堕ちし者の闇堕ちゲーム

    作者:相原あきと

     都内に流れる大きな河川の上に建つ電車が通る鉄橋。
     その上に1人、メガネにオールバック、スーツ姿の冴えないサラリーマンがいた。
     時刻は朝の4時20分。
     朝日が昇るまで30分以上はあるだろうか。
     周囲は真っ暗闇だ。
     男は鉄橋の中間地点で靴を丁寧に揃えて脱ぐと、遺書と書かれた封筒を添えてから線路の上に立つ。
    「あ、もしかして最近の電車は、線路に立っていると停車してしまうのか……?」
     小さい頃に見て感動した映画のように、線路を歩いてから死ぬつもりだった。
     生きていても仕方が無いと、覚悟を決めたつもりだった。
     しかし、ふと電車が来ないのではないか? との考えが浮かんだ途端。
     『生きたい』との思いが顔を上げてくる。
    「ああ、大丈夫ですよ。検知器等は全部壊しておきましたから」
     背後からかけられた声に、サラリーマンがビクリとする。
     振り返るとホストのような上等なスーツを来た若い男がいた。
     黒に近い灰色の髪に、身長はかなり高い方だろうか。
     周囲はまだ暗いというのにサングラスをかけており、どこか普通じゃない違和感を感じる。
     サラリーマンは何か得体の知れない恐怖に襲われ、ホストに背を向け逃げだそうとする。
    「おや、死は唯一の救済だと言うのに……」
     やれやれ、と楽しそうに嘆息するとホスト風の男はいつの間にか手に持っていた日本刀で――。
     ……ドサリ。
     サラリーマンが物言わぬ躯となり果てる。
     その死体を見て楽しそうに笑うホストだったが。
     ふぁん――と、遠くにライトが灯り、それがどんどん近付いて来る。
     始発電車だった。
     鉄橋に電車が入るのをホスト風の男はちらりと見る。
     電車の運転手は男に気がつかず、もちろんスピードも緩めない。
     ドンッ!
     ホスト風の男が日本刀を一振りすると、電車の運転席がひしゃげ運転手が絶命。
     電車はスピードに乗ったまま男に激突、しかし次の瞬間。
     1両目以降の後部車両が、先へ進もうとする力のやり場に困ったかのようにS字を描いて空中に飛び上がり、そのまま180度回転しつつ鉄橋から落下していった。
     日本刀を鞘におさめてから、男は無傷で服の埃を払うと。
    「ははは、これはかなり死にましたね……道連れが多いだなんて、なんて幸せな死に方だ」
     鉄橋からだらしなく垂れ下がった格好になっている電車を見てひとしきり笑ったあと、男はどこか遠くを見つめるように呟く。
    「今回も……来ませんでしたか……」

    「みんな、六六六人衆については勉強してある?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(小学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
    「今回、みんなにお願いしたいのは、六六六人衆が起こそうとしている大量殺人の阻止よ。場所は都内にある鉄橋の上、やってくる始発電車を事故らせて、このままだと乗客約50名が犠牲になるわ」
     珠希は地図を取り出し鉄橋の位置に丸印を付ける。
     さらに横に4時半と走り書きする。
     始発電車が鉄橋を通る時間らしい。
    「敵のバベルの鎖を回避するにはいくつか条件があるの……」
     珠希はそう言うと以下の条件を説明する。

     条件1。
     4時20分に鉄橋の中央で敵に接触すること。

     条件2。
     鉄橋の中央で自殺をしようとしているサラリーマンに事前に接触しないこと。

     条件1は時間が大事であり、時間さえ守れば正々堂々鉄橋を歩いて行っても敵は逃走しないらしい。
    「敵の目的なんだけど……この鉄橋の中央で自殺しようとしているサラリーマンがいて、その人を殺しに来るみたい」
     ただ、と珠希は続ける。
    「それだけが目的じゃなくって……みんなを闇堕ちさせようとしているみたいなの……」
     それは六六六人衆の闇堕ちゲーム。
    「敵はある程度の傷を受けると撤退していくわ。だけど、そのラインがどの程度かはわからないし、そのラインに達していなかった場合……電車がやってきて事故が起きると思って」
     もし電車が入って来ないようにするには、敵と接触後に電車がやってくる方に向かって何か対策を講じる必要があるだろう。
     ちなみに自殺しようとしているサラリーマンは、放っておけば戦いに巻き込まれて殺されるらしい。こちらは対処するか……するべきなのか、迷う者もいるだろう。
     珠希は灼滅者達の顔を一巡してから次の説明に入る。
    「敵は殺人鬼と日本刀に似たサイキックを使ってくるわ。そして戦いでは攻撃優先で仕掛けてくるみたい。それと性格は几帳面かつ慎重な性格らしいから、隙とか付いて来るのがうまいと思う……」
     そこまで言うと珠希は。
    「もう一度言うけど、今回の目的は電車事故の阻止だから。間違っても敵の灼滅じゃないから気をつけて」
     サラリーマンの生死については……言及されなかった。
     珠希は全員が頷くのを確認すると。とても言い辛そうに敵の名前を言う。
    「それで……敵の、名前なんだけど……知ってる人もいるんじゃないかしら……」
     とても苦しそうに、珠希はその名を口にする。
    「敵は六六六人衆、元武蔵坂学園灼滅者……石英・ユウマ(せきえい・―)よ」


