幸福な悪夢~君と僕の本当の幸せ

    作者:藤野キワミ

    ●リアルな夢
    (「……もう一仕事といきますかね」)
     胸中で気持ちを切り替えた黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)は、アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)の背中を見つめる。
     今まさに眠れる少年の精神世界へアクセスを行おうとしているのだ。
    (「覚めない夢の中にいられたら、確かに幸せなのかもしれないけど……でも、」)
     思うところのある司城・銀河(タイニーミルキーウェイ・d02950)は、首を振った。
     覚めなければ現実――そんなことはない。夢は夢で、いつかは目を覚まして『現実』と向き合わなければならないのだ。
    「夢の中なら幸せにできるなんて、間違ってます」
     きゅっとお守りを握った聖江・利亜(星帳・d06760)に、月宮・白兎(月兎・d02081)は静かに頷いた。
    「うん、そうですね――いったいなにを考えているのでしょう……」
     考えても答えの出ない問いがみなの中に確かに存在した。
     コルネリウスの思惑――それはいくら思案しても詮ないこと。
    「…………」
     無表情の中の表情を引き締めて、水縹・レド(焔奏烈華・d11263)は気合を入れる。
     不気味なひょろ長いシャドウを夢へ追い返すことはできた。このまま、有川晴也の夢からも追い出してやろう。今ならできる。
    「(絶対なにか裏があるはず……つきとめてやりたいわ……)」
     ぽつりぽつりと心を漏らした勅使河原・幸乃(鳥籠姫・d14334)の、その呟きを聞いたテン・カルガヤ(黒鉄の猛将・d10334)は、
    「ほどほどにね」
     苦笑を洩らしてたしなめた。
    「えっと、それじゃあ、行きます」
     アイスバーンの言下、夢の中へ。

    ●忘れられた疑惑
    「これから……あたし、有川君のこと、晴也くんって、呼んでも良い?」
     いじらしく見上げてくる大きな瞳に心を撃ち抜かれた。
     有川晴也は中学三年生。高校受験という現実が辛くのしかかってくるのをようやく実感したばかりの春だが、彼は今はそれどころではない。

     あの長谷川りんが、校内の、否、町内のアイドル長谷川りんが自分の告白にオッケーしてくれたのだ。

     りんはかねてより、自分より背の高い男が好きだと周囲に漏らしていた。
     容姿については聞いていない。イケメンにこしたことはないだろうが、きっとフツメンでも問題はないはずだ(当時の自分は知らないが、晴れてりんはオレのものになったんだからな!)
     だから晴也は毎日鉄棒にぶら下がった。縄跳びをしたり、逆立ちをしてみたり、牛乳をがぶ飲みしてみたり、とにかく背を伸ばそうと躍起になっていた。
     そして、158センチほどしかなかった身長は、みるみる伸びてついに170センチに到達したのだ!
     クラスメートを見下ろす快感、クラスメートが見上げてくる優越感、そして、長谷川りんの熱い視線!
     俄かに晴也を支配したのは、度し難い自信。
     いける。いかなきゃいけない気がする。この世のすべてがオレの味方をしている。だってオレはこんなにもスタイル抜群になった!
     己への自信に溢れた晴也は、ついにりんを呼び出した。
    「オレと、付き合ってくれない?」
     屋上へと続く階段で、りんは恥ずかしそうに俯いて、耳を真っ赤にして小さく頷いた。
     そして、冒頭に戻る。
    「もちろん! オレも、りんって呼んでいい?」
    「うん」
     ああ、バラ色かな我が人生!

    ●名状しがたい脱力
     晴也とりんのそのやり取りを、屋上のドアをこっそり開けて見聞きしていた、でばがめ状態の八人は、何とも言えない脱力感に襲われていた。
    「あの有頂天の目を覚ませば良いわけっすね……」
     蓮司がぼそりと呟く。
    「うん、そうみたいですね」
     白兎がげっそりと頷いた。
    「バカだわ。あいつ、度し難いバカだわ」
     幸乃の辛辣なお言葉に、「まあまあ」と利亜は苦笑する。
    「さて、どうやってこの世界が夢であるかを分からせる?」
    「……こういうのはどうでしょう」
     テンの問いに、銀河が提案する。

