ほんとにあるらしい、パンダフル温泉

    作者:志稲愛海

     ――かぽーん。
     もくもくと湯けむり立ち昇る、誰も近寄らない山奥の温泉で。
     こう言ったら……出てくるんですって。
    『湯加減いかがですかー?』
     その山の通称にもなっている――アレが。

    「ねーそういえば、パンダ山の都市伝説って知ってるー?」
    「え、パンダ山って車で一時間くらいで行けるあの山だよね? 山肌の一部がパンダみたいな模様に見えるから、そう呼ばれてるんだっけ」
    「やだぁ、パンダ山、この間学校の登山部でのぼったばっかじゃん! 怖いんだけど!」
     キャアキャアと、身近な山にまつわる都市伝説の話題で盛り上がる、高校生達。
     季節は夏、得体の知れない都市伝説を語るには、うってつけの季節かもしれない。
    「……で、どんな都市伝説なのよ?」
    「パンダ山って昔はさ、山奥に流れてる川のところに簡易温泉所みたいなのあったって知ってる? そこ、随分前の台風で途中の道とか施設が崩れちゃって以来、ずっと修繕されず立ち入り禁止のままみたいなんだけど」
    「へー温泉とかあったんだー」
    「それでさ……夜、立ち入り禁止の立て札を越えた先のその川の天然温泉でね、「湯加減いかがですかー」って声を掛けたら……出るんだって」
     ふと声色の変わった友人の言葉に、思わずごくりと息を飲む聞き手の子達。
     そして女子高生は満足そうにその反応を見つつも。
     こう、続けたのだった。
    「頭にタオルを乗せた……3匹の、ふわもこパンダさんが」
    「「えっ」」
     えっ。
    「ちょー怖い都市伝説だよねー」
     いろんな意味で、なんという都市伝説。
     ていうか。
    「あの、それさ……かわいくね?」
    「てか、なんでパンダさん? しかも3匹!?」
     ツッこんで欲しいところをツッこんでくれる、聞き手の子達。
     だがそんな友人達に、何を言ってるんだといわんばかりの視線を向ける女子高生。
    「え、パンダさんすっごく怖いんだよ、知らないの!? ふわもこな身体で、ぎゅーっと窒息するまで抱き締めてきたりするらしいよ!? 時にはね、複数人まとめて抱いてやるぜ! ってぎゅぎゅーって窒息させてきたりするとか、まじ怖い都市伝説じゃん!! 3匹なのは……えっと……きっと、三つ子なんだよ!!」
     最後、ちょっと適当に言ったとか、そんな気がするのは気のせいか。
     いや、都市伝説とは、そういうものなのかもしれない。
    「ふわもこの身体で窒息とか幸せ……いや、確かにある意味怖いかも……しれない??」
    「さすが、都市伝説って不可解……なんか本当にパンダさんたちいそうな気がしてきた」
     何だか勢いに押されたようにそう頷いてしまうあたり、流されやすいお年頃。
     いや、ふわもこに抱き締められて窒息とかしあわ……おそろしい!
     そして、まじ怖いねー明日みんなにも教えよう! と。
     また人々の間で――パンダ山の都市伝説が、広がっていく。


    「皆さん、パンダさんです」
     ペンギンさんが一番ですけど、パンダさんも可愛いですよね、と。
     ほわほわ笑む五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は集まった灼滅者の皆の視線を感じて。
    「あ、皆さん、都市伝説です」
     何気にそう、言い直す。
     姫子の解析結果によれば、このパンダ山とやらで。
     サイキックエナジーを得た都市伝説が実体化し、力を得てしまったのだという。
     これは、事件の噂が広まり、多くの人間がその存在を信じる事で起こる。
     今回の都市伝説も人に害を及ぼすような内容であり、都市伝説が大きな力を持つその前に、事件を解決しなければならない。
    「この都市伝説は、夜に、立ち入り禁止の看板の先の川にある、随分長い間使われていない天然温泉場で、「湯加減いかがですか?」と声を掛ければ出てきます。パンダさんは全部で3体、ふわもこボディで抱き締めて捕縛してきたり、温泉のお湯を豪快に掛けて攻撃してくるかと。叫び声を上げ、体力や状態異常を回復したりもします」
     都市伝説のパンダさんは、3体とも、体長が2mほどのふわもこなのだという。
     ぎゅっと抱き締められたら、ダメージだけでなく行動が制限されることもあるかもしれないので、油断せずさくっと退治して欲しい。
     また、戦闘に支障ない程度に、眠くなったり、ずぶ濡れになる事もあるかもしれない。
     戦場は、夜のため暗いが、広い川原で、障害物など戦闘の支障になるものもないという。
    「そして、退治後なのですが。施設が台風で崩れてしまっているため、温泉に身体は浸かれなさそうなんですけれど……天然温泉の川原を掘れば、足湯程度の温泉が湧くみたいなので、足だけでもつけて足湯を楽しんでみたらどうでしょうか。それに山奥なので、星が綺麗にみえるそうですよ」
     都市伝説のパンダさんを退治した後は。
     姫子の言うように、足湯温泉や星空、持参した軽食などを楽しむのもいいかもしれない。
     姫子は少しだけ羨ましそうに、キーホルダーのペンギンぐるみをもふもふしながらも。
    「それでは、もふもふ都市伝説退治、よろしくお願いしますね」
     皆にぺこりと頭を下げ、灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    財満・佐佑梨(真紅の徹甲弾・d00004)
    風凪・叶音(散華恋唄・d00020)
    光・歌穂(歌は世界を救う・d00074)
    九条・已鶴(忘却エトランゼ・d00677)
    九湖・奏(中学生ファイアブラッド・d00804)
    神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)
    大祓凶神・乙女(剣の花嫁・d05608)
    鷲宮・ひより(ひよこ好きな・d06624)

