ブレイブクエスト

    作者:天木一

    「どこだここ?」
     少年が目覚めたのはふかふかの赤絨毯の上。
     そして目の前には玉座に座る白髭の老人。その頭上には王冠が飾られていた。
    「目覚めたか勇者よ!」
    「勇者?」
    「そうだ勇者よ、汝は魔王を倒す為に選ばれたのだ!」
     周りを見れば騎士達がずらりと並んでいる。
    「この剣を授けよう、これは勇者の剣。これで魔王を倒し世界を救うのだ!」
     騎士が少年に近づくと、あっと間に剣と鎧を装備させた。
    「では、行くがよい。吉報を待っているぞ」
     有無を言う間もなく、騎士に城下町へと連れ出され、町を案内し終わったところで解放された。
    「つまり、ロールプレイングゲームの世界ってことだな」
     少年はこれが最近やったテレビゲームと同じ設定である事を思い出す。
    「じゃあとりあえずレベル上げにいってみるか……」
     まずは弱いスライム退治をしようと町の外に出てみた。
     草原を歩いていると、青っぽい液状の怪物が現れる。
    「行くぞ!」
     剣を抜き、斬りかかる。ザシュという効果音と共に斬れた。だが相手は液状だったのだ。斬れてもまた繋がり、襲いかかってくる。
    「うわあ!」
     鎧など意味も無く、隙間から液体が侵入してくる。そして全身を覆うと。猛烈な熱を感じた。
    「あついぃぃ! 痛い痛い助けて!」
     液体は酸となり体を溶かす。叩いても引き剥がそうとしても、液体には影響がない。激痛に蝕まれ、少年は意志を手放した。
     真っ暗な闇から少年は目覚める。
    「はっ?!」
     起き上がるとそこは教会だった。
    「おお勇者よ、死んでしまうとは情け無い。さあ、もう一度魔王を倒しにゆくのだ」
     神父がそう声をかける。
    「嘘だろ……あんな痛いのやってられるかよ!」
    「勇者様、世界を救えるのは貴方だけなのです」
     両側から騎士に腕を抱えられ、町の外まで連行される。
    「やめて、やめてくれ! あんなの倒せるわけないよ!」
     騎士は無言で町の外へと連れ出すと、城壁の門を閉じる。
    「助けて! 助けてよ!」
     門を叩く少年の背後からぬるりと緑の液体が迫っていた。
     
    「やあやあ、みんな集まったみたいだねぇ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が読んでいた本から顔を上げる。
    「一人の少年がシャドウの悪夢に捕らわれてしまうんだ。みんなにはそれを助けてあげて欲しいんだよ」
     放っておけば少年の心が壊れてしまい、二度と目覚める事はないだろう。
    「少年はどうやらゲームの世界の夢を見ているみたいなんだ」
     剣と魔法の世界。勇者となり魔王と倒すというオーソドックスなものだ。
    「まあ、ゲームならともかく、普通の人間が実際にモンスターと戦ったら勝てるわけないよねぇ」
     少年も普通の人間だ。夢の中で何度も殺されてしまう。
    「だから、まずはスライムを倒して少年の身柄を確保して欲しい」
     スライムは1体だ。灼滅者の力を持ってすれば、脅威ではないだろう。
    「城の騎士、これが敵の駒みたいなんだ。これを倒せばシャドウが現れると思うよ」
     戦闘力を持つ騎士は4体居る。城を守る為に備えているはずだ。
    「シャドウも強敵だけど、みんなの力があれば撃退できるはずだよ」
     誠一郎は手にしていた本を机に置いた。それはゲームの攻略本。
    「ゲームの世界はゲームだから楽しめるものだよね。だからこの悪夢から連れ帰ってあげて欲しい。お願いするよ」
     そう言うと誠一郎は灼滅者達を見送った。


    参加者
    巴里・飴(舐めるな危険・d00471)
    シュラハテン・ゲヴェーア(屠殺銃・d00837)
    ティノ・アークライン(一葉ディティクティブ・d00904)
    小鳥谷・ねむ(足音・d04547)
    葵璃・夢乃(ノワールレーヌ・d06943)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    北町・颯太(不憫なる青き焔・d08358)
    紅月・燐花(妖花は羊の夢を見る・d12647)

