箱根温泉へ行こう!

    作者:相原きさ

     不死王戦争には勝利できたが、春休みは残り少ない今日この頃。
     住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)は、箱根温泉のパンフレットを持参して、皆に呼び掛けた。

    「日帰りで箱根温泉に行ってみないか?」
     たしかに、戦いの骨休めとして温泉はもってこいなのは間違い無い。
     だが、それだけでは、勿論無い。
    「実は、バベルの鎖の影響でニュースにはなっていないけれど、箱根の源泉の温度が最近上がってきているらしいんだ」
     もしかしたら、鶴見岳の戦いで敗走したイフリート達が、箱根温泉にいるのかもしれない。
     パンフレットを広げながら、慧樹は、そう続けたのだ。
    「だから、箱根温泉で疲れを癒やしつつ、源泉の様子を調べてみたいんだ。勿論、危険があればすぐに撤退するつもりだけどね」

     それは、ちょっと危険な温泉旅行の始まりであるようだった。


    ■リプレイ

    ●ようこそ、箱根へ!
     温泉地箱根。そこにやってきたのは、灼滅者総勢150名。
     いち早く情報収集を開始していたのは、美潮(d03943)。ぶらりと立ち寄ったメシ屋で情報収集。
    「最近この辺の温泉どんな感じっすか? どっか良いトコねえっすか?」
     その隣で美潮と共に居た悠(d00140)も興奮気味に。
    「そうそう、『穴場』や『秘境』的な奴だと、もっと嬉しいぜっ!」
     メシを食べつつ二人は、店の人から穴場スポットをばっちり教えてもらっていた。
     のんびりと箱根の町並みを歩いているのは、太郎(d04726)。
    「こうやって、町を歩くのもいいものですね」
     どちらかというと、休みに来ている。
     一方、慶一(d12405)もこの箱根へと一人で来ていた。
    「温泉に行きたくなるときもあるよな」
     山の源泉へ向かう途中、目が合った二人はぺこりと頭を下げた。

     ここは、とある旅館の眺めの良い女湯の露天風呂。
    「はわー、きもちいい……うっとりしちゃいます」
     レイラ(d04793)は、体を洗った後で湯船に浸かっている。その隣では、素晴らしい温泉にユーリ(d14753)は瞳を輝かせている。
    「……気持ち良い、です」
     持ってきたあひるを無くさぬよう抱いて。
    「せっかくの温泉、邪魔されたくないからな」
     あたりを警戒しつつ、やっぱり温泉を楽しむのはアーシャ(d11430)。
     ナノナノと一緒にマリーゴールド(d04680)も温泉を楽しんでいる。
    「あ~生き返るね~。イフリートも湯治に来たりするのかな~?」
     その言葉にナノナノは、びくっと体を震わせた。
    「あ~極楽極楽」
     温泉からの眺めを楽しみながら、陵華(d02041)も満足そう。ちなみに陵華は風呂上がりに、炭酸飲料を飲むつもり。
     豊満な体をそのままに舞(d11898)も瞳を細める。
    「眼福♪ 眼福♪」
     可愛らしい子達を眺めて、幸せそう。
     湯船の中でストレッチするのは、心(d00172)。
    「はぁ……もう少し温度が低かったらよかったのになぁ」

     そんな声を、隣の男子風呂に入っていたケイ(d01149)が聞きつける。
    「確かに、このお湯……熱いですね。長湯したらのぼせそうです」
     と、そこへ、体をタオルで巻いた可愛らしい女の子(?)屍姫(d10025)が入ってきた。
    「えっ、ええ!?」
     思わずケイが仰け反る。
    「って、違うよ女の子じゃないよ! ボク、男の子だよ!」
     ちなみに紛れもなく屍姫は男の子。ケイはほっとして、彼と一緒にお風呂を楽しみだした。
     そんな様子を動じもせず、まったりと眺めているのは十織(d05764)。ついでにいうと頭の上には、ナノナノ。
    「……いい湯だ……」
     満足げに十織は呟いた。

     男子風呂の外では。
    「むぅ、水分が心の底から旨く感じるな!」
     熱い風呂と水風呂を交互に入った後の冷えたレモネードに龍夜(d00517)は気持ち良さそうだ。
     その隣で風呂上りのディーン(d03180)が思い出すかのように呟く。
    「あとはビンの牛乳を飲むんだったっけ?」
    「おっ! お前も牛乳か? 牛乳ならそこにあるぜ!」
     風呂上りの一杯(瓶牛乳)を一足先に飲んでいる大文字(d02284)が声を掛ける。
    「こ、これが風呂上りの一杯……」
     ディーンは大文字が見知らぬおっちゃんと一杯を交わしつつ喋る姿に、感銘を受けている。大文字は思っていた情報は得られなかったが、おっちゃん達と仲良くなれたようだった。

