●狂乱の糸
上谷・俊(かみや・しゅん)はその日、入学式を迎えた。
必死に勉強して受かった高校で、小学校の卒業と同時に転校して行った幼馴染と再びバッテリーを組む。
約束だった。俺は捕手、お前は投手。高校では一緒に甲子園を目指そう。
心躍っていた。本当に、本当に嬉しくて――。
「こんにちはー」
不意に体育館の扉が大きな音を立てて開いた。同時聞こえたのは、場の空気に不似合いな、軽い調子の女の声。
つかつかと踏み込む女を、教師が制止する。
「何だね君は。今入学式を――」
ピン、と糸張る様な音が聞こえた気がした。
直後上がった悲鳴に顔を上げれば、女から半径5メートル――制止に行った教師や保護者席に座る体の、首から上が無い。消えた頭の代わりに、血柱とも言える勢いで鮮血が噴き出していた。
「……え?」
理解できない。目前の光景が、日常とあまりにかけ離れていて。
「武蔵坂。……早く来ないと、狩り尽くすよ?」
阿鼻叫喚の体育館が再び静寂に包まれるまでに、そう時間はかからなかった。
●狂人の誘い
「六六六人衆、序列五八二。名を仁科(にしな)。大量虐殺の理由は――あなた達よ」
教室の一角。椅子に座る唯月・姫凜(中学生エクスブレイン・dn0070)は努めて冷静に予知を語った。
しかし、声音とは裏腹に膝の上の拳を震える程に握り締めて。
「仁科はあなた達を待ってる。勿論、六六六人衆の殺人理由なんて最初から在って無い様なものだけれど――今回は、あなた達『武蔵坂学園の灼滅者』を誘い出し、戦うことで闇堕ちさせようとしている」
ダークネス側からすれば、ダークネスと人の中間の様な存在である灼滅者を完全なダークネスへと堕とすのはごく自然なことだ。
そんな背景から始まった『六六六人衆の殺人ゲーム』は、多くの被害を生みながら日々繰り広げられている。
その1つを、姫凜の全能計算域が察知した。
「予知のままに事が進めば、仁科は山形県の高校の入学式に現れて、殺戮の限りを尽くすわ。元々、大量虐殺をかなり好んでいるみたいだから、体育館の扉が開けば最後、あなた達との戦闘中でも仁科は中の人達を狙うと思う」
そうなる前に接触する方法を提示するから、何とか惨劇を止めて――姫凜の言い回しに、灼滅者達は力の差を理解する。
目的が『灼滅』ではない。それはつまり、相手が簡単ではないと、そういうことなのだろう。
「仁科は入学式中の体育館へ堂々扉から侵入してくるの。戦いを仕掛けるのは、仁科が体育館へ続く渡り廊下を歩いている時が最良にして唯一よ」
急ぎ向かっても、灼滅者の到着は渡り廊下の仁科を視界遠くに捉える程ギリギリのタイミングだ。
遠くからでも大声で仁科を呼べば、仁科は体育館への足を止め灼滅者を見るだろうが――気付かれず近付いての奇襲は不可能と言って良い。
「渡り廊下周辺はグラウンドもあったりして見通しが良いし、戦闘に支障無い広さよ。……絶対に、体育館の扉に触れさせては駄目」
それは、何も最初だけの話ではない。虐殺を好むが故に、一般人までをも射程に収めるべく、戦闘中も扉開けんと狙ってくる筈だと姫凜は言い添えた。
布陣や立ち回り、バッドステータス。扉を守れるかは、仁科に立ち塞がったり動きを鈍らせる、意識・狙いを灼滅者へ向ける等といった工夫次第。
「目的は一般人への虐殺を止めること。あなた達が撤退を選べば、虐殺は確実に起こる……」
仁科の目的は『闇堕ち』。敢えて灼滅者達が撤退できない状況を作り、その登場を待っている。
「……全員にお帰りって、言わせてね?」
見送る少女は、そう言うと少しだけ悲しそうに微笑んだ。
参加者 | |
---|---|
桜埜・由衣(桜霞・d00094) |
風宮・壱(ブザービーター・d00909) |
住矢・慧樹(クロスファイア・d04132) |
煙上・銀助(二対頭の銀狼・d10147) |
