タコ焼き怪人現る。ただしキスマーク付きで

    作者:雪神あゆた

     早朝。大阪はとあるホテル街の道をふっくらした体つきの男と、小柄な女が腕を組んで歩いていた。
     男は中年で、スポーツ刈り。女は、10代後半でロングヘア。
    「……それでや、今は小麦粉をあっちこっちから集めてんねん! 世界一でっかいタコ焼きを作るためになっ!」
    「うわあっ。タコちゃん。すごいわー。うちにはそんなこと、よう思いつかんわーっ。」
     中年が胸を張って言うと、女ははしゃいだ声をあげる。
     やがて、女は男から腕を離した。そして寂しげな声で尋ねる。
    「ほな、うち帰らなあかんから。……タコちゃん、また会うて、くれる?」
    「おう! いつでもええでっ! その時はごっついタコ焼きたべさせたるからなっ!」
     どんっと胸を叩く男。彼の耳元へ、女は唇を寄せた。
    「……うち、タコ焼きもええけど……タコちゃんのほうが、食べたいわぁ」
    「おおう?!」
     耳たぶにちゅっと口づけ。
     顔をゆでたこのように赤らめる中年男性。呆然とする彼を「ほなねー」と声をかけ、女淫魔は走り去って行った。
     
     シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)と五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が教室で、灼滅者たちに説明していた。
     まず、シャルリーナがおずおずと口を開く。
    「噂を聞いたんですよぉ。最近、大阪のある町で、小麦粉がすぐに売り切れるって……それでひょっとしたらと思って……」
     姫子は彼女の言葉を引き取った。
    「そこで私が確認したところ、『大阪タコ焼き怪人』の仕業だったのです」
     姫子は顔をしかめた。
    「しかも……このタコ焼き怪人に淫魔が接触していることが分かりました」
     淫魔はタコ焼き怪人の元に赴き、友好関係を深めようとしているようだ。
    「何をたくらんでいるかは分かりませんが、ダークネスの陰謀をそのままにしてはおけません。
     皆さんには、淫魔に接触された、このタコ焼き怪人を退治して欲しいのです」
     タコ焼き怪人は、ふっくらした体格の中年男性。世界一大きなたこやきを作るため、大阪の小麦粉を買占めようとしている。
    「現場は、ホテル街。皆さんが、到着するころには、タコ焼き怪人と淫魔は別れる直前です。
     タコ焼き怪人は、淫魔を見送った後も、しばらく呆然としています。
     皆さんは、淫魔が遠くに行ってから、戦闘を仕掛けて下さい」
     幸い、ホテル街には人通りはなく、戦闘前や戦闘中に敵以外の人が、近づいてくることはない。
     戦闘になれば、タコ焼き怪人は、眷属である強化された一般人をどこからか呼び寄せる。
     戦闘が始まってから1ターン後には、強化一般人三人が集まってくる。
     強化された一般人は手加減攻撃相当の攻撃と、タコ焼きを食べさせる事での他者回復を行ってくる。
     タコ焼き怪人自身は、次のような技を使ってくる。
     口からスミを吐くご当地ビーム。
     タコ焼き機から、炎の球を打ちだすことで、ガトリングガンのガトリング連射に相当する射撃。
     タコの足を召喚し、影業の影縛りのように相手を締めつける技。
    「これらの技を使いこなすタコ焼き怪人は、それなりの強敵。
     もし、淫魔とタコ焼き怪人を一緒に相手取ることになれば、勝ち目は薄いと言わざるを得ません。
     くれぐれも、淫魔が立ち去ってから、戦闘を仕掛けて下さい」
     そして、姫子は少し顔を赤らめた。
    「それにしても、異性を誘惑なんて……淫魔のやりかたはよくないですね。
     そんな淫魔の野望を叶えさせるわけにはいきませんね。どうかよろしくお願いします!」


    参加者
    光・歌穂(歌は世界を救う・d00074)
    佐伯・真一(女装罰ゲーム執行中・d02068)
    朝霞・薫(ダイナマイト仔猫・d02263)
    長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)
    塩風・佐吉(なにわのヒーロー・d07544)
    緋乃・愛希姫(緋の齋鬼・d09037)
    桑折・秋空(ここからここまで・d14810)
    飛鳥来・葉月(中学生サウンドソルジャー・d15108)

