殺戮印のお茶会へようこそ

    作者:志稲愛海

    「俺様チャン、サイコーにイカしてるぅっ!!」
     キャッキャとはしゃぎながら、興奮気味に声を上げるのは――高校生くらいの少年。
     そして、ブシュウッと噴出した返り血を浴び、瞳を爛々とさせて。
    「あははー、首ちょんぱにしちゃったしぃー」
     ゴトン、と地面に落ちた首に、ケラケラと笑う。
     まるでアリスの世界の様にメルヘンな雰囲気で行なわれていたお茶会が。
     一瞬にして、惨たらしい殺戮ゲームの舞台と化したのだ。
    「てゆーかー、闇堕ち誘発させるゲームとかぶっちゃけチョーめんどくさいなー。灼滅者だか何だか、みーんなバラバラに切り刻んだり串刺しにしたりして、全員ぶっ殺したいってカンジなんだけどぉー」
     はむりと、テーブルに並ぶイチゴショートケーキをひとつ、口にしながらも。
     少年は自分が作り上げた死屍累々をぐるり見回して。
    「でもまー、チョー闇堕ちさせて序列とか上がっちゃえば、ますますみんなが俺様チャンのこと羨ましがって構ってくるだろーしぃー」
     それはそれで面白いよねーと、すぐ傍にあったフォークを握り締めると。
    「あーもう早くこないかなぁ、灼滅者のオモチャちゃんたち」
     足元に転がっている頭部の脳天に、ぐしゃりと突き刺したのだった。
     

    「……サイコーにイカしてるって? サイコーにイカれてる、の間違いだろ」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は唇を噛み締め、思わずそう吐き捨てた後。集まってくれてありがとーと、いつも通りのへらりとした笑みを灼滅者の皆へと作ってから、今回解析した未来予測を伝え始める。
    「このフザけたイカれ野郎はね、六六六人衆の序列五四二位『有末・七兎(ありすえ・ななと)』、高校生くらいの男だよ。童話好きが100人ほど集まった大規模なお茶会イベントの会場に現われて、参加者達を次々と惨殺するんだ」
     だが七兎の一番の標的は、このお茶会に参加している一般人ではない。
     彼が待っているのは、六六六人衆等が繰り広げている闇堕ちゲームの為の駒――武蔵坂学園の灼滅者なのである。
     
    「イベントの最中にね、ビンゴ大会が行なわれるんだけど。そのビンゴで七兎が、フラミンゴ型のクロッケーの槌を当てて、会場前方にある舞台に上がるんだ。そして、受け取った槌でイベントスタッフを殴り殺す……この直後が、接触のタイミングだよ」
     そう語る遥河の表情は冴えない。
     それもそのはず……もしも解析されたタイミングよりも早く動き、殴り殺されるスタッフを助けに動けば。バベルの鎖に察知され、もっと悲惨な状況を生み出してしまうかもしれない。それに、たとえ予測に抗い早く動いたとしても……相手の力量を考えると、一般人を助けられるかどうかも、正直定かではない。
    「でもね、このイベントの参加チケットをみんなの人数分だけ用意できたんだ。だから、あらかじめ会場には入り込めるから、鎖に察知されない程度にだけど、できるだけ被害を抑える工夫は気持ち程度ならできるかもしれないよ」
     ただ、例えば、最初の凶行の凶器となるビンゴの商品を隠したり、ビンゴ大会が中止になるような行動をとれば、七兎がいつ行動を起こすかすら分からなくなってしまうだろう。
     それに鎖に察知され、もしも七兎がこのイベントでの闇堕ちゲームを止めたとしても。性格的に、別の場所で憂さを晴らすようにめちゃくちゃに暴れ回る可能性も高い。
     十分慎重に、未来予測を生かすべくどう行動するか、作戦を立てて欲しい。
    「ヤツは、妖の槍と鋼糸を得物としていて、このふたつの武器と六六六人衆のサイキックで攻撃してくるよ。勿論、基本戦闘術も修得してる。すごく強敵で、誰かが闇堕ちしたとしても灼滅できるかすら分からない相手だけど……一般人を虐殺させるわけにはいかないからさ……この野郎の殺戮を、阻止して欲しいんだ」
     それから灼滅者達を見回しながら、イベントのチケットをひとりずつ手渡して。
    「七兎の一番の目的は、灼滅者を闇堕ちに追い込むこと。もしも闇堕ちする人がでちゃったら、ヤツの思う壺ではあるんだけど……今回は、一般人の殺戮を止めることを、お願いするね」
     危険なお願いなのは承知の上なんだけど、と。
     遥河は、無事を祈るように紫の瞳を細め、皆を見送るのだった。


