幸福な悪夢~偽りの理想郷

    作者:緋月シン

    ●悪夢の先にあったモノ
    「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)はその場に集まった皆の顔を見渡した後、そう言って頭を下げた。
    「今日の依頼の内容ですが……皆さんはコルネリウス、という名前に聞き覚えはありますか?」
     ――慈愛のコルネリウス。
     先日依頼から帰還した者達が出会った、おそらくは高位と思われるシャドウの名だ。
     実際その姿を目にした者は八人だけだが、その報告書に目を通した者は多い。その場に集まった者達の中にも反応する者が複数居た。
    「現在、そのコルネリウスの仕業と思われている事件が起こっています」
     それは少年少女が眠り続けるという事件だ。先日の事件が、その一つにあたる。
     ただしその時とは夢の中の様子が大分変わっているようなのである。
     夢の中はまるで現実のようなリアルな世界になっており、その夢を見ている者の為に特別に作成されているらしい。夢に囚われた者は夢の中を『現実である』と思い込んで生活しており、自分が夢の中にいるとは思っていないようである。
    「夢の中でもちょっとした不幸などはありますし、努力しなければ良い結果は生まれません。しかし、本当の不幸に陥る事はありませんし、努力すればしただけ報われる幸福な夢、というようになっています」
     話を聞いている限りでは悪いようにも思えないあたり、実に性質の悪い夢だと言えるだろう。もっとも一番厄介なのは、コルネリウス自身がそれを本当にいいことだと思ってやっている節があることだろうが。
     だが悪意があろうがなかろうが、このまま無視するわけにはいかない。
    「この事件は、一見放置していても問題無いように見えます。ですが、そう単純なものではありません」
     コルネリウスの慈愛の心は、慈愛という名の示す通りとても広い。今回の二十名の夢が成功したら、今度は規模を広げて更に多くの人間を夢に捕らえるようになっていくだろう。
     最悪、都市の住人全てが眠り続ける……といった事件に発展する可能性すらある。
    「そうならないためにも、コルネリウスの夢の中から、少女達を救い出してあげてください」
     夢を見ている人に、それが夢であり現実では無い事を理解して貰い、現実に戻る決意をさせれば、夢から連れ出す事ができるだろう。
    「よろしくお願いします」
     そう言って、姫子は頭を下げた。
    「皆さんに今回お救いいただきたいのは、その中の一人である少女です」
     そのためには、当然夢の中へと赴かなければならないが。
    「今回はソウルアクセスを行おうとすると、それを邪魔するべくコルネリウスの配下のシャドウが眠っている少女の傍らに出現します」
     知っての通り、シャドウは現実世界で活動できる時間に制限があるが、その強さは他のダークネス達と比べてもかなり強力だ。ただし幸いにもシャドウは眠っている少女を傷つけるような事はしてこないので、戦闘には支障が無い。
    「また、シャドウは危機に陥ると夢の中に逃げ込みますので、それを元に戦略を立てると良いでしょう」
     命を捨てて戦闘を仕掛けてこられると強敵だが、危険になれば逃げるという方針である以上、つけ込む隙は充分にある。
    「現実側でシャドウを撃退する事に成功したら、改めてソウルアクセスで夢の中に入る事になります」
     しかし闇堕ちした者が出てしまったり、重傷者が複数出た場合など、夢の中のシャドウと戦うのが難しい状況になってしまった場合は一旦撤退する事になるだろうから注意が必要である。
    「シャドウの能力の説明をいたしますと、シャドウはシャドウハンターと影業相当のサイキックを使用してきます」
     ポジションはジャマーだ。
     配下は連れておらず、単体での出現となる。
    「ただし、非常に強力です。普通に戦うだけでは、おそらく勝てないでしょう。ですが撤退には幾つか条件があるため、作戦を立て皆さんが互いに協力し合えば十分に勝機はあります」
     シャドウが撤退する条件は三つ。
     一つは戦闘総ターン数が十ターンを超えた時。
     一つは灼滅者の誰かが闇堕ちした時。
