いちばん広い空のほとりで

    作者:中川沙智

    ●広い広い空の下
     春もうららかな武蔵坂学園では和やかな空気が漂っている。クラブに顔を出している生徒も、勉学に励む生徒も大勢いるだろう。それは数多のキャンパスの校舎でも見かける、ごく当たり前の日常だ。
     渡り廊下で小鳥居・鞠花(中学生エクスブレイン・dn0083)が鼻歌交じりに歩を進める姿を偶然見かけて、鴻崎・翔(中学生殺人鬼・dn0006)は目を瞬く。
    「小鳥居、どうしたんだ? 何かいいことでもあったんだろうか」
     振り向きざまにその姿を捉え、鞠花は屈託なく笑みを零した。
    「あたしね、春って好きなのよ。寒い冬を過ぎてあたたかくなって、緑が芽吹いて桜が咲いて……あー日本人でよかったなってしみじみ思うの。勿論世界中どの国も季節は巡るんでしょうけど、それでもね」
     緩やかに瞳を細める鞠花に、常のはきはきとした気迫は見られなかった。その分顔に余すところなく浮かぶ、笑顔。つられて翔も眦を下げる。
    「あ、そうだ」
     何かを思い出したらしい。鞠花は手をぽんと叩く。
    「今から屋上に行くんだけど、鴻崎も来る?」
    「屋上?」
    「そう。今度の休みにね、屋上でお弁当パーティーやろうと思うのよ。その下見」
     状況が呑み込めずに翔は首を傾げる。そのわかりやすさに鞠花は思わず噴き出した。
    「ああ、ごめんごめん。遠足気分でお弁当とかお茶とかジュース持ち寄って、皆でパーッとやれたらいいなって。一応屋上使用の許可はもらったわ」
     本当は井の頭公園にでもと思ったけれど、それではいつも灼滅者達の傍らにいてくれるサーヴァント達が参加出来ない。それもあって屋上でと思い立ったのだと、鞠花は言う。
     屋上からは近辺の風景が一望出来る。青空の下で、春の花々も、人々の暮らしも眺めることが出来る。
     今まで守ってきたもの、失ったもの、守っていきたいものをきちんと見つめよう。
     出来ることは少なくても、一歩前へと進むことが出来るように。
     翔も胸中に巡る感情を噛み締めて、頷いた。
    「そうだな。いい考えだと思うよ」
    「でしょ。皆のお弁当も楽しみだし、あたしもお弁当作っていくわ。おにぎりもおかずも出来るだけたくさんね。どーせなら皆で楽しく過ごしましょ」
     ふと言葉を失った翔を見て、鞠花ははたと気づく。
    「そういえば鴻崎って寮生だっけ。何ならあんたの分もおにぎり作るわよ。具は何がいい?」
    「……いいのか?」
    「いいわよ、どうせ量に大差ないし構やしないわ」
     ひらひらと手を振る鞠花。軽い口振りからするに、家庭料理レベルならそれなりに作れるという自負があるのだろう。
     口元に手をやり、翔は真面目に考え込んでいるようだ。その面持ちがあまりに真剣で、鞠花はつい頬を掻く。
    「で、決めた? おにぎりの具」
    「……あ、ああ。いいかな」
    「うん」
    「野沢菜」
    「…………あんたちゃんとタンパク質とってる?」
     期待に満ちた翔の眼差しに、鞠花は思わず突っ込みを入れずにはいられなかった。

     いちばん広い空のほとりで、掛け替えのない時間を過ごそう。
     季節は巡り、止まりたくても、駆け抜けたくても、お構いなしでやってくる。
     それはあたたかくも厳しくもあるが、きっと愛おしいものになるのだろう。
     空は青く、広い。


