河原で涼み、肉をつつく

    作者:リヒト

    「よしお前ら、肉を食うぞ! バーベキューだ!」
     初めに言ったのは誰だったか。
     とある場所に、「泳ぐのOK火器OK、ただしゴミは持ち帰ってね」と、実に都合のよい川がある。そこでバーベキューと洒落こもうじゃないか――。
     あれよあれよと話は広まり、気付けば学年問わず何人もの生徒が集まるイベントとなっていた。
     君がそのバーベキューの噂を耳にはさんだのは、折しも下校中、橋上から流れる川を見下ろしていた時である。

     参加は自由。
     食べ物(主に肉。肉である)は持ち込み制。
     バーベキューセットは貸して貰えるらしいので、食材さえ持っていけばいいらしい。

     もう6月。そろそろ半袖ばかりが目立つ時分だ。
     クラブの友人たちと親睦を深めるのにちょうどいいかもしれない。
     それとも、一人でふらりと参加して、適当に賑やかしてみるのも楽しいか。泳ぐのはまだ少し寒いかも知れないが、渓流を覗いてみれば、小魚や沢蟹くらいは見つかるかもしれない。

     そんな事をつらつらと考えながら、君は家路を急ぐのだった。


    ■リプレイ

     じゃーん、と鋼は肉のパックを取り出した。
     抑揚に乏しい声だったが、恋人である鷹秋には、彼女が得意になっているのがよく分かった。
    「この日のために、ちょっとフンパツしていいお肉ゲット」
    「やべ、鋼の肉もうまそーじゃねーの。こりゃ楽しみだ」
     2人で肉を焼いていく。爆ぜる火の粉に驚く鋼、そのぼさぼさ髪を、鷹秋は優しく撫で回す。
    「ふーふーして、アーン」
     鋼のつまんだ肉を、躊躇いなく鷹秋は食べた。咀嚼するたび肉の旨みが口の中で広がっていく。
    「…ん、うめーわ。ほら、鋼も口開けろ。あーん」
    「あー」
     差し出された肉を鋼も頬張る。自然に目元が緩んでしまう。

     月子は水の滴る髪を払い、串に刺した肉と野菜を湊に渡した。
     湊の手際も見事なものだ。じゅうじゅうと美味しそうに焼けた物を選別し、笑顔で月子の皿によそう。
    「えへへ、上手に焼けました~♪」
     美味しそうに食べる彼女の顔を見ていると、湊は知らず知らずのうちに笑顔になってしまうのだった。
    「…そういえば水着のご感想は?」
     月子が悪戯っぽく頬をつついてくる。
     慌てながらも、湊の視線は月子の魅惑的な水着姿にいってしまう。
    「う、うん。もっと見ていたい、です」
    「うん、ありがと」
     赤くなって俯く彼が可愛らしい。少しだけ照れながらも、月子は嬉しそうに微笑んだ。

     キラキラ銀色に輝く川に、宗汰は持ってきたスイカを沈めた。
     …誰かのサンダルが浮いている。流されたのだろうか。
    「ちょっと持ち主探すついでに、デザートのトレード行ってくるわ」
     了解、とシルバは笑顔で送り出し、飯炊きの準備に戻った。
    「アウトドアは登山部のほうが慣れてるもんね」
     部長としてのささやかな誇りもある。バーナーの火を調節してしばらく待つと、米の炊ける美味しそうな匂いが漂ってきた。蒼介が鼻をひくつかせる。
    「いい匂い…」
    「でしょー。ってうわすげえ料理研の二人美味しそうなの作ってるううう!」
     金網の上で、陽己特製のホイル焼きが香ばしく焼けている。
     BBQは初めてという陽己だが、とてもそうは思えない。無骨な見た目からは想像もできないような繊細な手つきで、陽己は次々と料理の品揃えを豊富にしていく。その隣では陽生が、豪快に自家製野菜を丸焼きしている。
    「こうすると、中が蒸し焼きになるんです。お味見どうぞ」
    「ん…甘いな。いい野菜だ」
    「ちょ、ずるい! 俺も食べる!」
    「待てシルバ。先に燻製作るんだろーが」
     愉快そう皆を眺め、秀憲はクーラーボックスから冷えたボトルを取り出していく。
    「頑張れ頑張れ、茶飲め。安藤ちゃんも、ほれ」
    「ありがとう。…部長が首筋にお茶当てられて飛び上がってるけど」
    「当ててんだよ。で、このすげー霜降りの、何の肉?」
    「鹿と猪。実はな、マタギの正体は俺だったんだ」

