忘却された村の村人達

    作者:緋月シン

    ●忘却の村
    「……嫌な予感ほどよく当たる、とは言ったものだけど」
     眼下の光景を眺めながら、アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)は呟いた。
     その視線の先には、寂れた建物が並んでいる。全てボロボロであり、廃棄されてからしばらく経つのだろうことが、距離の離れたそこからでも見て取れた。
     廃村だ。当然既に人など住んでいない……というよりも、だからこそ廃村となったのであるが。
     しかし今、そこを蠢く人影があった。
     いや、正確に言うならばそれは人ではない。その影だけならば確かに人と同じものなのだが、その大元が違っている。
     まるで廃屋と同じような、ボロボロの肉体。
     ゾンビである。
     それが、目視出来るだけでも四体。
    「本当はこのまま灼滅出来ればいいんでしょうけど」
     アリスはそこまで自分の力を過信していない。それにあくまで最低四体というだけだ。最大となれば何処まで居るか分からない。
     戦闘中に背後でも襲われたら、そこで終わってしまうだろう。
     ともあれ、それ以上そこに居ても、状況は改善されそうもない。アリスは最後に一度睨むようにそこを見てから、背を向けた。
     とりあえず。
    「早く帰りましょうか」
     先日の廃村のように、そこに誰かが迷い込み襲われてしまう前に。

    ●住み着きしモノ
    「廃村にゾンビ達が住み着いているのを、バークリーさんが見つけてくださいました」
    「まあふとした思い付きだったんだけどね」
     それでも見つけたことは事実である。
     そして詳細な情報を知るために五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)に話したのだが、こうして他の皆も含めて集められたということは、それが分かったのだろう。
     問いかけるようなアリスの視線に、姫子は言葉で返答とした。
    「バークリーさんは既に知っているとは思いますが、場所はとある山間にある廃村です」
    「そう言えば、この間向かった場所は確かイフリートによって廃村になってしまったはずだけど……」
    「いえ、今回の場所は普通に人々が都会へと移住していった結果のようです」
    「そう……」
     どうやら色々と厳しい場所であるために徐々に人が居なくなり、廃村となってしまったらしい。
     ともあれそこに、ゾンビが住み着いた。そしてまるで自分達の村であるかのように、歩き回っている。
     その数は、合計で十六。
    「……撤退して正解だったわね」
    「そうですね。おそらく向かっていたら、逃げることも出来なくなっていたでしょうから」
     通常の眷属ではなく、何らかの理由ではぐれとなったもののようだが、幾ら灼滅者でもその数には敵わない。
     ただし村にある程度散らばっているらしく、作戦をきちんと立て各個撃破していけば問題はないだろう。
    「ある一定範囲内に、大体二から四程度の個体が集まっているようですね。アリスさんが見かけたのは、そのうちの一つだったのでしょう」
     理由はよく分かっていない。或いは以前命令を出していたものがそうした命令をしていたのかもしれないが、既にはぐれとなっているため確認のしようがない。
     何にせよ、こちらにとっては好都合だ。
     それぞれのゾンビの集まりは、凡そ五百メートル程離れている。戦闘が始まれば合流しようとするだろうが、それでも各集団が合流するには時間差がある。そこを上手く利用すれば、有利に戦うことが出来るだろう。
    「ゾンビ達はそれぞれ東西南北に位置しており、それらの真ん中にボス的な存在のゾンビがいるようです」
     東に四体、西に三体、南に二体、北に三体、そして真ん中にボス的ゾンビ含め四体。
    「ボス的な存在というのはどういった感じなのかしら?」
    「そうですね。他のゾンビに比べて若干良質な服を着て、腰に刀を持っているようです。ですので、おそらく一目で分かるかと思います」
     ゾンビ達は龍砕斧相当の攻撃、ボス的なゾンビはそれにプラスして日本刀相当の攻撃をしてくる。一体一体は弱い相手だが、それでも油断をすれば思わぬ怪我を負いかねない。十分に注意して戦うべきだろう。

