寄り添う二人と忍び寄る死者

    作者:灰紫黄

     純平は美咲を裏山の旧校舎に呼び出した。幼いころ、よく遊んだ場所だった。もっとも、今のように二人きりではなかったが。
    「な、なによこんなところに呼び出して」
    「いやまぁ、なんとなく察しついてんじゃない?」
     純平が苦笑すると、美咲も顔を赤らめた。暗くても表情が分かってしまう。それくらい、二人はずっと一緒にいた。けれど、その関係も変わる。両親が離婚し、純平も遠くへ引っ越すことになった。
    「あのさ、俺、お前のこと……」
     言いかけて、止まる。照れくさかったとか、そんな生易しい理由ではない。美咲の背後から、大勢の死者が迫っていたから。
    「美咲、逃げるぞ!」
     手をとって逃げ出す。その先にも死者が待っていると知らずに。

     春を迎え、気温も上がってきた。上着も必要なくなってきたかもしれない。教室に走って入ってきた口日・目(中学生エクスブレイン・dn0077)は上着を脱ぎながら説明を始める。
    「ノーライフキングの眷属が事件を起こすのを視たわ。話を聞いて」
     眷属は標的を殺害し、アンデッドにするために死体を持ち帰ろうとする。今回はそれを阻止してほしい。
     標的は高校生の男女。二人きりで話すために裏山の旧校舎を訪れたところで眷属に襲われる。余談だが、なかなか込み入った話であるとのこと。
    「ゾンビはさほど強力じゃないわ。けど、数が問題ね」
     数は全部10体。そのうち一体はひときわ強力で、大鎌を装備している。他のゾンビは殴る蹴るなどの単純な攻撃をしてくる。
    「二人が上に登ってしばらくしたらゾンビが現れる。昇降口で迎撃して」
     二人を学校から遠ざけると予知から外れ、ゾンビが現れなくなる。心苦しいかもしれないが、二人を囮にする必要があるということだ。
    「説明は以上よ。ゾンビを倒したら、できれば二人に見つからずに帰ってきて。いろいろと気まずいだろうから」
     そう締めくくって目は灼滅者を送り出した。


    参加者
    蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)
    高城・美穂(風詠みの巫女・d01448)
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    アイリス・シャノン(春色アンダンテ・d02408)
    大條・修太郎(紅鳶インドレンス・d06271)
    宇津木・拓真(気紛れな突風・d14697)
    五十嵐・舞(狂心の徒・d15074)
    春夏秋冬・初衣(泡雪ソネット・d15127)

    ■リプレイ

    ●夜
     灼滅者達はあらかじめ旧校舎に到着し、物陰から二人の到着を待つ。灯りはないが天気がよく、月と星とが仲良く顔を見せていた。純平がここに美咲を呼び出したのも頷ける。
     やがて二人が現れ、つかず離れずの距離を保ったまま旧校舎に入っていく。その距離が縮められるといいのだが。灼滅者達はそう願いながら、二人の姿が見えなくなるのを待つ。完全に気配が消えるのを確認して、昇降口に布陣。サウンドシャッターを発動し、音を断つ。そのまま月光浴としゃれこみたいところだが、もちろんそうはいかない。
     じゃり、じゃり、と柔らかいものが土を踏む音がした。全部で十体の死体の群れである。先頭には身の丈ほどもある大鎌を構えたゾンビがいた。まるでホラー映画のワンシーンだ。
    「アンデッドを見ると、またか、と思ってしまうな」
     三月の終りにも大勢のアンデッドと戦ったばかりだ。溜め息のひとつもこぼれてしまう。二夕月・海月(くらげ娘・d01805)の足元の影がその名と同じ海月の形をとった。
    「さって。ここから先は立ち入り禁止っすよ」
     まぁ言っても意味ないと思うっすけど、と宇津木・拓真(気紛れな突風・d14697)は不敵に笑う。いずれはもっと強大な敵と戦わなければならないのだ。こんなゾンビ相手につまずくわけにもいかない。それに、背後の旧校舎には青春まっただ中の二人がいる。負けられるものか。
    「大切、な、おは、なし、じゃま、させ、ませ、ん」
     春夏秋冬・初衣(泡雪ソネット・d15127)はおそるおそる、といった風に言葉を口にする。けれど瞳は真っ直ぐにゾンビに向けられていた。月光で髪と瞳が、そして手にした日本刀が青白く輝く。
     じゃり、じゃり。灼滅者達を敵と認識した死者の群れが迫る。その足音は、湿っているのにどこか機械的だった。
    「さて、彼らの甘酸っぱい青春のためにも頑張りますか」
     もう生きてはいないが、目の前のゾンビ達は殺人衝動を吐き出すのにはもってこいだった。五十嵐・舞(狂心の徒・d15074)は無意識に殺戮経路をシミュレートし、ゾンビを解体する図を想像する。待ちきれないと体中がうずいた。
    「人の恋路を邪魔するやつは何とやら、だな」
     用意しておいたヘッドライトを点灯する。月明かりとバベルの鎖があれば問題ないだろうが、念の為だ。さらに武器を呼び出し、大條・修太郎(紅鳶インドレンス・d06271)は戦闘準備を整える。
    「キキィ!!」
     鎌を持ったゾンビが奇声を上げた。知性も感情も残っていないはずだが、腐った顔が笑みの形に変わる。鎌を振り上げると、ところどころ白骨した体を引きずって、死者達は生者に襲いかかった。

