髪は濡れ鳥のように艶やかで黒く。
肌は青ざめた月のように白く。
唇は色づいた桜のように、ほんのりと桃色に。
いつでも私は籠の鳥で、いつでもこの広いお屋敷に一人でぽつんと取り残されていた。この洋館も私の為に用意されていて、私の為に部屋を飾り立てて私の為に素敵な洋服を用意してくれたパパ。
「ありがとうパパ」
ありがとう、私を着飾ってくれて。
ありがとう、私を愛してくれて。
「ありがとうパパ。……私をお人形にしてくれて」
パパはいつでも私の中に、ママの姿を映し出していた。もう居ない人を、パパはずっと愛して愛して、それでも足りずに私をママのように着飾った。
私はもう、こんなお屋敷に一人で住んで居たくない。
テレビで見る子供達のように、学校に通ってみたい。
久しぶりに見た青空は、とても晴れて見えた。庭師のおじさんが毎日手入れしてくれる美しい華が咲き誇り、ふと視線をやると小さな白い子犬が駆け回っていた。
とても嬉しそうにはしゃぎ回る犬を差して、パパは言った。
「お友達を連れて来たんだよ、アリサ」
お友達?
こんな狭いお家に連れてこられた、あの子はお友達じゃないよ……牢獄の囚人。なんて可哀想……こんな所に連れてこられて。
これであの子も私も、ずっと永遠に囚人。
籠の鳥。
そう思うと、つうっと頬から涙が零れた。
体が壊れたのは、次の瞬間の事である。
私の体はヒトではなくなり、そうしていつしか私はパパの体を引き裂いていた。あの小さな子犬のつぶらな瞳が、私をじっと悲しそうに見ていた。
エクスブレインの相良・隼人が手にしているのは、食玩の小さな家具であった。小さな頃、よくこういった食玩で箱庭を造って遊んだものである。
手の中でもてあそびながら、隼人は話しをはじめた。
「いよいよ、デモノイドに堕ちる人間が現れ始めた。彼らは突然デモノイドへと変化し、ただやみくもに暴れ回る」
隼人が指したのは、避暑地の閑静な林の中にある洋館であった。周囲は車も人の通りも少なく、静かだ。
デモノイドとなる中学生の少女、アリサはそこで一人で住んでいる。昼間はハウスキーパーの女性が一人と庭師が居るが、夜は彼女たった一人。
その日、アリサの元に父親が帰ってくるのだという。しかし寂しさがつのるアリサはデモノイドと化し、暴走する。
いずれ、そこに居る者全て殺し尽くしてしまうだろう。
「お前達は事件発生直前には到着出来るが、アリサがデモノイドと化すまでは手を出すな」
それよりも、父親と庭師、そしてハウスキーパーの退避について考える方が先だろうと隼人は言う。
この屋敷にやって来る道は一本。父親はあまりハウスキーパーの顔を覚えていないが、デモノイドと化すまで手出しが出来ない以上、潜入するにしろ慎重に行わねばなるまい。
「多少庭や屋敷が壊れるのは仕方ない。……ただ、アリサにくれたあの子犬だけは無事に連れ戻してしてやってくれないか?」
構わないが、それはなぜか。
一人が問うと、隼人は話しを続けた。
「どうやらアリサは、まだこちら側に戻ってこれる状態にあるようだ。アリサが戻ってこられるなら、あの子はデモノイドヒューマンとして学園で生きる事が出来る」
彼女の心を救えるかどうかは、彼女のヒトへの執念や意思にかかっているという。彼女が戻ってこられるように語りかける事が出来たなら、灼滅した後で元のアリサに戻る事が出来よう。
ただし、それも『人を手に掛けなかった場合』である。
