全国ご当地グルメ選手権~屋台群雄伝~

    作者:天木一

    ~宮古島・うえのドイツ文化村地下秘密基地~

    「ゲルマンシャーク様が3分間だけ復活なさったぞ!」
    「全員整列! ゲルマンシャーク様のお言葉を拝聴しろ!」
     注目するドイツ化ご当地怪人達の前に、ゲルマンシャークがゆっくりと姿を現す。
     そして、確固たる威厳ある口調で、怪人達に檄を飛ばし始めた。

    「いずれの勢力も大きく減衰している現状で、蒼の王コルベインを制する者達が現れた!
     我が復活も未だ遠い。お前達は危急に、ご当地パワーを高めなければならぬ!
     ならば、取るべき方法はひとつ!」

     怪人達を静かに見回したゲルマンシャークは、声高らかに宣言する。

    「グローバルジャスティス様よご照覧あれ!
     これより『第2回ご当地怪人選手権』を開催する!
     急ぎ、出場選手を集めるのだ!」
     
    ●第2回全国ご当地怪人選手権
     能登・誠一郎(中学生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者達を出迎える。
    「やあ、みんな。昨日の戦いは大変だったみたいだねぇ。無事に解決出来てよかったよ、ほんとうにお疲れ様」
     だが蒼の王コルベインが灼滅された事で、ダークネスの世界も動き始める。気をつけなければならないだろう。
    「昨日の今日で悪いとは思うんだけど……ご当地幹部ゲルマンシャークが動き出したみたいなんだよね」
     すまなさそうに誠一郎は事情を説明する。
    「山梨県の富士急ハイランドって知ってるかなぁ? そこで、ご当地幹部ゲルマンシャークが第2回全国ご当地怪人選手権を開こうとしているみたいなんだ」
     既にゲルマンシャークの招集を受け、数多のご当地怪人が山梨を目指しているようだ。
    「それじゃあ、その集まったご当地怪人を灼滅すればいいのか?」
     灼滅者の一人が声を上げる。だが、誠一郎は首を横に振った。
    「いえ、今回は戦いは無しなんだ」
     誠一郎が事情を説明する。
    「まず第一に、ご当地怪人選手権に集まる敵の数が多すぎること。昨日戦いを終えたばかりの疲弊した我々では倒すのは難しいだろうね」
    「第二に、選手権の影響からか、この期間だけ闇落ち状態となったご当地ヒーローも多く参加しているみたいなんだ」
     それ故、戦いになるのは避けたい。それに戦えば、現地の富士急ハイランドにも大きな被害を被る事になる。
    「だから、みなさんには現地で施設や一般人に被害が出ないように行動してもらいたいんだ。方法はみんなに任せるよ。ご当地怪人選手権に参加してみるのもいいかもしれないね」
     もう一つ大事な話がと、誠一郎は話を続ける。
    「現地には、ご当地幹部ゲルマンシャークの飛行船も現れるという情報があるんだ。みんなで手分けして、富士急ハイランドの平和を守るのと同時に、ご当地怪人ゲルマンシャークの野望をつきとめてもらいたいんだ」
     
    ●ご当地グルメ選手権
     鉄板の上を油が跳ね、焼けるソースの香ばしい匂いが漂う。
     煙昇る網焼きで、垂れる脂がじゅっと焼ける。
     揚げもの特有の油の匂い、ぱちぱちと揚げたての衣が音を奏でる。
     甘く、砂糖の焼けるような香りが鼻腔をくすぐる。
     どれも食欲が湧くグルメの数々、見て回るだけでお腹が獰猛な唸り声を上げる。
     威勢の良い客寄せが周囲を飛び交い、全国のご当地グルメ怪人がしのぎを削っている。
     ずらりと並んだ全国のご当地グルメの屋台は壮観だ。
     ありとあらゆる食べ物が今ここにある。
     そんな屋台の片隅で気勢を揚げる集団。
    「ふっふっふっ。どうやらとうとう我ら宇都宮ぎょうざ怪人が天下を取る時がきたようだ!」
    「まさにまさに」
    「ここで優勝すれば、名実共に宇都宮ぎょうざがメジャーであると知らしめることができる!」
    「まさにまさに」
    「さあ、それでは……って貴様が持っている焼きもろこしはなんだ!」
    「その後ろの貴様もベビーカステラを食うでない!」
    「ええい、始めるぞ! 宇都宮ぎょうざを売って売って売りまくるのだ!」
     
