桜の色は桜色

    作者:階アトリ

    ●桜前線がやってきた
     ちょっと山奥になってしまうけれど、辺鄙な場所だからこそ、ちょっとくらい大人数で騒いでも、誰の迷惑にならなさそうな、桜が咲いてる場所があるらしい。
     しかし、辺鄙な場所なので周囲に店や自販機はなく、そこでお花見を楽しみたいのならそれなりの準備が必要となる。
     つまり、お弁当やお茶、お菓子などはしっかり持参しなければならないのだ。
    「山のてっぺん近くの斜面に、大きな桜の木が何本かあって、その下に何か敷物敷いたらフツーに花見できるらしいぜ。
     あ、でも山ん中だから、山火事防止ってことで、一応、バーベキューとか鍋とか火を使うのは禁止らしい!」
     斑鳩・慧斗(中学生ファイアブラッド・dn0011)が、瞳を輝かせて言った。

     と、いうわけで、とある山の頂上近くの斜面にある、山桜の群生場所で、お花見ははいかが?
     桜は満開。
     持ち物は、レジャーシートなど座る場所を作れるものと、お花見弁当と、飲み物、それから荷物に余裕があればお茶菓子もあると良いだろう。

    「俺はフツーにおにぎりと卵焼きとウィンナーの弁当に、あと三色の花見団子を持ってくつもりだぜ。
     あー、楽しみだなー!」
     慧斗も行くつもり満々らしい。


    ■リプレイ

    ●花の下で
     お弁当を食べて、その後はティータイムになだれ込むもよし、お昼寝に流れるもよし。
     今日は皆それぞれの午後を過ごす予定だ。

    「ここが一番ちょうど良いみたい!」
     くるくると桜を見ていた白灰・黒が、敷物が敷けたところでクラスメイトたちの許へと戻ってきた。
    「私は、たっくさんサンドイッチを♪」
     飛鳥来・葉月の大きなバスケットには、定番からスイーツ系のサンドイッチまで、ぎっしり。
    「私もね、頑張って作ってみたんだよ~。けど、ちょっと失敗しちゃったかな?」
     桜木・結衣が開けたお弁当箱には、足先が焦げたタコさん。
    「タコさんウィンナー思ってた以上にカワイイー!」
     歓声を上げたシエラ・ヘリアンサスのお弁当にはサンドイッチが入っている。焦げたおかずのようなものと共に。
    「……出来はともかく。いや、作ろうとする気持ちが大事だ。タブン」 
     雪原・冬真は手を合わせて、平等にイタダキマス。
     デザートはフルーツサンドや桜餅にお団子。見て、食べて、花びらをおいかけて遊んで。
    「あ、写真撮ってもイイ?」
     冬真のデジカメが、今年の桜をめいっぱいに楽しむ仲間の笑顔を写し取った。

    「りっちゃん、見て見て! なんだか桜の滝みたいだよ!」
     水瀬・ゆまは、到着するなりレジャーシートを広げると、三段重のお弁当を開いた。
    「おおっ!」
     神堂・律は、お弁当の盛りだくさんな内容に元気を取り戻す。
    「どしたの? 俺にこんな豪華なメシ作ってくれるなんて、滅多ねぇじゃん」
    「滅多ないって失礼な! そう言うヒトにはお弁当あげません!」
    「あー、ごめんごめん。悪かったって!」
     桜の下、はじける笑い声。血が繋がっていなくても、仲の良い兄と妹だった。

    「どこから手をつけたらいいのかしら……」
     伊東・晶はお団子を食べながら、ぽつりと呟く。
    「どこって?」
     隣にいた慧斗が首を傾げた。
    「期末テストが急降下で」
     晶は苦笑して、まずは当たり障りのないところから。そのうち、ぽろりと深い話をしてしまいそうになるのは、花霞に酔わされているからかもしれない。

     お星様がたくさんのシートの上では。
    「あ……お姉ちゃん、これ。頑張って桜のかたち、作ったの」
    「まあ……こっそり何かされてると思ったら」
     姫詩が一生懸命に可愛らしい形に作ったクッキーに、由衣の唇がふんわりと笑む。
    「……ん、美味しい。ありがとう、姫詩」
    「えへへ、うれしい……っ」
     由衣の心からの言葉で頬が染まって、姫詩も桜の色になる。
     銀色の髪の上に、桜の花びらは星のよう。
    「桜と一緒にいるおねえちゃんは、絶対きれいだって思ってたの。ひな、おおあたり」
     美しい光景に目を細めたのは姫詩も同時だった。

