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昔から、動物は嫌いだ。
毛だらけで、臭くて、あんな不衛生なモノと一緒に暮らせる人間の気がしれない。
中でも、犬なんて最悪だ。
人間に手綱を取られて、きゃんきゃんと喚き散らす姿はみっともないったらない。
弱い犬ほどよく吠えると言うが、それにしても無様だ。
「……こら、吠えちゃだめでしょ。ごめんなさいね」
飼い主と思われる女が、吠えている犬をたしなめつつ私に頭を下げる。
私は答えず、片手を僅かに動かした。風を切る音とともに、女と犬の身体が相次いで両断される。
飛沫を上げる鮮血と、響き渡る悲鳴が、私の不機嫌を少しだけ和らげた。
夕暮れ色の景色に、次々と血の赤を加えて。次のターゲットを探しながら、私は考える。
――さあ、噂の灼滅者は来るだろうか。
来なければ来ないで、汚らわしい四つ足と、その飼い主を全て血祭りに上げるだけ。
実に簡単で、張り合いのないゲームだ――。
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「……ダークネスが、公園で大勢の人を虐殺しようとしてるんだ」
集まった灼滅者たちを前に、伊縫・功紀(小学生エクスブレイン・dn0051)は張り詰めた口調で言った。
今回の敵は、六六六人衆――序列五一〇番の『去渉(さわたり)』という女。
大の動物嫌いで、特に犬は吠えるから許せないという彼女は、夕暮れの公園を凶行の舞台に選んだ。このままでは、犬の散歩に訪れた人々を中心に、数十名もの犠牲者が出ることだろう。
「それでね。この六六六人衆、皆が来るのを待っているみたい。灼滅者と戦って一人でも多く闇堕ちさせることと、一般人をペットごと殺すのが目的なんだと思う」
残念ながら、被害をゼロに抑えることは不可能だ。
バベルの鎖の予知を掻い潜るには、『最初の犠牲者が殺害された直後』に仕掛ける必要がある。仮に灼滅者が前もって一般人を遠ざけてしまえば、去渉は河岸を変えてしまうだろう。
「言うまでもないことだけど、六六六人衆はかなり強いよ。この人数でも灼滅するのは難しいし、最悪の場合は全滅しかねない」
殺人鬼と鋼糸のサイキックを自在に操る去渉は強敵だ。気を抜けば、その圧倒的な攻撃力であっという間に蹴散らされてしまうかもしれない。
もちろん、闇堕ちを選択すれば対抗は出来るだろうが――敵が灼滅者の闇堕ちを狙っている以上、その誘いに乗るのは良策とは言い難い。
そう告げた後、功紀は僅かに視線を落とす。
「六六六人衆を撤退させて、一般人の被害を少なくするのが最優先。……その上で、できれば闇堕ちする人が出ないように戦って。難しいかもしれないけれど」
どうか気をつけて行ってきてね――と言って、彼は全員の顔を見た。
参加者 | |
---|---|
神羽・悠(天鎖天誠・d00756) |
一・葉(デッドロック・d02409) |
夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) |
月雲・悠一(ブレイズオブヴァンガード・d02499) |
津宮・栞(漆の轍・d02934) |
織神・皇(死音之蒼・d03759) |
ヴェリテージュ・グランシェ(混沌たる白の花・d12844) |
天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424) |
●
「……こら、吠えちゃだめでしょ」
けたたましい犬の鳴き声と、慌てたような人の声。
公園のベンチに腰掛け雑誌を開いていた月雲・悠一(ブレイズオブヴァンガード・d02499)は、それを聞いてさりげなく視線を動かした。
