いつわりのヒーロー!

    作者:南七実

     しっとりした砂を両手でかき集めてせっせと山を作っていた男の子の耳に、何やらカッコイイ音楽が聞こえてきた。顔を上げた彼の瞳に飛び込んできたのは、煌びやかな衣装に身を包み、風もないのにスカーフをひらひらさせた謎の人物。
    「わぁ、すごーい!」
     テレビで見た事があるヒーローと似たようなその人物へ、男の子は憧れの眼差しを向けた。
     謎の人物が立っているのは、ジャングルジムの上。逆光が眩しい。
     腰にビシッと両手を当てて、彼は高らかに宣言した。
    『私は街を守る正義の味方! さあ、キミも私の仲間となって共に正義を貫こうではないか!!!!』
     
    ●正義の味方、あらわる?
    「小さな子供ばかりを狙う変なヒトが出現するって噂が、街に広まっているみたい」
     心配そうな表情を浮かべて、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)がそう言った。
     噂の発生源は、幼稚園に通う子供をもつ若奥様のコミュニティ。
     奇抜な衣装に身を包み、ヒーロー番組の主題歌みたいなBGMと共に現れるその『変なヒト』は、格好いいポーズを披露し、感情に訴えかけるような深みのある声で仲間にならないかと子供を勧誘し、そのまま、いずこかへ連れ去ってしまうのだという。
     その噂なら私も聞いた事がありますね、と悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)が控えめに手を挙げた。
    「その変なヒトを具体的に表現しますと……なんでも『正義の味方』の姿をしているとか」
    「そうなの。で、近い未来に、その噂が都市伝説として具現化しちゃいそうなんだよ」
     狙われるのは、とある児童公園の砂場で遊んでいた小さい男の子。このまま放置しておけば、幼子は『正義の味方』によってどこか不気味な異空間へ連れ去られてしまうだろう。
     勿論、子供は行方不明となり、二度と親元へ帰れなくなってしまう。
     そうなる前に現場へ急行し、都市伝説を退治する――それが、この教室に集った灼滅者に課せられる使命となるのだ。
     
     公園の砂場で遊んでいる子供はひとり。名前はヒロ君。
    「みんなは敵が出てくるよりも前に公園へ到着できるんだけど、都市伝説の出現条件は『公園で一人淋しく遊んでいる小さな子供のもとに現れる』だから……不本意だけど、ヒロ君には囮になってもらうしかないみたいだね」
     もしも現地へ赴くメンバーの中に、小さな子供に見える者がいれば囮役になる事も可能だろうが、それでもギリギリ小学一年生が限度だろう。勿論、小一でも大人っぽく見える者は対象外だ。あまりにも不自然な囮だと敵が引っかからない可能性があるので、注意しなければならない。
    「もしもみんなのうちの誰かが囮になる場合は、敵が出てくる前にヒロ君に接触して、説得するとかして現場から遠ざけてね。ヒロ君を囮にする場合は、都市伝説との戦いに巻き込まないよう、その場でしっかり守る必要があるよ」
    「……え? 彼を囮にする場合でも、やはり公園の外へ逃がしてやらなければまずいのではないですか?」
     もっともな質問に、まりんもこくりと頷く。
    「うん、そうなんだけどね。でも、目の前に正義の味方なんてものが現れちゃうんだから、ヒロ君、喜んじゃって素直に逃げてはくれないかもしれないんだ」
    「なるほど」
     どちらの囮パターンにしろ、都市伝説は付近に複数の人間がいると出現しないので、囮以外の者は砂場から少し離れた繁みなどに隠れて待機しなければならない。
    「都市伝説はジャングルジムの上に出現するから、そこを狙い撃ちにして戦いに持ち込むといいよ」
     子供の勧誘を邪魔された都市伝説は激怒し、光線銃のようなものから放たれる虹色のビームと切り札のロケット砲、サーベルによる斬撃、パンチ、キックなどの体術を駆使して攻めてくる。
    「悪をこらしめるという立場上、向こうはみんなの事を『邪悪な怪人部隊』呼ばわりしてくると思うよ」
     幸い、都市伝説が囮役を狙って攻撃してくる事はない。というか、むしろヒーローらしく守ろうとさえする。だが、戦いの最中に流れ弾に当たる可能性が皆無とも言えないし、ヒロが戦場にいる場合は充分に用心する必要があるだろう。
    「ヒロ君に目撃されちゃう事を前提にすると、ドラマの撮影か何かを装うほうが自然でいいかもね。その辺の設定をどうするかはみんなに任せるよ」
     なんなら都市伝説にヒーローっぽい名前をつけてあげると雰囲気が出るかもね、とまりんは言う。
    「みんなも、敵に呼び名がある方が決め台詞とかも考えやすいんじゃない? せっかくだから楽しい雰囲気にしちゃったほうが、ヒロ君も喜ぶかも」
     とはいえ、調子に乗りすぎて戦闘が疎かになっては問題だ。相手は都市伝説、遊び半分で勝てる相手ではないのだから。
    「そんなわけで、よろしくね。みんなの活躍を期待しているよっ!」
     一通り語り終えたまりんは、そう言って笑顔で灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    凌神・明(英雄狩り・d00247)
    ジュラル・ニート(マグマダイバー・d02576)
    ミルミ・エリンブルグ(焔狐・d04227)
    スティーナ・ヘイモネン(小学生神薙使い・d05427)
    松下・秀憲(午前三時・d05749)
    鎌北・桜湖(いるまのヒロイン・d10260)
    悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)
    瑠雪・晃(愛死ノ狂哀・d13878)

