幸福な悪夢~夢を喰う滅紫の影法師~

    作者:日向環

     教室に集合した灼滅者達を前にして、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は姿勢を正した。
    「現在、少年少女が眠り続けるという事件が発生しています。この事件は、高位のシャドウ、慈愛のコルネリウスの仕業と思われており、20名以上の少年少女が覚めることのない夢を見続けているのです」
     だが、慈愛のコルネリウスからは、あまり悪意はあまり無いない。とはいえ、このまま無視するというわけにもいかない。
    「慈愛のコルネリウスの夢の中から、少年少女達を救い出してあげてください」
     姫子の凜とした声が、教室に響く。
    「夢の中は、まるで、現実のようなリアルな世界になっていて、その夢を見ている者の為に特別に作成されているようです」
     そのあまりにもリアルな世界に、夢に囚われた者は、夢の中を『現実である』と思い込んで生活しているらしい。自分が夢の中にいるとは思っていないのだ。
    「夢の中とは言っても、ちょっとした不幸は起こります。努力しなければ良い結果は生まれません。ですけど、本当の不幸に陥る事はありませんし、努力すればしただけ報われて幸福な夢になっています」
     つまりは、夢の中で少しだけ頑張れば、現実より幸福になれる可能性があるというわけだ。
    「ソウルアクセスを行おうとすると、それを邪魔するべく、慈愛のコルネリウスの配下のシャドウが眠っている少女の傍らに出現します。知っての通り、シャドウは現実世界で活動できる時間に制限がありますが、その強さは、他のダークネス達と比べても、かなり強力です」
     幸い、出現するシャドウは、眠っている少女を傷つけるような事はしてこないので、眠り続ける少女を放置していても戦闘には支障が無いということだ。
    「また、シャドウは、危機に陥ると夢の中に逃げ込むので、それを元に戦略を立てると良いでしょう。命を捨てて戦闘を仕掛けてこられると強敵ですが、危険になれば逃げるという方針である以上、つけ込む隙は充分にあります」
     灼滅までには至らずとも、危機的状況まで追い込めれば、シャドウを撃退することができるというわけだ。
    「現実側でシャドウを撃退する事に成功したら、改めて、ソウルアクセスで夢の中に入る事になります。ただ、闇堕ちした者が出てしまったり、重傷者が複数出てしまった場合など、夢の中のシャドウと戦うのが難しい状況になった場合は、残念ですが、一旦撤退する事になるでしょう」
     闇堕ちをして圧倒することも、多くの重傷者を出しての辛勝も、今回に限っては好ましくない結果となるようだ。
     姫子はここで一端一息付くと、続いて出現するシャドウの説明に移る。
    「慈愛のコルネリウスの夢の中にいるのは、すみれさんという中学2年生の女の子です。出現するシャドウは、くすんだ灰色がかった紫色のぶよぶよした不定形の体をして、頭は人間の頭のような形をしています。人間で言う口にあたる場所に、大きな一つ目がギョロリと浮かんでいます。鼻はありませんし、本来の目の位置に、当然ながら目はありません。滅紫の影法師とでも呼べばいいでしょうか」
     のっぺらぼうの口の位置に、大きな一つ目があるというわけだ。想像してみると、ちょっと不気味だ。
    「その一つ目から、どろりとした漆黒の弾丸が撃ち出さされます。また、お腹の辺りが急に膨れ上がり、手前にいる者を捕らえようとします。ぶよぶよの肉の塊に捕らえられた者は、トラウマ状態に陥るようです。そして、不気味な唸り声を上げることによってスペードのマークを具現化させ、自身の生命力と攻撃力を高めてきます」
     特殊な攻撃は行ってこないようだが、どの攻撃も桁外れの威力があるということだ。もちろん、シャドウ自身の体力も高い。
    「現実世界に現れたシャドウとても強敵です。それだけに、そのシャドウと戦うと言うことは、とても危険な戦いになります。ですから、決して無理をしないでください」
     とはいうものの、無理せぬ程度に頑張らねば、シャドウは撃退できない。
    「充分な作戦を立てて、強敵に臨んでください。無策では、まともな戦いができない相手です。気を付けてください」
     姫子は激励して、灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    風雅・晶(陰陽交叉・d00066)
    因幡・雪之丞(青春ニトロ・d00328)
    梅澤・大文字(手乗り番長・d02284)
