役立たずのフロント・バンパー

    作者:宝来石火

     月明かりに照らされた郊外の廃車置場に、不似合いな影がぽつんと一つ落ちていた。
     影の正体は、一人の女の子だ。くりっとした丸い瞳に明るい栗色の髪を持つその少女は、まだ5、6歳程度であるように見える。
     少女は、廃棄されたダンプカーの前に立っていた。
     錆の浮いた鉄の巨体の、そのタイヤの一つ程度の大きさしかないその少女は、しかし、巨大なダンプを前にして拳を握り、振りかぶった。
     闘気で、空間が、歪む。
    「てぁー!」
     第二次性徴前の子供らしい幼い声とともに振り下ろされた拳を受けて、ダンプは、あっさりとひしゃげた。
     爆音にも似た破裂音が響く。10トンを超える鉄の塊が、少女の拳を受けた一点を中心にヒビ割れ砕け千切れ飛ぶ。
     その様子を見て、少女は満足したように笑みを浮かべた。
    「よぉし! 一番おっきいクルマも、倒したぁ!」
     少女の顔が、離れた高架道路へと向けられる。幾つものヘッドライトが流れ星のように瞬いていた。
    「次は、動いてるのも、倒さないと」
     
    「少女の名前は、霧生・むつら。
     彼女は今、闇に堕ちかけている!」
     灼滅者達を振り返り、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)はそう切り出した。
    「――1年前、彼女は母親を交通事故で亡くした。その原因なんだが……」
     母との買い物の途中、むつらは不注意から車の前に飛び出してしまった。むつらの母は咄嗟に娘を突き飛ばして庇ったが、自身は車に撥ねられ、死んだ。
    「母親は、自分のせいで、死んだ。
     そう感じたむつらが導き出した結論は、こうだ。
    『私が車より強ければ』『私は車より強くなる』」
     それは後悔でも憎悪でもない、ある意味では前向きな、そして的外れな結論。
     事故の翌日から、むつらは廃車を練習相手に毎日拳を振るい続けた。雨の日も風の日も、休むことなく幼い拳を鉄の塊にぶつけ続けた。
     そんなひたむきな思いと努力が、彼女に力を与えてしまったのだ。アンブレイカブルの力を。
    「今はまだ廃車しか壊してねぇから、ジャンク屋の財布以外は誰も傷つけちゃいない。だが、むつらはいよいよ走る車を相手にその力を試そうとしている」
     未だ人間としての意思を保っている彼女だが、人を殺めてしまったその時、完全にダークネスに堕ちることになるだろう。
     そうなる前に彼女を灼滅すること。もし灼滅者としての素質があるのなら、闇堕ちから救うことが、今回のミッションだ。
    「むつらは、廃車置場で一番でかいダンプを試し割りして自信をつけてから、走る車を叩き壊すつもりのようだな」
     普段のむつらにとっては、人間などは眼中にない。だが、意気揚々と実戦に繰り出そうとしている所に待ったを掛ければ、彼女の力の矛先を、走る車よりも更に強い灼滅者達に向けることも可能だろう。
    「むつらを救うチャンスがあるとすれば、それは、お前達の説得にかかっている。少女の心の闇を振り払う、言葉の光を与えてやるんだ」
     彼女は、自分の思いを誰にも打ち明けてはいなかった。故に、その誤りを指摘されることもなかった。
     ――車よりも、何よりも強ければ、嫌な事は、全部倒せる。
     そんな純粋で歪んだ考えを真正面から正されれば、彼女の拳も鈍るだろう。
    「だが、言葉だけで無力化できるとは考えない方がいいぜ。
     一度振り上げた拳はそう易々とは止まらない。戦闘は避けられないだろうな」
     彼女はストリートファイターとバトルオーラのサイキックを身に着けているが、中でも得意の鋼鉄拳を頻繁に使ってくると予測されている。
    「むつらは今、6歳だそうだ。今年から小学生だな」
     彼女が灼滅者として目覚めるようであれば、学園に誘うのもいいだろう、とヤマトは言う。
    「可愛い可愛い後輩候補だ。最高のエンディングを期待しているぜ、灼滅者!」


