引き裂かれし心暴れ

    作者:幾夜緋琉

    ●引き裂かれし心暴れ
    『ごめんなさい……ごめんなさい。でも、貴方の思いは受け入れられないの。だって……私には、ずっと付き合ってた人が居るんだもの……だから、ごめんなさい』
     とある学校、優しそうな女の子が、申し訳なさそうに頭を下げる。
     そんな彼女の目の前には、余り活発そうではない少年……彼女に告白した彼は、見事に振られてしまった。
     そして少年は、どうにか絞り出すような声で。
    『そう……なんだ……そ、それで……付き合ってた人……って?』
     問いかけに聞いた言葉は……彼の大親友。
     ……そんな大親友の恋を知らず、今迄こうしていたと思うと……何故か怒りがこみ上げてきて。
    『なんだよ……そんなの、そんなの聞いてねぇよ……! そんなんある訳ねぇじゃんかよ!』
     今迄とは全く違う、荒々しい口調になると……がっ、と彼女の首元を掴み、ぐぐぐ、と力を入れる。
    『ぐ……あ、やめて……』
     苦悶の表情を浮かべる彼女に、何処か残虐な笑みを浮かべる少年……その身体は、静かに盛り上がり……蒼くなりつつあった。
     
    「皆さん、集まって頂けたサマですね? それでは、説明を始めさせて頂きますね」
     五十嵐・姫子は、集まった灼滅者達に早速説明を始める。
    「最近……一般人が闇墜ちし、デモノイドとなってしまう事件が多数発生しているのは、皆様も小耳に挟んでいるかと思います。その一つの事件を、皆様に解決してきて頂きたいのです」
     と言いながら一枚、学校の写真と地図を見せる姫子。
     神奈川県西部の、何処にでもある普通の学校に現われた……デモノイド。
    「勿論デモノイドとなってしまったからには、彼は理性も無く暴れ回り多くの被害を出してしまう事になります。ただ、幸いなのはデモノイドが事件を起こす直前に皆さんが突入できる、という事です。何とかデモノイドを灼滅し、被害を未然に防いで頂きたい所です」
    「ちなみに……ですが、デモノイドになったばかりの状態であれば、まだ人の心を残している状態の可能性があります。その人の心に訴えかけることが出来れば、灼滅後にデモノイドヒューマンとして救出する事が可能かもしれません」
    「とは言え救出出来るかどうかは、彼がどれだけ強く人間に戻りたいと願うかどうか……という所に掛かっています。デモノイドとなった後に人を殺してしまえば、人間に戻りたいという願いは弱まりますので、助けるのは……恐らく難しくなるでしょう……」
     そして姫子は改めて皆を見わたしつつ。
    「デモノイドとなってしまう状況は、好きだった恋人さんへの告白のシーンです。その告白は失敗に終わるのですが……彼女が好きだった相手というのが、彼の親友だったという事で、裏切られたと感じてしまい、怒りに心を奪われてデモノイドになってしまうというものです」
    「なのでデモノイドさんを救出するには、この心を理解した上で……デモノイドさんに呼びかける必要があります。その呼びかけが彼に届けば、きっとデモノイドヒューマンに戻る事が出来る筈です」
    「ただデモノイドを助けるには、戦いKOする必要があります。皆様も知っての通り、デモノイドの能力は強力な攻撃力です。下手に直撃を喰らわない様に注意しながら……又、特に今回は告白されていた彼女を護る様に、作戦を考えて見て下さい」
     そして最後に姫子は。
    「……被害者を出さない為にも、皆様の力と言葉で……彼を助けてあげて下さい、お願いします……」
     と、静かに深く頭を下げるのであった。


    参加者
    橙堂・司(獄紋蝶々・d00656)
    内藤・エイジ(高校生神薙使い・d01409)
    黛・藍花(小学生エクソシスト・d04699)
    マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)
    塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981)
    鬼神楽・神羅(鬼の腕・d14965)
    春夏秋冬・初衣(泡雪ソネット・d15127)
    ラクエル・ルシェイメア(チビ魔王・d16206)