「一番殺されやすいのは、彼女の怒りの対象である傍に居るはずの父親だ。ハウスキーパーや庭師は、父親ほど危険ではあるまいが無闇に近づくと殺される可能性がある。彼らを殺せば、アリサはヒトの心を失っていくだろう」
長い間屋敷の中に閉じ込められていた少女。
彼女が外に踏み出して学園にやって来る事が出来るかどうかは、灼滅者たちにかかっていた。
「くれぐれも気をつけていけ。……忘れるな、父親や庭師たちを守るのが最優先だ。それでも、助けられるなら……」
隼人はそう願うと、瞑想するように目を伏せた。
参加者 | |
---|---|
御園・雪春(夜色パラドクス・d00093) |
六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103) |
東雲・由宇(神の僕・d01218) |
安曇・結良(ローズマジック・d03672) |
四季・紗紅(小学生ファイアブラッド・d03681) |
ヘカテー・ガルゴノータス(深更の三叉路・d05022) |
黒鶫・里桜(おねえちゃんらぶ!・d05408) |
天宮・黒斗(黒の残滓・d10986) |
まるで絵に描いたような避暑地の一角に、ぽつんと小さな洋館が建っていた。白い壁に開いた小窓にはレースのカーテンが泳ぎ、庭には薔薇が咲いている。
どこかから犬の鳴き声が聞こえ、風がざわざわと木々をゆらしている。
窓から覗く光景も、そして窓を見上げる光景も全て完成された風景のようで、不自然な程に美しい。安曇・結良(ローズマジック・d03672)は門扉に手を掛け、じっと屋敷を見上げた。
たしかにここは箱庭。
少女の為に作られ、少女の為に保たれた箱庭であった。崩れ落ちる廃墟も好きであるが、この屋敷はそれに似たものがあった。
とても綺麗だけど、どこか退廃している。
「……すみません、今日から来たハウスキーパーですが」
結良は犬の傍にいた男性に声を掛けた。
どうやら彼が、アリサの父のようである。足下を駆け回る子犬は、やんちゃそうな顔つきで結良にもじゃれついてきた。
彼女がここに来たのは、屋敷内にいるもう一人のハウスキーパーの撤退を促す為であった。ゆっくりと歩き出し、結良は屋敷に向かう。
屋敷周辺には、闇纏や旅人の外套を使って御園・雪春(夜色パラドクス・d00093)、六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)、そして四季・紗紅(小学生ファイアブラッド・d03681)が潜伏していた。また、猫の姿をとった東雲・由宇(神の僕・d01218)は、迷い込んだ猫の振りをして庭師の足にすり寄る。
四十代ほどの男性であったが、庭師は帽子の縁を少しあげて由宇を見下ろした。
わんこに噛まれるなよ、と小さな声で庭師は由宇に言う。ヒトの由宇からすると子犬でも、猫の由宇からすると大きい犬である。
肝に銘じ、由宇は犬の声から少し遠ざかる事にした。
一方、特に潜伏する術のないヘカテー・ガルゴノータス(深更の三叉路・d05022)と天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)、黒鶫・里桜(おねえちゃんらぶ!・d05408)は少し離れて屋敷の裏手に回る事にした。
箱庭の中の美しい庭に、ぽつんと影が落ちる。
ざわざわとフレアスカートを揺らし、アリサは庭をぼんやりと眺めた。ドアが開く音に気付いた黒斗が、ヘカテーと里桜に手を軽く上げて合図。
そっと壁に寄って視線を向けると、影が少しだけ見えた。
小さな影は、ただじっと子犬を見ていた。