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    三角・啓(蠍火・d03584)
    皇・なのは(へっぽこ・d03947)
    武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)
    鬼丸・静女(文学少女志望・d05773)
    大矢田・歌織(砲華に歌う狼・d08126)
    風吹・小葉(そよ風レボリューション・d15110)
    七草・輝生(表裏一体マスクボーイ・d15637)

    ■リプレイ

    ●言葉の力
     月明かりに照らされた廃車置場で、霧生・むつらは鉄クズと化したダンプの残骸に背を向けた。
    「次は、動いてるのも、倒さないと」
     クルマよりも強くなる。その『目標』の達成は目の前で。
     沸き立つ想いに駆け出しそうになる体を抑えることは到底できそうもなかったし、そもそも、抑える理由など一つもありはしなかった。
     だから。
    「ねぇ、車より私達のほうが壊れづらいと思うけれど……試してみない?」
     もし、そんな、彼女の思いもよらない言葉を投げ掛ける者が居なかったならば。むつらは息つく間もなく走り出し、数分の内に『目標』を達成してしまっていただろう。
    「……だぁれ?」
     気勢を削がれた不満を隠す気もなく。むつらは、声を掛けてきた女性――大矢田・歌織(砲華に歌う狼・d08126)の方に目を向ける。
     視線の先では、歌織を含め8人の男女と1匹の犬が、むつらのことをじっ、と見つめていた。
     いずれも、世間的には少年少女と呼んで差し支えのないような若者達。だが、6歳のむつらから見れば、ずっと大人の、お兄さんとお姉さんだ。
    「こんな所に一人でいては危ないですよ」
     穏やかな笑みを浮かべ、鬼丸・静女(文学少女志望・d05773)が一歩進み出た。
     膝を折り、正面からむつらと視線を合わせる。
    「こんばんは、私の名前は鬼丸静女です。貴女のお名前も教えて頂けますか?」
     その目は、子供を慈しむだけではない……対等か、それ以上として相手を見る、本当の意味での同じ目線。
    「……こんばんは」
     自然と、むつらは初対面の相手に挨拶を返していた。
    「私は、むつらだよ。きりゅう、むつら」
    「むつらちゃん、ね。あたしは風吹小葉。よろしくね!」
     8人の中で最年少の風吹・小葉(そよ風レボリューション・d15110)が明るく応じる。
     どうやら、この男女は自分を叱りに来たわけではないらしい、と感じて、むつらは少し、ほっとして……そして、そんな自分を、バカだなぁと笑い飛ばしたくなった。
     私はもう、クルマよりも強いのに。なんでヒトを怖がらなくちゃいけないんだろう?
     そう思うと、今度は自分に投げかけられた、最初の言葉が気になった。
    「……ねぇ、メガネのお姉ちゃん。クルマより壊れないって、ホント?
     私、ホントにクルマ、倒せちゃうんだよ?」
     ちらり、とダンプの残骸を見ながら尋ねるむつらの言葉には、少しの嘲りの色も混ざっていた。子供をからかう、大人のつまらない冗談を見破って、得意になっているように。
     しかし、応える歌織の言葉には、一片のおどけもない。
    「えぇ、本当よ。
     ……でも、私達を壊したところで、貴女の想いは浮かばれない」
     そこで一旦言葉を切って、歌織は、むつらの目を真っ直ぐ見つめながら、伝えた。
    「……貴女を助けたお母さんも、貴女にそんな想いをさせたかったわけじゃないのよ。きっとね」
     歌織の口から母親の事を告げられたむつらは、思わず目を剥く。
    「ま、ママのこと――!」
    「そう、知ってるっすよ」
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が、驚くむつらの言葉を続けるように、言った。
    「だから、自分達がむつらさんを止めに来たっす。
     ……その力を走ってる車にぶつけても、むつらさんのような悲しい思いをする人が増えるだけっすよ」
    「ここの廃車であっても、勝手に壊したら困る人がいるんです。
     ましてや走っている車には人が乗っているんですよ」
     目線を揃えたままで、静女はむつらを諭すように語りかける。
    「人、が……」
    「そうだ」
     頷き、武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)は静かに口を開いた。