    ■リプレイ

    ●蒼く輝く
     神奈川県西部のとある学校に現われし、デモノイドの少年救出依頼。
     灼滅者達は姫子より話を聞き、そんな不幸な事件が起きている学校へと急いでいた。
    「しかし色恋沙汰か。難しいものじゃな。妾もいずれ、身を焦がす程の恋いをするのじゃろうからのぅ」
    「ええ……想、いは、伝え、て、おわる、ものじゃ、ない、です、よね……」
    「うむ。そうじゃな」
     ラクエル・ルシェイメア(チビ魔王・d16206)に、春夏秋冬・初衣(泡雪ソネット・d15127)の会話。
     恋人を巡る様々なやりとり……好きと伝えたのに、その相手が自分の大親友だった、というのが今回の事件の発端。
     自分がその立場だったら大いにショックだろうし……逆上する心も解らない事は無い。
     とは言えそのまま心を闇に落とし、殺してしまうのは避けなければならないだろう。
    「こんな不幸な結末は回避しないとだね……前にも同じような事件に関わったけど、これって縁があるのかなぁ……三角関係に縁があるって、ちょっとアレだけど」
    「そうだなぁ。サンカクカンケーって奴は複雑だよな。判んねェけど、なったことないし」
    「うう……痴情のもつれとか怖いよ。・部屋の炬燵でミカンを食べていたかっ……」
     橙堂・司(獄紋蝶々・d00656)と、塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981)に、内藤・エイジ(高校生神薙使い・d01409)が泣き言を言う。
     が、それに黛・藍花(小学生エクソシスト・d04699)がタイミング良く。
    「今回の鍵になるのはエイジさんですし、頑張って下さいね? ……って、どうかしましたか?」
    「ぅ……いや、なんでもないです。ともかく、悲劇になる前に解決しないと、だなっ」
    「そうだおっ。ちょっとマリナには良く分からないけど、いけない事はちゃーんと止めて喧嘩はさせないんだおっ」
     エイジにマリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)が気合いを入れると、鬼神楽・神羅(鬼の腕・d14965)と芥汰も。
    「怒りも嘆きもあくまで人の情、それを理由にダークネスへと墜ちる必要など有りはせぬ。灼滅よりも難しい、それ故に目指す道がある」
    「だァな。さァて……かなり不得意な分野ですケドも? 頑張りましょーかネ? これで疑心暗鬼とかなんなきゃい-ケドもな」
    「そうだな。とは言え立ち直れるかどうかは彼に掛かっている。拙者らは、その一助に過ぎぬしな」
    「まァなァ……」
     神羅に肩を竦め芥汰も頷いて……そして。
    「何はともあれ、今回は一般人の方も居ます……その方の安全を守りつつ、デモノイド化する彼に説得を投げかける……中々難しいとは想いますが、頑張りましょう」
     藍花が皆にそう告げながら、そして……見え始めた学校へ一気に突撃していくのであった。