「外に……出たいか?」
周りに聞こえぬ程の小さな声で、黒斗は呟く。
自分は外に興味を持たなかった。
だが、アリサが外に出たいというならそうしよう。黒斗は彼女の小さな影を見つめて、そう心に誓った。
必ず、救い出して連れて帰ろう。
「お友達を連れて来たんだよ、アリサ」
父親の声が聞こえて、黒斗が二人を振り返った。解除した里桜の傍には霊犬の灰音が控えており、里桜の指示を待っている。
友達。
ヘカテーが、そっと身を起こして鋼糸を手に巻き付ける。影はむくむくと大きく変化し、やがて壁の端からその青白い腕が覗いた。
「行くぞ!」
ヘカテーが飛び出すと、黒斗も同時に走り出した。
子犬の姿を探し、ヘカテーが黒斗と視線を交わす。ヘカテーは子犬に、黒斗はアリサの前に立ちふさがる。
激しい怒りを露わにしたアリサは、父親に拳を振り上げていた。とっさに静香が割って入り、身を躱しつつ父親を背後に庇った。
柔らかな動きで、父親を後ろに押し出しヘカテーの方へと追いやる。アリサの拳は、一撃たりとも父親へと向けさせない。
暴れるアリサの拳は静香の体に幾度叩き込まれようと、その場から動く事はなかった。
「庭師さんも忘れないでくださいね、ヘカテーさん」
「分かって居る」
子犬をヘカテーが抱え上げるのと、黒斗がアリサの腕をがっちりと受け止めるのは同時であった。さきほどまで可憐な少女であったデモノイドの腕は、黒斗の腕を痺れさせる。
しかし黒斗は、うっすらと笑っているようにも見えた。
「…友達なら」
「ここにいる!」
ヘカテーは黒斗に続いて言葉を繋ぐと、飛び退いてアリサの攻撃をかわした。ステップを踏むように後退しつつ、阻止は雪春と静香に任せて退く。
腕の中の小さな子犬は、ヘカテーの腕から逃れようとジタバタもがいていたが、ヘカテーはしっかりと抱えたまま離す事はない。
「早く行け、ヘカテー!」
雪春が声を上げると、ヘカテーは残った手で父親の腕を掴んだ。
「ここから逃げるぞ!」
返事を聞かぬまま、ヘカテーは強引に引っ張って駆け出した。重い体を引きずるようにして、父親を視線で追うアリサの眼前には静香が立つ。
静香、雪春とで左右を挟まれ、アリサの頭がぐるりと周囲を見まわした。
後ろで咆えているのは、灰音であろうか。
しかしそこにいるのがあの白い子犬でない事に苛立ったのか、腕を振り上げて灰音を叩きのめした。
「灰音は強いこ、アリサちゃんが戻って来てくれるまで我慢出来るよね」
里桜の声を聞いた灰音が、力強く咆えて答える。
慌てず、里桜は周囲の音をかき消して深呼吸を一つする。意識を集中し、アリサの動きひとつひとつを視界に捕らえて見切った。
まずは炎を放ち、アリサの視界を遮って意識をこちらに向ける。それから、影でアリサの表皮を切り裂いて傷を深く刻む。
痛みなのか、アリサが咆哮を上げた。
「アリサちゃん、苦しいのは傷だけじゃないよね。ここから出られないから苦しいんだよね」
ここから出たいという気持ちを、里桜は痛いほど感じる。
里桜の影刃に合わせて刃を刻み込みながら、雪春がアリサの拳を弾く。抵抗するようにやたらと暴れ回り、大きな拳を受けた雪春の体は意識が飛びそうな痛みに襲われる。
それでもアリサの攻撃を、雪春と灰音と静香で受け流し続けた。
「……あんたがここから出る方法は、他にあるはずだ。なにも、親父を殺さなくてもいいんじゃねぇか?!」
雪春は、唇の端から伝う血を拭いながら言った。
-逃げる方法なんかない。
-いや、逃げようとしなかった?
