さよなら? ミィちゃん

    作者:階アトリ

     学校から戻ったら、家の前にママがいて、私に言った。
    「ミィがね、近所の野良猫と喧嘩して大怪我なの。お医者さんには連れて行って来たんだけど……もしかしたらお別れになっちゃうかもしれないから、ずっと側にいてあげましょうね」
     生まれた時から側にいた猫。ミィ。可愛いミィちゃん。
     もうヨボヨボのおばあちゃんだから、もうすぐさよならかもしれないのは、私だってわかってた。
     でも、でも、それが今日だなんて!
    「ありすちゃん? どうしたのありすちゃん!? キャァアアア!」
     私の耳に最後に聞こえたのは、ママの悲鳴……。
     
     春の午後、閑静な住宅街にある大きな家の、広い庭で。
     可愛らしい少女が、突然に青い巨体の怪物と化して、暴れ狂う。
     
    「一般人が闇堕ちして、デモノイドになる事件が発生しようとしています」
     教室に集まった灼滅者たちに、祝乃・袖丸(小学生エクスブレイン・dn0066)は告げた。
    「闇堕ちするのは、小学校2年生の女の子、久遠・ありす(くどお・-)です。
     彼女はまず最初に側にいた母親を殺害した後、近隣の家屋を破壊し、住人たちを次々と手にかけて、多くの被害を出してしまいます。
     ですが、今からでしたら、久遠・ありすさんのデモノイド化の直後、暴れ出す前に現場に突入することができます」
     デモノイドになったばかりの状態ならば、多少の人間の心が残っている事がある。
     その人間の心に訴えかける事ができれば、灼滅した後に、デモノイドヒューマンとして助け出す事が出来るかもしれない。
    「救出できるかどうかは、デモノイドとなった人が、どれだけ強く、人間に戻りたいと願うかどうかに掛かっています。
     デモノイドとなった後に人を殺してしまうと、人間に戻りたいという願いが弱くなるので、助けるのは難しくなってしまいます。
     ありすさんは、お母さんから飼い猫のミィが大怪我をしたと聞かされて『ミィが死んじゃう!』と早合点してしまって、そのショックが闇堕ちのきっかけになったようです。
     ですが、あくまで危篤、ですから。ミィの命に、望みがないわけではありません。
     そのあたりを、きちんと伝えて、教えてあげれば、きっと人間の心を取り戻す役に立つと思います」
     ミィの大怪我や、ありすの早とちりを未然に防いであげたくなるかもしれないが、そう単純でもない。
    「先回りしして、闇堕ちの原因のほうに働きかけてしまうと、予知できたタイミングでデモノイド化が発生しなくなってしまいます。
     そうすると、先程お話した予知とは違うタイミングでありすさんがデモノイドになってしまって、被害を防ぐことが出来なくなってしまうんです」
     従って、久遠・ありすが自宅の前でデモノイド化した直後に駆けつけて、灼滅することが最善となる。
    「可能な限り最良の結果を得られるように、解析結果をお伝えします。よろしくお願いします」
     袖丸は皆に向かって頭を下げると、戦闘についての説明に移った。
     
    「現場に到着したら、まずはお母さんの安全を確保してあげてください。
     簡単に説得すれば、戦闘が終わるまで家の中に逃げ込んでいてくれます。
     その後は、ありすさんと戦ってください。
     戦闘でKOすることが出来た時、ありすさんの心が強く残っていて、人間に戻りたいと願うことができれば、デモノイドヒューマンとして生き残ることができます」
     デモノイドとなった人を救うためには、戦闘が必須ということらしい。
    「今回のデモノイドは、両腕に猫のものを巨大化させたような爪を持ち、それを武器に襲い掛かってきます。攻撃方法は全て近距離。
     また、猫が毛づくろいするような動作をすることで、自分を癒すこともできるようです」
     必要なことを説明し終えると、袖丸は灼滅者たちに改めて向き直る。
    「ご存知の通り、1体のみとはいえデモノイドは強力です。
     けれど、お母さんをはじめとしたご家族、生きようと戦っているミィのためにも。
     ありすさんを、人間に戻してあげてください」