    稲峰・湊(手堅き領域・d03811)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    土岐野・有人(ブルームライダー・d05821)
    ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)
    神園・和真(カゲホウシ・d11174)

    ■リプレイ


     眼前に広がるは、とても可愛らしい女の子の部屋。
     その女の子の部屋に、男どもが乱入してくる。
    「あっちこっちをジロジロ見ない! 間違っても下着なんて盗まないようにね!」
     今回のメンバーの中では紅一点となるルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)が、両手を腰に当てて男どもの一挙手一投足を監視している。
    「そんなことするやつなんでいるわけ……何で、みんな俺を見てるんだ?」
     皆の視線が自分に集中していることに気づいた梅澤・大文字(手乗り番長・d02284)が、心外だという風に不満そうな顔をした。
    「……いや、何となく」
     文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)は、美味しそうにたい焼きを頬張りながら、あっけらかんとした口調で答えた。
    「この下駄に誓って、そんなやましいことなど考えてもいない!」
     渋い顔をしていた大文字だが、ふとその視線がたい焼きを捕らえる。
    「鯛焼きうまそ」
    「どうしてもってんなら一つ食うか? ほれ」
    「食い掛けもらっても……」
     笑いを噛み殺しながら、風雅・晶(陰陽交叉・d00066)が大文字の肩をぽむと叩きながら、横に並んだ。
     中学生の女の子の部屋なんぞには一切興味無しといった感じで、粛々と戦列を整えている高校生のお兄さん達に混じり、咲哉の隣に移動してきた中学生の稲峰・湊(手堅き領域・d03811) だったが、やはり同世代の女の子の部屋に入るのは、任務といえども少し気が引けるらしい。顔を下に向け、あまり多くを見ないようにしている。
    「夢か……夢が幸福で、現実が必ずしも不幸だなんて思うなよ」
     ベッドの中で、幸せそうな寝顔を見せている少女・すみれの顔を覗き見ながら、神園・和真(カゲホウシ・d11174)がポツリと呟く。
    「夢には限界があるけど、現実には限界がないってことを、教えてやらないとな!」
     和真の言葉に、その通りだといった風にルリが肯いた。どんなに幸せでも夢は夢、何一つ手に入れることはできないとルリは思っていた。
     因幡・雪之丞(青春ニトロ・d00328)はすみれの寝顔に視線を落とし、恋人の顔を思い浮かべていた。不運の申し子のような彼女は、この幸福を良しと言うだろうか。
     少なくとも俺は、彼女を自分の力で幸せにしたい。それが、雪之丞の願い。
    「さて、いいか?」
     雪之丞が皆に確認する。ソウルアクセスを開始するのだ。エクスブレインの話では、ソウルアクセスを行おうとすると、シャドウが邪魔をしに現実世界に出現するという。
     現実世界のシャドウは強力だと聞く。迎え撃つこちらも、準備を整えておく必要がある。
    「問題ないでしょう」
     不意打ちの警戒は任せろと、土岐野・有人(ブルームライダー・d05821)は周囲に視線を走らせる。
    「鳴り響け、俺のハートッ!!」
     雪之丞が精神世界にアクセスした。
    「……しかしソウルアクセス生で始めて見るわ……ドキドキ」
     ちょっとドキドキの大文字。興味津々と言った瞳で、雪之丞の様子を見ている。
     扉を開けようとしたその瞬間、おぞましい殺気が凄まじい勢いで迫ってきたのを感じ、咄嗟に雪之丞はアクセスを中断した。気を許したが最後、自分の中に侵入されてしまいそうなほどの勢いだったからだ。
    「来たのですね?」
     雪之丞の反応を受けて、晶が二振りの小太刀を構えた。
    「やい! 出てこいシャドウ! この業炎番長、漢(おとこ)・梅澤が相手をし……」
     眠っている少女の体から、くすんだ灰色がかった紫色をした靄のようなものが滲み出てくる。直後に噴出するような勢いで飛び出してきたかと思うと、ぶよぶよとした不定形の体を形作った。頭と思しき位置には人の頭部にも似た楕円形の突起物があり、人で言えば口に当たる箇所に、大きな一つ目がギョロリとしていた。この異形の生物が、すみれの精神世界から出現したシャドウ――滅紫の影法師である。