シア・クリーク(知識探求者・d10947) |
穂都伽・菫(空飛ぶ全力少女・d12259) |
譽・唯(狂喜のアサシン・d13114) |
駒瀬・真樹(高校生殺人鬼・d15285) |
●理由
汗に貼り付く髪を払い、桜埜・由衣(桜霞・d00094)は駆ける。
桜舞う校門を超えて、見える大きな屋根――一路、体育館を目指して。入学式の朝に相応しい大切な大切な桜の髪を、今は振り乱しても先を急いだ。
「……っあれ! あの人影!!」
最初に気付いたのは風宮・壱(ブザービーター・d00909)だった。遠く遠くに凝らした鳶色の目は、真っ直ぐ先に鼻唄でも歌っていそうな軽やかさで歩く1人の女の姿を捉える。
「闇堕ちゲームで入学式をぶち壊させてたまるかよ!」
指差す先を、煙上・銀助(二対頭の銀狼・d10147)が強い眼光で射抜いた。
しかし、遠い。最高速度で至った灼滅者達でも、女――仁科へ至るにはまだ遠過ぎる。
この距離での演技は無意味。即座判断し、銀助は予定していた入学者の演技から瞬時に頭を切り換える。
必要なのは、引き付けること。
女が今此処にある、その目的、それは―――。
「……仁科ぁ! 武蔵坂が来てやったぜ!!」
全速力に乱れた呼吸の中、住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)が張った声が、体育館へ向け渡った。
その言葉に、仁科の動きがぴたりと止まる。
「俺達を待ってたんだろ? 相手してやろーじゃねーか!」
仁科が待つ存在。それは自分達『武蔵坂の灼滅者』だ。意識を向けることに成功したか、きょろりと辺りを見回し声を探る仁科を確かめ、前傾を取った銀助の速度が更に増す。
一方、仁科に気付かれる前にと、接近をビハインド・リーアに託して穂都伽・菫(空飛ぶ全力少女・d12259)が箒で空へと舞い上がった。
背には壱が乗り込み、有効な攻撃の手を今は探る。
(「……仲間……一般人……誰も殺させない!」)
譽・唯(狂喜のアサシン・d13114)が心に強く決意を刻む。青い眼差しを強く仁科へ向けると、不意に仁科の視線とそれとが交差した。
直後浮かべた仁科の笑みに、瞬間的に身の竦む様な悪寒が唯の小さな体を奔る。
「……名乗ってないのに、アタシの名前知ってるんだ?」
ピン、と糸張る音がする。直後頬に奔った鋭い痛みに、駒瀬・真樹(高校生殺人鬼・d15285)は駆ける足を止めた。
役割果たすべく、全力で仁科へ迫る仲間に少し遅れて目立たぬ様にと意識していた。しかし、見通しの良い場所に在って、それは困難を極める。
頬拭った手は、赤く染まっていた。
「ふーむ……いや、いけないよこんなことしちゃ」
「――アハハっ、こんにちは! 武蔵坂ぁ!!」
楽しい遊びを見つけた――子供の様に無邪気に、しかし瞳の奥に獰猛な本性をありありと浮かべ、仁科は笑う。そこかしこから、ひゅんひゅん、と糸が奔る音が耳に煩い。
(「春は新しい季節……それを壊すなんてさせない」)
シア・クリーク(知識探求者・d10947)は足を止めず、女の狂った笑顔目指しひた走った。
花の季節。慧樹のサウンドシャッターに平穏を守られた直ぐそこでは、新たな春を祝う学生達が新生活に胸を膨らませている筈なのだ。
「なんとしてでも成功させてみせるよ。好き勝手にされてたまるもんか!」
素早く死角へ回り込み、急所狙う斬撃を仁科へと。しかし目前で何かに遮られ、シアの槍は空でぎりぎりと拮抗する。
―――仁科の、命狩る黒き糸だ。
「愉しませてね! アハハ、ゲームの始まりだよ!!」
その笑みからは、平穏な結末など到底見える筈も無かった。
●手招く狂弦
身に刻まれた傷から、炎が迸る。
「悪趣味だな仁科サン、これだけ灼滅者を集められて嬉しいか?」
流れる血さえも力に、慧樹の漆黒の刃『明慧黒曜』が炎を纏った。