    ■リプレイ

    ●夢の時間
     人々が寝静まる月の輝く時間。月下の夜空を飛ぶ影。箒にまたがり、ティノ・アークライン(一葉ディティクティブ・d00904)がマンション二階のベランダへふわりと着地する。
    「到着です」
    「にゃ~」
     すると膝から音も無く飛び降りた黒猫が鳴くと、その姿を人のものへと変容する。猫が消えた場所に葵璃・夢乃(ノワールレーヌ・d06943)が立っていた。
     ティノは手摺りにコブの付いたロープを縛り、下へと垂らす。
    「では、私から」
     最初にそのロープをするすると器用に上がってきたのはシュラハテン・ゲヴェーア(屠殺銃・d00837)だった。
    「お手伝いします」
     壁を歩く紅月・燐花(妖花は羊の夢を見る・d12647)が仲間の手助けをする。
     他の仲間達も次々と続いて上がってくる。そっと窓を開け、少年の部屋へと侵入する。
     そこには苦悶の表情を浮べて寝入る少年の姿があった。
    「悪い夢を見ているみたいだね」
    「悪夢から目覚めさせてやらんとな」
     千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)が心配そうに少年の顔を覗く。
     顔をしかめて北町・颯太(不憫なる青き焔・d08358)も隣で呟いた。
    「ソウルボードに入るの初めてなんです、ちょっと不安ですね」
     初めての経験に、巴里・飴(舐めるな危険・d00471)は少し不安そうな表情を浮べる。
    「死ねない世界とはぞっといたしますね」
     燐花は少年の居る世界を想像して顔を強張らせた。
    「それじゃあ、ねむお願いね」
     夢乃が道を開けと、小鳥谷・ねむ(足音・d04547)が少年の前に立つ。
    「はい、皆さん準備はいいですね。いきます」
     緊張した表情でねむが少年の額に手をかざす。光に飲み込まれるように、灼滅者達の意識は暗転した。

    ●ファンタジー
     僅かな間、目が眩むような光を抜けると、そこには広大な草原と森、光に輝く湖面。そして城壁に囲まれた大きな城と城下町のある光景が広がっていた。
     だが何か違和感がある風景だった。良く見れば景色は固定されていた。写真のように全く動かないのである。
    「着きましたね」
     きょろきょろと周囲を物珍しそうにシュラハテンが見渡す。
    「CGというものでしょうか? 本当にゲームの世界なのですね」
     燐花も同じように不思議な景色を見やる。
    「まずは勇者さまを捜しましょう」
     飴の言葉に皆が頷き、城壁の方へと向かう。すると声と何かを叩くような音が聞こえる。
    「助けて! 助けてよ!」
     それは悲痛な少年の声。助けを求め、城門を叩く音が響いていた。
    「行くわよ!」
     夢乃は仲間に声を掛けると同時に走り出した。同じように仲間達も続く。
     少年の背後から音も無く緑の液体が迫り、飛びかかる。だがその体が少年に届く前に、横から飛んで来たスペードのQのカードに貫かれ、緑の液体は動きを止める。
    「真打ちは、遅れて登場するものよ」
     夢乃がカードを手に姿を見せる。
    「勇者さま、もう大丈夫ですよ」
     飴が少年に声を掛けながら守るように前に立つ。
    「だ、だれ?」
     少年が驚いた顔で灼滅者達を見る。
    「わたし達は冒険者なの、これから魔王を倒しに行く所なのよ」
    「私は魔法使いです。勇者であるあなたを助けにきました」
     ねむとティノが少年が安心できるように、優しい笑みを浮べて話しかける。
    「キミは僕らが守るよ。大丈夫、みんな強い人ばっかりなんだよ?」
    「一人で戦えなんてそれは無茶ってもんよなぁ……俺たちが来たからには、もう大丈夫やで!」
     勇気付けるように笑顔で七緒が、同情して励ますように颯太が少年の肩を叩く。
    「私はメイド兼踊り子でございます。それでは、お掃除させていただきます」
     メイド姿の燐花はスライムに一気に接近すると、ガンナイフを抜き刃で斬りつける。
    「固いゼリーを切ったような感触……でしょうか?」
     不可思議なスライムの手応えに燐花は首を傾げた。
    「速攻で潰すわよ」
     夢乃がエネルギーの盾を張り、体当たりするようにスライムに叩き付ける。衝撃でどろりとした液体が飛び散る。
    「近づきたくはありませんね。丸ごと飲み込ませて貰いましょう」
     ティノの影が恐竜の顎となって喰らいつく。大きな口で飲み込み、動きを止める。
     そこに颯太が手に宿した蒼い炎のような光の刀で斬り捨てる。四散したスライムは蒸発するように消えていった。
    『レベルアップ!』
     どこからともなくファンファーレと共に、レベルアップの文字が少年の頭上に浮かぶ。
    「……こんなのまであるんだね」
     どこか呆れるように七緒が呟いた。
    「1人でクリアできないゲームも仲間と一緒ならば大丈夫。だから一緒に行きましょう」
    「……うん」
     ねむの言葉に、少年は深く頷いた。