    「……いけね、不気味過ぎて一瞬真顔になった。ええい、敵が何であれ、漢はそれをブチ倒すのみ! 喰らえッ漢の鉄拳! おらァ!」
     相手が不気味な姿をしていようが臆してなるものかと、大文字が渾身のご当地ダイナミックを叩き込む。
    「……フッ決まったな」
     大文字が学生帽を目深に被り直すと、マントがばさぁっと波打つ。
    「気をつけて、くるよっ!」
     シャドウの動きをいち早く察知した湊が、大文字に警戒を促す。
    「へ?」
     が、少し遅かったようだ。滅紫の影法師のぶよぶよしたお腹が急に膨れ上がり、大文字の体を飲み込んだ。
    「梅澤さん!!」
    「大文字先輩!」
     和真と雪之丞がカバーに入る。腹から吐き出された大文字は、
    「漢にかけて10分耐え抜いてやるぜ!」
     あらぬ方向にご当地ダイナミックをぶっ放している。どうやら、彼にしか見えない相手と戦っているらしい。
    「任せて!」
     ルリは指先に霊力を集めると、大文字に向かって撃ち出した。
    「あれ?」
     ルリの祭霊光によってトラウマが打ち消されると、大文字は目を白黒させている。
    「漢・梅澤の気迫に恐れをなして逃げ出したか。……またいつでも相手になってやろう。強敵(とも)よ」
    「……おめでたいやつ」
     咲哉と湊は、顔を見合わせて苦笑いをした。
    「シャドウ……やはり動きが速いですね」
     見た目に反して機敏な動きを見せる滅紫の影法師を一瞥すると、有人は大文字に向かって分裂させた小さな光輪を送り出した。
    「重傷者を出さないように、ルリ達が頑張らないとね」
     今回の防衛戦において、ルリと有人は守備の要だ。2人で協力して、確実に負傷者の傷を回復させてやらなければならない。
     単体攻撃しか持たない滅紫の影法師は相手にしやすい敵ではあったが、一撃の重みは予想以上だった。ルリの祭霊光、有人のシールドリングの援護をもらっているはずなのだが、大文字の体力が完全には回復しきれていないのだ。
    「一筋縄ではいかないか」
     咲哉が歯噛みした。


     やはり、相手はシャドウ。そう簡単には勝たせてくれそうにない。
     現実世界に出現したシャドウは、これほどまでにも強いのか。僅か3分足らずの攻防を交えただけだったが、灼滅者達はシャドウの底知れぬ力に、戦慄を覚えていた。
    「現実世界で、正攻法でシャドウに勝てるなんて思いあがっちゃいないぜ!」
     雪之丞が吠えた。滅紫の影法師のぶよぶよした腹に、縛霊撃を叩き込む。
    「耐えきってみせますよ。例え少女から恨まれようとも、夢から起こさねばならないのです。その為にも、まずは確実に貴方を灼滅しましょう」
     右手の<肉喰>を上段に、左手の<魂結>を中段に構え、晶が繰り出すは雲耀剣。重い衝撃がシャドウの体を穿つが、与えたのはダメージのみ。それでも確実に相手の体力を削り取った晶は、二振りの小太刀を構え直して次の一撃に供える。五分で良いなどと考えていたら気合い負けしてしまう。格上の相手を押し返す為には、勝つつもりで挑まなければならない。
    「はっ」
     短い気合いと共に、和真も雲耀剣を繰り出す。ぶよぶよした体が避け、傷口からくすんだ灰色がかった紫色の靄が広がる。ぎょろりとした一つ目が、自分に向けられた。粘りけのある漆黒の弾丸が、和真の体を直撃する。体が引き裂かれるかと思うほどの衝撃。
    「(これがシャドウの一撃か……)」
     毒に蝕まれていく苦しみに耐えながら、和真は唇を噛んだ。
    「まだ倒れるには早いですよ!」
     流れるような動きから、有人は和真の傷を癒す。長い髪が、ふわりと揺れた。毒はルリが打ち消した。
    「心に寄生するダークネスと心の読み合いか、楽しいじゃないか」
     シャドウに制約の弾丸を撃ち込み、咲哉は不敵に笑む。相手の1回の攻撃に対し、こちらはほぼ6人で反撃を行っている。湊が一度だけに回復に手を回したが、ここまでは怒濤の反撃を見舞っていると言って良い。しかし、滅紫の影法師からは倒れる気配が微塵も感じられない。
    「いえ。ダメージは確実に蓄積されているはずです」
     咲哉の思考を読んだかのように、晶は言った。そう願いたいなと答えようとした直後、シャドウが不気味な唸り声を上げた。ぎょろりとした一つ目が小刻みに振動し、それが唸り声のように聞こえているらしい。
     具現化したスペードのマークが、ぶよぶよした体に吸い込まれていく。活気づいたように、表面が波打つ。
     マズイ!
