●三重県伊勢市
「うーん……」
町の一角にあるような、その町ではそこそこ有名、と言った程度のうどん屋。閉店後のその店の中で、1人の少年が悩んでいた。
名を越岳・酉衛(こしだけ・とりえ)と言う。うどん屋の息子の彼、中学生の身ではあるが、将来は立派なうどん職人となる為、学校から帰った後は家業のお手伝いをしながらうどん作りを学んでいる。
そんな彼は親からよく言われていることがある。
「いいか、酉衛。うどんはな、コシが大事なんだ。出汁よりも何よりも、コシがな!」
事実、そのコシが評判でこのうどん屋は繁盛しているし、親の言うことも分かる。それが誇りだからだ。
だが、はたしてそれだけで満足してしまっていいのか?
コシだけでは限界があるのではないか。その先に、出汁や具など、もっと目指すべきところはあるのではないか?
「……よしっ」
まだうどんを打つのも半人前にすらなってはいないけど。それでも味の方の練習もできるはずだ。
彼は、それから閉店後のうどん屋で味の方の研究も始めた。
それからしばらくして、彼なりにそこそこ良い味になってきたのではないかと言ったある日。
「酉衛。何してるんだ?」
厨房で出汁を作っていた姿を父親に見咎められた。
「と、父さん……!」
これは、その、かくかくしかじかで。
早口で説明しながらも、漫画などで良くある『お前にはそんなことまだ早いわぁ!』な展開を恐れてビクビクする酉衛。
だが、父親は黙って丼を置き、茹でたうどんをそこにいれた。
「……食べてみようじゃないか」
「……父さん」
厳しさの中に優しさが宿る目を見て、軽く泣きそうになる酉衛。喜んで作りたての出汁を丼の中に入れる。
匂いを嗅ぎ、そしてゆっくりと出汁に浸ったうどんを啜る父親。
悲劇は、その直後に起きた。見開かれる父親の目。固まる身体。取り落とされ、床に中身をぶちまける丼。
「ウッ!?」
ま……マズイ……!
それだけ言い残して、父親は呆然としている酉衛の目の前で、白目を剥いて大の字に倒れた。
●教室
田中・翔(中学生エクスブレイン・dn0109)が、敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)の目の前で無表情にカップうどんを啜り続けている。美味いのか、不味いのか、その眠たげな顔からは読み取ることができない。
伊勢の方でうどんな動きがあるんじゃないか? と予想した雷歌。翔からその予想が的中したよと言う連絡を受けて教室にやってきたのだが、他の灼滅者も集まってから説明するね、と言われて待ちぼうけをくらっている。
そうこうしているうちに集まってくる灼滅者達。最後の1人が扉を閉めたのと、翔がカップうどんを汁まで啜り終えて空にしたのは同時だった。
「うん。あんまり美味しくなかったね」
「じゃあ何で汁まで飲んだんだ」
「勿体ないから」
それはそうとして、集まったみたいだし説明を始めるね。と翔は灼滅者達に向き直る。
「今回、伊勢の方で一般人がご当地怪人に闇堕ちする事件が発生した」
伊勢と言えば伊勢うどん。
「うん、またうどんなんだ。闇堕ちした人もうどんに関連する人なんだ」
闇堕ちした少年の名前は越岳・酉衛。実家がうどん屋であり、本人も家業を継ぎたいと思っている中学生である。
実家のうどん屋はコシをうどんを活かす至高の物として、コシを追求してきた。だが、彼はそこに疑問を持ち、独自に出汁などの研究をしてきた。
「そして先日。そこそこ満足する味になってきた彼は父親に、その出汁を使ったうどんを食べさせたんだ」
「……結果は?」
「父親が気絶するほどゲロマズ」
味オンチってレベルじゃなかった。
ともかく、父親自身もその気はなかったのだが結果的に、酉衛本人がそこそこ満足する味を身体を張ってまで粉々に打ち砕いてしまった。
そしてその事実に、酉衛は絶望から闇堕ちしてしまったというのだ。
「味オンチが原因で闇堕ちかよ……」
しわが寄る眉間を片手で抑える雷歌を置いて、翔は説明を続ける。
「家を飛び出した彼は、学校も行かず町を彷徨っているよ。自分の作った出汁の味を認めてもらいたくて」
うどんでも食べに行くかー、と呟いたり思ったりした人の所にどこからともなく現れては、麺から出汁まで自作のうどんを食べさせようとしてくる。