    ●死者の群れ
     蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)の指が伊達眼鏡に触れた。もう片方の手にはスレイヤーカードがある。
    「私の影……目覚めてここに力を!」
     彼女の言葉に呼応し、カードが武器を解き放つ。戦意を示すように、ガトリングの砲身が高速回転した。それに悠も思春期の少女だ。漫画のような今回のシチュエーションには興味がないでもない。
    「もち、お願い!」
     アイリス・シャノン(春色アンダンテ・d02408)の傍らに霊犬のもちが現れ、仲間を守るために前衛に飛びだす。首に巻いたピンクのスカーフがびょこびょこ揺れた。主のアイリスも恋する乙女の一人として負けるわけはいかない。白刃の日本刀が月夜にきらめく。
    「力無き人のための盾とならんことを」
     高城・美穂(風詠みの巫女・d01448)の体を覆うオーラが波打つのと同時、涼やかな風が長い黒髪をたなびかせる。
    「おっぱじめるっすよ!」
     光の盾を展開した拓真が大鎌のゾンビに体当たりする。防御役の役目は大鎌のゾンビを引きつけることだ。その間に、攻撃役が雑魚ゾンビの数を減らす算段になっている。狙い通り、大鎌は拓真へと降り下ろされる。
    「僕を忘れるな、お前の相手はここにもいるぞ」
     その横から、修太郎が同じく光の盾で突撃する。付与された状態異常をゾンビが回復できない以上、抑えは効果的に機能するだろう。
    「行こう、クー。仕事の時間だ」
     海月型の影が海月の腕に絡みつく。影はみるみるうちに腕を黒く染めた。黒い腕で殴れば、ゾンビに妄想の敵が張り付く。
    「キ、キキィ!」
     大鎌が黒いオーラがにじみ、波となって前衛を飲み込む。そういう効果があるのだろう、普段より武器が重く感じられた。
    「冒涜的な糞ゾンビさんおハローですよぉー。そしておっ死ねや」
     嬉々とした表情を浮かべ、舞は円盤状の光線をばら撒いた。腐った肉体が引き裂かれ、同じように腐った血が流れる。あるいは、白い骨の断面が露わになる。それでも死者の群れは歩みを止めない。
    「が、ああっ」
     呻きとも悲鳴ともつかない声がゾンビの口からもれる。生前の機能の名残だろうか。拳が初衣を狙う。けれど彼女は半歩下がってそれをかわした。
    「撃ち、ます」
     ほとんど零距離、初衣は突きの姿勢で刀の切っ先から毒の弾丸を撃ち出す。急所に当たったらしく、ゾンビの一体が倒れて地面に溶けて消えた。
    「数が多いというなら、じっくりじんわり毒にまみれさせてあげます」
     悠のナイフから黒い霧が染み出す。霧は次の瞬間には風巻き込み逆巻いて、ゾンビ達を包み込む。腐った体をべっとりと毒で塗りつぶす。
     雑魚ゾンビは数こそ多いが、戦闘能力は低い。灼滅者達は油断なく死者達を追い詰めていく。

