桜の木の下には……

     早乙女・仁紅丸(炎の緋卍・d06095)は、こんな噂を耳にした。
     『桜の木の下に埋まっていた死体が人を食っている』と……。
     エクスブレインの話では、問題の死体は都市伝説であるらしく、夜な夜な桜の木の周辺を彷徨い、近づく者に襲い掛かっているようだ。
     実際には本物の死体ではなく、都市伝説が扮しているだけだが、一般人にそれを知る術はない。
     そのため、被害者達は都市伝説を本物の死体だと思い込み、恐怖と絶望の中で息絶えてしまう。
     しかも、死体は都市伝説が美味しく戴くため、被害者の大半が行方不明。
     中には、消息を絶った父を捜して、公園を彷徨う少女などもいるため、このまま放っておけば、被害者が増えるのは必至。
     都市伝説は鋭い牙で爪で攻撃を仕掛けてくる上、鋭い爪で引っ掻かれると、体がマヒしてしまうので要注意。


    参加者
    小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)
    早乙女・仁紅丸(炎の緋卍・d06095)
    十束・御魂(天下七剣・d07693)
    日野・唯人(プロミネンス・d11540)
    異叢・流人(寂滅の福音を齎す異端の白烏・d13451)
    斎場・不志彦(燻り狂う太陽・d14524)
    白蜘蛛・命(幻精界の姫君・d14776)
    リア・ブラントミュラー(はくいのあくま・d15294)

    ■リプレイ

    ●桜の木
    「ふむ、アンデッドみたいな都市伝説と来たか。これ以上被害者が出る前に、早急に対処するとしよう」
     異叢・流人(寂滅の福音を齎す異端の白烏・d13451)は真夜中になるのを待ってから、仲間達を連れて都市伝説が確認された通りに向かっていた。
     都市伝説が確認された通りは川沿いにあり、花見シーズンになると見物客で溢れ返り、毎年のように場所取りでトラブルが起こっていたようだ。
     そのため、いつの頃か『これだけトラブルが絶えないのだから、一人ぐらい死んでいてもおかしくない』という話になり、桜の木の下には死体が埋まっているという話になったようである。
    「やっぱり地面から沸いてくるんですかね?」
     ランプで足元を照らしながら、日野・唯人(プロミネンス・d11540)が桜の木の様子を確認する。
     どこかに都市伝説が潜んでいる事は間違いないが、警戒しているせいかどれも怪しく、多少デコボコしているだけで『ここに潜んでいるのでは……?』という気持ちになった。
    「でも、桜の木の下に、何で死体があるんだろう……?」
     不思議そうに首を傾げながら、白蜘蛛・命(幻精界の姫君・d14776)が疑問を口にした。
    「そう言えば、昔はこの辺りは水害が多く、橋がよく流されていたため、人柱を立てていたようですね。そう言った人達を供養するために桜が植えられたようですが……。この回の一件はそれと関係があるのでしょうか?」
     この辺りで噂されていた話を思い出し、小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)が桜の木を撫でる。
     人柱になった人達の家族には莫大な金が転がり込んできたという話だが、必ずしも本人が望んでいたとも限らないため、そう言った者達の怨念が形となって、人々を襲っているという噂が実しやかに流れていた。
     もちろん、都市伝説はそう言った噂を糧として具現化するため、全く関係がないとも言えないが……。
    「それに昔から言うでしょ。桜の下には死体が眠っているって。一体、誰が言った言葉だったかしら」
     そんな事を呟きながら、リア・ブラントミュラー(はくいのあくま・d15294)が桜の木を眺めた。
     他の場所は既に桜が散ってしまっているが、この辺りの桜はまだ生き生きとしている。
     それが都市伝説の力によるものなのか分からないが、何となく違和感を覚える光景であった。
    「元は短編小説の一文だったと思いますが、確かに夜桜には妖しい魅力があるように思えます。ともあれ、その美しさを利用するような真似は許せませんね。桜の美しさは、死者の血を吸っているからだという話を聞いた事がありますし、夜桜なら特に、その妖しさを伴った魅力は思わず納得してしまう程です。だからと言って本当に死者が埋まっている、などとは考えた事は少ししかありませんが……」
     険しい表情を浮かべながら、十束・御魂(天下七剣・d07693)が答えを返す。
     念のため、過去の新聞記事を調べたところ、この辺りで行方不明事件や、傷害事件なども起こっていたが、都市伝説が確認された頃から、増加の一途を辿っているように見えた。
    「いや、『桜の木の下には死体がある』の元ネタは短歌だ。『願わくは花の下にて春死なむ その如月の望月のころ』。――作、西行法師ってな。……とは言え、行方不明扱いって保険が降りるまで何年もかかる。残された家族は地獄だぜ。本当に花の下で眠らせてやるには、ちと足りん程に気に食わんね。こいつぁ」
     桜の花を眺めながら、斎場・不志彦(燻り狂う太陽・d14524)が口を開く。
     おそらく、行方不明になった人達は誰にも見つかる事なく、桜の木の下に埋まっているのだろう。
     助けを求めたくても、声を出す事が出来ず、手を伸ばす事も出来ぬまま。
     混濁した意識の中で最後に思うのは、大切な人の事。
     そう考えると、被害者達の無念さが痛いほど伝わってきた。
    「この噂をみんながちょっと趣味の悪いジョークだと思ってくれたら良いんだけどね」
     桜の木の下に座り込んでいる人影に気づき、早乙女・仁紅丸(炎の緋卍・d06095)が息を飲む。
     ここからでは、それが人なのか、それとも都市伝説なのかよくわからないが、どちらにしても気を抜く事が出来なかった。

