せて貰っていいですか? 僕の使える魔法はまだまだで……」
     少女が目を細めたのを、響は見逃さなかった。もう少し……もう少しの辛抱だ。心の中で、今やこの世にはいない師匠に祈る。力を貸して下さい……そして、必ず無事に帰れますようにと。
    「もちろんよ! 本当の『正義』の魔法を見せてあげるわ!」
     魔法少女が杖を振り上げてみせようとした……その瞬間!

     背後の階段室から幾つものサイキックの気配を感じ、殺人魔法少女は身をよじる。しかし別の動作を始めた瞬間の出来事のこと、その全てを躱すなどできようものか!
     さらにその瞬間を狙い、前からも三連の攻撃が押し寄せる!
    「魔法少女。夢があって良いですねぇ……夢見る糞餓鬼の間違いだろ?」
     流希の眼光が鋭く尖り、その腕が残像を残す。抜き打ちざまの連続の斬撃! 弾かれるように跳ねる少女を、燃える響の銃弾が追う!
    「はじめから変身してる上に相手の変身シーンも待たない魔法少女なんて、偽者か悪側に決まってるっす!」
     魔法を放ったままの体勢で、アプリコーゼは断定する。今や彼女も犬耳犬尻尾をあしらった魔法少女の姿に変身済みではあるが、折角用意した変身用BGMは、結局使えず仕舞いだ。
    「騙したのね……何て卑怯なの! 道理で数が少ないと思った!」
     少女は新手の襲撃者を狙いやすい場所へとその身を移すと、杖を構える。だがその動きを予期して妨げるように、一輪バイクが味方を飛び越え、甲高いスキール音を鳴らしながら着地した。
    「こんな奴のために、誰かの涙は見たくないからね……」
     味方への射線を塞ぐと、志那都・達人(風吹き澄ます者・d10457)はライドキャリバー『空我』に乗ったまま、後輩から借りた帽子を目深にかぶり直す。必ず、自らの手で返すために借りてきたものだ。
    「邪魔するのね! そんなこと、決して許さないわ!」
     少女は再び床を蹴り、灼滅者たちを一睨できる貯水塔の上へ。その顔には増えた敵への憤懣ではなく、獲物が増えたことに対する残忍な歓喜が浮かんでいる。
    「はぁ……。何と言いますか……最近多いですねぇ、血の気の多い魔法少女、というのは。……ま、相手が何だろうと関係ねぇが」
     獰猛な笑みを顔に貼り付けて、黒咲・瑞穂(黒猟犬・d05998)はゆっくりと歩みを進める。普段の穏やかな雰囲気はどこへやら、かつての名うての暗殺者の構えには、一分の隙もない。
     愉悦の表情の少女に向けて、確かに正義は人それぞれと言われるが、と呟いた後、ゲイル・ライトウィンド(風纏う癒しの光輪・d05576)は癒しの燐光を放ちつつ、断罪の言葉を続ける。
    「殺人を愉しむなど、明らかに正しいこととは異質なものですよ」
    「本当に、貴女のような方が正義を語ると、正義もだいぶ安く感じてしまいますね」
     いまだ硝煙の昇るガトリングを小脇に抱えて同意すると、宮代・庵(小学生神薙使い・d15709)は空いた手でずれた眼鏡を直した。
    「さあ、悪巧みはここで終わりです」
     庵が眼鏡から手を離した瞬間、その腕は急激に巨大化し、魔法少女へと伸びる!
    「最近の魔法少女は『悪い奴』に殺されるのが流行りらしいですヨ? 貴女もいかがデスか?」
     霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)が放った黒い霧は、庵の腕に纏わりつきながら魔法少女を襲い、その姿を覆い尽くす!

    ●魔法少女ごっこ
     闇を纏った拳を正面から受け止めると、少女はその勢いを利用して隣の貯水塔を目指す。
    「あたしは、悪い奴らには負けない!」
     貯水塔の壁面を蹴ると、少女はロッドを握り、真っ直ぐに自らを傷つけた相手……庵を狙う。引き寄せられた拳の陰に隠れるようにして振るわれる、魔法の杖。
    「させないっす!」
     とはいえさしもの六六六人衆も、攻撃の瞬間は僅かに防御に綻びが生まれるのは奇襲時と同じ。アプリコーゼはその一瞬を狙い、次々に魔法の矢を放つ。そしてそれらは確かに、杖を振り上げた瞬間の少女の脇腹に吸い込まれていった……のだが。
     次の瞬間、死角から注ぎ込まれた破壊の魔力は目もくらむような爆発となり、庵の軽い体を宙に舞わせる。その先で……屋上は途切れている! 『バベルの鎖』が落下の衝撃から庵を護ってくれるとはいえ、ビル下まで落下してしまえば致命的な時間のロスは避け得まい。
    「確かに狙いは完璧ね……でもあたしは、そんなものじゃ挫けない!」
     庵の運命も定まりきらぬ中、既に灼滅者たちは次の動きを始めていた。
    「無駄口は結構!」
     瑞穂が素早く腕を振ると、サイキックの網が少女を捉える……が、少女が杖で振り払うだけで、網は輝くサイキックエナジーへと還元されたかに見えた。だがよく見れば、網を構成していた繊維のうちの一本が、確実に彼女の体に食い込んでいる。これだけあれば、十分だ。
     少女が網に気を取られた一瞬を逃さず、流希の刀が閃いた。対応せんと姿勢を変える少女は、体を網の繊維に引き絞られて苦痛とも恍惚とも取れる表情を浮かべる。だが流希の目には、その表情は映らない。ただ目の前の敵に自らの存在を誇示し、その力を振るうのみ。
     激しい暴力に傷を負った少女に、さらに燃える弾丸が、凝縮した闇が、嵐となって襲い掛かる!