    ■リプレイ

    ●湯加減はいかが?
     沢山の星が瞬く夏の夜空の下、ぼうっと暗闇に浮かぶのは『立入禁止』の看板。
     だが、8人の灼滅者はそんな看板をも越えて。
     災害で崩れたという足場の悪い道を、奥へ奥へと進んでいく。
     この先にあるもの、それは。
    (「ぱ、パンダ……なんて恐ろしい都市伝説が生まれたんだぜ……!」)
     そう、パンダさんの都市伝説です!
     ある意味恐ろしいソレに、思わず額を拭う風凪・叶音(散華恋唄・d00020)。
     ……何が恐ろしいのかって? とてもこわいじゃないですか!
    (「だってもこもこなんだよ!? ぎゅーってしてくるんだよ!?」)
     すっごいもこもこのくせに、ぎゅーしてくるんですよ、パンダが!
     叶音は、そんなパンダのもこもこぎゅーを何気に想像しつつ。
    「…………」
     一息置いた後。
    (「……退治するしか、無いんだぜ……!」) 
     けしからん都市伝説を撃破すべく、ぐっと胸を張る。
     決して、ふわもこ目的なんかじゃ! なんかじゃないんだぜ! ……だぜ?
    (「ここまで地名の偉大さを感じる都市伝説って凄いわね」)
     財満・佐佑梨(真紅の徹甲弾・d00004)も、通称『パンダ山』を登っていきながらも。
    (「ふわもこな相手って色んな意味で油断禁物だわ」)
     やはり、パンダのもこもこぎゅーを想像し、色んな意味で気を引き締める。
     そして、そんな二人と共に現場へ向かいながらも。
    「パンダ……パンダ、かぁ。へへ、楽しみだ♪」
    「もふもふだよ、もふもふっ!」
    「パンダにもふもふされるの……も、いいけど。逆にもふもふしたいよね、なーんて」
     相棒の霊犬を連れながらわくわくする、動物好きな九湖・奏(中学生ファイアブラッド・d00804)に。
     もふもふは抱きつくしかない、と、ひよこぐるみをもふもふしつつ、違う意味で使命感に燃える鷲宮・ひより(ひよこ好きな・d06624)に。
     月に照る銀髪をかきあげ、やはり可愛いものは愛でなければと。パンダさんをふるもっふしたいと笑む、九条・已鶴(忘却エトランゼ・d00677)。
     ええ、とても欲望に忠実です!
     いえいえ、この依頼に臨むひよりは、ちょっとだけ葛藤しているのですよ。
    (「これはひよこへの裏切りじゃないっ! 可愛いものは愛でるしか……!」)
     ひよことパンダの狭間で。
     というかもう、可愛いものやもふもふは正義でいいよね!
     そんな色々な畏怖や願望や期待が入り混じる中。
     耳に聞こえ始めたのは――川のせせらぎ。目的の天然温泉にようやく到着したようだ。
     ここも災害の影響で、肩までゆっくり浸かれる状況ではないのだが。
     もくもく夜空にあがる湯けむりが、何とも風情だ。
     だが、そんな温泉を楽しむ前に。
     光・歌穂(歌は世界を救う・d00074)や神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)は、皆と顔を見合わせ頷いて。
     予め陣形を成した後、已鶴や奏やひよりも一緒に、暗闇の中で一斉に声を合わせる。
    「湯加減はいかがですか~?」
    「湯加減いかがですかー?」
    「お湯加減は如何でございましょう?」
    「いい湯加減ですか~?」
     パンダさんを呼び出す、キーワードを。
     ――次の瞬間。
    「!!」
     全員が同時に顔を上げ、同じ場所に視線を向ける。
     闇に浮かび上がる、もふもふボディー。
     そう、頭にタオルを乗せ、へちまスポンジを入りの洗面器を小脇に抱えた、3匹のパンダさんの姿が!
    「パンダ、もふもふなのですだわ」
     ほやんとした印象の大祓凶神・乙女(剣の花嫁・d05608)の声に、歌穂も頷いて。
    「なんというふわもこパンダっぷり……これが都市伝説でなければ……」
     一瞬、じっとパンダさんのふわもこっぷりを見つめるも。
    「でも都市伝説だというなら仕方ないね。残念無念だけど、退治退治!」
     都市伝説を倒すべく、元気いっぱいバイオレンスギターを構える。
    「さっくり倒して、温泉浸かりたいなぁ」
    「たとえ小なりとて事件は事件。全力で討ち果たします」
     そして、ふいに伸びる影を携え碧玉の瞳を細める已鶴に、愛用の扇子を天星弓に持ち替え身構える慧瑠達、灼滅者は。
     のっしのしと歩み寄ってくるパンダさんを……もふもふ都市伝説を、いざ迎え撃つ!