    ■リプレイ

    ●タコ焼き怪人と去りゆく美女
     顔を出したばかりの陽の光が、ラブホテルの看板に反射していた。
     灼滅者八人は、建物と建物の間に身を隠し、通りをうかがっている。
     彼らが見る道の真ん中では、
    「ほなねー、たこちゃん!」
    「お、おお……きぃ、つけてな」
     ロングヘアの女が、坊主頭の中年に見送られながら去っていくところだった。
     太った中年は頬を真っ赤にさせている。頬を片手で押え、ぼうっとした表情だ。
     女は淫魔。そして中年男性はタコ焼き怪人。
     光・歌穂(歌は世界を救う・d00074)は隠れながら、悔しそうに両手を握りしめていた。
    「淫魔を見逃さねばならぬとはっ……!」
     桑折・秋空(ここからここまで・d14810)がぼさぼさ髪を押さえながら、やんわり歌穂を宥める。
    「やっつけたいのは山々だけど、いつか戦える時もくるでしょ」
     秋空の言葉に、歌穂はしぶしぶ頷く。
     一方。淫魔の姿が見えなくなっても、タコ焼き怪人は同じ場所で突っ立っていた。
     朝霞・薫(ダイナマイト仔猫・d02263)と緋乃・愛希姫(緋の齋鬼・d09037)、飛鳥来・葉月(中学生サウンドソルジャー・d15108)の三人は、タコ焼き怪人へ近づいていく。
    「やっぱ、大阪はタコ焼きって感じー?」
     薫がはしゃいだ声をあげる。愛希姫と葉月も同意した。
    「外はカリッ、中はとろーり、たまりませんよね。超巨大タコ焼きがあるなら、食べてみたいです」
    「タコを入れたのも美味しいけど、スイーツとか入れても美味しいよねー」
     タコ焼き怪人の耳は先まで朝焼け色に染まっていたが、その耳がぴくぴく動く。
    「ん? タコ焼き?」
     顔を少女達に向けた。薫は怪人に手を振る。
    「スイマセーン、東京から来たんですが、迷子になっちゃたんですぅ!」
     困った女の子の声を作り話しかけた。
     他の五名は今も建物の陰から、怪人と三人の仲間を見ていた。
     長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)は女性達がタコ焼き怪人の注意をひきつけているのを確認し、ニット帽の端に指で触れ、そして仲間へ言う。
    「作戦は成功しているようだね。なら……」
     佐伯・真一(女装罰ゲーム執行中・d02068)と塩風・佐吉(なにわのヒーロー・d07544)が頷く。
    「この隙に一気に行こうか!」
    「気ぃひきしめていくで、ジョセフィーヌ!」
     真一はアイドルオーラを纏いながら、足音を忍ばせて歩きだす。佐吉も霊犬ジョセフィーヌに合図すると息を止めて移動を開始する。残りの者も彼らに続いた。

    ●不意打ちとタコスミビーム
     佐吉はタコ焼き怪人の背後に回りこんだ。ヘラ型の斧を振り上げる。ジョセフィーヌも佐吉に呼応して動いていた。
    「これがわいの全力や、覚悟しぃや!」
     ジョセフィーヌが飛ばした六文銭が怪人を打ち、佐吉の斧が怪人の背中を斬る。
     振りかえり眼を見開く怪人に、佐吉は雄々しく宣言。
    「あんたの起こす事件は、ご当地ヒーローとして見過ごされへん。大阪の平和は、わいが護るんや!」
     さらに、真一と麗羽がタコ焼き怪人の左右に立った。
    「はははは、タコ焼き怪人、倒させてもらうよ。……僕は明石焼き派でね! あの玉子のふわふわ感に上品なお出汁がたまらないよ」
    「タコ焼きと明石焼きって、あんまり変わらないし……選ぶなら、オレも明石焼きかな?」
     きざっぽく挑発しながら、真一はディーヴァズメロディを口ずさむ。麗羽はシールドで怪人の耳辺りを殴りとばした。
    「ぐいいい?」
     佐吉の斧、真一の声、麗羽の殴打、三つの攻撃に悲鳴をあげる怪人。
     歌穂は間髪いれず跳びかかった。
    「淫魔ゆるすまじ!」
     怪人は歌穂の言葉にきょとんとした顔。だって淫魔じゃないから。
     だが、歌穂は容赦しない。炎を宿した斧を振り落とす!
    「淫魔灼滅!」
     淫魔ではなくタコ焼き怪人の体が炎上!