    参加者
    花菱・爆(リア充爆発しろ・d08395)
    白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)
    竹尾・登(何でも屋・d13258)
    乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748)
    藤郷・夏輝(紅蹄・d14726)
    鳳・紅介(ブラッディエッジ・d15371)
    フィルマ・ヴィオラ(中学生シャドウハンター・d16356)
    御剣・譲治(高校生デモノイドヒューマン・d16808)

    ■リプレイ

    ●たすけて
     うららかな晴れた午後、芝生の鮮やかな民家の庭で。
     少女の小さな体は歪み、膨れ上がってゆく。
    「ありすちゃん!?」
     母親は立ちすくみ、娘が立っていた場所で荒い息に肩を揺らす怪物――デモノイドの、青い巨体を見上げることしかできない。
    「ガ……ウグ……!」
     牙の並ぶ口が開けば、漏れ出るのは唸り声。
     戸惑うように揺らめいていた腕が、突如制御を失ったかのように母親へと振り下ろされた。その強靭な腕の先には猛獣のそれを思わせる爪がある。
    「きゃああ!」
     悲鳴。しかし、血飛沫が上がることはなかった。
    「マジピュア、ライトアップ!」
     誰かの声が響き、その声でデモノイドの動きが鈍った一瞬の間に、別の誰かが、彼女の腕を引いたからだ。
     そして、いくつもの影がデモノイドとの間に立ちふさがった。
     影、とは。
     もちろん、武蔵坂からやってきた灼滅者たちだ!
    「ショックだと思うけど今は逃げて! 娘さんは必ず助けるから」
     手を引いた竹尾・登(何でも屋・d13258)に声をかけられて、呆然としていた母親ははっとした表情でデモノイドを振り向いた。
     花菱・爆(リア充爆発しろ・d08395)が、怪物の腕をロケットハンマーで受け止め、押し返した姿がその目に映る。
    「母ちゃん殺させてたまるかっての!」
    「……?」
     爆の言葉の意味をはかりかねた様子で、母親は目を瞬いた。
    「……事情は後で。今は危険だから、家の中に」
     御剣・譲治(高校生デモノイドヒューマン・d16808)が、母親に語りかける。ESPラブフェロモンの効果か、母親は好意的に言葉を聴いたようだが、しかし状況が状況。
    「待ってください。ありすは、あの怪物に殺されたんじゃ……? あれが……ありすなの……?」
     譲治の腕に、母親は縋りついた。デモノイド寄生体のことを知らない彼女には、自分の娘が青い肉の塊に食い殺されたかのように見えたのかもしれない。
    「グオ……ま、ま……!」
     その時、デモノイドの吠え猛る声の合間に、かすかに、言葉が混じった。
    「ありすちゃん!」
     母親が泣き叫ぶ。娘は生きている。けれど、怪物として。再びの絶望が母親の目を曇らせてゆく。譲治は力づける。
    「大丈夫です。娘さんは、元に戻るから」
    「本当に……!?」
     母親の目に、一縷の希望の光が灯った。
     その間にも、暴れ続けるデモノイドと灼滅者たちは対峙している。
    「こんにちは。ちょっと痛いけれど……我慢してね? その姿でミィちゃんに会いに行くと怖がられちゃうよ」
     鳳・紅介(ブラッディエッジ・d15371)が、夜霧隠れを展開し自分を含む中衛を包み込みながら優しく語りかけた。ジャマーのポジション効果で、霧は深く濃い。
    「早まっちゃダメだよ! まだミィは死んでない!」
     フィルマ・ヴィオラ(中学生シャドウハンター・d16356)が、デモノイドの前に立ちふさがって爪を食らった。
     服が破れ、傷つきながらも一歩も引かず、フィルマは振り下ろされるもう片手の爪を、今度は槍と影業とを使って防ぐ。
    「……この手じゃ、この爪じゃ、ミィを抱いてあげる事も、撫でてあげる事もできないじゃない」
     頭上に受け止めたデモノイドの爪に向かって語りかけたフィルマの後姿に、母親は息を呑んだ。ふわふわと波打つ銀の髪に、染みている赤、あれは自分をかばって負った傷だ。
     出会ってから2分にも満たない相手だが、母親は灼滅者たちが命がけで何かをしようとしてくれていることを態度から読み取り、彼らの言葉を信じることにしたようだった。
    「この光の戦士、ピュア・ライトが、必ず助けて見せるっす!」
