桜の雨、古都に降る

    作者:春風わかな

     京都市内、某所にて。
     墨色の空に薄桃色の小さな花びらが舞う。
     ――ふわり、ひらり。
     通りがかった大学生くらいのカップルが足を止めて頭上の桜を見上げた。
    「早いな、もう桜も終わりかぁ」
    「満開の桜も綺麗だけど、散る桜も綺麗だよね」
     舞い散る花びらを掴もうと女性が手を出した、その時。
     めき、めきょ……ばさ、どさっ! ドーン!!
    「――きゃっ!?」
     不自然なくらい大量の花びらが降ってくると同時に目の前に桜の樹が倒れてきた。
    「い、いきなり樹が折れた-!?」
    『ふぅ、やっと切れました! 結構大変ですねぇ~』
     あたふたと慌てふためくカップルの前に現れたのは和服姿の小柄な女性。地につくほどの黒い長い髪に桜色の振り袖。ちょっと低い鼻のせいか愛嬌のある顔立ちだった。
     そんな彼女の右手には大きな斧が握られている。この斧で桜の樹を切っていたのだろうか。……結構大変そうである。
    『でも、日本の桜を全て御室桜(おむろざくら)にするためにはこれは必要なこと……!』
     御室桜以外の桜を全て伐採し、代わりに御室桜を植える。それが彼女のやろうとしていることだった。全ては御室桜で日本を埋め尽くすため。……道のりは遠いけれども、負けない、挫けない。
     彼女はこぼれ落ちそうになる涙をそっと拭い、ぐっと拳を握ってしばし宙を見つめる。何に酔いしれているのかはよくわからなかったが、声をかける間もなくあっさりと彼女は現実に戻ってきた。
    『あ。御室桜の苗を持ってくるの忘れました。んー……とりあえず、今は次の樹を切りましょう!』
     呆然とするカップルに目もくれず、彼女は再び斧を大きく振り上げ、桜の樹に向かって振り下ろした。

    「御室桜、知ってる?」
     教室に集まった灼滅者達の姿を確認すると、抑揚のない声で久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)が話し出した。
     御室桜とは京都にある八重咲きの桜で樹高が低く、他の桜に比べて遅咲きなことで有名だ。――その御室桜を深く愛するが故に闇に墜ちた者がいる、と來未は言う。
     『御多福・櫻子(おたふく・さくらこ)』と名乗るその人物は、長い黒髪に桜色の振り袖姿。立派な成人のはずだが、背が低いのが特徴だ。そんな彼女は片っ端から桜の樹を切り、代わりに御室桜の苗を植えている。
    「日本を、御室桜で、埋め尽くすって」
     何年計画なのかはさておき、このままご当地怪人に大人しく桜を伐採させるわけにはいかないので彼女を灼滅してほしいと來未は表情を変えることなく淡々と告げた。
     來未の未来予測によると、櫻子は市内の小さな公園で桜の樹を伐採しようとしているのでまずは話しかけて伐採を止めてほしい。どの桜を切るかこだわりはないらしく夜桜を見に来たとでもいえば伐採をやめるだろう。だが、すぐに他の桜を切りに行こうと立ち去るので彼女を引き留める必要がある。
    「一緒に、夜桜見れば、一石二鳥」
     櫻子の引き留めに成功したら、彼女を怒らせて戦闘に持ち込んでほしい。櫻子が愛する御室桜けなせば当然激怒するだろう。もしくは他の桜を褒めちぎることも効果を発揮すると予想される。
     櫻子はご当地ヒーロー、及び龍砕斧のサイキックによく似た技を使用する。
     また、櫻子は御室桜をけなした人を優先して攻撃し、御室桜への愛を感じられる人は無意識のうちに攻撃を控えるようだ。この習性を生かした作戦を立てれば、戦闘を有利に展開させることが出来るだろう。
     來未は説明を終えると顔をあげ、ぽつりと呟いた。
    「――桜の樹、守って」
     来年もまた、綺麗な花で皆を喜ばせることが出来るように。
     教室を出て行く灼滅者達の背中を來未は黙って見つめていた。


