「みんな、不死王戦争お疲れさま! それでね、ちょっと提案なんだけど」
まりんは抱えていたパンフレットやガイドブックを広げた。そのあちこちに『沖縄』の文字が見える。
「春休みの残り、ちょっとしか無いけど、みんなで沖縄へ遊びに行かない?」
沖縄には有名な水族館があるし、今の時期でもマリンスポーツを楽しめるなど、楽しい場所がたくさんある。
みんなで一緒に思い出を作るのに、いいんじゃないか……まりんは、そう考えたようだ。
「情報局でいろいろ聞いて考えてみたけど、沖縄が楽しそうかなって。まずは『沖縄美ら海水族館』に集まって、午前中は水族館を見学! サンゴ礁やジンベエザメ、マンタを見れるんだって。11時からのイルカショーも見逃せないね。そのあとお昼ご飯を食べつつ移動して、午後からはマリンスポーツ! ダイビングを体験して沖縄の海や魚を鑑賞したり、勢いよく水上を走るバナナボートで遊んだりできるよ! その後は、国際通りっていう、お店が沢山ある観光スポットへ移動して、晩ご飯を食べて解散だよ!」
なお、行きの飛行機は6時発、帰りの飛行機は23時着という、それなりにハードなスケジュールとなる。
前の日に行って翌日帰ってくる2泊3日くらいの日程で出かけ、まりんとは当日だけ一緒に行動するようなつもりでいた方が、もしかしたら平和かもしれない。
「旅費はね、情報局の時にカンパをくれた先生達が『残ったお金で、みんなで遊んできなさい』って言ってくれたから心配いらないよ! せっかくだから、沖縄の海をたくさん楽しんできたいな~。みんな、それじゃあ当日は、寝坊に気を付けて集まってね!」
まりんは、そう笑ってみんなと別れるのだった。
当日、まりん達は水族館を訪れていた。その人数は百人を越え、貸し切りバスも3台用意されている。
「さあ行……ぬわっ!?」
情報局で宣言した通りクールな姿を見せようとした理緒だが、高校生になったからといって、いきなりすぐにとはいかないらしい。
「えーと、霧君。沖縄に来てまでそのコートっていうのは暑くないかな?」
「通気性がいい素材だから問題ない。それに、すぐ入ってしまえばいいことだ」
一直線に館内へ向かう一方、途中ジンベエザメのモニュメント付近にできる人だかり。まずは記念撮影をという面々だ。
「なんだ、撮ってやろうか?」
「って桜田もおらんと締まらんじゃろう」
わいわい集まって、撮影も交代で頼み合いつつシャッターを切る。
「じゃあ、行くか」
パンフレットを握ったアイナーが、それとなく皆を入口へ案内する。入口は3階、うっかり一番下まで行く者がいては大変だ。
「『ちゅらうみ』って名前が素敵だよね~」
「美ら海……沖縄って感じの独特の響きですね」
ちゅらちゅっちゅっちゅ~なんて陽気に口ずさみつつ入館し、珊瑚や熱帯魚のいる水槽へ進む。
「珊瑚といえば、3月の誕生石でもあったよな」
加工されたものを見たことがある。しかしそれよりも、こうして自然な姿の方がいいな、と鐐はかすかに笑う。
「どれもきらきらして綺麗だね」
すっかり夢中の祢々を、切丸は満足そうに見つめる。兄妹で旅行するのも一緒に水族館へ来るのも初めてだが、楽しいなら良かった、と。
「こんな綺麗な海で泳ぎたいね」
「そうだな。もう少し暖かくなって……夏になったら、一緒に行こうぜ」
風邪を引きやすい彩希は、水温が自分には少し低いことを残念がっていたが、そう誘う鷲司に嬉しそうに頷く。
「朱美お姉ちゃん、マンタ見に行こう!」
「うんうんっ。丞兄ちゃんも早くー!」
「あー、……はいはい。いきますよっと」
水槽を見ていた丞は苦笑して、はしゃぐ2人を追いかける。館内では静かに、と言われて頷く2人だが、すぐにまた歓声を上げているのはご愛嬌だろう。
「……ディアナ、はぐれないように俺の手を掴んでおけ」
「あ、ありがとう」
人が多いからと差し出された手を、どきどきがバレないように握り返し、館内を進む。
「あの水槽ですね!」
一葉達はお目当ての巨大水槽へ近付く。そこで悠々と泳ぐ姿こそ、楽しみにしていたジンベエザメだ。
「これが噂の……おおきー……」
「もうもうっ、すっごーい!」
想像以上の大きな姿に、すっかり目をキラキラさせて夢中になる一方、
