●事件発生
「少年少女が眠り続けている事件が発生したよ!」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)がどこか不安そうに灼滅者(スレイヤー)たちに告げる。どうやら高位のシャドウである慈愛のコルネリウスの仕業である可能性がある。
二十名以上の少年少女が覚めることのない夢を見続けている。この夢の中から少年少女を救い出してもらいたい。
「夢の中は現実のようなリアルな世界になっているんだ」
夢を見ている者に合わせて特別に作成されている夢だ。囚われた者は、この夢が現実であると思い込み、夢の中で日常生活をいつも通り送っている。自分が夢の中にいるとは全く思っていない状態だ。
しかもこの夢の中は、ちょっとした不幸があったとしても、本当の不幸に陥ることはない。さらに努力すればしただけ報われる幸福な、文字通り夢のような世界になっている。
「この話だけだと放置していても問題ないように感じるかもだけど、そう単純な話しじゃないんだよね」
今回の事件を起こしたと思われる慈愛のコルネリウスの慈愛の心はとても広い。もし今回の少年少女の夢が成功したら、規模を広げてさらに多くの人を夢に捕えるようになっていくだろう。
最悪、都市の住人が全て眠り続けるという規模にまで発展してしまう可能性がある。
「夢を見ている人に、夢であることを理解してもらって!」
夢を見ている本人が夢であることを認識して、現実に戻るという決意をしてくれれば夢から連れ出すことが可能だ。
では早速と言うように、まりんがどうすればいいのかを説明する。
「まずはソウルアクセスをしなきゃなんだけど……」
ソウルアクセスしようとすると、邪魔するべく慈愛のコルネリウスの配下のシャドウが眠っている少女の傍らに出現する。この邪魔者を撃退しなければいけない。
シャドウは現実世界で活動できる時間に制限があるものの、他のダークネスたちと比べてもかなり強力だ。しかし幸いなことに、シャドウは眠っている少女を傷つけるようなことは絶対にしないので、少女の存在が戦闘に支障を与えることはない。
また危機に陥ったら夢の中に逃げ込むよう慈愛のコルネリウスが指示しているため、命を捨ててまで戦闘を仕掛けてくることはない。
「現実側でシャドウを撃退できたら、改めてソウルアクセスしてもらうことになるよ」
ただし、闇堕ちした者がいたり重傷者が複数いた場合など、夢の中のシャドウと戦うのが難しい状況になったら一旦、撤退することになる。
現実に現れるシャドウはシャドウハンターのサイキックと無敵斬艦刀を使用して来る。ハートのトランプ模様を浮かばせたぶよぶよの黒い塊だ。
しかしぶよぶよした見た目と違って、動きが鈍いということはないので注意して欲しい。現実世界に具現化したシャドウであることを決して忘れないでもらいたい。
クラッシャーの位置に付くようなので、その辺りも考慮してもらえればと思う。
「かなり危険な任務になるから、絶対に無理だけはしないように頑張って!」
参加者 | |
---|---|
艶川・寵子(慾・d00025) |
九曜・亜門(白夜の夢・d02806) |
黛・藍花(小学生エクソシスト・d04699) |
メルキューレ・ライルファーレン(教会の死神人形・d05367) |
シェリー・プラネット(冷たい鬼の仔・d08714) |
高峰・緋月(頭から突撃娘・d09865) |
綿貫・砌(強く優しいあの人たちのように・d13758) |
寿・叶恵(鉄工戦士キュポライオン・d13874) |
●具現化するシャドウ
「ふわぁーあ」
大きなあくびが少女の眠る部屋に響いた。どこにでもありそうな普通の女の子の部屋。その部屋のベットで少女が静かな寝息を立てている。
「夢は所詮夢であるなれば……」
あくびを響かせた霊犬のハクの頭を撫でながら、九曜・亜門(白夜の夢・d02806)がこれから戦うのとは思えないほど柔和な表情で呟いた。夢の中で望む事が目の前にあったなら、抜け出すのは難しい。