     そして最後に、シャドウが戦闘で敗北する危険を感じた時だ。
     これらの条件を念頭に置き作戦を練る必要があるだろう。

    「今回は現実のシャドウと戦うという非常に危険な依頼です。ですから十分に注意をし、決して無理をなさらないようお願いします。その上で……皆さんならば少女を救い出すことが出来ると、信じています」
     そして、よろしくお願いしますと、姫子は三度頭を下げたのだった。


    参加者
    ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    童子・祢々(影法師・d01673)
    苑田・歌菜(人生芸無・d02293)
    領史・洵哉(一陽来復・d02690)
    アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)
    天城・兎(二兎・d09120)
    君津・シズク(積木崩し・d11222)

    ■リプレイ

    ●悪夢の打倒へ
     そこはとても女の子らしい部屋であった。色彩はピンクが多めであり、可愛らしいぬいぐるみなどが並んでいる。
     そしてそれらに見守られるように、ベッドの上には一人の少女が横になっていた。ただ眠っているだけにしか見えないそれは、しかしそのままでは二度と目覚めることはない。
     それを防ぐために、これから少女の夢の中へと向かう必要があるわけだが……。
    「ソウルアクセスを妨害だなんて、小細工してんじゃないわよ、まったく」
     苑田・歌菜(人生芸無・d02293)は、姫子より聞いた話を思い出しながら溜息を吐いた。
    「ソウルアクセスを行おうとすると、その傍にシャドウが現れるのよね」
     確認の意味も込めて、君津・シズク(積木崩し・d11222)が呟く。果たしてその力はどれほどのものなのか。
    「現れるシャドウは、きっと今まで戦ってきたどんな敵よりも強いのでしょうね」
     ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)は今回の敵をそう認識した上で、しかし一歩も引くつもりはなかった。
    「実体化したシャドウの力はよく理解しています」
     この中で最もその力を理解しているのは、おそらく童子・祢々(影法師・d01673)だろう。その身体が微かに震えているのは、本人すらも自覚していない領域に刻まれている恐怖故か。
     だが無意識に握り締める拳が、それを抑え込む。
    「皆さん分かってるとは思いますが、慎重にいきましょう。被害者救出はもちろん、コルネリウスの目的を探るためにも」
    「慈愛のコルネリウスですか」
     領史・洵哉(一陽来復・d02690)が口にしたのは、今回の事件の黒幕の名だ。
     慈愛という名が示すとおり、少女が見ているのはただの悪夢ではないようだが。
    「でも、普通の慈愛とは違うような気がしますね」
     やはり相手はダークネスということだろうか。何かを根本的に間違えている気がする。
    「何にせよ、余計なお世話だっての」
     吐き捨てるように、シズクが呟いた。
    「幸福な悪夢はとても居心地がいいってことも、分かりはしますけどね」
    「まあ、夢か現か判らぬ世の中、夢に溺れるのも悪くはないが……」
     祢々の言葉に、アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)が頷く。
     けれどそれは、あくまで自分の意思で行うものだ。ダークネスが絡むとなれば話は別である。
    「おなごの夢を弄ぶのは言語道断じゃな!」
     そんなことを話しながら、最後の確認をしていく。陣形や合図、方針に各々の動きなど。
     今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)と歌菜は、回復の無駄打ちを避けるための意思疎通を。
     ベストな状態で戦闘を行うために、やってやりすぎるということはない。
     目的はあくまで少女の救出だ。そのためには、ここで躓くわけにはいかない。
    (「どんなに困難でも、絶対に助けるんだから」)
     決意は心の中で固め、ミレーヌは仲間達へと視線を向ける。