     不意打ちは成功した。
     が、秋空の顔に慢心はない。注意深く周囲を観察している。
    「来たよ……相手は予測通り三人。油断はしないでね」
     秋空の警告通り、向こうから、茶髪の青年たち――強化された一般人が姿を現した。
    「タコ焼き怪人さん、お助けするっす」
    「おおー。なんや分からんけど、突然攻撃されてなー。せやけど、お前らがきてくれたら、もう大丈夫や!」
     タコ焼き怪人は仲間の到着で、余裕を取り戻したようだ。
    「タコスミビーム!」
     口からスミのように黒いビームを吐く。怪人に合わせ、青年たちも殴りかかってくる。
     標的となったのは、薫だ。薫は拳とビームをまともに受けてしまった。
     追い打ちをかけてこようとするタコ焼き怪人。が、
    「させませんっ!」
     愛希姫は低い姿勢で疾走する。銀糸の髪を空気になびかせながら。
    「あなたの思い通りにはさせません……だって私、本当はタコ焼きより、お好み焼き派なんですからっ!」
     言葉で相手の意識を自分に向けようとしながら、愛希姫は鎌の刃に炎をまとわせる。怪人の前で体を回転させ、敵の胴を斬る!
     愛希姫のおかげで難を逃れた薫。が、まだ体は痛む。
     秋空は彼女の怪我から一瞬だけ視線をそらした。が、すぐに冷静な声をかける。
    「焦らないで。大丈夫だから」
     秋空は小さな光の輪を操り、薫の元に集わせた。光の力で痛みを消していく。
     薫は秋空に頭をさげると、今度は着流しの裾をまくり怪人へ吠えた。
    「タコスミビーム? スミじゃなくてソースだろソコっ! ソースはどうした、ソースはッ! 大体鰹節も乗ってないのにタコ焼き面すんなゴルァァ!」
     怒りを露わに叫びながら、薫は槍を振り回す。強化一般人を槍で突いて殴って、暴れまわる。
    「つ、強い……そ、そうだ、回復をしなくちゃ」
     青年の一人が、別の青年を回復させようと、タコ焼きを出していた。
    「ごめんなさい、回復させるわけにいかないの」
     葉月の言葉。葉月は息を深く吸い込むと、歌いだす。聞く者を惑わす魔性の声色で。
     葉月の歌声に魅入られ、青年は回復をやめ逆に仲間に向かってとび蹴りを始めてしまう。

    ●タコ焼き怪人最期の時
     戦いは続いている。最初に不意打ちが成功したこともあり、戦況は灼滅者に有利だ。
    「一般の人は、動かないでいてもらいます」
     葉月は長い腕をしなやかに動かす。指先につけた赤い鋼糸を操り、青年を縛り上げた。葉月はさらに動く。もう片方の手で、近くにいた別の青年を攻撃したのだ。
    「あなたも休んでいてくださいね?」
     葉月の手刀は青年の首の後ろに直撃。青年は崩れ落ちた。

     敵一人を倒した事で、灼滅者たちはますます勢いに乗る。
     数分後、灼滅者たちは強化された一般人全員の意識を奪うことに成功していた。
     秋空は一人残ったタコ焼き怪人の前で、首を傾げた。
    「ところで、超巨大タコ焼きって、中まで火が通らなさそうだけど、どうするの?」
     そして秋空は棒読み口調で続ける。
    「タコ焼き怪人だから、僕の思いもよらぬ画期的な料理法があるんだろうね」
    「え? あ、あるで……むっちゃあるでっ!」
     取り繕うように言うタコ焼き怪人。本当は考えてすらなかったのかもしれないが。
     どんな方法があっても、と愛希姫は溜息まじりに指摘する。
    「巨大タコ焼きのために小麦粉を買い占めるのは、迷惑です。地味に」
     怪人は言葉を詰まらせた。しかし戦意はなえていない。
    「ええいっ、うるさい口ごと焼いたるわっ。火の玉でなっ!」
     携帯用タコ焼き機を掲げた。タコ焼き機の穴からタコ焼きサイズのタコ焼きが幾つも出現し、秋空めがけ飛ぶ。
     秋空はバックステップで火の玉を避ける事に成功。即座に反撃のオーラキャノンを撃つ。
     愛希姫はアメジストの目で敵を見据えながら、精神を集中。ギルティクロスを召喚。
     秋空のオーラが怪人を吹き飛ばし、倒れた怪人の体を愛希姫の逆十字が斬る。
    「吹き飛ばされても斬られても、ワイは負けんでーっ」
     タコ焼き怪人はなお威勢よく立ちあがる。
     歌穂は怪人よりも威勢よく快活な声を周りに響かせた。
    「なら、タコのように焼いてあげる! レーヴァンテインでね!」
     歌穂は鎌に宿した炎で、怪人の体を炎上させた。

