幸福な悪夢~Draumniorun

    作者:泰月

    ●夢か現か
    「皆、集まってくれてありがと。まずは、戦争お疲れ様」
     夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)が集まった灼滅者達に小さく頭を下げる。
     灼滅者達が、蒼の王コルベインを討ち取ったのはつい先日の事。しかし、事件は他にもある。休息の時間は短い。
    「それじゃ、本題。現在、20名以上の少年少女が眠り続けるって言う事件が発生してるの。覚めない夢を見続けている。これは、慈愛のコルネリウスの仕業と思われているわ」
     慈愛のコルネリウス。
     これまで学園の灼滅者が接触した中でも特に高位のシャドウだ。
    「コルネリウスには、悪意は無いのかもしれないわね。でも、このまま放っておくわけにもいかないわ。皆には、夢に囚われた一人の少女の救出をお願いするわ」
     コルネリウスが作ったのは、夢を見ている人の為に特別に作られた夢。
     囚われた者が夢の中を『現実である』と思い込んでしまう程のリアルな世界。
     眠り続ける人達は、自分が夢の中にいると思っていないのだろう。
    「良く出来てるわ。ちょっとした不幸はあるし、何もしないで良い結果にはならない。でも、どうしようもない程の不幸はないし、努力すればしただけ報われる」
     ある意味、現実以上に幸せな夢と言えるかもしれない。
    「幸せな夢なら問題ない……とは言えないわ」
     慈愛、を冠するだけあって、コルネリウスの慈愛の心はとても広い。
    「今回で成功しちゃったら、次はもっと大規模な事になると思われるから」
     最悪、一つの都市の住人全てが眠り続ける、なんて事になるかもしれない。
     対処出来る人数の内に、醒めない夢を見ている人達に。
     これは夢であると認識させ、現実に戻る決意をさせる。そうすれば、覚めない夢は終わる筈だ。

    ●夢の織り手
    「でもね。敵も、簡単にソウルアクセスさせてくれないわ」
     コルネリウスの配下のシャドウが現れる。眠る少女の横に。この、現実世界に。
    「現実世界のシャドウについては、皆も知っての通り。活動に時間制限はあるけれど、他のダークネスと比べて強力な存在よ」
     幸い、シャドウが少女を戦いに巻き込む事はない。
    「危なくなったら少女の夢の中に逃げるの。命を捨ててまで戦いはしないから、つけ込む隙は充分あるわ」
     なんとかシャドウを撃退すれば、ソウルアクセスの出番だ。
    「夢の中でもシャドウと戦うことになる筈よ。だから、それ以上の戦闘が難しくなったら、無理せず一旦撤退して」
     現実の戦いで誰かが闇堕ちしたり、何人も大きな傷を負った場合は、撤退する事になるだろう。
    「現れるシャドウのスートはダイヤ。見た目は、黒い球体から腕を何本も腕を生やした姿になるわ」
     シャドウに決まった姿はない。闇のような不定形の塊から、戦闘に必要な部位が具現化されて構成される。
     今回のシャドウの戦闘に必要な部位は、何本もの腕になる。
    「どれも細い腕だけど、どこまでも伸びる上に、力もかなり強いわ。見た目に騙されないでね。それに、全ての腕の掌には口が付いてるの。そこから発する声にも気をつけて」
     シャドウの腕に関節など存在しない。人の腕ではあり得ない動きも容易にこなす。掌の口は精神を乱してくる。形が似ていてもそれは腕ではない。
    「シャドウに持久戦の考えはないわ」
     現実世界で戦える時間に限りがあることは、シャドウ自身も承知と言う事だ。
    「この夢が現実になったら。そう思った事は私もあるわ。でも、夢が夢だと判らなくなる事が、幸せには思えない」
     珍しく、事件に対する心情を吐露した柊子。何か思うところがあったか。
    「現実世界のシャドウの強さは、普通に戦ったら勝ち目が見えない程よ。隙につけ込むのも簡単じゃない。無理はしないで。でも」
     一度言葉を切って、灼滅者達を見回して。
    「皆なら出来ると思ってる。気をつけて行ってきてね」
     出来ると信じて、灼滅者達を見送った。