    ●城
     開かれた城門を潜り、灼滅者と少年が城に向かう。
    「ねぇ、どこに行くの?」
    「魔王討伐ですよ」
     問う少年にティノが答える。
    「わたしたちが守るから大丈夫なの」
     一瞬足の止まった少年に、ねむが安心してと飴玉を渡した。
    「これはこれは勇者様。ご無事にお戻りになられたのですね」
     そこに勇者が居る事に驚いたように、騎士達が出迎える。
    「それで、そちらの方々は?」
    「ぼ、ボクの仲間だ!」
     少年が脅えを振り払うように宣言する。それを見て騎士は顔をしかめた。
    「勇者様。勝手に仲間を作ってはいけません。勇者様は一人で戦わなくてはいけないのです」
    「勇者様を惑わす者どもめ、今ここで成敗してくれる!」
     4人の騎士が一斉に剣を抜いた。
    「勇者さまは後に下がっていてくださいね」
     そう言って飴は騎士に向かい矢のように飛び出す。ピンクのオーラが尾を引くように伸びる、それはまるで飴細工のよう。騎士が構えるより速く間合いに入る。勢いのまま雷が宿る拳を、突き上げるように鳩尾に叩き込んだ。騎士の体が宙に浮く。そのままニ撃目を顎に叩き込んだ。
    「まずはその騎士の駒を、全部倒してしまいましょう」
     ティノが宙に描いた魔法陣から矢が放たれる。それは体勢を崩す騎士の頭部へと直撃、頭を吹き飛ばす。すると騎士の肉体がタールのような黒い液状となって溶け、鎧だけが後に残った。
    「ば、化け物……!」
     それを見た少年は驚き、騎士の正体を悟る。
     残った3人の騎士達は盾を構え、飴へと殺到する。
    「危ない!」
     少年の悲鳴。
    「そうはさせないよ」
     七緒がエネルギー障壁を張り、騎士の行く手を阻む。1体の騎士が動きを阻まれ歩みと止める。
     2体が近づき剣を構えた。だが1体の剣が突き出す瞬間。その頭部が撃ち抜かれ、殴られたように後ろに吹き飛ぶ。
    「……命中」
     バスターライフルを構えたシュラハテンが無表情のまま呟く。その銃口から放たれた光の軌跡は計算通りに頭部へ当たっていた。
     もう1体が飴の頭上から剣を振り下ろす。
    「残念だけど、こっちは行き止まりよ」
     夢乃が障壁を張り、その剣を受け止める。そして押し返すように騎士を弾いた。
    「お帰りはこちらです」
     燐花の腕が異形と化す。大きく踏み込みその拳を打つ。騎士は盾で防ごうとするが、その盾を打ち砕き、拳は騎士の体に深くめり込む。
    「おら、さっさと消えろや」
     颯太の蒼い刃が体勢を崩した騎士の鎧を一刀で切り裂く。そして返す刃でその切れ目から胸を貫いた。背中に空いた穴からどろりと黒い粘液が流れ落ちていくと、騎士だったものは形を失った。
     1体の騎士が剣を振りかざして少年の方へと向かう。
    「僕、炎を使う魔法戦士なんだよ」
     七緒は少年に見せるように炎を生み出す。それは一つに収束し炎の剣となった。横薙ぎに振るわれた騎士の剣を炎が受け止める。
     そこに飴が横から接近して騎士に拳を放つ。防ごうと構えた盾ごと吹き飛ばす。衝撃に騎士は地面を転がる。止めを刺そうと飴が近づく。だがその飴の横からもう1体の騎士が迫り、盾で殴りつけた。
     よろめいた飴に剣を振りかぶったところで騎士の動きが止まる。見れば騎士の体に影が触手のように巻きつき動きを封じていた。
    「好き勝手されては困ります」
     ティノの足元から液体のように地面を伝う影が、騎士の動きを止めていた。その機に夢乃が光の刃を放ち、鎧を斬り裂く。その隙に燐花がガトリングガンから炎の弾丸を次々と叩き込み、鎧を穴だらけにして炎上した騎士は液状に溶ける。
     ねむが歌う。天使の如き歌声は飴の傷を癒す。
     飴に吹き飛ばされた騎士が起き上がろうとした所に、一発の銃光。シュラハテンの放った光線は足の鎧の隙間を狙撃し、足を吹き飛ばした。騎士はバランスを保てず転倒する。そこに颯太と七緒が仕掛ける。
     颯太の蒼白い光の刀が騎士が防ごうと掲げた盾を斬り裂く。そして守る術を失った騎士に七緒が炎の剣を突き立てた。溶けるように肉体が黒い液体に変わり、最後の騎士も消え去った。