    「こんなところでしょうか。それでは、よろしくお願いします」
     そう言って、姫子は頭を下げたのだった。


    参加者
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    斑目・立夏(双頭の烏・d01190)
    天峰・結城(全方位戦術師・d02939)
    六連・光(リヴォルヴァー・d04322)
    綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)
    惟住・多季(花環クロマティック・d07127)
    桜庭・翔琉(枝垂桜・d07758)
    久保田・紅(ルージュオアノアール・d13379)

    ■リプレイ


     そこは寂れたというよりは、既に退廃したという言葉の方が相応しいような有様だった。ボロボロになった廃屋は形こそ残しているものの、それだけだ。人の住んでいた気配などは、とうの昔に失われている。
    「こんなところに廃村があったとは。……よく見付けたな」
    「まあ運がよかった、というところかしら?」
     それらを眺めながら感心するように言った桜庭・翔琉(枝垂桜・d07758)に、アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)が答えた。
     実際のところは事前に十分な調べを行ってからの行動だったために、謙遜の意味合いが強い。もっともゾンビを見付けたのは、予測の一つとして考えていたにしても、やはり運としか言いようがないだろうが。
     それが良いか悪いかは、別にして。
     ともあれ八人は、廃屋に隠れて進みながら先へと進んでいく。目指すのは東の地点だ。そこを初めに襲撃し、後は順にやってくるゾンビ達を倒していくというのが今回の作戦である。
    「ゾンビの村かあ……生活とかしてたらギャグですし、昼夜問わずウロウロしてるんでしょうかね」
     廃村にゾンビ。ある意味ぴったりかも、などと思う惟住・多季(花環クロマティック・d07127)であるが、それはそれ、これはこれだ。
     人がいつ迷い込んでしまうとも限らない以上、そこを巣にされたら堪らない。
    「ゾンビなんてこの間の戦争で散々見たばっかりなのに」
     それとも、使役主があの戦争で灼滅されたのかしら?
     アリスはそんなことを思うものの、何にせよやることに違いはない。さっさと灼滅するだけだ。
    「ゾンビの廃村、これが本当のゴーストタウンって奴か」
    「ゴーストは幽霊って意味なので少し違うんじゃないですかね?」
    「似たようなもんだろ?」
    「まあそうですけど」
     綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)にとってはどちらでもいいことだ。
     その信条は護りの戦。危害を及ぼす存在は砕くのみである。
    「さて……この廃村に16体のゾンビとか映画を思い浮かべますね」
     そうして歩いている最中に、天峰・結城(全方位戦術師・d02939)がふとそんなことを呟いた。
    「確かに、なんやゾンビ映画みたいやな」
     それに斑目・立夏(双頭の烏・d01190)が頷く。
     廃墟に出る大量のゾンビなどというものは、結構有り触れた話である。B級ホラー映画の展開ならば、仲間が一人ずつ減っていくところだろう。
    「一番最初に犠牲になるのは誰でしょうか?」
     その言葉に、山を下りて来られても面倒だし早いところ片付けるか、などと考えていた翔琉がビクリと身体を震わせた。ゾンビやオカルトものはあまり得意ではないのである。
     実は立夏も内心ちょっとドキドキしていたが、それを表には出さない。敵を探すために周囲を見回しながら足を進めていく。
     やがて八人の視界に、それが映し出された。四体のゾンビである。八人は視線を交わし合うと、ゆっくりと近づいていく。
     そしてギリギリまで近づいたところで、一斉に飛び出した。