     八対一になり次々に攻撃を当てられても、怪人は溢れる体力と攻撃力で、灼滅者に対抗。
     佐吉はそんな怪人をじっくりと見続け、隙ができるタイミングを発見。
    「さあ、ケリつける時間やで!」
     佐吉はこてこての大阪人としての、地元愛を燃やす。愛を光に変えて撃ち放つ。
     光は怪人の胸に直撃! 怪人の体力を大幅に奪った。
    「負けるかあああ」
     倒れそうになりながらも、怪人は踏みとどまる。
    「見てみぃ、タコの足の活きの良さ!」
     巨大なタコの足を召喚。足は真一の体に巻きつき、締めつける。
     真一は眼鏡の奥の目を瞑る。そうやって締めつけられる痛みをこらえているのだ。
     薫はそれを見て、親指をぎゅっと立てた。
    「怪人グッジョブ! ……じゃなくて……やめなさいっ!」
     槍に炎を宿し、怪人の足を貫いた!
     佐吉のジョセフィーヌは真一に駆け寄り、浄霊眼を施した。
     真一は気力を取り戻す。腕を振ってタコの足を追い払うと、手に持つ愛用のギターで怪人の脳天を痛打。
    「ぐへええ」ふらつくタコ焼き怪人。真一は後ろを振り返る。
    「トドメは任せたよ!」
     麗羽は小さく頷いた後、怪人へ告げる。
    「タコ焼きが好きなのは分かるけれど……淫魔に籠絡される前に、片付けさせてもらうよ」
     麗羽の手のバトルオーラが輝いた。麗羽は腕を持ち上げ構え、
    「……終わりだ」
     閃光百烈拳っ! 麗羽の拳がタコ焼き怪人の腹を連打する。
    「タコ焼きとあの娘のために……わし……」
     タコ焼き怪人の太った体がゆっくり倒れ、消滅した。

    ●レッツ、タコ焼き屋巡り!
    「倒せたようだね……」
     真一はタコ焼き怪人が消えた方を見つつ、肩の力を抜く。
     灼滅者たちは意識を失った一般人達を安全な場所へと移し、簡単に事後処理も終わらせた。
    「結局どうやって超巨大タコ焼きを作るのか分からなかったけど……まあ、その辺は割り切らなくちゃ、駄目だよね」
     秋空はそう言って肩をすくめた。
    「タコ焼き怪人さんとは、タコ焼きについて少しお話ししてみたかったかもです。タコなしタコ焼きやスイーツ入りタコ焼きを、どう思うのかとか」
    「そういえば、明石焼きとタコ焼きは別物なんですよね……明石焼きは玉子主体ですから。生地をパンケーキの粉で作ったらベビーカステラになりますし……奥が深いですね」
     葉月が遠い目をしてタコ焼き怪人への心残りについて語ると、愛希姫もタコ焼きについて思うところを述べる。
    「……タコ焼きってアオノリがつきやすいから、苦手なんだよね」
     呟いたのは、麗羽。
     佐吉は麗羽の言葉を聞き、にっと笑う。
    「大丈夫や。最近は、『青海苔かけても大丈夫ですか?』って聞く店も増えたし。……というわけで、皆、タコ焼き食べにいけへん? とっておきの店があんねん!」
     皆を誘う佐吉。
    「賛成! 弔い代わりに、美味しいタコ焼きを食べたいなって思ってたんだ!」
     歌穂は元気よく手をあげ賛意を示す。
     薫が、決まりね、と皆の顔を見た。
    「どうせなら、一軒だけじゃなくてあっちこっち回らない? 『ぶらり再発見』で店を探してもイイし……じゃあ、行きましょう!」
     そして灼滅者は歩きだす。美味しいタコ焼き屋を求め、明るく談笑しながら。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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