    ■リプレイ

    ●ヒーロー見参!
     風がつむじを巻いて、散りゆく桜の花びらを空に舞い上げる。ひらひらと雪片のように降りてくる春の情緒を味わいながら、鎌北・桜湖(いるまのヒロイン・d10260)は砂場で遊ぶ少年をじっと見つめていた。
    (「幼児がひとりで遊ぶ公園とは、少々不用心ですね」)
     とはいえ、こういった状況が許される程、普段ここは平和でのどかな街なのかもしれない。
     しかしながら、そんな秩序を乱す存在がここに「爆誕!」してしまうのである。
     ジャジャーン!
     突如、勇ましくも場違いな旋律がドラマティックに響き渡った。
    (「来た~!」)
     初任務で気分が高揚しているスティーナ・ヘイモネン(小学生神薙使い・d05427)が、サッとジャングルジムを見上げる。彼女の視界に入ったのは、風がやんだというのにスカーフをひらひら翻した煌びやかな男の姿――あれが都市伝説か。
    『私は街を守る正義の味方! さあ、キミも私の仲……ぐわっ!』
     ヒロへ向けた都市伝説の口上は、凌神・明(英雄狩り・d00247)の轟雷によってズバーンと豪快に断ち切られた。
    (「気に入らないな。元々正義など信じてはいないが……正義を騙るような奴は、なお相容れん」)
     鋭い稲妻に撃ち抜かれた都市伝説が、ジャングルジムの上で痛みに仰け反る。それと同時に繁みから飛び出してきた悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)が、何が起こったのかわからず目を丸くしているヒロを背で庇うように立ち、武器を構えた。
    「イーーー!」
    「ハイハイごめんねー」
     颯爽と駆けつけてきた松下・秀憲(午前三時・d05749)が、ぎこちない笑顔をヒロに向ける。常に無表情な彼からは考えられぬほどの柔らかな表情だ。
    「あのな、これからここでヒーロー映画の撮影をするんだ。危ないから俺とあっちいってようなー」
    「さつえい?」
     首を傾げる幼子と秀憲のやりとりを見せまいと、敵の視界を遮るようにひらりと飛び出して来たミルミ・エリンブルグ(焔狐・d04227)が、その辺で摘んでおいた葉っぱを頭に乗せて、プリンセスモードを発動しながら高らかに叫んだ。
    「ついに見つけましたよ! あの日、あなたのせいで兄さんは……! 兄さんの仇です!」
     白のワンピースからピンクの着物ドレスに変身したミルミは、狐耳と尻尾をぴこぴこ揺らしながらビシッとポーズを決める。
    「普段は油揚げが好きな女の子、しかしてその実態は人に化けた狐! お狐少女のミルミーン、いざじんじょーに勝負です!」
    『え、仇? 私が?』
    「そこまでです、ジャスティスマフラーさん!」
     唐突に現れた少女に兄の仇呼ばわりされ首を傾げている都市伝説のマフラーを射抜いたのは、悪の女幹部風なボンデージ姿に変身した桜湖のご当地ビーム。
    「正義を名乗り良い子を連れ去るみんなの敵! アグリカルブラックレディがお仕置きです!」
    『な、ジャスティス……誰の事?』
     混乱する都市伝説。状況はほどよくカオスになってきたようである。
    「うわあ~」
     何だか良く判らないけれどテレビで観たような人達が次々に現れて、格好良くポーズを決めている。秀憲に護衛され手を引かれながら、ヒロはすごいすごいとはしゃいでいた。
    『むうっ、その少年をどこへ連れて行く気だッ!』
     秀憲の動きに気づいてジャングルジムから飛び降りた都市伝説の前に、瑠雪・晃(愛死ノ狂哀・d13878)がだんっと立ちはだかる。
    「そこまでだジャングーマンよ! 貴様の行動はわが組織に大きな損害を与える。ゆえにこの悪徳神父、あきら~んが貴様を成敗する!」
    「ちょ、ま、待った~、ほんとに待ってよ~!」
     繁みから飛び出したものの、仲間達に悉く先を越されてしまったスティーナが、少し遅れて敵へ攻撃を仕掛けた。
