幸福な悪夢~幻想の世界の中で

    作者:白黒茶猫

    ●夢の中へ
     現実世界へ現れたシャドウとの厳しく長い10分を耐え切り、無事退けた灼滅者達は眠る少女の傍に立つ。
    「こっからが本番なんだ。頑張んねぇとな……」
     白鐘・衛(白銀の翼・d02693)が受けた傷は深いものの、夢の中での戦いまでにはなんとか癒えるだろう。
    「被害状況を確認。次のミッションと行きましょう」
     高嶺・銀(見習いガンナー・d00429)は仲間の被害確認し、心霊手術を終えた椿・諒一郎(Zion・d01382)と共に。
    「さて、追い詰められた奴さんはどう待ち構えてるかねぇ……」
    「散々やられた分、思いっきり殴りに行くか」
     衛が重傷を受けたばかりの身体で、神護・朝陽(ドリームクラッシャー・d05560)に支えられながらなんとか歩き。
    「夢の中でもがんばるのですよっ!」
    「私はがんばらないで済むといいです……」
     気合を入れる天羽・蘭世(虹蘭の謳姫・d02277)と上木・ミキ(ー・d08258)は正反対の事を言いつつ。
    「皆、追いかけるよ!」
    「では気を引き締めていきましょうか」
     姫城・しずく(アニマルキングダム・d00121)が仲間達へ声を掛け、山咎・大和(彼女のためならいかなる事も・d11688)はにこやかに笑みを浮かべ。
     眠る少女の手をそっと握り、灼滅者達は少女の夢の中へと入っていった。

    ●夢は叶うもの
     薄茶色の短髪の体操服姿の少女が、学校のグラウンドの100mコースを走る。
     健康的に日に焼けた少女で、名前は桂木・美奈(かつらぎ・みな)という。
     現実世界で死んだように眠っていた少女とはまるで印象が違うが、本人であるのは確かだ。
    「はぁ、はぁ……どう、だった?」
     全力で走った少女は息を切らし、呼吸を整えながらストップウォッチと記録用紙を持った少女にタイムを聞く。
     日に焼けた美奈とは対照的な、華奢で白い腕が目立つ。
    「11秒61! 凄いよ美奈ちゃん、これって全国の記録更新じゃない!?」
    「うっそだー! それ、ストップウォッチ早く押しすぎただけだよー」
     練習風景ではそういうこともままある。
     美奈も実際には良くて12秒前半くらいだろうと思っていた。
    「そんなことないって! 美奈ちゃんが頑張ったからだよっ! 美奈ちゃんなら全国優勝も夢じゃないよ、絶対!」
    「えへへ、そっかなぁ? ……そーだよね! よしっ、もっと頑張ろう!」
     とはいえ自分のことのように喜ぶ姿を見て満更でもないようで、にへらと頬を緩める。
    「うん。頑張れば頑張っただけ、結果はついてくるんだよ。この世界は、とっても優しくできているんだから」
     興奮した様子から一転、静かな笑みを浮かべて言うマネージャーの少女に、美奈は無邪気に微笑み返す。
    「でもその前に一息入れてくるね。水飲み場で水飲んでくるよ」
    「スポーツドリンクならあるよ?」
    「いいのいいの、ついでに頭に水被ってくるから。あ、悪いけどあたしのタオルお願い! 部室のロッカーにあるからー!」
     少女に手を振りながら、美奈は持ち前の脚力で水飲み場へと走っていった。