肉薄した真樹が振り下ろした日本刀で目前の黒い糸を斬り払う。そこへ飛び込み慧樹が炎の刃を振るうと、傷から血の噴きだす暇すら与えず、仁科の肌を焼き切った。
「嬉しいよ? オモチャだもん、アンタらは!」
ニィイ、と不自然なまでに笑んだ瞳が攻撃的に光る。次手止めるべく飛び出した壱は、開戦後直ぐ受けた攻撃に既に菫の箒を降り、先に扉前へ布陣した仲間と共にその守りを固めていた。
「人殺して、ホントに何とも思わないの?」
「思ってるよー『楽しい』って!」
ぎり、と心焦がす様な怒りが壱の心を覆う。時期が違えば良いわけでは勿論無いが、幸せな春に理不尽な殺戮が齎されて良い理由など無い。
「誰1人、犠牲になんてさせない!」
叫んだ声に応じる様に、由衣が前へと踏み出した。
「……ゲーム感覚で人の命を奪うなんて許せません」
ふわりと花の様に穏やかな声が、凜の響きを放つ。
壱が鉄塊様の巨大刀を力のまま仁科目掛けて振るえば、逆側面からは由衣が地へ突き刺した春色の槍『桜穿』によって、おびただしい数の氷柱が地を這い仁科へと迫った。
女の肌を抉った衝撃。砕けた氷柱の影から、続いてひゅっ、と前へ躍り出たシアが槍の穂先を仁科の顔に突き付ける。
「まとまりがないダークネスのくせに、こういったゲームはみんなでやるんだね」
突如眼前に現れた刃に仁科が一歩身を引く。逃すまいと螺旋を描く穂先は仁科の頚部をかすめ、噴き出す鮮血がシアの手を紅く汚した。
「言い出したヒトの策略にまんまと乗せられてる気がするけど……あ、殺せればそれでいいのかな?」
その血ごと槍を真横へ払って、嘲る様に、挑発的にシアは笑んだ。
言葉に乗せた嘲笑が、仁科の余裕を砕けば良い。流れを変えたくて告げる言葉だが、仁科の調子は変わらない。
「アハハ、言うね! ……でもさぁ」
頚部からどくどくと溢れる血液を押さえもせず笑っていた仁科の瞳が、妖しく光った。
ざわりと感じた殺気と、耳を掠めたピン、と糸張る音。次手振るうべく仁科へ肉薄していた銀助が気付き、叫ぶ。
「――来るぞ!」
「言う割に……全然、足りないんだよねえ!」
アハハハ! と狂った様な笑い声に同時か、最前列に立つ慧樹、由衣、シア、そして銀助の全身に激痛が走った。
中空を直線に伝う鮮血が、それが糸の攻撃だと灼滅者達に知らしめる。
「……っ」
「住矢!!」
咄嗟に壱を庇った慧樹は、全身がその血に染まり、思わず片膝を付いた。
一度に2人分の傷を請負い、駆け寄った壱に大丈夫、と呟くも、急所に受けた深い傷に、その呼吸は荒い。
虐殺を好むだけあって、仁科の攻撃は人数多く配置された前衛へ向けた鋼糸技が圧倒的に多い。結果、消耗は前衛の5人が最も激しい。
1人への攻撃は切れ味も鋭く、範囲の攻撃にしても尚鋭い。加えて糸の威圧と絡め手に阻害される灼滅者達の攻撃は、上手く通らなくなっている。
「先輩方……! 大丈夫ですか……!?」
その中にあって唯一確実に攻撃を当てる位置につく唯が、気遣う言葉と共に乱れた戦列を立て直すべく、己が鋼糸を手繰った。
仁科の糸の隙間に入り込み、回復困難な傷を刻み付けて行くその間。早くから癒しに徹する菫は仲間を鼓舞する癒しの音を奏でる。
「悦楽の為に未来ある子供たちを虐殺するなんて、許しません……!」
藍の瞳に強く光を宿す優しい少女は、癒すべく後方から仲間を見守るが故に、厳しい戦況を誰よりも理解していた。
「絶対に、止めて見せる……!」
毒帯びる霊障放つリーアの背を見つめながら、強気の言葉の先に抱く思いを、今は飲み込んだ。
●選択の時
必死に戦線を守る灼滅者達を嘲笑うかの様に、仁科は執拗に体育館の扉へと迫る。
「……残念。生徒の大半は既に逃げちゃったよ」
時折中からマイク越しの教師達の声が聞こえてくる。はったりにもならないことは理解しているが、それでも真樹は戦闘中とは思えぬゆるさでそう告げて、女へ指輪から黒い魔力の杭を撃ち出した。
