魔法少女は笑わない

    作者:緋月シン

    ●魔法少女に憧れた少女
     それはある日のことだった。
     何気なく立ち寄った商店街で、清浄院・謳歌(正義の中学生魔法使い・d07892)は唐突にその声を耳にした。
    「そこまでです! 争うのはやめてください!」
     よく通る声だった。しかしその声が妙に幼いように聞こえたのは気のせいか。
     それが気になったこともあり、謳歌はその場所へと向かってみることにした。
     意外と簡単に見つかったのは、そこが軽い人だかりになっていたからだ。先ほど争いという言葉が聞こえたこともあり少し身構えてもいたが、どうやらそういう雰囲気ではなさそうだった。
     その場に居る人達の顔に浮かんでいるのは笑顔である。何だろうと思いつつも視線を巡らせてみれば、人だかりの中央に人影が見えた。
     中年と呼ばれるだろう年齢の男性が二人。そして二人の間に立つように、一人の少女が立っている。おそらくは小学生ぐらいだろうに、その姿は堂々としていた。
     周りの人に聞いてみれば、どうやら少女の名前は桃花といい、この商店街の看板且つ名物娘みたいなものらしい。
     何でも魔法少女に憧れているらしく、困っている人達の助けになろうと日々頑張っているのだとか。今回の一件もその一つであったらしい。
     そんな少女が周囲にどう見られているのかは、聞くまでもないことだ。その場に広がっている笑みが、それを証明している。
     謳歌はそれだけを聞くと踵を返した。男性二人が仲直りの証として握手を交わしているのを、笑顔で見ている少女を最後に見て。
     自分も少女に負けないように頑張ろうと、そんなことを思いつつ。

     ――それで終わっていれば、よかったのだけれど。

    ●闇に堕ちた魔法少女
    「さて、悪い話だ……といっても、俺がするのは大抵が悪い話だけどな」
     エクスブレインである以上、それは仕方のないことだろう。
     だがそれをわざわざ今口にするということは、それなりの意味があるということだ。
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)より視線を向けられた謳歌は、その時点で大体のところを察していた。あの話を何気なくしたその数日後にこうして名指しで呼ばれたということは、つまりはそういうことなのだろう。
    「つい先日一人の少女が闇堕ちした。名前は不破・桃花(ふわ・とうか)。小学三年生の少女だ」
     声を上げないでいられたのは、そうした理由からだ。もっともだからといって何も感じなかったかというと、そういうわけではないけれど。
    「桃花は魔法少女に憧れて、困った人達の助けになれればと色々してたようだな」
     勿論子供だから大したことは出来ない。
     だが本人もそれを承知の上で、それでも自分に出来る精一杯のことをしていた。周囲のさり気ない手助けもあり、それは上手くいっていたようである。
    「つい先日までは、な」
     その日街で一つの諍いが起こった。それは珍しいことではなかったが、いつもと違いがあるとすれば、それはその原因となった男がその街の者ではなかったということだろう。
     詳しい経緯は分からない。明らかなのは、そこにいつものように桃花が居た事。男がナイフを持ち出した事。男性が一人地面に倒れ、周囲が赤く染まっていた事。それぐらいだ。
    「男は捕まったみたいだがな……桃花はそれで悟ったんだろう」
     話し合いだけでは解決しないものもある。それでも押し通そうとするならば、相応の力が求められる。
     それこそ、最低でもナイフを持った男を制することができるぐらいには。
    「しかし小学生の少女にそんなものが手に入れられるわけがない。だがそれでも力を欲し」
     ――堕ちた。
    「まだ辛うじて踏みとどまっているみたいだが、それもあと数日だ」
     そして桃花は街へと足を運ぶ。力を高めるために、守ろうとしていた人たちへと力を振るう。
    「まあ悪堕ちした魔法少女が人々を襲うってのはよくある話だ。その少女を闇から救い出すって話も、な」
     桃花が現れる場所と時刻はヤマトが把握している。指示通りに動けば、接触までは問題なく行えるだろう。
    「場所は商店街手前の開けた広場だ」
     真昼間なせいもあり、人気はない。邪魔が入る心配をする必要はないだろう。
    「桃花が使用するサイキックはストリートファイター相当のものだ」
     その言葉に謳歌が反応した。魔法使いではないのか、と。
    「……求めたのは憧れではなく、何者にも負けない力だった。つまりは、そういうことだろう」
     しかしそれを捨てたわけではないということを示すかのように、まるで魔法少女のような衣装を身に纏っている。
     それが形だけで終わってしまうのか、それとも再び憧れを追えるのか。それは、桃花次第だ。おそらく説得する際も、そこら辺が焦点となるだろう。