    参加者
    周防・雛(少女グランギニョル・d00356)
    八幡・向日葵(詠うプロレタリアート・d00842)
    宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)
    リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)
    九重・木葉(凡々愉快・d10342)
    獺津・樒深(燁風・d13154)

    ■リプレイ

    ●Alice's Croquet-Ground
     無邪気な兎がぴょんと刎ね、フラミンゴの槌を握ったありすは嗤う。
     さぁ、愉快なゲームをはじめよう――と。

     懐中時計を下げたウサギのウェイターが忙しく走り回って。
     可笑しな紳士や少女達が、誕生日ではない今日を祝っている。
    (「こういうメルヘンなお茶会、ヒナなら大喜びそう……っと、もう楽しんでいる」)
     風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)は、楽しそうにスイーツをパクリと口に運ぶ少女に視線を向けて。
    「孤影、孤影、このパンケーキおいしい。あ、こっちのカナッペも……」
    「はいはい、今いくよ」
     腕をくいっと引く周防・雛(少女グランギニョル・d00356)に並んだ。
     そして雛はスイーツを、近くの人達にもお裾分け。
    「サリュ、いかが?」
    「いいの? ありがとう」
    「折角だし、私もいただくわ」
     黒いスーツに猫尻尾の装飾付きの帽子に、ストール。宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)はひとつ、勧められたスイーツを摘んで。
     さらりと銀髪を靡かせ、ミステリアスな赤の瞳を細めたリリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)も美しい微笑みを彼女に返す。
     そんな二人に、ジュヴゾンプリ、とお辞儀した後。
    (「うふふ、これが依頼でなければいいのに」)
     トランプのカナッペを口に運びながら、孤影と周囲を見回した雛は。
    「……セ・ボン、ですの」
     ふと真剣な表情で、彼の袖をそっと握る。
    (「勿論折角のお茶会だしギリギリまでは楽しませて貰う心算だけれど」)
     リリシスも、巡らせていた視線を不意に止めた。
    (「せっかく面白そうなイベントなのにな……どうせなら普通に遊びに来たかったよ」)
     九重・木葉(凡々愉快・d10342)もそう息を吐きつつ、ある人物へと目を向ける。
    「俺様チャン、あまーいもの大好きー」
     抜け抜けとお茶会を満喫している――六六六人衆、有末・七兎の姿に。
     そんな七兎をさり気なく見据え、獺津・樒深(燁風・d13154)は小さく首を振る。
    (「飛鳥井の言葉に同意。いかしてるじゃなくて、イカレてる」)
     殺雨・音音(Love Beat!・d02611)も一見へらへらしている七兎から、嫌と言う程に感じていた。
    (「恐いのはキライだよぉ。ネオンには何が楽しいのか分かんない~」)
     この男に満ちる、狂気を。
    (「褒め言葉にしかならんのやろうけど最悪の趣味っちゃ」)
     八幡・向日葵(詠うプロレタリアート・d00842)も下品に笑う七兎に眉を潜めつつも。邪魔になりそうなオブジェや荷物を、端へと寄せておく。
     出来る事は少しかもしれないけれど。一人でも多く、助けたいから。
     ――そして。
    『では皆さん、堂々巡りなビンゴ大会開始です!』
     運命のゲームが始まりを告げた。