    「武蔵坂学園所属、六連・光。地獄への案内をさせて頂く」
     先陣を切ったのは六連・光(リヴォルヴァー・d04322)だ。その手に持つ槍を握り締め、最寄りのゾンビに向けて走り寄る。
     ゾンビ達にしてみれば、ただ日常を過ごしていただけなのかもしれない。だが死者にとっての日常は、生者にとっての地獄に他ならない。
     だからこそ、歪められた命は相応の平穏へと還す。
     螺旋の如く捻られた一撃は、脆い肉体を簡単に貫き通した。反応される前に、そのまま横へと薙ぐ。槍が抜けると共に、ゾンビが吹っ飛んでいった。
     そこに飛び込むのは、久保田・紅(ルージュオアノアール・d13379)。
    「ゾンビ殴るンならやっぱ『コレ』だよナ!」
     そしてその勢いのまま、手に持ったそれを振り下ろした。
     それは火掻き棒だ。わざわざ紅が持ってきたものであるが、返って来た手応えは、当然と言うべきか皆無だった。
    「サイキック以外通じネェってのも、趣がねェナ……」
     分かっていたことではあるものの、グチりつつ火掻き棒を放り投げ、日本刀に持ち替える。それからふざけるなとばかりに向けられた腕を、後ろに飛んでかわす。
     その姿を眺めながら、ふと紅は思った。コイツラはいつからゾンビだったんだろう、と。
     どうでもいいといえば、どうでもいいことだ。
     けれど。
    「まァ、せめてもの情けだ。ひと思いに楽にしてやるからヨ、遠慮なく成仏してくれや」
     上段から振り下ろした刃が、今度はきちんとその首を斬り飛ばした。
    「ここからは連戦だ、確実に仕留めていこう」
     言いながら愛用の日本刀を振るう翔琉に、先ほどの様子の名残は見られない。むしろその口元は、楽しそうに歪んですらいた。腕を振る度に、少しずつゾンビの肉体が削り取られていく。
     それが頭に来たのか、思い切り引き絞られ放たれた拳は、しかし当たらない。掻い潜ってかわし、擦れ違いざまに足を斬り付ける。
     膝を地面についたゾンビに、翔琉は近づくでなく逆に飛び退いた。その視線の先には、ガトリングガンを構えた多季の姿。
    「恨みはありませんが、成敗します」
     狙うのは当然翔琉が削り動きの止まったゾンビだ。射線上に障害となるものはなく、狙いはきっちりと合っている。
    「燃えて塵に戻るといいです!」
     放たれたのは大量の弾丸。その全てが狙い違わず、ゾンビの身体へと吸い込まれていく。
     だがそれが向こう側へと抜けていくことはない。体内に侵入した瞬間、込められた魔力によって爆ぜた。
     次々と発生する爆炎に、ゾンビの姿が飲まれていく。撃ち終わった時に残ったものは、焼き尽くされたことによって生じた灰のみだった。
    「俺が望むのは楽しめる戦だ、修羅の宴って奴を始めようぜ」
     一気にゾンビの懐まで飛び込んだ祇翠は、その拳を握り締めた。そこに纏うのは、灼焔のオーラ灼焔衣ヴェエメンテ。さらに闘気を変換させた雷で覆う。
     ゾンビの拳も振り下ろされるが、それよりも祇翠の方が早い。先に到達した拳がゾンビの顎に突き刺さり、振り抜かれた。
     頭が後ろに逸れ、そうなれば当然胴体ががら空きとなる。それが分かっているのかゾンビの腕が胴体の前へと持ってこられるが、無意味だ。
    「それで護ってるつもりか? ゾンビの冗談は笑えないもんだな」
     突き出された拳が、関係なしにぶっ飛ばした。
     地面に叩き付けられたゾンビに、影が差す。直後、その顔面にハルバードが突き刺さった。
     施された双頭の鴉の彫刻、その鴉の左胸が陽光に照らされ赤く光る。
     立夏の持つ妖の槍、Heart of Mammonだ。
     立夏はそれを引き抜くと、止めにと再度振り下ろす。地面が軽くへこみ、ゾンビの身体がバラバラに弾け飛んだ。
    「っし一体撃破やんな! 次行くで次!」
     その姿は実に楽しそうだった。実際、ゾンビを倒すのは狩りをするような感覚であり、楽しんでいることに違いはない。
     何せゾンビといっても倒せるのだ。怖いわけがない。
    (「……べっ! 別に幽霊も怖くあらへんけど!」)
     本当はちょっと怖いけど、などと心の中で呟きながら、立夏は次の敵を探して周囲を見渡した。
    「ゾンビが真っ当な住民面で廃村に居座ってるんじゃないわよ。悪いけど地上げさせてもらうわ」
     両手に白夜光と戦(占)術符「風鳴」を持ちながら、アリスは駆ける。その身に白銀のオーラである銀沙を纏い、同色の影である汎魔殿を足元に控えさせている。
     それがアリスのスタイルだ。一番の得意は魔法使いのサイキックではあるものの、それを支えているのはその殲術道具達である。
     どんな状況にも対応してみせると意気込みながら見やるのは、その場に残る最後の一体。
    「理法によりて編み上げる! 万物を穿つ魔法の矢! 疾く走れ!」
     紡ぐ言葉と共に創り出されるのは、白色の塊だ。放たれた魔法の矢は一直線に敵へと向かい、瞳に集められたバベルの鎖によって予測された通りに、違うことなくその身体を穿つ。
     反撃をする暇は与えない。次々に放たれる矢が、その腕を身体を足を、間断なく貫いていく。
    「遊びはなしだ」
     その間に強化を終えた結城が、走る。高速の動きとアリスの攻撃により鈍ったゾンビには、その姿を捉えることは出来ない。
     もっとも万全の状態でも反応できたかは分からないが。
    「……遅い」
     死角より放たれた一撃がその身体を斜めに切り裂き、ゾンビが視線を向けた時には既にそこに居ない。別方向からの一撃は、その反対側からやってきた。
     真っ二つにされた身体に、ついでとばかりにアリスの矢が飛ぶ。頭に突き刺さった矢はそれを粉々にし、そうして数分も経たないうちにその場に居たゾンビは全滅したのだった。