    「あなたの悪事はお見通し! 覚悟してね、ヴァレーノス!」
    『お、お前達、私と誰かを取り違えてはいないか!』
     少女の一撃を避けたジャスティスマフラーでジャングーマンでヴァレーノスな都市伝説は、よってたかって行く手を阻む灼滅者達に困惑気味な目を向けてきた。まぁ、無理もない。
    「問答無用」
     上手く踊れよ、ヒーロー。低い姿勢で敵の足元に飛び込んだ明が、バチバチと弾ける闘気を纏った拳を突き上げる。
    『ぐはっ!?』
     間を置かず、ミルミのシールドバッシュが都市伝説の横っ面を張り飛ばした。
    「そう……あれは年末」
     ミルミが沈痛な面持ちで語りモードに入る。
    「年明けに食べようと、兄さんが楽しみに隠していた油揚げ。それをあなたは戦闘中に必殺技で盛大にふっ飛ばしましたね。落ち込む兄さんを元気づけようと、お年玉全部で油揚げを買ってあげたら……兄さんは、ぶくぶく太って……もう昔の兄さんは返ってこない。絶対に許しません!」
     光の刃を撃ち出しながら英一が「イイー!」と叫ぶ。両手に集中させたオーラで都市伝説を攻め立てつつ、桜湖が口を開いた。
    「どちらにせよお兄さんの運命は変わらなかったような気がしますが、気のせいでしょうか、と戦闘員さんは言っています」
    『言いがかりだ、私は何もしていないッ! とにかく、そこをどけ!』
     ザシュッ! 鋭いサーベルの斬撃に襲われたミルミへ、すかさずスティーナの防護符が投げかけられる。
    「皆、気をつけてね。回復はアタシに任せて!」
    「秘儀、大人に戯れる子供アタック!」
     晃の足元から伸びた影の触手が子供のような姿となり、都市伝説にわらわらと巻き付いてゆく。
    「よーし、ここで一緒に見ていような。ああっいきなり出たー、悪徳神父の得意技だ!」
     少し離れた場所にヒロを避難させた秀憲は、手に汗を握ってバトルを見つめる少年を納得させるよう、予め仲間から聞いておいた各設定をノリノリで解説し始めた。
    「悪徳神父……奴は、虐待された子供を拉致し、温かい食事と服を与え、親には改心するよう働きかけ、のびのび遊べる環境で歳の近い子供達と共に生活させ、学校へ通わせる……そういう悪事を働く組織のリーダーなのだ! ん? これって悪事なのか?」
    「よくわかんないけどかっこいい!」
     興奮気味のヒロに、秀憲は問いかけてみる。
    「ヒロはあの中で誰が正義のヒーローだと思う?」
    「ん~……?」
     悩んでいる。彼にとってみれば灼滅者も都市伝説も同じように見えているのかもしれない。
    『し、少年よ騙されるな! 私が正義の味方だァ!』
     バラバラの名前で呼ばれ、身に覚えのない悪行を責め立てられ、四方からタコ殴りにされた都市伝説は、縋るような瞳をヒロへ向けた。
     と、その時。
    「待たせたな、正義の味方!」
     ジャジャアアアーン!
     流れる音楽は「シベリアの黒い貴公子」。これまでずっと繁みで登場タイミングを窺っていたジュラル・ニート(マグマダイバー・d02576)は、主人公のピンチに駆けつけた助っ人の如く、美味しいシーンをかっさらう。
    「私は、トマトを愛し悪を憎む秘密結社パミドールのヒーロー『ブラックプリンス』。苦戦しているようだな。手を貸すぞ!」
    『誰だか知らんが、ありがたい!』
     歓喜する都市伝説。
    「くらえ、バスタービーム!」
     ジュラルの放った魔法光線は、狙い違わず都市伝説を撃ち抜いた。
    『なッ!? 私を手伝ってくれるんじゃないのかァ!』
    「手を貸すと言っただけで、お前の味方をするとは言ってない」
     その冷酷すぎる言葉に深く傷ついた都市伝説が咆哮をあげ、怒りと悲しみを込めてジュラルをブン殴った。
    『おのれ、邪悪な怪人部隊め! この私が纏めて退治してやるうううッ!』