    ●魅惑のパンダフル!
     戦場と化した、天然温泉沸く川原で。
     最初に動きをみせたのは3体のパンダさんであった。
     もふもふとは思えぬ素早い動きから、3体順に早速繰り出されるのは。
    「! わっ」
    「きゃっ!」
     ざばっ、ばしゃ、ばしゃあっ! と。
     すかさず温泉を洗面器ですくい、灼滅者達目掛け勢い良くぶっかけるパンダさん。
     ほかほかと湯けむりをのぼらせる温泉……とはいえ。
    「わ、わ……温泉その時は暖かくても乾いてきたら寒いんだぜー!?」
     服が身体に引っ付く感触を覚え、叫びつつも。
     パンダさんの死角へと入り、急所を狙った一撃をふわもこボディーへと見舞って、足止めを試みる叶音。
    「こ、このくらい、何てことないわ」
     さらに、ずぶ濡れになりながらもあまり特出せぬよう注意しつつ別のパンダさんを穿つのは、佐佑梨の捻りを効かせた螺旋の槍撃。
     ちょっぴり強がってみたけれど……ぴたりと服がへばりつく感触は、やっぱり地味に気持ち悪い。
     そしてその隙に、胸元に浮かべたトランプマークを宿し、生命力と攻撃力を高めて。
    「ふうん……可愛い顔して、やることやるじゃない。……そういうの、好きだよ」
     同じくずぶ濡れになっている已鶴は、服が纏わり付く不快さを感じつつも、口元に嘲笑を浮かべる。
     そんな已鶴と同時に、風邪を引くのは嫌ですことよ、と呟いて。
    「動きにくいのですね~」
     言葉とは裏腹に特に気にした様子もなく、両の瞳にバベルの鎖を集中させ、攻撃態勢を整える乙女。
     濡れて何気に気持ち悪いけど、戦闘には支障ありませんから、ええ!
     続いて慧瑠も、まずはブラックフォームで力を漲らせてから。
    「えぇと、パンダ……でございますね」
     まじまじと、タオルを頭に乗せているパンダさんたちを見遣るが。 
    「些か緊張感に欠ける気も致しますが、油断は禁物でございますね。全力で参ります!」 
     人害を成す都市伝説は、成敗なのです!
     そして霊犬とともに、ぶるぶる頭を振ってから。
    「お陰で目ぇ覚めた!」
     龍の骨をも砕くという威力を持つ奏の斧が唸りを上げ、霊犬の刀の一撃が主人と呼吸を合わせ同時に繰り出されれば。
    「ふわもこっ!」
     元気良く戦場に展開されるは、歌穂の情熱的なダンス。
     躍りながら、気合の声通りふわもこなパンダたちに衝撃を与えると共に、歌う態勢を抜かりなく整える。
     そして、相手が抱き締めてくるというのならば!
    「パンダさん、わたしと一緒に遊んでね♪」 
     此方も糸で抱き締める! と。
     ふわもこをもふもふしやすい様にと、月の光にキラリ輝く鋼糸を、もこもこボディーへと繰り出すひより。
     湯けむり立ち昇る中で繰り広げられる攻防。
     戦況的にも、ふるもっふ的にも……まだまだ、これからが本番。

