幸福な悪夢~暁の木漏れ日の中

    作者:幾夜緋琉

    ●幸福な悪夢~暁の木漏れ日の中
    「みんな、集まってくれたみたいだね? それじゃ説明始めるね!」
     須藤・まりんが、集まった灼滅者達にぺこり頭を下げて、早速説明を始める。
    「今回はみんなにとある事件を担当して欲しいんだ。それは……少年少女が眠り続ける、という事件なんだよ」
     と言いながら差し出した写真……ぬいぐるみを傍らに抱える、可愛い少女。
     いつものシャドウ事件か、と思ったが、まりんは続けて。
    「どうやらね、この事件は高位のシャドウである、慈愛のコルネリウスの仕業だと思われるんだ。そしてこのコルネリウスにより、20名以上の少年少女が目覚めることのない夢を見続けてしまっているんだ」
    「……まぁ慈愛のコルネリウスには、悪意はあまり無いのかもしれませんが、このまま無視する訳にもいかないんだ。だから慈愛のコルネリウスの夢の中から少年少女を救い出して欲しいんだ」
     そこまで言うと、一端言葉を句切り、そして。
    「この夢の中は、まるで現実のようなリアルな世界になっており、その夢を見ている者の為に特別に作成されている夢の様なんだ。夢に囚われた子供達は、夢の中を『現実である』と思い込んで生活している。どうやら自分が夢の中に居るとは思っていないみたいなんだ」
    「この夢の中でも、ちょっとした不幸などはあるし、努力しなければ良い結果は生まれない。でも、本当の不幸に陥ることはないし、努力すればするだけ報われる、と幸福な夢なんだ」
    「……これだけ言うと、一見放置していても問題なさそうに見えるかもしれない。でも、事態はそんな単純な事態ではないんだ。慈愛のコルネリウスがもつ、慈愛の心はとても広い。今回の20名の夢が成功したら、今度は規模を広げて更に多くの人間を夢に捕らえられるようになっていくと思うんだ。そうなれば最悪、都市の住人全てが眠り続ける……という事件に発展するかもしれない」
    「だから夢を見ている人にそれが夢であり、現実ではない事を理解して貰い、現実に戻る決意をさせれば、きっと夢から連れ出すことが出来ると思うんだ!」
    「ちなみに、なんだけど……みんなが悪夢世界に入るにはソウルアクセスをする必要があるよね? でも、ソウルアクセスを行おうとすると、それを邪魔するべく慈愛のコルネリウスの配下のシャドウが、眠っている少女の傍らに出現してくるんだ」
    「これも皆知っての通り、シャドウは現実世界で活動できる時間に制限がある。そしてその強さは他のダークネス達と比べても、かなり強力だよ」
    「でも、幸いシャドウも眠っている少女を傷つけるような事はしてこないので、戦闘に支障は無いんだ。更にシャドウは、危険に陥ると夢の中に逃げ込むので、それを元に戦略を立てると良いと思うよ。まぁ……命を捨てて戦闘を仕掛けてこられれば強敵だけど、危険になれば逃げるという方針である以上は、そこに付け込む隙は充分にあると思うからね」
     そこで一端皆を見わたして。
    「現実側でシャドウを撃破する事に成功すれば、改めてソウルアクセスで夢の中にはいることになるよ。でも……闇墜ちした人が出たり、重傷者が複数出た場合は、夢の中に追いかけていっても、シャドウと戦うのは難しい。だからその時は、一端撤退するようにしてね?」
     そしてまりんは、続けて詳しい所を説明する。
    「今回のシャドウの戦闘能力……さっきも言った通り、現実世界に出てきたシャドウだから、真っ向勝負をしても勝利するのはまず不可能だと思う。でも撤退させるくらいならきっと出来る筈だよ」
    「幸いな事に配下はその周りには居ないけれど……闇から生まれ出ずるような姿形をしてる。なんだか蜘蛛の様にも見えるけど、そうでもない……と言った風貌をしているんだ」
    「シャドウの攻撃方法は、手にある鎌のような物を使っての近接切り刻み攻撃がメイン。でもその他に、闇を纏った風を産み出して、遠隔攻撃も仕掛けてくる事が可能だよ」
    「又、戦闘場所は少女の部屋の中……そこまで広い部屋じゃないから、立ち位置にも注意はするようにしてね?」
