夜の墓場で運動会

     輝鳳院・焔竜胆(獅哭・d11271)は、こんな噂を耳にした。
     『夜の墓場で運動会ごっこをしている都市伝説が存在する』と……。
     エクスブレインの話によると、都市伝説は催眠によって仕事帰りのサラリーマン達を墓場に誘い、夜が明けるまで運動会をさせているらしい。
     そのため、催眠状態に陥ったサラリーマンは、ヘットヘト!
     仕事には遅刻する上、すべてにおいてやる気を失ってしまうらしい。
     おそらく、墓場へと向かう一団の後を辿っていけば、都市伝説を見つける事は容易だろう。
     ただし、都市伝説の催眠によって、玉入れがしたくなったり、綱引きをしたくなったりするので注意が必要である。


    参加者
    羽坂・智恵美(古本屋でいつも見かけるあの子・d00097)
    江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337)
    句上・重蔵(ポテトガンを持つ男・d00695)
    漣波・煉(片足は墓穴にありて我は立つ・d00991)
    長瀬・霧緒(仮面ブルマーエックス・d04905)
    ウィクター・バックフィード(自由主義者・d10276)
    野和泉・不律(サイコスピーカー・d12235)
    シオネ・トレース(嘘つきリライト・d12959)

    ■リプレイ

    ●真夜中
    「まるで新手のリーマン狩りだな」
     江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337)は事前に配られた資料に目を通しつつ、都市伝説が確認された墓場に向かっていた。
     都市伝説が確認された墓場は住宅街から離れており、普段は人気もないため、存在している事すら知られていなかったようである。
     しかし、夜な夜な運動会が開かれている事が知られてから、探検気分でこの場所にやってくる子供が増えたらしい。
    「ところで、夜の運動会って何をするのかしらぁ? ひょっとして、えっちな運動会?」
     良い子は見ちゃダメ的な映像を脳裏に浮かべ、野和泉・不律(サイコスピーカー・d12235)がクスリと笑う。
     それはそれでアリな気もするのだが、実際にはサラリーマン達が童心に帰って、駆けっこ、玉入れ、騎馬戦などを行う普通の運動会のようである。
    「それにしても、なぜ夜にやる事になったんでしょうねぇ。やっぱり、社会人だとお昼は仕事で忙しいからでしょーか?」
     不思議そうに首を傾げ、羽坂・智恵美(古本屋でいつも見かけるあの子・d00097)が疑問を口にした。
    「まあ、時間的な都合だろうな。終電も無くなって、バスも来ない。しかも、こんな田舎じゃ、タクシーもなかなか来ない。だったら、待っている時間を有効利用すべきだって事じゃねーか」
     面倒臭そうにしながら、漣波・煉(片足は墓穴にありて我は立つ・d00991)が答えを返す。
     正直、寒いし、眠い。出来る事なら、このまま回れ右をして、帰りたい気分である。
    「夜も朝も寝床でぐーぐーがいいなァ……」
     激しい睡魔に襲われながら、句上・重蔵(ポテトガンを持つ男・d00695)がボソリと呟いた。
     このまま朝が来なければ、延々と眠り続ける事が出来るのに……。
     そんな気持ちが過る中、墓場がある方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
     それは都市伝説の催眠によって運動会に参加していたサラリーマン達であった。
     サラリーマン達は『赤、勝て!』、『白、勝て!』と大声をあげ、互いのチームを応援していた。
     彼らの瞳はまるで少年のようにキラキラと輝いており、パッツンパッツンになった半ズボンがやけに眩しく感じられた。
     みんな童心に帰っているのだろう。仕事の疲れなど一気に吹き飛んだのか、みんな全身汗ビッショリになって競技に挑んでいる。
    「随分と楽しんでいるようですが、このまま放っておくと死者が出そうな勢いですね」
     しばらくサラリーマン達を眺めた後、ウィクター・バックフィード(自由主義者・d10276)が溜息を漏らす。
     おそらく、サラリーマン達は後先考えずに全力で競技をこなしているのだろう。
     普通であれば、倒れているような状態であるにもかかわらず、催眠の力によって立ち上がり、次の競技に挑んでいた。
    「なんでこんな夜中に運動会を止めなきゃならないんですか……はぁ。……分かりましたよ! やればいいんでしょう!?」
     何かが吹っ切れた様子で、シオネ・トレース(嘘つきリライト・d12959)が叫ぶ。
     それに気づいた白組のキャプテンと思しきサラリーマンが『おう、お前ら! そんなところでボヤッとしてないで、一緒にイイ汗を流さないか!』と言って爽やかに笑う。
     その笑顔を見て、シオネがさらにイラッとした。
     出来る事なら、そのまま顔面めがけてパンチをしたい。
     えぐり込むようにパンチをすれば、どんなに気持ちが晴れる事か。
     そんな気持ちを内に秘めつつ、振り上げた拳をゆっくり下ろす。
    「んじゃ、遠慮なく! 今日もガンガンブッコんでいくんで夜露死苦ぅ!」
     そう言って長瀬・霧緒(仮面ブルマーエックス・d04905)が白い特攻服に身を包み、血塗られたマテリアルロッドを肩に担いで、悪ぶった顔をしながら、ライドキャリバーを蛇行させて現れた。

