風がするりと教室に忍び込む。
まだまだ冷たい外気に、狩谷・睦(小学生エクスブレイン・dn0106)がぶるりと両肩を震わせた。そして風に知らされた訪問者を見遣り、手帳を閉じる。
待ってたよ、と柔らかく微笑んで、睦は灼滅者たちを招き入れた。
「さっそく本題。いま、何人もの少年少女が眠り続けてるんだ」
覚めない夢に囚われた少年少女のの数は、20人を超えているという。
睦はくたびれた黒皮の手帳を口元へ押し当て、この事件は、高位のシャドウ、慈愛のコルネリウスの仕業と考えられていると話す。
たとえ慈愛のコルネリウスに、それほどの悪意がなかったとしても、見過ごすわけにはいかない。
「慈愛のコルネリウスの夢の中から、助け出してほしいんだよ」
睦は静かに、夢について説明を始めた。
確かに『夢の中』なのだが、そこに広がるのはリアルな世界。夢を見ている人のため特別に作られた、夢と現実の区別がつけにくい世界となっている。
そのため夢に囚われた者は、自分が『夢の中にいる』とは、露ほどにも思っていない。現実と同じように、何の疑問も持たず生活している。
夢を見ている人が、置かれた状況に疑問を抱かない理由は、現実味の強い夢の世界が、決して『幸福』だけに彩られていないからだ。
「夢とはいえ小さな不幸もあるし、努力しなければ良い結果は生まれないよ」
ただ、本当の不幸に陥ることが無い。努力した分だけ、きちんと報われる。
それが、夢を見ている人が陥っている夢の世界だ。
一見すると、放っておいても然して問題は無さそうに思えるが、今回の事件は、そう単純なものではなかった。
「20人で留まらないかもしれない。徐々に規模を広げてく可能性もあるんだ」
今回の事件を止めずにいると、都市の住人すべてが眠り続けてしまう――そんな事件に発展しても、おかしくはない。
睦は静かに瞼を落とした。
「夢を見てる人に、しっかり理解させてあげて、そして決意を促してあげて」
いまその人がいる場所はただの夢で、現実ではないこと。
そして、夢だと解ってもらったうえで、現実へ戻る決意をさせてあげること。
その二つが叶えば、彼を夢から連れ出すことができるはずだ。
主旨を話したのち、睦は「ただね」とまるで息のように呟いて、机に寄り掛かった。
「ソウルアクセスを邪魔しようと、コルネリウス配下のシャドウが出るんだよ」
シャドウは、現実世界での活動に制限がある。他のダークネスと比べて制限があるほど、強力な存在だ。そのシャドウが、ソウルアクセスそのものの実行を阻止しようと、現実世界へ現れる。
幸い、シャドウは眠っている少年を傷つけようとはしない。そこは安心だ。
「それと……シャドウは、危機に陥ると夢の中へ逃げ込んじゃうんだ」
命を捨てる勢いで戦いを仕掛けてくるのに比べれば、付けこむ隙は充分にある。これをもとに戦略を立てるのが賢明だろう。
「まず、現実世界でシャドウを撃退する。そのあと夢の中へ向かってほしい」
シャドウ撃退後、そのままソウルアクセスで夢へ飛ぶ。
そのため、シャドウとの戦闘で闇堕ちした者が出たり、重傷者が複数出るなど、夢の中のシャドウと戦うのが難しい状況になった場合は、夢へ飛ばず撤退することになるだろう。
「……そのシャドウだけど……現れるのは一体だよ。そう、たったの一体」
けれど、その一体が非常に強力だ。
普通に戦って勝利するのは不可能と言っても、過言ではない。
そう告げた睦は、ゆっくり瞼を押し上げ、灼滅者たちを見つめる。
「見た目はわかるかな。膨れ上がる闇のように、不定形の姿をしてる」
ぶよぶよした、闇の塊のようなシャドウの肉体。
今回のシャドウは、スペードのマークが、背に当たる部分にたてがみのように大量に並んでいる。無数のスペードをぶらさげた四足でガサガサと素早く駆け回り、先端がスペードの形をした巨大な尻尾と、鋭利な針を使って戦う。
「針は……シャドウの顎に当たるのかな、その辺りから一本だけ生えてるよ」