けれどこれでは生ける屍と変わらない。夢に生き、夢に死ぬのは自分たちのような存在だけでいい。
「では、取り返すといたそう」
白面を被りながら亜門が言うのと同時に綿貫・砌(強く優しいあの人たちのように・d13758)が少女のそばに寄った。失敗のない、努力がそのまま報われる慈愛の世界。砌に思うことも言いたい事もたくさんある。
しかし少女に言葉を伝えるためには、舞台を整える必要がある。少女に手を触れソウルアクセスした瞬間にシャドウが現れる。確認するように振り向いた砌に皆が頷く。
「やろう」
カタコトの日本語で返答したのはシェリー・プラネット(冷たい鬼の仔・d08714)だった。守り続ける戦いが初めてのシェリーは気を引き締めなおす。
シェリーの言葉に頷いた砌が少女に向き直る。
「ごめんね……」
助けるためとは言え、精神世界に入ろうとすることに砌が謝りの言葉を紡ぎ、手を伸ばす。触れた場所からソウルアクセスしようとして砌は後ろに飛び下がった。
黒いぶよぶよした体の中に浮かび、動く赤いハートマークが鮮やかに見える。具現化したシャドウの横で、少女は微笑みを浮かべたまま眠り続けている。
微笑むの行き着く先は死だ。誰からに決められたままの世界でゆるやかに死んでいくのは艶川・寵子(慾・d00025)にはとてもじゃないが、楽しいことには思えない。
「未来ある少女を悪夢から取り戻しましょうね」
隣でこくんと頷いた黛・藍花(小学生エクソシスト・d04699)が不気味に立ち尽くすシャドウを見つめる。
「……始めましょう、私達は決して相容れないのだから」
一気に足を踏み出した藍花が出現させたシールドでシャドウを殴り付ける。合わせてビハインドが攻撃を加えた。
夢と自覚できない夢の中で幸せな一生を終える。世界が全員を幸せになれるように出来ていないのだから、確かにそれも幸せの一つの形かも知れない。
けれどダークネスのする事となれば別だ。放置すればより一層の悲劇に見舞われると簡単に想像できてしまう。感情を表に出さないだけで、藍花の心は歎き憤っている。
「……守り……頑張って」
藍花が飛び出すのと同時にシェリーが分裂させた小光輪を向かわさ盾とさせる。
「悪を鋳溶かす溶鉱炉……キュポライオン、推参!」
力を解放した寿・叶恵(鉄工戦士キュポライオン・d13874)が十八歳の姿を特撮風の衣装におさめて日本刀を構える。
「川口の炎が産んだ銘刀です!切れないものは……そう多くはありませんよ!」
上段の構えから、まっすぐシャドウに向かって早く重い斬撃を振り下ろす。まるで夢と現実の狭間にある幸福な悪夢という楽園を分断させるかのように、鋭利な日本刀の刃が光る。
与えられるだけの幸福に意味があるとは思えない。だから叶恵は闘う。
「こるねる……」
そんな叶恵の隣でコルネリウスと言おうとして噛んだ高峰・緋月(頭から突撃娘・d09865)がぷるぷると首を振って、再度シャドウを睨む。
「コルネリウスの思い通りには絶対にさせないから!」
静かに音もなく現れた糸がシャドウの体に巻き付く。夢の中で幸せになっても、身体は現実の世界にある。身体はただの器ではないことを分からせるように、具現化したシャドウの身体を緋月の鋼糸Silent Silverが締め付ける。
ぶよぶよした見た目からは、攻撃が効いているのかどうかを判断するのが難しい。身体を動かしたシャドウが自身に絶対不敗の暗示をかける。
雪原を思わせる白銀の長い髪を揺らしたメルキューレ・ライルファーレン(教会の死神人形・d05367)が活性化させたサイキックの中で最も効果的であるものを判断する。
「撃ち抜かせてもらいます」
漆黒の弾丸がメルキューレが宣言した通り、シャドウの身体を撃ち抜いた。
●攻撃の重み
片腕を異形巨大化させた寵子が少女の幸せそうな寝顔を見て、首を振った。
「ねぇ、アナタは今、イッてしまいそうな程しあわせかしら?」
答えが返ってこないのはわかっている。けれど寵子は自分で尋ねた質問に対して否と心の中で結論を出す。