    ●王
    「勇者よ、我が騎士達を倒すとはいったいどういう事なのだ」
     浪々とした声が城内に響く。見れば奥から王冠を被った白髪の老人が歩いてくる。
    「ボクらは魔王を倒しにきたんだっ」
    「貴様等が要らぬ入れ知恵をしたのだな」
     少年の言葉に王は灼滅者達を睨む。
    「勇者よ、今ならまだ許してやろう。こちらに来るのだ。そして勇者として戦うのだ」
    「イヤだ! もうおまえの言う事なんか聞かない!」
     少年は王の言葉を跳ね除ける。
    「そうか、ならば勇者よ。貴様の役目もここまでだ。貴様を殺して次の勇者を呼ぶ事にしよう……」
     王の体がどろりと溶ける。タールのような黒い液体は周囲の騎士だった黒い液体と合流し、形を変える。何本もの腕、獣のような四つ足。顔には悪魔のような仮面。巨大な黒い怪物の姿を現した。その身にはスペードのマークが浮かんでいた。
    『我コソガ魔王ナリ。死ネィ卑小ナ人間ドモヨ!』
     怪物の声と共に、どこからともなく荘厳なオーケストラの奏でる音が流れ始める。
    「その悪趣味、叩き潰させて頂きます」
     ティノが槍を構えて飛び込む。黒い怪物もまた幾つも生やした腕で迎撃する。だがその腕を光線が吹き飛ばしていく。
    「隙だらけやで」
     シュラハテンがライフルを構えながら一人呟く。
     その隙に槍の穂先が胴体を捻るように貫き、穴を開ける。
    『ヌウウゥゥゥアアア!』
     黒い怪物は消し飛んだ腕をもう一度生やし、周囲に居るものを殴りつける。
    「とんだクソゲーね。魔王の登場には、少しばかり早過ぎるわよ」
    「ほら、遊んでよ魔王サマ」
     それを前に出た夢乃と七緒が、エネルギー障壁を張り防ぐ。
     そこに怪物が放った黒い弾丸が障壁を突き破り、夢乃に襲い掛かる。直撃する寸前に燐花が割り込む。
    「私の中にあるもう一人の私よ、今ここに……」
     どこか色気のある動作でガンナイフを振るい弾丸を受ける。だがすぐに放たれた次弾を受けきれずに肩を撃ち抜かれる。そして弾丸が溶けて黒く汚染していく。
    「大丈夫? すぐに治療するの」
     ねむが符を飛ばす。傷口に張り付くやすぐさま出血を止め、傷口を塞いでいく。
    「……ホンマに胸糞悪いな……確実にぶっ殺すで。シャドウ」
     シャドウを前にして颯太の目つきが変わる。鋭く睨みつけると、腕を異形化させ突進する。迫る腕を蒼い刃で斬り払い、接近すると拳の一撃をスペードのマークに叩き込む。
    『邪魔ダァ!』
     黒い腕で颯太を弾き飛ばすと、怪物は少年を見る。
    『ドウダ恐カロウ、我ガ言葉ヲ聞カナカッタ事ヲ後悔シテ死ネィ!』
     少年に向け、漆黒の弾丸を放とうとする。だが少年は恐怖に震えながらも怒鳴った。
    「みんながいるから、だからお前なんて全然恐くなんてない!」
     それは少年の持てる全ての勇気を振り絞った言葉。
    『生意気ナ小僧メ! 死ネ死ネ!』
    「傷一つ、指一本たりとも触れさせはいたしません」
     放たれた漆黒の弾丸を、 燐花もまた銃を撃ち迎撃する。狙い違わず、銃弾は軌道修正しながらぶつかった。衝撃にお互いが軌道を曲げ、明後日の方向へと飛んでいく。
    「よく言ったねっ。後は私達に任せて!」
     笑みを浮べた飴は、オーラを纏い飛び出すと、雷を宿した拳で敵の脚を打つ。バランスを崩した所へ跳躍、鋼のような拳を振り上げ、顔に叩き込む。
    『グゥアア、人間如キガ!』
     怪物は反撃に腕で殴りかかる。
    「私の前で、誰も傷つけさせたりしないわよ」
     夢乃は盾で攻撃を受け止めると、光の剣で腕を斬り裂いた。
    「お遊びが過ぎたね」
     七緒は魔法弾を足に撃ち込み、敵の動きを止めると炎の剣で斬り上げる。炎に燃やされ、黒い体が蒸発する。
    「趣味悪い遊びもここで終わりやで! さっさとこの夢から去ねや!!」
     颯太が怪物の脚を蹴り跳躍する。頭上から蒼い炎の如き光の刀を振り下ろす。刃はずぶりと首筋から胴体へと抜けた。
     涼やかな風で黒い毒素を消した燐花は、近接してガンナイフで喉を斬り裂く。
    「お休みなさいませ」
    『アアアアアア!』
     怪物は暴れて近づいた者を纏めて吹き飛ばす。
    「魔王に負けずによくがんばったね。その勇気がきっと勇者の証なの」
     少年の前にねむが守るように立ち、天上の歌を紡ぐ。仲間達はすぐに傷を癒し、敵と対峙する。
    「長居の心算はありませんわ。早々に帰って頂きます」
     ティノの魔法の矢が飛ぶ。怪物は避けようと動くが、矢は自在に方向を変え、胸に深々と突き刺さった。
    「これで……終りです」
     もがく怪物の動きを読み、シュラハテンは銃口をそっと動かす。そしてタイミングを見計らい、引き金をゆっくりと絞った。銃口から放たれる光線は怪物の腕を掻い潜り、その頭部を消し飛ばした。
    『ギアアアアアッ貴様ラ、ヨクモヤッテクレタナ! 覚エテイロ、次ノゲームデハ必ズ皆殺シニシテヤルゾ!』
     怪物は形を保てなくなり、黒い液体となって四散すると、世界から消え去った。

