幸せの野原で

    作者:篁みゆ

    ●春の花
     チューリップ、桜、マーガレット、クローバー……花の映った写真を机の上に並べてなにか考え込んでいるのは神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)。
     どのくらいそうしていただろう、迷った末に手にとったのはクローバーの写真だった。
    「クローバーがどうしたのですか?」
    「わ……ああ、ユリア君か」
     瀞真に声を掛けたのは向坂・ユリア(つきのおと・dn0041)。驚かせてごめんなさい、そう言ってぺこりと頭を下げる。
    「いや、いいんだけどね。クローバーの沢山咲いている野原に心当たりがあってね、今度の休日にみんなをさそおうかと思うんだ」
    「クローバー……有名なのはシロツメクサですね。四つ葉なら4月2日の誕生花で、花言葉は『幸福』『私のものになって』」
    「詳しいね」
    「普通のシロツメクサでしたら『約束』『私を思って』、アカツメクサでしたら『勤勉』『実直』」
     歌うようにユリアは告げる。実は子供の頃に調べたんです、と付け加えて。
    「クローバーには白だけでなく、黄色やピンクや紅色もあるよね。そんなカラフルな野原にご招待、いかがかな?」
     花で腕輪や冠を作るのも楽しいし、もちろん、四つ葉のクローバーを探すのもいいだろう。もしも幸福を見つけられたら、大切にもって帰るのも見るだけに留めるのもあなた次第。
     花冠作りやクローバー探しをしなくとも、のんびりと野原で空を眺めるのも有りだろう。
     春らしい麗らかな日をのんびりと過ごしてみませんか?


    ■リプレイ

    ●花と共に
     一面のクローバー畑は壮観だった。春の匂いを訪れる客達に届けるその野原は、白だけでなくピンクや黄色、紅色に染まっている。
     今日は小さな先生に弟子入り。【花紡ぎ】の狗白はチセと共に朔白に教わってクローバーを紡ぐ。
    「初めてにしては頑張ったんやないかな」
     狗白は白い花冠を二人に。
    「出来た!」
     チセは白とピンクの花冠と指輪を朔日に。黄色と紅色の花冠と首輪は狗白に。
    「王子様みたいですごくかっこいい」
     朔日は黄色の花冠を狗白の綺麗な灰色の髪に乗せて微笑む。次に霊犬のシキテとお揃いの白い花冠を、チセの優しい桃色の髪に乗せて。
     自分が王子様なんてくすぐったいけれども、小さなお姫様達は花冠がよく似合ってる、狗白は笑いあう二人を見つめて。今日は皆、お姫様に王子様。
    「お花のアクセサリーで変身やね」
     嬉しそうに尻尾を振っているシキテを傍らにチセが笑うと、そうだねと朔日も頷いて。交換した花のアクセサリ達はそれぞれの宝物。ありがとうと言葉を交わせば、優しい風が三人を撫でていった。
     ゆっくり話す機会がなかったから、この機会に。ユリアに声を掛けて紗は二人で野原に腰をを下ろす。
    「ユリアさんはどんなお花が好きかな? 私はね、色々好きだけどかすみ草が一番かも」
     主役になる事は無いけれど、影で支えるポジションが好きだと告げる。
    「私も好きですよ、誕生花のひとつなんです」
     そう言ったユリアに、紗は黄色のクローバーで出来た冠をそっとかぶせて微笑んだ。
    「できた! いっぱいお花使ってみたよ♪」
     明るく飛鳥が差し出したのは、お世辞にも上手とはいえない代物。飛鳥は祝人の作った冠を見て、目を輝かせる。
    「身体が覚えていたみたいだな」
    「えへへ、嬉しい」
     そっと頭上に乗せてあげた祝人だが、心底幸せそうに微笑んだ後に飛鳥が見せたしょんぼり顔が気になって。
    「あぅ……こんなのでも喜んでくれるかな……?」
    「飛鳥ががんばって作ったのならどんな形でもお兄さんはうれしいぞ!」
     そう告げると彼女がはにかんだから。
    「小さなお姫様、新しい冠とても似合ってるよ」
     なんとなく口調を変えて告げた言葉は、ちょっとだけ恥ずかしい。
    「4月1日はユリアさんのお誕生日でしたね。お誕生日おめでとうございます!」
     セカイの言葉に驚いた様子のユリア。けれども贈られる花冠と歌に、嬉しそうに笑んだ。それを見たセカイも嬉しくなって、タンポポの綿毛を取り出す。
    「残念ながらここにはケーキも吹き消すキャンドルもありませんが……」