幸せでも不幸でも、自分のことは自分で決めたい。自分で決めたことならば、どんな苦痛も快楽だ。
「私に快楽を与えてよね?」
刹那の欲望に忠実な寵子が形の良い唇をぺろりと舐めて、異形巨大化した腕を叩き込むようにシャドウに向かう。
そんな寵子に亜門が放った護符を飛ばすのと同時に、砌も飛び出す。巨大な腕が叩き込まれるのと合わせて、シールドがシャドウを殴り付ける。
しかし具現化されたシャドウは全く気にする様子もなく、あらゆるものを断ち割るかのように前にいた灼滅者たちに振り下ろす。
「く……」
「なかなかにしんどい相手じゃな……なに、こちらは支えるさね。安心して、目の前に集中しなされよ」
攻撃を受けた仲間に告げるのと同時に亜門が防護符を放ち、ハクを見る。すぐにハクが回復に回る。
「……大丈夫? ……今……回復を」
シェリーが護符を飛ばし、メルキューレが仲間を救う光条を放つ。
「私も手伝います」
回復が追いつかないことを悟り傷を癒す。お礼の言葉を伝えた砌がシャドウを高く持ち上げ、地面に叩きつける。同時に大爆発が起こった。
間髪開けずに藍花の身体が空を舞い、再びシャドウをシールドで殴り付ける。ぶよぶよの身体が沈むように形を変えると、その場所に魔法の弾が放たれる。
「ふふ、イケナイコ」
やられっぱなしは好みじゃないと寵子の唇が弧を描く。衝撃に揺れるシャドウの体に、上段から一気に緋月が日本刀を振り下ろす。同じく日本刀を構えた叶恵が中段から素早く振り下ろした。
「守りを固めるね」
シャドウの攻撃の重みを感じて砌が自身の守りを固めた瞬間、その身体を漆黒の弾丸が撃ち抜く。
「んっ……!」
微かに眉を寄せた砌の身体が後方に飛ばされる。シェリーがすぐに小光輪を向かわせ、傷を回復するとともに砌の守りをさらに固めていく。
「まだ……いける」
確認するのではなく、いけると言い切ったシェリーの言葉に砌がすぐ立ち上がる。シャドウの攻撃の重みを実感して、微かな不安がよぎる。けれど以前に救出してくれた八人の灼滅者たちの優しい表情、頼もしい姿を砌は思い起こす。
シェリーの言うとおり、自分はいける。思い起こした記憶に力をもらって砌は気合を入れ直す。
「ありがとね!」
陣形を崩さないようにシェリーにお礼を言いながら、砌はすぐに前に出て行く。砌が戻る頃には寵子が異形巨大化した片腕でシャドウを殴り付けていた。
●幸福の真理
「幸せな夢を見せ続けることが、はたして本当の幸福だと言うのでしょうか……?」
ふと、見ているだけなら幸せそうな寝息を立てる少女を見てメルキューレが誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。そもそも何が幸福かを真に理解している人間がいるのかも定かではない。
けれど夢という幸福が幸福とは言えないはずだということはメルキューレにもわかる。このまま少女を放置するわけにはいかない。
「ん!」
緋月の身体が漆黒の弾丸に撃ち抜かれ、その衝撃でそのまま後ろに仰け反る。体勢を立て直そうとするが、傷が深かったせいか立て直せないまま後方に身体が転がる。
「相手はこっちですよ!」
お返しと言うように、メルキューレが漆黒の弾丸でシャドウを撃ち抜く。すぐに亜門とハクが緋月の回復に向かう。回復を受けた緋月が目を覚まさせるように、微かに首を振る。
大丈夫と言うように頷くと、緋月はそのまま鋼糸をシャドウに巻き付かせる。
「なんとしてもこの場を切り抜けるよ!」
夢に囚われている人を救うために、まずはこのシャドウを撤退させなければいけない。
「もちろん!」
答えるのと同時に、砌が守りを固めるために藍花にシールドを与える。緋月の言葉に無言で頷いた藍花が魔法の弾をシャドウに向けて放った。藍花と瓜二つの容姿を持つビハインドが追撃する。
顔を隠す布から覗く口元は、藍花と対照的に柔らかな微笑みを浮かべている。ビハインドの攻撃が決まるのと同時に、寵子が軽やかに跳躍する。
「見た目以上に諦めの悪い女なの!」