    「この光景だけ見れば爽やかな青春風景の一つ、なんだけどね」
     その様子を伺っていたしずくがポツリと漏らす。
    「つまり、あの女の子……美奈さんにこの世界が夢だって分かってもらえばいいのですねっ」
     蘭世はぐっと小さく胸の前で拳を握り、少女を助ける決意を固める。
    「そうするとシャドウ……多分あのマネージャーっぽいのだろうけど、そいつが邪魔しにくるだろうな」
     朝陽が一緒に居た少女を思い浮かべながら言う。
    「その前にどうやって彼女を説得するか、ですね。別行動しているみたいなんで、接触を邪魔されるってことはないでしょうけど」
     現実と何一つ変わりない世界を見ながらミキが口にする。
     この世界のリアリティは非常に高く、ともすれば自分達まで信じてしまいそうだ。
    「手っ取り早く、俺達のサイキックでも見せてやれば夢だって思うだろ」
     衛の言うとおり、現実でも目の前でありえない光景を見ればまず夢だと疑うはずだ。
    「彼女に攻撃してみせるのも一つの手だな。シャドウにとっても彼女が傷つく事は本位ではないだろう。そうすればすぐに正体を現すはずだ」
     諒一郎の案も一つの手段だ。シャドウの本当の姿を見れば、夢だとすぐに信じるだろう。
    「私としては紳士的に穏便に行きたいところですが」
     だが紳士であることを心がける大和にとっては、女性に武器を向ける事はしたくない。
    「それにここは彼女の夢の中です。もし彼女に私達が敵だと思われてしまえば、シャドウに力を与える事になってしまうかもしれません」
     銀の懸念も最もである。
     夢の中では弱体化しているとはいえ、ここはシャドウのテリトリーだ。力を得る方法はいくらでもあるだろう。
    「いっそ桂木は無視して、あのマネージャーのところに直接行ってもいいんじゃないか? 部室にいるんだろ?」
     シャドウを倒してしまえば夢から連れ戻すことも可能だ。
     恐らく会うのは難しくないだろう。8人で行けば、戦力も十分のはずだ。
     だがその場合、シャドウがどう出るかはわからない。近道のつもりが遠回り、ということもあるかもしれない。
     どうするか相談する時間は、十分にある。
    「美奈さんが自分から目覚めてくれるのが一番いいですよね、きっと。そのためにも、がんばるですよっ」


    参加者
    姫城・しずく(アニマルキングダム・d00121)
    高嶺・銀(見習いガンナー・d00429)
    椿・諒一郎(Zion・d01382)
    天羽・蘭世(虹蘭の謳姫・d02277)
    白鐘・衛(白銀の翼・d02693)
    神護・朝陽(ドリームクラッシャー・d05560)
    上木・ミキ(ー・d08258)
    山咎・大和(彼女のためならいかなる事も・d11688)

    ■リプレイ


     先程窺った様子の通り、グラウンドの近く、屋外に設置された水飲み場に美奈の姿はあった。
     美奈が蛇口から出る水をざぶざぶと頭から浴びているところへ、8人の灼滅者達が集まった。
    「よっ!」
     神護・朝陽(ドリームクラッシャー・d05560)は唐突に声を掛け、自然体に振舞う。
     美奈がそれに驚き、灼滅者達へ視線を向ける。
    「美奈さん、こんにちわ。良いタイムが出たみたいだね?」
     姫城・しずく(アニマルキングダム・d00121)がふんわりと声を掛ける。
    「えと……どちら様ですか?」
     美奈は水を止めて濡れた髪を軽く絞りながら疑問の声を上げる。
    「練習おつでーす」
     癒し系アルバイト制服に身を包んだ上木・ミキ(ー・d08258)が、美奈が返答する前に胸元の何も無いところからドリンクを取り出して渡す。
     何も無いというのは決して胸囲的な意味ではない。
    「え、今の……何!?」
     突然の事に驚いた美奈が、目を丸くする。
    「種も仕掛けもございませんよ。あ、でも緑黄色野菜味ならありますよ」
     ミキはそういいながらドリンクをもう一つすっと取り出して渡す。
     まるで夢のような不可思議な状況に首を傾げながら美奈は受け取ったドリンクを見る。
    「楽しそうな夢を見ているな」
    「夢って……見てるわよ。最速の女子中学生って、カッコいいじゃない?」
     椿・諒一郎(Zion・d01382)の言葉は、少し違った形で受け止められた。
     どう告げたものかと思案し……
    「ここは覚めない夢の世界で、あなたはある怪物の企みでここに囚われています。私達はあなたを目覚めさせに来ました」
     ミキたちは正直にダークネスやら灼滅者やらのことを包み隠さず教えた。
    「……えぇっと……電波さん?」
     美奈が悩んで出した答えはそれだった。
     十分ファンタジックではあるが、美奈にとってその言葉は信憑性に足りない。
    「突拍子もない事かもしれませんが、現実に起きていることです。信じていただけませんか?」
     山咎・大和(彼女のためならいかなる事も・d11688)が穏やかな笑みを浮かべながら諭すように告げる。
    「信じろって言われても、どこの世界にそんなお助けヒーローみたいなのがいるって言うのよ」
     しかし美奈は納得がいかないらしい。
     現実だと思っている中で突然言われても、簡単には信じられないようだ。
    「これは夢なのです。ほっぺたつねっても痛くないのですよ」
     天羽・蘭世(虹蘭の謳姫・d02277)がそう言って自分のほっぺたをぎゅーっとつねる。
    「い、痛く、ないのですよ……」
     実は痛かったりするが、蘭世はぐっと我慢の子。薄っすらと涙を浮かべつつも耐える。
    「普通に痛そうなんだけど!? ほら、やめなさい?」
     美奈が慌ててやめさせ、蘭世の頬を撫でる。
     強くつねりすぎたのか、蘭世のほっぺたはちょっと赤くなっている。
    「では、この世界が夢であるという材料を見せてよう」
     諒一郎が解除ワードを呟くと、服装が瞬時に執事服へと変わる。
     変身に驚く美奈に構わず、諒一郎はぽんぽんと美奈の体を叩く。
     その瞬間、美奈の濡れた髪や汗を吸った体操服が、まるで洗い立てのように綺麗さっぱりになる。
    「水を被るよりさっぱりするだろう」
     美奈は諒一郎の言葉を聞かず、乾いた髪と服を触って確かめる。
    「な、何これ……何の手品?」
    「手品ではない。これらは夢だからだ」
     不思議な出来事の連続に、少し怪訝な顔を浮かべ始める。
    「キライな先生や、苦手な男子とか、どこへ行ったんですか?」
    「どこって別に、普通にいるわよ?」
     ミキの言葉に美奈は平然と答える。
     どうやら現実世界の人も記憶を元に再現されているらしい。
    「でも最近は小テストで良い点取ったらこっそりジュース奢ってくれたり、雨の日に傘忘れたから走って帰ろうとしたら、傘貸してくれたり……」
     美奈が言ったこの世界での経験は、やはり『頑張ったから報われた』という結果だ。
    「その人達は、そんなに優しい人でしたか?」
     ミキの言葉に美奈は一瞬怪訝な顔をする。
    「あれ、確かになんか……変、かも?」
     だが現実世界での印象を比べた時、差異があったようだ。
     少し揺らいでいるのを感じる。