「三枚おろしにするのは大変そうですね」
「サメより、アジとかイワシの方が……美味しそう」
「それにしても、これだけいると水換えが大変そうだな」
なんて感想も出たりして、思わず「そこなの!?」と突っ込んだり笑ったり。
「フカヒレが泳いでるですぅ……お腹が鳴くですぅ~」
御都なんて、水槽にべったりだ。
「あれがジンタくんでしょうか?」
「多分、あの子が一番大きいよね」
このとに頷き、紗月が水槽に手を振ると気付いたのか、ぬーっとジンベエザメが通り過ぎていく。
「あれが世界一のジンベエザメなんだねー……凄いや」
ジンタは世界最長飼育記録を持っている。ちなみに水槽もギネス認定されていて、脇に表示されていた。
「ふふふ。せっかくでござるし、ぬいぐるみも気になるでござるな」
忍が言うと、途端にわっとお土産話が盛り上がる。
「大きいけど、人は襲わないみたいだし、凄く大人しいね……」
「こうやって見ると可愛いかもっ。あ、マンタさんだよ!」
摩那斗の感想に夏奈が頷き。今度はすいーっと泳いできたマンタを皆で眺める。
(「すごいです……!」)
無口なしいなも、うきうき楽しげに水槽を見つめる。
「ガラス越し、人と魚の目が合いて……季語はないですが」
流希は、ふと呟くと面白い句になりましたね、と笑う。
(「……あ」」
志摩子は一瞬、水槽に映るましろと目が合ったような気がした。
(「か、顔、赤くなってないよな」)
誤魔化すように視線を泳がせたましろは、志摩子が水槽越しに見つめ続けているのに気付けない。
「あ、なんか綺麗なのいる! なんだろあれ、もっと近くで見ようよ!」
「っとと、あまり引っ張るでない!」
水槽を眺めて感心していた千里は、はしゃぐ恵理に苦笑しながらも、どこか楽しげについていく。
「……て、涼子さんはしゃぎすぎ」
「いいのよ、こんな時くらいはしゃがなきゃ!」
さくらえの言葉に涼子はにっこり。……まあ、たまには、とさくらえは小さく咳払いして。涼子の手を引いて歩き出す。
「沖縄ってこんなのいるの? スケール違わない?」
「確かにトウキョウの海じゃ収まりきらないよね……」
綴達は感心しきった様子だ。エルメンガルトがイルカやシャチが好きだと言えば、どっちが強いんだろう、なんて話で一盛り上がりして。
「じゃあ実物見に行こうよ」
売店を覗き込みつつ、イルカの元へ向かう。
「よしよしシャッターチャーンスッ」
徹太が撮った写真には、小さな魚達を囲むように立つ時春と周、それからジンベエザメが写っている。
じゃあ今度は、と交代で撮った写真を留守番組にメールしつつ、
「いやあジンベエザメすごかったっすね」
「次はウツボ行こうぜー」
惚れ惚れと堪能した後、今度は周のお目当てを目指す。
「次はマナティ見に行こー」
別館に向かおうとするマキナの手を、さりげなく秀憲は握った。
「えっ……と。あっちだっけ」
「そうそう」
少し戸惑った後で握り返したマキナに、秀憲は頷く。
「ところで東堂氏、ダイオウイカと背丈比べをしたくありませんか?」
「……へ? 横になれと?」
その言葉に、イヅルはケースに横たわるダイオウイカの標本を見る。
「拒否したらナマコを触ってもらうよ?」
イヅナの言葉に、ナマコは別にペナルティとは思わないけど、まあ人もいないし、と付き合ってあげる。
「イヅルくんの身長が170cmだから……このイカは3.7イヅル!」
それを撮影した深愛が、面白がって他の魚もイヅル単位で数えていく。
「由愛? どうかした?」
「え? ううん」
心配そうに覗き込んでくる葵に首を振る。口数の減った理由が、笑顔にどきっとしたからだなんて言えるはずもない。
「ならいいけど……」
でも少し気になって、葵は手を握る力を少しだけ強めた。
「あっ、イルカショーの時間が近いぞ、急げ!」
時計を見た優奈は慌てて会場に向かう。他の皆も大半がショーの時間に合わせて、ここを訪れていた。
「いちごちゃん煉ちゃん、前の方座ろ!」
興奮した様子の依子は最前列、特等席と言っていいであろうポジションを皆と確保する。
「よさげな席を取りたいですよね」
絢矢達もできるだけ前の方の席を、と場所を取った。
「それにしても暖かいな。いい天気だし」
