●夢の中へ
「追うか。さっさとしないと新学期早々学校に遅れる」
天城・兎(二兎・d09120)の言葉に頷き、思い思いの態勢で休んでいた八人は立ち上がった。
時間して十分程度だろうか。僅かではあるが、戦闘に支障がない程度には回復できている。
「そうね、この子を助けに……それと、出来ればアレの首を刎ねに、ね」
「崩すって宣言したんだから、ちゃんと最後までやらないとね」
「では妾は、デッドエンドを届けに、とでも言っておこうかの」
ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)は若干の私怨を込めて、君津・シズク(積木崩し・d11222)とアルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)は気負いなく。
「もう一踏ん張りですね、頑張ります」
「皆無事で、帰ってくる時は九人で帰ってこようね」
領史・洵哉(一陽来復・d02690)と今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)は少しだけ気合を入れ。
「気持ちは分かるけど……でも、救うよ」
何かを理解する童子・祢々(影法師・d01673)は、そっと呟いた。
「さて、これからが本番なわけだけど……ま、これも余裕でこなしましょうか」
そして苑田・歌菜(人生芸無・d02293)がそう言って。
八人は少女の夢の中へと侵入していったのだった。
●偽りの理想郷
少女――里美は、これから学校に向かうところだった。その背に真っ赤なランドセルを背負い、四人の同級生の少女達と共に歩いている。
その顔に浮かんでいるのは、皆笑顔だ。そしてそれは、里美がもたらしたものであった。
つい先日、その四人は互いに喧嘩をしていた。理由は些細なものであったが、だからといってすぐに仲直りが出来るとは限らない。むしろだからこそか、すぐに謝る事が出来なかったことで変にこじれてしまっているようですらあった。
その状況を何とか出来るのは、里美だけであった。だが何かを言うだけで簡単に仲直り出来るのならば、そもそもこじれたりはしていない。
しかも新学年に上がる時期はすぐそこまで来ていた。もしこのままクラスが分かれてしまったりしたら、もう二度と仲直りすることが出来ないかもしれない。
あの楽しかった時間が、もう二度と訪れないかもしれない。
残された時間は短く、無情にも時はただ過ぎていく。
言葉は通じず、心は通い合えない。
けれども。それでも、里美は諦めなかった。
結果どうなったかは、その五つの笑顔が示している。
一時感じていた、絶望に似た気持ちは既にない。
「ああ、幸せだなぁ……」
今思っていることそのものを、里美は笑顔のままでそっと呟いた。
●偽りを壊しに
桂木・里美(かつらぎ・さとみ)。それが予め姫子より聞いていた、今回助けるべき少女の名前である。
「少し可哀想だとは思うけど……所詮夢は夢。続きは、現実で見てもらいましょうか」
「そうじゃな、夢は自分で見るもの。紛い物はとっとと破壊してしまうとしようかの」
その様子を少し離れたところから見ていたシズクとアルカンシェルは、そんなことを言いながら後ろを振り返った。そこには勿論、この場にやってきた他の六人の姿がある。
「さて、これから彼女と接触するわけだけど……最後にもう一度、確認しておきましょうか」
歌菜が思い出すのは、姫子より伝えられた言葉の一つ。無事夢の中へと侵入できた後のことについてだ。
「確か、この世界が夢の世界だってことに気付かせることが出来れば、悪夢から覚まさせることが出来るんだったよね?」
「ああ。当然シャドウの邪魔が入るが、まずは彼女をどう説得するかだな」
確認の意味を込めた紅葉の言葉に、兎が答える。
シャドウのことは勿論考えなければならないが、そもそもその段階までいけなければ意味がない。最初に考えるべきは里美にどうやってここが夢だということを気付かせるか。シャドウのことはその後だ。
「気付かせるだけならば、私達のサイキックを見せたり、攻撃してみせれば済むでしょうけど……まあ、それは最悪の場合ね」
「こちらを敵だと思われてしまうと、シャドウに力を与える事になってしまうって話でしたしね」
ミレーヌの言葉を洵哉が補足するが、例えそうでなかったとしてもそれが最悪に属する行動であることなど全員が理解している。だが確認である以上、それも言っておかなければならないことであった。
もっとももしそうなってしまったとしても、シャドウを倒せさえすれば問題は解決する。
けれど。
「……出来れば自分から目覚めて欲しいですからね」
祢々が言うように、出来るならばそれが一番いいだろうから。
「それじゃ、行きましょうか」