「ごめんなさいね」
リードを持った飼い主が、女に頭を下げる。女は無言のまま、軽く片手を払った。極細の糸が閃き、人と犬を瞬く間に両断する。
鮮血が飛沫を上げた直後、悠一はスレイヤーカードを手に立ち上がった。ほぼ同時、息を呑んだ一・葉(デッドロック・d02409)の傍らで、赤い毛並みのアイリッシュ・セッターが吠える。
女――六六六人衆の序列五一〇番『去渉』は煩げに眉を寄せると、次なる標的に向かって駆けた。
攻撃がアイリッシュ・セッターを捉えた瞬間、その姿が不意に掻き消える。繰り出された鋼糸は、変身を解いた夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)の脇腹を裂いた。
「動物嫌いとは相容れないね」
不敵に口元を歪めてみせる彼女の傷から、激しい炎が上がる。矢の如く飛び出した神羽・悠(天鎖天誠・d00756)が、怒気も露に去渉を睨んだ。
「これ以上、お前の好き勝手にさせるかよ!」
いくら動物が嫌いでも、その命を遊び半分に奪って良い筈は無い。神焔孕む魔槍に螺旋の捻りを加え、去渉を牽制する。
「――奴さん、こっちの狙い通り乗ってきたな」
飼い主役の葉が、そこにESPを発動させた。強烈な精神波に晒され、公園内の一般人達がパニックに陥る。声を限りに、津宮・栞(漆の轍・d02934)が叫んだ。
「通り魔よ! 逃げて!」
彼女の一言を受けて、人々が散り散りに逃げ出す。悠一の放つ凄まじい殺気が、駄目押しとばかり彼らの背中を押した。治胡の炎を見た犬たちが恐怖に駆られていたことも、スムーズな退避に一役買っている。
飼い主に連れられて走り去る犬たちを横目に見て、天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)が首元のレザーチョーカーを無意識に撫でた。
(「……親近感ではないが、なんだか妙な気分だ」)
彼らの首輪もまた、自分と同じく主人から貰った大切な物なのだろうか。そんな事を思いつつ、天星弓を構える。玲仁が癒しの力を帯びた一矢を治胡に放つと同時に、織神・皇(死音之蒼・d03759)が声を張り上げた。
「此処は任せてはよ逃げぇ!」
人々に呼びかけつつ、去渉に肉迫する。敵の意識が彼らに向かぬよう、彼女は派手に影業を展開した。
「覚悟せぇ五一〇番!」
皇の足元から黒き刃が伸び上がり、去渉のアキレス腱を掠める。白い指に愛用の指輪を嵌めたヴェリテージュ・グランシェ(混沌たる白の花・d12844)が、静かに口を開いた。
「女性に攻撃をするのは心苦しいけれど……敵だもの、ね」
契約の指輪を通して闇を呼び起こし、その力を高める。解き放たれた石化の呪いが、去渉に襲い掛かった。
●
一般人たちに対する追撃を防ぐべく、灼滅者は去渉を囲むように動く。
「小賢しい」
低い声とともに、去渉の全身から禍々しい殺気が立ち上った。瞬く間に前衛たちを包んだそれは、全員の身を蝕んで体力を奪っていく。列攻撃で六人を纏めて巻き込んでいるにも拘らず、その威力は決して低くはない。敵は六六六人衆の序列五一○番、しかも攻撃に特化している。たとえディフェンダーであっても、必殺の一撃をまともに喰らえば無事では済まないだろう。
初めて対峙する六六六人衆――その実力を肌で感じつつも、悠の瞳に恐れはない。
「腹は括ったし、危険も覚悟の上だぜ! 絶対に負けねー!」
「ああ。目にもの見せてやろーぜ」
怯むことなく武器を構え直す悠の隣で、治胡が力強く弓を引いた。彼女の膂力をのせて放たれた矢が、彗星の如く敵を貫く。エンチャントを砕かれた去渉が小さく舌打ちした時、悠一が大きく踏み込んだ。