    「では、蘭世が美奈ちゃんのことを当ててみるのですよ」
     蘭世の言葉に好きな食べ物や動物、誕生日や家族構成のような当たり障りの無い事を言い当て続ける。
     美奈は自分しか知らないことや、目を瞑ったり後ろを向いたりして試してみるも、全て正答する。
     美奈自身が言いたくない事までは当てさせようとしないためだ。
    「こんなに人の気持ちが読めるのって不思議じゃないですか?」
    「凄っ! エスパー少女!?」
     蘭世の言葉に、美奈はやや興奮気味に答える。
    「エスパーじゃないのですよ、夢だからなのです」
     現実にそういう人が居ると思われては少し困るので、蘭世がフォローする。
    「まだ足りないってんなら、一つ良いものを見せてやるよ」
     白鐘・衛(白銀の翼・d02693)は近くに放置されていた箒を拾ってまたがり、ぽんぽんと後ろを叩く。
    「えっ、まさか、箒で飛ぶなんて夢みたいな事言うんじゃ……」
    「そのまさかだ。夢みたいじゃなく、夢だからな。騙されたと思って、乗ってみな」
     恐る恐る箒の後ろにまたがった美奈を確認した衛は、そのまま魔法使いの力で箒を浮かび上がらせる。
     衛は驚いてしっかり捕まる美奈を後ろに乗せて、空を飛び上がる。
     校舎より高く飛び上がりながら、
    「努力すれば絶対成功するって事は、それは本当の努力じゃねぇよ。努力の結果は失敗と成功どっちもあるはずだぜ? 絶対成功する努力なんて、やりたいことする為の過程にすぎないぜ?」
     美奈を箒に乗せたまま、衛は美奈へ告げる。
    「そんなこと言われても……」
     衛が地上へ戻ると、美奈はとんと地面へ降り立ちながら、困ったような顔を浮かべる。
     美奈にとっては絶対成功するものなのか失敗する要素があるものなのか、分からない。
     だが美奈が思い返すと、『努力して失敗した事がない』事に気づいたようだ。
    「頑張る姿は、アイツの掌の上での出来事だってこったな」
    「……っ! あの娘のこと、悪く言わないで」
     衛の言葉で親友を侮辱されたと感じたのか、美奈は憤る。
    「桂木、現実世界の君は寝たきりでいる。このまま目覚めなければ、やがて衰弱していくだろう」
     諒一郎がそんな美奈を宥めるように、だが事実をはっきりと告げる。
    「寝たきりって……!」
    「嘘だと思われても良いが、お前の親御さんは目覚めるのを待っているのは真実だ」
     穏やかに、真剣な表情で告げる諒一郎の言葉に、美奈が揺らぐ。
    「……目の前で友達に泣かれるのは、超キツイですよ」
     それは経験談だろうか。
     ミキの言葉が美奈に重くのしかかる。
    「ねぇ、そろそろ夢から覚めてみない?」
     しずくの言葉が美奈に届いた瞬間、世界がぐらり、と不安定に揺らいだような気がした。
     現実感に溢れていた夢が、夢らしく支離滅裂に歪む。