     華やかなコスチューム姿の白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)が明るく言い切った声が、そして、娘を失わずにすむかもしれないという望みが、母親の身体を突き動かす。
    「気をつけて、転ばないように」
     乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748)が、よろついている母親に手を貸して、玄関の中へ避難させた。
    「念には念をってな」
     その後、紗矢は殺界形成で他の一般人が近づいてこないようにする。確かに、念を入れるに越したことはない。一般人を庇いながらの戦闘は厳しいし、誰かを殺してしまってはありすが人間に戻りたいという気持ちが薄れてしまうのだから。
    「ウ……ガグアァア! ミィ……しんじゃう……!」
    「こーら、早とちりで勝手に死なせないのよ」
     藤郷・夏輝(紅蹄・d14726)が、前衛の仲間たちに次々シールドリングを飛ばしながら声をかける。回復は、今の時点で既に矢継ぎ早に必要だ。
    「……流石デモノイドってカンジ? 権田さん、これは忙しくなるわよ。めいっぱいハート飛ばしてあげて!」
     夏輝はサーヴァントの権田さん(ナノナノ)と共にメディックの役目に徹する。
    「ミィ……でも、ミィ、おおけがって……」
    「早合点だったのはわかっただろ? まだ希望は捨てんな!」
     紗矢が、そう叫びながら手首のWOKシールドを展開し、ソーサルガーダーを前衛に次々とかけてゆく。
    「ミィちゃんはまだ生きてる。助かる見込みも、ある」
     譲治も前衛の仲間たちをソーサルガーダーの中に包み込みながら、デモノイドと対峙する。嘘になるかもしれない。けれど、助けるつもりで来たのだ
    「オレも2年前にばあちゃんを亡くしたから、何となく気持ちは分かるよ。でも、暴れたって何にもならない」
    「ほら、そんな怖い顔してちゃ。ミィが悲しんじゃうよ?」
    「そんな……だって……からだ、が、かってに……!」
     登とフィルマの言葉に、ありすの声が答えはするものの、デモノイドの身体は暴れ続けている。
     ミィがまだ生きていると知っただけでは、まだ充分ではない。ありすは、ミィの生死という、どう転ぶかわからない未来を受け入れ、例え絶望が待っているかもしれなくても希望を抱いて現実と向き合う勇気を持たなければならない。でなくては、ありすの人格はデモノイドの意思に飲み込まれてしまうだろう。
    「おい、ありす! お前、ミィが心配で堕ちたんだろ?」
    「ミィちゃんはまだ生きてる! 必死に生きようって頑張って、ありすちゃんが帰ってくるのを待ってるのよ!」
    「元気になった時にありすちゃんが居ないと、ミィちゃんが悲しむっすよ!」
     爆が、夏輝が、雅が。
     デモノイドの攻撃にさらされながらも、それぞれが思いの丈を伝える。
    「ミイちゃんは今ありすちゃんに側に居て欲しいはずなんだ。オレのばあちゃんだって、意識がないのにオレが側に行ったら嬉しそうな顔をしたんだ」
     登が、自分の体験を織り交ぜて更に語りかけると、デモノイドの目から雫が零れ落ちた。
    「ミィ……そばに、いてあげた……い……わたし……もとに、もどりたい……」
    「うん。元に戻って、可愛い服に着替えて会いに行くんだ。良いね?」
     紅介が、デモノイドの爪を足元から立ち昇った影業で受け止めて、にっこり笑った。緊迫した状況なのに、どこかぽややんとしたその表情は、ありすの心を落ち着かせたようだ。
    「たす、け……て……くれる……の……?」
    「最初から皆言ってたでしょう? 人間に戻ることのできる可能性があるのなら手伝ってあげた方がいいと思って、来たんだ、僕らは」
     直後、影業がデモノイドの爪に押し負けて、紅介の肩口にざくりと傷が走る。
    「ああ……っ」
    「落ち着いて。衝動に、飲まれてはだめだ」
     動揺しそうになるありすを、譲治が叱咤した。デモノイドヒューマンである彼だから、言える言葉かもしれない。
    「今堕ちたら、もうミィちゃんとは過ごせない、絶対に」
    「ありすちゃんがいなくなったら、ミィちゃんもお母さんも、家族皆が悲しむんだよ!!」
     譲治の言葉を、夏輝が補足する。
    「治ることを、信じるっすよ!」
     雅が掲げたロッドは、彼女の纏うバトルオーラの光を映して淡く金色に輝いている。皆の言葉と共に、その光が、ありすの心を照したのだろうか。
    「あり……が……。………私も……がんばる……」
     こぼれたのは、先ほどまでの慟哭の涙ではなく、現実に踏みとどまり未来へ踏み出そうとする、決意の涙に違いなかった。