    ●心のままに暴れ
     そして学校に侵入し、姫子から聞いた教室へと急ぐ。
    「……あそこだおっ!!」
     マリナがその教室を指差し、一気に突入していく……そしてそれと共に、すぐに神羅がサウンドシャッターを使用し、周囲へ音を漏らさないように。
     そして突入すると共に、直ぐに灼滅者達は男と女の間に割り込む。
    『なんだよ、邪魔すんなよ!!』
     怒りの声を出す彼……その身体は、ほんの僅か蒼くなりつつある。
    『ひ……な、何よ!?』
     と、彼女は脅える言葉を絞り出す……そんな彼女に。
    「少年はショックを受けて居るのですよ。だから落ち着くまで離れていた方が良いです。さぁ、こっちへ」
     とエイジが声を掛け、その手を引いていく。
    『こらぁ、逃げんじゃねぇ!!』
     荒々しい声を一層上げる彼……そんな彼に藍花が。
    「ごめんなさい、あなたは何も悪くないです……でも、貴方だって誰かを、あの人を殺したくなんて無いでしょう?」
     と言う言葉を投げかける。その間に彼女をエイジが逃がし、他の仲間達がしっかりと立ち塞がり退路確保。
    「此処を抜かせるわけにはいかぬ! 誰よりも汝自身の為に! 親友故に言い出せなかった事もあろうが、親友であるからこそ怒る汝。汝はその様な存在にならずとも、友と喧嘩する事も話し合う事も出来る! しかし此処で人に戻らねば、最早その機会は訪れぬのだぞ? それでも良いのか?」
     と神羅の声かけに、更に初衣、マリナが。
    「え、えと、あな、たの、気持ち、は、わ、たし、は、わか、りませ、ん。そ、れは、あな、たの、大、切、な気持、ちだ、から。大、切、な、きもち、だ、から、こそ、こ、んな、かた、ちで、終わら、せ、ない、でく、だ、さい」
    「そうだおっ。マリナはお兄ちゃんと同じじゃないから、どんな気持ちかは分からないおっ。でも、苦しくて辛くても、力ずくで虐めたり、怪我をさせちゃったりするのはダメなんだおっ、暴れたりせずに、ちゃんと、お話しないと、みんな、哀しくなっちゃうんだおっ」
     と、声を投げかける。
     でも……彼は。
    『うるさいうるいさいうるさいうるさいっ!! 邪魔するなら、お前等もだっ!!』
     説得の言葉に耳を傾けること無く、拳を振う。
     そんな拳を前で受け止める司。
    「……キミにとって、あの子はこんな事で殺しちゃって良い存在なの? 親友の人だって、本当はキミにしっかり話をしたかったのかもしれないよ?」
     司が努めて優しい声を投げかける……そして芥汰、藍花も。
    「そうだぜ? ダイシンユウともなれば、相手もお前の気持ちに気付いた上で気ィ遣っただけだと想う……多分ナ。それとも、大親友と恋とかって奴に気付けなかった自分に腹立ててんの?」
    「……憤りに飲み込まれないで。あなたの友達がどういう人か、あなたが一番知っていると想います。きっと謝ってもらえます。だから……許してあげましょう? そんな未来の方が、絶対良いです」
     ……でも、彼は。
    『なんだよっ、大親友なんてこうやって裏切られるんだよ!! ……何でも話してくれると想ってたのに……なのにっ……!!』
    「ふむ……親友とやらに本当に裏切られたと想っているのか? それはその程度の友情であったのか? それはお前が詳しく話を聞かなかったからではないのか? 詳しく話しも聞かず、その結果衝動だけで好いておった女子を殺しても良いというのか? お主の日常を、こんな所で壊してしまって良いというのか? ……戻りたいと願うのならば、妾達が助力してやろうぞ?」
     ラクエルの立て続けの問いかけの嵐、そして更地芥汰、司も。
    「そうだぜ。誰殺しても結局辛いだけなら意味が無ェだろ?」
    「そうだよ。選ばれなくたって良いじゃない。キミの好きな二人が幸せになるんだから、それを応援してあげようよ……しっかり自分で考えて。衝動なんかに任せちゃだめだよ。だから、帰ってきて」
     ……そしてやっと彼女を逃がしていたエイジが戻ってきて、戦列に戻ると共に、藍花が殺界形成を展開。
     無論、デモノイド化しつつある彼が、それに恐怖を覚える事は無い……むしろ、その殺気は、怒りに一層傾きつつある。
     そしてその攻撃は無差別に、立ち塞がる者へ。
    「だから、だめだおっ。ここはぜーったい通さないんだおっ!!」
     マリナが庇い続け、そしてエイジからも。
    「そう。女の子に告白出来るだけで幸せでゲスよ。そっちのケも無いのに、男から彼女になってって告白されてばかりの人間も居るんでゲスよっ!!」
     ……エイジはその言葉に、自分の心が傷つけられた様な気がするが……それはさておきとして、続ける。
    「大親友の方は貴方を裏切ってはいないと想うでゲスよ。第一、女の子が好きだという事を彼に打ち明けたでゲス? 打ち明けていれば、付き合っている事をきっと教えてくれたと想うでゲス。伝えなければ判らない事も在るはずでゲスよっ!!」
    「そうさ。大親友とまで言うんだ。影でお前のこと、笑ったりなんてしてなかったんじゃねぇかな、って想うぜ」
     エイジ、芥汰が投げかけた言葉……それに。
    『うううう……五月蠅い、うるさいうるさいーー!!!』
    「攻撃の手は全く以て緩まない……そしてその身体が、完全に蒼くなり変わる。
    「そうか……ならば仕方ない。刮目せよ! そして戦慄くが良い! 我こそは邪龍ルシュメイアが巫女にして魔王、ラクエルなり!!」
     そうラクエルが宣言すると共にシールドリングによる盾アップを付与、司も自己ブラックフォームで壊アップをエンチャント。
     ……更に芥汰が鏖殺領域、マリナ、神羅がソーサルガーダーで盾アップを各自付与していくと。
     更に藍花が。
    「行って……あの人を助ける為に……」
     とビハインドに指示、ビハインドは小さく微笑みを帰して、デモノイドの元へと進む。
     そんな灼滅者達の動きへ、デモノイドは渾身の力と共に攻撃。
    「っ……この際ここで暴れて、スッキリしとけばいいだろ。結局灼滅しなきゃ話が始まらないンでな。踏ん切りつかす為にも全力で行かせて貰うぜ? こっち側に戻ってくれば、他のイイ人見つかると思うしな」
     芥汰に周りの仲間らも頷く。
    「こ、れか、ら、素、敵、な出会、いは、いっぱい、あ、ります。わ、たし、も、あな、たも、素敵、な出、会いの、ひと、つ、です。つぶ、さ、ない、ように、しま、しょ、う」
    「うむ。だが、油断はするなよ!」
    「え、え」
     神羅に頷く初衣……そして初衣がジャッジメントレイでの切っ先を切り拓くと、司も。
    「痛いだろうけど、我慢してね」
     とフォースブレイク。
     一方ラクエルは制約の弾丸によるバッドステータスの付与を軸に行うと、芥汰、マリナ、神羅のディフェンダー配置の三人が、デモノイドの攻撃を代わる代わる受けとめつつ、攻撃。
     そして藍花のビハインドも、霊撃を使いながらディフェンダーポジションの加勢に着く。
     ……対しデモノイドの彼の攻撃を受けたら、エイジと藍花が声を掛け合いながらシールドリング、ジャッジメントレイによる回復を立て続けに行い、被害を最小限に止める。
     とは言えデモノイドはかなり強敵……1対8の戦いながらも、戦況は互角。
     だが……灼滅者からの説得の言葉が、戦闘中にも駆けられ続け……彼の心の奥底にいる良心が、その力を多少ながら弱めていたようである。
     そして戦闘の切っ先から5分後……。
    「目を覚ませ……そして、戻ってくるのだ!!」
     神羅の強く、強く投げかけた言葉。
     その言葉と共に放たれた閃光百裂拳が、デモノイドに叩き込まれると……デモノイドの身体は大きく宙を舞う。
     そして舞い踊った身体が床に叩き付けられると、彼の元にかけた司が。
    「……ごめんね」
     と、小さく謝罪の言葉を紡ぎながら、閃光百裂拳を叩き込み……蒼い身は、元へと戻るのであった。