    参加者
    天津・麻羅(神・d00345)
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    夕永・緋織(風晶琳・d02007)
    椙杜・奏(翡翠玉ロウェル・d02815)
    阿櫻・鵠湖(セリジュールスィーニュ・d03346)
    閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)
    黒崎・紫桜(日常を守護する葬焔の死神・d08262)
    宍場・陵太(浮雲・d12433)

    ■リプレイ

    ●桜の雨が降る前に
     公園へ向かうと闇に包まれた空に舞う薄桃色の花びらが灼滅者達を出迎えた。
     静かにそよぐ風に乗ってひらひらと舞う花びらを見つめ、椙杜・奏(翡翠玉ロウェル・d02815)は独りごちた。
    「やっぱり桜は、散り始める頃が一番綺麗だね」
     満開を過ぎた桜は風が吹くたびにゆっくりと花びらが散っていく。
    「で、敵さんはどこだ?」
     ダークネスの姿を探す宍場・陵太(浮雲・d12433)の視界の端で何かがきらりと光る。慌てて視線を向けると桜色の振袖姿の女性が、桜の樹に向かって斧を振り下ろそうとしているところだった。――彼女がダークネスの御多福・櫻子で間違いないだろう。
    「あの!!」
     慌てて仙道・司(オウルバロン・d00813)が声をかけて櫻子を制する。
    「ボクたち、ここの桜を見に来たんですけど……」
     思いがけず人の声がしたことで櫻子は何事かと振りかぶっていた斧を下ろし、ゆっくりと声の主の方に顔を向けた。見れば花見弁当や花ござ、懐中電灯を持った8人の少年少女が立っている。
    『あら。それは気が付かず申し訳ございませんでした』
     櫻子はぺこりと頭を下げると、そそくさと撤退する準備を始めた。野望を果たすために切るべき桜はまだまだたくさんある。他の桜を切りに行くため早々に立ち去ろうとする櫻子だったが、黒崎・紫桜(日常を守護する葬焔の死神・d08262)は彼女を引き留めようとしてさりげなく声をかけた。
    「一緒にどうだ? そろそろ散ってしまうけど、綺麗なもんだろ?」
     紫桜の言葉に頷き、奏と司も櫻子を花見に誘う。
    「良かったら君も一緒にどう? 皆が用意してくれたお弁当もあるしね」
    「そうですよ。折角のご縁ですし、一緒にお花見しませんか」
    『でも、私……』
     逡巡する櫻子の傍らでは阿櫻・鵠湖(セリジュールスィーニュ・d03346)がてきぱきと花見の準備を進めている。ござを広げ、お弁当を並べ、魔法瓶のお茶を各自のコップに注ぐ。霊犬の梵ちゃんもお行儀よく準備をするご主人様を見守っている。
     そして最後に皆が持参したLED懐中電灯で桜を照らせば、夜の闇に淡い桃色の花が浮かび上がった。その幻想的な様に見上げた皆が思わず息を飲む。
    「桜色の振り袖のお姉さんも、折角だから一緒に如何?」
     夕永・緋織(風晶琳・d02007)がお弁当の蓋を開け、櫻子にその中身を見せる。
    「ほら、卵焼きもあるのよ。甘いのは好き?」
    『大好きです!』
     ぱぁっと顔を輝かせた櫻子はいそいそとござに腰を下ろし、勧められるままに卵焼きに手を伸ばすのだった。