    ●勇者の帰還
     魔王は跡形もなく消え去り、城も街も住民も、全てが幻のように消えていく。
    「これで魔王は滅びましたね。おめでとうございます勇者さま」
    「お疲れ様でした勇者様」
     飴と燐花は頑張った少年を労う。
    「よく頑張りましたね。偉かったですよ」
    「うん、私もそう思う……よく、頑張ったね」
     ティノとシュラハテンが最後まで逃げずにいた少年を褒める。少年は照れくさそうに頬を赤らめた。
    「僕らがお供するのはここまでだね」
     七緒が笑顔で別れを告げる。
    「え?」
     少年の驚いた顔。
    「もう悪夢は終りよ。夢から覚める時間だわ」
     慈愛の籠もった夢乃の笑み。
    「俺らは冒険者やからな、次の旅に出なあかん」
     颯太が不安そうな少年の頭を乱暴に撫でる。
    「これは全て夢なの。だから目を覚まして、自分の世界に帰るの」
     ねむの優しい言葉に少年は頷いた。
    「あの、みんなありがとう! 絶対忘れないからね!」
     灼滅者達は少年の夢から消える。残された少年の夢に、暗い影はもう無かった。

     少年は目を覚ます。窓の外から僅かに光が覗いていた。室内を見渡すが誰も居ない。
    「恐い夢だったけど……カッコいい夢だったな」
     見ていた夢を思い出し、少年の顔に浮かんだのは笑顔。それは名も知らない冒険者達が残した、確かなものだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