現場から逃げ去る人々と、恐れて騒ぐ犬たちの声が、鼓膜を震わせる。去渉に惨殺された犬と飼い主の姿が視界の隅に映ったが、悠一は断腸の思いでそれを頭から追い払った。
「……今は、目の前のコイツを殴り飛ばすだけだ!」
握り締めた拳から血を滴らせつつ、火神(アグニ)の名を冠したシールドを起動する。左手に纏った真紅の力場が、真正面から去渉に叩き込まれた。
漆黒の髪を靡かせ、栞が後に続く。犬たちの声は次第に遠ざかりつつあるが、興奮していることもあってしばらくは鳴き止みそうにない。不愉快そうな去渉の表情を見て、彼女は一計を案じた。
(「媚びた態度が気に食わないのよね……それなら」)
紫紺の瞳を揺らがせ、悲痛な表情で問いかける。
「……どうしてそんなに動物を嫌うの? 解らないわ……鳴き声だって、こんなに可愛らしいのに」
それは、哀願を装った挑発。動物に対する嫌悪感を刺激し、注意をこちらに惹き付けるための。
「あんな汚らわしい生き物、この世に存在するだけで虫唾が走る」
盾の一撃で怒りを煽ろうとする栞を、去渉が睨んだ。間髪をいれず、葉が声を上げる。
「えー、わんこ可愛いじゃんわんこ」
ゼブラ柄のウェリントン眼鏡から覗く彼の視線は、軽い口調と裏腹に隙が無い。
「六六六人衆のクセに動物嫌いとか、人間くせぇっつーか、けっこー可愛いトコあんだな去渉ちゃん」
茶化すように言って、さらにシールドの打撃を重ねる。一般人たちが完全に逃げおおせるまで、敵を釘付けにするのが彼らの狙いだった。
「好き嫌いは個人の趣味だから口出しする事じゃないけど……」
「殺戮遊戯で、それを持ち出されちゃたまらんのよ」
ほぼ同時に動いたヴェリテージュと皇が、異口同音に呟く。動きを制約する魔法の弾丸がヴェリテージュの指輪から撃ち出された瞬間、皇がガトリングガンの銃口を去渉に向けた。
「ボロッボロにして灼滅するから覚悟しいや!」
爆炎を秘めた弾丸が唸りを上げ、立て続けに去渉を襲う。全員と距離を置くように一人後衛に立った玲仁が、天星弓に治癒の矢をつがえた。
「去渉とやらに興味はないが、悪趣味な遊びは止めてやらねばな」
そのまま前衛を射抜き、傷を塞ぐとともに感覚を研ぎ澄ませる。高い攻撃力を持つ敵と戦う以上、メディックを担当する彼の回復は灼滅者にとってまさに命綱だ。
片手で鋼糸を操る去渉が、鋭い斬撃を葉に浴びせる。防具ごと胴を切り裂かれても、彼は飄々とした態度を崩さなかった。
「俺も最近まで六六六人衆だったンよ。――同じ六六六人衆だった誼で、仲良く殺り合おうぜ」
素早く体勢を立て直した葉の背を、治胡が光輪の盾で支える。軽やかにステップを踏んだ栞の足元から、夜空の色にも似た黒き影が伸びた。未だ明けぬ朝を待つ無形の帳が、形を変えて去渉に絡みつく。その一瞬の隙を突き、悠が地を蹴った。
「貫き焦がせ! 神戟・焔ノ迦具土!」
劫火をもって怨敵を屠る槍に螺旋の力を込め、己の体重を乗せて突き出す。去渉が、酷く苛立たしげに表情を歪めた。
●
「少しは楽しませてくれるかと思えば――いちいち癇に障る連中だ」
怒りに任せて、去渉は鋼糸を振るう。呪詛を練りこまれた極細の糸が悠一に巻きつき、彼の動きを縛ると同時に全身を刻んだ。
「……こんな物で、倒れねぇぞ。倒れてやるかよ!」
一歩も退くことなく、不敵な笑みを浮かべる悠一。流れる血を炎に変えて、彼は去渉の前に立ち続ける。
灼滅者の集中攻撃に晒された去渉は次第にフットワークと防御力を殺されつつあったが、圧倒的な火力はなお健在だった。いささか挑発が効き過ぎたこともあり、その攻撃は苛烈の一言に尽きる。後列に立つ玲仁を除いた全員が、癒えない傷を蓄積させていた。ディフェンダーを多く据え、怒りにより狙いを誘導していなければ、この時点で何名かが戦闘不能に陥っていたかもしれない。