    ●夜に沈む
     もちはフットワークを駆使してゾンビの背後に回り、六文銭で足止めする。
    「死人は土に還りなさい」
     アイリスが虚空に手をかざせば、裁きの光がその手に宿る。その手の先にいるゾンビを光が穿ち、文字通り土へと還す。灼滅者の猛攻に、分ごとにゾンビは数を減らしていく。
    「いきますよぅ」
     ごう、と炎が美穂のガトリングを包む。上段に降り上げたガトリングを一気に叩きつけ、最後の雑魚ゾンビが地に沈んだ。
     これで残るは大鎌のゾンビだけだ。代わりに、防御役の二人の損傷は小さくない。もともと灼滅者数人分の戦闘能力があるようで、攻撃もあまり通っていない様子だった。
    「もちも手を貸して」
     アイリスは裁きの光を癒しの光に変えて、防御役を包んだ。もちも癒しのまなざしを送る。全ての傷はふさがらないが、血が止まるのと同時に武器の重さが消えた。
    「キキ!」
     ゾンビの怒りは鎮まることはなく、鎌が拓真の首を狙って振り下ろされる。だが、彼は刃が首に触れる寸前に光輪で受け止める。
    「やられてばっかじゃないっすよ」
     魔力の矢が至近距離で放たれ、腹部に突き刺さった。さらに矢を構成する魔力が内側から炸裂する。
    「人の恋路を邪魔するモノは、馬ならぬ灼滅者に蹴られてしまいなさい」
     悠の手元から鈍い金属音がした。ガトリングが高速回転し、夜の闇を切り裂く炎を吐き出す。ポジション効果もあり、ゾンビは一瞬で火だるまになった。
    「キキィキキキキイイイイイイィ!!」
     悲鳴なのか、怒りの叫びなのかは分からない。ただゾンビの口からは狂気に満ちた奇声が発せられた。
    「もう、終わりますからねぇ」
     美穂の腕が鬼の腕に変わり、正面からゾンビを叩き伏せる。衝撃でゾンビが宙を舞う。その着地点には初衣が先回りしていた。
    「ねむっ、て、くだ、さい」
     細い指先から銀色の光条が放たれ、ゾンビを貫く。結果、ゾンビは着地もできずに膝から崩れ落ちる。
    「そろそろお終いですかぁ?」
     心底楽しそうに笑う舞。殺人衝動と闘う日々の鬱憤を晴らすように、容赦ない攻撃を仕掛ける。足元か影が膨らみ、ゾンビを飲み込んだ。
    「僕から行くよ!」
     修太郎が目を合わせれば、海月も頷いて走る。眼鏡の下から、修太郎の鋭い視線がゾンビに刺さる。槍の先に集まった妖気がつららを形成、そのままゾンビを穿つ。さらにその背後へと海月が迫る。
    「もらった!」
     再び彼女の腕に影の海月が絡みつく。今度は無数の刃に姿を変え、大窯のゾンビに引導を渡した。

    ●月風
     何も知らない純平と美咲が通りかかってもいいよう、灼滅者達は後片付けを始めた。ゾンビは跡形もなく消え去ったが、大鎌の残骸だけは残ったので舞がバラバラに粉砕した。
    「さて、ぞうするかな」
     切り出したのは修太郎だ。二人がどうなったかは気になるものの、覗きに行くのはやはり躊躇われた。意見を聞いてみると、そのまま帰る者と様子を見に行く者とで半分半分である。それからなんやかんやあって他愛もない四方山話に突入。煮え切らない空気が続く。
     コツコツ、コツ、コツ。
    「おおっと。リア充が帰ってきましたね」
    「ほら、こっちだ!」
     不意に乾いた足音が二つ聞こえてきた。灼滅者達は慌てて身を隠す。ちょうど戦闘前に隠れていた場所に収まった。
     灼滅者達は黙して聞き耳を立てるが、離れているせいで二人が何を話しているかは分からない。
    「……想いあえてもすぐに離ればなれ。これって、どーなのかな」
     静かに呟く拓真。言うのが幸せなのか、言わないのが幸せなのか。拓真にはまだ答えは見えない。それに、今回のメンバーはほとんど中学生だ。呟きに答える者もない。
    「あ、あれ!」
    「しーっ」
    「……す、すみません」
     美穂が驚くのも無理はない。二人はみんなが見ている前で抱擁を交わした。寄りそう二人の姿には、言葉でなくとも伝わるものがあった。
    「す、てき、です、ね」
     初衣の呟きに、仲間達も思わず頷く。人を守るために戦うことは多くても、守った人の幸せを見る機会はそれほど多くない。改めて、戦う意義を思い出せた気がもする。
    「ところであの二人、なかなか動かないな」
     それはそうと、二人がなかなか帰らないので、灼滅者達もなかなか物陰から出ることができなかった。かれこれ十分くらい、純平と美咲は行ったり来たりを繰り返していた。他人の青春は案外、煩わしいものでもある。
     二人の姿が見えなくなると、灼滅者達はようやく物陰から出ることができた。
    「ラブラブだったのー!」
     恋する乙女として、テンションの高いアイリス。抱きしめられたもちも少し痛そうだ。他のメンバーはやや疲れた様子だった。
    「恋って、ちょっと恥ずかしいものですね」
     表情を隠すように、悠は伊達眼鏡に触れる。まだまだ恋に恋する年齢だ。初衣も赤い顔を伏せる。他のメンバーもぼうっと夜空を見上げた。
     こうして、死者の道は途絶え、代わりに寄り添う二人の道が残った。前途は多難だが、なんとかなる気がした。青白い月と満天星達が、旧校舎を淡く照らしていた。

    作者:灰紫黄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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