    参加者
    九条・鞠藻(図書館のヌシ・d00055)
    八嶋・源一郎(颶風扇・d03269)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    華鳴・香名(エンプティパペット・d03588)
    式守・太郎(ニュートラル・d04726)
    華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)
    太治・陽己(薄暮を行く・d09343)

    ■リプレイ


     都内某所、河の上の鉄橋でホスト風の男が手に持った日本刀を、逃げようとするサラリーマンへ「死は唯一の救済です」とばかりに振り下ろす。
     ――ガキンッ!
     日本刀が盾状のエネルギー障壁にぶつかり止められた。
    「ほう」
     ホスト風の男がサラリーマンの前に現れ自身の刃を防いだ青年――森田・供助(月桂杖・d03292)を見て口元を綻ばせる。
     男はその場で殺気を溜めると……ちらり、サラリーマンの位置を確認する。
    「させません」
     夜明け前の闇から染み出た影のように、男の死角から銀光がはしる。
    「チッ」
     男は舌打ちすると共に殺気をキャンセル、日本刀を背中に回すようにして死角からの一撃を防ぐ。
     死角から不意をうった式守・太郎(ニュートラル・d04726)が供助の横に降り立つ。
    「一般の方は、必ず守ってみせます」
    「……守れると?」
     男が現れた邪魔者達を観察しつつ疑問をぶつけてくる。
    「ああ、だから全力以上でやるんじゃねーか」
     供助が男を睨みつつ。
    「それに、じゃなきゃあいつに届かねぇんだろうしな!」
     供助の言葉と共にさらに6人の少年少女が現れる。
     その中から九条・鞠藻(図書館のヌシ・d00055)が一歩踏み出す。
    「また会えましたね、石英さん」
     ホスト風の男、かつて武蔵坂学園で肩を並べて戦った石英ユウマは、その言葉に口の端だけで苦笑する。
    「彼はもういませんよ?」
     それでも、熱い想いは自然と口から溢れ出す。
    「ユウマくん、私もね、自分が堕ちて君の気持ちが解ったよ」
     華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)だ。
    「ははは、それは素晴らしい! ならそこを退いて下さい。その人生に絶望している彼を救わなければならないのでね」
    「違う! 例え堕ちて、人格が変わっても、ユウマくんはそんな事望まない」
     ユウマくんはいつも誰かを護るために……。
    「だからせめて、こんなゲームは絶対にさせないし、手の届く範囲で罪は犯させない!」
     語気強く言う灯倭にユウマは。
    「何を言うかと思えば……そうですよ、これはゲームです。あなた達が闇堕ちするか、私が人間達に救いを与えるか、のね」
    「ふむ。こやつが件の戯けか……なるほど。自分より他者を想う、優しい男の顔だの」
     飄々と言うのは八嶋・源一郎(颶風扇・d03269)だ。
    「石英さん、もう本当に戻れないんですか!?」
     そこに深刻そうに呟くのは華鳴・香名(エンプティパペット・d03588)だ。
     そんな少女を弄ぶようにユウマが嘲りながら言う。
    「さぁ、どうでしょうね? 私を殺してみればわかるのでは?」
     香名はグッと拳を握ると。
    「……ごめんなさい、私やっぱり戦えません」
     香名は他の仲間を振り切るように走って逃走する。
     背を見せる少女にユウマが斬りつけるような構えを取ろうとするが、ピクリと止まり僅かに逡巡する。
    「……まぁ、いいでしょう。それに後で追えば良い事です」
     ――戦力的にはあと1人減ってくれると確実なのですが……。
     ユウマが香名につられている隙に動いたのは太治・陽己(薄暮を行く・d09343)とアルベルティーヌ・ジュエキュベヴェル(ガブがぶ・d08003)だ。
     パニックテレパスでおろおろしていたサラリーマンに。
    「生きたいなら必死でしがみ付いてくださいまし」
     と、アルベルティーヌがスレイヤーカードから取り出したサーフボードを強引に押しつける。見たところ下の川は浅くは無いようだ。それなら――。
     ドフッ!
     サーフボードを受け取ったサラリーマンを陽己が川へと蹴り落とした。
    「自殺しようとしていたんだ、まさか死に方が選べると思うなよ」
     鉄橋から悲鳴をあげて落下するサラリーマン。
     さすがの六六六人衆も灼滅者達の行動に驚きを隠せない。
    「いや、まさかあなた方自ら、あの人間を救うとは思いませんでしたよ……本当、酷い事をする」
     サラリーマンを蹴り落とした陽己が、ユウマの言葉を無視してカードから日本刀を取り出す。
     結論を先に言えば、サラリーマンがその後どうなったかはわからない。ダークネス事件に巻き込まれた時点でバベルの鎖でニュースや新聞で情報が伝搬することが無いからだ。
    「ああ言う手合いは、死にたがるわりには最後の一歩を自分では踏み出せない……逆に言えば、誰かが手伝えばあとは覚悟が決まるものです」
     刀を鞘に納め、両手を広げてユウマは語る。
    「歓迎しますよ。あなた方は人を殺した。闇堕ちへの第一歩を踏み出したのですから」
     蕩々としゃべるユウマの言葉を、ガランガランと線路を転がる異音が邪魔をする。
     陽己だ。
     ユウマの語りに割り込むように、日本刀の鞘を投げ捨てたのだ。
    「最早、鞘に収める事は無い」
     陽己のソレは不退転の決意。
     これ以上、ユウマの言葉に貸す耳は無い。 
     面白くなさそうにユウマが言う。
    「……そろそろ、殺し合いを始めましょうか」
     空気がピンと張りつめる。
    「私達の意地、想い、届けて見せます、貴方の向こうにいるもう一人の石英さんに……」
     カードから2mの日本刀を取り出して鞠藻が言い、他の仲間達も殲術道具を構えそれぞれが配置につく。
     ユウマも納刀した柄に手を添えつつ僅かに腰を沈め灼滅者を観察する。
    「攻撃に守り、後ろの2人は回復ですか……隙の無い堅実な陣形だ。そこは素直にお褒めしますよ」
     真顔で言うその言葉は本心。
    「なら、こちらは力押しで行きましょう」 