    「あはは!! さっすが俺様チャン、ビンゴー!」
     突然響いた彼の声に。
     灼滅者達だけでなく、会場中の視線が集まる。
     それと同時に会場出口の扉をさり気なく開けに動く、向日葵や木葉。
     そして舞台へと上がり、トランプの兵隊から受け取った景品のクロッケーの槌を眺めてから。
    「んじゃ……タルトを盗んだハートのジャックは撲殺刑ー♪」
     七兎がくるりと大きな槌を軽々回した、瞬間だった。
    (「足りないかもだけど、それでもっ」)
    「!」
     諦めるのはイヤだもん――槌が振るわれるその前に動いたのは、音音。
     そして音音は七兎に狙われたスタッフを、舞台から咄嗟に連れ出す事に成功する。
     だが――七兎は何故か、槌を振るわなかった。
     代わりに、ポイッと槌を投げ捨ると。
    「……ッ!」
    「残念でしたー!! バベルの鎖が教えてくれたから、みーんなお仕置きぃー!」
     放出したのは、無尽蔵の殺気。
     その衝撃がステージ周辺を、一瞬にして、血の海へと変える。
     そんな七兎目掛けて飛ぶは、1本のフォーク。
    「! わ、あっぶなー」
     だが突き刺さんとする勢いで樒深から投じられたフォークを二本指で軽々受け止めて。それを再び、鋭く投げ返す七兎。
     そして、『熄』と――そう静かに紡いだと同時に握った解体ナイフで、樒深はその鋭撃を叩き落とすと。
     焔消ゆる時の如く音も無く、六六六人衆の前へと躍り出た。
    「下がれ!」
    「ステージから離れて!! 出口はこっち!」
    「ステージから離れて、後ろの扉へ逃げり! 慌てず逃げてな!」
     向日葵や木葉が割り込みヴォイスやアナログメガホンで呼びかけ、殺界形成で人除けをする孤影や雛や音音。
     そして木葉は、助かったトランプ兵隊のスタッフに告げる。
    「お客さんの誘導を」
    「あ……は、はいっ」
     トランプ兵隊は慌てて傍の非常ベルを鳴らすと。
    「あ、ありがとうございますっ」
     音音へと頭を下げると、近くの客と共に出口へと駆け出した。
    「……4、5、6……前の方に灼滅者チャンたちいたから、一撃で逝かせたのたった6人かー」
     ちぇーと物足りなそうに被害者を数える七兎を前に、阿鼻叫喚の会場を背にして。
    「面白い場所を会場に選んだね、あんたの趣味なのかな?」
    「面白いでしょーっ! メルヘンな世界が、こーんなに一瞬にして血や悲鳴で溢れるんだもん!」
    「頭ん中お花畑なんだねー、そのままお花畑逝っちゃえよ」
     赤黒い錆の付いたナイフで遊ぶが如く、死角から七兎へと斬撃を放つ絢矢。
     今目の前で笑うのは、子供より酷い我が侭と趣向に疑問も持たずに進む慢心屋の姿。
    「この平和に溢れた茶会に参加する資格は無ぇよ、お前は」
    (「あんな頭イカレてるヤツのせいでお茶会を台無しになんてさせない、なんとしても止めて見せる」)
     樒深が繰り出す拳の連打を往なす七兎へと、急所を狙い、七回のおり返しで鍛え上げた短刀と満月を思わせる銀の刀で斬りかかる孤影。
    「ありがと、君たちも逃げて」
    「護ってみせるけん、慌てんで前の人と一緒に逃げてな?」
     仲間が敵の足止めを担う間に。
     木葉や向日葵が最後のスタッフを会場外へと逃がし始めるが。
    「あっはは! チョー慌ててる、爆笑ー! ほら、早く逃げないと死んじゃうよぉー」
     そう得物を振り下ろそうとした七兎の間に割って入るのは、音音。
     殺伐とした雰囲気は嫌いだけど。
    「ガンバってたくさんの人守って、それで、大好きな弟のクオンに、お姉ちゃんスゴイって褒めて貰うんだからっ」
     ぐっと、震える両手を必死に広げる。
    「あら、そんな有象無象をぷちぷち潰しても貴方の目的は達せられないわよ?」
     リリシスも七兎の意識を一般人から逸らすべく、言葉で煽ってみるも。
    「俺様チャン、面白ければそれでいーのっ。てか結構楽しいじゃん? 蟻をプチプチ潰して遊んだことくらい、あるでしょ」
     ね? と、目の前の絢矢に笑む七兎。
    「…………」
     絢矢は答えずにただ、ナイフを構えて。
     押さない! 走らない! 喋らない! と一般人を誘導し、小さい子を近くのスタッフに託しながらも。
    「こんなんいっちょん面白くないし、好かんっちゃ!」
     向日葵は、ケタケタ笑う七兎に大きく首を振る。
     そしてESPを使った声掛けや人払い、さり気ない事前準備や誘導の甲斐あって。
     何とか一般人を、会場から出すことができたのだった。
     犠牲は皆無ではなかったが、一般人の大虐殺は避けられたのだ。
    「てか、バタバタ逃げる人間がゴミみたいで面白かったぁー」
     七兎はそれから、笑みをニヤリと浮かべて。
    「で、今から灼滅者チャンたちが、俺様チャンを楽しませてくれるんでしょー? だからゴミが片付くの待っててあげたんだぁー」
     足元の血塗れの頭を、蹴飛ばした。
     