    ●調べてみよう!
     ロープウェイで大涌谷にやってきたのは、力生(d04166)。
    「なかなか見ごたえのある景色だ」
     たどり着いた先で思わずデジカメで写真を撮っている。その隣では舞う桜の花びらを手に、嬉しそうに微笑む友梨(d00883)の姿も。
    「綺麗な花びらだね。押し花にしようか……」
     ちょっと楽しげだ。
    「うーん、こっちにはイフリートとかいなさそうだな」
     辺りを見渡し注意を払う伊近(d12266)だったが、それらしいものは見つけられなかったようだ。その後、三人はそれぞれ温泉を楽しみに向かった。
     こちらはロープウェイで山頂に来た悲鳴(d00007)と謳歌(d07892)。
    「どうやら、ここでもないようじゃ。神山と聞いていたから怪しいと思っておったんじゃがな……」
     少し残念そうな悲鳴の腕に、謳歌が抱きつき。
    「じゃあ、ひなちゃん! ここ行こうここ! 太閤石風呂っ!」
    「これ、そんなに急ぐでないぞ」
     騒がしく二人は山を降りていく。

    「教えていただき、ありがとうございますわ」
     宿で聞き取り調査を行っていたアリス(d01077)は、地図に教えられた場所を書き込む。と、傍に居たはずの凰呀(d00530)の姿が見えない?
    「あ、お嬢、終わった?」
     コーヒー牛乳片手に、木の上から飛び降りてきたのは、凰呀。
    「まあ、そんなところで飲むなんて、はしたないですわよ?」
     アリスの言葉に凰呀は思わず苦笑した。
     温泉を楽しんだ謡(d02208)と砂那(d01757)もまた、散歩を兼ねた探索に向かっていた。
    「それにしても……驚いたな」
    「ああ、外した様はあまり人には見せないからね」
     普段はさらしで体型を抑えている謡。温泉で抑えていない姿を見せて砂那を驚かせていた。
    「わわっ!」
     と、岩場を飛んだ際に砂那は見事に転んだ。

     一方、こちらは地元人が多く訪れる混浴風呂。【想ひ出玩具箱】の三人は水着着用。
    「箱根の源泉について、何か知らない?」
     紗椰(d02881)が早速聞き込みを開始。
    「学校のクラブで来てて、箱根温泉のレポートを書きたいんですよー」
     と、遊(d00822)もばっちりフォロー。
    「えっと、源泉の近くが妙に温かいとか、お花咲くの早いとか、なんかそんなことあるかな?」
     桜子(d01901)も頑張っている様子。しっかりと情報を得た三人が手にするものは。
    「風呂上がりはコレっしょ! 珈琲牛乳!」
    「私はいちご牛乳……って、あれ? 七瀬さん?」
     ごくごくぷはーっと、腰に手を当て遊が飲んでいるのは、フルーツ牛乳だった。

     温度計で源泉の温度を測るのは切丸(d14173)。
    「どうやら、ここははずれのようだ。少々温度が低い」
    「それは残念だ」
     銀嶺(d14175)も残念そうに声をかける。
    「仕方ない、ここいらで弁当にでもするか。見晴らしもいいからな」
    「ほう……これだけの物が作れるとは、すごいものだな」
     切丸が取り出した弁当は見事なものであった。しかも全て切丸が作ったもの。銀嶺が感嘆の声を上げるのも無理もない。食べ終わった後に銀嶺は持ってきたおやつも取り出す。
     その後、お腹一杯になった二人は仲良く下山した。

     こちらは【夕鳥部】の面々。
    「現地の人の話によると、ここら辺だと思うんだけど……」
     空(d09729)は、聞き込み情報を元に源泉に来た。
    「出来れば女子だけで来たかったけど。まあ、先に調査ね。ああもう、眼鏡が曇る」
     本音が漏れているが、とにかく影薙(d13199)は曇った眼鏡を拭くのに忙しそう。
    「ぱっと見、問題なさそうですが……」
     ティエ(d15312)が源泉を見るものの、異変はない様子。
    「ここはそんなに熱くないみたいです」
     土を掘り起こし、その温度を手で確認するのは結衣(d01687)。
    「真っ先にわかる異変として、まずは温泉に入ってみないとですっ」
     結実(d00647)の提案によって、結局、彼らは温泉に入ることになる。温泉は2箇所あったので、男女に分かれて。が、しかし……。
    「調査言うんやから、ちゃんと調べんと! せやから、この女湯言うところも調査対象や!」
     と、右九兵衛(d02632)は男性陣を誘うものの。
    「美味しいものは何があるか……とても楽しみだ、じゅる」
     デルタ(d04735)は、この後に行く土産物の食べ物に思いを馳せてそれ所じゃない。ついでに言うと、他の男性陣も興味なし。
    「行くで野郎共……って、俺一人か?」
     それでも右九兵衛は、一人で飛び込んで見ると……。
    「残念、水着でしたー」
     ぱう(d06069)がにっこり微笑んで出迎える。
    「女湯を覗くなんていけませんっ! って、部長!?」
     お湯をぶっ掛けながら注意するのは、沙月(d03124)。その後、右九兵衛は皆にしっかりとお仕置きされた。