    ●サラリーマン達
    「よしっ! それじゃ、4人ずつ分かれて、バトルしようぜ!」
     そう言って赤組のキャプテンと思しきサラリーマンがシオネ達に渡してきたのは、赤と白のハチマキだった。
     これで各々チーム分けをした上で、協議に参加しろという事なのだろう。
     ふと墓場の方を見ると、無駄に爽やかなナイスガイ達が、『早くおれたちのチームに来いよ』と肩を組んで誘っていた。
    「くっ……、もしやこれが催眠の力! 彼らがとっても魅力的に見えますっ! ??あぁ! 一緒に肩を組んで青春を謳歌したい! 出来る事なら組み体操の一番下になりたいです! ああ、友情っていいものですね」
     都市伝説の催眠にすっかりやられ、シオネがサラリーマン達と一緒に肩を組む。
     その途端、何とも言えない充実感が全身を包み、幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
    「クンカ、クンカ! スーハースーハー! いい匂いだなぁ……ウェヒヒ!」
     そんな中、霧緒が競技用のアンパンをくすねて、手持ちのビニール袋に入れ、その中に溜まった甘い匂いを興奮気味に吸っていた。
     これは粒あん。しかも、春を彷彿させる甘く蕩けるような心地よさ。
     それはアンパン界の頂点に君臨する神の如く香ばしさ。
    「貴様、まさかアンパンソムリエか!?」
    「アンパンソムリエだと……」
    「……聞いた事がある。かつて、この地を二分するほどの戦いがあった。木村と山崎……戦いは熾烈を極め……」
     サラリーマン達がザワついた。
     よく分からないが、話が長くなりそうな予感をプンプンさせている。
    「さっさと失せろ、死にたいのか」
     脅し半分で殺気を放ち、八重華がサラリーマン達を睨む。
     しかし、サラリーマン達は霧緒に釘付け。
     『間違いなく、ヤツの再来だ』、『また、戦いが始まるのか』と言って、何やら深刻ムード。
    「……霧緒ちゃん、相変わらずロックよねぇ!!」
     不律も感心した様子で、霧緒達を眺めている。
     だが、このまま放っておくと、アンパンの暗黒面に係るような話題に触れてしまうため、パニックテレパスを使ってサラリーマン達の不安を煽った。
    「今からここは戦場になります。以前とは比べものにならないほど恐ろしい戦いが……」
     思わせぶりの態度で語りつつ、ウィクターが殺界形成を発動させる。
     その言葉を聞いた途端、サラリーマン達が不安になった。
    「……逃げろ! こっちだッ!」
     すぐさま重蔵が大声をあげ、サラリーマン達を墓場から遠ざけていく。
     その中には『まだ勝負がついていない!』と反発する者達もいた。
    「……しばらく休んでいてくださいね」
     しかし、智恵美が即座に魂鎮めの風を使い、残っていたサラリーマン達を眠りの世界に誘った。
    「さて……、後は都市伝説だけか」
     そう言って煉が辺りを見回した。
     だが、墓場には目立った人影はない。
     かと言って、サラリーマン達の中に、都市伝説が混ざっている訳ではない。
     そう思いつつ、墓場に視線を送ると……、墓石が動いていた。
     その墓石には両手両足があり、煉に気づいて『いや、別に怪しくないですよ。普通の……そう、普通の墓石です!』と叫んで逃げようとした。

    ●都市伝説
    「あ、あれ? 皆さん、どうしたんですか? 冷めたスープのような顔をして。あっ、分かりにくかったんですね。あは、あはははは……」
     墓石こと都市伝説が乾いた笑いを響かせる。
     どこから声が出ているのか分からないが、あからさまに胡散臭かった。
    「それじゃ、私はこの辺で」
     都市伝説が手を振った。
     陽気に、元気よく、さり気なく。
    「ちょっと待て。いや、動くな」
     都市伝説に対して警告しつつ、煉がシールドバッシュを発動させた。
    「い、いや、あの……これから友達と会う予定が……」
     すぐさま都市伝説が言い訳をし始めた。
     それはツッコミどころが満載で、胡散臭いものだった。
    「悪いが逃がすわけにはいかないんでな」
     ポテトチップスの筒を左手にはめ、重蔵が都市伝説にオーラキャノンを放つ。
    「わっ、わっ、何をするんですか! 暴力反対」
     都市伝説が叫ぶ。
     どうやら、平和主義者であるらしく、必死になって両手をあげている。
    「来いよ、雑魚がァ! 喧嘩上等ォ!」
     そのため、霧緒が都市伝説を挑発するようにして、ケンカキックを炸裂させた。
    「ほら、次の種目は綱縛りです。……あれ、違いましたっけ」
     それと同時に、シオネが都市伝説の死角に回り込み、影縛りを発動させる。
     都市伝説は動けない。まるで本物の墓石のように。
    「それじゃ、そろそろ終わりにするわよー」
     仲間達の連携を取りながら、不律がマジックミサイルを撃ち込んだ。
     次の瞬間、都市伝説がハッと我に返り、『嫌だ、死にたくない!』と叫んで、全速力で走り出した。
    「これをリレーのバトンだと思ってくれ。受け取ったら走れ。地獄がゴールだ」
     都市伝説に語り掛けながら、八重華がフォースブレインクを放つ。
     その一撃を食らった都市伝説が『い、嫌だ。私はまだ……』と叫び、全身に無数のヒビが入って砕け散った。
    「きっと、寂しかったんでしょうか、あの都市伝説は」
     都市伝説が消滅した事を確認した後、ウィクターが悲しそうに呟いた。
     ただ純粋に、運動会をしたかっただけなのかも知れない。
    「そう言えば、武蔵野の運動会ってどんなのでしょうねぇ。意外にもう来月だったりするのですが、今からワクワクです。……もしかして、地獄合宿って運動会に向けての特訓……なわけないですよね」
     そう言って智恵美が乾いた笑いを響かせた。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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