     ぶっちゃけて言えば明らかな戦力過多である。
     南からやってきた二体、北からの三体、西からの三体。全て合流するどころか数分持たずに速攻で倒され、灼滅者達は怪我すらほとんどしていない。
     もしも今ようやく現れたボス的なゾンビに正常な理性があったとしたならば、その場から即座に逃げ出してもおかしくないような、そんな状況だ。
     もっともそんなことをしても、彼らから逃げることは出来なかったであろうが。
    「おっと、ボスのお出ましのようだ」
    「……来ましたね。大将首です」
     期せずして翔琉と光の言葉が重なった。互いに顔を見合わせ、苦笑を浮かべる。しかしすぐに気を引き締めると、敵に向き直った。
     確かにここまでは余裕であったものの、最後まで気を緩めるわけにはいかない。
    「万年氷の底の底。封じられし古の冷気よ。世界を蝕め!」
     一体たりとも逃がさない。そうでないと、わざわざ情報を持って学園に引き返した意味が無いから。
     気迫のこもったアリスのフリージングデスが、ゾンビ達を覆う。身体の熱を奪うそれはゾンビ達の意識的には何ら問題はないが、確実にその動きを鈍らせ肉体を損傷させていく。
     そこへ祇翠が飛び込んだ。素早く接近し、旋回により付けた勢いで裏拳を放つ。
     が、それはブラフだ。ギリギリ避けられるよう調整された拳が空振る勢いも利用し、もう片方の手で握っていたサイキックソードを振り抜く。
     半ば以上まで斬り裂かれた首を、反対側から通された結城の解体ナイフが完全に断った。
     即座に一体を屠ったが、灼滅者達の動きは欠片も緩まない。轟音が鳴り響き、ゾンビの一体が吹っ飛んだ。
     紅による轟雷である。飛んでいる途中も多季のガトリングガンにより穴だらけにさせられたゾンビは、着地地点で待ち構えていた翔琉の一撃により、内側から弾け飛んだ。
    「他愛ない……根性見せろ雑兵ッ」
     ゾンビに答える口は持たないが、仮に答えることが出来たのならば、おそらくそのゾンビは光に対しこう言ったであろう。
     無茶言うな、と。
     ボコボコに殴られたゾンビは、最後に立夏より繰り出された槍によりその頭を貫かれ、その命を土に返した。
     そして残るは一体。
     当然ボスであるが、着ている服は他と比べ若干派手というところだろうか。良質ということで生地がいいのかなどと思っていた多季であるが、それは見ただけでは分からない。
     というか正直ボロボロなのは変わらなかったので、例えそうだとしても判別は付かなかった。
     まあ何にせよ、攻撃して破いちゃえば同じである。
    「破いちゃいますよ!」
     影による刃が斬り裂いた。
    「はよ土に戻りや!」
     それに続いたのは立夏だ。覆いつくした影が、敵を飲み込む。
     だがさすがにボスだけあってか、ただではやられない。影が晴れると同時に、その手に持つ刀を最も近くに居たアリスへと振り下ろした。
     その一撃を、アリスは白夜光で持って受け止める。しかしその後の判断を、アリスは迷った。
     もっとも逡巡したのは一瞬だ。刀身を傾け刀を逸らすと、そのまま敵へと斬りかかる。
     踏み込みと同時の一撃は身体の深くまでを裂き、反撃と向けられた刀は白夜光で受け流す。返す刃で、その腕を半ばまで断ち斬った。
     たまらず敵は後ろに下がろうとしたが、結城がそこに迫る。
    「逃がさない」
     ジグザグに変形した刃が切り刻み、その場に足を止めさせた。
    「ショウ・ダウンだゼ!」
     携帯音楽プレーヤーでヘビメタを聴きながら、ノリノリで紅は動く。そのテンションのままに抜き放たれた刀は、防御する暇すら与えずにその胸を横に斬り裂いた。
     それでも光へと刀が振られたのは、意地か。紙一重のところで通り過ぎた一撃が結っていた髪をほどくも、構わずに踏み込む。
    「その隙……貫かせて頂く」
     言葉通り、貫いた。
     合わせて伸ばされた祇翠の腕は、しかし攻撃のためのものではなかった。咄嗟に反応した敵の腕を掴み、引っ張る。そうすれば当然バランスを崩し、護りは破られる。
    「俺の信条は護りの戦、護りの崩しにも詳しくて当然さ」
     嘯く祇翠の視界の端に、刀を振りかぶった翔琉の姿が見えた。
    「そろそろ限界だろ、土に還るんだな」
     渾身の力で振り下ろされた一撃が、中途半端なところまで持ち上げられた敵の刀ごと、その身体を真っ二つに断ち切った。