    「喜べみんな、焼きリンゴとゼリー、それに塩カルビ貰ってきた」
     戦利品を抱えた宗汰を拍手で出迎え、みんな揃って手を合わせる。
     じゅうじゅうと焼けた鹿肉、これが実に美味かった。シルバは言うに及ばず、秀憲も「うめぇ」と連呼してがっついている。
     陽生は幸せそうに舌の上の味を楽しみ、蒼介に笑いかけた。
    「昔は僕の田舎でも食べてたんです。懐かしい」
    「そして安藤ちゃん、タジ君のマリネだ。はい、あ~ん」
     半信半疑でかぶりついた蒼介の目が、うまいじゃん、と丸くなる。
    「たじ君! あきお! 今度一緒に山登ろう! んで飯作って!」
     ああ、と陽己は口端で笑う。
    「…外で料理をするのも、偶には良いものだな」

     一人焼肉は最高である。
    「塩カルビ、うまー」
     マリスは舌鼓を打っていた。さっぱりとした味ながら、強烈な満足感を与えてくれる塩ダレ。肉質は柔らかく舌で溶け、一噛みするごとに満足中枢が際限なく刺激される。
     思いがけぬ出会いがあった。デザートトレードに来ていた宗汰と塩カルビで交渉し、スイカを一切れ譲ってもらったのだ。楽しみが一つ増えた。

    「見よ、あたしの赤ビキニに包まれたナイスバディ♪」
     水着姿で麻美はじゃぶじゃぶと川に入る。弥咲が気づいて声をかけた。
    「魚でも取ってきてくれると嬉しいぞー?」
     了解、と元気に手を振り返す麻美だが…、ずるっと足を滑らせた。
     気を取り直して焼肉である。
     金網の上で、炭火で炙られた肉と野菜がいい焼き色だ。
    「はい、乙女はあーんだ、肉だぞー」
    「水無月様…あーん」
     小鳥のように口を開き、乙女は心底嬉しそうに頬張った。口いっぱいに肉の旨みが広がっていく。自分でもどんどん箸を伸ばしてしまう。
    「あぁン、あたしのお肉、食べないでー!?」
    「はっ、これは七里様の分でしたかしら?」
     お詫びにと、乙女があーんと肉をさしだす。もちろん躊躇いなどあろうはずもない。
     んー! と頬を押さえ、感激。2人の気持ちのいい食べっぷりに、弥咲はにこにこと微笑んでいる。
    「って、あれ? わ、私の肉は、どこだ…?」
    「あ、ならお返しです。あーん」

    「うぅ、お腹空いたよう」
     綾音のお腹が、くう、と鳴った。
     鉄板が温まったころを見計らって、悠矢が肉を焼こうとする。
    「えっと、最初は野菜から焼いていくんだっけ?」
     和奏も一瞬首をかしげるが、歌菜は頓着しなかった。
    「いーじゃない適当で」
     だばだばっと肉を、そして玉ねぎを大量に投入していく。
     肉の焼ける臭いが香ばしい。じゅうじゅうと焼ける光景に、弥々子と満希の目が輝いた。
    「わあ、わあ…とってもおいしそう、なの…!」
    「満希、こんなに1度にたくさんのお肉とかお野菜を焼くの初めて見たよ~」
     次第に焼き目がこんがりしてくる。綾音はそわそわと落ち着かない。
     …最高の焼き加減だ。和奏は綺麗な焦げ目のついた肉をひっくり返す。
    「焼けたよー! はい、皆食べて食べてー」
    「いただきます! …んー、おいしい!」
     綾音、満悦のご様子。
     肉を取ろうと手を伸ばして唸っている弥々子に、歌菜はひょいっと肉を取り分ける。もちろん自分の玉ねぎを確保する事も忘れない。
    「あ、歌菜ねえ。ありがと、なの」
    「相変わらずよく食べるわね、ていうかお皿が空くの早すぎよ」
     この小さな体のどこに入っていくのだろう。幸せそうにお肉を食べる弥々子を眺め、歌菜は甘い新玉を味わっていく。
     お肉は満希のママ特製のタレに漬け込んであり、舌をとても濃厚な味わいが楽しませてくれた。箸休めのキュウリ漬けは、和奏のお墨付きでとても美味しかった。
     醤油の焼ける香ばしい香り。ようやくできた焼きおにぎりを、悠矢は「うま~!」と頬張った。
     エビやホタテ、それにトウモロコシも食べ頃だ。満希が醤油を塗ろうと格闘していると、ケチャップでホタテを食べていた綾音が手伝いを申し出た。
     焦がした醤油は、どうしてこんなにも食欲をそそるのだろう。
    「えへへ~、おいしいねっ」
    「デザートまであるとか幸せすぎるよー」
     和奏はうっとりと頬を撫で、こうして友人たちとバーベキューをする幸せに、しばし身を預けるのだった。

