とある腐女子が闇堕ちしたらデモノイドになった

    作者:ライ麦

    「いつも尻拭いさせて、すまねぇな……」
    「いいんだよ……僕は、君のことが好きなんだから……」
    「お前……実は、俺もお前のことを……」

    「おい上土棚! 何補習中に鉛筆と消しゴム眺めてニヤニヤしてるんだ!」
     美玖のめくるめく妄想は、男性教諭の声にかき消された。一緒に補習を受けていた数人のクラスメイトの視線が、一気に自分に集まる。恥ずかしさと、妄想タイムを邪魔された怒りと、今してた妄想を見透かされたんじゃ、という思いとが混ざり合って、美玖は真っ赤になった。やばい逃げ出したい。そう美玖が思った瞬間、体が膨れ上がる。
    「!?」
     青い異形へと変貌し、男性教諭に襲い掛かる。
     夕暮れの教室が、阿鼻叫喚の地獄と化した。

    「何を見ても腐妄想してしまう腐女子さんが、デモノイドになってしまうようです」
     佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)の一言に、灼滅者達はいろんな意味で目を剥いた。
    「腐女子さんが闇堕ちする事件とか、ありそうだなと思ってエクスブレインの人に確かめてもらったんですが……まさかデモノイドになるなんて」
     そう呟く志織。説明を、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が引き継いだ。
    「デモノイドとなった一般人は、理性も無く暴れ回り、多くの被害を出してしまいます。事件を起こす直前に現場に突入することができるので、デモノイドを灼滅し、被害を未然に防いでください」
     そこまで説明した後、ただ、と姫子が付け加える。
    「デモノイドになったばかりの状態ならば、多少人間の心が残っている事があります。その人間の心に訴えかける事ができれば、灼滅した後にデモノイドヒューマンとして助け出す事が出来るかもしれません」
     姫子の説明の後、再び志織が口を開く。
    「デモノイドになってしまう腐女子さんの名前は、上土棚・美玖(かみつちだな・みく)さん。補習中に鉛筆×消しゴムで妄想してたところを、教師に注意されて闇堕ちし、デモノイドになってしまうようです」
     鉛筆×消しゴムって。何人かは意味が分からずポカンとし、何人かはああ、と思わず苦笑する。
    「デモノイドとなった美玖さんの攻撃方法は、腕力で殴ったり、腕が変形した刃で切り裂いたり……いずれも近接のみの単純なものですが、圧倒的な力は侮れません」
     それに、と姫子が付け加える。
    「KOした時点で、デモノイドが人間の心を強く残し、かつ、人間に戻りたいと願うのであればデモノイドヒューマンとして生き残る事が出来ますが……人を殺してしまった場合は、人間に戻りたいという願いが弱くなるので、助けるのは難しくなってしまいます」
     教室にいる人を如何に素早く避難させるかも考える必要がありそうだ。
     最後に、姫子が言う。
    「私には、腐女子……さんのことはよく分かりませんが、ともかく、デモノイドは一体で8人の灼滅者を相手にできる強さを持っています。お気をつけて、行って来てくださいね」


    参加者
    長久手・蛇目(地平のギーク・d00465)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)
    卜部・泰孝(アクティブ即身仏・d03626)
    痣峰・詩歌(自宅駐在員・d06476)
    山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)
    星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)
    ジャンゴ・ミナヅキ(撲殺戦士マジカルワンニャー・d14519)