一瞬でも、気を引けるならそれで良い。口調や佇まいこそゆるゆると掴み処無かったが――その飄々たる真樹の嘘に、仁科はにっこりと笑った。
「へぇ? それは是非開けて確かめなきゃねぇ」
瞬間、仁科へ着弾した杭から飛び出す黒い棘状の鎖が絡みつく。その束縛は思いの外だったか、仁科の瞳が驚きに見開かれた。
しかし、続き飛び出したリーアの霊撃を軽くいなすと、仁科はむぅ、と不満気に頬を膨らませ、灼滅者達を見渡した。
「うーん……これだったら中でいっぱい殺した方が楽しいんだよねー」
仁科のその表情から感じるのは怒りでも焦りでも無く――退屈。
「……入学式っつーのはな。夢や希望に胸躍らせて、楽しい毎日の第一歩なんだよ! お前の祭りじゃねぇんだ!」
ぎり、と歯を鳴らした銀助が、超硬度の拳を繰り出した。怒り乗せ撃ち抜く一撃に、仁科の腕がボキボキと音を立てた。
ダメージは届いているのだ。しかし、戦力差――攻撃にも防衛にも徹しきれない灼滅者達の曖昧さに、仁科は気付いている。
「……もういいや。全員闇堕ちさせとこって思ってたけど……何人か、殺しとこうか」
仁科が不快気に眉を寄せた瞬間、びりり、と戦場を包む空気が変わった。お遊び感覚だった女が、本気で殺しに来る――肌で感じる殺気に、シアの頬を冷たい汗が伝う。
くん、と微かに糸引く音がした。由衣は、反射的に手を伸ばす。
仁科が狙うは殺戮。ならば、標的は一つ。目前で今最も消耗している獲物だろう。
少なくとも、今自分含め前衛の誰が攻撃を受けても、恐らくこの攻撃を耐えられはしないだろう――自分の余力を理解して尚、守るべく由衣は動いた。
―――誰かが倒れるくらいなら、私が。
隣に立つ慧樹が、突き飛ばされる。
「桜埜先輩っ!」
呼んだ菫の声は、意識途切れる由衣に届いたのか。春を象徴する桜の髪が、鮮血と共に散る。
自分の居た場所に倒れる由衣の体を咄嗟に抱えた慧樹は、流れ行く少女の血に染まった自分の手を、強く強く握り締めた。
「アハハ、やっぱこうでなきゃね!」
「……仁科ぁぁぁ!!」
激昂する唯の叫びと共に、虚から無数の刃が出現し仁科へと襲いかかる。女の逃げ場を奪う様に次々と襲い来る刃の攻撃が終息すると、直後、慧樹が怒りも露に身に猛る炎を拳へと纏い間合いを詰めた。
「―――俺の炎を食らって燃え尽きろ!」
身を打ち己を包む炎に、仁科はケラケラと甲高い笑い声を発した。
「いいねぇ! そろそろ、闇堕ちしてみる?」
「……!」
言葉にならない怒りを乗せ、シアが、壱が、真樹が、攻撃を重ねる。闇堕ちすれば、仁科の思う壺だ。適うなら、闇堕ちせずに仁科の目論見を叩き潰してやりたかった。
しかしそれが不可能だろうことを、既に灼滅者達全員が感じていた。
「まだしないの? ……なら仕方無いか」
あぁ、また攻撃が来る。1人を狙うのか、それとも――悩む隙など無いと、菫が咄嗟にリバイブメロディで前列の仲間の傷を癒した。
それは全員を守るには困難な本当にギリギリの選択だったけれど―――どうか、1人でも多く、無事でと。
結果的に、この癒しはリーアを除く全員をギリギリで戦場へ繋ぎ止めた。
「………こんな……!」
武器を支えに何とか前線に立つ仲間の背を見て、菫の顔が、悲しみにくしゃりと歪んだ。
むせ返るように血の匂いが立ち籠めている。先程まで戦列を守っていた仲間達は、全身を朱に染め、満身創痍だ。由衣は静かに横たわり、己が半身・リーアは戦列を離脱してしまった。
体以上に心が痛い。もう何も失くさない為に戦ってきた、それなのに――悔しさに、菫の瞳から一滴涙が落ちた。
痛い―――最前で背に禍々しい闇を纏う、青透く髪の少年の姿が、悲しくて。
「……後悔、するよ」
少年――シアの瞳の奥に、闇が轟いた。