     身長がそんな簡単に伸びるのならどれほど楽かを懇々と説く。

     切実な思いが伝わってくるのはどうしてだろうか。
    「あとは、てっとり早くサイキックを見せてしまうというのは、どうだろう」
     レドの提案に、
    「えっと、最悪その方法でもいいと思います。でも、」
     晴也が、灼滅者は敵だと思ってしまうと、それは、シャドウに力を与える事になってしまうのではないか――アイスバーンは危惧する。
    「説得しましょう。できれば彼が自分から目覚めてくれるように」
     そのために晴也のことを知ろうとしたのだ。
     頑張ってみよう。
     やらずに後悔するより、やって後悔した方が己の成長に繋がる。
    「……結局、シャドウを追い払うのよね?」
    「そうだけど、夢の主である晴也を味方につけた方が戦い易いんだよ」
     幸乃が首をひねれば、銀河が答える。
    「もう少し、どうするか詰めましょうか」
     にこりと笑んだ利亜が、提案した。


    参加者
    月宮・白兎(月兎・d02081)
    黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)
    司城・銀河(タイニーミルキーウェイ・d02950)
    聖江・利亜(星帳・d06760)
    テン・カルガヤ(黒鉄の猛将・d10334)
    水縹・レド(焔奏烈華・d11263)
    アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)
    勅使河原・幸乃(鳥籠姫・d14334)

    ■リプレイ

    ●幸福の亀裂
    「りん、あのさ、」
     晴也は恋人(なんて甘美でこそばゆい響き!)の名前を呼ぶ。
     見下ろす視線の先の彼女は耳を真っ赤にさせて、晴也を見上げてくる。
    「なに?」
    「一緒に、帰ろっか」
     誘えば、彼女は俯いて、長い髪で頬を隠す。
    「……えっと、ちょっと、ごめん……今日は、一人で帰っても、いい?」
     ああ、きっと恥ずかしがっているのだ。
     きっとそうだ。
     理想とした背の高い男と並んで歩くことの幸せに、まだ頭が追い付いていないのだ。
     晴也はこくりと頷いて、「また明日ね、りん」と手を振った。
    「うん、また明日、晴也くん」
     花が咲いたように笑って、りんは階段を駆け下りていく。
     その後ろ姿を見送って、晴也は幸せに悶えていた。