アリサの迷いが、瞳から見て取れる。
動きが一瞬鈍り、その隙に雪春が死角に回り込み、刃で抉る。渾身の一撃は、幾度も刻み続けた里桜や雪春の傷を更に赤く抉り、アリサに悲鳴を上げさせた。
続く黒斗の攻撃を支える為、正面からナイフでアリサの拳を受け止める。巨体から繰り出される拳は、力をわずかに逸らしていても強烈であった。
すうっと息を吸い込み、雪春がじわりと霧を放つ。吸血鬼の魔力が凝縮された霧は、黒斗や静香たちを包み込んで狂気に駆り立てる。
力を、そして攻撃性を高める魔力が体内に染みこみ雪春はにいっと笑った。
「心配すんな、殴りたいなら好きなだけ受け止めてやるさ。……俺には説得は不向きだからな」
「アリサ!」
黒斗は鈍く光る刃を握りしめたまま、アリサをじっと見据えた。
痛みを抑えるほうに咆哮を上げて傷を塞いでいくアリサに、黒斗は声をかけつつなおも追撃していく。
「おまえは、外に出たいと言った事はあるのか」
自分の言葉で、父親にそれを伝えたことはあるのか。
黒斗の問いかけに、アリサが体をびくりと震わせた。自分で出たいと思っているなら、自分でそれを伝えなければならない。
黒斗は自分の声でそれを伝え、そして自分の足で出てきて欲しいと願っていた。
「その時、お前がデモノイドのまま出てきたって孤独なのは代わりはしないんだ。ましてや、外に出たいと願った……その人としての心までなくしてしまったら意味がないじゃないか!」
差しだすように伸ばした刃から光が迸り、アリサの体を刻んだ。その中に眠るアリサの心を切りだそうとするかのように。
振り上げた拳は黒斗を叩いたが、かわりに黒斗は懐に入り込んで剣を下から足に切り上げる。再び攻撃が飛ぶまでの間に、傷は由宇が塞いでいた。
攻撃と、言葉とを繰り返す仲間を由宇が後ろから支え続ける。
「天宮さんの言う通りね。そんな状態で自由になったって、そんなのは己の闇を深めるだけ。……あのちっちゃな子犬だってあなたのお友達じゃない。あなた、あの子が悲しむのを見たいの?」
真っ直ぐアリサを見ていた子犬の事を思い返すように、由宇が語りかける。
子犬に加えて父親と庭師を急き立てるようにして、ヘカテーは屋敷の裏手にある林まで逃げてきた。ちらりと後ろを振り返るヘカテーの表情は落ち着いていたが、仲間の動向も気になっているようだった。
長くは待たず、すぐに裏口から結良が飛び出して来た。
手に引かれたハウスキーパーの女性も、何が何なのか分からないといった表情である。全員揃ったのを確認すると、ヘカテーは父親の腕の中に抱えていた子犬を押しつけた。
ヘカテーの腕は子犬のせいで小さな傷を作っていたが、ほんのり浮いた血をぺろりと舐めて終いにする。
むしろ、元気のいい子犬を柔らかな表情で見ていた。
「いいか、子犬は絶対に放すな。……少し暴れるが、リードがあるなら付けてやれ。あとでアリサに渡してやるんだ」
「あ……ああ」
こくりと父親が頷くと、今度はハウスキーパーと庭師に声をかける。
「みんな、ここから絶対に動くなよ」
言い渡すと、ヘカテーは踵を返した。
結良はヘカテーが話しているのを、ただ聞いていた。だけど父親に渡したヘカテーが『父親から再び子犬を渡してやって欲しい』という気持ちの表れであると察している。
それを受け取った父親の表情にも、困惑が見て取れた。
アリサの攻撃が灰音に向いたのは、その心にあるものの反動だったかもしれない。アリサの意志と関係なしに戦いつづけるデモノイドの体に、区別などついていなかっただろうが…。
しかし集中攻撃に灰音が倒れると、今度は静香と雪春にそれが向いた。
後方から由宇が差し掛ける光は灰音を長い間支えていたが、それも力尽きる。
「六乃宮さん、あなたはまだいける?」
「駄目。…といったら、代わってくれるの?」
くすりと笑って静香が言う。
むろん代わるつもりなど無く、静香はオーラを集中して傷口の痛みを癒していく。このまま攻撃を受けていくと、怪我が増えるばかりである。
「二人が戻って来るまで、私が動きを止めます」
静香は影を放つと、アリサを束縛しにかかった。デモノイドに変質したばかりとはいえ、アリサの動きはなかなか静香の影に掴みきれない。
意識を集中させようとする静香をフォローするように、紗紅は刃に炎を纏わせた。光刃が纏う炎が紗紅の手によってアリサの体を刻むたびに、炎が燃え上がっていく。
やがて里桜から放たれた炎がそれに混じると、青白い体を炎が埋め尽くしていった。
「あなたはお父様がお好きだったんですね。だから、ずっと寂しいのを我慢してきた」