もちろんその味は気絶するほどゲロマズ。このままでは道端で泡を噴いて倒れる人が続出してしまうかもしれない。そして、どの人も同じ反応を示すが故に彼の絶望は、闇堕ちは一層深まっていってしまうだろう。
「つまり、そうなる前に。俺達が酉衛を止めろってことか」
「そういうこと。この町に着いたら、町中でうどん食べたいなとな呟けば相手から寄ってくるよ」
地図で場所を示す翔。
「それじゃ、戦闘中に使ってくる相手の技の説明を―――」
「待て、説得は?」
「救うにしてもただ倒せば大丈夫だと思うよ。まだ犠牲者いないからそこまで堕ちていないっぽいし」
ということで技の説明。
先程も言ったうどんを食べさせてくる技が1つ。近くの人々に対して、一度に一気に渡されるそれは、見た目や匂いだけなら普通に美味しそうなうどんである。
「だけどその実態は食べても、浴びてもダメージを受ける程マズイ。そして毒にかかったように不味さが後をひく」
「浴びてもってどういうことだよ?」
「渡しても食べようとしない人に、ね」
持たせた丼を下から叩いて盛大に中身を浴びせるらしい。
2つ目の技はコシのあるうどんを足に絡みつかせ、こちらに引き寄せようとしてくる技。これは元々、逃げようとする人に使われるのであったのだろう、遠くにいる人々複数に対して使われる。
踏ん張れば引き寄せられるのは防げるが、何にせよ足止めされてしまう。踏ん張らずに引き寄せられた場合、そのまま先程言ったゲロマズうどんを食わされることになるのは想像に難くない。
「……いやなうどんの使われ方だな」
「本当にね。食べ物を粗末にするとか」
「そこかよ!? いやそこもだけどよ!」
そんな雷歌のツッコミをスルーして、手に持っていたカップうどんの空き容器を机の上に置いて両手を合わせる翔。
「それじゃ、皆頑張ってきてね。あ、味オンチでも、頑張れば治るとか味の研究は素晴らしいと思うとかで説得すれば、戦いは有利になるかもね?」
人間としての自信を持たせてあげられれば、ダークネスの力は弱まるだろうし。
「……だそうだ。腹の方は覚悟しなけりゃならんかもだが、皆、よろしく頼む」
雷歌も、翔に倣って集まった灼滅者一同へと視線を向けた。
参加者 | |
---|---|
シルビア・ブギ(目指せ銀河ヒーロー・d00201) |
敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073) |
竹端・怜示(あいにそまりし・d04631) |
天瀬・ひらり(ひらり舞います・d05851) |
文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712) |
白山・痲亜(サイレンスエッジ・d11334) |
日紫喜・夏芽(揺らぐ風の音・d14120) |
迷世・願戒(過去を求める者・d15802) |
●……いや確かに予測したのは俺だがな
「どうしてこうなった」
敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)がこめかみに指を置いて眉間にしわを寄せていた。
「やって来ました、三重県伊勢市!」
「我が故郷、三重!」
隣では文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)と日紫喜・夏芽(揺らぐ風の音・d14120)が何故か仁王立ちで叫んでいた。夏芽さん、北勢地方のご当地ヒロイン。内心ではうきうきしてるし、今回の救出対象に妙な仲間意識を持っている事は内緒だ。
「お参りして、赤福食べて」
「おい」
一方、明らかに何かを無視するように、無理にそれ以外の事に目的をすり変えて楽しもうとしている直哉。雷歌が声をかける。
動きが止まり、次の瞬間溜息と共に直哉は現実に戻ってきた。
「はいはいうどん、うどんな。……しかし気絶する程マズイってどんなうどんだよ。ある意味才能だな」
親父さんの苦労を思うと涙が出るぜ。とホロリとする直哉。
「まあ未来ある若者の為だ、ここは先達が頑張りますか」
そう励ます雷歌の手の中には『赤福、お土産によろしく』のメモがあった。
シルビア・ブギ(目指せ銀河ヒーロー・d00201)は同じように街を散策し、辺りを見回しながらお土産用の手こね寿司を食べていた。
「1時間もゆでるうどんに腰を持たせるとか、あっぱれじゃ。絶対に小麦粉以外を使っておるな」
鋼あたりか?