「本当。春っていうより初夏だね」
まりんを誘って席に着いた辺は、北海道との違いに驚きながらも開演を待つ。
「危ない危ない……メインを見逃すところだった」
座った龍成はホッとする。時間ギリギリだがなんとかセーフだ。
「きゃー!」
そうして現れたのは泳ぎ、跳ねるイルカ達。壱子達には水飛沫がかかるが、このくらい大丈夫だと笑う。
「……すごい」
なんでこんなに飛べんの、と煉もすっかり釘付けだ。
「ほら、拭かないと」
「ええ? 大丈夫だよー」
と言いつつもタオルで頭をぬぐってもらって。希子は嬉しそうに笑ってまたイルカを見る。後でイルカグッズ買いに行こうね、なんて約束しながら。
「凄いです、今度はボール運んできましたよ!」
ざばっと上がってくるイルカにまた歓声。朔夜と兎紀は、イルカに触ったり遊んだりしてみたいと言い合いながら、楽しそうにイルカを見続ける。
「イルカのジャンプって、ほんとに凄いわね。いつか乗ってみたいわ」
そう呟いたリュシールは、縁樹に羨望の眼差しを向ける。
「……箒には、乗れるのよね?」
「あ、縁樹の箒で良ければいつでもどうぞですよ」
2人で空のお散歩をしたら、きっと楽しいだろうと縁樹は笑う。
「ラグーンでもイルカ見れるみたいですよ」
「へえ……行くか」
ショーはあっという間に終わってしまったが、渓の言葉にサズヤが頷き、まだまだイルカが見足りない面々はそちらへ向かった。途中ショップで買ったものを食べたりしながら過ごせば、時間はあっという間に昼だ。
「ああ、もう集合時間だね」
ずっと館内にいた観月は司と入口へ戻る。
「わざわざ沖縄でしなくてもいいような話ばかりでしたねぇ」
「いいんじゃないの。俺は楽しかったよ」
その内容を思い返し、2人は笑いつつバスに乗った。
次に、一行は浜辺へと降り立った。
「こんの、バカーっ!」
響いてきたのは更衣室から飛び出してきた御凛の声だ。討真に水着をすり替えられた彼女は、やむなく赤いビキニ姿だった。よく似合っていると褒められても、怒りはしばらく収まりそうにない。
「昨日何度か潜ってコツは掴んだから、いろいろ教えるよ」
「ほんと? ありがとう!」
早速まりんに教えているのは、沖縄訪問のきっかけを作った香だ。ダイビング組はみんなで準備を済ませると、早速海中を目指す。
「思いっきり魚見るぞ魚ッ!」
飛び込んだアンナに悠も続く。軽い浮遊感があるようで沈んでいく感覚は、箒で飛ぶのと似ているようで全然違う。
海中は光を浴びて鮮やかに魚や珊瑚が揺れて、新鮮な光景だった。
「何かあったら片手を大きく振って知らせろよ……って!?」
忍び寄ったミストに海へ落とされるエミーリオ。ミストはしれっと「じゃあ僕らも行こうか」と皆を誘う。思わず笑ってしまったまりんも、落ち着いた所で海中へ。一方、
「絶対絶対、離しちゃいやだからねっ?」
「大丈夫だよ」
エスコートするように竜生はゆっくり海へ入る。最初は緊張が伝わってきたけど、綺麗な光景は、すぐにそれを消し去ったようだ。
(「すごい! 水面が空みたい!」)
呼吸のコツを掴んだ剣は頬を緩ませる。初めての海中は、感動することだらけだ。
(「さっき水族館で見たやつに似てるな」)
希見は自然のままの魚を楽しむ。傍らの穂村は魚に軽く触ろうとして……。
(「げっ」)
するりと逃げた魚は、尻尾を叩きつけてから逃げていく。それを見た周囲は思わず笑う。
(「なかなか難しいもんだな。あ、でもこれなら……」)
宗汰は魚を撮っていく。狙い通りのものが撮れたら、部室のロッカーに飾るつもりだ。
(「へえ、綺麗だな……」)
(「こらこら。あまり離れちゃダメだって」)
慣れてきた千李は泳いでいく魚を追いかけようとするが、蓮は軽く手を引いてそれを止める。ジェスチャー交じりのそれに頷いて、千李は泳いできた別の魚を眺めた。
「あはははは!」
少し離れた海上ではバナナボートが走っていた。大きく揺れてネイトはしがみつく。
「うおおおおおおっ!?」
一方、重蔵は水切りをする小石のように吹っ飛んだ! その動きが面白すぎて、ネイトも腕が緩んで落ちてしまう。
「残念。もう一回だね」
なんて笑いながらネイト達は何度もバナナボートを楽しむ。