    ■リプレイ

    ●ベーコンレタス
     簡潔に状況を説明すると、補習中に鉛筆×消しゴムで妄想していた腐女子が、デモノイドに闇堕ちしました。
    「授業中とかについつい考え事しちまうのはわからなくもねーけどなー。でもだからって闇堕ちまで行っちまうのは、ちょっと頑張りすぎだぜ……!」
     天方・矜人(疾走する魂・d01499) が呟く。一方、ジャンゴ・ミナヅキ(撲殺戦士マジカルワンニャー・d14519)は、
    「うぅ~む、隠したくなるのは分かるかも~」
     と頬に指を当てて小首を傾げた。彼自身も腐男子だから。
    「俺も妹が腐女子だからどんなに救われたことか……だから、今度は俺が救う番だよ!」
     グッと胸を張るジャンゴに、山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)も頷く。
    「美玖ちゃんとは話せればいい友達になれそうっす。デモノイドなんかにさせないっすよ」
    「私も美玖さんの気持ち、分かります。絶対ぜったい、助けますから!」
     佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)の思いは強い。絶対に助けるという決意を胸に、灼滅者達は問題の教室のドアを開く!
    「よう、妄想ガール! ちょーっと待ってくんねーか!」
     矜人が声をかけた向こうで、青い異形がん? というようにこちらに顔を向けた。わずかに茜色に染まった教室では、今まさにデモノイドが男性教師に襲い掛かろうとしているところだった。
    「待たれい! 暴力溺れれば、汝、人とし得れる充足失おう」
     卜部・泰孝(アクティブ即身仏・d03626)が枯れたような腕を伸ばして制止を求める。一方で、星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)が
    「私の推理が正しければ、貴方が今回の事件の犯人……いえ腐人の上土棚・美玖さんですね!」
     ビシィ! とデモノイドを指差す。無論、未来予測の状況上このデモノイドが件の腐女子に間違いないわけであるが。
     突然の闖入者にデモノイドが気をとられているうちに、菜々は素早く教師とデモノイドの間に滑り込んだ。
    「大丈夫っすか!? 今、助けますから!」
     そのまま彼の手を引っ張って教室外へと連れて行く。一瞬注意が灼滅者達の方に向いたとはいえ、デモノイドの標的は未だ教師。低いうなり声を上げ、巨腕を振りかざし……たところで
    「先輩としてカッコイイとこ見せないとな!」
     長久手・蛇目(地平のギーク・d00465)がその前に立ちはだかった。初手の斬影刃を放ちつつ、目配せするのはジャンゴ。ダブル眼鏡でデモノイドこと美玖の気を引く作戦だ。といってもジャンゴの方に特にアイデアがあったわけではないようで、
    「えっと、どうしよう?」
     と首を傾げた。蛇目はズッコケそうになる。しかしややあってジャンゴも何か思いついたらしく、蛇目にてくてくと近づいていき……ぎゅっと彼を抱きしめた。
    「ふぁっ!?」
     抱きしめて、妹や弟達にするみたいに優しく頭をなでなでしてくるジャンゴに、蛇目は驚きの声を上げる。相手の行動にもノリでのっかるつもりだったけど、これでは先輩としての威厳が! ただでさえ先輩だけど10cm以上も身長が低いのに!
     その様子を見た志織と綾の思いはひとつ。
    「(ビデオ回したいっ!)」
     だが今は一般人の保護が最優先。涙を呑んで、手分けして残っている生徒達の避難誘導にあたる。
    「……こっち」
     痣峰・詩歌(自宅駐在員・d06476)も、生徒の手を掴んで教室外へと連れて行く。蛇目とジャンゴがデモノイドの気を引き、抑えてくれている間に、矜人も生徒の一人を確保。担ぎ上げて連れ出す。こうして教室にいた一般人全員を教室外まで連れ出せたことを確認すると、矜人はパニックテレパスで強烈な精神波を送った。
    「アイツには先にオレ達の補習が必要なんだ。つーわけで『今すぐここから逃げろ!』」
     突然の出来事にただでさえ混乱していた一般人達は、素直にその扇動に従った。闇雲に我先にと逃げ出す。暫くは戻ってこないだろう。

     一方、教室内部では。
     BでLな光景に気をとられている間に、攻撃すべき対象を見失った美玖は、暴れまわっていた。巨腕で誰彼構わず殴りつけ、腕が変化した刃で切り裂く。特に囮を買ってでた蛇目とジャンゴの負傷は大きかった。回復サイキックで凌いではいるものの、次第に回復できない傷も蓄積していく。避難にあたる人手が足りていたようなので泰孝は教室に残っていたが、それでも半数以上が避難にとられてしまったのは痛かった。一般人救出に少々人手を割きすぎた感がある。
    「くっ……これは、ちょっとヤバい気が……」
     蛇目が流れた血を拭う。早く戻ってきて欲しい……と思ったその時、再び教室のドアが開き、避難に当たっていた仲間達がなだれ込んできた。
    「――さあ、ヒーロータイムだ!」
     しっかり施錠を終えた上で、矜人が声高らかに宣言した。