    ●春夜の宴
     ライトに照らされた桜を背景に行われる宴会は和やかな雰囲気に包まれていた。
    「あ、櫻子さん。お多福豆も如何ですかっ♪」
    『わーい、ありがとうございます。いただきますね~』
     にっこり笑顔で黒豆を勧める司を断ることもなく、櫻子が美味しそうに頬張る。美味しそうに食べる櫻子と、鵠湖は桜の話で盛り上がる。
    「私、桜前線に沿ってお花見旅行をするのが夢なんです。桜の名所って、全国にたくさんあるでしょう?」
     うっとりとした表情で語る鵠湖の頭をよぎるのは、ここに来る前に見た吉野山の美しい桜。だが、彼女にとっての一番は言うまでもない。愛するご当地、横手城址の桜であろう。
    『全国に名所は多々あれど、一番は仁和寺の御室桜(おむろざくら)ですっ』
    「……」
     閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)は京都のご当地ヒロインだが桜談義には加わらず無言だった。このご当地怪人には言いたいことがいっぱいあるが、今はまだその時ではない。
     一方、桜談義に耳を傾けつつ静かに桜を眺める奏の心中は少々複雑だった。
    (「こうして呑気にお花見しているのは、不思議な心地だな……」)
     落ち着かないのはやはりダークネスと一緒に花見をしているからなのか。それとも、隣でぶつぶつ呟く声のせいか。
    「御室桜……おむろありあけ……いや、違うな」
     天津・麻羅(神・d00345)はからあげを食べながら櫻子を怒らせる方法について一生懸命考えていた。
    (「そうじゃ、最初に持ち上げて最後にどん底まで落とす。これじゃ!」)
     まさに神が降りてきた。ご満悦の麻羅は御室桜を褒めようとするが……。
    「……」
     何も思いつかなかった。
     代わって緋織がそういえば……と切り出す。
    「京都には特有の綺麗な桜があるのよね。……遅咲きで背の低い桜なんだっけ?」
     私はまだ見たことないのだけれど……と緋織は小さな声で付け加え、櫻子の様子を伺うが変化はないようだ。
    「おお、知っておるぞ! 御室桜というのじゃろ」
     えへん、と得意気に胸を張る麻羅。
    「だが、わしも実物は見たことないがな」
    「俺も見たことねーなぁ。つーかそもそも聞いたこともねーし」
     関心薄そうに反応する陵太を見て、櫻子が不満そうな表情で口を開く。
    『皆さん御室桜を知らないんですか? 御室桜とは……』
    「ここ京都にある『仁和寺』というお寺に咲く桜のことを特に指して呼ぶ名称ですわ」
     櫻子の説明をわざと遮り、クリスティーナが皆に説明する。
     仁和寺の御室桜は江戸時代から庶民の桜として親しまれており、その品種は9割がたが『御室有明』と呼ばれるものだ。御室桜は遅咲きで樹高が低いのが特徴といえる。樹高が低い理由は土地質によるものではないかと言われているが定かではない――。
    『素晴らしい……! 御室桜への愛を感じます』
     クリスティーナの説明に機嫌をよくした櫻子だったが、それも束の間、紫桜の言葉に再び表情を強張らせた。
    「でもなぁ、遅咲きだとなんか違うんだよな。時期に咲くから綺麗なんだよな」
     ライトに照らされた桜を見上げた紫桜がかぶりを振り、司も頷き同意する。
    「それに、桜は背が高くて堂々としている方が素敵ですよね」
    「その『何とか桜』って有名なのか? つーか桜は桜だし、べつにどんなんでも良くないか?」
     欠伸交じりに呟く陵太は全身で『全く興味ありません』と語っている。ぼんやりと夜桜を眺める陵太に櫻子がキレた。
    『どうでもよくありません!!』
     ここまで言われては黙っていられない。櫻子はジロリと陵太を睨み付けた。そしてクリスティーナに救いの手を求める。
    『貴女ならわかってくれますよね!? 共に御室桜の美しさを皆に知らしめましょう!』
    「お断りしますわ」
     静かにきっぱりと、クリスティーナは櫻子を拒絶した。
    「先程から説明していますが、御室桜とは仁和寺に生えている桜のこと。他の場所に同じ品種を植えても御室桜になる筈がないのですわ」
    『えぇぇぇぇ……!?』
     知らなかったらしい。がぁぁぁん、と櫻子はショックを受けた様子を隠すこともなく、その場に崩れ落ちた。
     そんな櫻子をクリスティーナは一瞥し、スレイヤーズカードを取り出した。
    「そんなことも知らないとは御室桜に対する愛が足りませんっ! 宿敵としてご当地愛をその身に刻みつけて差し上げますわ!」