    ●亀裂から瓦解
    「告白見てたよ、成功したね、おめでとう」
    「んなっ!?」
     いきなり声をかけられた晴也は、死ぬほど驚いて目をしばたく。
     プラチナチケットを使っているために正体を怪しんでいるわけではなさそうだが、恥ずかしさや自慢したさや、でもやっぱり恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め上げた。
     だがここで晴也に警戒心を解いてもらってこちらの話を聞いてもらえるようにするには、彼を心底気持ちよくしてやればいい。
     それには、彼から話させること、うまくこちらが聞き役に回ってやることが一番だ。
     司城・銀河(タイニーミルキーウェイ・d02950)は重ねて彼を誉める。
    「あの長谷川さんをオトすなんてすごいね」
    「へへへ、まーな! オレだってこう見えて努力したんだぜ」
     それは知ってる――なんせのぞき見することが出来たのだから。
     だが晴也にとってはこの世界が現実で、自分の陰の努力なんて知られていないと信じて疑っていない。だから懇切丁寧に晴也はいかにして身長を伸ばしたか――どれほどの牛乳を飲んだか、どれぐらい縄跳びをし続けたか、鉄棒にぶら下がっている間の、あの悟りを開いてしまいそうなほどの壮絶さ(手にまめができて痛かったそうだ)を説明してくれた。
     その間、灼滅者たちは神妙に頷いたり、「それでそれで?」とアイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)は先を促したり、笑わそうとしていると感じられたときには笑ってあげたりして晴也の緊張を解いていく。
    「それで十二センチも伸びたのね」
     勅使河原・幸乃(鳥籠姫・d14334)の言に、晴也はぴたりと表情を止めた。
    「――なんで、オレが十二センチ伸びたって知ってんだ? オレ、十二センチなんて言ってないぞ」
     有頂天の晴也だったが、自分の言った言葉を覚えているほど冷静な部分はあるようだ。
     幸乃は口元に笑みを浮かべて、
    「知ってるわよ。だって、これはあなたの夢の世界だから」
    「はあ!?」
     素っ頓狂な声を上げて、開いた口が塞がらず、信じられんと怪訝そうに幸乃を見る。
    「混乱するのはよく分かる。でも聞いて。レドたちは味方」
     慎重に水縹・レド(焔奏烈華・d11263)は言葉を重ねた。
    「りんが告白を受けてくれたことは嬉しいことだけど、晴也が好きになったりんは、身長が伸びただけで好きになってくれる、そんな簡単な子なのか?」
    「女の観点から言わせてもらえば、背が高ければ靡くってほど単純なものじゃないわ」
     言った幸乃に続くのは、月宮・白兎(月兎・d02081)だった。
    「私は、男性の魅力は身長だけではないと思うのですよ」
    「――身長だけじゃない?」
    「はい。女性が見ているのはその人の性格――どれだけ自分を愛してくれるのか、どれだけ大切にしてくれるのか、そしてどれだけその人を愛したいか、大切にしたいか…だと思うのです」
     静かに静かに心をこめて晴也に語りかける。
    「相手を思う心……でも、『長谷川さん』はオレに振り向いてくれたんだ! それってオレの背が高くなったからじゃないか!」
     晴也はその自信を揺るがすことはない。長身を武器にりんを落としたと確信しているのだ。
    「それはどうかな」
     銀河は返って冷静に、首を傾げ晴也を見上げる。
    「身長しか見ていないなら、小さかった晴也と笑顔で写真を撮ったりしないはずだよ」
    「ッ! なんで写真のこと……!」
    「もう一度言おう。これは君の夢の世界だ。現実世界で本当の君の姿を見てきた。だからこそ分かる。この世界は偽りに満ちている」
     テン・カルガヤ(黒鉄の猛将・d10334)の揺るがない言葉。
     それが晴也の表情を凍りつかせる。
    「どこが、偽りだって言うんだ…!」
    「まあそう熱くなんな。よく考えてみろ、常識でものを考えろ、短期間で十二センチアップとか不自然だろ?」
     黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)が低く優しく声をかければ、彼は眉根を寄せて、「そうか?」と問い返してきた。だから蓮司は大きく頷いて、
    「俺だって一年かけてようやく八センチ伸びたんだ」
    「一年で、八センチ……?」
     眼前の蓮司と視線が変わらない。この人が一年かけてこの身長になった、自分はどうだった?
    「有川さん、体は痛くないですか?」
     聖江・利亜(星帳・d06760)がそっと尋ねる。彼女を見下ろした晴也は首をひねる。
    「いや、痛くねえけど……」
    「成長痛があるはずです。それほどまで急激に背が伸びたのですから、痛くないはずがありません」
    「保体の授業で習ったでしょう?」
     幸乃が嘆息を隠して問う。
     先刻の幸せいっぱいの晴也から一変、今のこの状況に混乱を覚え、俄かに疑問が芽吹く。
    「りん殿が告白を受けてくれたのは、君の身長だけを見ていたわけではないはずだ。背を伸ばすことは確かに良いことかもしれないが、それよりももっと大事なことがあるはずだ」
    「えっと、晴也さんの身長を伸ばそうとした努力のこと、すごいと思います。わたしももう少し頑張ってみようかと思いました」
     牛乳はあまり得意ではないアイスバーンは晴也の努力を認める。
     その弛まぬ努力もしかり、一途に思い続ける純粋さしかり、そして、それ以上の晴也の魅力は、夢の中では見つからない。
     それは現実世界で、もがいて足掻いて踏ん張ってようやく手にすることのできる、紛れもない晴也だけの魅力だ。
    「オレだけの、魅力……身長だけじゃない……」
    「そうです、有川さん。このままで良いのですか。このまま夢の中で完結してしまっても良いのですか。本当の長谷川さんと心を通わせなくても、本当に満足できますか?」
     利亜が尋ねれば、晴也ははっきりと首を左右に振った。
    「オレは長谷川さんが好きだ……」
    「その気持ち、大切に持ってれば大丈夫っすよ。なにも焦ることはないっす。成長期真っ只中なんだから自信持って」
     そして晴也は蓮司の顔を見る。
     中学生の持つ、子供の域を抜け出そうとしてる危うい均衡が、ふらりと傾く。
     短期間で十二センチも背が伸びた。晴也なりに努力をして、望んだ結果が『望んだように』出た。そして『望んだことが起きた』。それは、あまりにも都合が良すぎる。
     気がついて、晴也は愕然となった。突き付けられた現実に、彼のアイデンティティが揺らぐ。
     頭ではわかってることだ。だが、どうして、なぜ――詮ない疑問が晴也を支配する。
    「あんたらは、誰だ?」
     晴也が問う。
    「わたしたちは、」
     アイスバーンが答えようとした時、