     綿毛を吹き消すと、彼女の息と風に乗って綿毛が空へと旅立っていった。
    「みてみて、おみせんぱい! ちか、上手でしょ」
     頭上に乗せられた花冠。可愛いの言葉を恥ずかしく思いながら、皐臣は千花に作り方を教わる。作った冠を乗せてやり、わざとらしくかわいいなーといってお返し。
    「んー……ガキじゃあるめえし……」
     共に寝転がって子守唄を紡ぐ千花の声。自分の為に歌ってくれた初めての子守唄の暖かさに揺られて微睡みの中へ。おみせんぱいが春の事も好きになってくれますように、願いながら千花もいつの間にかうとうとと。
    「……」
     ふと目覚めた皐臣の隣には、千花が眠っている。その光景に微笑んだ皐臣は、こっそり白詰草を編み始めた。
     大ぶりなアカツメクサの蜜を味わって懐かしくなりながら時間を過ごせば、夕陽に照らされた野原が美しくて。予記はその光景を目に焼き付けながら、白・赤・黄の三色の花を一本ずつ手折る。今日の思い出を押し花にするつもりだ。
    (「押し花の栞にしたら、ご朱印帳に挟んで大切にしようっと」)
     大切な、春の記念に。

    ●幸せを探して
    「どっちが先に見つけられるか、競争だぞ」
     エイダの誕生花である四つ葉のクローバー。どうしても見つけたくて息巻く青士郎だったが……結局見つけたのはエイダで。『幸運』は自分に味方してくれないのかなんて思ったりもしたけれど、彼女が幸せならそれでいい。
    「はら、こいよアディ。草の上に寝っ転がると気持ちいいぜ」
     惹かれるようにしてエイダも青士郎の側に寝転がる。そっと彼の髪に手を伸ばして、見つけた四つ葉のクローバを挿した。
    「……アディの、幸せは……ここに、なくちゃ……です」
     エイダの幸せも、青士郎の幸せも、今、近くにある。驚いたけれど青士郎は応えるように彼女の手をそっと握った。
    「ずっと一緒だ」
     笑いあう二人。青空の瞳宿す綾人を見つめるシンの瞳も、今は同じ色に染まっている。それは白詰草よりも強く綾人の心を惹いて、知らずに笑みを浮かばせる。
    「ほらね、四つ葉のクローバー」
    「――あ」
     今なら見つけられる気がすると言ったシンの視線の先にそれはあった。負けたーと笑って拍手を送る彼の髪にそっと手を伸ばして。
    「ふふ、似合うよ、すごく」
     見つければ幸運を齎す四つ葉は、会う度に元気をくれる綾人のよう。赤らんだ顔を手の甲で隠す彼には可愛いの言葉は掛けずにおいて。
    (「どっちが元気くれてんだか、わかってねー……」)
     心の中で呟く綾人だった。
     小さい頃、共に四つ葉を探した事を思い出した二人は、偶然出会った。
    「兄さん、何でこんな所に男一人……」
     少しでも薙乃に幸せが届くようお守りにしてやりたくてなんて言えずにとりあえず、哀れみの目で見ないでくれと慌てる蒼刃。ちょっといい事があるかなと思って探しに来たという妹に一緒に探すか、と声をかける。
     あの頃は蒼刃にが見つけたのを貰ったんだっけと思いつつ探している薙乃の視界に小さな四つ葉が。
    「あ……見つけた」
     ちょっと誇らしげに見せつけて、差し出した。昔もらったからお返しだと。本当の事は心の奥に仕舞って告げれば、ありがとうと笑顔が降ってくる。蒼刃が少し寂しいのは、もう自分が幸せを見つけてやらなくてもいいんだ、ということ。
     挨拶代わりにユリアに押し花のセレクトギフトを上げると、彼女はとても嬉しそうに笑ってくれた。嘉禄はその後、まったりと四つ葉探しに繰り出した。押し花を趣味にしているがあまり植物に詳しくない彼でも、クローバーは名前がわかる植物のひとつ。緑の絨毯に癒されながら、赤いクローバーを見た事あったと思いだして。
     四つ葉が見つかっても見つからなくても、葉と花を摘ませてもらって今日の記念の押し花にするつもりだ。春の思い出が、また一頁。
     眼鏡が落ちぬように注意しながら地を這うように探していた九里が見つけたのは、なんと8つも葉をつけたクローバー。
    「幸せ二倍のくろーばーに御座いますよ。……矢張り四つ葉でないと駄目でしょうか」
    「きゅうりちゃン……Grazie mille! 嬉しい。……幸せ。」