    参加者
    茅森・妃菜(クラルスの星謡・d00087)
    巫・縁(アムネシアマインド・d00371)
    高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)
    三日尻・ローランド(王剣の鞘・d04391)
    加賀見・えな(日陰の英雄候補生・d12768)
    霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)
    黒岩・りんご(凛と咲き誇る姫神・d13538)
    エール・ステーク(泡沫琥珀・d14668)

    ■リプレイ

    ●現れる闇
     この世は時に理不尽で、願うこと全ては叶わない。
     ならば願いや努力が必ず報われる世界があるとしたら。
    「努力すれば、しただけ報われる……たしかに、慈愛に満ちあふれた優しい世界なのかもしれない、ね」
     ベッドの上で眠る少女を見やり、茅森・妃菜(クラルスの星謡・d00087)が呟く。
     コルネリウスが作った理不尽な不幸がないという夢の世界。それはこの少女にとって優しい世界なのだろう。
    「コルネリウスくんの夢はとても慈しみに満ちているようで居て、とても残酷に思えるね。可能性がすべて死滅している」
     少女の穏やかな寝顔を見下ろす三日尻・ローランド(王剣の鞘・d04391)の言葉も、また一理ある。優しさや慈愛が、常に誰かの助けになるとは限らない。
    「私も、寝るの、好きだけど……これは、ちょっと嫌だな」
     眠そうな表情をしながらも、先を見据えて少女を知る手掛かりになればと部屋を見回っていたエール・ステーク(泡沫琥珀・d14668)が少女を見やり呟く。
     ずっと夢の中。それは幸せと言えば幸せなのかもしれない。でも。
    「全部がニセモノ、だから」
    「幸せな夢といっても、夢は夢ですしね」
     そう、夢は夢。黒岩・りんご(凛と咲き誇る姫神・d13538)きっぱりと言い放つ。
    「これがコルネリウスの陰謀なら早い段階で止めないと、ですわ」
    「ん。ちゃんと起こしてあげないと、ね。貴方の現実は、貴方の世界は『ここ』なんだよ、って」
     りんごの言葉に、エールも頷く。
     コルネリウスの夢に対する評価は様々だが、少女を助けようと言う意志は共通だ。
     そんな灼滅者達を阻む存在が現れる。
    「あ……で、出ました」
     加賀見・えな(日陰の英雄候補生・d12768)のぼそぼそとした小さな声も、静かな部屋なら良く通る。
     言葉と同時にえなが指差した先、眠る少女の横の空間に、ソレはいた。現れたる闇の球体。夢の世界への道を阻む黒き門番。
    「わ、凄いね、SF映画、とかに、出てきそう?」
    「どちらかと言うとホラー映画では。正しく、夢に出そうなバケモノですわね……」
     物怖じしないエールの言葉に、霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)が返す。目も口もない闇。まともな生物の形すら取らない宿敵の姿は、まさにバケモノの表現がピッタリだ。
    「ダイヤのスート……この風体で、お金に執着があるわけでも無いでしょうに」
     闇の体に浮かんだマークは、貨幣を象徴するとされてる。弥由姫の言葉通り、とても金銭が必要な姿には見えない。
    (「……うん、正直怖い」)
     シャドウの体から幾つもの腕が生えてくるのを見ながら、高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)は、自分がシャドウに対して感じている恐怖を正直に認識した。
    「ソウルボードでも結構強いのに、現実世界でバトルとか現状勝てる気しねーし……」
     宿敵であるシャドウと、初めての現実世界でのバトル。宿敵だからこそ、敵の怖さも判るし、だからと言って引く気もない。
    「ほっとくワケにはいかないんで。オレはやれるコトやるだけさねー」
     使い慣れない縛霊手の感触を確かめつつ、軽い口調の中に琥太郎が込める決意。
    「アスカロン、アクティブ!」
     巫・縁(アムネシアマインド・d00371)の声が響き、彼の手に竜殺しの刃が握られる。
    「まずは生き残る事。それが一番大事だ」
     使い慣れた重みを確かめながら、縁が目指す方針を改めて口にする。この戦い、目指すのは敵を倒す事ではない。道が開くまで耐え抜く事。その時間は、既に示されている。
    「さぁて、長い長い十分間の開始だ、これがな!」
     色眼鏡を外した縁の蒼い双眸が、確りとシャドウを見据えた。