     そして、最後に心配そうな視線を皆に向けながら。
    「みんな……分かってるとは思うけど、現実のシャドウはすごい強敵なんだ。だから決して無理はしないようにしてね? 下手に戦えば、みんな闇墜ちしかねない位なんだから……ね?」
     と、呟くのであった。


    参加者
    浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)
    白・朔夜(迷い込んだ黒兎・d01348)
    犬塚・沙雪(炎剣・d02462)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    ヴァーリ・シトゥルス(バケツの底は宇宙の真理・d04731)
    空飛・空牙(影蝕の咎空・d05202)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    荻田・愛流(通りすがりの猫好き・d09861)

    ■リプレイ

    ●邪魔者
     まりんの依頼を受けた灼滅者達。
     彼らが到着するは極々一般的な住宅街、何の変哲も無い一軒家。
     ……そこに慈愛のコルネリウスの配下により、眠り続けている少女がいる。
    「……今度は、シャドウ……ですか……」
     ぽつり神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)が呟くと、それに犬塚・沙雪(炎剣・d02462)と、空飛・空牙(影蝕の咎空・d05202)が。
    「そうだな。現実世界での対シャドウ戦、と……中々厳しい戦いになりそうだな」
    「ああ。まぁシャドウはただ狩るだけの存在、と。俺にとって奴らが見せる夢が幸か不幸かも、正直興味は無いがな……?」
     何処か笑みを浮かべる空牙。
     コルネリウスが見せている夢は、今までに経験したシャドウとは少々違う夢。
     努力すれば報われる、そんな夢の世界……逆にそういう世界だからこそ、眠りについた少年少女達も自分が現実世界に居る、と勘違いしてしまう訳である。
     夢であるが、現実。だからこそ、夢の中から出れない。
    「……何だろうな。努力すれば報われる世界、か……確かに、努力するだけ足を引っ張られ、結果を出せば出すだけ妬まれる社会よりは、これは遥かに健全なのかもしれないな……」
    「そうですね。幸せなままに生を終える……それもある意味幸せなのかもしれません。ですが……望まぬ死は、周りの人も悲しませます」
    「……ん。幸せな夢……が、ただの幻想……くだらない……覚めない……夢なんて……ただの……地獄。終わらせる……その……闇を……」
     浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)がぐっ、と拳を握りしめると、白・朔夜(迷い込んだ黒兎・d01348)と、皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)の言葉。
     それに蒼と何故かバケツを被ったヴァーリ・シトゥルス(バケツの底は宇宙の真理・d04731)と、荻田・愛流(通りすがりの猫好き・d09861)が。
    「……えと……まだ、防げる、のなら、その企みを……潰さないと……ですね……」
    「そうですね。どうやってシャドウが現実世界へと出てきたのかは知りませんが……敵撤退を目標に頑張りましょう」
    「そうね。今回は強敵みたいだし、危険な相手だけど……でも、絶対に生き残ってみせるわ」
     と、決意を告げると共に。
    「よし。この面子でなら今回の条件も満たせるはずだ。頑張ろう」
    「そうですね。この事態を、絶対に止めましょう」
    「ああ。どんな理想でも、何か裏がある筈……まずは、見極めさせて貰おう」
     沙雪、朔夜、梗香も決意し、そして……灼滅者達は少女の眠りし部屋を見上げる。