     最近元気が無いように見えた、と気遣ってくれるのが嬉しくて、真魔は思わず彼の手を両手で掴んだ。ふとそのまま視線を動かすと、真魔の目に入ったのは鮮明な白班紋の内側に赤い班紋が有る少し大振りなクローバー。その中に四つ葉を認めて手折り、九里へと差し出す。これからも共に在れるように。
    「……Sei davvero speciale.」
    「では、気長に一日エスコートのほう、よろしくお願いしますね、私市さん?」
     ご機嫌の彩歌に対して奏(d00405)はあまり乗り気では無さそうだが。四つ葉を探す彩歌の側で黙々と花冠を編み、それを彼女の頭の上に乗せた。
    「……悪くは、ない」
    「まさか、この冠が替わりだなんて、言わないですよね?」
     くるりと向きを変えて一人で帰ろうとした事がバレて呼び止められてしまった。仕方がない、そう言って足を止める奏(d00405)。たまにはこういう憂き目に遭うことも必要だと自分に言い聞かせて。
     目的はすでに達成しているといえばそうなのだから、彩歌はそこまで一生懸命に四つ葉を探してはいない。目的は奏(d00405)を一日連れまわすことなのだから。
    「四つ葉を見つけたら、瀞真はどうする?」
    「そうだね、写真に収めようか」
     カメラを取り出す瀞真を見て冬舞は自分は摘まずにそのままにすると告げる。その幸運は瀞真と一緒に見つけられたということが嬉しいから。
    「他にも花が沢山咲いている場所を知っているのか?」
     問えば、いつか皆を案内出来ればいいなと思うよと笑顔が返ってきた。
    「さて、四つ葉、探すぞー」
     やる気のない声でつげるも、きすいが自ら体を動かすことは稀だ。四つ葉のクローバーを見つけると幸せになれると聞いて落ち着かなかったところは意外とロマンチストなのだ。
    「あった」
     しゃがみこんで葉と睨めっこしていたきすいとは反対に、早い段階でレンヤが声を上げた。
    「四つ葉には幸福意外にも花言葉があるんだっけ? はい、これ、きすいさんにあげる」
     受け取った四つ葉を見て、他の意味を思い出すきすい。仕方がないからもう少し真面目に探してやるよーと言えば三倍返しでよろしくなんて声が返ってきて。
     後でそっと、白詰草と四つ葉で編んで作った小さなリングを彼のポケットに忍ばせた。
     ふと見つけた四つ葉をプロペラのように指で回す哲の頭に花冠を載せて、莉奈は満足気に微笑んだ。
    「幸せってなんだろうな……」
    「美味しいものを食べる事! 一緒に遊んだり、お話聞いてくれる友達の存在と、後はミ……なんでもない!」
    「……待て、待て待てお前最後ミンチつったろ。それただのお前のストレス解消じゃねえかよ!」
     速攻で返ってきた答えにツッコミを入れる哲。
    「ミって言っただけだもん! 変な言いがかりやめてよね。哲くんのバカーっ」
     舌を出されて歯を剥く哲。傾いた花冠を片手で直し、もう片方の手で四つ葉を莉奈の髪に刺す。ごろりと寝転ぶと、莉奈も隣でうつ伏せに寝転んで。幸せがまた一つ増えた気がした。
    「ん~……そうだっ」
     折角だからいつも一緒のクラブの皆に四つ葉をプレゼントしたいと考えて、菜月は探し始める。
    「四つ葉探しているんだよね? 手伝うよ」
     と、霊犬のミッキーを連れた來鯉が手伝いを申し出てくれて。二人は一緒に四つ葉を探しはじめた。
    「あった!」
    「あっ、見つけたっ」
     二人が声を上げたのはほぼ同時で、ひとつ見つかると近くにもあるのかいくつか四つ葉は見つかって。
    「はい」
    「ありがとう!」
     來鯉から四つ葉をもらい、数える菜月。
    (「私のぶんはないけど、みんなが幸せになってくれたら私も幸せだからいいかな♪」)

    ●ゆるりと
     思い思いに過ごしている皆を木陰に腰を下ろして眺めているのは【古書・骨董【龍泉堂】】の小袖。文庫本を持ち込んだマキシミンも仲間達を見つめている。普段は学校や戦いで忙しいものだから、たまにはこうしてのんびり過ごすのも悪くはない。
    (「そういえば……」)
     金平糖を持ってきた事を思い出して、小袖は後で皆に配ろうと思う。今はこの風景をしかと目に焼き付けておこうと思って。
     カシャ、小さな音に小袖が首を巡らせると、そこにはカメラを持った芽衣といつの間にか眠りに落ちたマキシミンの姿が。春の風景と皆をそっと写真に収めて回っている芽衣。