    ●桜並木
    「とりあえず、人……よね」
     桜の木の下に座り込んでいる人影に気付いたリアは、警戒した様子でカンテラの明かりを照らす。
     どうやら、人影の正体はサラリーマンであるようだが、顔を俯かせたまま決して動こうとしない。
    「これって、あからさまに罠ですよね」
     目の前にサラリーマンに視線を送り、唯人がゴクリと唾を飲み込んだ。
     パターンとしては、近づいた途端にグワーッと唸り声をあげて襲い掛かってくるのがオチである。
    「夜桜、綺麗なんですけどね……ゆっくり見れそうにないのが残念です」
     少し残念そうにしながら桜を眺めた後、御魂が懐中電灯でサラリーマンの顔を照らす。
    「うわっ! 眩しい!」
     その途端、サラリーマンが驚いた様子で悲鳴をあげる。
    「こんなところで眠っていたら風邪を引きますよ」
     そう言って優雨がサラリーマンの手を掴んだ瞬間……、異変に気付いた。
    「……面倒な事になったな」
     すぐさま殺界形成を発動させ、流人がサラリーマンの足元を睨む。
     サラリーマンの左足を掴むようにして、都市伝説の右手が土の中から伸びている。
    「う、うわあ!?」
     それに気づいたサラリーマンが慌ててその場から離れようとしたが、都市伝説が左足をガッチリと掴んでいるため、その場から動く事が出来なかった。
    「噂から生まれた存在が、ここまで力を持つなんて……。悲劇を起こさないためにも早く倒さないと……」
     自分自身に言い聞かせるようにして、仁紅丸がスレイヤーカードを解除した。
    「な、なあ、おい! 助けてくれるんだよな」
     サラリーマンが悲鳴を上げる。
    「まあ、左足は諦めろ」
     不志彦がキッパリと答えた。
     現実的に考えれば、それが一番手早いのだが、それを聞いたサラリーマンは『それはダメ。一生、恨む!』と騒ぎ立て、土の中に引きずり込まれていっている。
    「そんな事を言っていると、下半身まで諦める事になるよ」
     半ば呆れた様子で、命が深い溜息をもらす。
     だからと言って放ってはおけない。このままだと見殺しである。
     命は意を決した様子で『IYA! 爆ぜる風統べし者……その力を、ここに現せ!!』と叫び、スレイヤーカードを解除した。

    ●都市伝説
    「こんなきれいな桜の木だもん…ハスター、悪い噂はふっ飛ばしちゃわないとだよね」
     少しずつ間合いを取りながら、命がマテルアルロッドをクルクル回す。
     その間もサラリーマンは必死になって桜の木にしがみつき、何とか土の中に引きずり込まれまいと頑張っているが、都市伝説の力が半端なく強いため、両手がプルプルと震えていた。
    「生きたいのなら、覚悟を決めろ」
     サラリーマンに視線を送り、流人が警告交じりに呟いた。
    「嫌だ! そう簡単に『わかった』なんて言える訳がねーだろ」
     大粒の涙を浮かべながら、サラリーマンが反論をする。
     ここでほんの少しでも力を抜けば、そのまま体ごと土の中へ。
     それを防ぐためには、左足を掴んでいる都市伝説をどうにかしなければならないのだが、肝心に都市伝説が土の中にいるため、狙う事が出来なかった。
    「そ、それよりも俺を引っ張れ。そうしたら、この化け物だって顔を出すだろ」
     そう言ってサラリーマンが右手を伸ばす。
    「一体、何を考えているの!」
     ハッとした表情を浮かべ、リアがサラリーマンの右手を掴む。
     だが、そこまで。とても引っ張り上げる事など出来なかった。
    「お、おい! 何をやっているんだよ。早く、早く引っ張ってくれ!」
     サラリーマンの悲痛な叫びが辺りに響く。
     しかし、リアにはこの状態を保つだけで、やっと。
    「それじゃ、覚悟はいいな」
     サラリーマンの返事を待つ事なく、不志彦が鬼神変を叩き込む。
    「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あ、足がああああああああ……ある!」
     激しく悲鳴を上げた後、サラリーマンが左足を見つめてハッとなる。
     もしかすると、折れているかもしれないが、左足は何とか無事。
     不志彦が都市伝説の右手だけを狙ったおかげで、何とか最悪の事態だけは防ぐ事が出来たようである。
     そのため、都市伝説が再びサラリーマンの足を掴むべく、唸り声をあげて顔を出してきた。
     それはまるでアンデッドのように見えたが、作り物のような違和感があった。
    「……出ましたね。これ以上誰も犠牲にはしません、お覚悟を」
     都市伝説に語り掛けながら、御魂も鬼神変を放って殴り飛ばす。
     その一撃を食らった都市伝説が身の危険を感じて再び土の中に逃げようとしたが、時既に遅し。
    「逃がさないよっ!」
     すぐさま仁紅丸がガトリング連射し、都市伝説が土の中に逃げる隙を奪う。
     それと同時に都市伝説が威嚇するようにして、麻痺効果のある爪を立てるようにして、仁紅丸達を引っ掻こうとした。
     しかし、下半身が土の中に埋まっているせいで、届かない。
     あと、わずか。指一本ほど届かなかった。
    「終わりにしましょう。何もかも……」
     そう言って優雨が都市伝説の顔面めがけて閃光百裂拳を叩き込む。
     その一撃を食らった都市伝説がブクブクと泡を吐き、土の中に沈むようにして跡形もなく消滅した。
    「機会があればちゃんとお花見もしてみたいですね。昼の桜と夜の桜、両方とも」
     都市伝説が消滅した事を確認した後、御魂が寂しそうに桜の木を眺める。
    「それなら、これから花見をしませんか? もちろん、この人を病院に運んだ後ですが……」
     そう言って唯人がサラリーマンに肩を貸し、その足で病院へと向かうのだった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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