    「よーっし、皆!」
     雛子がコーラを天高く掲げると、彼ら、修学旅行あぶれ組は口々に叫んだ。
    「友人達の無事を祈って…」
    「皆のネタ溢れる旅路を祈って!」
    「前途に幸あれでござるよちくしょー!」
    「向こうよりも楽しいBBQにするぞっ! 乾杯ー!!」
     グラスを打ち鳴らし、楽しいBBQの始まりだ。
    「で、なんで素破君はマタギの格好してんの」
    「新鮮な山の幸を振舞おうと思ってね。ほら、鹿肉でござる」
     どや顔で肉を魅せる隼に、木菟はフフフと不敵に笑う。
    「こちらはホタテ。勝った…!」
    「なんの勝負?」
     というか、と雛子がもむもむ肉を食べる。
    「くろは人の格好にツッコんじゃダメな? アロハにサングラスだぞ?」
    「どうせ沖縄に未練タラタラですよ!」
    「超悔しいでござる!」
    「高3の拙者に修学旅行の記憶がないのは何故!」
    「世界の選択なのだっ!」
    「生まれるのが早過ぎたんだよ」
    「拙者なんてお土産に借金の連帯保証書でござるよ?」
    「よーし飲め、みんな飲め!」
    「高橋殿…!」
     酔ってるのだろうか。コーラなのに。
    「よし、皆わたしにお肉食べさせるといいな? あーん♪」
     雛鳥のように愛らしく口を開ける雛子に、くろは和みつつ焼きパイン投入。果汁クッソ熱い。
     木菟はエビを食べさせて、隼は…、
    「フフフ、ナイショでござる」
    「ふおお、何かコリコリしてる…!?」

    「う…つ、つめたい…」
     準備作業からこっそり離れ、千達は川で涼む事にした。小さな沢蟹を探すのも目に楽しい。
     沢蟹遊びからなゆたが戻ってきたのは、ちょうど良太がセットを設置し終えた時だった。
    (かえって浮いているな、僕)
     真面目な彼の苦悩には気づかずに、透流たちは持ちよったお肉を出し合った。
    「限界まで、豚肉、買ってきた」
    「拙者も…明日からの食費は考えぬ」
    「私も結構持ってきたつもりだけど…これなら足りそうだね」
     神羅となゆたの肉も合わせるとかなりの量だ。尤も、残る事はないだろうが。
     網が熱したら焼肉開始だ。
     光がまず野菜、そして鶏肉を焼いていく。透流はお構いなしにどんどん肉を乗せていった。良太は注意した物かどうか計りかね、「あ、えーと」とおろおろとするばかりである。
    (もぐもぐ…)
     我関せずと千は肉を口に放り込んでいく。人見知りの彼女にとって、会話より肉が優先なのだ。
     透流も負けじと口を動かすが、生焼けの肉にも手が伸びて…慌てて神羅が止めに入った。
    「待たれよ鳴神殿! それは未だ生焼けであるからして!」
    「あ、ありがとう。えっと、どれが…?」
     おろおろする透流だが、そこに救いの手を差し伸べたのは良太であった。
    「このベーコン、美味しいよ。もう焼けてる」
    「こっちの肉も食べごろだぜ」
     光が幾つか見繕って肉を寄せた。自分の鶏皮は巧みにキープしながらである。
     突然千が涙目になった。喉に肉を詰まらせたのだ。
    「水っ、水を!」
     なゆたの対応は素早かった。コップ一杯の水を飲ませると、千は咳き込みながらも持ち直した。
    「げほっ、ごほっ! …あ、ありがと…」
    「もう、一気に食べ過ぎだよ」
     千が照れて頬を赤らめると、皆が笑った。気づけば良太も笑っており、
    (少しは馴染めたのかな)
     と温かい気持ちが満ちる。光は南瓜を焼きながら、
    「やっぱり皆と一緒だと何でも楽しいな!」
    「ああ。先程よりも美味な気が致すな」
     いかにも美味そうに、神羅が肉をつつくのだった。