針はまるで吸血でもするかのように、ずずずと音を立てて、『ドレイン』により、刺した者から体力を奪う。
尾による攻撃手段はふたつあり、ひとつは近接一列への薙ぎ払い。これは痛みの他、『服破り』により、その後受けるダメージに影響が出る。
尾によるもうひとつの攻撃は、距離を問わず好きな対象へ、尾から放つ真っ黒な液体を浴びせるものだ。液体は肌が焼けるような痛みを与えると同時に、ねっとりとその身に纏わりつき『捕縛』してくる。非常に厄介だ。
僅かに。ほんの僅か、睦の表情に陰りが差す。けれど彼女は、すぐにそれを払った。
「あの……無理だけはしないで。頑張ってほしいけど、無理は駄目だよ」
念を押すように伝えて、睦はふんわりと微笑んだ。
いってらっしゃい、と見送る声に、いつもよりも力を込めて。
参加者 | |
---|---|
陽瀬・瑛多(中学生ファイアブラッド・d00760) |
媛神・まほろ(イーストマリアージュ・d01074) |
蛙石・徹太(キベルネテス・d02052) |
穂之宮・紗月(セレネの蕾・d02399) |
近江谷・由衛(朧燈籠・d02564) |
堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561) |
秋桜・木鳥(銀梟・d03834) |
淳・周(赤き暴風・d05550) |
●
春風が窓を鳴らしていく。時折吹く突風が窓を叩くたび、これから起こる戦いの荒々しさを思わせた。
教科書やプリントが散乱した机と、漫画が詰められた本棚。部屋に置かれているのはごく普通の物ばかりだと言うのに、ベッドで熟睡する少年の傍に鎮座するのは、日常に反した異形の存在だった。
何に喩えるのも難しい四足歩行で、からだは欲望を飲み込んでしまったかのようにでっぷりと膨らんでいる。
表情も無ければ言葉もなく、シャドウはただ灼滅者たちの方へ顔を向けた。その姿を灼滅者たちが認識するか否かというところで、開幕にシャドウが見せたのは尾による薙ぎ払いだ。そして前衛を薙いだ巨大な尾を、楽しそうに揺らす。まるで灼滅者たちを弄んでいるかのようだ。
「あれがシャドウ……ですか」
翠玉の瞳を眇めて穂之宮・紗月(セレネの蕾・d02399)が呟く。現実世界へ現れたシャドウの姿と力を目の当たりにし、ぞくりと鳥肌が立った。空気を伝って肌へと直に響く、シャドウが持つ力。
薙ぎ払いの直撃を受けた陽瀬・瑛多(中学生ファイアブラッド・d00760)は、淳・周(赤き暴風・d05550)がシャドウへ飛びかかるのと同時に、手の甲に貼り付いたコインからエネルギー障壁を展開させた。障壁は近くの仲間を守るため、大きく広がる。
直後、月の読みを冠した得物へ炎を宿して、周が思い切りそれをシャドウへ叩きつける。重たい一撃に黒い巨体がぶるりと揺れるが、様相は平然を保ったままだ。
「どれほど強いのかは知らねえが、ニセモノのしあわせに一般人巻き込ませるわけにはいかねえ」
周はニッと歯を見せて不敵に笑んだ。そんな周を、シャドウは心傾けるでもなく見つめるばかりで。
トランプのマークを胸元に象りながら、蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)がシャドウをねめつける。
――宿敵。
この言葉がしっくりくる相手は他にいなかった。徹太にとって、此度の戦いは大きな意味を持つ。決意に揺らぐ瞳をも素知らぬように、シャドウはただ、トランプのマークを浮かび上がらせた徹太をじっと見つめる。
紗月が清めの風で前衛陣から痛みを拭う中、先手は向こうにあると読んでいた堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)が、まっすぐな斬撃をシャドウへ与える。中段の構えから繰り出された一撃は、朱那の細腕に似合わぬ重さと素早さでシャドウを叩く。
けれど、朱那は妙な違和感を抱いた。確かな手応えはあるというのに。
――全く怯まないなんて……!
