幸福な悪夢~優しきセカイで見る夢は

    作者:月形士狼

    「少年少女が眠り続けるという事件が、各地で発生しています。この事件は、高位のシャドウ、慈愛のコルネリウスの仕業と思われており、20名以上の少年少女が覚めることのない夢に囚われているようです」
     教室に集まった灼滅者達に、控えめな声音で園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)が口を開く。
    「慈愛のコルネリウスに悪意はあまり感じないのですが、このまま放置する訳にもいきません。どうか囚われた人達を救い出してあげてください」
     同意を返す灼滅者達に、気弱な少女は嬉しそうな笑顔を浮かべると説明を続ける。
    「その夢の中は、まるで現実のようなリアルな世界となっており、夢を見ている人達の為に特別に生成されているようです。そこに囚われた人達は夢の中を『現実である』と思い込んで生活しており、自分が夢の中にいるとは思っていないようです。夢の中でも、ちょっとした不幸などはあるし、努力しなければ良い結果は生まれないが、本当の不幸に陥る事は無いし、努力すればしただけ報われて幸福な夢になっています」
     それが、慈愛の見せる夢。完成された幸福な世界。
    「……夢を見ている人達は、幸せなのかも知れません。ですけど、慈愛のコルネリウスの慈愛の心は、とても広いので、今回の20名の夢が成功したら、今度は、規模を広げて更に多くの人間を夢に捕らえるようになっていくでしょう」
     最悪、都市の住人全てが眠り続けるといった事件に発展しかねないと、エクスブレインの少女の瞳が不安に揺れる。
    「この夢を見ている人達に、これが夢と理解し、現実に戻る決意をして貰えれば夢から連れ出す事ができます。お願いします。この人達を助けてあげてください」
     事件の概要を伝え終えた槙奈は、そう告げて深く頭を下げるのだった。

     次にエクスブレインは、その夢に囚われている一人の少年の居場所を伝え、その夢の中に入ろうとして欲しいと灼滅者達に話す。
    「ソウルアクセスを行おうとすると、それを邪魔するべく、慈愛のコルネリウスの配下のシャドウが眠っている少年の傍らに出現します。そこを撃退してください」
     シャドウは現実世界で活動できる時間に制限があるが、その強さは他のダークネス達と比べてもかなり強力だ。ただ幸いなのは、シャドウも眠っている少年を傷つけるような事はしてこないので、戦闘には支障が無い事だろう。
     そしてもう一つの幸いは、このシャドウは危機に陥ると夢の中に逃げ込む事だ。命を捨てて戦闘を仕掛けてこられると強敵だが、こういう相手ならば、つけ込む隙は充分にある。
    「現実側でシャドウを撃退する事に成功したら、改めて、ソウルアクセスで夢の中に入る事になります。ただ、闇堕ちした者が出てしまったり、重傷者が複数出た場合など、夢の中のシャドウと戦うのが難しい状況になったのならば、必ず撤退してください」
     つまりは余力を残し、連戦する気構えが必要ですと、槙奈は心配そうに強く念を押し、次に現れるシャドウについて説明を始める。
    「今回現れるシャドウ配下を引き連れず一体だけで、トランプのクローバーの形をした泡を幾つも浮かせる、ぶよぶよした体を蟹のような足で支えるような形体を取っています。戦闘になればこのクローバーを弾丸のように周り中に飛ばしたり、硬質化した刃を体から生やして切り裂いたりするようです。また、その戦闘力に反してその性質は臆病で、追い詰められない限りは常に安全を確保して闘おうとする傾向が見受けられます。その辺りも戦略に取り入れれば、少しでも有利になるはずです」
     説明を終え、自分を落ち着かせるように眼鏡をかけ直した槙奈は、改めて灼滅者達を見まわして口を開く。
    「今回は、現実のシャドウと戦うというかなり大変な戦いとなります。それでも、囚われた人達を救い出すには皆さんの助けが必要なんです」
     そう告げ、悲しみを宿した瞳で伝える。この夢に囚われた少年の事を。
    「この夢に囚われた男の子はサッカーが好きでした。ですが今年の初めに遭った事故で、難しい手術に成功しなければ、二度とサッカーは出来ないかも知れないとお医者さんにと言われたそうです。ひょっとしたら、この男の子の見る夢は、その手術が成功している夢なのかもしれません」
     それは少年の見る幸福な世界。慈愛に包まれた、優しい世界。
    「残酷かもしれませんが、それでも……これは、夢、なんです。どうか、皆さんの力を貸してください」