    「……なんで?」

     それははっきりと聞こえた。若くも低い男の声――屋上へと口を開けるドアの向こうに、黒いローブを着た長身痩躯の仮面が立っていた。

    ●崩壊して更地
     ダイヤの浮き出した黒く重厚なローブがはためいている。翻り足元がめくり上がった――タイトなズボンが見えた。赤と黒のダイヤ柄だ。
    「またお会いしましたね」
     白兎が真っ先にスレイヤーカードを解除する。
    「有川さん、隠れていてください。説明は後で」
    「大丈夫、レドたちが守る」
     利亜とレドが晴也を背に庇い、屋上の扉を閉めた。
    「なんで、追ってくるの?」
     低い声に相反してひどく幼い話し方に、利亜は臆せず言い放つ。
    「それは助けたい人がいて、貴方たちのやり方に納得いかないからです」
     シャドウへ突っ込んでいく幸乃の眼前に盾を張り巡らせ、利亜は強くシャドウを見据える。
     先刻相手をしたときよりも確かに隙がある。勝てないと思い知らされた庭での防戦を思い出し、彼女らは確信を強める。
     勝てる。否、勝たねばならない。でなければここまできた意味がない。
     アイスバーンは巨大な盾を展開し、前衛の仲間たちの守りを固めた。
    「本気で悩んでる奴に付け込んで、幻で塗り固めた世界に囲う……やり方が気に食わねーんすよ」
    「まあ、そういうわけね」
     蓮司は《兇鳴【迅】》を手に、銘の通りに闇に溶けるようシャドウに切迫、そして漆黒のローブごと腕を落とそうと凶刃を振るう!
     その後に幸乃も動く。堅牢なシールドでもってシャドウをぶん殴れば、それは幸乃への怒りを俄かに抱いた。
    「コルネリウスの慈愛はきっと本物なのでしょう。彼女に任せれば、夢の中で確実に幸せになれる」
    「そうだよ、ふふふ、なんだ、分かってるじゃないか」
    「それが大きなお世話だと言っているのです」
     楽しそうに笑うシャドウに白兎はぴしゃりと言う。
    「夢を叶えようと自分で努力する――その楽しみを奪って、なにが慈愛だというのですか?」
     夢は自分で叶えてこそその真価を発揮する。誰かの思惑が働いて、すでに敷かれたレールに乗っかって、なにが努力だというのだ。
     縛霊撃でシャドウの自由を奪った白兎は縛霊手をぎちぎちと軋ませて、
    「ここからが本番です、全力でお相手いたします」
     白兎の言下、テンと銀河が同時に解き放った螺穿槍がシャドウにヒットした。
    「さあ、とっとと出て行ってもらうぞ」
     テンは凄んで、銀河も真剣に槍を構え、足元に《αCyg Deneb》を揺らめかせる。
    「さっきまでのレドたちと違う、もう力をセーブして戦う必要はないから」
     漆黒の弾丸をでシャドウを蝕むレドは、金瞳を鋭く尖らせた。
    「ううう、痛いよ……」
     呻いてシャドウは胸元にほのめくダイヤを浮かび上がらせた。
     ここから八人の攻防が始まる。