    ●たすける!
     ありすがデモノイドの意思と戦う気になってくれたのなら、あとは、デモノイドを倒すだけだ。
    「がんばって! 助けるから!」
     フィルマが、槍に稲妻型に変じさせた影業を纏わせて力いっぱいふるう。デモノイドの肉に突き立った瞬間に、音を立てて散ったプラズマは、抗雷撃の雷だ。
    「飼い主が諦めたら、助かる物も助からない。だから、生きると信じてくれ!」
     譲治が、思いをぶつけるようにして、シールドバッシュを叩きつける。 
    「グアオウウウウウウ!」
     吠え猛る声しか出さなくなり、力の限り暴れるデモノイドと、灼滅者たちは全力で戦った。
     中にいるありすに、祈りを籠めた励ましを送り続けながら。
    「ダークネスなんかに負けんじゃねえ、ミィと母ちゃんのとこに帰ってこい!」
     爆はそう言って花火玉を構え、投げつける動作でご当地ビームを放つ。
    「お子様からじーちゃんばーちゃんまで、ご家族の皆様に大好評な花火だぜっ! 見て驚け!」
     ビームは花火のようにデモノイドの顔面に炸裂した。
    「早くこんな事やめて、ミイちゃんの所に行こう」
    「自分の悲しみに飲まれちゃ駄目っす!」
     間髪入れず登が、続いて雅が、破壊力を上げた閃光百裂拳を叩き込んでゆく。
     クラッシャーたちからの流れるような連続攻撃に、デモノイドは身悶えた。
    「ガアアアアアッ! グウッ、ウニャ、グル……」
     猫が毛づくろいし、顔を洗うような動作をして、デモノイドは裂けた青い肉を元のかたちにくっつける。
    「むっ」
     指輪とシールドを輝かせて、ジャマーとして仲間たちの力を底上げすることに徹していた紗矢が、その動作に思わず声を上げた。
    (「……猫っぽくて、ちょっと可愛いかも……」)
     紗矢は思ってしまい、しかし容赦はせずに、次は紅介と共に攻撃に加わるべく制約の指輪を構えた。
     姿は猫から程遠いデモノイドだというのに、猫っぽいと思えてしまうほど動きが可愛らしいということは、普段からありすが、それだけ猫を、側にいたミィを見て愛してきた証拠なのかもしれない。
    「大丈夫よ。もうすぐきっと勝てるわ。アタシたちが押してる!」
     メディックを務めてきた夏輝には、戦いの流れが肌で感じられた。最初のうちこそ、権田さんと共に必死でフル回転で回復しなければ間に合わなかったが、今は余裕が出て来ている。
     紅介の武器封じと捕縛、紗矢と譲治の盾アップで、相手が与えてくるダメージ量を減らすことに成功していたし、デモノイドのほうがさっきのように自分を回復して、攻撃を休み始めたのだ。
    「闇堕ちなんてしない、絶対に助かるわ! ……戻ってこい!」
    「戦いはもう終わらせよう」
     夏輝に、頷いた紅介が、握ったのは解体ナイフの柄。そして、死角に飛び込み、切り裂く。
    「グゥ……グルル……」
     呻くデモノイドの身体には、これまで受けた攻撃で、深々と割かれた傷がいくつも開いている。
     中のありすを卵の中のヒナだとすれば、デモノイドの身体についた傷は殻に走ったヒビのようなものだろう。
     次がとどめ。
     誰の目にもわかった。
    「爆発しろデモノイド! 帰って来いありす!」
     爆が、高らかな声と共に、ご当地ダイナミックを食らわせる。
     地面に叩きつけられた蒼い巨体が爆発して、そして、どろりと、溶け落ちてゆく。
     蒼い肉が消えた後、庭の芝生の緑の上に横たわっているのは、可愛らしい女の子。
    「ああ……ありすちゃん!」
     まず最初の歓喜の声は、家の中からうかがっていた母親の口からあがった。