     犬変身した渡里(d02814)と晶(d02884)は、人の姿では入りづらい場所を駆け回っていた。それぞれの首にはお弁当と服の入った風呂敷も。と、見晴らしの良い場所を見つけ、お弁当を広げた。
    「やってみたかったことができて、とても楽しかったです」
     そう言いながら晶は、作ってもらったお弁当を口に運ぶ。
    「こういうときでないとやれないからな」
     にっと笑って渡里もお弁当を食べる。
    「ところで……あれは何でしょう?」
    「ん? ……もしかして」
     二人は弁当を食べた後、すぐさま山を降りて、皆に知らせたのだった。

    ●一緒に温泉しましょ
    「あれ? うん? ……せーいー」
    「貴明さん、どうした? ……浴衣の帯が結べないのだな」
     温泉を楽しんだ貴明(d10681)と誠士郎(d00236)。浴衣を着るのにもたつく貴明に誠士郎が手を貸す。
    「さて、準備も完了だ。……行こうか、貴明さん」
    「ええ、ちょっと行ってみましょうか」
     にこりと微笑み、貴明は誠士郎の手を握った。

    「あ、この団子さっぱりしてておいしい……!」
     団子に眼がない楽多(d03773)は、美味しい団子屋を見つけ、晶子(d00352)と共に串団子をいくつか買って持ち歩き始める。
    「ふふ。うん、おいしいですねー」
     晶子も買った団子を口に含んでその味を堪能していると。
    「はい、晶子さん、あーん」
    「わ、えっと……あ、あーん……」
     最終的には互いに団子を食べ合い、顔を火照らせ微笑んでいた。
    「さて、源泉の調査に……」
     蝶胡蘭(d00151)が地図を片手に出かけようとするのを綾(d13622)が止めた。
    「フッ、しかしこの限りある青春の中でこうして親友と温泉を楽しむ機会が後何回あると思いますか? 温泉に入るのはいつか? 今でしょ!!」
    「調査が終わってからな!」
     綾の言葉をあっという間に一蹴する蝶胡蘭。
     結局、源泉にたどり着けなかった蝶胡蘭は、その後、綾と温泉旅行を満喫することになったのだった。
     和菓子屋で温泉饅頭を頂いた秀憲(d05749)と有貞(d06554)は、近くの土産屋を覗いていく。
    「まっちゃんは、このキーホルダーな。金メッキでめっちゃ重い奴」
    「うわっなんか懐かしい感じのするキーホルダーやな……って、いらんわ!」
     まるで漫才のようだ。
    「ななお、欲しいんやったら買うたってもええぞ。……あ、この入浴剤よくね?」
     良い事言ったような気がする秀憲だったが、有貞の耳に届いているか。ともかく、二人はこんな調子で土産屋を回っていた。

     こちらは温泉。しかも今時珍しい混浴風呂。
     國鷹(d11961)は、エクセル(d11124)流されるまま、混浴風呂に入っていた。流石に水着着用の上で、だが。今はエクセルに背中を流されている。
    「気がつけば、俺も高3。将来ってどうなるんだろうな」
    「……将来か」
     背中を流してもらいながら、國鷹は思う。
    (「こうやってあなたと触れ合っていると、別の未来を望んでもいいのかもしれないと思えてくる」)
     時仁(d12560)と伽夜(d12562)も水着を着て、二人でまったりと温泉を堪能している。
    「ふはー、気持ち良いですねぇ」
    「ほんま、気持ちえぇわぁ」
     と、思い出したように時仁が慣れた手つきで、手だけで水鉄砲を発射。
    「それ、どうやるん? どうやってやるん??」
     水鉄砲を見た伽夜は、瞳を輝かせて、時仁にやり方をせがんだ。