     ぽかぽか日向でのんびり食べるお弁当は、卵焼きがちょっぴり焦げていたりしても文句なし。
    「最初からこれなら将来が楽しみだな!」
     完食した不動・祐一が、和泉・結弦に笑顔を向けた。
     こんな日だから、お互いに真面目に話すこともできて。
    「皆のしあわせが、わたしのしあわせやから。戦いすぎて皆が疲れへんように。皆で笑える場所、作るんよ」
     結弦の言葉に迷いはない。
    「そっか……ならさ、結弦が守ろうとしてくれる場所、俺にも少しくれよ」
    「いなくなったら、やーよ?」
     眩しそうに目を細めて言った祐一の頭に、膝立ちになった結弦が手を伸ばした。

     風はまだ少し冷たい。
     けれど、夜月・深玖が北大路・桜子の手を取ったのは寒さを心配したからだけではなくて。
    「……もう一回聞かせて、って言ったら怒る?」
     困った顔をして頬を染める桜子に、冗談だよと笑って、深玖はその手の甲にそっと口付けた。それは、さっきもらった「好き」への返事。
    「……やっぱり、夜月さまは王子様みたいです」
     驚いて照れて、淡く染まっていた桜子の頬は薄紅から更に濃く色づいたけれど、それもまた、桜の色。

     シェリー・ゲーンズボロは舞い散る花びらの中、御手洗・七狼の差し出したカップに手を伸ばした。カフェラテにひらりと浮かんだ薄紅。
    「おや? 花弁が入ったか……花見ラシイがコレでイイか?」
    「有難う、素敵な紳士様」
     珈琲の香りと共に、時間がゆっくりと過ぎてゆく。
    「ね、次はブラックを貰って良い?」
    「ナラ、俺ノを飲むか」
     差し出された七狼のカップから、ひとくち。
    (「大人の味。でもきっと、好きに成れそう」)
     珈琲は苦いけれど、シェリーの唇は甘く微笑む。
     
     啄身・綴と椿・星花、初デートの2人は一緒に花を見上げていた。
    「今までもつづりんの横で色んなもの見てきたなあ……来年も、その先も、同じ景色が見たいね?」
    「見たいって言うか見てよ」
     笑いかけてくる星花に、綴は膝に頬杖ついてのんびり笑む。
    「弁当、すげー美味かった。次は俺が作るから」
     綴は、自分の好きなものがたくさん詰まっていた今日のお弁当を思い出しながら、言う。
    「約束する?」
     綴が差し出した小指に、星花の小指がそっと答えた。

    「はい、あーん♪」
    「うん、美味しい……きっと将来は良いお嫁さんになるね」
     これ以上になく恋人同士らしいことをしているのは、望月・結衣と結城・凛弓。
    「……はわわ、良いお嫁さんだなんて、そんな、そんな……!」
     結衣は真っ赤になる。一度はしてみたかったのだけれど、いざやってみるとドキドキする。だって、凛弓は出会った時から大好きな王子様なのだ。
     そんな結衣の姿に、凛弓はくすりと含むように笑った。
    「ふふ、たまにはこんな時間も悪くないな」
     2人を周囲から覆い隠すように、はらりはらりと、花の雨。

    「美味い! 卵焼きは甘いヤツで、おにぎりは鮭と梅、完璧俺好み!」
    「清十郎の好きな物詰めたです。ふふ、お口に合ったのなら嬉しいのですよ」
     橘・清十郎からの絶賛に、早起きしてお弁当を作った伊勢・雪緒は嬉しそうに微笑む。
    「一緒に食べるととても美味しくて、私も、えと……幸せです」
     雪緒の頬は桜色に染まっている。
     食後の緑茶は清十郎が用意した。寄り添って座れば、どこかから小鳥のさえずりが聞こえてくる。
    「一緒に来れて良かったぜ。来年もまた一緒に来れたら良いな!」
     清十郎に、雪緒は頷いた。