    「朧木。それはオレが食うべき肉だろう。という訳で頂き!」
    「おい、一! 人の育てた肉まで食うんじゃねぇ!」
     一とクロトの熾烈な肉争奪戦に、ほわほわ笑顔のユークレースが参戦する。
    「むむ、マコトには負けないのですよー…!」
    「お? やんのかユル、肉はわたさねぇ!」
     修学旅行はぐれ組、その鬱憤を晴らすかのように大変な盛り上がりであった。
    「ただでさえ暑いのに暑苦しいな…」
     溜息をつき、イヅルは我関せずと焼きおにぎりにとりかかる。そこにそろそろと迫る一の箸。イヅルはすすっと肉を移動させた。
     見る間に肉が消費されていく。上機嫌に野菜を摘まんでいた麦秋も、これにはさすがに苦笑い。
    「って、ちょっと! 人が感激してる横で早々に争奪戦始めないでよっ!」
    「野菜嫌いはでっかくなれないってばあちゃんが言ってたぞ」
     麦秋と暁吉によって一の皿に野菜が放り込まれるが、既に彼にはこんがり焼けた肉達しか見えていない。
    「野菜? 知らん! そんなことより肉だ!」
     かっこむ。この舌触り、堪らない。白いご飯が欲しくなる。
     忍はこんがり焼けたラムを美味しそうに咀嚼する。噛むたびじゅっと甘みが溢れ、んー、と自然に目尻が緩んでしまう。
    「美味しい…。それにマシュマロを炭火で焼くのは初めてです」
    「ああ、こういうのもアリかなと思って」
     クロトが牛肉を頬ばりながら言う。タレが実にいい味をしている。
    「ユルに鴛海も、デザート持ってくるとはナイスだ。あとで貰うよ」
    「はい、バナナと、りんごー…!」
    「焼きバナナ、楽しみですね。ゼリーも冷やしてありますから…」
    「流石女子は目の付け所が違うな」
     無表情に言う暁吉だが、彼の容姿はどこからどう見ても女の子である。
     暁吉が配った麦茶を皆で飲んでいると、宗汰がデザートのトレードを申しでてきた。焼きリンゴとゼリーを少し渡して、よく冷えたスイカを手に入れる。
     ユークレースが幸せそうに頬を綻ばせた。
    「スイカ、貰いました!」
    「食いきれるか?」
    「甘い物は、別腹、なのです!」
     イヅルが魚のほくほくした身を摘まみながら、
    「しかし、このタレは美味いな。オーギュストのだったか」
     うん、と微笑むリュシール、その瞳がかすかに赤く、潤んでいる。ユークレースが気づかって声をかけた。
    「あ…何でもないですよ? ちょっと煙が目にね」
     忍から渡されたハンカチでそっと目を拭う。懐かしかったのだ。この賑やかな食事風景が。
     麦秋がこんがり焼けた肉を取って、
    「さ、リュシールちゃんも食べましょ♪ はい。あ~ん」
    「あ、その…あーん…」
     その後、一に先導された彼らは、川で時間いっぱいまで遊びつくした。

     まな板の上に転がる不揃いな食材を見て、春陽は潔く頭を下げた。
    「…七海ちゃん、お願いします」
     こくりと頷き、メイド服の七海が目にも止まらぬ早業でカットしていく。
    『個別にサイズ受付可』
     メモを見せる七海は、どことなく誇らしげであった。

    「シギー、肉だけじゃなくて野菜もモリモリ食えよ!」
     宣言通り、砂地が水を吸うかの如き食欲を発揮しているのは巨漢のクレイだ。そうよと春陽も追従し、シグマの皿にひょいひょい野菜を盛っていく。
    「こう言うのはバランスが大事なのよ?」
    「盛るのやめろ! 俺は肉食いに来てんだよ!!」
     ただでさえ少ない胃袋の許容量を草で埋めようなどとは言語道断、許しがたい狼藉である。梛もげんなりした顔でナスを焼いている。
    「野菜食えっつってる奴らが一番食べてねぇじゃん」
    「成長期だからカルビ食べたいのよ。あ、飲み物いる?」
    「悪いなハルピー。お茶貰えるか?」
    「シグマ、ほれこっち焼けてる」
    「お、サンキュ…また野菜かよ!」
     梛の焼きおにぎり、七海の焼きトウモロコシから漂う、焦がした醤油の匂いは絶品であった。
     いいだけ食べた残りはクレイがもりもりと完食し、食後のデザートの時間となる。梛の焼きマシュマロにみんな興味津々だ。
    「七海は好きそうな? ほれ、こうやって焼いて挟む」
     …美味しかったらしい。はふはふ言いながら食べた七海は、お返しにと自作の杏仁豆腐を披露してくれた。
    『自信作、皆食べて』

    「よし、川で遊ぶぞ! ついでにゴミ拾いしよう!」
    「クレイは元気だなー。俺も眠くなってきた…」
     賑やかな仲間達の声を遠くに聞き、シグマはふと虚空を見上げた。
    「…このクラスで良かった」
     なにやら笑顔で手招きするクレイに苦笑して、シグマは腰を上げるのだった。

    作者:リヒト 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月17日
    難度:簡単
    参加:44人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 9
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