    参加者
    殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)
    天鳥・ティナーシャ(夜啼鶯番長・d01553)
    古樽・茉莉(中学生符術士・d02219)
    中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)
    焔月・勇真(フレイムアクス・d04172)
    西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)
    折原・神音(鬼神演舞・d09287)
    シュネー・リッチモンド(ナイトデザイア・d11234)

    ■リプレイ

    ●導くは悪夢の権化
     夜の帳に覆われた病室。
     カーテンの隙間から差し込む、黄金色の灯りに浮かび上がった影が、言葉を発した。
    「始めるぞ。準備はいいか?」
     頷きを返す仲間達を確認し、殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)がベッドに横たわる少年に手を伸ばす。
     それは眠っている者の精神世界、『ソウルボード』に侵入する為に必要なプロセス。しかしそれは、突如現れた異変によって遮られた。
     サイキックエナジーが渦を巻き、現実と超常の境目が破られて現れたのは、まさしく異形。
     ぶよぶよとした質感を無理やり固め、蟹のような脚を取り付けた体。体内から浮き出る幾つもの泡はクローバーの形を象り、弾けていく。
     醜悪な粘土細工に無理やりつけたような複眼が忙しなく動き、言葉を発した。
    『おおお、お前らが灼滅者か。わわわ、吾輩は怯懦のダンドネス。じじじ、慈愛のコルネリウス様の命により、ははは、排除する』
     ずぶり、と。体を突き破るようにして現れた刃が灼滅者達に襲い掛かり、
    「させないのです」
     小柄な人影が飛び出し、銀の手甲から発した虹色の盾がその一撃を受け止めるが、その勢いに弾き飛ばされた。
    「ティナーシャ、無事か」
    「はい。これがシャドウ、ですか。やっぱり強いですね」
     天鳥・ティナーシャ(夜啼鶯番長・d01553)が、立ち上がりながら言葉を返す。
     不意討ちに備えていたから咄嗟に動けていたが、そうでなければ手痛い一撃を受けていた所だ。
    「(そんな訳で、皆の所へ退くとしましょうか)」
     病室に居た最後の一人、折原・神音(鬼神演舞・d09287)が、仲間達を小声で促す。極力被害を出さないように、誘導ルートは予め確認済みだ。
    「ではいこう。くれぐれも気をつけて、な」
     その声を合図に、灼滅者達は一斉に駆けだした。
    『ににに、逃げるなあっ!』
     扉を出て曲がる灼滅者達の一瞬後を追い、その背を傷つけながら何かが壁を抉る。
     人の気配のしない廊下を抉りながら、異形が逃亡者を捉えようと八本の脚で追い回し、長い髪の毛の先端を刃が掠め、避けきれなかった腕から流れる血が宙を舞う。
     『つつつ、捕まえたあ!』
     連絡通路でとうとう力尽きたか、足を縺れさせた灼滅者の首を二本の刃が、交差するように迫り。
    『ななな、何だとお!?』
     刃が届くその一瞬前に、開け放たれていた窓から灼滅者達が飛び出した。
    『おおお、おのれ!』
     窓越しに向けられた挑発めいた視線に怒り狂ったシャドウが、続いて窓を突き破る。重力に支配された体に、震える声が届いた。
    「き、来ました、私の作戦通りです……こ、これで、あの子を巻き込まずに戦えます」
     声を発したのは、古樽・茉莉(中学生符術士・d02219)。敵を侮らせる演技を交えながらガトリングガンを構え。
    「いこうか、ブリッツェン」
     主であるシュネー・リッチモンド(ナイトデザイア・d11234)に軽く撫でられ、ライドキャリバーのブリッツェンが鉄の心臓を激しく振るわせた。
     そのエンジン音を傍らで聞く少女が、軽く唇を湿らせる。それは初めての相手ゆえの緊張か、それとも。
    (「――高揚も、しているのかな」)
     そんな自分に小さく笑みを浮かべ、束ねられた護符を扇状に構えて仲間へと放った。
    (「さて、敵シャドウは臆病な性質とのことじゃが、油断せずにいこうかのう」)
     帽子のつばを軽く指先で弾き、西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)が中庭に降り立とうとするシャドウに殲術道具を構え
    「まずは一撃、受けてもらうけぇの」
     陣形を整え、待ち構えていた灼滅者達が一斉に攻撃を開始する。
    『ななな、何いいいっ!?』
    「ふ、ひっかかったな、平和は乱すが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都参上! ようこそ、俺達のしかけたトラップへ!」
     中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)の突き出した拳の先で風が渦巻いて刃となり、シャドウを切り刻み。
    「いっくぜえ!」
     超常の力が発する輝きの中で、ライドキャリバーを駆る焔月・勇真(フレイムアクス・d04172)の体から炎が噴き出て、龍の力を宿す斧に更なる力を宿すと迫る刃を車体を傾けて潜り抜け。
    「食らいやがれ!」
     サーヴァントの突撃と共に、手にした斧を振り下ろした。