    「ご当地グルメ選手権というものが開催されるらしいんだよ」
     誠一郎が言うには、各地のご当地グルメ怪人が集まり屋台村を設営するのだという。
    「そこの売り上げてどのご当地グルメが優れているのか争うみたいなんだ」
     ご当地怪人達が自らのご当地への愛を懸けて戦うのだ。白熱したものになるだろう。
    「みんなにはこの選手権が無事に終わるように行動してもらいたいんだ」
     応援するご当地グルメを食べ尽くして優勝に貢献するも良し。
     屋台を手伝って、一緒にご当地グルメを売るも良し。
     怪人同士の諍いを収めたり、一般人の客を守るも良し。
    「ご当地グルメに熱い情熱を持っている人は、自分達で屋台を運営することもできるよ」
     無事に選手権が終わったなら、一汗掻いた怪人達と共に名物の食べ歩きも出来る。
    「昨日戦いが終わったばかりだからね。任務をこなしつつ、みんなで楽しんでくるといいよ」
     出来れば僕も行きたかったなぁと、数々のご当地品を想像してお腹を鳴らした誠一郎は顔を赤らめる。
    「それじゃあ、いってらっしゃい。土産話を楽しみにしてるよ」
    ■このシナリオは『TRPGリプレイ連動シナリオ』です
     このシナリオは『サイキックハーツRPGリプレイ(2)灼滅者に刃は輝く』との連動シナリオです。
     是非、第2回全国ご当地怪人選手権を、お楽しみ下さい!

    ●このシナリオは『参加無料』です
     みなさん気軽に右下の『参加する』をクリックし、参加してください。
     ただし、参加するには自分のキャラクターが必要です。まだキャラクターを持っていない人は、ここから作成してください。キャラクター作成も無料です。
     https://secure.tw4.jp/admission/

    ●リプレイには『抽選で選抜された100人』が描写されます
     このシナリオは学園シナリオです。参加者は必ずリプレイで描写される訳ではありませんが、冒険の過程や結果には反映されます。
     なお、今回のシナリオでは、抽選で選抜された100人のキャラクターが描写されます。抽選はトミーウォーカーが行います。

    ●ご当地ヒーロー限定、『選手権だけ闇堕ち』!
     ルーツ『ご当地ヒーロー』の灼滅者は、不思議な選手権パワーに汚染されたとか何とかで、このシナリオでだけ、『ご当地怪人』に闇堕ちすることができます!
     怪人になるときは、プレイングの一行目に【ご当地怪人としての名前】を書いた上で、怪人として、どうしたいかをプレイングに書いてください。
     闇堕ちするのは会場内(リプレイ)でだけです。このシナリオに怪人として参加しても、他の場所では普通にふるまってください。
     もちろん、「システム的な闇堕ち状態の制限」も受けず、リプレイが終わったら勝手に戻ります。


    ■リプレイ

    ●群雄割拠
     全国の屋台の群れがひしめく、グルメ選手権が始まった。
    「宇都宮ぎょうざ怪人に天下は取らせない!」
     その心意気で挑むのは、横浜中華街水餃子の屋台を出す夜好だった。
    「もはや餃子は宇都宮だけの専売特許でない!」
     総一郎もまた地元静岡浜松餃子で屋台を出していた。
    「こんな近くで餃子の店を出すとは! 我々に対する挑戦か!」
    「我ら宇都宮ぎょうざが最強であると教えてやる」
    「しかりしかり」
     今熱い餃子バトルが始まる……!
     チャイナドレスにエプロンと三角巾を着たケイは、大きな鍋をかき回していた。
    「芋煮うどんを作りましょう」
     地元山形のご当地グルメだ。
    「日本一の芋煮は既に存在していますので、日本一の芋煮うどんに挑戦してみましょうか」
     鍋からは良い香りが漂い出す。
    「……お芋は世界で一番美味しい……食べ物です……?」
     お芋に惹かれて雲英がやってきた。
     ケイの出す芋煮うどんをほくほくと美味しそうに食べる。
    「ごちそうさま! 美味しかった!」
     次のお芋はじゃがバタだ。
     優衣は出身地の信州の屋台を開く。
    「伊那市名物ローメンですよ~」
     羊の肉とソースの香りが混じり合って、食欲をそそる。
    「美味しいものはすべてモノにする! ひゃっほ~~~い☆」
     その香りに誘われるようにやってきたのは雪。
    「七味唐辛子をかけて食べてくださいね~」
     熱々のローメンをふぅふぅしながら食べる。ソースが絡んだ中華麺が美味い。
    「はふはふ、美味しいよ!」
    「ありがとうございます!」
     美味しいものは食べる方も作る方も笑顔にする。
    「ぜんぶ美味しそうなの……次はゆーき、ほうとう食べるのー!」
     悠祈は屋台へ向かう。
    「お好みやで~寄っててや~」
     彩斗が焼くお好み焼きの屋台。れんこんや筍の食感が一風変わったお好み焼きになっている。
    「俺に一枚焼いてくれ、肉多めでな!」
     腹を減らした清正が早速注文をする。
    「……お好み焼きも美味しそうなの、ちょっとだけよっていくのー」
     ソースの香りに負け、悠祈は席に座るのだった。