    「俺が彼女についてどうこう言うのは簡単だが、それは俺の役目じゃない。俺はあくまでただの道先案内人だ」
     そこから先は、お前達の役目だ。
     そう言ってヤマトは言葉を締めくくったのだった。


    参加者
    玖・空哉(風見鶏・d01114)
    ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(赦されざるモノ・d07392)
    清浄院・謳歌(魔法少女おうかマギカ・d07892)
    叶・一二三(輝装闘神レイヴァーン・d12033)
    姫乃川・火水(ドラゴンテイル・d12118)
    綾町・鈴乃(無垢な純白・d15953)
    大道寺・勇奈(お気楽突撃天然娘・d16518)

    ■リプレイ

    ●邂逅
     よく晴れた空だった。雲一つない青空の下を、一人の少女が歩いている。
     ひらひらとした服装の少女は、迷うことなくそこに辿り着いた。
     そこは普段憩いの場として用いられている場所だ。そこまで来れば、あと一息。
     少女は目的の場所へと向かうため、さらに一歩を進め――
    「そこまでだよ、桃花ちゃん」
     それでようやく、自分の行く手を遮るように、八つの人影が前方に立っているのに気付いた。
    「……何ですか、あなた達は? どうして私の名前を知って……いえ、どうでもいいです。邪魔なので、退いてくれませんか?」
     その反応の仕方は、特に驚くべきことではない。しかし清浄院・謳歌(魔法少女おうかマギカ・d07892)は、その様子に軽くショックを受けた。
     一度見かけただけだ。深く知っているわけではない。けれど印象的だった笑顔が、今そこにはない。
     だから、というわけでもないけれど、謳歌は笑顔で話しかけた。
    「ね、桃花ちゃん。私ね、とあるクラブの部長やってるの。まあ私が作ったんだけど」
    「部員その一だよ!」
    「その二だ」
     乗る大道寺・勇奈(お気楽突撃天然娘・d16518)と姫乃川・火水(ドラゴンテイル・d12118)。しかしその意図が見えずに、桃花は首を傾げる。
    「一体何の話ですか? ……いえ、というかどうでもいいので」
    「――正義の味方部、って言うんだけど」
     その言葉に、桃花の気配がすっと変わった。悟ったのである。前に居る者達は、自分の邪魔をしにきたのだということに。
     しかし桃花が何かをする前に、叶・一二三(輝装闘神レイヴァーン・d12033)が前に進み出た。
    「私達は、これからキミに対して『力』を使う」
     人を幸せにできる、本当の『魔法少女』になれる手助けをするために。
    「私達には、その力がある。これからそれを証明してみせるよ。私が信じる『正義のヒーロー』の力でね」
     言いながらスレイヤーカードを掲げ、叫んだ。
    「聖光招来! 輝装転身!!」
     瞬間、纏っていたオーラが白銀の装甲と化し、全身を覆う。
    「正義の光を拳に宿し、尊き世界の闇を討つ! 輝装闘神レイヴァーン、見参!!」
     決め台詞と共に、装甲が眩い輝きを放った。
     他の七人もそれぞれにスレイヤーカードを解放し、自らの殲術道具を構える。
     そして一人の少女を救うための戦いが始まった。