     カーテンがぴしっと閉じられ、中を垣間見ることは出来ないけれど……嫌な気配はひしひしと感じる。
    「……私はまだ、ここで死ぬ訳にはいかないわ。だから……絶対……絶対に生きて帰ってくる……」
     愛流は、生きて帰る、と願掛けした猫のぬいぐるみをぎゅっと一度抱きしめて、そして……灼滅者達は彼女の部屋へと向かうのであった。

    ●夢飛者
    「……この部屋、ですね……では皆さん、準備はいいですか?」
    「ああ、いいぜー。さぁ……どんなシャドウが出て来るか、楽しみだぜ」
     部屋の入口で、朔夜にニヤリと笑う空牙。
     ……部屋の中からは、少女の寝息が静かに聞こえてくる……単に寝息だけ聞いていると、平和な様にも思えてしまう。
     でもドアを開ければ、コルネリウスの配下のシャドウと戦う事になる……自ずとその場は緊張。
    「よし。犬塚沙雪……参る!」
    「……ソノ死ノ為ニ、対象ノ破壊ヲ是トスル」
     沙雪、零桜奈がスレイヤーカードを解除すると、他の灼滅者達もスレイヤーカードを解除し、そして一斉に少女の部屋の中へと突入。
     ……ベッドの枕元にはファンシーなぬいぐるみ達が並び、少女の趣味を物語っている。
     きっと少女の夢の中も、彼女のようなファンシーな世界なのだろう……そしてそんな世界の中で、彼女はしっかりと生きていて……その世界の中で、シャドウも暗躍している。
    「…………」
     そして、何も言わずながら、彼女の夢へソウルアクセスを愛流が試みようとした瞬間。
    『……ったく、邪魔するんじゃねぇよぉ!!』
     そんな言葉と共に、蜘蛛の様な雰囲気を持ったシャドウが彼女の夢の中から出現。
     異形の姿をしたシャドウは、何処か苛ついた様な口調で威圧してくる……が。
    「狩らせてもうらうぜ? ……貴様のその、存在を」
     空牙が先ほど迄の微笑みから、一挙に無表情へと切り替わり、殺気が充満。
     そして朔夜も。
    「僕だって、誰かを守る事が出来るのなら……頑張れます」
     と、唇を噛みしめ決意する。
     そして梗香、沙雪、空牙、零桜奈、愛流と、朔夜のナノナノがシャドウを迎撃する様な半円の包囲網を取る。
     更に左右に朔夜と蒼のメディック二人、間にヴァーリと、彼女の霊犬、ポリが中衛の位置に付き対峙を取る。
    『……あぁ、灼滅者達かよ。全く、仕方ねえな』
     何処か溜息をついたような言葉を紡ぐシャドウに、強力なバトルオーラを纏わせながら空牙は。
    「……貴様らが何をしようと知った事じゃない。ただ……シャドウの存在だけは決して許さん。覚悟しろ」
     と挑発。そしてその左右に零桜奈と沙雪が刀を揃い構え、そして。
    「……行くぞ!」
    「……了解」
     沙雪がワイドガードで前衛陣のバッドステータス耐性を付与すると、流れるように零桜奈が雲櫂剣の武器封じ一閃。
     更に連続して、愛流が黒死斬、梗香がバスタービームで足止め、プレッシャーを与えると、それを受けてヴァーリがペトロカースの石化を追加付与。
     そして蓄積されたバッドステータスを、空牙がジグザグスラッシュで効果を一層強化する。
    『っ……邪魔くせえな!』
    「ぐ……っ!」
     恨み節を叫ぶシャドウ。その手にある鎌を使い梗香に一閃を喰らわせ、彼女の身体が壁に叩き付けられる。
    「すぐ回復します……! ナノちゃん!」
    「ナノ!」
     朔夜の指示に従い、ナノナノがふわふわハートで彼女を回復、さらに朔夜もソニックビートでヒールと盾アップを付加。
     又蒼は、傷の程度を見極めながら。
    「……咎の、力、解放します……です……」
     と、ブラックウェイブで武器封じを追加付与する。
     そして、次に動くは沙雪。
     無敵斬艦刀を大きく上段に構え、一撃を叩き込みプレッシャーを付与していくと、連続して空牙も戦艦斬りを叩き込んで行く。
     更に零桜奈がレーヴァテインの炎、愛流が雲櫂剣の武器封じ、梗香が零距離格闘によるエンチャントブレイク。