そして八人は動き出した。
一人の少女を、悪夢から救いに。
参加者 | |
---|---|
ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464) |
今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605) |
童子・祢々(影法師・d01673) |
苑田・歌菜(人生芸無・d02293) |
領史・洵哉(一陽来復・d02690) |
アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957) |
天城・兎(二兎・d09120) |
君津・シズク(積木崩し・d11222) |
●偽りの崩壊
今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)と童子・祢々(影法師・d01673)が突然喧嘩を始め、怒った紅葉が言い捨て先に行ってしまった。そしてそれを諌めようとして失敗したアルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)が一言。
「あの子達みたいに仲良くしたらどうなのじゃ?」
呆れたように言って目が合ったかと思うと、気がつけば祢々より仲直りの方法を尋ねられていた。
里美の現状を端的に説明すると、大体そんな感じである。
正直困惑が先立つような状況であったものの、律儀に考えてしまったのは似たような状況に心当たりがあったからだ。他でもない、自らが解決したものである。
だからこそ余計に、その時の経緯が役に立つと考え、思い返し――ふと、違和感を覚えた。
「どうかした?」
真っ直ぐ向けられた祢々の視線に、里美は半ば無意識で後ろに下がった。何か気付いてはいけないことに、思い至ってしまいそうで。
だからだろう。
「ねえ、桂木さん。ちょっといいかしら?」
突然掛けられた声に、必要以上に驚き身体を震わせたのは。自分の名前を呼ばれたことに、疑問を覚えなかったのは。
振り返った先に居たのは、君津・シズク(積木崩し・d11222)だ。
里美の瞳は揺れていた。今ここで事実を伝えれば、或いは簡単に疑念を抱くかもしれない。
だがその前に、シズクには伝えたいことがあった。
「実は、私も友達関係で失敗した事があってね」
里美にとっては唐突でしかないそれは、自分の事。嘗ての記憶。
「どうせ誰も助けてくれないし、何をしても無駄なんだって考えちゃった」
友達関係が壊れてしまった時に、自分は何も出来なかった。
「そして諦めたの」
そればかりか相手を憎んで殺してしまおうとさえ思った。
皆が来てくれて、夢から抜け出そうと決心するまでは。
「行動出来た桂木さんは凄いわ」
だからこそ、シズクは純粋にそう思う。
「どんな事も自分の問題として引き寄せなければ何も始まらないし、行動出来ないものね」
だからこそ。
この言葉を伝える。
「でもね、ここは夢の中なの」
「……それはどういう意味、ですか?」
「ここは所詮は泡沫の夢、現実ではないのじゃよ」
里美の問いかけに答えたのはアルカンシェルだ。そのフォローを受けながら、シズクはさらに話を続ける。
「ここは偽りの理想郷……この夢の中は嘘ばっかり。信じられないかもしれないけど、でも私が言う事は全て真実よ」
里美が浮かべているのは困惑したような表情だ。当然だろう。それだけで納得出来るはずもない。
故に、シズクは言葉を重ねるべく口を開き――
「シズク、伏せなさい!」
その声に逆らうことなく、身体を地面に沈めた。直後に頭上で響いたのは、何かがぶつかったような音だ。
シズクはすばやく立ち上がると、周囲に視線を巡らせる。
そしてそれに気付いた。
「ランドセル……?」
それは言葉の通りランドセルだ。その数は四つ。
里美の友人達の姿が消え、それと入れ替わるように視線の先で浮いている。
「そういえば、現れるのは疑った瞬間じゃったか」
それと、増えたのが一つ。ランドセルが、その周囲へと集っていく。
『ふむ……あのまま帰ってくださって結構だったのですが』
それは見知らぬ男だ。だがその雰囲気や声、何よりこの状況で現れるものなど、一つしかない。
「随分イメチェンしたじゃないの」
そう言いながら合流したのは、シズクに迫ったランドセルを吹き飛ばした苑田・歌菜(人生芸無・d02293)である。
『さすがにあの格好で現れては里美さんを怖がらせてしまいますので』
「私達にも配慮してくれていいんだよ?」
「むしろ配慮するのならそのまま出て行くべきじゃないかしら?」
そんなことを言いながら、戻ってきた紅葉と共にミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)も合流する。