    ●夢の織り手
    「えくすかりばー、強力な敵だけどがんばろうね!」
     ローランドが相棒であるナノナノのえくすかりばーに声をかける。例え戦場であっても、ローランドがすぐに2人の世界を作りたがるのは変わらない。
    「ボクたちを後ろからフォローしてくれるかい? かわいいひと!」
     頷いた様な仕草を見せたかと思えば、顎を敵に向かって振る。まるで早く行けと言わんばかりな俺様態度。主と従がなんだかおかしいが、これが2人のいつも通りだ。
     そして、ローランドがシャドウに対して間合いを詰める。いや、彼だけではなく、8人が一斉にシャドウに近しい距離を取った。
    「!?」
     どこまでも伸びる腕を持つシャドウに、戦うに不利な距離はない。それでも、8人が一斉に間合いを詰めた動きは、人外のシャドウを持ってしても些か予想外なものだった。
     シャドウが感じたのは動揺とも言えない、ほんの小さな驚きに過ぎない。しかし、その僅かが灼滅者達が先手を取るという結果に繋がった。
     琥太郎の足元の影が伸びて、変じて、触手となりシャドウの腕に絡みつく。
    「似たモンどーし、ガチでやろーじゃん?」
     使い慣れた影を操る業の感覚に、琥太郎は我知らず笑みを浮かべていた。
    「その腕、封じさせて貰います」
     弥由姫も同じく足元の影を操り、伸びた影がシャドウに絡みつく。否、2人だけではない。一気に5人の影が伸びて、シャドウの腕の何本かに絡みついた。更に。
    「……大切な想い、踏みにじらせたりなんて、しない……」
    「過保護すぎるんじゃないかな、これは」
     妃菜とエールの指輪が光を放つ。2人が放った魔法弾に込められた制約の魔力が、シャドウの動きを縛る。
    「うん、順調だ」
     ぼやけた視界に映るシャドウの黒い姿形を見据え、えなは後に備え小光輪を盾とし守りを固める。
     眼鏡を外したえなは、口調も言葉使いも変わっていた。別人になったかのような変わり様だが、頑張っているだけだ。本来は内気で気弱な少女が、それでも戦いに望むために身につけた術である。
     彼女の言葉通り、ここまで順調どころか理想的な展開だ。しかし、先手を取って動きを阻害する力を与えても、簡単に止まるほど甘い相手ではない。
     シャドウの腕が猛然と伸びると、空中で有り得ない角度に曲がって暗い影を宿した拳がローランドに迫る。
    「させるかよ!」
     シャドウの拳の軌道に割って入ったのは縁。代わって攻撃を受けながらも、アスカロンの刀身を盾として幾つかの拳を食い止め、ダメージを軽減する。
    「すぐに払いますわ」
     止めきれなかったシャドウの拳が縁の精神からトラウマを引き摺り出すが、りんごの集めた癒しの気がトラウマを打ち消してゆく。
    「ね、ヨスガ。今の攻撃……どのくらい、だった?」
    「持ってかれたのは4割ってとこだ。まだ庇えるぜ」
     答えながら、縁がシールドを自身に付与する守りを固めながら答える。8人の中で最も体力が高い縁がどのくらい耐えらえるかは、この先の戦い方を考える一つの指針になる。味方の体力を一番気にしているからこその、妃菜の問いだ。
    「現実世界のシャドウ……とても厄介だねえ」
     伝え聞いた敵の攻撃力にローランドの背中を嫌な汗が伝う。
    「今後のことを考えると、今叩いておかないとね」
     それでも、この戦いを最後まで立って乗り切る、その方針も意志もこの程度で変わる事はない。ローランドは少しでも耐えるべく、竜因子を解放し守りを固めた。