    ●更地に吹く新風
     晴也は灼滅者たちの言葉を信じてくれた。
     自分たちの想いが彼に伝わった。
     その信頼が今目の前にいる敵が、シャドウ一体だけという形で表れている。
     なにが良かったのか、なにが彼の心を打ったのか――いまは考えている時間はない。だが、総合して、そのすべてが彼のためになったということだ。
     それが、彼女らにとってなにより嬉しかった。
     実際にパワーアップしているわけではないが、晴也の信頼がモチベーションを高めているのは確かだ。
     面倒だと思われた配下は一体もいない。おかげでシャドウに集中することが出来る。
     最初からシャドウに全力を注ぐことが出来る。
     一撃一撃のダメージを利亜とレドで分担して癒し、幸乃とアイスバーンはシャドウの動きに集中し、多くのダメージから仲間を守ろうと立ち塞がって、テンと銀河は猛攻撃を加える。そんな彼女らが動きやすいようにと蓮司と白兎は援護に徹した。
     より多くのダメージを。
     前衛たちが少しでも戦いやすいようにと二人も懸命に力を解放する。
     攻撃されて、攻撃を加え続けて、回復されても攻撃の手を緩めることなく、連携の檄が絶え間なく飛び交う。
     互いに名を呼んで、タイミングを計り、目まぐるしく屋上を縦横無尽に走り回る。
    「往生際が悪いわ」
     幸乃はシャドウの攻撃をひらりと躱し吐き捨てる。
    「幸せだけじゃない、辛いこともその人の一部。それを奪うなんて許せない」
     狙い澄ましたデッドブラスターが闇に直撃する。レドの放った弾丸は刹那、シャドウを毒で侵す。
    「その身勝手さ、灼滅をもって償っていただきます」
     利亜の言下、彼女の足元で蠢く影が瞬く間にシャドウを丸飲みにした。
    「切り刻んで、すり潰してやる」
     利亜の攻撃でシャドウに隙が生じ、蓮司の纏う雰囲気が凶悪なものへと変化して、一切の容赦なく斬り上げる。
    「これで終わりと思わないことね」
     テンが拳に発露させるのは術式で織り上げられたオーラ。それを何度もシャドウの腹へとぶち込んで、凄まじいラッシュとなった。
    「夢に閉じ込めて幸せにさそうなんて、偽善甚だしいよ」
     狙い澄ましたライフルから術式が練り込まれた魔法光線を照射した銀河に、
    「……!」
     短く息をつめたアイスバーンは、影業をシャドウへと伸ばしそのまま飲み込んだ。
     トラウマに駆られるシャドウへ追い打ちをかけたのは、
    「十分好き勝手できたでしょう、そろそろ退場してもらってもいいでしょうか」
     白兎だ。
     バスターライフルの照準を合わせ、強烈な魔法光線がシャドウを撃ち貫いた!
     よろよろと後ずさって、薄気味悪い仮面が剥がれ落ち、粉々に砕け散った。
     露わになったその顔は、目深に被られたフードで見えない。シャドウはずっと握り締めていた大きな鎌をさらにギュッと握って、
    「うう、コ、コルネリウス様に言いつけてやる……!」
     涙声のシャドウは、ふわりと辺りを透過し、そのまま消えていった。

    ●新地に芽吹く
     撃退したシャドウが跡形もなく消えたとき、屋上の扉が重々しい音を立てながら開いた。果たしてそこにいたのは晴也だった。
     武装を解除した八人は彼に近寄っていく。
    「……晴也さん、とっても幸せな夢をぶち壊してしまって申し訳ありません」
    「いや、いいよ……だって、あんたらはオレを助けに来てくれたんだろ」
     彼は詫びる白兎に首を振った。
    「そろそろ、起きないとな」
     蓮司が晴也の肩を叩けば、彼は無言で首肯した。
    「現実世界で、もう一回、頑張ってみるよ」
    「あなた、バカだけど性格は悪くないわ。男を磨いて本物のりんをきっちり惚れさせなさい」
     尊大に幸乃が言い捨てれば、晴也は鼻白んだ――だが、すぐに照れたような笑みを浮かべる。それが幸乃なりの励ましだと気付いたのだろう。
    「レドが思うに、晴也は、もうちょっとおしゃれに気を使った方がいい」
    「そうっすね、まずはファッション雑誌買ってみればいいっすよ」
     カッコいい服を着て、流行りの髪型にセットして――それだけで自信がつく。
     晴也はもう一度頷いて、笑う。
    「あんたらに会えて良かった」
     八人は面食らって、それでもそれぞれの笑顔を返した。

     おはよう、晴也。

    作者:藤野キワミ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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