しかし当然ながら、里美はその状況についていけない。
「あれはシャドウ……貴女はあれが見せる夢の世界に囚われているのよ」
それでも問題はなかったが、シズクは敢えてそれを知らせた。悪夢を終わらせるだけで済ますつもりはないから。
「このままだと貴女の現実は全て奪われてしまうわ。貴女の目の前から友達は永遠にいなくなり、いるのは奴の作り出した偽者だけ」
視線を一度シャドウへと向け、外す。
「そんなのは嫌でしょう?」
里美へと真っ直ぐに向ける。
「私はシャドウハンター。シャドウを宿敵とし、それと戦うもの」
そして。
「貴女を――」
言葉を遮るように、真後ろで激突音が響いた。
しかしシズクに当たったわけではない。
そこに居たのは、シャドウの攻撃を弾いた領史・洵哉(一陽来復・d02690)だ。
「させませんよ。後半戦もディフェンダーの僕の粘りと意地、お見せします」
『ふむ、失敗ですか……折角タイミングを図ってみたのですが』
戯言に耳を貸す気はない。シズクの視線は変わらずに里美へと向けられている。
「貴女を助けに来た」
そして改めて、その言葉を口にしたのだった。
●そこにある想い
「赤兎、早速仕事してもらうぞ」
里美のフォローをしようとする者もいるようだが、生憎と天城・兎(二兎・d09120)はその言葉を持たない。
故にその時間を作るべく、赤兎を動かした。それと同時に、自らも動く。
シャドウ達の攻撃を機銃で撃ち落とし、時にその身で以って防ぐ赤兎は囮だ。その攻撃に合わせ、兎は配下の一体へと飛び込む。
背中から放出されるバトルオーラの形状は、大翼。振り上げた黒兎を、勢いよく振り下ろした。
「さて、任せっぱなしっての何だし、私も行こうかしら」
自分の役目は済んだとばかりに、シズクは足を前に踏み出す。
しかしそこで、何かを思い出したように振り返った。
「桂木さん、私は全て壊すわ。この偽りの世界を」
嘘は吐けない。こんな偽りだらけの世界だから。
彼女は止めようとするだろうか?
止めて壊すけれど。止めないなら、一緒に。
どうなるだろうかと思いながらも、後は他の仲間に任せ、地面を蹴った。
「では妾も行くとするかの……と、その前に」
その手にシビュラの託宣を持ちながら、アルカンシェルは里美へ視線を向けた。
「楽になりたいのは良い。だが、お主は友達の笑顔が見たかったのではないか? 夢の中で出来たことなら、出来ぬ道理はなし。夢は見るものでなく、手にするものじゃ!」
言いたいことだけを言うと、身を翻した。その視線は、既に敵へと向けられている。
「さて、お預けはここまでじゃ。前回の分もたっぷり暴れさせてもらおうか!」
その顔に笑みを浮かべ、愛用のマフラーをなびかせながら走った。前回の鬱憤を晴らすが如く、その足取りは軽い。
狙いはシズク達が相手にしている一体。割り込むようにして飛び込むと、膂力に任せて振り回したシビュラの託宣を、思い切り叩き込んだ。
そんな状況が展開されている中、紅葉は祢々へと近付くと、互いに先ほどのことを謝りながら握手を交し合った。
里美に見せつけ、思い出させるように。仲直りはこんな簡単に出来るんだということを。
それから。
「ねえ里美さん……里美さんが目覚めないからみんな心配してるよ? それにずっと夢にいたら、パパやママ……友達と、もう会えなくなっちゃう」
それでいいのかと問うように見詰める。嫌だよねと言うように笑みを浮かべる。
だから私たちが来たの、と。
「一緒に帰ろう? そして友達に、里美さんの本当の気持ちを告げようよ」
一歩踏み出せば、きっと願いは叶うから。
それを伝える。
「お友達が喧嘩しているのが悲しくて怖かったのですよね」
桂木さんは優しいですね。
そう言って笑みを浮かべ、洵哉は語り掛けた。
「大丈夫、桂木さんが一歩前に踏み出せば皆仲直りしますよ。夢では無く現実でも。幸せを求める強い心が最後に本当の幸せを掴めるものですよ」
本当に起きたいという気分にさせてあげたい。
そんなことを思いながら。
「ここが夢だったなんて、認めたくないわよね?」
それはつまり、仲直りしたのも嘘だったということである。
その気持ちを理解しつつも、ミレーヌは口を開く。
「ねえ、現実でも行動してみましょう? 大丈夫、絶対上手くいくわ。夢の中とはいえ一度はできたのだから、勇気を出してみて」
現実でもちゃんと仲直りできるのだということを、伝えるために。
「ね、里美の友達は、そんなに怖い? 謝っても許してくれないような子? アナタが友達の立場だったら絶対許したくないって、思う?」
正直なところ、歌菜は人への説得はちょっと苦手であった。どちらかというと相手の嫌がることをする方が得意なのだが、言ってもいられない。