    ●説得(含む物理)
    「折角クラッシャーという立場を任されたのだ、拳で語ろうか小娘よ」
     先陣を切ったのは、ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)だ。その格好は如何にも魔法使い然としたものであるが、その見た目に逆らうが如く勢いよく前に出る。
     それを迎え撃つのは桃花の拳。何の技術も伴っていないが、その身体能力故に、単純にして強力だ。
     しかしそれを、ニコは逆に技術で以って受け流してみせた。
    「魔法使いにならなかったのが実に惜しいところだな」
     お返しとばかりに拳が繰りだされ、瞬きをする暇もなしに続けて銀色が走る。
    「そもそも何故力を欲したのかを考えてみるといい」
     淡々と、それでも途切れることなく。
    「守りたい何かがあったんじゃなかったのか? 誰かの笑顔を踏み躙られたくなかったからじゃないのか?」
     拳に思いを込めて、足りない分は言葉で。冷静に、マイペースで。ニコは桃花と向き合う。
    「やりたい事を通すのには、力が要る……それは否定しねーよ」
     玖・空哉(風見鶏・d01114)が灼滅者となったのは、理不尽に抗うため戦う道を選んだためだ。
     けれど先日の戦争では知人を亡くし、とあるダークネスとの戦闘では手痛い敗北を喫した。
    「俺だって、何度も力が欲しいと思ったし、今だって思ってる」
     故に未だに力に固執している。それは渇望と呼べるほどに。
    「けどなぁ」
     自分へと振り下ろされる拳。タイミング的には十分かわせるものだ。剛転号に騎乗しているため、余裕すらある。
     けれどそれを、敢えて盾で受け止めた。
    「お前が力を手に入れて……やりたかったことは、こんなことか?」
     至近にある瞳を、真っ直ぐに見据えながら、それでいいのかと問いかけた。
    「不破桃花!」
     桃花の瞳が僅かに揺らいだ瞬間、火水がその名を叫んだ。
    「お前が心に描いた……憧れた、えと……魔法少女? それは、戦う力を持ち活躍していたんだろうよ」
     その身に纏うのは白と青で構成されたバトルコスチューム。その胸には、現在の心境を表すかのように紅く燃える炎がある。
    「でも、その力はただ揮われるためだけの力だったか?」
     心を……魂を引き戻す。救い出すために。
     投げられる言葉と共に、雷を纏った拳が放たれた。
    「確かに力無き正義は無力なれど、正義無き力はただの暴力」
     ――だが正義とは何だ?
     問いかけるのは、アレクサンダー・ガーシュウィン(赦されざるモノ・d07392)だ。
    「お前にとっての正義は魔法少女の格好か? それとも皆を守る為に魔法少女となった者達の心意気か?」
     挫折は誰にでもいつかは訪れるものだ。時には自分一人では乗り切れないようなものもある。
     しかしだからこそ彼らは今そこにいる。桃花がそれを乗り越える為の助けに少しでもなるために。
    「使う人によって善にも悪にもなるのが『力』。手にした力をどう使うのかは桃花ちゃん次第なんだよ」
     手に持つアンタレスを穿ちながら、謳歌は語り掛ける。
     力がなければどうしようもないこともある。それは悔しいことだ。
     けれど。
    「困っている人を助けたいって想いをどうか忘れないで」
     間違った道には進んで欲しくないから。誰かを傷付けて手に入れた力は、悲しみしか生まないと思うから。
     謳歌はその足をさらに一歩前に踏み出した。
    「守りたいものを守るために力が欲しい……わかるよ。すごくよくわかる」
     本来レイヴァーンと名乗った一二三の口調は、凛々しいものへと変わる。けれど今のそれは、普段と変わらないものだった。
    「でも、力っていうのは目的があって、その目的に対して必要な分だけ使えなきゃ意味がないんだ」
     それは正義の味方ではなく、一二三としての言葉であるが故に。
    「桃花ちゃん、思い出して。キミが憧れてる『魔法少女』の力は、誰かの大切なものを壊してみんなに怖がられるような『力』だったの? お友達を傷つけて泣かせちゃうような『力』だったの?」
     網状の霊力が放出され、桃花の身体を捕縛せんと繰り出される。
    「みんなを幸せな笑顔にしてあげるのが『魔法少女』の『力』でしょ」
     力はこういう風に使うことも出来るのだと、そう教えるために。
    「正義の味方の力は誰かを傷つける為のものじゃない。誰かを守る為にあるものなんだよ」
     勇奈が目指すものはヒーローであり、桃花の憧れるものとは異なる。けれど困ってる人を助けようとするのは同じだ。
     だから。
    「君に本当に必要なものはどんな事にも負けない、諦めない心。誰かを守りたい想いなんだよ! 傷つける為の力なんかじゃない!」
     同じ道を進んでた……いや、進んでる桃花を、勇奈は全力で助ける。
     小光輪を分裂し仲間へと配りながら、言葉は真っ直ぐ桃花へと向けた。
    「まもりめぐみさきわえたまえと、かしこみかしこみももおす」
     幼くとも正確に紡がれる祝詞が、仲間の傷を癒していく。けれどその間にも、綾町・鈴乃(無垢な純白・d15953)の意識は桃花に向けられていた。
     そして一息を吐くと、視線も向ける。
    「こまったひとをたすけて、わるいひとをやっつけるまほうしょうじょには、すずのもあこがれるのです。だからきもちはわかるのです」
     鈴乃はメディックであるため、桃花とは常に距離を取っている。
     けれど助けたいという思いは、他の皆と変わらない。
    「でも、ほうこうをまちがったらだめなのです。すずのがおしえてあげるのですよ」
     言葉を、想いを届けるために、声を響かせた。