だから、何としても緋月の言うとおりこの場を切り抜ける気持ちでいっぱいだ。目的達成の為の苦痛は嫌いじゃない。
「あと……半分」
残り五分耐え切ればシャドウは撤退する。しかし具現化したシャドウは強い。少しでも後の負担を減らそうとシェリーが護符を飛ばす。
今は維持できているが同じ分だけ守り続けるということを考えて、さらにシェリーは気を引き締める。守りきらなければいけないのだと。
「川口の炎よ、猛り、円環を成せ……!」
リングスラッシャーが叶恵からシャドウに向かって飛ばされる。シャドウのぶよぶよの黒い身体は闇のように広がっている。
「危ないよ!」
砌の言葉が響くのと同時に前にいた灼滅者たちが身を守るように構える。再びあらゆるものを断ち割るように振り下ろされ、斬り裂いていく。
すぐに回復に傷を回復するように、亜門とハク、そしてシェリーが動く。そして砌が自らを回復した。
「ここが正念場じゃのぅ……」
まだまだ当分余裕そうなシャドウを見て亜門がつぶやくの同時に、藍花が地を蹴る。戦っている最中も少女は幸せそうな微笑みを浮かべて眠り続けている。
見えない敵の意図に戸惑いを感じ、優しい夢に惹かれてしまいそうな心を藍花は押し殺す。自分は灼滅者なのだと言い聞かせ、有り様を貫くのだとシールドに想いを乗せて殴り付けた。
●ここからがスタート
「これで最後よ?」
ふらつき始めた足に気合を入れるように寵子は構えなおした。ここをこらえれば、シャドウの撤退条件を満たす。攻撃を耐えるために自らを回復する。
続くように各々が自らを回復していく。最後のシャドウの攻撃に備えるためだけに。
シャドウが動いた瞬間、叶恵の瞳が見開かれる。漆黒の弾丸が迷うことなく、まっすぐ自分に向かって来る。
避けることが不可能なことは瞬時に判断することができた。耐えてみせると言うようにまっすぐ見つめる叶恵がさらに瞳を見開いた。
弾丸が自分を貫くと思った。しかしその衝撃は来なかった。
「ん……!」
基本無表情なメルキューレが苦痛に顔を微かに歪める。耐えきることが出来ずに、衝撃に身体が飛ばされる。
メルキューレが倒れるのと同時にシャドウの身体が掻き消えるように見えなくなる。シャドウが消えるのを確認すると、全員がすぐにメルキューレのそばに集まる。
回復を受けたメルキューレの身体が起き上がる。無表情のまま、瞬きする顔は女性のようにさえ見える綺麗な顔だ。
心配そうなみんなにメルキューレが頷く。
「大丈夫です」
これからが本場ではあるが、ひとまず灼滅者たちは肩の力を抜いた。
「ふぅ、やれやれ……時を稼ぐというのもなかなかしんどいわい……」
メルキューレが立ち上がるのに手を貸しながら、柔和な表情を浮かべた亜門が呟いた。
少女の様子を覗き込んだ緋月が力強く頷く。
「絶対に皆で助けに行くから……」
だから夢に飲み込まれることなく待っていて欲しいと。緋月の横にいた藍花が静かに頷く。
「夢は、終わらせるべきです」
いつの間にか全員が少女の周りに集まっていた。夢を夢と気づかせることが、案外と難しそうだとシェリーは微かに首を振った。
「ふふ、どんな苦痛も快楽よね?」
そんなシェリーに寵子が笑みを浮かべる。助けると決めたのは自分たちだ。寵子の言いたいことを汲み取ったシェリーが微かに頷く。少女を救うのはここからがスタートだ。
「では、参るとしよう」
心構えは出来たというように、亜門が言うのと同時にハクの大あくびが再び部屋に響き渡る。何にも動じず、ゆったりと落ち着いたハクに動物好きなメルキューレは微かに反応してしまう。
十八歳じゃなくなった叶恵が砌の方を見る。少女に言葉を伝えるために、再び少女に手を伸ばした。
作者:奏蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年4月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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