     別の温泉では、美凪(d00136)と美波(d03365)が仲良く温泉で、桶に入った舟盛りの刺身を食べ合いっこしている。
    「桜もいいけど……美凪の方が綺麗よ」
    「何言ってるの? 波もとっても綺麗よ」
     二人は微笑みあい、桶に入ったサイダーを手に取り、同時に口を付けた。
     その横で背中を流し合う二人がいる。
    「アリスお嬢様、やはり温泉は宜しゅうございますわね♪ ささ、お背中をお流し致しますわ……♪」
    「え、あの……ミルフィ? ……その、恥ずかしいです……」
     ミルフィ(d03802)の言葉にアリス(d03765)は驚きながらも恥ずかしそうに背中を預けていた。そして、こちらも……。
    「ほら茉莉、前も洗ってあげるわ」
    「ひゃっ……百花さん、くすぐったいですっ……」
     百花(d05605)に洗われて、茉莉(d02219)は顔を火照らせ、身悶えている。

     こちらは家族風呂。最初に借りたのは、星流(d03734)と火華流(d03827)の兄妹。
    「まったく、髪ぐらい自分で洗えるだろ……」
    「だって、お兄ちゃん、髪洗うのうまいんだもん♪」
     星流の言葉に火華流は嬉しそうに答えて。
     その後、家族風呂に入ってきたのは、丞(d03660)と朱美(d03640)の兄妹。
    「うわー、やっぱり温泉ってすごいねっ」
     はしゃぐ朱美に丞が声をかける。
    「あんまりはしゃぐなよ……って、風呂場で走るな! こけるぞ!」
     ぱたぱた走る朱美を捕まえて、湯船に入れた。

    「よし、卓球もクラブ活動のうちだ~! いっくぞ~!」
    「う、うん。がんばるよっ」
     こちらは【編み物研究部】の面々。織兎(d02057)とオリキア(d12809)がやっているのは卓球なのだが。
    「これが……ピンポン!!」
     興奮気味に言うオリキアの言う通り、ピンポンに。
    「どなたか卓球で勝負しませんか! 中学に行ったら卓球部を見学しようかと思ってました!」
     と熱意を持ってやってきたのは、なゆた(d14249)。
    「その心意気、あたしが買ったっ!!」
     ばしっといつの間にかラケット片手にポーズを決めるのは、小夏(d16456)。
     ピンポンやってる横で繰り広げられる、熱き卓球!
    「よし、フェニックスドライブっ!!」
    「ふ、ふえええ!!」
     最後は小夏のショットで、勝負が決まった。

    ●炎獣の隠れ家
    「ダークネスにも温泉好きっているのでしょうかねぇ?」
    「さあ……俺にはよくわからないっす。ところで、こっちは何もないみたいっすね」
     流希(d10975)に蓮司(d02213)が答える。
     渡里と晶が大きな獣の影を見かけた人里離れた場所。その情報を受け、一人で調査を予定した者達が合同で調査中だ。
    「お待たせしましたです! ロープウェイから見てきましたが、それらしきものは見つからなかったでございます」
    「となると、こちら一帯は無しと考えていいだろう。そうなると……」
     フィズィ(d02661)の報告を受け、威司(d08891)が地図に×印を加える。
    「経路と退路を考えると、この辺りが怪しいですね」
     一緒に地図を見ていた絶奈(d03009)が示す場所。恐らくそこが怪しい。彼らは顔を見合わせ頷くと、目的の場所へと急ぐのであった。

    「ちょっと見てくれないか」
     温泉の水温を計っていた勇騎(d05694)が声を上げる。亨(d03496)は、勇騎の示す場所を見て、思わず声を上げた。
    「何だ、これは……」
     大きな獣の足跡。それも一つだけでなく、大量に。二人は顔を見合わせ、ごくりと息を飲み込んだ。すぐさま灼滅者達に連絡を取り、足跡を追っていく。

    「イフリートがおるんやったら、はぐれ眷属やったり、逃げてきはったりするやろか」
     そんな采(d00110)の呟きに、霊犬は首を傾げ見上げている。と、足跡を追っていた霊犬の両耳がぴんと立った。
    「なんや。どうしたん?」
     霊犬を追って采は進み……木々の間から眼下を見下ろして、そして硬直した。