シャドウの強大さを、一撃与えたその腕でも感じる。
媛神・まほろ(イーストマリアージュ・d01074)が高速演算モードに入る間、近江谷・由衛(朧燈籠・d02564)の一手もまた、歪みのないまっすぐな斬撃となり、シャドウへ落ちる。由衛の一太刀がシャドウから引かれるのに代わり、秋桜・木鳥(銀梟・d03834)の指環から魔法の弾丸が放たれた。
弾丸は真っ黒な身を撃ち抜く。けれど僅かにシャドウが身を揺らした程度で、痺れた素振りは無い。
灼滅者たちは息をのむ。限界を知らずに膨れ上がる闇――誰もが抱く心の闇のように、ぶくぶくと太った塊に、すべての攻撃が吸い込まれてしまっていくかのような錯覚を覚えそうだった。確実に傷は与えているはずなのに、びくともしないシャドウを目の当たりにすれば、そう感じてしまうのも無理はない。
シャドウは、あまりに強大であるがゆえに、滅多に現実世界へ姿を現さない。そのシャドウが、今、彼らの前にいる。ソウルアクセスを阻止するために。
「気味が悪いね」
誰もが抱いた感情を、瑛多が言葉にして吐き捨てた。
●
狭い部屋に闇の色が纏わりつく。シャドウの尾より射出された液体だ。
真っ黒な液体を頭から浴びたまほろが、悲鳴を漏らす。ただの液体なら不気味なだけで済むが、触れた箇所から焼けるような痛みが走り、まほろ本人だけでなく、目撃した側も思わず顔を顰めてしまう。
「っ、く、う……」
苦しむまほろからシャドウの意識を逸らすかのように、周が影縛りを試みた。しかし一撃受けたにも関わらず、シャドウは悠々とからだを揺らしている。
ならばこれはどうだ、とばかりに瑛多が片手を掲げ、赤き逆十字を呼び起こす。罪を咎める逆十字は、その赤き輝きでシャドウを襲った。直撃したかに見えた逆十字は、しかし直後に消滅し、そこではシャドウが平然と佇むだけだ。
――それにしてもぞわっとする見た目だね。作った奴センス悪い。
まじまじと全身を知り、瑛多は眉根を寄せる。
徹太は、とっとと引っ込ませてやる、と強気でライフルを構えた。武器に宿るは、彼自身から放出された炎。闘志の炎が一撃に乗ることで威力が増し、真っ黒な巨躯に真紅がめりこむ。
めり込んだ武器を引きながら見上げれば、シャドウがかぶっている面と目が合った。
「ようやく現実に出て来てすることが、人類永眠計画か」
いかれた上司を持つと大変だな、と肩を竦めて武器を引き抜く。徹太の言葉が届いているのか否か、シャドウは地響きのような唸りを漏らす。
力を持て余すかのようなシャドウを前に、紗月はまほろへ防護符を投げた。尾の液により深く傷ついたまほろを、護りの象徴でもある符が優しく癒していく。紗月は再度シャドウへと向き直った。
見るからに強敵。対峙してそれを改めて実感した。だからこそ。
「ここで放っておく訳には行きません」
彼女の一言に、仲間たちから頷きが返る。
「よーし、じわじわ爆弾増やしちゃうからネ!」
陽気に告げた朱那の手が銃を象り、ばぁんと口で発しながら制約の弾丸を撃つ。魔法の弾はシャドウの面の上――喩えるならば額に当たる部分を貫いた。それでシャドウが焦ってくれるとは思ってもいないが、何事も積み重ねが大事だ。まるで首を鳴らすかのように頭部を左右へ折り曲げたシャドウに、朱那が不敵な笑みを浮かべる。
色素のうすい睫毛を伏せてまほろが祷る。寄せたのは一陣の風だ。仲間の背を後押しする、清めの風。
そしてまほろが一瞥したのは、ベッドですやすや眠る少年だ。中学生ぐらいだろうか。寝顔はあどけなく、幸せそうだ。
「お寝坊さんを起こしに行きましょう。皆様の朝を伝える為に」
そのためにも先ずはと、シャドウへ向き直る。