    ●終結
     重ねられた言葉に桃花の瞳は揺れ、それでも拳は突き出される。
    「何者にも負けない力……それを、誰に向けるんだ? 何に使うんだ?」
     それを受け止めながら、火水は語り掛け続ける。手を差し伸べ続ける。
    「オレだってそんな力欲しいさ。でもそれは同時に、自分が守りたいと思う何かを守るための力であって欲しいと思ってる」
     ヒーローの端くれとして。
    「でもまぁ……無いなら無いで今のオレの力のまま戦うだけだ。いつか負けなくなる日まで……な?」
     道に迷っている、正義を志した者へと。
    「力に囚われて忘れちゃダメだよ! 君が本当にしたかった事……力を求めて何を守りたかったのかを!」
     勇奈は仲間を癒しながらも、必死に説得を続けていた。
    「思い出して! 桃花ちゃんの夢を!」
     時に桃花へとその力を向けながら。傷つけ倒す為ではなく、助ける為に。
    「最初に憧れを抱いた時の気持ちを!」
     憧れを、夢を取り戻すまで、何度でも。
    「安易な力に頼ってはナイフを持ち出し他人を傷つける者と変わりが無く、理想・信念を込めて積み重ねた努力より得た力こそが意味がある」
     スキップジャックに騎乗し、アレクサンダーは駆ける。乗り越えられると、ただ信じて。
    「今ならまだやり直すのも可能だ」
     その身に宿すのは、ガイアパワーにより吸収したその周辺のご当地パワー。
     少しでもその足しになればと、全力でぶち込んだ。
    「すずのもとうかさまもまだおさないのですから、いそいでちからをほしがるひつようはないとおもうのです」
     言葉が通じているのは確かだ。その証拠に、桃花の動きは目に見えて鈍っている。
    「それに、まほうしょうじょにひつようなのは、ちからではなく、ひとをたいせつにおもうこころなのです」
     けれど止まれないのは、やはりこうなった原因の出来事とその時の想いが頭を過ぎるからか。
    「いまのままだと、とうかさまのたいせつなこころもなくなってしまうのですよ!」
     ぴくりと身体を震わせるも、やはり止まらない。
     ならばと、その身に巫女装束を纏った少女は、一歩を前に踏み出す。
    「こぶしでかたればわかりあえるのですよ」
     拳系巫女だと嘯きながら、拳を握り締め、地面を蹴った。
    「なあ、もう一度聞くぜ? お前がやりたかったことは、こんなことか?」
     攻撃をさばきながら、空哉は変わらずにその瞳を見つめ続ける。
    「違うだろ! 物語の中の魔法少女みたいな、誰かの笑顔を守れるような、そんなヒーローになりたかったんだろうが!」
     桃花の姿は、重なって見えた。他の誰でもない、自分自身と。
    「思い出せ! んでもって……帰って来い!」
     だから、必ず救い出す。
     自分の在り方は、思いは間違ってなんかいないと、証明する為にも。
    「俺達が、引きずり戻してやるからよ!」
     しかしそれを拒絶するかのように、桃花が拳を前に突き出す。
     だがそれが空哉に当たることはなかった。その腕に影が纏わり付き、その直前で止めている。
     一二三の作り出した影の触手だ。
    「壊さなくても、こうやって止めてあげればいいんだよ」
     その言葉に何を思ったのか。僅かに力が緩んだ瞬間に、ニコが走り寄った。
    「その力で守りたいものを貪欲に守ってみせろ、破壊狼藉など無粋は無しだ!」
     振りかぶられた拳。咄嗟にかわそうとするも、影をまだ振りほどけていない。
     衝撃がその身体を貫き、膝が崩れる。
     それでも何とか堪え……顔を上げたところで、その姿が目に入った。
    「きて! ルナルティン!」
     不意に、それが知ってる何かに重なる。それに気付いた瞬間、桃花の身体は抵抗をやめるかのように動かなくなった。
     出来たのはただ、その杖の軌道を目で追うことだけだ。
     そして謳歌の一撃が、無防備なその身体へと吸い込まれていったのだった。