    「さあ、行きましょう」
    「そうね。本番がまだ後に控えてるんだから、さっさとお帰り願いましょ」
     歌菜は気楽に呟くと、少女の傍へと近づき手を伸ばした。

    ●顕現せし影
     歌菜が少女に触れた瞬間、部屋の中に甲高い音が響き渡った。その発信源は歌菜の頭のすぐ傍、一メートルと離れていないところである。
     そこにあったのは二つの黒だ。
     振り下ろされたのは、少女の身体から突き出すようにして現れた、影を凝縮したような黒い刃。
     それを受け止めたのは、刀身から装飾までを黒く染めた無敵斬艦刀、黒兎。
    『ふむ……失敗しましたか』
    「予測は出来たからな。なら防ぐのは、そう難しいことでもない」
     言いながら天城・兎(二兎・d09120)は黒い刃を弾き、後ろに下がった。
    「助かったわ」
    「気にするな」
     それに合わせ、歌菜も自分の位置へと退避する。
     そして八つの視線が見つめる中で、それは現れた。
     黒い刃に続くように、黒い塊が少女の身体からずるりと這い出てくる。それは何とも言い辛いものであったが、まかり間違っても人と表現できるような形状ではない。
     正確に言うならば、形状と呼べるような形としていない、というべきか。一応そこが顔だということを現しているのか、仮面のようなものをしているが、それすらも黒。それを付けている身体は、不規則に不安定に蠢いている。
    『さて、あなた達と戦うことは吝かではないのですが……戦場の移動を提案したいところです』
     その提案をシャドウからしてきたことは驚きではあったが、一利あるのも事実だった。その部屋は生活空間ということを考えると十分以上の広さを持っていたが、戦場ということを考えると正直狭い。
     だが。
    「生憎と妾達はこのような状況に慣れておるのでな!」
     言葉と共に、一閃。アルカンシェルの愛用している武器、大鎌と槍を足したような独特な形をしたシビュラの託宣が、赤き逆十字のオーラを纏いながら塊を横に裂いた。
    「ぬ……?」
     しかしその際の手応えの奇妙さに、眉根を寄せる。咄嗟にそれへと視線を向けるも、疑問が形になるよりも先に別の言葉が降ってきた。
    「首が何処か分からないわね。折角だから首なしとなったシャドウというのにも興味があったのだけど」
     物騒なそれは上からだ。同時に制約を加える魔法弾が放たれ、おまけとばかりに振り下ろされた斬撃が、仮面の下を斜めに斬り裂く。
     が。
    「手応えがない……いえ、軽い……?」
     ミレーヌが口にした言葉は、アルカンシェルが浮かべた疑問と似たようなものだった。完全にないわけではなく、妙に軽い。
    「攻撃が効き辛い……というよりは、単純にこちらの技量不足、というところかしら?」
    「そうじゃな。まあそれぐらいなら起こっても不思議ではないかの」
     強敵であるのは分かりきっていたことだ。自然とアルカンシェルの口元が笑みの形に歪むが、自らの本分を忘れたわけではない。
     あくまで時間まで凌ぐのが目的。けれどチャンスがあればいつでも飛び込めるよう見据えつつ、ソーサルガーダーを展開していった。
    「シャドウって本当に影なんですね」
     何処か暢気に言いながら、洵哉も味方へとシールドを広げていく。
     二人の攻撃は勿論見ていたので、押し切るのが難しそうなのは分かっている。やはり作戦通りに時間を稼ぐしかなさそうだ。
     そのために必要なのは、防御を固めることである。
    『なるほど……この状況でも迷わず戦えますか』
    「アルカンシェルさんが言った通り、私達はこういうのに慣れているもの」
     構えるシズクの手には、愛用のロケットハンマー。視線の先にはシャドウ。そのさらに後ろに、少女の姿が見える。
     少女は今、幸福な夢を見ているらしい。
     けれど。現実にならない夢は誰も幸せにしない。現実にならなければ、それはただの嘘に過ぎない。
     だから。
    「悪いけど、崩させてもらうわ。醒めない夢も、貴方達の計画も」
     宣言と共に踏み出された足は、ロケットの噴射を伴って敵の懐へと飛び込む一歩と化した。勢いを殺さないままの一撃を、その状況を苦ともせずに振り下ろす。