    「うむ、いい味なのじゃ」
     シルビアはフィンランド屋台を開く。ミートボールのクリームソース、それにジャムを沿えたご当地グルメだ。
    「美味いけど、カレーが食べたかったな~」
     戒那がミートボールを次々と口に運びながら嘆く。
    「仕方なかろう、抽選に漏れたんじゃから」
     勝負をしようと思っていた相手は屋台出展の抽選に落ちてしまっていた。
    「ボクイエローなんだよね~……ねえ、このクリームソース、黄色にならない?」
    「ならぬ!」
     白金と砌は武蔵野スイーツクラブの一員として、きぐるみを来て屋台を出していた。
    「ここスイーツ餃子は殺人的美味さだぞ。どうかねー?」
    「武蔵野スイーツ餃子はいかがですか~」
     二人は白桃とキウイのきぐるみを着て、客引きをする。
     そこに、きぐるみに目を引かれた湊がやってきた。
    「へースイーツ餃子って変わってるね。一つもらおうかな」
     恐る恐る口にすると今までにない味わいが広がる。
    「なんだろうこれ、不思議な味だよ。でも結構いけるね」
    「貧乏だから金稼ぐ! 当然だろう!」
     シヴァルが屋台を出す理由は切実だった。
    「ご当地は……そう、武蔵坂だよ武蔵坂!」
     商品は武蔵坂まんじゅうにドリンク、マスコットの三つ。
    「正直売れる気はしないけど! 買ってってよ家計簿大変なんだようちの部員暴れるから!」
     屋台を見回る虚の目に入ったのは、閑古鳥が鳴くうどんの屋台。
     そこは水沢うどん怪人の屋台だった。目と鼻の先にある讃岐うどんの屋台に客が流れてしまっている。
    「一杯貰おうか」
     虚はうどんを食べる。こしが強い麺だ。職人技が生み出した歯ごたえのある麺は美味だった。
    「妾にも一杯もらおうかの」
     隣に座ったのは美咲。地元群馬の好物であるうどんを前に目を輝かせる。
    「ふむ、やはり水沢うどんは最高じゃの!」
     二人がうどんを味わっていると招かれざる者が来た。
    「いやー悪いねぇ、うちが売れてるもんだから、そっちにお客が行かないみたいで」
     讃岐うどん怪人が笑いながら挨拶に来る。
    「冷やかしなら帰れ!」
    「わぁちっ!」
     主人が湯きりの湯を飛ばすと、怪人は逃げるように去っていった。
     その様子をみて虚は心を決めた。
    「手伝いを一人雇う気はないか?」
     その言葉に主人は大きく目を見開いた。
    「まったく、乱暴な奴だ……おいしい讃岐うどんはいかかですかー」
     気を取り直してうどん作りに戻った怪人の屋台に薫が近づく。
    「一杯もらえるやろか?」
    「はいよ!」
     早速出された讃岐うどんをすする。
    「やっぱり美味しいわ。うち京都出身やけど、讃岐うどんが好きやわ」
    「そこの芋羊羹怪人、和傘持ってきて!」
     まつりは浅草甘味を盛り上げようと怪人を切り盛りする。
    「ほらこの衣装でセクシー芸者さんやるの。にっこり笑って芋羊羹と冷茶セット、お勧めしてくること!」
     冷や汗を流す怪人の背を押した。

    ●食い道楽
     見回りに屋台を練り歩く朱里と夕夏の両手は食べ物で一杯だった。
    「もぐもぐ、このみつだんご美味しいですね。あ、しろくまも食べないと、それに地元の信玄餅は外せないですね」
    「この焼き饅頭も美味しいよ、わたしはずんだ餅が食べてみたいかな」
     甘い香りに誘われるように移動すると、ベビーカステラの屋台前で人々が我先にと押し合っていた。
    「割り込み禁止ですよ。ちゃんと並んでくださいね」
    「そうだよ、押したりしたら危ないよ?」
     そう言って列を作りながら、二人も列の最後に並ぶのだった。
    「探偵たる者、常に探し者をしているべきなのだよ、君」
     ポーは誰に言うでもなく呟く。
    「こうやって焼いたいかを片手にシロコロをパクついていたとしても、それは見た目上グルメ選手権を楽しんでいるように見えているだけであって……」
     一人喋り続けると満面の笑顔でイカにかぶりついた。
    「ああ、心から楽しめないのが残念だなあ!」
    「やっべ、コレマジ美味いんですけど! やっぱ地元の食材を使うのがミソなんですか?」
    「ああ、青森の具材で作ればどんな料理も最高だ」
     遊は青森のせんべい汁を食べながら、フレンドリーに接しつつ質問してみる。
    「そう言えばでっかい飛行船が見えたんですけど、何かイベントでもあるんですか?」
    「ああ、お偉いさんが上に居るらしいが、俺らには関係ないことさ」
    「そうなんですか、それで、味付けは……」
     料理好きな遊の質問は続く。
    「俺にも一杯もらおうか」
     隣に座ったのは浄璃。
     あいよと出された汁を見る。
    「ほう、これがせんべい汁か、名前は聞いた事があったんだが、初めて見たな。早速いただこう」
     汁を吸った煎餅を味わう。
    「これは美味いな」
    「日本中の美味しいものが、一つに集まる。これは、食べなきゃもったいないよねー」
     ベビーカステラを食べながら、翔は屋台を廻る。
    「すいませーん。これください」
    「へい、お待ちッ」
     太田焼きそばを食べる。
    「うん、美味しい。次はご飯ものにしようかなー」
     視線は既に次の屋台へと向かっていた。
    「うう……ご当地グルメは美味しいけど、どうせならイケメンやイケショタや可愛い子や可愛いおねーさんとデートで来たかった……」
     一人ぼやきながら、ソースの香りに誘われて岬は焼きそば屋の前に行き着く。
    「おお! 可愛いショタっ子を発見! ねえ、おねーさんと一緒に屋台巡りはどうかな?」
     屋台に居た翔に、岬は早速声をかけた。
    「て、おおーっ 俺の実家のある千葉県流山市も出店してんじゃん!」
     香純は故郷の屋台に驚く。そこで売られているのは流山のミリンと醤油を使った焼きおにぎり。中の具は千葉県名物ピーナツ味噌だった。
    「ええっと、売ってるのはミリン太郎としょうゆ太郎? あー、ミリンと醤油なんだ……」
     一瞬言葉を無くすが、気を取り直す。
    「よし、同郷の好で手伝ってやろうか!」
     怪人達に声を掛け、屋台の手伝いを申し出るのだった。
    「お~や~た~い~……☆」
     そこに茜が客として現れる。
    「ひとつく~ださいな~☆」
     香純から渡された焼きおにぎりを、大きく口を開けて頬張る。
    「えへへ~♪ おいし~☆」
     夢中で食べ終わると、手を合わせ。
    「ごちそうさまだもんっ。おいしかったんだよ~♪」
     そういって笑顔を残し次へ向かう。