    「うん、みんなだらだらしてるだけだな。野原ってごろごろしてれば良いのか。今知ったよ」
    「今ですか?」
     フィンの言葉にくすくすと笑みをこぼす柚季の緊張はだいぶ解けたようだ。緊張が溶けると襲ってくるのは前日楽しみで眠れなかった分の眠気。レジャーシートに寝転がって雲と仲間達の様子を交互に眺めていた源一郎は、船を漕ぎかけている柚季を見て。
    「眠くなるのも無理は無いのう。眠るならシートの上はどうじゃ?」
    「……あ、ありがとうございます、店長。少しだけお昼寝を……」
     寝転がってすぐ眠りに落ちた柚季を芽衣がパチリ。野原に横になってごろごろ転がったり、クラスメイトであるユリアを見つけて手を振っているフィンもパチリ。
    「記念撮影、しましょうか」
     戦い以外で楽しい時間が送れたことを心の中で感謝しながら源一郎は芽衣の提案に頷いて。眠ってしまった皆が起きてから、そっと皆で寄り添って記念の一枚。
    「いつか私達も、この他愛もなく静かな一日を、思い出す日がくるのでしょうね」
     店にあった老夫婦の写真を思い出しながら、芽衣はカメラを抱いた。
     ゆるりとしたお喋りは心弾ませて。そっと煌介は口を開く。
    「……俺、駄目兄貴だから、クノンのこころ、止める権利も方法も無いんだ……よなぁ……」
     ごめんと謝るのは、先日の出来事。クノンのお願いは、元より奇跡でもなければ叶わない。そっと、想い人の名を耳打ちすれば、煌介は頷いて。確かに恋は怖いけど。
    「……クノンは俺より誰より強い兎だ」
     微笑みの代わりに精一杯、瞳に優しい光を湛えて。その言葉にクノンは口角を上げて深い笑みを返す。彼女は、真意を何一つ語らない。するりと手の甲で煌介の頬を撫で、前髪を梳き横へ流す。
    「おやすみ、お兄さま」
     黒虎から貰った犬耳帽子を被った銀河。頭を撫でられれば、尻尾をぱたぱたしたくなってしまう。戦争を振り返って、互いの無事を喜び合い、そして迎えた平和な時間を甘受する。
    「なぁ銀河、また膝枕でもしてくれねーか?」
    「膝枕? ……うんいいよ、ちょっと恥ずかしいけどね」
     しかし遠慮無く黒虎が飛び込んだのは銀河の胸元。
    「って、あ、や、そこ違……っ!?」
    「おっと、まちがえたかー?」
     明らかに棒読みの黒虎だが、銀河はツッコミを入れない。戸惑い、赤面しているけれどこんな事できるのは頑張ったから。幸せを、噛み締める。
     ユリアに声を掛けた玖耀は、アカツメクサを手にして。
    「この花言葉のようにありたいなと」
     少し照れたように微笑み、押し花にして栞にするつもりだと告げる。
    「私は紅色を」
     ユリアが選んだのは紅色。綺麗な色なのでと彼女は笑む。
    「四つ葉のクローバーが人を幸せにするように、私もこの力で一人でも多くの方の幸せを守れるように、そうありたいと思います」
     経験からくる思いを、そっと呟いて。
     そっと、他の人から離れた所でその光景を見ている流希。
    「幸せを 探す四つの葉に 教えられ。ああやって共に探す人がいるだけで、すでに幸せなのですねぇ……」
     持参したコーヒーをすすりながら、そっと呟いて。
    「さて、ゆっくりとしますか、天気も良いことですしねぇ……」
     仰向けに寝転んで、よく晴れた空と草の香りを楽しむのだ。
     二人きりで初めてのお出かけ。ごろんと寝転ぶ奏(d06871)と夢衣。
    「風が気持ちいい……」
    「……はふ、なんだか眠くなってきちゃった」
     うとうとしてしまうのはゆっくり休んでいる証。ふと夢衣が隣を見れば、大切な人を守れるよう強くなろうと頑張っていた疲れが出たのか、奏(d06871)はすでに夢の中。夢衣の事を夢見て、幸せそうに微笑んでいる。
     先に眠ってしまった彼の寝顔をそっと眺める夢衣。こういうのも、幸せの一つの形だ。奏(d06871)の頭を軽く撫でて微笑む。
     春の風が優しく、二人の頬を撫でていった。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月8日
    難度:簡単
    参加:42人
    結果:成功!
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