    ●それは花を散らす嵐のように
     純白のコスチュームに身を包んだクリスティーナに続き、灼滅者達は次々に解除コードを唱える。と、同時に櫻子は後ろへと下がり、灼滅者達と距離を取った。
    『私の野望が……日本全国を御室桜で埋め尽くす計画が……っ!』
     しょんぼりと肩を落とす櫻子を憐れむような視線で見つめ、紫桜はチョーカーをぎゅっと握りしめる。漆黒のオーラに包まれた紫桜の背の黒い片翼がばさりとはためいた。
    「さぁ、死神を、見せてやるよ」
     日本刀を構えた紫桜の前から櫻子の姿が消え――次の瞬間、櫻子は強烈な一撃を与えんと両手で握った斧を大きく振り上げていた。
    「……っ」
     櫻子が斧を振り下ろした相手――それは陵太だった。作戦のためとはいえ御室桜をけなしたことに罪の意識を感じていた陵太は避けることはせず、櫻子の攻撃をその身で受けることを選んだ。
    「ぐ……はぁっ」
     だが、想像以上に強烈な一撃を堪え切れず、ぐらりとバランスを崩し思わず膝をつく。
    「大丈夫ですか!? 梵ちゃんも回復して」
    「ちょっと待って。今、傷を癒すわね」
     鵠湖が出現させた小さな光輪で陵太の前に盾を作り、傷を回復させると同時に彼自身の護りの力を強化する。梵ちゃんも主人の命に従い浄霊眼で陵太の傷を癒す。
     しかし、それだけでは回復量が足りないと判断をした緋織もまた【《翼弓》風乙女】に矢をつがえ、癒しの力を込めた矢を放つ。――女性とはいえ、見た目よりも攻撃力は高いようだ。
    「この地の民をたぶらかす邪神めが……主の好きにはさせん!」
     鋭い眼差しで櫻子を睨み付ける麻羅だが、どうやっても可愛らしくなってしまう。
    「邪神はこのわしが成敗してやるのじゃっ!! くらえ!!!」
     とぅっ! と掛け声とともに大きく足をバックスイングさせると爪先で櫻子を蹴る。だが、櫻子は煩わしそうに少し表情を歪めただけ。悔しそうに麻羅は唇を噛んだ。
    「他の桜にもいいところはあるんだ。それぞれの違いって奴をわかれや!」
     紫桜は日本刀を抜くと素早く櫻子の死角へと回り込む。黒い刀身が彼女の桃色の振袖を切り裂き、柄に付いた四葉のクローバーの武器飾りがしゃらんと揺れる。
     物憂げに紫桜へと視線を向ける櫻子と目が合ったのは、紫桜の背後から狙いを定めていた司。
    「御室桜にチビで鼻ペチャでドン臭い自分と重ね合わせちゃったんでしょう!?」
     指輪から放たれた魔法弾が櫻子の頬をかすめると、すっと細く赤い線が浮かび上がる。
    「うう、ボクもそうだから気持ち分かっちゃうのです~」
     自分の言葉に傷ついた司が耐え切れずに悶え、がくりと肩を落とした。
    『貴方もさっき、御室桜をけなしていましたよね?』
     軽い身のこなしで桜の樹へと飛び上がった櫻子が司へと襲い掛かる。だが、寸でのところでクリスティーナのビハインド・グロウが割って入り、その背に司を庇う。
     予期せぬ邪魔に躊躇した櫻子の隙をクリスティーナは見逃さない。ぐっと櫻子の喉元を片手で正面から掴みかかり紅しだれダイナミックをお見舞いする。
     櫻子は宴会で挑発していた陵太と司を中心に攻撃を繰り出している。メディックである鵠湖と緋織は回復に専念しているが押され気味。ここは少し時間を稼ごう――。
     ギルティクロスで攻撃をしつつ、冷静に戦況を分析した奏は櫻子を挑発しようと声をかけた。
    「御室桜は古から伝わっているけど、それだけだよね。綺麗な桜だったら他の場所にも沢山あるよ」
     奏の言葉に反応し、櫻子がキッと睨み付ける。と、次の瞬間、奏の身体を必殺ビームが貫いた。膝をつきそうになる身体を武器で支え、奏は急いでドラゴンパワーで回復するとともに自身の守りを固める。目論見は成功したようだ。
     灼滅者達も果敢に攻めるが、対峙する櫻子の勢いもまたなかなか陰りを見せなかった。
    『私の邪魔をしないでください!!』
     五月蠅い! と声をあげ、櫻子は前衛に向かって突っ込んできた。振りかぶった斧で一気に前衛を薙ぎ払う。堪え切れずグロウと梵ちゃんが静かに姿を消した。
     すぐさま緋織が清めの風で仲間達の傷を回復する。
     ――作戦を試すなら今だ。
     そう判断した司は櫻子の名を叫ぶ。
    「櫻子さん!!」
     名前を呼ばれた櫻子が、反射的に振り返った。
    「さっき、宴会で言ったこと……嘘ですっ。ボク、歴史があって小柄でのんびり屋な御室桜……大好きですもん」
     司を援護せんと、すかさず鵠湖が言葉を紡ぐ。
    「江戸の昔から愛されただけのことはある、宝物のような景色だと思うの」
     司の作戦に気付いた仲間達も皆、口ぐちに御室桜を褒めだした。ただし、攻撃の手を休めることはない。
    『皆さん……』
    「……違いがあるから、特徴が生まれて、それぞれ際立つんだもの。……私、御室桜、好きよ」
     もちろん、他の桜も……と緋織は続けたが、それは櫻子に届くことはなかった。
    『わかってくれたんですね……そうです! 御室桜は日本一、いえ世界一の桜なんです!!』
     両手で斧を握りしめて感動に震える櫻子を見て、麻羅が嬉しそうに叫んだ。
    「ひっかかったな! 隙ありじゃ!」
     麻羅は隙だらけの櫻子に向かって突撃すると両手でポカポカと叩く。これぞ、秘技! 神ダイナミック!!
     今だ、といわんばかりに全員が一斉に攻撃を仕掛ける。
    「横手お城山ビーム!」
     櫻子がバランスを崩したところを狙って鵠湖がビームを放てば。
     緋織が【《奏錫》天籟翼】をコツンと地面に打ち鳴らし、カシャンと遊環の澄んだ音色が響く。緋織の瞳が金色を帯びたのと同時、激しい雷が櫻子に襲い掛かった。
    「好きなものに一生懸命になれるのは、素直にすごいと思うよ」
     奏の傷から流れた血が炎へと変わる。その灼熱の炎を龍砕斧に宿し、櫻子に向かって叩きつける。間髪入れずに陵太がすっと腰を落とし一気に櫻子の懐に飛び込む勢いで刀を一閃。たちどころに切り捨てた。
    「でも、そんなに好きなら、もっと他に方法があんだろ?」
    「思いを込めるなら……他のも愛せよ……!」
     紫桜の足元の影が伸び、触手のような腕が櫻子を絡め取り自由を奪う。
     捕縛から逃れようと屈む櫻子の前に立ったクリスティーナが両膝で櫻子の頭を挟み込み――。
    「醍醐の花見ダイナミック!」
     金色のバトルオーラが桜の花びらのようにひらひら舞いながらのパワーボムは艶やかで強烈な一撃。地面に叩きつけられると同時、櫻子の身体は爆発したのだった。