    「……現れたようですね」
     説得に加わらず、周囲を警戒していた高嶺・銀(見習いガンナー・d00429)がマネージャーの少女の接近に気づく。
    「……美奈ちゃん、疑っちゃったんだね。この世界が夢だって」
     風景だけでなく人物すら不安定に揺らぐ世界の中で、灼滅者達や美奈と同じくその姿を確たるものとしている。
    「一度疑っちゃえば、心から楽しめないよね。でも大丈夫。『これが夢』なの。大丈夫すぐ終わらせるよ」
     シャドウがぱちんと指を鳴らすと、歪んだ花壇の花が怪物へと姿を変える。
    「分かる? これは美奈ちゃんが貴方達を拒絶する心の力よ」
     シャドウは灼滅者への疑いや拒絶の心から、夢の中から配下を作り出す。
     疑う心が暗闇に鬼を生じさせるように、シャドウが夢を操る力と変える。
     シャドウの力であり、灼滅者を夢から追い出そうとする美奈の拒絶心でもある。
     だがその数は3体と少ない。
    「現実世界では苦戦させやがって。ぶっ飛ばしてやる」
     朝陽が縛霊手を構えながら言う。
    「前回はホント世話になったな! ……たっぷり利子つけてお返ししてやっから遠慮すんな!」
     現実世界でシャドウによって深手を負わされた衛が、ガンナイフを向ける。
    「どういたしまして。お礼は貴方達の命で良いわ」
     シャドウがダークネスカードを解放し、真の姿を現す。
     現実世界と同じ、クラブのスートに巨大な黒いゲル状の塊。
     親友と思っていた少女の変貌に、美奈は言葉を失い、尻餅を付く。
    「ご安心下さい。お助けヒーローではありませんが、女性を救うのは、紳士の務めですから」
     そんな美奈を庇うように大和が立ちふさがる。
    「落ち込んでる人にいい夢見せて励ますとか、そういう現実に響かない範囲なら歓迎しますけどね」
     異形化させた拳を握り締めながらミキはシャドウを見据える。
    「そんな一時凌ぎより、ずっと夢に留まったほうが幸せじゃない? 世界の全てが自分だけの物だもの」
     ダークネスの善意は、ダークネスの価値観によってなされる。
     所詮独善に過ぎない。
    「…………」
     自分と他人とが反発し合い、他人と接続する事にこそ意義を見出す銀はダークネスの考えには賛同できない。
     しかしシャドウが人間に対する理解が深まり、より抗いがたい夢を作り出す事を懸念し、言葉を飲み込む。
    「状況・解析……!」
     銀はバベルの鎖を瞳に集め、配下の動きを観察する。
     動きから推測する限り、力は灼滅者の半分程度しかない。
     美奈は灼滅者への疑いは多少は持っているが、この世界自体への疑いが強いということだろう。
     シャドウの後ろにいる配下を狙える者は少なかったが、数分で3体の配下が夢幻と消える。
    「あれが俺達を拒絶する力だって? 随分と大したことないな」
     朝陽がシャドウの身体へ拳を叩きつけながら言い放つ。
     以前戦った時とは違い、拳に確かな手応えを感じる。
     盾を使ってシャドウを引き受ける諒一郎が、膝を付きそうになるのを踏みとどまる。
    (「自分が倒れても、その間に仲間が敵を必ず倒してくれる」)
     仲間への信頼を支えとして。
    「ぷち御柱ビームなのです!」
     配下を倒し終えた蘭世が、ご当地の力を込めての放つビームで今度はシャドウを撃つ。
     怒りを受けたシャドウが、今度は蘭世も狙い始め、攻撃が分散される。
    「蘭世は、現実の世界でがんばる美奈ちゃんが見たいのです」
     シャドウの影を纏った一撃を耐えながら、へたり込む美奈へ言葉をかける。
    「できれば美奈には現実の世界で走って欲しい」
     シャドウを影で縛り上げながら、朝陽も言葉を継ぐ。
    「それは報われないこともあるし辛いこともある……けど、それを乗り越えたあっち側にあるものは、きっと美奈ちゃんにとって掛け替えのないものになるのです」
     背が小さい事で悩む幼い少女の言葉は、『現実に』怪物に立ち向かう姿と相まって、確かな重みを持って美奈に届く。
    「夢から解放しなよ。もう君は此処で終わりだよ」
     しずくがガトリングガンを向けてシャドウへ告げる。
    「ジン! 同時に攻撃するよ!!」
     無視してくれた礼代わりに、しずくは炎の弾丸を撃ち、霊犬『ジン』がそれに追従するように退魔神器を突き刺す。
    「……ホントは傷を治すために鍛えてたんですけどね」
     攻撃する事が嫌いなミキは不機嫌さを隠そうともせず、巨大化させた腕でシャドウをぶん殴る。
     素人のような動きだが、灼滅者の身体能力を持って振るわれる拳は重い。
    「努力すれば報われるならば俺も籠っていたいと思うかもしれない。だが、現実世界で待つ全てを裏切るほどだろうか」
     諒一郎には唯一の肉親の妹が待っている。
     それは美奈に取っても同じ。 
    「誰だって、失敗は嫌さ……失敗したくないから努力するんだ」
    「本当に大事なのは努力の結果じゃなく、努力した過程だ」
     サイキックをシャドウへ叩き込みながら、護と朝陽は努力とは何かを伝えるべく言葉を紡ぐ。
    「それが報われるかは……やっぱり見えない方が人生面白いだろ?
     護は美奈を横目で見てにやりと不敵な笑みを浮かべる。
    「大丈夫。すぐ終わりますよ」
     大和は霊犬『コロ』に仲間の治癒を命じ、バスタービームを放ちながら、美奈を安心させるべく声を掛ける。
     いついかなる時も、紳士らしく。