    「走っている車を破壊すれば、乗っている人も同様に怪我をする。下手をすれば人死にだ。
     そうなれば……一生、後悔する」
     落ち着いた、しかし、噛み締めるようなその言葉。
     一語一語から伝わってくる重い響きは、その辛さを知るが故か。
    「同じような経験をした、先輩が言うんだ……やめておけ」
     年相応とは言いがたい勇也の言葉は、低く、夜に響いた。
    「人、死に……?
     死……って。ママ、みたいに……?」
     灼滅者達の言葉に、初めて気付かされたように。
     むつらは、目を見開いたまま、勇也を見つめ返す。
     勇也はただ小さく、こくん、と頷いて返した。
    「……誰かを守るために使わない力は、とっても危ないんだよ」
     柔らかな声でそう言うと、皇・なのは(へっぽこ・d03947)はむつらの背後にあるダンプカーだったモノに目をやった。
    「純粋で、迷いの無い力だね。でも、その迷わなさを、後で後悔するようなことにしちゃ、駄目だよ。
     ――その力は、そんなことに使うような力じゃないんだよ」
    「そうだよ……だから、車を壊しに行くなんて危ないこと、やめようよ」
     一言一言を、噛んで含めるよう。小葉がゆっくりと、言葉を紡いだ。
     走る車を壊せば、中の人間もタダではすまない。それは当たり前のことだったが、今までそんなことはむつらの考えの外にあった。
     むつらにとって車は母を死に至らしめた凶器であり、強者だった。その車に打ち勝った時の中の人間のことについてなど、一切関心が向かなかったのだ。
    「でも……だけど!」
     母の死からの、一年間。
     ずっと信じ続けていた自分の『目標』は、間違っていたのか。
     その答えをはっきりと示されても、むつらはまだ、認められないでいた。
    「私は、強くないと……だって、私が、クルマより弱いからお母さんは死んじゃったんだよ!?
     だから、私はクルマを倒せないとダメなの! もう何にも危なくないんだって、言えないとっ!」
     パニックを起こしたむつらは、拳を握る。
     持て余す力を、『目標』を失くさせた目の前の男女に向けるべく。
    「それは……」
     今にも殴りかからんとするむつらに、七草・輝生(表裏一体マスクボーイ・d15637)は声を掛けた。
     それぞれに個性的な8人と1匹の中でも特別に異様な、黒衣白髪のガスマスク姿。
     しかし、そのマスクの下から聞こえる声は、優しく、むつらの心を認めるものだった。
    「強くなろうとしたのは、いいこと、だよ」
    「ちょっと……かなり、極端っすけどね」
     ぼそりと呟くギィの後ろで、三角・啓(蠍火・d03584)は小さく頷くと、むつらを見据えて言葉を掛けた。
    「あぁ。俺も、強くなりたいって思いは否定しねえ」
     だけどな、と、啓は続ける。
     無愛想で、真っ直ぐな言葉を。
    「強くなったからって、また車の前に飛び込むような事をして。
     自分のことを大事にしないくせに、心配はするななんて言えるのか。
     そんなことを、命懸けでお前を守った母親に……報告、できるのかよ?」
    「あ……っ!」
     問われてむつらは、答えを返せなかった。
     むつらを見据える啓の視線は、何よりも、彼女自身をこそ心配するものだ。
     そして、むつらは気付いた。
     8人の男女と1匹の犬は、むつらのことをじっ、と見つめて続けていたことに。
     母と同じ、彼女のことを大切に思う、暖かい眼差しで。
     むつらは、認めざるをえなかった。
     自分のやり方は、間違っていたと。
    「なら、私……どう、したら……」
    「力は、使い方次第、だと思うよ」
     そう言う輝生の表情は、マスクで隠れていてよく見えなかったが。
    「その力なら、これから先、誰だって守れるよ」
     マスクの奥から聞こえてくる声は、確かに、むつらに届いていた。
    「守る……」
     身を挺して自分を庇った、母のように。
     間違ったことをしようとしていた自分を止めに来た、彼らのように。
    「守るための、力……」 
     危ないモノを、全て倒せるようになって。それで、どうするのか。
     その時、むつらは初めて『目標』を目指してきた『目的』を、見つけた。
     むつらは視線を落とし、握り締めた自分の拳を見た。クルマより強いこの力で、私は――