    「寒いけどもう少ししたらあったまれるよ、ね! うん!」
     戦闘には実際、支障はないんですけれども。
     再びお湯をかけられ、さらにずぶ濡れになった身体が夜風に吹かれるたびに。
     じわじわ下がる体感温度。おまけに、肌に衣服が纏わり付く気持ち悪さもUP。
     でも叶音の言うように、倒せば温かくて気持ち良い足湯が待っていますし!
    「この曲で元気出して!」
    「みんな、ファイトだよっ♪」
     歌穂の爪弾く快活なリバイブメロディが、ずぶ濡れにされた不快感ごと、これまで負った仲間のダメージを吹き飛ばして。
     執拗に温泉をかけてくるパンダたちに負けず、ひよりも不死鳥の翼を広げ、前衛の皆に癒しを与える。
     そしてパンダ目掛けて撃ち出されるは、詠唱圧縮された魔力を宿す一矢。
    「風邪をひかされる前に、撃ち抜くですだわ~」
     自らの独特な口調は緊張感をなくすと、乙女は極力戦闘中喋らぬように心がけているのだが。
     何せお喋りな性分、腕に巻いたマフラーを靡かせつつ、ついそう口を開きながらも。
     鋭い一撃を、パンダへと見舞う。
     だが、お湯をかけるその不快感をすぐに消されてしまうのならばと。
     パンダたちが、ぽてぽてと次の動きをみせた――刹那。
    「!!」
     そのもふもふの真価が発揮された恐るべき攻撃が、灼滅者に襲い掛かる!
     それはもう言わずもがな。
    「し、しっかりしないと……でも駄目、顔にやけちゃうっ」
     これまで、鬼の如く容赦なくパンダへと攻撃を繰り出していた、戦闘モードな佐佑梨であったが。
     そんな彼女の表情を思わずほんわかさせてしまう、パンダの攻撃。
     そう、1体のパンダさんがぎゅぎゅーっと、ふわもこな身体で抱き締めてきたのである!
     いや、佐佑梨だけではない。
    「これが終わったら僕寝るんだ……!」
     同じく別のパンダにぎゅーされた叶音は、戦闘には支障はないが、ほわほわふんわりなふわもこの温もりに眠気を感じ、目を擦る。
     なんというおそるべきふわもここうげき!!
    「き、気をつけろ! いくらもっふもふでも気を許しちゃダメだ!」
     その幸福感すら覚えるふわもこさ加減に抗えず、戦闘スイッチが切れた様に捕縛された仲間へと、咄嗟に声を上げる奏だが。
    「わっ! こ、こら! 離せ! はな…………さなくて良い、かも」
     残り1体のパンダにすかさず抱き締められ、もふもふもふもふ。
     そしてちょっぴり寂し気にそんな主の背を見つめ、心配そうにする霊犬。
     さらに3体目のパンダは奏だけに留まらず、近くにいる灼滅者達を片っ端から抱き締めにかかる。
    「こ、これは、何と申しますか、痛いやら気持ちがよいやら不思議な……。はっ、いけません。これが相手の作戦ですか!」
    「はぅ、なんてもふもふ……!」
     大きく首を振りながらも、折角なのでもふもふ感触を味わってみる慧瑠と。
     抱き締められたなら、もうこうなったら積極的にふるもっふしちゃおう! と、全力全身で抱きつくひより。
     前衛を担う殆どの灼滅者が、何とも羨まし……恐ろしい、ふわもこの餌食に!!
     だが、がばっと大きくもふもふな両腕を広げたパンダの動作を読み、抱き締めを回避した已鶴は。
    「ねぇ……君の腕の中で眠るのは、さぞかし気持ち良いんだろうね」
     長い長い鎖の形に影を成し、煽る様な笑みを敵へと向けて。
    「……でも、残念。今日は俺が、キミを。抱かせてもらうから」
     もふられるのもいいけど、さり気なく、逆にもふもふ!
     もふもふされた灼滅者達も、足止めや捕縛されながらも手は休めずに、もふ……いえ、攻撃を続けて。
    「歌の力を見せてあげるよ!」
     そんな仲間達のふわもこ状態異常を元気に吹き飛ばす、歌穂のバイオレンスギターの旋律。
     そしてふわもこ捕縛から抜け出した佐佑梨の黒死斬がパンダの急所に決まり、敵の足を止めたところに。
     もこもこの束縛をもうなるべく喰らわぬ様にと大きく踏み出した叶音の拳が、雷を帯びた刹那、パンダの顎を勢い良く跳ね上げる。
     そして、その強烈な攻撃を立て続けにくらい、ぴぎゃーっと断末魔をあげたパンダは。
     跡形なく消滅したのだった。
    「よっし、やったね!」
    「さっきは抱き締められてやっただけよ。大した事ないパンダね」
     1体のパンダを滅し、叶音と佐佑梨はそう笑んでから。すぐに残り2体へ視線を向ける。
     それからも、パンダにもふもふされたりしたりしながらも。
     前衛に人を集め、皆でふるもっ……いえ、列に及ぶダメージを頭数で軽減させる作戦が功を奏し、乙女や歌穂や霊犬の抜かりない回復も飛交う中。
    「もふもふを燃やすのは嫌だから……えいやっ!」
     べ、別に、抱きつきたいから投げたわけなんだからねっ!! と。
     ぎゅぎゅーっとパンダを抱き締めた後、ひよりは掴んだふわもこを宙へと投げ飛ばし、地に叩きつけ止めを刺して。
    「人に仇なす存在は討つ。お覚悟下さいませ……!」
     慧瑠の撃ち出した漆黒の弾丸が、もふもふな身体を捉え貫いた瞬間。
     ピィッと堪らず一鳴きした最後のパンダも闇夜に溶ける様に、消えていったのだった。