    「赤兎、後方支援に徹しろ」
     一瞬遅れ、自らのライドキャリバーに後方を任せた兎が、その懐へと飛び込んだ。シズクと交差するような形で叩きつけるのは、その身体とは正反対の色で統一された白兎。
     しかしその二つは、やはりと言うべきか手応えをほとんど感じさせずに通り過ぎた。
    『ふむ……そろそろこちらからも仕掛けましょうか』
     お返しとばかりに向けられたのは、影が凝縮し具現化された漆黒の拳だ。向けられた先は、シズク。振り抜いた直後だったために、反応する暇すらもない。丸太ほどの太さのそれが直撃した。
     直後に再び放たれたそれを兎がかわすことが出来たのは、一瞬のタイムラグがあったからに過ぎない。
     だが後方へ飛んだ兎へ向けて、身体の至る所より生じた触手が追撃にと放たれる。
    「させない!」
     しかしそれは機銃により叩き落された。
     兎と入れ替わるように前に出たのは、祢々のライドキャリバーであるピークだ。そして祢々自身もその少し後ろに控えている。
     皆の様子を見る限り、どうやら攻撃は通り辛いようである。だが今回の目的は撃退ではないので問題にはならない。
     もっとも攻撃も中々厄介そうではあるが。
    「要は相手に全力を出させなければいいだけだ」
     言いながらピークに援護をさせつつ前に踏み出し、上段に構えた日本刀を振り下ろした。
     一方吹き飛んだ先のシズクには、紅葉が向かっていた。
    「だ、大丈夫!? 今回復するね!」
     紅葉は人差し指に嵌められた指輪へと口を付けると、シズクへと光条を放つ。敵へと撃てば攻撃になるそれが、シズクの傷を癒していく。
     今回は大切な親友であり相棒でもあるテディベアのテディはいない。危険だから留守番なのである。
     けれどそれでも負けないように。きちんと後で顔向けが出来るように。紅葉はただ、自分の役目を果たす。
    「ごほっ、ごめん、ありがと。でも、おかげで大体のところは分かったわ」
     それを受けながらも、シズクは先ほどの攻撃を冷静に測っていた。
    「どれぐらい耐えられそうかしら?」
     それを聞いたのは歌菜だ。一先ず回復は紅葉に任せ、自らはシャドウへと狙いを定める。
    「そうね……適切な行動を取れれば、私達ならば二回は確実に耐えられる、というところね」
    「そう……なら、余裕で耐え切ってみせるわ……!」
     バスタービームを放ちながら、歌菜は頭の中でカウントを一つ増やしたのだった。

    ●一先ずの終焉
     想像通りと言うべきか、想像以上と言うべきか。戦いは、熾烈を極めた。
     それでも何とか戦いながら、開始から経過時間をカウントしていた歌菜の数える数は、そろそろ七になろうとしてた。
    「残り三分よ!」
     残りの時間を仲間に告げながら、護符を飛ばす。厳しい戦いなれど……いやむしろだからこそか、その顔に不敵な笑みを浮かべながらも、冷静に思考は回り続けている。
     紅葉と声を掛け合っていたおかげか、今のところ倒れた人は出ていない。
     しかし油断は禁物である。幾ら耐えられているとはいえ、癒しきれていない傷は増え疲れも蓄積している。これからが正念場だ。
    『ふむ……これはさすがにそろそろ本腰を入れるべきですね』
     それを証明するように、シャドウが動いた。呟いた瞬間、その身体が爆発したように膨らみ、一瞬で周囲を闇が覆う。
     ミレーヌが攻撃を受けたことを悟ったのは、その身を痛みが貫いたからだ。
     だがその身体が硬直したのは、それが理由ではない。闇に染まる視界の中、確かな姿が浮かび上がる。
     それは見覚えのあるものだった。首がないのに、それが何なのかが分かる。特にその中の二人は――
    「……っ!」
     瞬間、それらが罅割れたように砕け散った。視界の端に、役目を終えた護符が落ちていくのが見える。
    「……随分なものを見せてくれたわね。お返しに、やっぱり首なしにしてあげるわ」
    『遠慮しておきましょう。幾ら私でも、胴と頭が離れてしまったら死んでしまいますので』
    「何処が首か分からないような外見でよく言うわね!」
     頭で考えるよりも先に身体が動いた。視界に映るのは闇なれど、その本能が最適な経路を瞬時に導き出す。