     采が発見したのは、地面を掘り抜く形で地下へと続く洞窟だった。おそらくは高熱で掘り抜かれたのであろうその洞窟を、集合した灼滅者達は奥へと進んでいく。
     やがて熱気は高まり、サウナのように熱くなっていく。
     その先で灼滅者達が見るのは、全身に炎を纏う巨大な獣達。
     まぎれもないダークネス、イフリートの群れの姿だった。ここから見えるだけでも十頭や二十頭では利かない。ファイアブラッド達が宿敵の姿に緊張を高めるが、それもわずかな時間に過ぎなかった。
    「……平和だな」
     洞窟の中、煮えたぎる温泉に浸かるイフリート達は、状況こそ異様ながら、思い思いにくつろいでいるように見えた。黒々とした岩場は、各々のイフリート達の過ごしやすいように作り変えられているようだ。
    「こんなにたくさんいるとは……な。いや、ちょっと和むが」
     直哉(d06712)が率いる【文月探偵倶楽部】は、その様子に圧倒されつつも軽口を叩く。
    「これだけ炎獣が居れば、温泉の温度も高くなる……ということですわね」
     桐香(d06788)も思わず苦笑を浮かべる。幸いなことに、直哉らを見てもイフリート達は攻撃を仕掛けてはこなかった。こちらの出方をうかがっているのだろう。
     灼滅者達が察知できている以上、能力で上回るダークネスにも気付かれていると判断するのが妥当なところだ。

     今回は発見できたことでよしとする者達が洞窟を引き返していく。しかし、危険を承知で接触を試みんとする者達は、さらに洞窟を奥へと踏み入って行った。
     煮え立つ岩を踏みしめて、崇(d04362)が温泉饅頭を渡しつつイフリートに声を掛ける。
    「は、はじめまして、ぽんぽこ」
    「こちらもどうぞ♪ 美味しいよ! 食べ物はいつでも友好の印だよ!」
     ミカエラ(d03125)も友好的に温泉卵を渡す。
     2人をはじめ、食べ物を差し出す灼滅者達に、イフリート達は顔を見合わせると低く唸る。あるいは、ネギを背負ってやって来たカモをどう分けるのか相談しているのかも知れないが。
     と、灼滅者達とイフリート達の間を遮るように、飛び込んで来る者がいた。
     少女の姿をしたイフリートだ。
     彼女はハルバードを突きつけると、灼滅者達に問いただして来る。
    「ナンノヨウダ、スレイヤー! タタカウナラ『アカハガネ』ガアイテニナルゾ!」
     少女姿のイフリートは『アカハガネ』というらしい。そう思いつつも、周囲のイフリート達の殺気が一瞬高まるのを灼滅者達は感じる。が、毬衣(d02897)は空気を読まずに親しみを顔に浮かべて言った。
    「久しぶりだね。あなたのお名前聞きに来たんだけど、『アカハガネ』っていうの?」
    「ハ?」
     その言葉に、イフリートの少女は首をかしげて見せた。

     毬衣の言葉に一瞬気が逸れたのを機に、水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)は両手を挙げてみせる。
    「私達は、話に来ただけです。戦うつもりはありません」
    「ハナシ?」
    「そうです」
     これだけの数のイフリートだ。もし一斉に動き出せば灼滅者達をたやすく殺し尽くせるだろう。
    「一度、君と話してみたかったんだ」
    「はい、これプレゼント」
     ウツロギ(d01207)といろは(d03805)は食べ物を取り出した。渡されたフルーツ牛乳が瓶の中で沸騰する様子をしげしげと眺めるアカハガネに、ウツロギが問う。
    「これから、君達はどうするつもりなんだ?」
    「イマハ『クロキバ』ノセワニナッテル。『クロキバ』シダイダ」
     あまり表情を変えずにアカハガネは答えた。
     箱根のイフリートの群れの主導権を握っているのは、以前にも情報のあった『クロキバ』というイフリートらしかった。
     アカハガネとて鶴見岳に眠るガイオウガを目覚めさせるという望みを完全に捨ててはいないのだろうが、それが現状不可能だという判断を下しているのだろう。

     【琥珀館】の3人も、別のイフリート達に話しかける。
    「お初になる。異叢流人と言う。……貴方と話をしたいと思い此処に来た」
     流人(d13451)の言葉にイフリート達は唸り声を上げる。
    「もったいないけど、食べていいのだわよ……」
     知子(d04345)が差し出した黒たまごで相手の警戒を解したのを見て、早速、かなめ(d02441)が尋ねる。
    「ここで、あなたたちは、きずのちりょうを、していたんですか?」
     なるべく簡単な言葉で聞き取りやすく話しかける。
    「ソウダ。ソレトカクレテイタ」
    「隠れて、いた?」
     箱根のイフリートは、鶴見岳から来た者達からの情報を受け、他のダークネス勢力や灼滅者といった敵の存在を警戒しているのだろうと3人は判断する。だが、鶴見岳の残存勢力と箱根に元々いたイフリート達が集合した数はどれだけのものになっているのか。
    「うかつに手出しをすれば、火傷するのはこちらかも知れないな」
     流人は小さく呟いた。