     一方その頃達人は、屋上を這うパイプをジャンプ台として、空我を空中に踊らせていた。再び鳴り響くスキールが止んだ頃には、彼は庵を片手に抱えたままで、幅数センチのビルの縁の上に降り立っている。
     事もなげな表情を保ったまま、達人は庵をゲイルに預けると、愛機を駆って少女に向かう。妖槍を真っ直ぐに構えると、少女に空我の速度を乗せた氷の楔を突き立てる!
     だが、灼滅者たちの猛攻にも、少女には焦りの色は見えなかった。
    「数しか取り柄のない卑怯者の割に、なかなかやるわね……でも安心して? 正しい心さえあれば、数の暴力に頼る必要なんてない!」
    「改心なんて、しないですよ」
     周囲を飛び跳ねながら挑発する少女が近付いた瞬間に合わせて、響は俊速の拳を放つ。撃ち出されるように、少女は離れた室外機の上に着地する。
    「第一『改心』なんて言葉は、魔法使いじゃなくて僧侶になってから言いましょうね、無法者さん?」
     挑発しながら迫る響を翻弄するように飛び跳ねる少女を、ラルフの銃口が追う。
    「さて、一体いつまで逃げ続けるおつもりでショウか?」
     ラルフの目が細まったかと思うと、少女の後の空間を薙ぐばかりだった弾丸が、突然正確な狙いで少女を穿つ! だがその変化は同時に、少女の反撃の機会を許すことにも繋がる。
    「それじゃあ力づくでも、改心せざるを得ないようにしてあげる!」
     魔法の杖に、紅い光が収束し始める。少女は傷ついた庵を再び狙い、杖の先を向ける!
     しかしどのような手品だろうか、先ほど深い傷を負わせたはずの庵は今や、怪我など気にもしない様子でこちらに銃口を向けている。
    「ラルフさん、助かりました。お陰様で十分な時間をいただくことができました」
     その疑問に答えたのは、ゲイルだった。達人から庵を受け取った後、彼はすぐさま全ての癒しの力を彼女に注いでいたのだ。
     それでも、その効果が出るまでには多少なりとも時間がかかる……ラルフの仕掛けるタイミングは、そのタイムラグを完全に見計らっていた。
     血のように赤い光の奔流が、庵を飲み込む。
    「やった!?」
     だがその願いも空しく、光の中から現れた無数の輝く点が少女に降り注ぐ。
     光の奔流が止んだ時、庵は全身を焦がされながらも、涼しい顔でガトリングを構えていた。
    「計算、通りです」

    ●邪なる魔法
     少女は小さく、めんどくさい奴ら、と独りごちた。一人を傷つけただけでは癒されて終わるし、かといって複数人を巻き込んでもみたが、さっきまで攻撃していた奴が回復に回るだけ。
    「そろそろ、わたし達が本当に闇堕ちしてしまったら、御しきれなくなりますよ?」
     庵の宿す鬼の力は、少しずつ少女の体力を削っていく。が。
    「本当に……そう思ってる?」
     少女の顔が唐突に、醜く歪む。オアソビハ、ココマデダ。
    「いけません!」
     ゲイルは気付く。いかな腕利きの使い手の治癒術があっても、人の体にはどうしても容易に癒しきれない傷が残る。こうして度重なる攻撃を受ければ……?
    「なっ……!」
     庵は足から力が抜けるのを感じ、耐え切れず膝をつく。少女の暗黒の魔法は既に、庵の腿に大きな裂傷を残していた。たがが外れたように、けたたましく上がる笑い声。
    「まだいけるっす! 諦めちゃだめっす!」
     アプリコーゼの絶叫に近い激励が、辛うじて庵の意識を繋ぎとめていた。今の彼女を支えられるのは、防護符でも集気法でもなく……ただ彼女の精神力のみ。
    「可哀想! 早く誰かが『改心』してれば、こんな苦しい目には遭わずに済んだのに」
     愉快そうにせせら笑う少女に向けて、アプリコーゼは魔法を飛ばす。少女の顔の前に翳した左手の中で、魔力が爆ぜる。
    「他人の心配をしてる暇があるのか?」
     右手のロッドが、瑞穂のナイフを止める。だが少女を襲ったのは、実体化した彼の影! 這い寄る原初の闇は、そのようなものとは無縁のはずの六六六人衆にすら恐怖を覚えさせる。今だ、この隙に!
     ……だが、次々に放たれる攻撃を、幾つかは躱し、幾つかを受けながらも、少女はバトンのようにくるくると杖を回すと、舞うようにその先を庵に向ける。
    「さようなら……。でも悪いのは、分からず屋のあなた達の方なのよ?」
     ばきゅーん、というふざけた擬音と共に、赤い光が庵を掠める。それだけでも、すでに極限状態にあった彼女の意識の、最後の一欠片を奪うには十分であった。