    ●無限の掛け算
     戻ってきて殺界形成を使用した志織は、囮役の二人を見て悲鳴を上げた。
    「いやぁー服がっ破れてますぅっ」
     そっちかい。
     しかし確かに、刃で何度も切り裂かれた二人は防具ごとズタズタ、破れた服からは素肌が覗く。恥ずかしがりつつガン見する志織に、ジャンゴは
    「いや~ん☆」
     ときゅっと自分の体を抱きしめた。性別的に普通逆な気がする。それはさておき、志織は回復自体は真面目に行った。指先に集めた霊力を撃ち出し、浄化させる。
     一方、泰孝も矜人が戻ってきたところでソーサルガーダーを展開し、本格的な説得を開始した。
    「未だ聞かぬ新じゃんる。開拓発展せずして、何を成したと言えようか」
     ……新じゃんる? 暴れまわっていた美玖が、かすかに首を傾げた気がした。
    「新じゃんる。其は骸骨×即身仏よ。汝には見えようぞ、彼の者骸骨成る前の姿が。我、苦行にて身を変ず前の姿が!」
     そう言って素早く矜人に目配せ。矜人も頷き、カップリングアピールを始めた。
    「なあ、一緒に極楽へ行こうぜ……お前となら、ミイラ取りがミイラになったって構わない……」
     泰孝の傍で甘く囁く。
    「な……わ、我には、衆上救済の使命が……」
     言いつつも矜人を見つめる視線はどこか熱っぽい。(頬はこけてるけど)
    「他の奴らと俺と、どっちが大切なんだよ……なぁ……ってそれは?」
     思わず突っ込んでしまった矜人の視線の先には、こっそりビデオカメラを構える綾の姿。
    「ん? ああ、私の事は気にせず先を続けて下さい」
     ビデオを回しながら、予想外のカップリングに呆けていた美玖に鏖殺領域を放つ。志織も志織で、目を皿のようにして矜人と泰孝の様子を凝視していた。これある意味戦闘より集中してるんじゃ。
     盛り上がってる二人は置いといて、菜々は
    「このように、人間として生きてればたくさんのカップリングに出会えるっす!」
     とシールドバッシュで美玖を殴りつけた。
    「俺も人に言えない趣味嗜好があるんで全然変なことじゃない!」
     蛇目も影を放って、美玖を飲み込む。
    「そうそう、俺みたいな腐男子もいるから大丈夫だよ~」
     蛇目の言葉に頷きながら、ジャンゴもフォースブレイクで殴りつけた。
     詩歌は胸に手を当てて、すぅっと大きく息を吸い込む。言葉が届くように。
    「わたし、も。同類な、ので。気持ちはよくわかり、ます」
     所々つっかえながらも、真剣に語りかける。
    「人に指摘されて恥ずかしく思う、のも。この道の通過儀礼。それを乗り越えて、こそ、新しい領域も、見えてくるという、もの、です」
     思いを込めて、激しくギターをかき鳴らす。
     かけられた様々な言葉に、美玖は青い体を震わせた。しばし逡巡でもするように黙り込み……
    「グオオオオオッ」
     叫び声を上げて、詩歌へと殴りかかる。
    「分かっちゃいるけど! やっぱり恥ずかしい~!!」
     という美玖の心の叫びが聞こえた気がした。
    「させないっす!」
     素早く詩歌と美玖の間に潜り込み、菜々がかばう。
    「みんなはおいらが守るっす!」
     攻撃を受けながらも両拳を握る。
     戦いの終わりは、未だ見えなかった。