    ■リプレイ

    ●玉子焼きとちらし手鞠寿司
     青空の下、春の陽光がやわらかく注がれる。
     休日の武蔵坂学園の屋上では、いたるところで賑やかな談笑が広がっている。
     重箱の蓋を開けるとそこは春爛漫の花畑。瞬一郎がビハインドのとし子さんのため夜明け前から作ったものだ。
     彼女が覗き込み雰囲気を和らげれば甘い時間の始まりだ。あーんと砂糖入りの玉子焼きを口元に運んでもらえば弁当最高、と胸中で叫ばずにはいられない。
    「でもこの玉子焼きよりずーっと俺たちの方が甘々ラブラブだもんな」
     キスで甘い味わいを、お裾分け。
    「おめでとうって言わせてくれ。気持ちだけでも」
    「纏めてになっちゃって悪いけど、春翔にノラは誕生日おめでと。新しい一年が素敵な年になりますように」
     亨と叡が誕生日を迎える二人に祝辞を向ければ、自然と笑みが広がる。
     部長の律花がクラブの親睦会兼部員の誕生日祝いとして、腕によりをかけた豪華三段重箱弁当を披露する。見た目にも華やかで、食欲をそそる品々だ。
    「春翔にはちらし手毬寿司を評価してもらいたいし、ノラは……肉好きそうだから、から揚げとかどう?」
     今月誕生日の二人に差し出せば、春翔は目を瞬き良太は瞳を輝かせた。
    「まさか覚えてくれていたとは。皆はありがとう」
     緑茶を配りながら舌鼓。とても美味しいと伝えれば律花の表情も綻んだ。ちゃっかりマイ箸を持参した良太は迷わずから揚げを食べまくる。
    「うめー! すげーうめー!」
     その満面の笑みが何よりの賛辞だろう。春翔がノラも誕生日おめでとうと緑茶のコップを差し出せば、特別に肉を分けてやろうと目の前にから揚げが突き出される。
     その様子を微笑ましく見守っていた望夜が、そっと別の弁当箱を差し出した。
    「わたくしのお弁当、朔夜ちゃんの手作りなんですよ?」
    「間違っても、望夜姉さんに料理をさせるわけにはいかない……」
     低く呟いた弟に気づいているのかいないのか、望夜はことり首を傾げる。とはいえ楽しみだったのは朔夜も同じ、律花に負けじと彩り豊かな弁当が顔を覗かせる。
    「すごいな二人の弁当。量もだが季節感まであって」
     亨は律花のちらし手毬寿司と、朔夜の菜の花の胡麻和えや若竹煮に感嘆の息を漏らす。今回はお弁当作りをお休みと決めていた亨も叡も、目を細めずにはいられない。
    「玉子焼きって各家庭の味が出るよな……あ、葛之院は甘く作るんだな」
    「姉さんの好みに合わせてるんです。苦手な方は気をつけてください」
     逆に甘くないのを作るから新鮮だと、亨は箸を進める。
     興味を示した律花が覗き込み、朔夜が作ったことを確認してついほっとした表情になる。察した叡が少し遠い目をしていた。お勧めは全部と豪語する望夜が特に気に入っているのはかにウィンナーとうさぎ林檎らしい。
     同じおかずでも家によって味付けは異なるもの。他の人が作った物が美味しいと感じるのは、きっと春翔だけではない。
     こころもおなかも満たされるのは、春の日差しよりもあたたかい何かがここにあるから。
    「ごちそうさまでした!」
     良太が手を合わせればからっぽの重箱が声を反響させる。今度の機会には俺は作る番で、と亨が予約すれば皆も否はない。
     霊犬の菊之助もお肉をもらって満足げ。伏せる北海道犬の背を撫でる叡の唇に、笑みひとつ。
    「……空が近いな。……ああ、清々しい風だ」
     最近ようやく作り方を覚えたおにぎり――具が明らかにほうれん草やあんこな気がするのは気のせいだろう――と、デザートの苺を口に入れながら、切はずっと空を見ている。
     春の風がそよぐ。いつの間にか、切は食べることも忘れて空に見入っていた。
    「春……いい、におい。気持ち、いい……」