    ●カウントダウン
    「あ。あと5分、切った、よ」
     エールがシールドを広げ自分に付与し守りを固めながら、ちらりと腕時計に視線を落とし、残り時間を仲間に淡々と告げる。
     キィァァァ!
     シャドウの腕が弥由姫の頭を掴んで、掌の口がゼロ距離から金切り声の様な耳障りな音を浴びせる。
    「……っ! こういう、スマートじゃないやり方は、趣味では、ないのです……わっ!」
     敵と味方の境を曖昧にする耳障りな残響に意識をかき乱されながらも、弥由姫は叫んでシャドウの腕を振り払う。
     しかし集中を欠いたか、すぐに自分自身にかけた癒しでは残響が消えない。
    「回復は私が。皆は攻撃を」
     えなの縛霊手の指先から放たれた霊力が、弥由姫の耳に残っていた残響を消して行く。
     シャドウが現実世界で戦える限界である10分を耐え抜く耐久レース。その半分の時間を、灼滅者は互いに庇い合う事で8人誰一人倒れる事なく戦い抜いていた。
     全員が攻撃よりも守備を重視し、互いに庇い合う。シャドウに近しい位置を全員が取った理由の1つはそこにある。
     攻め手に欠けた感はあり、確かにスマートと言える戦い方ではないだろう。誰も倒れていないとは言え、誰も負傷を免れていない
     だが、スマートな戦い方が常に正解とは限らない。今回は、敵を倒す戦いではなく、ゴールの見えている持久戦だ。8人が取った方針は、むしろほぼ最適と言って良いだろう。
    「大丈夫、支える」
     妃菜がオーラを癒しに変えて、弥由姫に飛ばす。だが、癒しきれないダメージは確実に蓄積していく。
     故に庇い手が1人2人の布陣をとっていたのであれば、シャドウはその攻撃力に物を言わせてまず庇い手を倒し、それから一人ずつ倒していたであろう。数で劣るシャドウがそうしない筈がない。
     そうなっていないのは、8人全員が如何にこの持久戦を制するかを考えていたからだ。癒すと同時に盾となる効果を持つ技や、或いは不利な異常を払う効果を持つ技を選択し、それを互いに使う事で戦線を維持している。
     そしてもう1つ。
    「……これなら、どうだ」
    「なんとかしてソウルボードに追い返さないとね」
     えなと琥太郎、2人の縛霊手の拳がシャドウの腕を打ち、拳打と同時に放たれた網状の霊力が動きを阻害する。
    「重いの行くぜ!」
     アスカロンの重みを活かした縁の一撃がシャドウの腕を強く打つ。与える衝撃は、シャドウの動きを僅かずつ乱す。
     回復をしないメンバーの攻撃は、ダメージよりもシャドウの力を削ぐ事を重視した技を選んでいた。
     攻撃力の高い敵に対し、その実力を発揮しきれない状況に追い込むのは有効な手段だ。
     残り3分。
     蠢き複雑な軌道を取って迫るシャドウの腕。その進路に割り込んだりんごの体に数本巻き付き、強く締め上げる。
    「っまだまだ。貴方がここにいられなくなるまで、耐え切ってみせますわよ?」
     どこかの骨がミシリと嫌な音を立てたが、それでもりんごは余裕の笑みを崩さない。
    「早く、離れて」
     妃菜が上段に構えた刃を振り下ろしシャドウの腕を断ち切り、その攻撃で腕の力が緩んだ一瞬にりんごも抜け出す。
    「あと、ちょっと、だよ」
     りんごが自分に張ったシールドに、エールもシールドを重ねて守りを固める。
     残り2分。
     シャドウが灼滅者から後方に狙いを変えた。ふわふわとハートを飛ばし支援し続けてきたナノナノへと、シャドウの拳が迫る。
    「かわいいひとはやらせないよ!」
     しかし、2人の世界を作りたがるローランドがそれを見逃す筈がない。間に入り、振り下ろす斧の龍の骨すら断つ一撃でシャドウの拳を相殺し、更に返す刃を叩きつけて腕を断つ。
    「そちらがお留守ですわ」
     先のお返しとばかりに、りんごのライフルから放たれた強烈な魔法光線がシャドウの球体を撃ち抜く。
    「口はあるのでしょう。何とか言ったらどうですの?」
     戦いながら探りを入れられないか狙っていたりんごだったが、球体を撃たれてもシャドウが言葉を発する様子は無い。どうやら、会話での探りは入れられそうになかった。
    「これが、最後の1分、だよ」
     その時が迫ってもさして高揚することもなく、エールが時間を告げる。あまり体力の高くない彼女は、次のシャドウの最後の攻撃に耐え切れる程の余力はなかったのだが、そうとは悟らせない淡々とした声で。
     身構える8人。しかし、予想した攻撃は来ない。
    「……動かない?」
    「制約、やっと効いたみたいっスね」
     えなが訝しむように呟き、敵に起きた事を悟った琥太郎が僅かに安堵の声を上げる。
     何度も放った制約の魔力を込めた魔法弾。妃菜も弥由姫もエールも、合わせて4人が何度も重ねた効果が此処に現れた。
     魔力が敵を止める時間は短い。しかしこのタイミングでシャドウの攻撃が不発になった事は、即ち灼滅者達の粘り勝ちを意味していた。
    「時間切れでしょう、バケモノ。私達の勝ちですわ」
     弥由姫が宿敵を見据えて告げたその直後。
    「……」
     声もなく、音もなく。動きを取り戻したシャドウの姿が、掻き消えた。