    「向こう側にいる石英さんの為にも、今の石英さんに殺人を行わせる訳にはいきません」
     巨大な氷の刀身をもって戦艦すら切り裂く斬撃を鞠藻が繰り出す。
     ユウマが紙一重で回避するも、伸びた氷刃が僅かにスーツに血を滲ませる。ユウマは血を一瞥すると前衛に立つ灼滅者5人と霊犬の一惺を視界に捕らえ。
     グンッ!
     目を見開くと同時に重たい殺気が前衛達の心身を押し潰す。
     だが――。
    「今は私の成すべきことを成さなくてはなりません」
     アルベルティーヌの闇の契約と、源一郎の清めの風が吹き抜け、すぐに活力を取り戻す。石英ユウマに帰ってきて欲しいが、今は自身の役目を全うする事が最優先だった。
     即座に立ち直りユウマへと飛び込んだのは灯倭だった。
     大きな鎌に死の力を宿し振り下ろす。
     どんなに願っても石英ユウマが戻る事は無いのかもしれない……けど、それでも、伝えたい事はたくさんある。
    「聞いて、私も堕ちたの……だから言える、残すのも残されるのも辛いって……だからこそ、止めに来たよ」
     大鎌を刀で弾き返しユウマが答える。
    「止めにきた? なら殺してみなさい! 救って下さいよ!」
     懐に飛び込んでくるユウマに、灯倭は静かに……わかったよ……と呟く。
    「全員一緒だと思うなよ!」
     ユウマの突進を回避する灯倭と入れ替わりに、供助がユウマに打ちかかる。その杖を空いている左手で打ち払おうとするが、インパクトの瞬間に魔力が爆散、衝撃にユウマがたたらを踏む。
    「救済? 知らねぇな。とことん邪魔するために来てんだよ。お前をぶちのめして、石英引っ張り出すまでな!」
    「ははは、結局彼を取り戻したいというわけですか……なら、そのつもりで何度でも来て下さい。いつか報われるかもしれませんよ?」
     ユウマの言葉に灼滅者達の冷静なる仮面が僅かにブレる。
    「もっとも、そうしてくれるのなら、そのたびに私は序列を上げされてもらいますけどね」
     ははははははっ、と笑うユウマは本当に愉快そうだった。
     ズシャッ!
    「ぐっ!?」
     笑うユウマの脇腹が切り裂かれる。
     不意の一撃にそちらへ刀を振るが、切り裂いた太郎は再び距離を取っている。
    「宿敵が相手なので容赦はしません」
     白いマフラーをたなびかせ、太郎が冷徹に言い放つ。
     学園にいた頃の石英ユウマと面識の無い太郎にとって、一番に尊重するのは、彼が残したという最後の言葉だった。
    「残念ながら、俺に言葉での揺さ振りは利きませんよ」
     ユウマを見つめる瞳に揺らぎは無い、そこにあるのはダークネスに対する容赦無き決意のみ。
     その時だった。
     朝日の上らぬ暗い空に、火の玉が集まったような炎が空へと昇った。
     灼滅者達が誰ともなしに目を合わせ、コクリと頷く。
     ユウマだけが疑問符を浮かべるが、すぐに攻撃を開始する7人にユウマも迎撃に移る。
     戦いは続き、そして最初にユウマの目的に気がついたのは誰だろうか。
     ユウマの目的、それは回復不能の傷を前衛に与え続け、ごり押しで戦闘不能にさせようとするものだった。
     そして――。 
    「そろそろ限界でしょう」
     ユウマの声が背後から聞こえたと思った瞬間、陽己は背後から日本刀で刺し貫かれていた。
     遠くなる意識。
     胸に湧き起こる気持ちは、石英ユウマが堕ちた時と同じ……無力感。
    「さぁ、堕ちなさい」
     ユウマの言葉に対し、陽己は前へ進むことで己に刺さった日本刀を強引に抜き去る。
    「分かってるさ……」
     薄れる意識を魂の力で引き戻す。
    「……だが、此処で止めるために……来たんだ」
     ユウマが日本刀を振るって血を飛ばし、必死ですね、と呆れるように言った。