     それでもそれが薄いのは相手の強大さ故か。けれど構わずに、その手に握る断頭男爵の鋭牙を振るった。
     洵哉がそれを防げたのは半ば偶然であった。反射的に盾を前に構えた直後、腕に衝撃を感じる。
     しかし堪えきれないのを悟り、咄嗟に横に飛びのいた。轟音が聞こえたのは、先ほど自分が立っていた場所だ。
     だがやり過ごせたのはそこまでだった。
     逆側からの衝撃に、身体が浮く。数瞬の後、目の前には地面があった。そのまま――
    「まだ……!」
     叩きつけられる直前、片腕で強引に勢いを殺した。嫌な感触がしたが気にせず、そのまま転がる。それで追撃の触手をかわすと素早く立ち上がり、目の前に迫った触手を叩き落す。
     そしてそのタイミングで、身体が暖かな光に包まれた。
    「領史さん、大丈夫!?」
    「ありがとうございます。ええ、ディフェンダーとなった僕の粘りと意地、お見せしますよ。そう簡単に倒れません!」
     洵哉を回復しながらも、紅葉は戦況を冷静に分析していた。残り時間が少ない状況だからこそ、それは必要なものである。
     誰一人として、落とさせないために。
     シャドウの好きなようにはさせないと、礼儀正しいが故に言葉に出せない恨みを胸に抱えながら。
    「時間まで耐え切って、そして悪夢の中でまた戦おうね」
    「はい、そうしましょう」
     それを果たすために、光条を放ち続けた。
    「まさに正念場というところじゃの!」
    「そう言う割に楽しそうじゃない」
    「自分の力を試すには絶好の場じゃからの。楽しまなければ損じゃろ!」
     シビュラの託宣を振り回しながら、アルカンシェルは言葉の通りに笑みを浮かべている。
     そこに強敵と戦っている緊張感は見られない。けれどその身体は冷静に動いており、あくまで自分の本分を守っていた。
     自分の役割を果たしつつも楽しむと、そういうことなのだろう。
     その姿を横目に見ながら、シズクは襲い来る触手をさばいていく。
     その気持ちは分からなくもないが……正直そこまで余裕がないのが実情である。
    「フン……あんたも結構粘るのね。無理しないで夢の世界に帰ってもいいのよ」
    『いえいえ、そちらこそ、そろそろ諦めて帰ってくれてもよろしいのですが』
    「言ってなさい」
     しかしその様子を微塵も感じさせずに、向かってくる闇へと向けて拳をぶち当てる。何かを砕いたような感触を覚えながら、再度拳を振るった。
    「よしっ、なんとか凌げそうだな」
    「この状況でのそれはフラグになるのではないでしょうか」
    「ならそれも壊すだけだ」
     言葉だけならば余裕そうにも見える兎と祢々だが、勿論そんなことはない。
     元々痛みに敏感な祢々の目元などは、はっきりと涙が浮かんでいる。もっともゴーグルで隠されているために、外からそうとは分からないが。
     そうしている間にも赤兎が黒い刃に貫かれ、砕け散った。
     しかしそれは祢々を庇っての結果である。兎は赤兎へと賛辞を送りながら、対照的な色の武器を左右に持ち振りかぶる。
     最後の意地を見せるため、機銃と影の触手が敵の動きを止めたところに、振り抜いた。
     そして。
    「あと――」
    『ふむ……時間ですか、仕方ありませんね』
     言葉の直後だ。唐突に、闇が晴れた。
     部屋の様子は、先ほどそこを訪れた時同様のものとなっていた。シャドウの姿は、影も形もなくなっている。
     一応危険がないか周囲を確認するも、特にそういったものは見当たらないようだ。
     皆の口から、自然と長い息が漏れた。
     だがこれで終わりではない。あくまで、前哨戦が終わったというだけだ。
     出来ればすぐにでも追いかけたいところだが、さすがに疲労などが溜まっている。万全の態勢で挑むために、八人はしばしの休息を取るのだった。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月17日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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