     KILLSESSIONの面々が集まった木の下では。
    「これ、こないだの“礼”な」
     今日の発案者である忍海・航平が、集めた花びらを一・葉の頭にぶわっさと乗せた。
    「散々俺たちを心配させて待たせた罰だ!」
     安土・香艶の音頭で、皆が炭酸をよーく振ってから開封する。
    「眼鏡割られるよりいいだろ?」
    「ああ、くそ。わかってる、悪かったよ」
     にやにやする航平を軽く睨んだ後、花びらと炭酸まみれの葉は皆に詫びた。その顔にかけられたのは、思い出の眼鏡。
     そして、宴が始まった。
    「……バーチャンのお弁当って、言われた事ある」
    「カーチャンいいじゃん、見場より味大事でしょ」
     ヴェロニカ・セヴァスチヤノフに、航平が明るく声をかけ。 
    「うんうん、弁当マジすげー!」
    「タコさんウインナーは俺のだ!」
     万事・錠と香艶は、奪い合うようにしながら猛然と食べ始める。
     たまご焼き、肉じゃが、きんぴら、ひじき、しょうが焼き。それに、煮付けた山菜。
    「……から揚げでしたらあります」
     樹・由乃は肉気を求める声にもう1つお弁当箱を開く。
    「わ、ヒミちゃん、これ溶けちゃうよ! オベントと一緒に早いとこ食べよう!」
     エルメンガルト・ガルは氷美・火蜜がクーラーに詰めて持って来たアイス大福を慌てて皆に配り終え、一息ついておにぎりを一口。
    「うっ、これは……」
    「そっちはロシアンおにぎりよ。ハバネロが当たったかしら? ……男子は死なない程度に、れっつとらい」
     白目になったエルメンガルトに、ヴェロニカが告げた。
    「上等じゃねェか、ここで挑まにゃ男が廃る。オラ葉、トーゼンお前も食うよな?」
    「どうせなら他のヤツ等も巻き込んでいこうや」
     錠と葉のチャレンジの結果は――。
    「虫……」
     葉はイナゴの佃煮を引いて、アイス大福で口直し。ハバネロを引いて火を吹きそうな錠には航平がおごりのジュースを投げてくれる。
    「笛飴知らねーってマジ?」
    「桜餡の御饅頭もなかなか春らしく……。紅茶も合いますよ」
     ピーピー鳴らす香艶、和菓子にほっこりしている由乃。
    「皆と一緒に笑顔で過ごせて、今日はとっても素敵です……!」
     火蜜は桜の下、平穏な一日に目を細めるのだった。

     こちらは吸血研究会が広げた敷物の上。
    「ご飯だよ! 違う! 桜を見に来たよ!」
    「桜綺麗ですねぇ……」
     ララ・ラッセルは御剣・裕也の声に上を見る。
    「本当。咲いてまた散る儚さ……まるで、人のよう……」
     けれど、美味しい匂いがしてきたら、ララはやっぱりそっち。
    「あ、たけのこご飯!」
    「べ、別に皆に食べてほしかったわけじゃないんだからねっ」
     咬山・千尋はツンデレ風味に言いながらも、手はささっとララのぶんを取り分けている。
    「こういうところで食べる缶詰って、味が三倍くらいよくなるんだよね♪」
     天瀬・一子が広げたのは、個性派揃いのおにぎりとさまざまな缶詰。
    「それも大人数で食べるとさらにおいしくなりますね」
     浅見・藤恵が持って来たのは、おにぎりと、だし巻き卵とウィンナー。
    「味つけは知人がやってくれたから味は問題ないはずだ。よければ食べてくれ」
     蛇原・銀嶺がドンと出したのは恵方巻き状態の太巻きだ。差し出した手は絆創膏だらけで、苦労がしのばれる。
     みんなでいただきますをして、花の宴。
    「……あ、頭に花びらが」
    「ありがとうございます」
     裕也は千尋に花びらを取ってもらって、それからお弁当を用意してくれた面々にきちんとお礼を言って、マフィンをデザートとして配った。
    「よし、ならば僕は団子だ」
    「お花見のお供といえばやはりお団子ですね」
     神無月・晶とアルベルティーヌ・ジュエキュベヴェルが三色団子を出す。
    「ワサビ入りとかも用意してあったりして……」
     晶が不穏な含み笑い。
    「ダッダダッダダッダ、ダダッ!」
     ララが、これから殺人事件でも起こりそうなメロディを口ずさみながら紅茶を入れる。
    「!!」
     ほどなくして、ワサビで涙目になったアルベルティーヌ。その刺激でか、彼女は我に返り大切なことを思い出す。
    「のんびりしすぎて忘れるところでした。せっかくなのでみんなで写真を撮りましょう!」
    「良かったらシャッター押すぜ」
     アルベルティーヌから、通りすがりの慧斗がカメラを受け取る。
    「たまには一息ついて、のんびりするのもいいよな」
    「他愛ないけど、これって確かに幸せだよね♪」
     銀嶺が呟き、一子が頷く。
     はらはらと桜が散った。
    「こんな日常が続きますように」
     藤恵は、花びらが地面に落ちる前にキャッチして、そんな願いを託す。