    「ところで、『クロキバ』さんって、ここにいるのか?」
     群れのリーダーの所在を尋ねる慧樹(d04132)に、アカハガネは首を横に振った。
    「ココニハイナイ。『クロキバ』ハイソガシイ」
     すげなく答えるアカハガネに、嘘ではなさそうだと慧樹は判断。アカハガネは無論言っていないが、イフリート達の隠れ家は他にもあるのだろうと察することはできた。
    「ミツカッタカクレガ、ツブス。タチサレ、ツギハコロス、スレイヤー」
     これ以上は慣れ合う気は無いとでもいうように、アカハガネが命じて来る。
     積み上げられた土産物に手を出そうとする別のイフリートをハルバードで追い払う彼女を見つつ、首尾よく1体のイフリートの毛皮でモフモフしていた美海(d15441)が言う。
    「……これ以上は危険そう」
     相手はイフリート、『クロキバ』の統率がどこまで強固なものかは分からないが、襲わないでいてくれるうちに退散した方が良い。
     今回、たまたま鶴見岳からの新参者たちのために掘った場所が源泉の一つに影響を与える位置だったのが源泉の温度上昇の原因らしいが、それもイフリート達がこの場所を去れば元に戻ると思われた。
     そう判断した灼滅者達は、速やかに洞窟を後にする。
     彼らが洞窟を出る途中、奥の方で崩落の音が響いた。恐らくは言っていた通り、力技で隠れ家の痕跡を消そうというのだろう。

     互いが穏便な結果を望んだこともあり、灼滅者達は無事の生還を果たしたのだった。

    ●温泉といえば……コレだ!!
     一方、【武蔵坂軽音部】はは秘湯を見つけてホックホクだった。
    「引湯なんかで温泉に行って来ましたと言えるか! 男なら秘湯! んで我慢風呂だぁ!」
     熱く語る葉(d02409)に錠(d01615)が一言。
    「熱い語り、ウゼェ……」
     そんな様子を頭にタオルを巻いた貫(d01100)が生暖かい視線を送る。
    「ジョーとニノマエは、本当に仲がいいなぁ」
    「いいか、三角。湯に浸かったらゆっくり100数えるまで出ちゃダメだぞ」
    「ああ……」
     葉の言葉に啓(d03584)は頷きつつ。
    「にしても、我慢大会というよりむしろ、別のものが解放されている気がするんだが」
     足湯をしていた結理(d00949)を盾にし、貫は自分の頭のタオルを狙う錠を威嚇していたが。
    「葉さんミカド君、平気? 飲み物いる?」
     異変に気づいた結理が、逆上せた葉と啓を救ったのだった。

     一方、こちらの温泉では【ロストリンク邸】の面々が揃っていた。
    「ちょっ、にゃ、にゃんでドットハックさんに月詠さんが!? って、え、えーみぃしゃんまでぇっ!?」
     巧(d02823)が驚きを隠せないのは、知らなかった故。
    「似合うかなー?」
     水着姿のエーミィ(d03153)に、巧は顔を真っ赤にしてあわあわ。
    「ふむ。良い湯だ」
     バスタオルを巻いてるだけのライラ(d04068)も温泉にご満悦。
    「ホントに粒揃いが集まったね! まあ、ボクも胸の大きさだけは負けてないと思うけどね♪ あっ!」
     ほろりと千尋(d04249)のタオルが解けて。
     その頃、ある二人がその温泉に接近中であった。
    「ぐふふふ……。この俺様の見事なカモフラージュ、誰にも見破れまい!!」
     岩に似た色の壁紙で接近中の誠(d12673)と。
    「ブっふぉーッ!!」
     岩陰に隠れつつ、覗いていた京間(d12881)。ちなみに、千尋のタオルが解けた下はちょっと過激な水着。
    「うほっ! あのセクシーな後姿は!!」
     誠の傍に近づく人影は。
    「冒険心が旺盛なのは結構だが、ここで発揮するのは蛮勇というものだ」
     湯浴み用の浴衣を着た久遠(d12214)。
     誠と京間は、がっつりお仕置きされたのだった。

     まったりと甘味を片手に足湯を堪能するのは【アスナロ】の面々。
    「名物の黒たまご買って来ました。……ん? 中身は白いんですね」
     唯人(d11540)の黒たまごを皆で配って、さっそく口にした。
    「もぐもぐ……ほっくりしておりますねぇ。延命長寿のご利益があるのでしたっけ?」
     初めて食べるたまごにご満悦な柳(d01627)の言葉に茉莉(d03778)は。
    「え、寿命延びちゃうの? すごい! こんなにおいしいのに!」
     と大興奮。その後、足湯と甘味を堪能した三人は、おみやげ選びに出かけるのであった。