    ●A Mad Tea-Party
     お茶会台無しにするなんて、ひっど~い! 悪趣味! サイテー!
     そう言いたいところだが。
    (「……でも、そんなこと言ったら狙われちゃう!?」)
     音音はお口チャックしつつも、影の触手で七兎を絡めとらんとして。
    「サリュ・アンシャンテ。悪戯好きなアリスを追ってきたの。ヒナと、踊ってくださる?」
    「これ以上、先に行かせない!」
    「残される家族らの事も考えんと、人の命を奪うのは許せんっちゃ。いつまでも好きにできると思わんでなっ」
     サァ、オドリマショ? そう仮面を被った雛は、オベロンとティタニアと共に優雅にお辞儀した後、キ印アリスをマリオネットにすべく糸を放つと同時に。
     孤影の夜霧の如き影の触手と向日葵の制約の魔法弾が、容赦なく七兎へと襲い掛かれば。
    「童話の最後って、悪い奴が死ぬんだよ」
     そう言ってナイフを口に咥え、両手で握る絢矢のガトリングガンから嵐のように弾丸が撃ち出されて。
    (「わざわざこんな回りくどい事をしなくとも、学園に挑戦状でも出せば皆喜んで飛んでいくでしょうに」)
     リリシスが天に描き出すは、輝く魔方陣。
    (「まあ、さておき序列持ちとの戦闘は楽しみね。どんな技を見せてくれるのかしらね?」)
     発現した魔法陣から、霊的因子を強制停止させる結界が構築され解き放たれる。
    「闇堕ちゲーム、ね。そう何でも想い通りに進むと思うな」
     樒深の敵を粉砕するかの如き一撃が唸り、木葉の高めの構えから振り下ろされた早く重い斬撃が敵を断たんと大気を割く。
     だが七兎は平然と、爛々に瞳を輝かせながら。
    「俺様チャン、最強で最凶にイカしてるぅー!!」
    「!!」
     どす黒い殺意を一気に漲らせ、眼前の灼滅者達を容赦なく飲み込む。
     そして大きく首を傾け、嗤う。
    「灼滅者チャンたち、俺様チャンを早く楽しませろよぉっ!! つまんなかったら、駅前で沢山の雑魚ぶっ殺しちゃうぞぉっ!」
    「もう殺させ無い。……娯楽じゃ無ぇんだよ、殺すのは」
    「いっちょもいかしとらん。そこで痺れとき!」
     そう得物を握る灼滅者達の言葉を、七兎は鼻で笑って。
    「まーヨユーない灼滅者チャンたちは必死だろーけどー」
     構えた槍を大きく螺旋状に振り回しながら。
    「殺戮って……サイコーの娯楽じゃん?」
    「!」
     ゾクリとする程の、残虐な笑みを宿す。
     そして。
    「弱っちいヤツは、死ねばいいんだよぉっ!!」
    「! ……ッ」
     串刺しにするかの如く、目の前の樒深へと、容赦ない突きを見舞ったのだった。
     その衝撃は口だけでなく、強烈。
     だがリリシスはすかさず再び魔法陣を展開して。
    「今、私の魔力で回復するわ」
     霊力の光を撃ち出し、仲間の傷を塞ぐ。
     そして高笑う七兎から一旦距離を取ると。
    「変だなあ。俺、結構戦うの好きなんだけど、燃えない」
     木葉は首を傾げた後、すぐに納得したように頷くのだった。
    「ああ……あれか。これがうっざいってやつか」
     それは、関わることすら気分の悪い目の前の邪悪に対する、心の奥底からくる生理的な拒絶。
     木葉は地を蹴り、死角からの閃く斬撃を繰り出す。
     同族嫌悪の感情を、自覚しながら。
    「ほら、俺様チャンの頚動脈はココ、ココ!」
    「これだから六六六人衆って好きじゃないんだ」
     木葉は改めて七兎を見据えつつ、武器を握りなおす。