    ●猛攻、防衛
    (「ここまでは上手くいきましたね」)
     先制攻撃を受けて揺らぐシャドウの脚を鋼糸で封じた茉莉が、怯えた表情を見せながら内心で呟く。
    (「ですが相手はシャドウ。ダークネスの中でも屈指の強敵」)
     だがそれ故に弱点はある。サイキックエナジーが著しく減少している現実世界では、これ程の強大な力を振るうには制限があるのだ。
    (「このシャドウは、危機に陥ると夢の中に逃げ込むって話だよね」)
     ブリッツェンの張る弾幕の奥で、シュネーが護符を味方に投げつけて守護の力を宿しながら、仲間達と事前に話し合った事を思い出す。
    (「この場合の危機は、敗北する危険を感じる事、想像以上の強敵が現れる事。そして、自分の保有するサイキックエナジーが枯渇する事!」)
     それを踏まえて相手を見れば、確かに攻撃を繰り出す度にサイキックエナジーが減っているのを感じる。
    (「なら、今回私がすべきことは相手の攻撃を受け止め、仲間を倒れさせないこと」)
     戦闘音を外界と遮断した神音が、頭上から唸りを上げて迫る巨大な刃を、同じく巨大な鉄の塊のような刀で受け止め、それでも勢いを殺し切れず腕を切り裂かれながら転がって間合いを取る。
    「(ちょっとばかり、性には合わないかもですねー……)」
     思わず小声で本音を漏らしながら立ち上がる。それでもしなくてはいけないことですからと呟き、再び駆けだした。
    『そそそ、そう簡単にこの怯懦のダンドネスを倒せると思うなよ!』
     最初の混乱から立ち直ったシャドウが吼えると自らを阻害する全てを吹き飛ばし、不定型な体から無数のクローバー型の泡が浮かび上がらせ、高質化する。
    『くくく、食らえ!』
     その瞬間。爆発するように全周囲に放たれた弾丸が周りの灼滅者達に襲い掛かり、地面を穿ち、木々を薙ぎ倒す。
    (「怯懦のダンドネスか、確かに強敵だな」)
     貫かれた左肩を庇いながら、千早が無事な右腕を掲げる。その指先から走る光の線は、鋼の糸。
    「しかしその醜悪な姿は見るに堪えない。……止めさせてもらうぞ」
    『こここ、こんなもの効くか!』
     次々と繰り出される鋼の糸を、体から生やした刃で斬り払うシャドウの横から、巨大な刀を構えた人影が飛び掛かった。
    「こっちにもいるぜえ!」
     脇腹を抉られた傷から噴き出た炎を、愛刀『逆朱雀』に纏わせながら斬りつける銀都の攻撃を、無数の刃を生やしたシャドウが受け止める。
    『ききき、効かぬと言っている!』
     そのまま力任せに振り払い、暴れまわるダンドネスは、気づかない。
    (「これが、現実に具現したシャドウの力か。確かに、ここでまともにやりあったらこちらが不利じゃの」)
     それでも守り抜いてみせると、浄化の力をもった優しき風を吹かすレオンに。
    「……悪いな。もうちょっと頑張ってくれ」
     自分を守って傷ついたライドキャリバーに労いの言葉をかけ、分裂させた小さな光の輪を飛ばして、傷ついている仲間を癒すと共にその盾とする勇真に。
    (「たとえどんなに強い相手でも、私ができることをやるのです」)
     銀の手甲から展開させるエネルギー障壁が広がり、自分の意志を宿すように仲間達を護り、癒すティナーシャに。
    「それがかっこいい私になるための道なのです」
     灼滅者達の、不屈の誓いに。