    「この世に死者の居場所は無いのですよ……せめて安らかに逝きなさい」
     全てが塵となり消え去った後、光はそれらに向けて黙祷を捧げていた。
    「ったく、ゾンビ処理はゲームの中だけにして欲しいもんだゼ」
     そう言いながら紅も、ナンマンダブナンマンダブと念仏を唱えながら拝む。
     だがそれはその言葉の通り、形だけの軽薄なものだ。
    「ま、成仏してくれや」
     そしてそうやって、やはり軽薄に笑う。
     それが今の彼にとっての、相応しい姿であった。
     多季は皆の様子を眺め、特に問題がなさそうなのを確認した後で周囲へと視線を向けた。
    「廃村を片付ける必要は……無いのかもしれませんね」
     そこは既に終わった場所だ。いずれ全ては朽ち果てる。
     今回の戦闘の痕跡も、バベルの鎖が隠すまでもなくやがて埋もれていく。
    「自然豊かなこの場所、加えて鍛錬相手がいれば良い修行場所だよな……ま、亡者どもはもういらないがな」
     訪れる人物がいるとすれば、祇翠の言うような目的か、廃墟を目的とした探索あたりだろう。
     何にせよ、物好き以外が立ち寄ることはないという意味では、変わらない。
     ともあれ。
    「これで廃村に静寂が戻るわね。日が暮れないうちに帰りましょ」
     今回の依頼は終わりである。
     アリスの言葉を合図として、皆がその場を動き始めた。
    「終わったんやなー」
     呟きながら、立夏も歩き出す。
    「つか、リアルゾンビ映画体験できるなんてほんま楽しかったわー……って! ゾンビの肉汁服にとびちっとるし!」
    「クリーニングいるかヨ? してやるゼ?」
    「お、準備ええな。頼むわー」
     などと騒ぎながら。
     ――人が居らんでほんまよかったわ。
     最後にそんなことを思った。
     山に残った雪は、そのほとんどが溶け出している。忘れ去られた場所にも、本格的な春が訪れようとしていた。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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