「手が足りなそうだから手伝うね」
仲間達のダメージを見て取り、ヴェリテージュが天星弓を構える。自分の命にまるで頓着しない彼だが、他者の危機に対しては敏感だった。僅かな焦りを白い面の下に封じ、癒しの力を帯びた矢を放つ。玲仁がすかさず天上の歌声を響かせ、傷ついた者に戦う力を取り戻した。
癒し手に支えられ、皇が愛用のロケットハンマーを振り被る。戦いのリズムを刻む戦鎚が大きく弧を描き、正確に打撃を叩き込んだ。
去渉が展開した糸の結界を掻い潜るようにして、栞がガトリングガンを撃つ。その身を覆うオーラは、暁を彩る躑躅(つつじ)の色。紅とも藍とも定まらぬ輝きの中に、漆黒の髪がはらりと舞った。
息詰まる攻防を銀の双眸に映しながら、ヴェリテージュが契約の指輪を活性化させる。先からの攻撃で最も命中率が高かったサイキック――石化の呪いをもって、彼は敵を抑えにかかった。
白い髪は、かつて闇に染まった時の名残。そして、六六六人衆の狙いは自分を含む灼滅者たちを堕とすこと。易々と乗るつもりは無いが、この先の戦況によっては再び箍を外そうと心に決めている。
――誰かの命が奪われるのは、何よりも許せないから。
ヴェリテージュの呪いが去渉を取り巻いた直後、葉がジグザグに変形させたナイフの刃で追い撃ちを加えた。不規則に肉を抉る切先が、傷とともに新たな状態異常を刻み付ける。
眉を大きく吊り上げ、去渉がヴェリテージュを睨んだ。
「鬱陶しい奴め……貴様から死ね!」
ディフェンダー達が行く手を阻もうとするも、一瞬の差で間に合わない。死角から振るわれた鋼糸がヴェリテージュの足を払い、動きを止めたところにもう一撃を見舞う。
脅威の二連撃(ダブル)の前に、ヴェリテージュが地に崩れ落ちた。
「よくもやってくれたなぁ!」
返り血を浴びて嗤(わら)う去渉に向かって、皇が吼える。治胡の奥歯が、ぎり、と鳴った。
「……二度、だ。仲間が堕ちるのを、呆けて見てるだけだった」
大胆に間合いを詰め、固めた拳を繰り出す。眼光は、彼女の炎を宿してどこまでも赤い。
「三度は、繰返さねーさ」
鋼鉄の如き拳が去渉の鳩尾にめり込んだ瞬間、治胡とぴたり呼吸を合わせた悠がそこに迫った。零距離から雨あられと降り注ぐ、打撃の嵐。その隙に回り込んだ栞が、必死に訴えた。
「――お願いだから、もうやめて頂戴」
WOKシールドを叩き付け、ひたすらに懇願する。去渉の攻撃を引きつけるためとはいえ、このようなことを口にするのは不本意極まりないが、心にも無い嘘というわけではない。去渉の凶行を止めたいと願うのは、本当のことだ。
(「力及ばないのだから、なりふり構う余裕は無いわ」)
悔しさを胸に秘め、あえて去渉の不快感を煽るように言葉を紡ぎ続ける。
「うるさいな。……次は、お前の舌を切り落としてやる」
血濡れた鋼糸を手元に引き寄せ、去渉が吐き捨てるように言った。
●
加熱する戦いの中、去渉は執拗に栞を狙う。怒りによるターゲッティングの混乱とディフェンダー達の守り、傷を癒す玲仁の歌声をもってしても、強烈な攻撃を凌ぎ切ることは困難だった。
粘りに粘った末、栞がとうとう力尽きて倒れる。
「……手間をかけさせてくれる」
去渉にも流石に疲れの色が見え始めていたが、未だに退く気配は無い。地に伏した栞を背に庇うように、悠一が間に割り込む。胸の内に湧き上がるのは、炎の如き怒り。
「無闇矢鱈に力を振るいやがって……!」
ジャケットの裾を靡かせ、火神の盾を繰り出す。皇がガトリングガンを連射し、無数の弾丸で去渉を穿った。
「私を灼滅できるとでも? 死ぬ前にとっとと堕ちたらどうだ」
猛攻を平然と掻い潜り、去渉が葉の胴を薙ぐ。噴き上がる鮮血が彼の半身を染めた時、治胡の脳裏に苦い記憶がよぎった。