    ●不屈
    「まだ追いつかねえか! なら、これで!」
     黒光りする巨大な刃を宙へ逃れることで避けた銀都が、仲間達を包む癒しの風を起こし、異形の脚を蹴りつける反動で後ろへ跳ぶ。
    『ににに、逃がすか!』
     しかし通り過ぎた刃が突然枝分かれし、身動きのとれない空中へと逃れた相手を生き物のように狙う。だがその攻撃を、長い髪を靡かせた人影が遮った。
    「簡単には通しません!」
     仲間を護ろうと、神音が無敵斬艦刀を叩きつけて軌道を逸らす。しかし木の枝のように広がった刃が腕を貫きシャドウが愉悦を漏らした。だが、
    「彼方程度の攻撃では、私は倒せません」
     巨大な刃を掲げ、絶対の不敗を自身へと誓う。
    「私は、そうそう倒れませんから。無敵ですよ?」
     笑顔さえも浮かべて口にする灼滅者に、ダンドネスは次第に焦りを感じ始めていた。負ける気はしないが、短時間で終わらせる筈の戦闘に、時間がかかりすぎている。
    「どうした。まだ俺達は誰一人倒れてないぞ?」
     身に纏う闘気を癒しの力へと変え、傷口を塞いだ千早が構えて問いかける。
    「かかってこい。幾らでも付き合ってやる」
     その滲み出る気迫に怯んだように、シャドウの不定型な体が震える。
    「私もまだまだ戦えますよ」
     その身に幾つもの傷を受けたティナーシャが、シールドを展開して自らの傷を癒しつつ守りを固める。
    (「あの子に直接聞きたい事があるのです。その為に、まずはこのシャドウとの戦いを斬り抜けるのですよ」)
     傷の痛みにも内に秘める闘志も表情には出さず、ぼんやりとした普段の表情のまま一歩踏み出し、異形が間合いを保つように後ろに下がる。
    (「ここが正念場ですね」)
     前衛に気を取られている敵に気付かれぬように鋼糸を伸ばしながら、茉莉が内心で呟く。
    (「正直、こちらの被害も予想以上に大きいです。さすがは現実世界に現れたシャドウということでしょうか」)
     それでも仲間が誰も倒れていないのは、個々の奮戦に加え、シャドウがこちらを侮っていた事だろう。だが相手のサイキックエナジーも限界に近く、最後に全力を出してくる事が予想される。
    (「ですが、どんな攻撃でも凌ぎきって見せます!」)
     決意と共に放たれた鋼糸がシャドウを捕え、そこへ繰り出された炎の刃が炎の中へと包み込む。
    『ななな、舐めるな!』
     異形が咆哮し、その体から無数のクローバーの弾丸が放たれた。
    (「速いっ!?」)
     リングスラッシャーを盾にしようと構えていた勇真が、今までとは段違いの速さで放たれた弾丸に驚愕しながらも思考する。
    「ここは何とかなる、じゃなくてちゃんと考えて動かないとな! 来い!」
     呼び声に応えたライドキャリバーが全速力で走り、その車体に捕まって小光輪を付与。降り注ぐ弾丸の雨から主を守り切ったサーヴァントが、弱り切ったエンジン音を奏でた。
    「ありがとな」
     シールドリングによる回復と守りで消滅を免れた相棒に礼を告げ、構え直す。まだ敵は健在なのだから。
    「ブリッツェン」
     主の労わる様に触れる手に、サーヴァントがその身を挺して守った己を誇る様にエンジン音で応える。
    「ありがとう……ね。もう、終わらせるから」
     深く息を吸い込み、癒しの力を宿した矢を仲間へと放つ。ここまで来て、誰も倒れさせたりしないという思いを込めて。
    (「繋げて、見せよう」)
     傷ついた自分を、治癒の力を宿した暖かな光で照らしながら、レオンが相対する異形を見据える。
    (「覚めぬ夢を覚まさせるために。残酷な幻想を断ち切るために」)
     傷つき、血を流し、まともな姿な者は一人として居ない。
     それでも灼滅者達は誰一人倒れる事無く、仲間を、自らを癒し立ち続ける。
     眠り続ける少年を、救うために。