    ●正義と悪の戦い!
     ドガガガガッ! 砂場の砂を蹴散らし、ブランコの鎖を千切り、ジャングルジムを半壊させ、滑り台を横倒しにする激しい攻防。離れた位置から優しい風を起こし、仲間の傷を癒してフォローしながら、秀憲はヒロの気分を盛り上げる。
    「凄い迫力だろ? あのお兄さん達、ああ見えて超パワーの持ち主でな、危険な奴を倒すために戦ってるんだぞー。お姉さん達も、もちろんそうだ」
    「わるものはだれなの?」
    「うーん、どうだろうな。ヒロが見てそうだと思う奴がそうなんじゃないか?」
    「わかんないよぉ」
     ヒロはやっぱり悩んでいる。複雑な設定が入り乱れた状況で判断を下すのは、まだ幼い彼にとっては荷が重いのだろう。
     都市伝説は謎構造の光線銃を水平に構えた。
    『くっ、お前達の狙いは何だ!』
    「答える必要はないな」
     狂戦士としての明の役割は、ただ力をもって敵を制圧する事のみ。味方すら傷つけかねないような大振りの動きは勿論演技だが、拳に込められた闘気は本物。虹色に輝くビームに貫かれても明は構わず敵の懐に飛び込み、その顎を打ち砕いた。
    「兄さんを返せ!」
     ミルミの閃光百裂拳が都市伝説を猛烈に攻め立てる。
    「イイーー!」
     敵の躯を締め上げるのは、英一の影から伸びた触手。
    「ヒロ君、たくさん応援お願いしますね!」
     にっこり笑顔を浮かべた桜湖のバスタービームが、花壇を踏み荒らしかけた都市伝説に苛烈な制裁を加える。
    「熱い男は、名もなき花も踏まないものです」
    「そろそろ、いいかな」
     そう呟いたスティーナが、ヒロからよく見える位置へ移動して、眩い光を身に纏った。キラキラと輝いた少女の体は、瞬く間に18歳の姿となる。
    「あっ、凄いぞヒロ、女の子が大人に変身した!」
    「わあ~!」
    「一緒に応援しような。せーの、頑張れー!」
     秀憲に煽られて興奮するヒロへ、スティーナがこれまでとは異なる大人びた口調で問いかけた。
    「ヒロ君、君はどういう人がヒーローだと思う?」
    「えっと……かっこいいひと?」
    「職も見た目も関係ない。ヒーローってのはさ、自分の力で世の中良くしようとする奴のことを言うんだ」
    「そうなの?」
     何やら素敵な会話が交わされている間に都市伝説へ接近したジュラルが、いかにも悪役っぽい口調で、敵だけに聞こえるようぽそりと囁いた。
    「無駄な抵抗はよせ、正義の味方。私達の攻撃を避ければ、緑髪の男が押さえている少年がどうなるか……わかってるよなぁ」
    『な!? 卑怯だぞ!』
    「ふふっ、何とでも言うがいい」
     ジュラルの影に包まれた都市伝説が見えないトラウマに苛まれ、ううっと呻いた。畳み掛けるように繰り出された晃の影が、ジュラルの攻撃をなぞるように都市伝説へダメージを与えてゆく。腑に落ちないという表情で晃が首を傾げた。
    (「……気のせいか? 何だか、奴の動きが少し鈍ったような」)
     囮役の子供を守ろうとする敵の特徴を巧みに利用した、ジュラルの悪魔的な作戦が功を奏したようだ。つまりやったもん勝ちであった。
    「そろそろ消えろ」
     鉄塊の如き『鋸刃・削』を携えた明の強撃が、都市伝説を苛烈に打ち抜く。すかさず間合いを詰めたミルミの焔撃が炸裂し、燃えさかる炎が身悶えする敵をごうっと包み込んだ。
    「イーーー! イイイーーーーイエ゛ァ゛!」
     ドドドドゴオォォォン! 英一によって高々と持ち上げられた都市伝説が、思い切り地面に叩きつけられ、派手に爆発した。更に桜湖のご当地ダイナミックが、よろよろしている敵に容赦のない追い討ちをかける。
    『そんな……正義の味方である私が、邪悪な怪人に倒される筈が……』
    「所詮は偽物。つまりは、そういう事だな。くらえ必滅、眼鏡ビーム!」
     晃の瞳から放たれたご当地ビームに貫かれた都市伝説が、どこからともなく取り出したロケット砲をぶっ放して、攻撃者を強かに打ちのめす。
    「なかなかやるね。だけど、私がいる限り、誰も倒させはしないよ!」
     スティーナによる天上の歌声が、傷ついた晃を優しく癒していった。
    「おいおい、人質がいることを忘れたのか? 反撃を許可した覚えはないな」
    『く……っ!』
     あくまでもクールで卑劣に都市伝説を脅しつけ、バスタービームを撃ち込むジュラル。
    「茶番は終わりだ」
     ザンッ! 明の刃に両断された敵が、粉々に四散して虚空へと消えてゆく。
    「お前が行くべき場所へ帰るがいい」
     こうして――子供を連れ去ろうとする邪悪な正義の味方は、ヒーローと悪役の混合部隊によって、遂に仕留められたのだった。