「勝ったー! サーターアンダギーは私のものね!」
1位で戻ったアナスタシアが嬉しそうに笑う。彼らは水泳勝負をしていたのだ。
「頑張ったのにな、悔しい」
「次はビーチバレーしようぜ。ほらゆまサンも!」
「え、わたし水着ですらないけど……」
「気にしない気にしない」
聞き慣れない単語に出遅れたのが敗因だろうか、と悔しがる百舌鳥を取り成して。ゆまは驚いたものの、折角だからと本を置いて加わることにする。
「兄さんも日に当たったら?」
「僕、吸血鬼の子孫だから日光は敵なんだ」
レムがよよよと嘘泣きするが、カヤにはバレバレだ。
「じゃあおにーたん、あれやる? 顔だけ出して砂盛るやつ」
「僕それ見る派かな。というわけでカヤ君!」
「やらないよ!?」
すっかり仲良くなった颯夏とレムに狙われ、カヤはぶんぶん首を振る。
「じゃあ次の曲いってみようか」
「今度は踊っちゃうにゃー♪」
綺羅と彩愛は一足早い浜辺のアイドルになっていた。綺羅の奏でるギターの音に、彩愛が即興でつけた、沖縄をイメージする歌詞に手拍子が重なった。
「楽しかったねミッキー!」
海を泳ぎ砂浜を駆け回り、夕方まで霊犬との時間を満喫した來鯉は、一緒にバスへ戻る。
「リノ」
「……なに、かな?」
ふと立ち止まった磯良に見つめられ、どきどきしながら聞き返す。
「私は、君のことが大好きです」
今までハッキリしていなかった関係に形をつけるため。恋人になってくれませんか、と磯良は告げた。
そうして海での時間に別れを告げた後、一行は国際通りを訪れていた。
「いやー、まりんさん。まずは一杯どうぞー」
と手招いたのはフィズィだ。今日ばかりはラーメンではなく沖縄そばを、と堪能した彼女から丼が差し出される。
「これがゴーヤチャンプルーかあ」
「こっちの料理は、なんて言うのかしら?」
湊や月子は、てびちやグルクンなど聞き慣れない名前の料理を教わりながら、沖縄料理を味わっていく。
「あとはやっぱり紅いもアイスね」
今日一日、たくさんのものを探し歩いた波琉那は、最後に有名店でアイスを食べる。
「ひ、酷い目にあった……」
「おれもうだめだ……」
よろよろするのは八雲と友馬。反対に超いい笑顔なのは仁恵とシュテラだ。
「いやー、ちょーやべー味でしたね!」
「チョコの味とパンケーキのしっとり感、最強だったなあ」
4人は美味しいと評判の店へ出かけたのだが、運転役の八雲と友馬は、気力すら残らないほど燃え尽きたようだ。
「しーさーしーさー、たのシーサー♪」
べべん♪ と着ぐるみ姿の直哉の歌に合わせてレミは三線を鳴らす。
これでもサウンドソルジャーですから! と胸を張るレミの演奏は大したもの。2人はそうしてノリノリで、国際通りを歩く。
「あ」
サーターアンダギーをお土産にしようとしていた愛希姫は、有斗がそれを食べながら歩いているのを見かけた。
「これ? そこ曲がってすぐの店。美味しいよ」
皆と情報交換しながらお土産を、と考えていた有斗は愛希姫からも店を教わり、更に買い物を続ける。
そうして時間ギリギリまで買い物と思い出作りを重ね、バスは空港に向かった。そのまますぐ、羽田行きの最終便に乗り込む。
「楽しかったね、まりんちゃん!」
バスから引き続き隣の席に座った寛子は嬉しそうに笑う。今日の思い出話に花を咲かせているうちに飛行機は動き出し……。
「……すー」
「寝ちゃったんだ。えっと、毛布を……」
強行軍だった一日の疲れか眠ってしまった寛子を見て、まりんは毛布をかけてあげる。
機内では、他にも眠っている生徒達がたくさんいる。みんな、いい笑顔だ。
「新学期もまた、こうして楽しい思い出がいっぱいできたらいいなあ」
まりんはくすっと笑うと、遠ざかっていく沖縄を窓から眺めるのだった。
作者:七海真砂 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年4月15日
難度:簡単
参加:112人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 20/キャラが大事にされていた 10
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