紗紅は、炎を放ちながら語りかける。
彼女は本当は飛び出して行きたかったけれど、彼女もまた父が寂しい思いをしているのだと知っていた。だから彼女は、ずっと我慢してここに居たのだろう。
「アリサ様、ほんとうは」
本当は、お父様も。
その言葉を、結良が継いだ。
箒からヘカテーとともに飛び降り、紗紅の前を庇いながら影を放つ。その影は静香の影と死角をフォローしあうように、左右から襲いかかった。
黒い影は、燃えさかる炎とともに体を絡め取る。
「お父さんだって、君を解放してあげたかったんだ。……アリサ、あの子犬はお父さんからの『最初の一歩』だったんだよ」
結良はそう言うと、手を差しだした。
共に、と誘うその手をアリサが見つめる。
ふと笑うと、紗紅が続いて手を差しだした。細いその手は、すいとデモノイドの大きな手を取った。
「私達は誘いに来たんですよ。ねえアリサ様、一緒に遊びませんか」
その手を握りかえしてもいいのだろうか。
静香は手を止め、懸命に声を掛ける。
「この鳥かごから出る為、貴女の望むものを胸に強く抱いてください! アリサさんの望むものを……!」
愛して欲しいから壊すだなんて、悲しすぎるかせ。
静香は眉を寄せ、悲しみを抑えて笑顔を作った。差しだした手は悲しい気持ちなんかじゃない、と伝えようと笑顔で迎える。
アリサは、小さく震えているように見えた。すると里桜は両手を広げ、おびえているように震えるアリサに笑顔を向けた。
それはぽかぽか暖かい晴天のような、笑顔。
「アリサさん、苦しいならそんな鳥かご壊してしまえばいいと思うのよ。大丈夫、りお達が助けてあげる。どーんと飛び込んでくるといいのよ」
そして一緒に手を繋いで、一緒に学園に行こう。
大丈夫、それは難しい事なんかじゃないんだ。里桜は優しくそう言うと、ぎゅっと抱きついた。小さな里桜の腕が抱きしめた青い巨体は崩れ落ち、その中からひとりの少女が現れる。
里桜はしっかりと、その少女の体を抱きしめた。
状況が把握出来ないで居る父親に、由宇は彼女を解放するようにと話聞かせていた。
おそらくバベルの鎖の影響もある為、父親はアリサの件はこれ以上あまり追求する事がないだろう。
「死者の幻影ではなく、あの人が見るべきは生者であるアリサさん自身」
「…それだけ、じゃないんじゃないでしょうか」
ぽつりと紗紅が、由宇に言った。
由宇に言い聞かされた後、父親は何事かアリサと話していた。それを少し離れて様子を眺めながら、紗紅はぽつりと言葉を発する。
「お父様は、お母様が居ないからこそ娘に愛情を注いだんじゃないでしょうか。お父様が見ているのは、お母様だけじゃないのですよ、きっと」
居ないからこそ。
紗紅はそれが、娘に対する愛情なのだという。
紗紅の言葉を聞いた静香が、ふうっと顔を上げる。愛して欲しかった…そのアリサに、父親からの愛情は届いていたのだろうか。
「愛されていた…ですか」
そう言った静香の声は、どこか悲しそうに聞こえた。彼女の目が何を映していたのか分からないが、どこかずっと遠くを見ているようだった。
少し離れた所では、庭ではしゃぎ回る子犬と雪春が追いかけっこをしている。
どちらかというと、追いかけ回す子犬から雪春が逃げているようにも見えた。
「おい、ヘカテー何とかしろよコイツ」
「良かったな、犬に好かれるタイプなのか?」
「じょーだんじゃねぇよ」
雪春はぺたりと座り込むと、子犬の頭を撫でてやった。お前、名前は何にしてもらったんだ、と小さく雪春が聞く。
そろそろ帰るか、と黒斗が声をかけると雪春は立ち上がって子犬を見下ろした。
今度逢うときは、学園で……だろうか。
「また会えるさ」
ヘカテーが振り返ると、里桜がしっかりと手を取っているのが見えた。里桜の握手は別れの握手ではなく、また会うための再会を約束した握手であった。
結良もまた学園で、とアリサに言う。
「ねえ、アリサちゃん。学園に来たら……」
学園に来たら、空から彼女を案内してあげたいな。
自分達が通っている学園を案内して、空中散歩しようか。
作者:立川司郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年4月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 6/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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