    ●終結と旅立ち
     目に見えて気圧され始めたダンドネスに、神音が最後の一押しをすべく大きく踏み込み右腕を振りかざす。
    「羅刹の力で、影を握りつぶすとしましょう」
     言葉と共に繰り出された腕が異形と化し、巨大化する。剛腕が唸りを上げて巨大な刃とぶつかり、異形の体が傾く。
    (「強いくせに臆病なその性格、利用させて貰うぜ」)
     銀都がここぞとばかりに逆朱雀を構え、自らの炎で刀身を覆う。
    「見せてやるよ、俺の究極奥義をっ! 俺の正義が深紅に燃えるっ! 正義の炎を示せと無駄に吠えるっ!」
     大きく吠えて疾走。大きく振り被りながら、一瞬早く爆竹を投げつけ、
    「食らいやがれ、超必殺! バースト・レ―ヴァテインっ!」
     炎の刃が振り下ろされ、炸裂音と共に斬りつける。
    「消えろ」
     魔槍を振るい、穂先に妖力を集中させた千早が氷柱を生み出し。
    「お前自身が俺の悪夢だ………!」
     自らの過去と眼前の醜悪な姿を重ね、全力で放った氷の弾丸がその身に突き刺さった。
    『おおお、おのれええ!』
     身を縛る鋼糸と炎を振り払った異形は大きく吼えて跳躍すると、八本の脚を病院の壁へとめり込ませて少年の病室へと向かう。
    「えっ……あっ、嘘……!? に、逃げたらだめですっ……」
     眼下からかけられた声に、ダンドネスは少しばかり溜飲を下げたように言葉を返す。
    『わわわ、吾輩は夢に落ちた者が衰弱し、つつつ、強い心が腐り果てていくのを見るのが楽しみなだけなのでな。わわわ、吾輩の強さを見せつけて撃退した以上、ももも、もうここには用は無い』
     そう言い残すと、異形の怪物は窓の向こうへと姿を消した。
     そして暫らくの時が経ち。
     灼滅者達はようやく緊張を解くと、戦闘状態を解除した。
    「なんとかなったようじゃな。と言っても、すぐに追いつかんといけんが」
     レオンがそう口にし、傷付いた者達の傷を癒して回る。
     これが連戦ならば心霊手術が必用な所だが、完全に敵が現れない状態に入ったので体調も全快する事が出来た。
    「ご苦労さん」
     それは改めて労いの言葉をかける、勇真達のサーヴァントも同じだ。かなり無理をさせてしまったが、この先で起こる戦闘にも支障はないだろう。
     そして灼滅者達は改めて、少年の病室へと全員で向かった。
     眠り続ける少年は、既に衰弱が始まっているのか表情に生気が無く、四肢は筋肉が衰えているのか血管が浮き彫りになっている。
    (「『慈愛』のせいでこんな事態に……これなら、人間なんて気にも留めない傲慢なダークネスのほうがマシかもしれないです」)
     その姿に茉莉は沈痛な表情を浮かべ、この少年のソウルボードに逃げ帰ったダークネスを思い返す。
    「演技はもう終わりです。まずは配下から片付けてしまいましょう」
     戦闘時の怯えた表情を脱ぎ捨て、決意を口にする。その傍らで静かに眠る少年を見詰めながら、ティナーシャが疑問に思う。
    (「夢の中にいる人達が本当に幸せなのかは、私にはよくわからないのです」)
     だからこそ、と思う。
    (「だから直接会って話を聞いてみるですよ」)
     ソウルアクセスする為に集まる仲間の中、シュネーは夢について考えていた。
    (「夢を見ろと窘められたり、夢見がちだって怒られたり。 希望にも、堕落にもなるのが夢なんだろうな」)
     少年の、例え生気が無くとも幸せそうな笑顔を思い、複雑な表情を浮かべる。
    (「で、この男の子からはそれを取り上げなきゃならなくて。そういう意味ではあたし達の方が悪人なのかもな」)
     胸の内で呟きながら、精神世界へと旅立つ。
     幸福な世界の、終わりの始まりを告げに。

    作者:月形士狼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月17日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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