    「やはり軽いものから攻めて、より多く堪能する、それが醍醐味だな」
     謡はじっくりと屋台を見て廻り、どこから食べるのかチェックしていく。
    「よし、手始めに焼き鳥からいってみようか」
     梓は普段食べられない地鶏なんかを食べようと、焼き鳥屋を巡る。
     名古屋コーチンに比内地鶏、薩摩地鶏と次々と油滴る肉を頬張る。
    「うん、どれも美味しいですけどやっぱりちょっと高いですね」
    「うむ、確かに美味い、軽くのつもりがつい食べ過ぎてしまうな」
     お小遣いの事を心配しながら、それでも梓の手と口は止まらない。
     謡も隣で地鶏を堪能する。
    「これ学校で必要経費として処理してもらえないんでしょうか?」
     串の山を見て、梓は呟いた。
     道家は亀山みそ焼きうどん怪人の手伝いに勤しんでいた。
    「ほら見てごらんYO!」
     特製の玉うどんを具と一緒に鉄板で焼き、赤味噌ベースの味噌ダレの香りが漂う。
    「わ~いい香り、美味しそうだね!」
     味噌の焼ける香りに釣られてやってきたのは花音。
    「一つもらおうかな」
    「ホラホラ、この芳醇な味噌の香りとアッツアツなうどん、た~くさん食べてNE☆」
     焼きあがったみそ焼きうどんを道家は差し出す。受け取った花音は頬張る。
    「美味しい! これってどうやって作るのかな?」
     弟に教えてあげたいなーと、花音はお店で作り方を聞くのだった。
    「グルメ! 今日はたくさん食べれるよ!!
     彩香はぐっと握りこぶしを作って気合を入れる。
    「あ、富士宮やきそばだ!」
     偶然目に入った屋台に向かい、無邪気な笑みで怪人に言った。
    「じゃあ、富士宮やきそば3個お願いします♪」
     受け取ると優勝頑張ってください! と手を振って応援する。
     そして熱々の焼きそばを食べ始めた。
    「これはまた、中々ものだな……寮への土産にするか」
     隣で同じように焼きそばを食べる松庵も、美味そうに顔をほころばせる。
    「いい匂いがするねーー!」
     香りを辿って、姜弥もやって来た。熱々の焼きそばを満足そうに頬張る。
    「待ちたまえまいすぅぃーとはにぃ! 私オススメのこの五平餅を是非……!」
    「いやー!」
     騒がしい声に顔を向けると、岐阜のご当地怪人さるぼぼんが五平餅をもって女の子を追いかけていた。
     姜弥が席を立つ前に、松庵が既に怪人を止めていた。
    「落ち着け、そんなことじゃ相手も逃げるだけだぞ」
    「事件か!? ……って男かよ。えー、何があったんだ? めんどいから早く終わらせろや」
     女性の声を聞いて駆けつけた光樹は、男しか居ない状況にやる気を無くして肩を落とした。
     瑞樹と瑛は山形のどんどん焼きを食べながら道を歩く。
    「やっぱり美味しい。次は静岡のモツのカレー煮にしようかな」
    「どんどん焼きは片手で歩きながら食べられるのがいいですね。モツのカレー煮ですか、それも美味しそうですね」
     山形は母の、静岡は父の出身地だ。どちらの食文化も瑞樹は大好きだった。瑛も話を聞いて付いて行く。
     スパイスの効いたカレーの匂い、列を作る人々の後ろに二人も並んだ。
    「良い香りです、カレーですか?」
     そこに現れたのは観光気分でのんびりと食べ歩きをしていた零亜。
    「モツのカレー煮だよ、普通のモツ煮も美味しいのに、そこにカレーが合わさり最強だと思うの」
    「わあ、美味しそうですね。私もいただきます」
     瑞樹の言葉に零亜も一緒に並んで静岡や山形の美味しい食べ物の話を聞く。
    「落ち着いたら旅行に行ってみるのもよさそうですね……」
     零亜は旅先での美味しいものとの出会いを想像して呟いた。そうこうしている間に順番が来た。
    「これも美味しいな、カレーは何でも受け入れてしまいますね」
     瑛はモツを食べる。3人とも話を止め、黙々と味わうのだった。