    ●にんじんグラッセとサンドイッチ
     宗佑と日和、そして相棒の霊犬達、豆助と知和々。示し合わせて分担したお弁当を確認すれば歓声が上がる。霊犬ズも嬉しげに尻尾をふりふり。
     日和はごはん担当。豆助と知和々を模したまめちわおにぎりの再現率に、宗佑の伸ばす手が震える。食べるのが勿体ない。
     宗佑はおかず担当。彩り鮮やかで可愛いおかず達とデザートの心遣いに日和はばっちりロックオン。
     白毛玉と黒豆柴がじゃれあう姿を眺める互いの瞳は優しい。
     胸に芽吹くしあわせと、そのしあわせを守りたいという気持ち。
     星型にんじんグラッセを口に放り願えばまるで流れ星だから。
    「高校最後の一年。クラスでもおうちでも、どうぞよろしくね」
    「こちらこそよろしくお願いします、クラスメイト兼お隣さん!」
     井の頭キャンパス中学二年H組有志一同による親睦会。
     祢々が持参したレジャーシートに座り、一際賑やかな声が上がる。
    「翔もおいでよー、クラスメイトけっこー揃ってるんだよ」
    「よぉ、折角クラスの奴も集まったんだから一緒にどうだー?」
    「……いいのか?」
     ミケや瑠音を始め皆に声をかけてもらった鴻崎・翔(中学生殺人鬼・dn0006)は、遠慮がちに隅っこに座る。
     クラス替えがなかったから全員一緒に中学二年生。居心地がいいクラスとクラスメイトに恵まれたから、もっと皆と仲良くなりたい。そう思うのは決して祢々だけではない。
    「俺のとっておきのほうじ茶を馳走しよう」
     尚竹が茶を注げば香ばしい匂いが屋上に広がる。お弁当パーティーの始まりだ。
    「結構サンドイッチの人が多いかな?」
     好きなのあったら食べていいよと勧める祢々のサンドイッチの具は玉子、ハムときゅうりに照り焼きチキン。料理教室に通っているというだけあって見るだけで美味しそうだ。
    「やるわね! 具があまり被らなくてよかったわ!」
     コーヒー牛乳を傍らに、満面の笑みでメリーベルが示したのはベーコンレタスと玉子とツナのサンドイッチ。ちらりと覗いたミケがランチボックスを開けると甘い香りが漂う。 
    「私甘いの好きだから甘いので統一してみた!」
    「ほんと、だ……甘そうだ、ね?」
     ゆずるが目を瞬くのも無理はない。何せ具が苺ジャムに林檎ジャム、チョコレートクリームだ。いつもはメイドに作ってもらうんだけど今日は手作りだよ、という台詞にミケの生活環境が垣間見えたが、ひとまず横に置いておく。
    「それにしても皆の弁当、個性が出るものだな。興味深い」
     感慨深げに尚竹が頷く。瑠音はコンビニの高菜おにぎりにペットボトルのお茶だ。ゆずるは兄特製の彩り豊かなおかずがパンダさんのお弁当箱にたくさん。
    「んん、ショウのお弁当は、おにぎりだけ?」
     野沢菜って野菜? と更に首を傾げる。帰国子女のゆずるには珍しいのかもしれない。漬物の一種で、と説明している間に尚竹が秘伝の玉子焼きを分けてくれた。鴻崎は照れながらも礼を述べる。
    「後は持参してきたおやつ、こいつらがありゃ満足よ」
     バッグからチョコ菓子等を取り出しながらむしろこっちがメインだと嘯く瑠音に、瞳を輝かせたのはメリーベルだ。
    「ここはプリンの出番ね!」
     並べられたのは大量のプリン達。皆にもお裾分けするわと言いながらもそれでも尚多い。残りはもちろん私が食べるのよ♪ と豪語する姿はいっそ清々しい。
     ここからがまさに本番、おやつ交換大会だ。
     祢々はカップアイス、尚竹は芋きん、ゆずるはフルーツゼリー。ショウにもあげると言われた鴻崎は、ありがとうと呟いてオレンジゼリーを受け取った。
    「カップケーキは自信作! 食べて、食べて!」
     それと交換で私におやつちょーだい! というミケの願いは皆も望むところ。屋上に甘味と笑い声が飛び交う。
    「皆、今年もよろしくね」
     全員の気持ちを代表するかのような祢々の言葉は、快諾と共に春空に溶けた。