    ●Down the Rabbit-Hole
    「首を撥ねよ、オベロン! ティタニア!」
    「そのイカれた頭と共に消え去れ!」
     ほぼ全員が前に出るという、灼滅者の攻めの布陣。
    「素敵よムッシュ、惚れ惚れしちゃうわ」
     孤影と絶妙の呼吸で攻撃しながら、彼へとそう微笑む雛。
     そんな様子を、七兎は目ざとく見つめて。
    「あー! もしかしてー、お二人チャンはリア充ー?」
     愛の力でこんな傷つけられちゃったーっと、つけられた傷を指してケラケラ笑った後。
    「でも、リア充って……爆発するんでしょー?」
     ドカーン! と子供染みた声を上げ、狂気の色を宿す。
    「あんたがくたばって、この物語はハッピーエンドさ」
     そんな七兎へと変形させたナイフの刃を向け、その身を斬り刻まんと地を蹴る絢矢。
     満ちる血の匂い、殺気ぶつかり合う戦場。
    「みんなが逃げるまで倒れてやらん。八幡っ子の意地、みせちゃー!」
     回復よりも攻撃を主体とした灼滅者達の身には、無数の傷が生じている。
    (「ネオンは戦うの好きじゃないし~、恐いから~、だからこんな殺伐なのも向いてないの~!」)
     音音はそう首を振るも。
    (「でもでも、皆が行くって言うから……ネオンだけ逃げちゃ、カッコ悪いでしょ~?」)
     指先に集めた浄化の霊力を撃ち、仲間達を懸命に支えている。
    「メルスィ!」
    「まだだ!」
     そして、オベロンとティタニアを供に殺戮のダンスを踊る雛と、孤影の緋に輝く得物が、七兎の身を斬って。
     リリシスが癒しの魔力を魔法陣から撃ち出す間に、樒深の重い戦艦斬りの一撃と木葉の振り下ろした刀の斬撃が、立て続けに見舞われる。
     攻撃は最大の防御というが。
     集中して浴びせられた灼滅者達の攻撃に、ぐらりと上体を揺らした七兎は。
    「わあー、やーらーれーたぁー」
     ばたりと、大の字になって倒れたのだった。
     確かに……手応えが全くなかったわけではないが。
     大袈裟なその仕草は、自分達をからかっているのが丸分かりだ。
     油断せず、倒れている七兎へと視線を向ける灼滅者達。
     そして――次の瞬間。
    「……ッ!」
     倒れたままの体勢ですかさず七兎が槍から放ったのは、鋭利な氷柱。
     そしてその氷柱が貫いたのは――。
    「ヒナ!!」
    「あはは、大当たりー! てか、俺様チャン名演技ー!!」
    「あれで演技のつもりだったのかしら?」
    「思いっきりバレバレっちゃ」
     リリシスと向日葵はそう呆れつつも、再び身構えるが。
    「!!」
    「どーするぅー? 大切な恋人チャンの首をちょーんと刎ねて、殺しちゃうよー?」
     ニヤリと残忍に笑む七兎。
     そして。
    「……パルドン、ムッシュ……は、あッ!」
    「ヒナ! やめろ……!」
     ヒュンッと風が鳴った瞬間、高速で放たれた鋭利な糸が、倒れた雛をさらにきつく縛り付ける。
     そしてケラケラ笑い、七兎はこう言い放ったのだった。
    「さすが俺様チャン、主演男優賞ー!!」
     その言葉にピクリと反応したのは、絢矢。
    「主人公は、あんたじゃ……!」
     だが……それを、遮る様に。
    「すぐ帰る……後はよろしく」
     孤影の全身を――深い深い闇が、包み込んだのだった。

    「! 風見くんっ」
    「ムッシュ……孤影!」
    「あはは! 堕ちた、堕ちたー!!」
     狂ったように笑う、七兎。
     だがそんな彼に放たれたのは。
    「人間を、舐めるな!」
    「! おおっとっ!」
     スピードも威力も段違いに上がった、孤影の黒死斬の一撃。
     その衝撃が七兎の腕に鮮血を迸らせる。
     そして。
    「これって、そろそろ退き時ー? じゃ、バイバイー」
     そう言うやいなや、勢いよく跳躍して撤退をはかる七兎であるが。
     闇堕ちした孤影を挑発するように、人差し指をくいくい動かしながらも笑う。
    「惜っしいなー、もうひとりくらい堕ちそうだったのに……ねぇ?」
    「……!」
     絢矢はそう自分を見つめる七兎の撤退を促すように、ガトリングガンを連射して。
     残された灼滅者達は、ただその背中を見送るのだった。
     去っていく七兎と、それを追う孤影の後姿を。

    作者:志稲愛海 重傷:周防・雛(少女グランギニョル・d00356) 
    死亡:なし
    闇堕ち:風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902) 
    種類:
    公開:2013年4月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 16/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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