    ●笑顔
     ――魔法少女に憧れた。
     声は聞こえたし、想いは伝わった。けれども、だからこそ、思う。
     間違えた自分には、もうその資格がないのではないかと。
     そんなことを考えていたから、顔を覗き込まれた時にはびくりと身体が震えた。先ほどのことを思い返し、咄嗟に何を言えばいいのか分からず――
    「運が悪かったね!」
     にっこりと笑みを浮かべながら言われたその言葉に、意味が分からず瞬きを繰り返した。
    「私達に目を付けられたからには、もう憧れは捨てられないよ」
     捨てたら拾って叩き返すとでも言わんばかりの謳歌に、桃花は先ほどとは別の意味で言葉を返すことが出来ない。
     そうして呆然としているところに、すっと手が差し伸べられた。自然とそちらへ視線が向けば、そこには笑顔を浮かべている空哉の姿がある。
    「よう、お帰り。んでもって……これからよろしくな、ヒーロー」
     そんな言葉を向けられる筋合いはないはずだった。むしろ相応しいのは、罵倒のはずだ。
     けれど。
    「よろしくな、正義の味方」
     火水より向けられたのも、そんな言葉だった。
     つい空哉の手を取り立ち上がってしまったものの、やはり状況の意味がよく分からない。
     そして再び手が差し伸べられた。今度は鈴乃で、その顔にはやはり笑顔がある。
     友達になろうと言われた。
    「いっしょにゆっくりつよくなるのですよ」
     そんな言葉と共に。
    「ね、桃花ちゃん。学園に来ない?」
    「……学園、ですか?」
     唐突……いや、タイミングを見計らっていたのだろう。戸惑いながらも鈴乃の手を握り返していた桃花に、勧誘の言葉が投げられた。
    「そうですね、とうかさまがきてくだされれば、きっとたのしいのです」
    「あれ、でも今来ると、ちょうど地獄合宿に巻き込まれちゃうんじゃない?」
    「それも含めての運が悪かった発言なんじゃないか?」
    「なるほど……さすがぶちょーさんですね!」
    「え、いや、違うよ!?」
    「ああ、えっと……確か、感想には個人差があります、だっけ?」
    「そういう意味でもないよ!? あ、桃花ちゃん、本当に違うからね!?」
     突然そんなことを言い始めた彼女達。それを見て。
    「……ぷっ」
     つい、噴き出した。
     そして。
     ――ずるいです。
     そう思った。
     騒いでいる彼女達だけれど、その身体には所々に傷がある。言うまでもなく、自分が付けたものだ。
     だけど彼女たちは笑顔を浮かべている。それを、自分に向けてくる。
     まるでかつて……いや、今も憧れている、何かみたいに。
     ふと、自分の手を眺めてみる。そこに宿っている力は、憧れたそれではない。
     けれど。
    「……俺は、別にぶん殴る魔法使いが居ても構わんと思うがね」
     それに気付いたのか、ニコがぽつりと呟いた。
     後片付けをしようと周囲を見回していたアレクサンダーが不意に顔を向け、しかしすぐに戻す。おそらくはその顔を見て、言葉は必要ないと悟ったのだろう。
     そう、別に力や格好にこだわる必要はない。大事なものは、きっともっと別にある。
     だから桃花は、笑顔を浮かべた。かつてのように……目の前の人達のように
    「皆さん、ありがとうございました……そして、これから、よろしくお願いします!」

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 11
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