    ●街の平和を護る者
    「撮影は終わったけど……ヒロ、どうだった?」
     秀憲の言葉に、ヒロは「かっこよかったぁ」と満足そうに笑った。
    「おとなになったらぼくもヒーローになって、たたかってみたいなー」
    「えいっ、と」
     ふわりと舞って大人から少女の姿に戻ったスティーナが、にっこり微笑んでヒロにバイバイと手を振る。
    「また遊ぼう! 今度は本物のヒーローに、なれるといいね~」
    「イー」
     戦闘員の姿のまま近づいてきた英一は、そっと武器をおろし、少年の頭を優しく撫でた。
    「イー、イイイーー」
    「ヒーローというのは、誰かを護る人の事を言い、決して強いだけではなれません。ヒロ君、君も大事な人を護れるようになりなさい。そうすれば君もヒーローになれるでしょう、と戦闘員さんは仰っていますよ」
     なんで言ってることが判るんだ?という仲間の無言の突っ込みをスルーして、桜湖がにこやかに翻訳する。
    「イー」
    「ヒーローになれたその時は、戦闘員が一人前の証としてお相手する事を約束しましょう、だそうです」
    「そうだな。ヒロも自分の道を貫ける格好いいヒーローになれよ」
     まだわからないかも知れんがなと思いつつ、秀憲は少年の肩をぽんっと叩いた。
    「ただし、そこの人間の子供さん。復讐の為に戦うような……私みたいになっちゃダメですよ」
     兄の仇を討ち果たした狐少女として、ミルミはそのままシリアスに去って行った。黙々とトマトジュースで一服していたジュラルも、クールに笑って踵を返す。
    「そうだ少年、これを」
     そう言って、晃は懐から取り出したロボット型の飴をヒロにぽんっと手渡した。
    「布教活動だ、この飴をたべるといい」
    「わぁ~、ありがとう。じゃあぼく、もうかえるね」
    「じゃあなヒロ、元気でな」
     無事に少年を守り抜いた秀憲が、公園から出て行く小さな背を満足げに見送る。
    「さて、私は花ゲリラ……いえ、公園の緑化活動をして帰りましょう」
     とはいえ……桜湖は腰に手を当てて、ふぅと息をついた。都市伝説との戦いによって、公園はかなり本格的にズタボロになってしまっていたからだ。
     彼女はぐっと腕まくりをする。
    「これは、片付けがいがありますね。大人も子供も憩う場所を目指して、気合い入れていきますか!」
     そう、第二、第三の都市伝説――ニセ正義の味方を出現させないためにも。

     かくして、灼滅者の活躍によって公園の脅威は消え去り、街の平和は今日もしっかり守られたのであった。

     -完-
     

    作者:南七実 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 13
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