●果たせなかったもの
命の危機だった。
倒れずとも、満身創痍の仲間達の中悪戯に戦闘を長引かせれば、仲間にも、体育館で今は平穏の中にある人々の命にも危険が及ぶことは想像に難くなかった。
仁科の望み。それは、灼滅者達の最後の手段。
「アハハハ、このゲームはアタシの勝ちだ! 闇堕ち、したもんねぇ!!」
唯が悲しく大粒の瞳を揺らす。
大切な人を守れなかったかつての自分。悲劇を繰り返すまいと願って、願って、それでも食い止められなかった闇堕ちに笑う仁科を、決して許す気にはなれない。
「……もう私の目の前で……誰かが死ぬのも、悲しむのも……見たくないのに!!」
悲鳴の様なその声を、シアは受け取ったのか。無言で仁科へ向かい立つその背からは、何も感じ取ることはできない。
見つめる銀助にも、覚悟は在った。傷付く仲間を見て、大人しく居られる性分では無い。
誰かが選ばなければならなかった手段。こうなった以上、シアは共に学園へ帰ることはできない。
ならば今出来ることは――力を呼び覚ますことで仲間を守った仲間へと、銀助は静かに守り固める盾の癒しを送った。
「………またね」
「……!」
仁科の高笑いの中微かに届いた少年の言葉に、壱が地につけた手で土を握り締めた。
全員で、帰還したかった。死傷者無く、闇堕ちすら許さず、仁科の野望を叩き潰してみせたかったのに。願いは力の前に砕け散り、心に反して体は重く、言うことを効かない。
「―――必ず、必ず助けるよ! このままには、しない……!」
しかし、涙飲み込み握り締めた手の力は、ぎり、と音を立てるほど強かった。
「アハハ、アハハハハ!!」
鋼糸を舞う様に操りながら。目的達した仁科は、不快な笑い声の中満足気に去って行く。
剣戟鋭く鋼糸を打つシアもまた、無言そのままに、愉悦の笑みを浮かべながら遠く遠く仁科を追い、何処かへと消えていった。
「大丈夫かな、立てる?」
肩にかかる黒髪をさらりと揺らし、真樹が壱へ手を差し出した。
由衣には慧樹が付き添い、手当てを施している。傷こそ深いが、蒼白だった顔は血色を取り戻しつつあり、戦い終え10分ほどで、開かれた桜の瞳が微笑んだ。
「……シアさんが……仁科さんも、取り逃してしまいましたね……」
結末を受けて、由衣の穏やかな声に悔しさが滲んだ。守ることを意識し続けた慧樹も、その言葉に手当ての手を止め、ぐっと歯を食いしばる。
過る悔しさから、重い沈黙が場を支配する。
「うーん。でも、次があるよ」
不意に、真樹は言った。
やはりゆるりと、終始変わらぬ掴み処の無さで。しかし沈黙破ったその言葉は、すとんと灼滅者達の心に落ちた。
守りきれた命がある。仁科は自分の勝ちと言ったが、それは最終目標の違いに他ならない。
残った7人の灼滅者と、シア。8人の手によって、仁科の理不尽な虐殺は阻止されたのだ。そして、命1つ散らさず戦い終えた今、灼滅者達には次がある。
次に見えたその時こそは、仁科の息の根を止めてみせる。
ダークネス・シアに再び会えたその時には、中に眠るシアを、必ず取り戻す。
次こそは―――抱く決意を胸に、灼滅者達は再び前へと歩き出した。
作者:萩 |
重傷:桜埜・由衣(花天の桜・d00094) 死亡:なし 闇堕ち:シア・クリーク(知識探求者・d10947) |
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種類:
公開:2013年4月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 15/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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