    「一惺! 庇うよ!」
     灯倭が供助の前に立ちふさがり、魂の力だけで立つ陽己を霊犬の一惺が飛び出し庇う。
     今回、ユウマは一定以上の傷を負えば撤退するとの情報があった。
     だが灼滅者達は捨て身での短期決着ではなく、堅実な戦い方を選んだ。
     結果――。
    「これで1人と1匹が倒れて、壁役は1人だけですね」
     ユウマの言うとおり一惺が消滅していく。
    「まだ……だよ」
     震えるように立ち上がる灯倭。
     石英ユウマの最初の闇堕ちの時、彼には助けて貰った恩がある。
    「私はまだ……伝えてない」
     ぐっと両足を踏ん張り、大鎌を構える。
    「あの時、助けに来てくれて……ありがとうって!」

    「ヤシマ!」
     アルベルティーヌが名を呼び、同時に源一郎と手分けするように治癒が飛ぶ。常に前衛へ攻撃が行く分、後衛の2人は回復に専念できた。
     だが――。
     ユウマの刀が月型の軌跡を描いて前衛を薙ぎ払う。
     そして……陽己が己の切り裂かれた腹を一度見てからユウマへ。
    「石英ってのは水晶のことだ……お前、知ってるんだろ?」
    「?」
    「ただの、石ころなら……さっさと諦めて……」
     バタリと陽己が倒れ、それと同じくしてもう1つバタリと音がする。
     灯倭だった。
     先ほど仲間を庇った分、限界に達していたのだ。
     しかし灼滅者に訪れたのはピンチだけではない。
     同じく前衛として斬り裂かれるはずだった鞠藻の目の前に、新しい人影が飛び込んで来たのだ。
     それは全身からオーラを立ち上らせた――香名だった。
    「たっだいまァ、ユウマくぅ~ん」
     おどけるような香名に、ユウマが「逃げたのでは?」と不愉快そうに言う。
     香名の眼鏡が反射し、その瞳がギロリと凶暴な光りに代わる。
    「ざぁ~んねん、オレは殺る気満々だぜぇ!!」
     香名はユウマとの接触後、即座に逃亡……のフリをして電車を止めに向かっていたのだ。発炎筒、警告板、ライト、付近の看板(壊した)などを駆使し、電車がこちらにやって来るのを防ぐ作戦は、完璧だったと言わざるをえない。
     ユウマは香名の登場に虚を付かれたが、すぐに冷静さを取り戻して戦況を確認する。
     壁は増えたが2人を戦闘不能にしているのだ。
     チェックメイトは覆らない。
    「ふふふ……」
     笑いだすユウマに鞠藻が妖刀を上段から振り下ろす。
    「はははははっ!」
     鞠藻に斬られながらも笑い続けるユウマ、その視界いっぱいに今度は鬼に変化した供助の腕がせまる。
     ユウマは下段から鬼の手をかち上げると、そのまま供助を蹴り飛ばす。
    「くくく……それではゲームを終わらせましょう」
     ユウマがとどめを刺そうと動きだす。
     ……と、そこでユウマは異変に気が付く。
     右、左、ユウマが視線で倒れた2人を探す。
     いない。
     先ほど倒れたはずの2人の姿がなくなっていた。
    「どうかしたかのぅ?」
     源一郎がいつもの調子でのんびりと聞いてくる。
     ユウマの顔に混乱と憎悪の相が浮かび上がる。
    「ずいぶんと険しい顔をするのぅ……優しいお前さんはどこに行ったんじゃ?」
     源一郎を睨み、ユウマが殺気をぶつけてくる。
     しかしこの飄々とした青年は、欠片も動揺せずにユウマに答える。
    「誰かここに倒れていたとでも言いたそうな顔じゃが……そんな2人、初めからいなかったようじゃな?」