    ●ハンバーグとラーメンおにぎり
    「いやはや、男の弁当とは、こう在りたい物ですねぇ……」
     春風に乗せて流希が囁き、コロッケを口に運ぶ。手作り弁当の内容は白飯に載せた塩鮭、煮物とサラダ。デザートにうさぎ林檎つきだ。
     しかし。
    「なぜ寮母さんは私に『あんた、ホントに男の子? 性別間違ってない?』などというのでしょうかねぇ……」
     宙に浮かぶ彼の問いに、返事はない。
    「青空の下で風に吹かれると気持ちいい」
     屋上でオリキアと、彼女のビハインドのリデルの髪が柔らかく靡く。まるで翡翠の風のように綺麗で、紫桜がそっとオリキアの髪に触れた。気づかれてはいない。
     今回のお弁当作り担当は紫桜。彼女が好きと言っていた唐揚げとハンバーグを中心に用意すれば笑顔と共に歓声が上がった。
    「しっかし唐揚げとハンバーグって子供みたいだな」
     紫桜が猫舌だから冷ましてからと、紅茶にふーふー息を吹きかけていたオリキアがむっとふくれ顔。それでも美味しいお弁当と和やかな時間に次第に表情も綻び、紫桜も微笑ましくて笑みが浮かぶ。
     リデルは二人の様子をそっと見守っている。
     ゆったりとした風が、三人を優しく撫でていく。
     結理が口ごもりながら差し出したのは、文字通り『手作りのお弁当』だ。
    「ジョー、あのこれ……約束の……」
     料理をほとんどしたことがなく、メニューもごく一般的。不安で心配で、雑誌を傍らに練習を重ねたのは、錠に喜んでほしかったから。
     そんな結理の気持ちが十二分に伝わってくるから、こみ上げる愛しさを抑えることなど出来はしない。いつも見ているはずの屋上の景色すら、段違いに色鮮やかだ。
    「愛してるぜ! イタダキマス!!」
     念願の愛妻弁当を広げ、咀嚼も惜しんで一気に頬張る。
    「やっべマジいけるぜ玉子焼き! つか全部!」
    「……! 本当?」
     自分が食べることも忘れて様子を見ていた結理はほっと胸をなでおろす。錠が勧めてくれた水筒の味噌汁も、一緒に飲めばなお美味しい。
     こうして並んで食べるだけで味も変わる。幸福で、不思議だ。
     錠から激励と共に渡されたみかんを、鴻崎はありがたく受け取った。
     弁当箱の蓋を開けたルークは思わずげっと声に出した。
    「またピーマンとか入ってる! いつも入れんなって言ってるのにぃ!」
     親戚のお姉さん作のお弁当は、好物のハンバーグ等もたくさん詰められている。だが、赤い野菜以外は食べるのも嫌と断言するルークにとっては、彩り豊かな野菜達はもはや敵だ。
     野菜嫌いを友達に知られるわけにはいかない。今日もまた、孤独な戦いは続く。
    「ラーメンおにぎり??」
     星司が疑問符を飛ばすのも無理はない。曰く、灯夜発案で藺生との共同制作らしい。新しい。確かに新しい。
     煮卵とチャーシューを入れた醤油ラーメン風おにぎりを見せる灯夜はどこか誇らしげ。私の一押しは博多ラーメン風おにぎり、と藺生が差し出したのはさっぱりとんこつ味とのこと。紅生姜の彩りも鮮やかだ。
     つい目移りしていた星司の目の前に灯夜が取り出したのは、また別のおにぎりだった。
    「せーじ先輩用のは麺入りおにぎりだよ」
    「え?」
    「ほら、せーじ先輩食べて? あーんしたげる♪」
     気がついた時には星司の口に強引に押し込められるラーメンおにぎり(麺入り)。麺がのびていないかそこはかとなく心配。
     それあーんの勢いじゃないと反論する間も与えらない。若干涙目。藺生は二人とも仲良しねと微笑みを掲げる。
     次の創作料理にも期待していて、と言う灯夜の声は朗らかだった。