    ●夢は叶えるもの
    「美奈も、シャドウも、目覚ませや!」
     朝陽は繰り返し振るったために見切られた鬼神変のフルスイングを、無理矢理当てる。
    「これで……終いだよ。いくらテメェでも、調子に乗りすぎだぜ!」
     衛の銃弾がシャドウの身体を撃ち貫き、致命的な一撃を与える。
     ぐらり、とシャドウの巨体が揺らぎ、その身体が消える。
    「もうっ、なりそこない共なんかに追い詰められるなんて……っ!」
     だが灼滅されたわけではなく、その身をダークネスカードに封じただけのようだ。
    「此処は夢、もう君は逃さない。消えてもらうね」
     シャドウを灼滅すべく、しずくが人間姿のシャドウへガトリングガンを向ける。
    「お生憎様。ソウルボードの中は、私達シャドウのテリトリーよ」
     何も無いところから突然扉が現れる。
     恐らく別のソウルボードへと繋がる入り口だろう。
    「待てよ、まだお返しは終わってねぇぜ?」
     護は逃げようとするシャドウへ銃口を向けて狙いを定める。
    「追ってくるなら好きにどうぞ? 帰り道は知らないけどね」
     シャドウは一瞬苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるが、余裕ぶってそう口にし、扉を潜る。
    「本当、人間ってなんで現実なんかに拘るのかしら。理解に苦しむわ」
    「……理想の世界を破壊する俺達はお前にとって悪かもしれない」
     去り際にシャドウの呟きに、朝陽がシャドウを見据えて言う。
    「挫折ばっかだけど、現実の世界も言うほど酷くはない」
     美奈だけでなく、シャドウにもそれを知ってほしいと願って。
    「……まぁ、良いわ。その子は諦めてあげる」
     シャドウは完全に去って行った。
     これで目的は達せられた。無理に深追いすれば、危険だろう。
    「夢を見るのはここで終わり。こっからは夢を叶えるんだ」
     朝陽は美奈へ、幻想の世界の終わりを告げる。
    「では、お手をどうぞ」
    「あ、ありがと……」
     大和はへたり込む美奈へ、紳士として手を差し出し、優しく立ち上がらせる。
    「夢と知らず、現実と思っていた世界で何かを成し遂げられたのならば、きっと現実でも何かを成し遂げられますよ」
     夢とはいえ、頑張った事実には変わりないのだから。
    「現実でも、きっといい結果出せるんじゃね?」
     護は気遣う心を隠し、ぶっきらぼうに言う。
    「現実は決していいことばかりじゃないけど、頑張って手に入れた結果は、きっと夢の中より大きくて確かなものになりますよ」
     銀はクールに振る舞いつつ、美奈へ言葉を掛ける。
     現実は優しくは無い。だからこそ手に入れたものに価値が生まれるのだ。
    「……うんっ」
     美奈は灼滅者達の言葉に笑顔で頷く。
     目が覚めた時の言葉は決まっている。
    『おかえりなさい』

    作者:白黒茶猫 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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