    ●続・春夜の宴
    「ご当地の平和を守ることができましたわ」
     ほっと胸を撫で下ろすクリスティーナの提案により灼滅者達は夜桜鑑賞を再開することにした。
     先程の弁当だけでなく、司が用意した甘酒や鵠湖が持参した花見団子も並べられる。
    「このお団子美味しいのじゃ!」
    「それは横手のお団子なんですよ。横手市の団子は平たいんです」
     地元の名物を麻羅に褒められ、ご機嫌の鵠湖。
     俺も、と手を伸ばした陵太が一口齧って珍しそうに声をあげた。
    「これ、団子の周りが羊羹みたいなのでコーティングされてるんだな」
     わいわいと花見を楽しむ仲間達を横目に司は桜の樹の側で静かに祈りを捧げていた。
    (「どうか、次は御室桜に生まれ変わって下さい、ね?」)
     そんな司に気付いた紫桜は静かに桜を見上げる。
    「思いは強すぎたけれど桜を大好きな事は伝わってたぜ」
     もし、再び会うことが出来たならばその時は笑顔で桜について語りたいものだ。
    「被害が出なければ、そっとしておいてあげたかったな」
     甘酒の入った杯を見つめ、ぽつりと呟いた奏に緋織も静かに頷く。
    「どうか……他の桜も認めて、心安らかで居られますように」
     カチャン、と二人静かに杯を鳴らした。

     司の綺麗な歌声に合わせるかの如く、春の夜風がばさりと桜の樹を揺らす。夜空に舞う桜の雨は、ゆっくりと桜色から若葉色の季節へと移りつつあることを告げていた。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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