     【フラッパーサテライト】の面々しか居ない貸切露天風呂。
     ざっぱーんと、へる(d02923)は見事な空中大回転を披露。
    「おーアリス、ナイス水着! 将来有望過ぎてサングラスが欲しくなるぜ。アッハッハッハ!」
     不志彦(d14524)は豪快に笑いつつ温泉で寛いでいる。
    「うん。これでゆっくり体が休まるね、やった♪」
    「あー、いいお湯だねー。とりあえず、温泉たまご食べてから考えよっか」
     殊亜(d01358)も、出来立て卵を仲間に配り美味しく頂いた。

     その後、水着で入る混浴風呂に来た【Charlotte】の面々。
    「やっぱり、日頃の疲れを取るには温泉だよね~」
     買ってきた温泉饅頭を食べつつ温泉を堪能する皇(d06132)。
    「はぁ、気持ちいい……まるで天にも昇るような気分……」
     その隣で才蔵(d15909)が頭にタオルを乗せ、幸せそうだ。
    「わあ、ぽかぽかして良い気持ち……」
    「……あったかい。普通のお風呂とは違うんですね」
     初めての温泉にシェリー(d02452)と煉(d04035)が感嘆の声を上げていた。
    「アー温泉たまんないわね」
     眼鏡を外してだらっとしていた草灯(d00483)も堪らず呟く。
    「本当、疲れが取れる感じがするね。泉質だっけ? そういうのの効果なのかな?」
     凪月(d00566)が泉質の書かれた看板を見ると、ぴしゃりと後ろからお湯が掛けられた。草灯だ。ついでに煉にも水鉄砲をかけて。
    「……沈めるぞこら」
     と睨まれ、皆を巻き込んだ水鉄砲戦争に。そんな中、楽しそうに温泉を楽しむのが一人。
    「あひるさん、温泉。温泉、だよ」
     アスル(d14841)は、あひるの玩具で楽しく遊んでいた。

     一方その頃、【あやかし】メンバーは。
    「では行こうか、桃源郷へ!!」
    「おうっ!!」
     黒(d10402)とギルアート(d12102)は女湯を覗く為に出発。
    「勝手に逝って来い」
     残念ながら八千夜(d12882)は遠くで彼らを見守るようだ。
     意気揚々と出かけた二人だが。
     憐れギルアートは、そのまま黒に女湯へと投げ込まれた。
    「あーあ、まァた阿呆やってら……」
     それを見ていた八千夜は、そっとギルアートの無事を祈るのであった。

     こちらは【探求部】の面々。
    「入浴するだけが温泉の楽しみ方じゃねぇ!」
     銀都(d03248)が取り出したのは、卵と紐の付いた籠。
    「うんうん、熱い温泉を使った温泉卵も外せないよね!」
     同行していた結衣奈(d01289)も張り切っている。
    「こんな風に作るんだね~!」
     希紗(d02012)は、銀都の作ってる様子に釘付けだ。そして、10分後。美味しくできた温泉卵に三人は幸せそうに微笑んだ。

    「温泉って、まさか、混浴っ!?」
     【星空芸能館】らがやってきたのは、水着着用の混浴風呂であった。と、気づいたファルケ(d03954)は。
    「となると、このクラブで参加する野郎、俺だけじゃないか……」
     いや、本当はもう一人いるのだが……ファルケは一人、風呂の見えない岩場で歌の練習を始めた。
    「はあ~、気持ちいいなぁ……♪ 実家の長野県にいた頃はよく近所の温泉へ行ったんですよ」
     もう一人の男の子、瑞央(d12996)。見た目が女の子なので、女性陣と溶け込んでいる。一緒に温泉に入れて凄く嬉しそうだ。
    「瑞央ちゃんの実家の方は温泉があるんですね。羨ましい……♪」
     羨ましそうにえりな(d02158)がそう言って。
    「皆、お風呂、好きですか? 私、大好き♪」
    「うちも温泉大好きや! あーそれはそうと、箱根いうたら黒玉子! ちょっと食べてみたいと思わへん?」
     そう提案するのは、智恵理(d02813)。
    「黒玉子? 私も食べてみたいです」
     紗里亜(d02051)も話に加わる。そんな紗里亜を見つめるのは、くるみ(d02009)。
    「えと、くるみさん? 恥ずかしいから、あまり見ないで下さいね……」
    「ボクだって数年後には……たぶん……」
     湯船に沈む紗里亜とちょっと劣等感を感じるくるみ。
     そんな様子で彼らは、楽しく温泉を満喫した。