    ●茨の道でも
     デモノイドはなかなかにタフだった。幾度も攻撃を受け、バッドステータスを蓄積させながらも、巨腕を振り回す。灼滅者達も少なくないダメージを受けていた。それでも、元の人間に戻すまで決して諦めはしない。
    「世間に同士や理解ある人は沢山います! 例えば私や、ここにいる仲間達もその一部です!」
     志織が呼びかけながら縛霊撃で殴りつけ、縛り付ける。そこに菜々が雷を宿した拳でアッパーカットを繰り出した。
    「おいらもその趣味、共感するっす! 例えばおいらだったら、教師×生徒なんかいいなと思いますね!」
    「いや、生徒×教師は譲れないところ」
     キッパリと主張しながら、詩歌はトラウナックルで美玖を殴りつけた。
    「我等地獄兄弟、本領発揮。彼の女子、一時妄想浄土へ御送り致そう」
    「合点承知だぜ!」
     矜人と泰孝はタイミングを合わせ、見事なコンビネーションでダブルフォースブレイクを放つ。
    「俺達も負けていられないな! 俺達の力を見せてやろうぜ、先輩!」
    「ん、おっけ~だよ~」
     眼鏡コンビこと、蛇目とジャンゴもタイミングを合わせて連携攻撃。二組の連携攻撃に志織の興奮はマックス。
    「箱で持ってくれば良かった……」
     ポケットティッシュを鼻に詰めながら呟く。そこに美玖の刃が襲い掛かる。
    「掛け算の邪魔はさせませんっ!」
     骸骨×即身仏と眼鏡の後輩×先輩を守るため、志織はあえてその刃を受けた。流れる血は切り裂かれたためかそれとも鼻血のためか。気付けば床に不自然な血溜まりが。構わず、志織は叫んだ。
    「ご覧の通り、世の中には数多の萌えがあります!」
     鼻からティッシュをはみださせながら。色んな意味で痛々しかったので、とりあえず詩歌は祭霊光でキュアしといた。
    「ふむ、人間に戻りたいという願いですか」
     探偵として、綾は考え込む。
    「ならば、無事戻れたら今撮影している映像データをお渡しいたしましょう!」
     マジックミサイルと共に一つの約束をぶつける。
     色々突っ込みたい気持ちを抑えて、矜人は美玖に向き直った。
    「とまあ、これからも色んな妄想してーなら、人間辞める訳にはいかねーよな。アンタには無限の可能性がある! そしてそれは、人間だけの特権だぜ? さあ、戻ってこいよ!」
     言葉と共に、鍛えぬかれた超硬度の拳で撃ち抜く。美玖がよろめいた。
    「私達の通う学園には男前いっぱいです! ガチです! だから戻って来て下さいー!」
     心からの願いを込めて、志織は影で作った触手を放つ。触手に絡めとられた美玖は
    「ウウ……」
     と弱弱しい唸り声をあげた。
    「マダ……イキて……いタい……マダ……クサってイタイ……!」
     それでいいのか美玖さん。
     しかし、『生きたい』という確かな、人間らしい願いを聞き取った灼滅者達は大きく頷く。その言葉を待っていた。後は遠慮なくダークネスを倒すだけ。
     泰孝が鬼神変で殴りつけ、蛇目が影で切り裂き、ジャンゴが手加減攻撃する。
    「わたし、もがんばった、から……あなた、もがん、ばって」
     机の影に隠れながらも、詩歌は網状の霊力を放射し、デモノイドを縛りあげた。
    「アアッ!」
     デモノイドがうめく。縛られたデモノイドを、綾がティアーズリッパーで大きく切り裂いた。
    「これで、事件解決ですっ!」
    「グアアアアッ!」
     ひときわ大きな叫び声をあげたかと思うと、デモノイドの体はグズグズと溶け……そこから、一人の少女の姿が現れた。

    ●やまなしおちなしいみなし
    「鉛筆×消しゴムは王道ですが私的には逆カプかリバ推奨です!」
    「いいえ! 形状的にどう見ても鉛筆が攻め!」
     人間に戻って早々、美玖は志織と熱く語り合っていた。
    「もっとこすって……熱くなってきた、消しカスぶっかけてやるぜ、なのですよ!」
    「……リバもアリかもしれない! やるわね、貴方!」
     ガシッ! と強く志織の手を握る。そんな二人のやりとりを見ながら、詩歌は
    「腐ってやがる……なんちゃって」
     とボソリと呟いた。そこに綾が近づく。
    「探偵に二言はありません。こちらが約束のブツ(撮影データ入りSD)です」
     戦闘中にした約束を忘れてはいない。手渡されたデータに、美玖はあからさまに興奮した。
    「そういえばそっちの骸骨さんと即身仏さんと、眼鏡のお二人さん! お二人の関係を詳しく教えていただけませんか!?」
     戦闘中のことを思い出してしまったらしく、ハァハァと荒い息を吐きながら詰め寄る美玖。蛇目は思わずのけぞった。
    「いや、趣味嗜好ってのは腐った意味じゃないから! ジャンゴさんとのアレも、あくまで演技で……ジャンゴさんも何か言って!」
    「え? ええっと、う~ん……」
     急に振られて驚いたジャンゴは、戦闘の余波で倒れた机に躓いてコケ、蛇目の胸に向かって顔面ダイブ。
    「きゃー!」
     美玖含めた数名からの黄色い悲鳴が上がる。
    「さすが、大胆っすね!」
     きらきらした瞳で見つめてくる菜々に
    「って、話聞いて! マジで!」
     蛇目は焦った声を上げた。
    「この割り切れない恋のかけ算、流石の探偵の私にも解読不能でしたね!」
     焦る蛇目をよそに、綾はドヤ顔で言い放つ。
    「個人性癖、腐妄想。此れもまた、一つの業の形也」
     合掌して綺麗にまとめようとする泰孝の頭を、矜人がはたいた。
    「いや無理やり締めようとするなよ」
     そのボケツッコミにさえ黄色い声を上げる数名の女子。それはともかくとして、こうして無事にとある腐女子のデモノイド闇堕ち事件は幕を下ろしたのだった。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 7/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 11
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