    「ほっほーう、千葉が梨の生産出荷量日本一とは知らなかったっすなー」
     雛罌粟はメモを取りながら梨のクレープをぱくりとかじる。
    「はっ、あれは噂の『宇都宮ぎょうざ怪人』じゃないっすか! すいませーん、お写真一枚宜しいっすか?」
     ポーズを決めたぎょうざ怪人をフレームに収め撮っている内に、多くの人が同じように写真を撮っていた。
    「商売を邪魔しちゃったすかねー」
    「問題ない」
     いつの間にかウッドが隣で一緒にインスタントカメラで写真を撮りまくっていた。
     何事かと人が集まり、宣伝にはなっているようだった。
    「これが噂の宇都宮餃子か」
     香りに誘われ峻は餃子を食べにきていた。
    「色々あるし、まずはギョーザ日本一になった事で名高い浜松餃子との食べ比べとか良いよな」
     両方を口にし、悩ましげに唸る。
    「……うーむ、甲乙付けがたい美味さだ」
    「ふむ……ぱりっとした焼き上がりでいて、皮はもちもちして中身はジューシーで、これはグッジョブというしかありませんね」
     聖矢は餃子を褒め称える。
    「宇都宮ぎょうざ……とっても美味しそうですね」
     せりすも人の集まっている中に混じり、一緒に餃子を食べる。
    「美味しいですね、同じ餃子でも色々違うものなのね」
    「……ふむ、なかなかおいしいですね」
     その隣で宇都宮餃子を食べる藍花。
    「ですが日本餃子協会曰く、静岡県裾野市が、市民一万人あたりのギョーザ取扱い飲食店数が日本一とのことです」
     周囲の空気が凍った。だが藍花は全く気付かないまま話を続ける。
    「ちょっと、餃子の象とかつくって有名になったからと、宇都宮の餃子が一番というのは早計なのではないでしょうか…?」
     怪人達はうなだれて地面にのの字を描く。
    「あれ、どうかなさいました?」
    「ニンニクくさい男の子とか、うん、最低、だよ」
     クレープを食べていた駒子が、さり気なく追い討ちをかけた。
    「台湾名物もいいけど、やっぱり日本の名物を食べ歩かないと」
     華琳は日本らしいグルメの数々を味わう。そして本命の群馬県横川の峠の釜めしに辿り着く。
    「ここは機関車の付け替えがあったところで、その時間を活かして販売してた駅弁なんだ」
     同じように釜飯を買おうとしていた人々はその説明に聞き入っていた。
    「なるほど、勉強になるね」
     カムラは頷きながら釜飯を平らげる。
    「すごいお店、数え切れないね。よし! 今日は片っ端から食べ尽くすよ!」
     架乃は持ち帰り用のタッパとバッグを用意して、屋台へ向かう。
    「ねえねえ、美味しいお菓子の屋台を教えて!」
    「え?」
     そう言って捕まえたのは三重のあんころ餅怪人。有無を言わせずに、案内役にしたのだった。
    「さあ、出発!」
    「え?」