    「おべんと、召し上がれなのです!」
    「炭酸飲料、お茶、ぶどうじゅーす、おれんじじゅーす、青汁、持ってきた」
     静闇・炉亞が三段重をどーんと広げ、小谷・リンの足元には飲み物各種がたっぷりと。
     ハンバーグや唐揚げ等のおかず、彩り良い野菜、それからたっぷりのおにぎりを囲んで、宴がスタートした。
    「今日はレイン殿ルコ殿が充実した関係の話をして下さると聞いて!」
     盛り上がってきたところで、茂扶川・達郎が目を輝かせて正座した。
    「春ですし……気になるのです!」
    「……え、恋バナ? お、俺なんかよりそこの青い奴に聞けって!」
     炉亞のきらきら視線からレイン・ティエラは目を逸らす。
     ルコ・アルカールはというと、別グループで参加している恋人に視線をやった。チャット仲間とのオフ会中の有我守・花子が、にっこり手を振ってくれる。
    「見ての通り、毎日ラブラブですよ」
     始まったルコの惚気は、長々と。
    「人の幸せも蜜でありますね、いつかは自分も、そう思えてくるのであります」
     根気よく全て聞いた上に、そんな感想を述べるピュアな達郎。
    「おのれりあじゅう……」
     リンは決意と拳を固めていた。
     次はエアカラオケが始まって、猟奇倶楽部のメンバーたちは心行くまで花見を楽しむ。そしてラストは。
    「言いだしっぺの法則適用で」
    「……ルコくーん? 少し早いけど誕生日プレゼントあげるよ、遠慮するなって」
    「漫才でありますな!」
     ルコとレインによる集めたレシートの押し付け合いを、達郎が笑って見ていた。

     作務衣姿の蕎麦党こと村井・昌利を目印に、AAAの面々は集合した。普段チャットで交流している者同士のオフ会である。
    「さくらひらひら~♪」
     しーくんことナナイ・グレイスは、執事服姿でてきぱきと、重箱のお弁当を広げた。
    「どうも、【ある花】です。何度かお会いしている方、顔を合わせるのは初めましての方も、どうぞよろしくお願いいたしますね」
     有我守・花子が包みを開くと、少々歪なのが手作りらしくて微笑ましい、桜の形のクッキー。
    「今日はよろしく頼む、うん。さて、好きな飲み物を言ってくれ」
     ホワイトココアこと珈琲堂・小誇愛が、ナップザックから次々に魔法瓶を出す。チャットで打ち合わせたとおり、緑茶や紅茶を取り揃えてきたのだ。
    「戦争とか、考えることはいろいろありますが……今は楽しみましょう」
     べにぃこと紅林・美波は全員の顔と名前を一致させながら、小誇愛を手伝って飲み物を注いで回った。
     色々な具のおにぎりと、彩りも春らしい旬のおかずを食べて、まだ風が少し冷たいから暖かい飲み物が美味しくて。
    「料理もお茶も普通に旨いっすが、こうして桜を肴に楽しむとまた格別っすねぇ」
     昌利はカップの湯気を吹きながら、しみじみと言う。
    「オフ会というのもいいものだな。チャットの方でもこれからもよろしく頼む、うん」
     小誇愛の言葉に、皆が頷いた。

    「山にあるから山桜。そういう名前だっけ」
     桜の木の下に座って、タンブラーに入れたコーヒー飲みながら花澤・リアンは呟いた。
    「思い秘め 静かに誇れ 桜の木。今は、こうやって賑やかな時間が流れていますねぇ。桜の木、ありがとうございますねぇ……」
     紅羽・流希はコーヒーのカップを桜に向けて掲げる。
     
     満開の桜の下、村上・椿姫の前に大きな箱が出された。
    「お誕生日おめでとう!」
     観屋・晴臣が箱を開ければ、手作りの桜のケーキ。
    「椿姫、誕生日おめでとうやで」
     星田・澄香が拍手する。
     椿姫ははらはらと桜の降る中で目を丸くしていた。ケーキはサプライズだったのだ。
    「わ、すげえ! うまそうだし綺麗だし!」
     椿姫にもらった煮物に舌鼓を打っていた慧斗も、箸を置いて拍手に加わった。
    「すまんけど写真撮ってくれへんか?」
    「もちろん!」
     澄香に慧斗は二つ返事で携帯を受け取る。
     カシャリ、シャッター音。
    「今日は本当に楽しかった。祝って、誘ってくれてありがとうな」
     ゆるやかな春風が吹いて、微笑む椿姫の漆黒の髪に、花びらが降り落ちる。
    「来年も、花見できたらいいよな」
     慧斗は画面いっぱいに桜と笑顔とを切り取った携帯を澄香に返し、笑った。

    作者:階アトリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月9日
    難度:簡単
    参加:54人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 14/キャラが大事にされていた 6
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