    ●眠り姫の夢の中へ
     現実世界でのシャドウとの戦いは、灼滅者達に軍配が上がった。かなりギリギリではあったが、大きな傷を負った者がいないのは大きな成果だ。
    「連戦になると思うんで、それなりに覚悟いるッスねー……」
     ぼやく様に琥太郎が言う。少女のソウルボードには、撃退したばかりのシャドウがいる筈である。
    「覚悟もですけど、休息も必要ですわ」
     弥由姫の言葉に全員が頷く。ソウルボードではシャドウも弱体するとは言え、休む時間は必要だ。
    「お疲れ様、えくすかりばー。続けて頼むよ」
     その僅かな休息の時間、ローランドは早速えくすかりばーと2人の世界に入っていた。
    「……本当に、起きないんですね……」
     いつもの小声でぽそりと、えなが呟く。同じ部屋でこれだけの戦いがあっても、少女の穏やかな寝顔は変わっていなかった。
    (「その夢には何があるのかな……そんなところで、本当の幸せを手に入れられるのかな?」)
     眠る少女を見ていると、妃菜の胸中に浮かぶ疑問。
    (「夢の中でなら……理想の、自分になれたりするのかな。夢の中なら……わたしも、普通の子供らしく……振る舞えたり……」)
     灼滅者である自分に誇りを抱く一方で、少し憧れる普通の生活。夢の中ならば。
    「どうした、ひななん?」
     物思いにふける妃菜の意識を呼び戻したのは、縁が決めていた彼女の呼び名。
    「ううん、大丈夫。……今の、わたしの、事?」
    「ああ、嫌だったか? 他の皆も考えてあるんだけど」
     そう。実は仲間7人全員の呼び名が、縁の中で決まっていたりする。愛称の様な呼び名を考えるのは縁の癖なのか。
    「そうなんッスか?」
    「ふうん。どんな、の?」
     その言葉に興味を示したのは、琥太郎とエール。
    「みやーだろ。エールはエルルン。あとはアップルちゃん、えなりん、とか」
    「何故英語ですの?」
    「え。……あたしも?」
     今まで呼ぶ機会がなかったからか、りんごやえなの呼び名までも披露する縁。
     これが戦いの幕間でなければ、きっと普通のやり取り。
     努力しなければ無理、と妃菜は思っているけれど。愛称で呼ばれるくらいの機会には、こうして案外簡単に出会えたりもする。もう迷いはなかった。
    「そろそろ……行こう」
    「まあ、やれるコトやってきましょ。んじゃ、ソウルアクセスいきまっす」
     琥太郎の言葉に全員が頷く。さぁ、行こうか。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月17日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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