    「これでよし、綺麗になりました」
     セラフィールはゴミを集め、一人黙々と清掃活動をしていた。
    「あ、どうしました? お母さんとはぐれたんですか? それじゃあお姉さんと一緒に探しましょうか」
     泣く子供を見つけると、あやしながら手を引いて事務所へ向かう。
    「せっかくだし普通じゃなかなかお目にかかれないような、どマイナーなご当地グルメ食べてみたいなー」
     霞は屋台を見渡す。そこには丼を積み上げる射緒の姿があった。
    「それと、これと……これ……を、3人分ずつ……」
     そこは能登丼怪人の店。一人切り盛りする怪人は連続注文に悪戦苦闘していた。
    「お、お客さん、暫く調理に時間がかかるのでこれ以上は……」
    「もう、ないの……? ないなら、作れば、いいよ……?」
    「美味しそうだねー私も一つくださいなー」
     霞も注文すると、涙目で怪人は調理を続けるのだった。
    「全国のご当地グルメがあたしを呼んでいる! 全てのグルメを食べつくせとあたしのお腹も叫んでるよ!」
     優樹は焼き鳥とカレーと丼を平らげると、次の標的をバーガーへ定める。
    「よーし! 最後を締めるのは故郷の長崎県名物、佐世保バーガー!」
     日和は北からちゃんちゃん焼き、冷やしラーメンと制覇していき、とうとう九州屋台へと到着したのだ。
     豪快にかぶりつく。懐かしい味に頬が緩む。
    「おお! これが佐世保バーガーか!」
     隣の優樹も同じようにバーガーにかぶりついた。二人とも美味い美味いと口の周りが汚れるのも気にせずに食べ続けるのだった。
    「一杯ください」
     陰は空腹に播州ラーメン屋に駆け込み、一気に平らげる。
    「あ……」
     そして財布を忘れている事に気付いた。
     会計を待つ怪人と目が合う。
    「あ、あはは……働いて返します!」
     そうして屋台を手伝おうことになった。
    「次はこれにするか」
     村雲は播州ラーメン、ちゃんらー、サンマーメンと各地の珍しいラーメンを食べ歩いていた。
     そして次に目に入ったのはグリーンラーメン。
    「ほう、緑色のスープか、これは……ほうれん草か」
     村雲は勢いよく麺をすすった。
    「む……! 緑のスープとは、あなどっていました」
     同じくグリーンラーメンを食べる珊瑚も唸る。
    「ほうれん草もこんなに美味しくなるものなんですね」
     幸せそうにスープまで飲み干してしまう。
    「神奈川の海がリア充の代名詞湘南だけだとおもったら間違いだ!」
     声のする方へメイテノーゼが足を向けると、現れたのは足の生えたマグロ。それは神奈川三崎口のマグロ怪人、三崎マグ太郎だった。
     両者の目が合う。黙ったまま見つめあう。
    「たたき一つもらえるかな」
     商品を受け取ると、考え事をしたまま口に運ぶ。
    「……たたき。たたきには二種類あるのに何故意味が通じるのか?」
    「パンを使ったご当地グルメってないかな?」
     真己が見て廻ると、高知のぼうしパンなるものが売っていた。
    「わあ、ぼうしの形をしたパンか~食べてみようかな」
     帽子頭の怪人から買い食べてみる。
    「へえ、カステラ生地なんだ、素朴な味で美味しいな」
     黒々は見回りをしながらも屋台を見つけては寄り道していく。
     大分のとり天、宮崎の辛麺、熊本の田楽と九州関係の食べ物を廻る。
    「どれも美味しいですね。もう少し食べていきましょうか。確か向こうに佐賀のシシリアンライスというのがあったはず」
    「さぁ! ボクに食われたい料理は誰だ!」
     颯爽と現れたのはカメラを持った三々三。
    「まずはキミだな!」
     凄まじい勢いでとり天を食べる。
    「ふえっ? 写真とるの忘れてたあぁぁぁ!!」
     わざとらしい咳を一つ、空になった器を写真に写すと、素早く次の店へ向かっていく。

    「凄い、怪人さん達って、手先が器用なんですね……!」
    「本当にすごいです!」
     チョコバナナと苺大福を両手に持った呉羽は、初めて見る屋台に目を輝かせる。
     興奮気味にティエも作る様子に見入る。
    「あ、これ、美味しいです」
    「珍しい食べ物ばかりで楽しいですね」
     作っている所を見るのも楽しかったが、やはり食べている時が一番頬を緩める瞬間だった。
    「んー屋台って美味しく感じるわ♪」
     陽子はホットドッグと綿あめを手にして屋台を満喫している。
    「そうね、甘いものもたくさんあるしね」
     歌織もまた、みつだんごと饅頭天ぷらを手にし、甘いものばかりを手に楽しんでいた。
     小夜子はソースのいい匂いに、スキップしてしまいそうな程上機嫌で屋台を見て廻る。
    「……あれ?焼きそばパン、ないのですか? 焼きそばは、あるのに……どうして……」
     焼きそばパンが無いことにショックを受ける。
     見かねた横手焼きそば怪人がホットドッグのパンを用意すれば作れると教えてくれる。
    「……? ほっとどっく、ですか? ――よく分からないけど、それがあれば、焼きそばパン……作れるんですね!」
     元気良く小夜子は駆け出した。
    「いただきます!」
    「はふはふっもぐもぐ」
     花とくしなは次から次へと屋台に寄っていく。
    「美味しいです、これならいくらでも食べれますね」
    「ずるずる、ぱくぱく」
     焼きそば、たこ焼き、餃子にラーメンと、思う存分食を堪能する。
    「目指すは全屋台制覇です!」
    「ごくごく、はぁ~。もう一つくださーい!」
    「あ、私にもお願いします」
     そこに恭子がやって来た。
    「ねぇ、たこやき売ってる屋台知ってる?」
     二人の案内を受け、たこ焼き屋に向かう。
    「はぁ、やっぱり揉め事が起きてるわね」
     見ればたこ焼きと明石焼きの怪人が言い争う姿。
    「食べるのは少し遅くなりそうね」
     そう言って仲裁に向かうのだった。
    「ん? もんじゃ焼き……ってなんだ?」
     ノエルはその食べ物を見て驚愕する。
    「なんだこのぐちゃぐちゃしたの……」
     怖々と一口食べてみる。
    「あれ、意外といけ……る……?」
     もう一口食べると緊張が解けた。
    「……うん、やっぱりうまい。奥が深いな日本料理は」