    ●再帰
    『……う、うぅ…………はっ……?』
     ……そして、十数分後。
     気絶していた彼が……目を覚ます。そんな彼に神羅が。
    「うむ。よくぞ帰って来られたな」
    「……え? あ……」
    「大丈夫だ。思う事も多かろう……だが、今は休まれよ」
    「そう、です……今、は、休ん、で……?」
     神羅と初衣の言葉に、彼は……静かに頷く。
     そして彼に対しマリナが。
    「んと、今日あった事、お姉ちゃんだけ、何があったか、良く分からない事に出来るおっ。もし、忘れさせて欲しかったら、マリナに任せて欲しいおっ」
    「……あと、その、ちから……これ、から……どう、するの……? ……わたし、たち、と……いっしょ、に……いか、ない……?」
    『え……?』
     初衣の言葉に驚きの表情を浮かべる彼に、神羅が。
    「そう。拙者らはこの力を使い、正義を守っている。お主の力も、正しく活かせば正義を守る事が出来る筈だ」
     ……その言葉に、彼は……暫し考えてから。
    『……そう、だね……もう、僕はここにいられないよ……遇わせる顔も無いもん。なら……そういう学校に行く、のもいいかもね』
    「そうか……ならば歓迎しよう」
     手を差し出す神羅に、彼は……何処かほっとした様な表情を浮かべ、手を握り帰すのである。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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