     誰もが思った。
     スペードマークの出現は、シャドウの唯一の回復手段であると共に、自己強化手段でもある。これまでの攻撃力も桁違いだったのにも関わらず、更に威力が増すということになるのだ。
    「その影は、いったい、誰の影なんだろうな……」
     和真は膨れ上がったシャドウの体を見上げた。灰色がかった紫の陰。滅紫の影法師。
    「食らえ、俺の影!」
     残り時間も少ない。このまま押し切れば勝てるはずだ。和真は気を吐き、シャドウの急所と思われる場所を斬り裂いた。
     それでも、滅紫の影法師は怯まない。血走ったような一つ目が、ルリを捕らえた。
    「うおおおっっっ!!」
     漆黒の弾丸が撃ち出されようとした瞬間、その射線上に大文字が飛び込んだ。
    「庇う事こそ漢の本分んんん!」
     直撃を食らい、思わず気が遠くなった。今のをまともに食らってしまっていたら、ルリであったなら耐えきれなかったかもしれない。
    「くっ……ダメージを与えすぎたか」
     咲哉が小さく舌打ちする。時間いっぱい耐えきるつもりであったなら、攻撃はある程度加減するべきだったのかもしれないと思った。シャドウにスペードマークを使わせないようにするという作戦も取れたかもしれない。だが、彼らが選択したのは真っ向勝負しての持久戦。
    「倒してしまえばいいんですよ!」
     晶が鋼鉄拳で仕掛けた。エンチャントされてしまったのなら、それを打ち砕くのみ。鍛え抜かれた鋼鉄の拳が不可思議なフィールドを粉砕し、ぶよぶよしたシャドウの腹にめり込んだ。
     雪之丞と和真が畳み掛ける。
     シャドウの腹が再び膨れ上がった。和真がその内に囚われる。
    「ぐっ……」
     藻掻きながら何とか脱出したが、目の焦点が合っていない。有人とルリがすかさず回復した。
     間もなく、タイムリミットが迫りつつあった。
     あと少し、もう少しだけ耐えれば良い。
     全員が気合いを入れ直した。


    「2人とも、後ろに……」
     ダメージの蓄積が著しい大文字と和真を後ろに下がらせ、有人とルリが前に出てきた。
     シャドウはそんな彼らの動きには目もくれず、次なる標的を定めていた。
    「ボク!?」
     湊とシャドウの目が合った。次の標的が自分だと分かった瞬間、背筋に冷たいものが走る。
    「させねぇ!!」
     雪之丞が割り込んできた。湊の前に体を投げ出し、全身で漆黒の弾丸を受け止めた。守り切ったと分かった直後、雪之丞の意識は途切れた。
    「雪之丞!」
     制約の弾丸を放ち、咲哉はシャドウの注意を逸らせる。晶が気を失ったままの雪之丞を、自分の背後に匿う。有人とルリが、更に半歩前へ出た。
    「漢の盾がお前を守るぜ!」
     大文字のシールドリングが、ルリを守護する。直後、ルリが滅紫の影法師の腹に取り込まれた。
    「ルリ!!」
    「違うもん! ルリが小さいんじゃないもん! 貧乳はステータスだ! 希少価値だ!」
     一同の心配を余所に、ルリは彼女にしか見えない何かと泣きながら激しく口論している。下手なフォローをすると、かえって彼女のプライドを傷付けてしまう結果になるかもしれないので、取り敢えず放っておく。
     晶の雲耀剣を皮切りに、咲哉の制約の弾丸、湊のバスタービーム、和真の月光衝が怒濤の如く叩き込まれ、一瞬遅れて有人のマジックミサイルが炸裂した。