    「ほらほら、うちの丼はほんと美味いから、ちょっと寄ってってよ」
     なまず丼怪人が客の手を引いて店に連れていこうとする。その口に静岡おでんの卵が放り込まれた。
    「あふぁっ」
    「強引な客引きはNGですよ」
     光は客を引き離して喋れぬ怪人に説教する。
    「次やったら餅巾着でいきますからね」
     時仁は大きく口を開けてタルトにかぶりつく。
    「この桃タルト美味しいね!」
    「おお! これは美味であるな」
     怪人が山梨の桃について解説をしてくれる。
    「山梨は桃の生産率一位であったか。桃太郎などで有名な岡山のイメージが強かった」
     神羅の言葉に山梨桃タルト怪人が苦笑いになる。
    「みんなにお土産にしようかな?」
    「それは良き考えであるな、幾つか土産として頂いていこう」
     二人は沢山の土産を買い、まだまだ食べ歩きを続ける。
    「どれも美味しいっすね! 栃木や北海道の牧場系のチーズケーキとか、長崎のかすてらとか!」
     両手一杯に甘味を持ちながら、徳次郎はまだまだ屋台を廻る。
    「次はしょっぱい系もいいっすね、ちゃんぽんとか、ほうとうとか!」
     飛行船の事など忘れ、食を堪能する。
    「やっぱり飴ちゃんも、色々欲しいなあ」
     甘味を食べ歩きをしていた枢が呟いた時、栃木のいちご怪人が視界に居た。
     屋台には苺を使ったお菓子が並ぶ中に苺飴があった。
    「おお! 飴ちゃんあるやんか」
     怪人から受け取ると早速口に咥えて堪能する。
    「おこげパフェ? ……何か美味しそう、買おう! すんません1つお願いします」
    「へぇ、変わったパフェだな、俺にも一つもらおうか」
     深槻と聖は珍しいパフェをじっくり味わう。
    「んん~美味い」
    「変わってるな、だが中々いける」
     珍しくも美味しい味を堪能した二人はまだまだ屋台巡りを続ける。
    「京都のご当地グルメって何なんだろう」
     疑問に思った彰人は京都のご当地を探す。
    「ああそうか、宇治茶かー」
     そこに居たのは宇治茶怪人。プリンやロールケーキを注文することにした。
    「今回は喉を詰まらせないようにしないとね!」
     絵莉羽は宇治茶を手に宇治の茶団子を頬張る。
     オーベールは蒜山焼きそばを求めて屋台に向かう。
    「焼きそば、ください」
     知っているものより色が濃い、疑問に思い質問する。
    「おにいさん、出身地は?」
    「蒜山です……鳥取の」
    「岡山とちがうやないかい!」
     こてこてのツッコミが入った。
    「これがまた食べたかったのよね」
     沙李は焼き饅頭を頬張る。予想の斜め上の味が楽しい。
    「皆の者! 祭りを楽しんでるかぁー!」
    「「おー!」」
     ヒーロー物のお面を被った理緒が気勢を上げると、周囲の怪人達も思わず一斉に腕を上げた。
    「それじゃあ行くぜ! 全ての屋台を食べ尽くしてやる!」

    ●祭りと喧嘩
    「そっちはお好みじゃなく広島焼きだろうが!」
    「ふざけるな! こっちが本物のお好み焼きだ」
     大阪と広島のお好み焼き怪人の騒ぎに割って入ったのは、見回りをしていた悠だった。
    「いいじゃねぇか。味で勝負してろよ。美味いもんは美味いし、好みは人それぞれだろうが。美味いって言ってくれる人の笑顔……それに満足できないならやめちまえバーカ」
     叱咤に怪人達は黙り込む。そこに、どうしたと割り込む小太郎。
    「ふむ……どっちの方が美味しいかで揉めてる、と。なるほど」
     小太郎は両者の料理を一気に食べる。味わい一息して、両者の手を挙げさせた。
    「両方うまし」
     毒気を抜かれたように怪人は笑い、屋台へ戻っていく。
     迷惑を掛けたと、悠と小太郎にお好み焼きが振舞われた。
    「そこのお客さん、猫だけじゃ無くわんこも居るよ!」
     道行く女性に声を掛けるのは秋田犬を連れて自分のご当地をアピールする式夜。
    「あ、お嬢さんきりたんぽはいかがー?」
     ナンパを始めると、連れの犬がスカートの中に顔を突っ込む。
    「……あ」
     時が止まる。女性は笑顔のままビンタを放ち、式夜の頬を赤く染めたのだった。
    「何か騒ぎか?」
     やってきた紅楼は頬を紅葉に染めた式夜の肩を叩く。
    「出雲蕎麦食うか?」
    「ご当地グルメと聞いたら、じっとしてられないね!」
     律紀は全制覇を目指して屋台を廻る。
    「味噌に決まってる!」
    「いいや、ソースだね!」
     そんな中、福井県のソースカツ怪人と愛知県の味噌カツがどちらが美味いかと激しく口論を始める。
    「おい、祭りにけんかはつきもんだが、今日はやめとけ」
     十和田バラ焼きと宇都宮餃子を持った供助が止めに入る。
    「そうだよキミ達。落ち着いて? ボクがキミ達の自慢のグルメを頂いて勝敗を決めてあげよう!」
     律紀はそういって両方を食べて首を傾げた。
    「でも何処のご当地グルメも美味しいんだよねぇ……優劣なんてつけられないなぁ。引き分けじゃダメなの?」
    「美味いもんは美味い、それでいいじゃねぇか。美味い物食って機嫌直せ、な?」
     供助も怪人を宥め、皆で美味いものを食べようという事になった。
    「それ、なぁに? 美味しそう……! そっちはなに?」
     有栖は楽しそうに次々にお店を巡っては、美味しいご当地グルメを堪能していく。
     そんな時に騒がしい声。そこで3名の怪人が言い争っていた。
    「北海道の代表はこのじゃがバタじゃ!」
    「この俺、焼きもろこしに決まってるだろう?」
    「おい、道内もん同士仲良くしろ……そもそもジンギスカンが一番に決まってるし」
    「「それはない!」」
    「なになに? どれが美味しいかって勝負? じゃあ、私がジャッジしてあげるね」
     にこにこと笑顔を浮かべ、有栖は食べ始める。
    「おお! ジンギスカンじゃねぇか! 俺も食わせてもらうぜ!」
     嘉市が嬉々としてジンギスカンを注文する。
    「おお、あれはジンギスカン怪人、頭がジンギスカン鍋だぜ!」
     その騒ぎに何事かと誠もやってきた。
    「色々食べ比べてみたが、ここのが一番うまいぜ! ほら、試しに一口食ってみてくれよ!」
     嘉市の感想にそれじゃあと誠も箸を伸ばす。
    「おお! これはうめーな! オレの分も作ってくれよ!」