     ここは【純潔のフィラルジア】が集まる男風呂。
    「温泉温泉とはしゃぐのはいいが、気を抜きすぎるなよ。住矢が言ってた様にイフリートが近くに居る可能性があるんだ。だから男風呂は皆に任せる。俺達は女風呂の周辺の探索に行く」
     真面目なことを言っているように聞こえるが、よく聞いて欲しい。恭太朗(d13442)は、女風呂周辺の見回りと称して……覗こうとしている。
    「流石俺の尊敬する先輩方だ。異変を案じて、いち早く調査に乗り出すなんて」
     お湯に浸かって温度上昇の総計を取る振りしつつ、先輩方をちらちら気にするみをき(d00125)。
     恭太朗の前に自信満々にやってきたのは、清純(d01135)。
    「今回は来るべき日のために、プラチナチケット付きの防具を……って、アッー! 今俺全裸あああ!!」
    「この壁の向こうには……男の夢がある!!」
     秋夜(d04609)はとうとう、女湯への壁を登り始めた。
     傍観を決めていた一都(d01565)も。
    「そういや、女子の浴場のほうは大丈夫なのでしょうか。確認したほうが良さそうですね」
     とダブルジャンプで壁を乗り越えようとする。
    「て、わー!? やめて東海センパイ! この壁の向こうは行っちゃダメエエ!!」
     止めようと壱(d00909)の伸ばした手が、一都の大事な所を覆う神聖な白き布地を掴んで脱げた。
    「あー極楽極楽! ……ちょっ!? 壁がこっちに傾いてきてるっすよ!?」
     狭霧(d00576)が迫り来る壁に気づき叫ぶ。
     結局、また彼らは、桃源郷へ至ることは出来ず。逆に地獄を見たのだった。

     さて、別の温泉では、【武刃蔵】の面々が暖かい湯を楽しんでいた。
    「友衛姉様……それがしといっしょに入ろ!」
     断(d03902)がはしゃぎながら、友衛(d03990)の手を引く。
    「ああ。だが、あまりはしゃぐと危ないぞ」
     友衛は微笑み、断と湯に入る。
    「しかし、箱根の湯は名湯だけあって、実に心地良い」
     身を委ねる様に刃兵衛(d04445)も。
    「ええ、こんなに気持ち良いと……出たくなくなりますね……」
     鞠藻(d00055)の言葉に刃兵衛は笑い同意した。
     長閑な女湯。だが、男湯は。
     タオルで巻いてきた白夜(d02425)の様子に彼の正体を知らない男達が気にして見る。その視線に白夜がうんざりしていると。
    「って、おいこら! タオルを巻いて入るのは旅番組以外では禁止行為だぞ! 男なら堂々と入りやがれ!」
     白蓮(d12848)がタオルを剥ぎ取った。そこにあるのは、明らかに男だという証。
    「……俺は男だ!」
     お陰で変な視線は収まった。
     そんな中動き出す男達が二人。
    「源泉の温度が上がってるのは乙女が恋してる証拠だぜ。そう、あのイフリートの少女がイケメンな俺が来るのを待っているという事だ。俺と一緒に逝きたい奴はついてこい!」
     笑顔でサムズアップする羅生丸(d05045)の声に応えるのは。
    「治先でも灼滅者としての使命を忘れねえその姿勢、さすがでさァ! 例え火の中水の中……女湯の中! お供致しやすぜ!」
     いつになく真剣な眼差しの娑婆蔵(d10859)。
    「……やはりゆっくりと湯を楽しませてはくれないか」
     その二人の前に立ちはだかるのは、光明(d07159)。
     羅生丸と娑婆蔵は、思わぬ伏兵のお陰で、女湯にたどり着けず。後で騒動を聞いた断らに睨まれた。

     こちらは秘湯巡りしていた【繰爛堂】。
     昴(d09361)は地図に丸をつけて言った。
    「これで5つめっと」
     途中までは調査だったが、他の仲間が当たりを見つけたとの報告を受けて、今は純粋に秘湯を楽しんでいた。もちろん、彼らの情報も有効に役立てられた上で。
    「ほら、ここは狭いんだから、二人とももっとくっついたらどうだ?」
     昴の言葉に不律(d12235)とジャック(d00663)は顔を見合わせ、照れたように寄り添う。
    「こういうのも良いものだな。また一緒に行きたいと思えてくる。野和泉はどうだ?」
    「そうね。また皆と一緒に行きたいわ」
     二人は良い雰囲気になってるようだ。昴はその様子を見て、嬉しそうに微笑んだ。

     こうして温泉に集った灼滅者達は、それぞれに旅行の思い出を作ったのだった。

    作者:相原きさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月15日
    難度:簡単
    参加:150人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 43/キャラが大事にされていた 22
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