     どくんっ、と。黒い衝動が走った。

    ●心の力
    「あ、ぁぁぁあぁああぁっ!?」
     体の奥から湧き上がる衝動が、むつらの小柄な体を大きく跳ね上げた。
    「むつらちゃん!?」
    「その力に身を委ねてはいけません!
     それは貴女を『悪い子』に変えてしまう力です!」
    「うぅ、ぁ、ああああぁっ!」
     小葉の呼びかけ、静女の叱咤。
     それらは確かに、むつらの闇への抵抗を後押しした。だが、しかし、完全に闇堕ちの衝動に抗うには、少女はまだ幼すぎたのだろうか。
     ビクン、と一際大きく跳ねたむつらが、ゆっくりと顔を上げる。
     その瞳には光は無く、ただ、闇の色。
    「……強さの、使い方なんて、関係ない……! 私は、車よりも、お前達よりも強い!」
     むつらの口から言葉を発したのは、もう、むつらではなかった。
     彼女の中に眠るダークネスが、強引にむつらの意思を封じ込め、表層に現れたのだ。
    「出やがったな……」
     すかさず殺界形成を行う、啓。周囲の空間が強い殺気に包まれる。
     万が一にも一般人が巻き込まれる可能性を除し、各々の殲術道具を展開する灼滅者達。
    「殲具解放」
     その先陣で、スレイヤーカードの封印を解いたギィの手の中にも、一振りの巨大な刀が握られた。
     無敵斬艦刀『剝守割砕』。
     扱い慣れた得物の重みに、ギィの心に覚悟と絶対不敗の信念が宿る。
     戦いの口火を切ったのは、むつら――否。その体を動かす、名も無きアンブレイカブルだ。
    「てぃあぁああぁぁぁ!」
     幼い喉が張り裂けそうな、絶叫とともに、一番近くに居た静女に向かって鋼鉄拳を叩きつける。
    「鬼丸っ!」
     咄嗟に――と言う表現は、正しくない。歌織が素早く二人の間に飛び入り、WOKシールドを掲げて拳を受け止められたのは、アンブレイカブルの第一撃を予測していたからこそだ。
    「――っ!」」
     拳を受けた歌織は、トんだ。
     静女の脇を抜け、灼滅者達の背後に積まれたセダンの山まで一息に吹き飛ぶ。
    「大矢田さんっ!」
     身を案じる声に、歌織は体勢を立て直しながら、ハンドサインで無事を伝えた。
     事実、その身に受けたダメージはわずかとは言えないものの、ダークネスからの攻撃としては決して強力なものではない。
    (「加減した……? いや!」)
     アンブレイカブルの鋼鉄拳の威力は、歌織が予想していたものより、幾らか劣っていた。
     それは、彼女が元より防御に集中していたこともあるが、何よりも。
    「くそっ……『むつら』め……!」
     憎々しげに呟く、アンブレイカブル。
     今は眠らされているむつらの意思が、アンブレイカブルの力を抑えていることは、疑いようがなかった。
     灼滅者達の想いが、彼女に力を与えているのだ。
     闇に抗う、心の力を。
    「よく考えてください! どうして貴女は強くなりたかったのですか!
     貴女が欲しかったのは誰かを傷つける力ですか!?」
     静女は、むつらに呼び掛ける。その呼び掛けがむつらに届くと、信じている。
     母を失った悲しみを、自らの力に変えられるその才能が、闇に負けることなどないと。
    「はッ!」
    「うぐっ!?」
     想いとともに、光り輝くサイキックの刃で、横薙ぎに斬りつける。その一撃を、アンブレイカブルは避けられない。
     続けざま。死角から飛び込む影がある。
     アンブレイカブルを宿敵とする、ストリートファイターの灼滅者。皇・なのはだ。
    「悪い子には、めっしないとだよ」
     閃光百裂拳の連打が的確に、アンブレイカブルの急所を捉える。
    「……その後は仲直り、ね。
     今ならまだ、一杯のお友達と楽しく過ごせていけるよ」
     そして、明るく語りかけた。
     のんきとさえも聞こえる言葉は、『へっぽこ』故の気楽さか、あるいはむつらを信じているからか。