    ●焼きそばパンと塩結び
     明が屋上で倒れている。一見するとサスペンスだが、隣に転がっているのは焼きそばパン。零れているのはホットミルクレモン、に仄かに味噌の香りが漂う何かだ。原因は恐らく後者だろう。
     佐藤・翔が小さな従者を虎鉄、と呼ぶと、礼儀正しくお座りする霊犬の姿があった。その背にはアルミ箔に包まれた大きな塩結び。
     中身は何も入っていないという断言する姿に、クラブ皆の視線が集まる。一番年下の藤姫はきれーな三角いいな! と瞳を輝かせていたが、年長組の三人はどことなく脱力した様子。
    「言ったろ、そんな凝ったものは作れないって」
    「佐藤はなんでそういう妙な潔さを……」
     解せぬと顔に書いた状態で水辰が呟くと、千歳が取り皿にアスパラのベーコン巻やブロッコリーのチーズグラタンを乗せて佐藤に差し出す。
    「ちゃんと食べてほしいな……ほら、炭水化物だけって偏りすぎだしねぇ」
    「塩結びは最後まで形が崩れにくいって点では優秀だと思うわ。……おかず無し、はまた別の話として」
     皆で食べあいましょ、と銘子が紐解いた風呂敷包みの中身は絢爛豪華。大学芋と、紫蘇巻きのささみ揚げとお漬物。桜の花を入れたおこわのおにぎりは春らしく、特に藤姫は食べるのを惜しんだほどの出来栄えだ。
     銘子に加え、千歳や水辰も大きめのお弁当箱や重箱におかずを多めに作ってきたこともあり、佐藤も遠慮なく箸を伸ばす。普段は特に困らないが、美味しい料理を仲間が作ってきてくれたのなら相伴に与るのもいいものだ。
     藤姫もそれは同じ。水辰の重箱ごと抱え込む勢いでおにぎりやミートボールを口に運んでいたら流石にたしなめられた。
     お茶もコンソメスープも揃っていて、喉に落とせばお腹も満腹、こころも不思議と満たされる。千歳が水辰とレシピ談義に花を咲かせる傍ら、銘子の霊犬の杣と虎鉄にもふもふする藤姫の姿もあった。
     天気がいい。皆も笑顔だ。たまにはこうして屋上に来るのもいいと実感する。佐藤は高く伸びをする。
    「いつもありがとう。これからも宜しくな」
     水辰は偶然近くを通りかかった小鳥居・鞠花(高校生エクスブレイン・dn0083)と、きんぴらとだし巻き玉子を交換する。ありがとうはこっちのほうよと鞠花は笑みを咲かせた。
     今回クラリーベルが挑戦したのは手作りサンドイッチ。具はベーコンレタストマトと、ツナマヨの二種類だ。デザートにチョコレートのカップケーキが控えている。
     従者に教えてもらったとはいえ、クラリーベルは料理なんてしたことのない正真正銘のお嬢様。間違っても不味いものは食べさせられないと味には自信があるものの、不恰好になってしまったことは否めない。
    「どうだ! みどもの手作りだぞ」
     それでも不安は表に出さず、堂々とサンドイッチを政道に差し出す。彼はクラリーベルの不安も愛情もきちんと理解した上で、満面の笑みで噛り付く。
     だって頑張ってくれたことも、ちゃんと自分の好きな具材で作ってくれたことも知っている。
    「ん、これ美味しいぜ! ありがとな、クララ」
     残さず最後の一切れまで平らげた政道に、クラリーベルはほっと安堵の息を吐く。
     春の陽気の中、外で食べるのはいいものだ。
     それが愛しい人と一緒なら、尚更。
    「屋上で皆でお弁当って、一度やってみたかったんだー!」
     碧月は小さなおにぎりを皆に配って歩いていた。流石にカップルには遠慮したけれど、皆で食べると楽しい。そして美味しいものがもっと美味しくなる。
     空を見上げ浮かぶのは満面の笑み。
     いい天気だし、ご飯は美味しいし、皆と一緒で楽しいし。
    「今日はとっても素敵な日だよね♪」

     いちばん広い空のほとりで、皆の笑顔が咲き誇る――春爛漫。

    作者:中川沙智 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月18日
    難度:簡単
    参加:35人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 11
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