「それ食べれないからね!?」
迷世・願戒(過去を求める者・d15802)が即反応した。
「なんでしょうね、マズイって分かってると逆に心惹かれたりしません?」
「しないよ!?」
シルビアの逆側から聞こえてきた天瀬・ひらり(ひらり舞います・d05851)の声に、願戒の右を向いていた首が180度水平回転した。
「……味覚はどうにも出来ないけど、いままで職人目指してがんばってきたのに……ここでリタイアは可哀想」
願戒の後ろから、白山・痲亜(サイレンスエッジ・d11334)の呟く声が聞こえる。
「……いろんな意味で……どんなうどんが食べられるのか……楽しみ」
「キミもなの!?」
興味本位でマズイうどんを楽しみたい花の女子高生達。きっと今日ここで散る。味覚的な意味で。
「今年の初詣、彼女……いや、当時は彼女ではなかったけれどね」
そんなボケとツッコミの応酬を傍目に、いきなりノロケ始める竹端・怜示(あいにそまりし・d04631)。
「まぁ、彼女と伊勢神宮へお参りに来たんだ。伊勢うどん……その時に食べられなかったのを彼女が残念そうにしていたものだから、気になっていたんだ」
是非、食べてみたいと思っているよ。伊勢うどん。
「味オンチの職人のうどんって、なかなか新鮮な味ね……」
そんな夏芽の呟きをツッコミキャラは聞き逃さない。
「いえ、私は賞味は遠慮したいけれど」
だが、続いた台詞に、新鮮な味と聞いて願戒のツッコみかけた手が、ゆっくりと降ろされた。
「でも気絶するほどマズイものって口にしたことがないから、却って気になるのは怖いもの見たさ……怖いもの食べたさかな」
「やっぱ食べたいんだ!?」
でも怜示の本心にはしっかりツッコんだ。
気が付けば、人通りの少なそうな広めの道が目の前にあった。戦闘場所はここにしよう。
●突っ込み……追い付くといいなぁ
(「正直言うとさ、うどんより蕎麦派なんだよね。でも、闇堕ちは助けたい。だって、ただうどんに情熱を注いでただけなのにさ」)
そんなことを思いながら、願戒は仲間の様子を見る。
「う巻が食べたい」
物影から気配。
「う、うなどん食べたい!」
何か顔が角から覗く。
「う、う……うに丼食いたい!」
一瞬うどんが角から見える。
「うどが食べたい」
ヘッドスライディングしながら高速で道を横切る人とうどん。
「そんなことよりうどん食べたいって言えよ!」
うどん、と言いそうで言わないシルビア、ひらり、直哉に願戒の我慢の限界が超えた。
「……どこかに昇天出来るほど美味しいうどんはない……かな?」
「ここにあるぞぉー!」
そして少々棒読み気味に呟かれた痲亜の言葉に、高らかとした声が返ってきた。灼滅者達が振り向いた先、如何にもうどん職人と言ったいでたちの少年がいた。両手に持つ丼を突き出してくる。
「これ、俺が作ったうどん! 食え!」
「わーい、うどんなのじゃ!」
「歩く食べ何とかグこと、このひらりさんを唸らせてみなさいっ!」
シルビアとひらりが、酉衛と向き合っている者の隙間から顔を出し、丼を受け取った。いただきまーす、と勢いよく食べ始める。
だばぁ。
「ま、マズイのじゃ!?」
「ぶふっ!? み、見た目と匂いは普通だったのにぶぇふっ!?」
シルビアさん、マジ泣きしながら口から戻さないで下さい。ひらりさん、鼻からうどんを出さないで下さい。
「まるでするめのような腰に、極限まで煮詰めたような出汁。鼻に抜ける空気がすでに臭い。まるで、うどん界の革命児」
革命的なまでにマズイのじゃ!