かつての依頼で闇に堕ちた、仲間の顔が浮かんでは消える。
守られた。守らせてしまった。それがどんなに辛いことか、身をもって思い知った。
だから、自分が『それ』を切り札にするのは筋が通らない。分かっている。でも。
(「俺の力不足の所為で誰かが犠牲になるのは……嫌だ」)
拳を握り締めた治胡を制するように、葉が己の手を伸ばす。
「簡単に堕とさせて堪るかってーの。守る為に闇堕ちを選ぶってンなら、俺ぁ意地でも倒れねぇぞ」
闇堕ちは片道切符、戻って来られる保証はどこにも無い。繰り返せば繰り返す程、完全に呑まれる可能性は高まる。自分で、自分を殺させるようなものだ。
「堕ちてくれるな。……メシが不味くなんだろ」
ぶっきらぼうな、それでいて真摯な言葉。それを聞き、治胡が答えた。
「悲しませるんなら、意地でも堕ちるべきじゃねーよなァ」
武器を構え直し、真っ直ぐに去渉を睨みつける。
元より、諦めが悪いのが身上だ。可能性がある限り、紛い物の力に頼らず戦い続けてみせる。
「もう誰も……誰一人として傷つけさせやしねぇ!」
腹の底から叫び、悠が去渉に突撃する。彼の傷も決して浅くはなかったが、退くつもりは毛頭なかった。噴き上がる炎を纏い、迷い鳴く槍を繰り出す。目標は、あくまでも去渉の灼滅。難しかろうが、最後まで足掻いてやると決めたのだ。
天使の歌声で仲間を癒し続ける玲仁が、静かな瞳で戦場を見据える。状況は未だ、予断を許さなかった。
このまま押し切られるようであれば、闇に堕ちることを躊躇いはしない。仲間がそれを望まぬと、承知していてもだ。
(「俺はまだ死ぬわけにはいかない。他の奴らとて同じだろう」)
少なくとも、自分はかつての主人であった淫魔に会うためなら闇堕ちも辞さない。あらゆるものを利用してでも、この状況を切り抜けてみせる。何を恐れることがあろうか――。
「ええい、しぶとい……!」
閃いた鋼糸が、悠を斬り伏せる。これで、戦闘不能者は三人。
「まだや、まだ行ける!」
未だ潰えぬ闘志を込めて、皇が声を張り上げる。絶妙のタイミングで伸びた影の刃が、去渉の脛を鋭く斬り裂いた。
自らの血を媒介に推進力を高める戦鎚『軻遇突智』を携え、悠一が動く。
去渉を灼滅したいのは山々だが、彼我の力量差は歴然としている。このまま戦い続けたとしても、先に撤退に追い込まれるのはこちらの方だろう。
「――だけど、思い通りにさせはしない。一矢くらいは報いてやる……!」
悠一の気迫が、激しく炎を上げる。力の限り振り抜かれた戦鎚が、去渉の脇腹を直撃した。
「クッ……!」
去渉はそれでも倒れなかったが、流石に痛手を被ったようだ。すぐさま身を翻し、灼滅者の追撃を潜り抜けて何処かへと姿を消す。誰かが、長く息を吐いた。
重傷者を出したとはいえ、一人も堕ちることなく六六六人衆を退けた、その事実は讃えられるべきだろう。
幸い、倒れた三人も命に別状はなく、少しして目を覚ました。
ゆっくりと上体を起こしたヴェリテージュの視界に、横たえられた犠牲者たちの亡骸が映る。
被害を最小限に抑えられたとはいえ、一人と一匹の命が奪われたことに違いはない。
彼は瞼を閉じると、天に召された命にそっと祈りを捧げた。
作者:宮橋輝 |
重傷:神羽・悠(炎鎖天誠・d00756) ヴェリテージュ・グランシェ(鏡閃・d12844) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年4月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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