    ●取り戻した、小さく柔らかな手
     泣きながらお礼を言い続ける母親と、疲れたのかぐったりしているありすに、灼滅者たちはとりあえずのところ、簡単にデモノイドや武蔵坂学園についての説明をした。
     それから家に入れて欲しいと願い出て、案内してもらったのはミィのいる猫用ベッド。
    「ほんとうに、治るの?」
    「唯の怪我なら……」
     心配そうなありすに頷いて、譲治は目を閉じてじっとしているミィに掌を寄せた。野良猫に、喉許を噛まれたのだという。獣医に、傷は深く、位置も良くないと言われたらしい。
     集気法で、傷は塞がった。
    「ミィ!」
     ありすが顔を輝かせる。
     出血などでミィが失った体力を回復することはできないので、この先はミィの生命力次第となるだろう。けれど、傷が塞がれば化膿することもないだろうから、回復の可能性は上がったに違いない。
    「後は運に任せるしかないな」
    「うん。元気になるまで、……もしも元気になれなくても、ちゃんと、ミィの側にいる」
     紗矢に、ありすは真剣な表情で頷いたありすを、雅が抱きしめた。
    「偉い偉い。がんばるっすよ」
    「大丈夫、だってありすちゃんがついててくれるんだもの! ミィちゃんだってきっと、元気になれるわ」
     雅にゆっくり頭を撫でられて、横から夏輝にも力づけられて、ありすは泣き笑いのような顔で何度も頷く。
    「元気になったら、いっぱい撫でてあげてね」
     フィルマは、ありすの小さな手に目を落とし、微笑んだ。
    「おーよ! 早く元気になって、これからも末永く爆発しろよー」
     爆が笑って言った後、爆発はないか、と気付いたようで。
    「あー、爆発は……ほ、ほら言葉のアヤってやつで……ああもうっ! ホントマジごめんなさい! 末永く長生きして下さい!」
     焦って言い訳する爆に、空気が和み、自然と笑い声が起きる。
    「……ニャア」
     うるさい、と言うように、ミィが鳴いた。ありすを含め、皆慌てて笑いを引っ込めた。うるさがる余裕が出て来たのだ、ミィはきっと元気になる。
    「ありがとうございます。ありがとう!」
     皆に向かってお礼を言うありすに、紅介が微笑みかける。
    「キミなら大丈夫だよ。一人ぼっちじゃないし、ミィちゃんとも一緒にいられる。人間でいられるよ」
     キミなら、という最初の言葉が出たのは、紅介が自分の「欠け」自覚しているからだろうか。
    「うん。私、人間でいたい。それだけじゃなくて、私みたいな子が他にもいるなら、私と同じように助かって欲しい。……私にできるなら、助けてあげたい」
     真っ直ぐに、紅介の目を見て言ったありすの瞳には、決意がある。
     人間の心を取り戻せただけでなく、前以上にこの少女は強くなったのだろう、と。
     その場にいた全員に、それがわかった。

    作者:階アトリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 11
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