    「どこに……やった」
     底冷えするような声で、ユウマが恫喝してくる。
     それに答えたのは同じく冷たい灼滅者の声。
    「言うと思いますか、ダークネス」
     キッとユウマが太郎を睨む。
    「いいでしょう。それなら追加オーダーするまでです」


     ユウマが殺気を全開にして放出すれば、その痛い程の殺気で前衛に立つ者達の意識を削り取る。
     ファサリ……と白いマフラーが線路に落ち、鞠藻を庇った太郎が倒れる。
    「さぁ、死にたくなければ堕ちる事です」
     供助を見ながらユウマが言う。
     だが供助は顔を上げて……笑っていた。
    「何がおかしいのです?」
    「俺は、な……お前相手じゃ絶対堕ちないって……決めてんだよ」
     石英ユウマが闇堕ちした依頼で命を救われたのが、つい昨日のように思い出せる。
     あの時から供助は彼に大きな借りがあるのだ。
    「それに……」
     ――俺が堕ちたら……お前は……もっと心を閉ざしちまう……。
     そして供助は倒れた。
     再び戦闘不能者が2人になる。
     そしてユウマは見る事になる。自分の予想外の行動を灼滅者達が取っていた事を。
     源一郎と鞠藻が即座に動くと、倒れた供助と太郎を鉄橋下の川へと蹴り落としたのだ。
     ユウマの目が大きく開かれる。
     ユウマは絶対的に自身が有利になるゲームを行っていた。
     しかし灼滅者は盤上のルールに縛られず、ユウマの斜め上を、ルールの範囲外の行動を取ったのだ。
    「タネが解れば――」
    「関係ねぇんだよ! オラオラオラ!」
     香名の抱えたガトリングガンが火を噴き、炎の弾丸が連射される。
    「こんな程度の……くっ」
     日本刀で弾丸を撃ち払うが、その幾つかはユウマの身体に着弾する。
    「さよならの時間だぜぇ?」
     そして僅かにふらついたのを、香名は見逃さなかった。
    「回復はいい! 攻撃だ!」
     治癒を予定していたアルベルティーヌが、即座に切り替えると指で十字を切る。
    「死なないで下さいね、あなただけの体では無いのですから」
     ユウマの身体に紅色の逆十字が鮮血と共に解放され、大量の血を噴き上がらせる。
    「くっ……私が、動揺させられるとは……」
     そう言うと傷を抑えたまま大きく後ろに跳躍し、灼滅者達と距離を取る。
    「今回は皆さんに花を持たせてあげますよ。これ以上戦うのは……私もリスクを負うことになりますしね……」
     撤退しようとするユウマに、その背に、鞠藻が声を投げかける。
    「今は助けられなくても、何度でも貴方の前に現れ、いつか石英さんを助け出してみます!」
     ユウマは一度だけ振り返り鞠藻達を見つめると、朝の宵闇に紛れるように姿を消した。

    作者:相原あきと 重傷:森田・供助(ヴァルクフォーゲル・d03292) 式守・太郎(ブラウニー・d04726) 華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983) 太治・陽己(薄暮を行く・d09343) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 101/感動した 3/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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