「に、匂いは普通なのに……」
ある意味天才!
見た目幼女な2人の発言に大きく仰け反った酉衛が、ぐぬぬと呟きながら再び向き直る。既に幼女2人は前衛陣の後ろに隠れていた。
「そんなはずは、マズイはずは……!」
そう呟く酉衛の目線が前衛陣に向けられた。
●奴のうどんを真正面から受け止めてやろう
「お前達も食ってみてくれ!」
どこからか取り出される湯気を上げるうどんの入った丼4つ。前衛の4人が丼を受け取り、いただきます、と同時に啜り始める。
口にした瞬間、ヴフッ、と夏芽が変な声を出しながら肩を震わせた。雷歌が何かを耐えるように空を仰ぎ、直哉が盛大に慄いている。痲亜だけが無表情にうどんを啜り続けていた。
「こ、これは……!」
これはなんというあれがそれな味でそのあのこれがあーしてこの云々かんぬんの以下略!
直哉が身体中震わせながら婉曲的と言うレベルじゃない感想をぶちまける。俺、別に庇ってそのうどん食わなくても良いよね? と言いたげな視線を3人に向ける。マズイ、という言葉だけは必死にうどんと一緒に飲み込んでいた。
「つまり美味いのか? マズイのか?」
いつの間にやら現れていた、雷歌と願戒のそれぞれのビハインド、紫電と衣観にもうどんを渡しつつ、酉衛が直哉を睨む。
「……これは、あれだな」
雷歌がうどんから口を離し、ふーふーと箸で取ったうどんを冷ますふりをして出汁をできるだけうどんから落としながら口を開いた。酉衛の目線が直哉から雷歌へと移った。ほっとするクロネコ直哉。
「……前衛的で話題にはなりそうな味。ごちそうさま」
「そう、それ。個性的っつーか、独創的っつーか、時代がお前に追いついてないっつーか」
無表情、かつペースを落とさずにうどんを完食した痲亜にぎょっとしつつ、雷歌は続ける。
「うどん=コシだけでいいのかという悩みはわかる」
いやけどこれ、しっかりコシあって美味いな。
「だがな、お前の出汁はうどんを生かせていない……つうか出汁のインパクト強すぎてうどん霞んでんぞ!」
「うどんはコシだけでないとすれば、出汁で勝負をする物だ!」
「そうじゃないだろう! うどんと出汁は共に高め合うもんだろう!?」
はっと、何かに気が付いたように目を見開く酉衛。雷歌はうどんを一気に啜る。瞬間、喉まで出かかった、マズイ、という言葉は必死に飲みこみ、うどんを一口啜ってむせているオヤジ、もとい紫電を横目で睨みつけておく。
一方の衣観。凄く美味しそうに啜っている。
「……美味しい?」
願戒の質問に、満面の笑みで親指を立てて返した衣観。あっという間に食べ終えて、うどんと悪戦苦闘していた夏芽から丼を奪い取る。そして一気に食べる。
「……良く食べられるわね」
「いや、衣観って極度の味オンチで……」
「なるほど……」
けどしっかり毒はもらった衣観の背中にシルビアの放った防護符が貼り付くのを見ながら、夏芽、願戒、怜示がこそこそと話していた。
「もう一度小麦粉から練りなおしてあげますっ!」
そして色んな意味で固まっている前衛陣をすり抜けて、ひらりが酉衛を掴み四日市とんてきダイナミックを放った。爆発に紛れて起き上がる酉衛の後ろに回り込む願戒。放たれる黒死斬が切ったのは、うどん。
「うどんを盾にしたぁ!?」
「……作った物を粗末に扱う……料理人のやる事じゃない」
うどんで防御した酉衛の後ろ、痲亜の声が聞こえる。料理人失格だと言わんばかりに、酉衛のうどん職人っぽい服が大きく切り裂かれた。
「―――鬼さん、こちらよ」
追撃の夏芽のフォースブレイク。料理人失格だとか、鬼呼ばわりされたとかでフォースブレイクで吹き飛ばされた酉衛はそのまま両手両膝を付いて崩れ落ちていた。
「くそぉ……俺は、うどん職人になれないのか……!」
出汁も、お前(衣観)以外に美味いと言ってくれる奴はいない! それどころかほとんどの奴がマズイと言う!