    ●ほかほか、いい湯加減!
     無事に、パンダフルな都市伝説を撃破した後。
    「湯気が出てる川って、何か不思議な感じだよな」
    「これでパンダの供養……になるかはわかんないけどね、せめてもの気持ち!」
     パンダの供養も兼ねて川原を掘り、いざ、ぬくぬくの足湯です!
    「ああ、なんかここ、いいなぁ」
    「温かくて気持ちいいね~♪」
    「ふぅ、癒されるというのはこのことでございますね」
    「たっぷりびしょぬれになったですし、足湯も……身体が温まりますですことよ」
     じわり足から全身へと染み渡る、温泉のぬくもり。
     そして、まあすぐ帰るのもしんどいのですね~と、疲れが癒される感覚を覚えながらも。
    「大人しいパンダをもふりたかったのですわ」
     ちょっぴり名残惜しそうに、パンダのふわもこさ加減を思い出す乙女に。
    「うう、確かに……!」
     アヒルぐるみをもふもふしながらも、大きく同意するひより。
     いや、十分パンダさんをもふもふしていましたけどね。
     でも、いくらふるもっふしても、もふり足りないのです!
     それからふと足をお湯につけたまま、周囲を見回す歌穂。
    「なんでここ、放置されてるのかな?」
    「ここもだけど、立ち入り禁止になっている先の道も随分崩れていたから、修繕に手を焼いているんじゃないかしら」
     そう答えた佐佑梨や皆に、叶音は作っておいた温泉卵をお裾分けしながらも。
    「『使われてない』この温泉が、いつか使われる日が来てくれたらいいな、って思うんだ」
     この温泉自体が素敵になって皆に知られるように。
     そして再びパンダ達が都市伝説にならないようにと……そう、願う。
     そんな叶音の温泉卵を受け取りながら、慧瑠と佐佑梨も持参したものを皆に振舞って。
    「そうそう、おにぎりは如何ですか? 梅、昆布、鮭と作って参りました」
    「私も人数分のシュークリーム持参したから、よかったら食べましょ」
     わいわい賑やかに、気持ち良くて美味しい時間を楽しむ。
    「天然温泉、疲れが癒されるね」
    「ん~、気持ち良い……!」
     已鶴も、奏と話をしながら、足湯を存分に満喫して。
     ふいに伸びをし、ごろんと川原に寝そべった奏は、思わず声を上げた。
    「あ……すげー星! あれとか、パンダ座に見えねぇ?」
    「あっちの星は、奏の霊犬みたいな形に見えない?」
     そして、けらりと笑う奏に笑み返した已鶴もそっと、満天の星空をなぞる。
    「綺麗……。ふふっ、戦いの後ではございますが、風情がございますね」
     湯けむり立ち昇る天を同じ様に仰ぎ、慧瑠は星の煌きを映した瞳を細めて。
     逆に、足湯の気持ち良さに、うとうと舟を漕ぎ始める叶音。
     それから、足湯しながら星空眺められてとっても幸せ~♪ と笑んだひよりは。
    「やっぱりお風呂にはつきものだしね!」
     今度は幼馴染やお友達も誘ってみたいな、と。
     皆で浸かっている足湯に、ぷかり、アヒル玩具を浮かべたのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 4
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