    「ちぃ……っ!」
     怯んだアンブレイカブルの頭上に、月光を遮る陰が落ちる。
     陰を落としたものは、鉄塊。
     その名を、『無銘』大業物。
    「――ッ!」
     武器の銘と同じく、声無く振るわれた戦艦斬り。
     勇也の並ならぬ膂力で叩きつけられた規格外の質量に、アンブレイカブルも膝をつく。
     戦場に音楽が流れたのは、その時だ。
     神秘に満ちた、力強い歌声。
    「あたしにもわかるよ。怖いよね。苦しいよね。
     でも……負けちゃダメだよ、むつらちゃん!」
     小葉の言葉とディーヴァズメロディの旋律が、アンブレイカブルに抗うむつらの心を奮い起こす。
     その歌声に伴奏をつけるように、後方からソニックビートを奏でる輝生。
     彼もまた、他の灼滅者達同様、むつらを信じていた。
     家族を亡くした事実を、形はどうあれ、真っ直ぐに受け止めたむつらならば、ダークネスなどに負けるはずがないと。
    「ハァハァ……頑張れ、むつらちゃん……!」
     荒い呼吸で、全力で。
     輝生はギターをかき鳴らす。
     その横を、最前線に復帰すべく歌織が駆け抜けた。
     幼い少女の姿をしたアンブレイカブルを撃つことに、一瞬の躊躇もあった。だが、それを振り払えと励ますかのように、先んじて敵に肉薄したもみじがすれ違いざまに斬魔刀を一閃する。
     覚悟とともに契約の指輪から撃ちだされた制約の弾丸は、狙い違わずアンブレイカブルに命中した。
    「この……弱者の、クセにッ!」
     激昂し、苛立つアンブレイカブルが拳を向けたのは、癒しの矢による自己強化を済ませた啓。
     しかし、その眼前に、なのはの体が滑り込む。
     小柄な体を生かした術理。インパクトの瞬間に支点をずらし、力をいなす。
    「今だよ!」
    「あぁ」
     応えて、啓はリカーブボウから手を離し、むつらに両の手を向ける。
    「俺が間に合って、お前が間に合わないなんて、おかしいんだ……!」
     練られたオーラは奔流となり、啓の両手を包みこんでいく。
     むつらを見据え、啓は叫ぶ。
    「起きろ、むつらぁぁ!」
    「ごぁぁッ!?」
     叫びと、想いとともに、放たれたオーラキャノンがアンブレイカブルに突き刺さる。
     間髪を容れず、勇也が攻める。
     手刀に炎を纏わせたレーヴァテインの一撃が、アンブレイカブルを炎に包む。
    「団長」
    「お任せっす」
     ふらつき、よろめくアンブレイカブルの、その頭上から、声がした。
    「言葉は尽くしやした。むつらさんには、きっと届いてるはずっす」
     間合いの外から、ギィは跳んでいた。
     少女の姿を斬ることは気も引けるが、ダークネスを討つことに躊躇いはない。
     彼女のためにも、全力を。
    「後は、力づくっすね」
     跳躍から繰り出されたギィの渾身の戦艦斬りが、闇を、断つ。
    「――――――ッッッ!!?」
     声無き叫びを上げて倒れ伏す、アンブレイカブル。
     ここに、戦いは決着した。

    ●守るための力
     目を覚ましたむつらは、学園への勧誘に乗り気だった。
     強くなりたいと思った。守るために使いたいと思った。
     自分を救った、灼滅者達のように。
    「私たちは皆、今を生きている。それを無くしちゃう悪い敵さんと戦ってるんだよ」
    「それって、さっき、私の中に居た怖いののこと?」
    「そうだ。ダークネスと言う」
    「詳しい話は、道々だな。とりあえず、家まで送ってやる」
    「うん!」
     月明かりの下、9人と1匹が歩いて行く。
     同じ道の上を、並んで。

    作者:宝来石火 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 10
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