泣き崩れたそんな酉衛の前に、クロネコの影が落ちた。顔を上げるうどん職人。
「馬鹿野郎、諦めるな!」
顔面に強烈な着ぐるみの一撃。
「確かにマズイが、未来のうどん界を背負って立つには、人々を飽きさせない革新的な試みも必要だ、違うか?」
革新的だとか、前衛的だとか、そういうのも大事じゃないか! と更に殴る。
「い、痛いっ! けど、そうか、そうだよな!」
殴られつつも元気に立ちあがる酉衛。シルビアが目を輝かせながら続けた。
「和風に拘るからダメなのじゃ! チョコを入れるのじゃ! パイナップルでもよい!」
「良くないよ!?」
「色々ためし、まずくっても良いゆえ、最良の味を探せばいいのじゃ。諦めたら、そこで終了なのじゃ!」
「なるほど! よし、やってみるぜ!」
「そうさ、もっと熱くなれよ酉衛。うどんの美味さを追求する、その情熱は何も間違っちゃいな」
固まる直哉。いつの間にか置かれていた鍋に、酉衛がどこからか取り出したチョコとかパイナップルとかをぶちこんでいた。
「……それってもしかしなくても」
「俺の作った出汁だ!」
まともな感覚を持っている灼滅者達がドン引く。
「で、でも怖い物食べたさで食べてみたいね」
「やめようよ!」
震え声で絞り出した怜示の言葉に願戒が我に返る間、酉衛が生のうどんを振りまわし始めた。狙って投げられた先にいるのは後衛陣。3人の足に綺麗にうどんが絡みつく。
「うわー! 美味そうじゃが、ひらりが耐えられなければ妾が耐えるしかないのじゃー!」
「二人同時に引き寄せ食らわないようにしたいですね! えぇ、交互なら問題ないなんて思ってませんよ! イヤータノシミダナー」
シルビアとひらり、2人の視線がお前耐えろよ、お前こそ、と火花を散らす。
「君がうどんにかける、出汁という名の夢と情熱を味わってみたいのはやまやまなのだけれど。わたしなりに信じるところがあっての制約があってね、とても残念だ」
そんな2人の間、やや後方。マスクを直し、清めの風を後衛に吹かしながら怜示が酉衛に言い放っていた。
「「……」」
あれ、これ怜示に回復任せればいいんじゃね?