     滅紫の影法師の表情が苦痛に歪んだ。
     充血した一つ目が、全員の顔を睨め回す。お前達の顔は決して忘れない。そう言っているかのようだった。
     出し抜けに、ぶよぶよした塊が実体を無くした。靄のように広がったかと思うと、そんな騒動の中でも、ベッドの上で幸せそうに眠り続けている少女の体の中に吸い込まれるようにして消えていった。


    「だから貧乳は……あれ?」
     ルリがキョトンとしている。喧嘩相手が、突如として消失してしまったからだろう。
    「追い返せたみたいだね~っ!」
     湊がホッとしたように、笑みを浮かべた。
    「皆さん、お怪我はありませんか?」
     有人が仲間達を気遣う。
    「おい、生きてっか?」
     大文字が雪之丞の顔を覗き込んだ。
    「何とかな……」
     意識を取り戻した雪之丞が、ゆっくりと起き上がった。少し休めば、問題なく動けそうだ。
    「慈愛のコルネリウスの見せる夢……何とも甘い毒のようですね」
     晶は、すみれの寝顔を見詰めていた。自分の部屋で繰り広げられた攻防など、この眠り続けている少女は知る由もない。
    「上辺だけ見れば、少女は幸せなのでしょう。ですが、夢から覚めず眠ったままである以上、それは緩やかな死へ向かうに過ぎません」
     だから、例え恨まれようが、夢から起こさねばならない。
    「夢の中で幸せにってのは綺麗な話だけどよ。『それだけじゃお腹がすくわ』なんて洒落にもなってねぇよ。寝っぱなしだったら餓死するっつーの」
     痛む体に鞭打って、雪之丞は立ち上がった。まだ、戦いは終わってはいない。いや、むしろそれからが本番なのだ。
    「なんにせよ、人の幸せに軽々しく茶々入れんなよ。悪いが俺は、邪魔するぜ!」
     雪之丞は手を翳した。再びソウルアクセスする為だ。今度はボクもと、湊が隣に付いた。
    「現実に残された家族や友達が心配するって言ったら、全員眠らせるのかね、やっぱり。何と言うか傍迷惑な奴だぜ」
     咲哉は溜息を吐く。
    「夢の世界は基本的に1人だ。どんなに強い絆を結ぼうとも、その先に人は居ない。それはそれで虚しいと思うんだが、気軽に夢を渡り歩く彼女らにそんな感覚は無いんだろうな」
     どうなんだよ慈愛のコルネリウスと、咲哉は心の中で語り掛けた。
    「幸せな夢か……でも、どんなに幸せでも夢は夢、何一つ手に入れることはできないとルリは思うの。だから、コルネリウス。貴方の見せる偽りの楽園は壊させてもらいます! 皆の力を合わせてね!」
     ルリは気持ちを昂ぶらせた。この少女を、必ず助けてみせる。
    「さて……ここからが本番ですね」
     有人が居住まいを正した。純白のタキシードに包まれた体を、少女の方へと向けた。
    「ああ。次が本番だ、気を引き締めていくぞ!」
     和真が皆の顔を見渡した。
     皆、ゆっくりと肯いた。
    「さて、どんな夢が待ってるやら」
     咲哉の呟きに答えるかのように、眠り続ける少女は一瞬だけ、はにかんだような笑みを浮かべた。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月17日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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