    「このイタリアかぶれが!」
    「お前こそ蒸してるのか焼いてるのかはっきりしろい!」
    「待てッ! 新潟イタリアン怪人! 怪人ポッポバーン! 同じご当地同士で争ってどうするんだ!」
     対立する怪人を理央が仲裁に入る。だがあっさりと怪人達に追い返されてしまう。
    「くっ……新潟県民は元々競争力の強い県民性、僕では争いを止められないのか……?」
     その時だった。
    「それくらいにしておきなされ」
     新潟米怪人が貫禄で怪人達の争いを収めてしまう。まるで寸劇を見たように周囲から拍手が送られる。
    「では、屋台に行きますかのう」
    「はあ……えっ!? 僕も屋台手伝うんですか!?」
     良く分からぬまま、理央は新潟米怪人に従う事になるのだった。
    「面白い見世物だったね。お代はいいのかな?」
     竜生は横浜の中華まんをかじり、周りの客と同じように拍手を送った。
    「スリだー!」
     ジャンボホタテバーガーにかぶりつく航の前に、一人の男が走ってくる。
     横を通り過ぎる男の足元に、さっと足を出した。勢い良く転倒する男。駆けつけた篝が背中を踏むように押さえつけた。そして手に持っていたジャンボホタテバーガーにかぶりついた。
    「お、これうめーじゃん?」
    「危ないなー」
     そういって航はバーガーを食べながら歩いていった。
    「うおぁっ」
     榛が走る。悪戯しようとしたのがバレて怪人と灼滅者に追われ、逃げ出すのだった。
    「美味しそうなものがいっぱい!」
     理翠が食べながら道を歩いていると、激しい言い争いが聞こる。
     闇堕ちしたるるいえは、髪が緑色の触手となっていた。ご当地怪人海姫ル・リエー。それが今の名前だ。
    「愚民どもにタコスを振舞ってやろう! タコを食べさせて我が神に近づけるのだー!」
    「おい! これタコが入ってるじゃねーか!」
     隣のトルコライス怪人が文句をつける。
    「タコライスなんだから当たり前だろ」
     横からタコライスのタコは蛸じゃないと説明が入る。
    「……知ってたよ! こ、これは神から人への試練なんだよ!」
     支離滅裂な言い訳をするのを見かねた理翠が声を掛ける。
    「喧嘩はダメですよ!」
     めっと叱るように間に入る。
    「おお! 喧嘩じゃな!」
     騒ぎを聞きつけアルカンシェルも楽しそうにやってきた。
    「ふむ、そうかそうか。それならば決闘じゃ!」
     ええ?! 驚きの表情の二人。
    「今日はグルメ対決じゃろう、ならば売り上げで堂々と勝負するのじゃ!」
    「っとと、なんだ騒がしい……ケンカか?」
     桜がたこ焼きを手に急いで走ってくる。
    「あれ? もう終わったのか? じゃあいいか、お、これうまそう、これ下さい!」
     たこ焼きを胃に収めると、早速タコライスを食べ始めるのだった。

    ●優勝
    『発表します、優勝は……』
     屋台村が一瞬静まりかえり、ドラムロールが流れる。
    『宇都宮ぎょうざです! おめでとうございます!』
     落胆の溜息と、歓声が混じり大騒ぎとなる。
    「ふっふっふっはーっはっはぁ。我ら宇都宮ぎょうざ怪人が天下を取ったぞ!」
    「これで宇都宮ぎょうざ怪人だと家族に胸を張って言える!」
    「しかりしかり」
     戦いは終り、負けた怪人も見聞を広める為に屋台を見て廻る。
     手伝った者、楽しんだ者、敵も味方も無く。全てが共に、ただ一夜限りのお祭りを楽しむのだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月16日
    難度:普通
    参加:1683人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 3/素敵だった 29/キャラが大事にされていた 69
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