    「ここまでされても『改心』しないなんて、ほんと、悪い子ね!」
     けたけたと笑う少女を、細い糸が襲う。
    「まだ、勝った気になられても、困るんですけどネ」
     ラルフの操る鋼糸は、跳ね回る少女を正確に追い、彼女の受けた傷口を広げてゆく。彼女に纏わり続けるサイキックの糸を補強し、毒や炎や氷を体内に押し込み、脚の自由を奪い、彼女に芽生えたばかりの恐怖心を煽ってゆく。それでも少女は、灼滅者たちを嘲いながらその周囲を回り続ける。
    (「もしも彼女と別の形で出会えたなら、友達になれたかもしれない……と、最初は思ってた」)
     けれど彼女は、最早人として最低限のものすら持ち合わせていない。響は知る。やはりこいつは、冒涜的な存在でしかないのだ。それは人間への、そして闇に抗い続ける仲間たちへの冒涜。
    (「師匠……」)
     そして、抉るような一撃! 渾身の力が魔法少女の体を捉え、少女は室外機にめり込むようにして止まる。
    「お遊びはここまで……さっき? そう言ってたな」
     流希の目つきが冷酷になり、刀が、彼のサイキックエナジーを受けて輝く。
    「遊びが終わりっていうのは……こっちのセリフだ、お嬢ちゃん」
     室外機にめり込んだままの少女に向けて、神速の刺突! 良い一撃……だが少女は、すんでのところで人型の窪みから抜け出す! 刀は肩口を切り裂いたものの……致命傷にはほど遠い!
    「それじゃあ最後の質問です♪ 本当に……『改心』しなくてもいいのね?」
     弄んでいたロッドを握り直すと、少女は自らの傷もおかまいなく、素早いアクションで庵の脇に立つ。
     その意図に気付き、ぐったり横たわる庵を抱きかかえたゲイルに小馬鹿にしたような表情を向けた後、少女は高らかに魔法の杖を振り上げる。最早、彼女を守るには……。

    ●闇を喰らう闇
     ゲイルが闇に身を委ねる決意をしたちょうどその時、杖を振り下ろさんとする少女の体が無防備に宙に舞った。
     はっとして顔を上げる彼の目に、猛然果敢と走りこんできた一輪バイクのボディが飛び込む。
     鈍く光る機体の上で、儚げに笑う達人の姿。その穏やかな笑顔は見る見るうちに角と牙の生えた憤怒の表情に変わり、飢えた肉食獣のように少女を睨みつける。
     生えてきた角に突き上げられ、借り物の帽子がはらりと落ちる。
    「これ、後輩に渡しておいてくれるかな……」
     一瞬だけ穏やかな顔に戻り、自ら拾い上げた帽子をゲイルに手渡した直後。達人……いや、達人だったモノは、獣めいた咆哮を上げながら、驚愕する少女に向けて猛突進を再開する!
    「よかった……やっとわかってくれたのね!」
     感動の面持ちの少女を、空我は無慈悲に轢き倒す。すぐさま跳ね起きたばかりの彼女を、鬼は今度は恐るべき膂力で殴り飛ばす!
    「どうやら上手くいったようだけど……こんなの、相手にしてられないわ!」
     残る灼滅者たちを牽制しながらビルから飛び降りた六六六人衆を追って、羅刹もまたその身を虚空に躍らせる。
     羅刹が再び吼え、六六六人衆の捨て台詞が聞こえる。
     すぐさま心霊手術の準備に取り掛かるゲイルを横目に灼滅者たちがビルの縁に駆け寄った時には、眼下には何事もなかったかのように行き交う通行人のほかは、誰も見えなかった。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:志那都・達人(風祈騎士・d10457) 
    種類:
    公開:2013年4月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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