「キャータエラレナちょ、いたっ、あぶっ、ぶべっ!」
「ウワーゲンカイナノじゃばっ、だっ、あだぁっ!」
引っ張られ倒れて、地面にがんがん身体を打ち付けながら引っ張られて行く幼女2人。そんな2人の前に、うどんが出された。
「「いただきまーす!」」
目を輝かせながら食いつく2人。
だばぁ。
「まっずぅ!? なぜじゃぁぁ!」
「お出汁の旨味を飛ばしてえぐ味だけを凝縮したようなこの風味!」
どうやったらこんな芸術品が出来上がるんですか。と2人仲良く倒れ伏した。怜示の清めの風が申し訳程度にリフレッシュさせる。
「……まるで……成長、していない……」
「……やっぱり食べなくて良かったかな」
痲亜と怜示がそっと呟いた。
「あのなぁ……」
と、怒りを滲ませた声と足音が、天を仰いでいた酉衛の耳に入った。前を向くと、そこには怒りのオーラを纏った雷歌がいた。
「どうしてお前らはうどん投げたがるんだもったいねえだろうがああぁ!」
渾身の戦艦斬り! 盛大に吹き飛ぶ酉衛。
「げぶんっ! な、投げる他にも盾にも」
「なお悪いだろうが!」
オヤジィ! と声をかけた先、酉衛が吹き飛ぶ方向に紫電が構えていた。霊撃で酉衛の身体を跳ね上げる。その身体を、跳躍した夏芽がしっかりと掴んでいた。
「万人に愛される味を見つければいいのよ。あなたなら、きっといい味が作れるわ」
味オンチがどう転ぶかは全くもって未知数だけれども。という言葉は胸にしまいつつ。
「ほ、本当―――」
酉衛の言葉を最後まで聞くことなく、夏芽は鍋の中に酉衛を叩きこんだ。爆発で鍋の中の出汁が吹き飛び、辺り一面にスコールとなって降り注ぐ。
鍋には両足をピンと突き出している酉衛が残っているだけだった。
●色々と凄惨なことになっている人にはクリーニングで格好だけでも清潔に
出汁のスコールの所為で全員凄惨になってました。怜示のクリーニング、大活躍。
意識を取り戻したシルビア、ひらり。そして酉衛を一同は支えて立ちあがらせる。
「あー、えっと……その、すいませんでした」
頭を下げて謝る酉衛。
「全くじゃ! 口直しに伊勢うどんを食べに行くのじゃ!」
無論、酉衛もな?
シルビアの言葉に戸惑う酉衛。
「え、俺……いいんですか?」
「当たり前だろ。俺達はそのために来たんだから」
「は、はぁ……」
気遅れはするものの、直哉に、灼滅者達に流されてそのまま連れられる酉衛。
「んー♪ 伊勢うどん、出身地がてらたまに食べますけどクセになる味ですよねー♪」
「ええ、久しぶりに美味しい伊勢うどん、食べたくなったわ!」
「あれ、あの。お二人ってこの辺りの出身なんですか?」
頷くひらりと夏芽。へぇ、と酉衛の声の口調が明るくなる。
「ああ、そうだ酉衛」
「はい?」
雷歌が声をかけた。
「うどん修行に東京来ないか? 各地のうどんが集まってんだ、いい勉強になると思うぜ」
ここで会ったのもなんかの縁だ、お前が立派なうどん職人になるまでちゃんと面倒見てやるよ。
頬に笑みを浮かべながら、実に兄貴然な言葉を放つ雷歌。修行、うどん、それらのワードに酉衛が興味を惹かれて行く。
「あ、でも転校するなら父さんに話をしないと……」
「そうだね。……ついでだから、酉衛くんの作るうどん、食べてみたいな」
「それ……いい、ね。未来の……うどん職人の……うどん」
いつの間にかフェイスベール状の覆いになっているマスクに換装していた怜示、その言葉に痲亜が、そして皆が賛同した。
感極まって涙ぐむ酉衛。腕で乱暴に目を拭って、分かりましたー! と大声で叫ぶ。
「越岳酉衛! 皆さんの為にうどんから出汁から、作らせて頂きます!」
固まる一同。
「出汁はやめて!」
そして、すぐに我に返った迷世・願戒の悲鳴は、伊勢の空に溶けていった。
作者:柿茸 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年4月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 12
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