     そしてヴァーリが制約の弾丸のパラライズ……と、前衛・中衛が、ディフェンダー陣が代わる代わるバッドステータスを付与する攻撃を加える。
     とはいえシャドウも、何時もとは違い現実世界に現われている……その力は遥かに強大で、苦しんでいる様ではない。
     むしろ、その手に持った鎌の一撃を大きく奮い、愛流に対し強烈な攻撃を嗾けていく。
     だが、その攻撃を両手でブロック……少しその身体が勢いで後方に押し流されるが。
    「……ふっ。その程度の攻撃じゃ、私もこの子も倒れないわよ」
     愛流がクールに笑みを浮かべながら、猫のぬいぐるみを軽く撫でる。
    『ふん……強がり言えるのも後ちょっとだぜ!』
     シャドウもその言葉に反応。
     とは言え愛流へのダメージを、今度は蒼が。
    「包み込め、清浄なる風よ……」
     と清めの風を放つ。
     ……そして灼滅者達と、シャドウの攻防が暫し続く。
     流石にシャドウの激しい攻撃に、灼滅者達の体力はかなり削られつつある。
     が、蒼、朔夜、そしてナノナノが分担して回復。重傷には陥らないようなギリギリの戦いで、時は経過していく。
     そして9分が経過。
    『……はぁ、はぁ……ったく、なっかなかやるようだなぁ?』
     シャドウの口調も、少し荒くなってきている……現実世界に出てきている故に、その力の消耗も激しいのだろう。
     勿論、灼滅者達の体力の消耗も激しいのだが、それを悟られぬ様に。
    「あなたの強さは認めます。ですが、私達にも負けられない理由があるのですよ。さぁ、これでも喰らって下さい」
     ヴァーリがペトロカースで更に石化を付与……そしてその合間に零桜奈、梗香が神薙刃とバスタービームを放出。
     そして朔夜と蒼も。
    「僕だって、やれば出来るんです……!」
    「……そう、です……跡形も、なく、切り刻め……」
     と影縛りと虚空ギロチンで、あえて攻撃を加える。
     そんな灼滅者達の総力戦で、シャドウをジリジリと、確実に追い詰めていく。
     ……そして、シャドウとの戦闘開始から10分が経過すると。
    『っ……はぁ、はぁ……』
     かなりの疲弊度合いを隠すことなく、息を荒げて睨み付けてくるシャドウ、それに対して空牙、沙雪が。
    「どうした? これで終わりか?」
    「お前が強敵であるのは間違い無い……しかし、その力差には負けん!」
     と言い放つ。
     ……その言葉に加え、灼滅者の闘志は全く以て衰えては居ない……寧ろ、更に燃え上がっている様にも見える。
     そんな灼滅者達の闘志に……シャドウは。
    『ちっ……ったく、厄介な奴らだぜ……だが、もう遊びの時間は終わりだ!』
     と……捨て台詞を吐くと共に、再度、夢に眠る彼女の夢の中へとさっさと撤退していく。
     ……そして、シャドウの気配が消えた部屋の中。
    「……とり、あえずは、凌げた……の、でしょうか……?」
     蒼が大鎌を一端降ろし、呼吸を整えようとする……それにヴァーリが。
    「ええ、まずは……シャドウを現実世界で暴れさせるのは止められましたね」
    「そうですか……第一段階、は、成功……という事……ですね……でも、次が、本番……です……。……行きましょう……です……」
    「そうだな……次こそ本番だ。皆……改めて気を引き締めて行くぞ」
     蒼、梗香の言葉に灼滅者皆頷いて、そして。
    「では……皆さん。彼女の夢の中へ……向かいます」
     愛流が静かに、彼女の枕元に立ち……ソウルアクセスを発動し、灼滅者達は彼女の夢の中へと侵入するのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月17日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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