たん、と地を蹴ったのは由衛だ。左腕の縛霊手に力を込め、殴りかかった。黒い巨体が殴打により抉れ、同時に縛霊手より網状の霊力が伸びる。
霊力がシャドウの身を縛りつけ、すかさず木鳥が踏み込む。梟細工の鍔から片手の指を滑らせ、刀身を撫でつつシャドウを斬る。切っ先こそ鋭利であるというのに緩やかに見紛う動きは、木鳥の瞳に宿る意思を連想させた。
雲耀剣により更に行動を制限されていったシャドウが、再び尾を振り上げる。尾はその大きさからは想像し難い衝撃で前衛陣を払う。空気を裂くバシンという音が、受ける痛みの重さを知らしめていた。周がぎりと痛みを噛みしめる。
「さすがにっ……きついな、これは」
三種の得物を胸の前で構え、受ける威力を削いだというのに、眩暈を覚えるほどの衝撃だ。
ちらりと周が振り向けば、回復を担った面々が、慌ただしく癒しを施している。
「回復のこと、細かく決めておいて、良かった……」
瑛多が呼吸を整えながら言った。彼の言葉を、同じく息を切らしていた木鳥が拾って頷く。
「耐え切るのに、必須……だった、ね」
灼滅者たちの方針は、シャドウが撤退するまでの長丁場を耐え抜くこと。
それを成すためにも、ひとりひとりの行動が重要になるのは、言うまでもなかった。
●
戦いの音が絶えない部屋で、少年は安らかな寝息を立てている。夢見が悪そうに魘されることもなく、ただ時折苦々しい表情を浮かべては、すぐ元の穏やかさを取り戻す。
まほろはちらりとそんな少年の顔色を窺いながら、その手で風を招いた。
恐ろしい目に合うこともなく、平穏な日々がいつまでも続く夢を、少年は見ているのだと考えて胸が締め付けられる。
――夢は夢でしかありません。
意思は揺らがず紡いだまほろの風は、体力の消耗が続く前衛陣を包み込む。
黒き尾が放つ液はほぼ後衛へと飛ぶが、薙ぎ払いは前衛を一網打尽にし、更には針による吸収も前衛陣が被る。だからこそ目に見えて疲労が蓄積されていくのは、前衛陣だ。
由衛は縛霊手の人差指だけを立てる。指先から浮かび上がった光は、敵を射抜くものではなく、仲間を射抜くものだ。眩しい光は周を貫き、受けていた痛みを拭っていく。
立ち止まってはいられないのだと、由衛の内に炎が灯る。それがまた次の手へとつながるのだ。
「何が何でも、耐え切る……!」
決意を声にした木鳥が、レーヴァテインでシャドウの針を叩く。仲間を次々突き刺しては体力を吸収していった針を、違うことなく。
すると、苦しげ声をシャドウは漏らした。四方八方から集中砲火を食らえば、蓄積されたものも重なって、さすがのシャドウも嫌気がさしたのだろうか。頭部をぐるりと動かして、獣というよりも虫を連想しそうな妙な四本脚で木鳥へ駆け寄る。
仕返しと言わんばかりに突き立てたのは、顎元から生える図太い針だ。ずるりと嫌な音が転がり、木鳥から針が抜かれていく。生々しい音は、シャドウが木鳥から体力を奪ったことの証でもあった。
おおお、と叫び声を張りあげて突進してきたのは周だ。針を抜いたまま満足げに佇むシャドウめがけ、拳を入れる。炎の勢いが乗った拳は、周が秘める情熱を表すかのように燃え上がった。
「こうやって何度でもぶん殴る!」
周の宣言に続いたのは瑛多だ。誰も倒れさせまいと、コインを模した盾を弾く。手の甲へ落ちたコインから生まれた障壁は、使用者だけでなく、周りの仲間をも囲い守るように広がった。
「ここで頑張らないと、全てが台無し。……負けるもんか!」
瑛多の気概が、展開した障壁にも伝わったのだろうか。
大きくからだを揺らして尾で前衛を薙ぎ払ってきたシャドウから、服破りによる防御力の低下を防ぐ。よしっ、と傷だらけになりながら瑛多は小さくガッツポーズをとった。
戦いの初めには見られなかったシャドウの揺らぎを、徹太も肌身で感じ取る。シャドウが抱いているものが動揺なのか、全く違う情なのかは、徹太にはわからない。ただ噛みしめた歯を軋ませ、まるで笑みを忘れた復讐者のごとく炎を瞳に宿す。
――おまえは何考えてる、シャドウ。
徹太の拳にコイン状の盾が張り付き、シールドが発生する。
そしてシャドウの眼前へ駆け寄り、懐から突き上げるように拳を叩き込む。
「心地好い夢の中に逃げたいか? ……まあ、どんな感情を持ってるかなんて」
知ったこっちゃないが――。
徹太のシールドバッシュに秘められた想いが、シャドウから怒りという名の感情を沸き起こす。引っ張り出された怒りに、シャドウの視線が徹太ただ一人を捉えた。けれど彼は怯まない。何故なら、仲間の膝を折らせまいとする紗月たち癒し手が、常に気を張っているのだ。安心して攻撃できる環境は、そう簡単に作られるものではない。
そして誰もが願うことは、誰ひとりとして欠けずにいること。その想いは、彼らの支えとなる。
「あぁ~! ナンか嫌なモノ連想させる動き!」
シャドウが逐一見せる動きに、ぶるぶると頭を激しく振って、朱那が生理的に受け付けないと拒否の表情を浮かべた。
「あたし見たくない! とっととご退場願おうカ!」
影の触手を、影と同じ名を持つ相手へ朱那は伸ばす。影の触手はシャドウを逃さず絡めとる。
次々降りかかる猛攻に、シャドウも漸く面倒に思ってきたのだろうか。まだまだ意気軒昂、冷める様子を見せない灼滅者たちを前に、シャドウの巨体がおおきく上下した。
あっ、と真っ先に声をあげたのは朱那だ。灼滅者たちを残したまま、シャドウの姿が少年の中へ吸い込まれるようにして消えていった――撤退したのだ。
「……もう、そんなに時間が経っていたのね」
長く細い息を吐き出して、由衛が呟く。きちんと時間を計っていた者はいなかったが、いつの間にか、シャドウの撤退する時機が訪れていたのだろう。
部屋に再び、静寂が戻った。
●
夢の中は心地が良いのだろうか。
抱いた疑問を、木鳥はそっと胸の内にしまっておく。たとえ居心地が良くても、そこは結局自己完結の世界に過ぎないのだと、眠る少年の表情を見下ろして瞳を細める。
「……騒がしくてゴメンね」
戦いできっと騒がしかっただろうと考え、紗月が先に少年の耳元で囁いた。
こくりと由衛も頷き、既に姿の見えなくなったシャドウへ想いを馳せる。
これだけ騒いでも起きる気配のない少年をこつんと小突いて、絶対終わらせようね、と瑛多も意思を固めた。
「もちろんだ。文句を付けてやるまで終われない」
「何が幸せだとか、実はまだ良く分かんないンだけどサ」
徹太の答えに続いて、朱那が頬を掻きながら口を開く。
「コレが幸せだとは、思えない。だってソコに居続けたら、その先は……」
最後まで言い切れずこもってしまった朱那の横で、周がとびきり明るい声を張りあげた。
「よーし、行こうか!」
「……目覚める時は全員一緒に、ですよ?」
念を押すように告げたまほろに、当然、と一同頷いて見せる。そこでふと思い立ったのか、瑛多が皆を呼んだ。
「皆で手で繋いでおく?」
ひとつの輪を成して、灼滅者たちは精神世界へ飛ぼうとしていた。
新たな戦いの前触れなのか、窓を叩く春風は、まだ止みそうにない。
作者:鏑木凛 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年4月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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