「きっと向こうも仲直りしたいって思ってるわよ。友達ってそういうもんだわ」
ここまで来たらやるしかないと気合を入れ、想いを言葉にした。
「どんなに幸せでもここは行き止まりの世界なんだ。自分の都合の良い事だけでできた夢に未来はないよ」
祢々にとって友達とは、昔前触れもなく自分の夢から去ったそれのことを指す。
恐怖を刻まれトラウマを与えられながらも、未だにそう認識し和解を望んでいるのだ。
でもそのせいで、友達を作る事に恐怖がある。仲の良い子がいても、友達と呼んだ事は一度もない。
酷い事をしてるとずっと気にしていても、自分ではどうすることも出来ない。
昔のあの時夢から戻っていれば、今その子に酷い事をせずに済んだのに。思っても、過去は戻らない。
「現実に戻れるのなら戻った方がいい」
その後悔を、目の前の少女には味わってほしくないから。
「後悔し続けるよ……僕みたいに」
そっと、その言葉を口にした。
そうして、伝えるべきものは伝えた。
故に後は――。
●夢の終わり
決して楽な戦いだったわけではない。それでも全員で協力し、配下を確実に一体ずつ仕留め――
「さて、残るはアンタだけね」
最後の配下を葬った名残の雷をその拳に纏わせながら、シズクはシャドウへと視線を向けた。
ここまで来れば、あとすることは一つだけだ。だからそれを成すべく、一歩を踏み出した。
同時にロケットハンマーのロケットを点火、その勢いで以って次々と迫る触手を掻い潜り、懐へと飛び込む。
そのまま叩き込んだ。
しかし返ってきたのは硬質な手応え。見ればシャドウの右腕が黒く変色し、受け止められていた。
だが逆に言うならばそれは片腕を封じたということ。
直後、シャドウの背後から刃が振り下ろされた。完全に死角からの一撃だったはずだが、黒い刃と化した左腕で防がれ、甲高い音が響く。
しかしそのまま断頭男爵の鋭牙を持つ手に力を込め、ミレーヌはシャドウの左腕を封じる。
「退きなさい、シャドウ。覚めない夢はお呼びじゃないのよ」
その言葉に応えるように、シャドウの身体へと無数の弾丸が飛んだ。
祢々とピークによる一斉掃射である。足を止められたシャドウに、それをかわす術はない。
放たれた弾丸が、次々と突き刺さった。
そしてそれに紛れるように、一条の弾丸が貫く。紅葉による制約の弾丸だ。
それは名の通り相手へと制約を与え、動こうとしたその身体を一瞬だけ止める。
「前回はあえて言わずにおいたが、改めて宣告してやろう」
声は上から。シャドウの視界の端に、大鎌の刃が映る。
「ここがお主のデッドエンドじゃ!」
振り下ろしたシビュラの託宣を、しかしアルカンシェルは斬撃として用いなかった。そのまま殴りつけ、同時に魔力を流し込む。
爆ぜた。
『っ!』
その一瞬に生じた隙を、シズクもミレーヌも見逃さない。即座に攻撃に移ると、擦れ違い様に一撃を叩き込んだ。
さすがに堪えきれずその場へ倒れるシャドウ。そこに兎が、黒兎の切っ先を突きつけた。
問いかける。
「慈愛のコルネリウスに会うにはどうすればいい?」
『ふむ……? お望みならば、お取次ぎ致しますよ? もっともその前に、ダークネスになっていただく必要がありますが』
「……そうか」
元より期待していなかったことだ。用済みとばかりに腕に力を込め――
『それとそういったことは、もう少し後……そうですね、消滅する間際あたりにした方がよろしいかと』
状況を認識しながらも、構わず突き出した。腕に手応えを感じると共に、身体が吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
地面に叩きつけられ、さらに目の前には追撃の触手。
だがそれが届くことはなかった。
「仲間をそう簡単に倒させません!」
盾を構えた洵哉が、それを許さない。
そしてさらなる追撃が許されることもなかった。それを遮ったのは、漆黒の弾丸である。
『ふむ……何やらお怒りのご様子で』
「当たり前でしょ。人の大切な領域を荒らすようなマネ、シャドウハンターとして許せないのよ」
想念と共に込められたのは歌菜の怒りだ。
「人様の夢の中で粋がってんじゃないわ。そういうの、井の中の蛙って言うのよ?」
『ふむ……ならば私は、されど空の深さを知る、とでも言っておきましょうか? まあそれはさておき』
それを受けながらも、シャドウはまだ余裕がありそうだった。しかし灼滅者達も万全とは言えないまでも、全員健在である。
『引くとしましょうか。これ以上はこちらにメリットはなさそうですし、成果は十分に得られたでしょう』
止める事はしなかった。目的は果たした以上、無理をすることもない。
「待って! えっとあの、消える前に、名前を教えてくれる?」
『ふむ……そうですね……いえ、止めておきましょう。おそらくは、意味がありませんから』
「じゃ、じゃあ……えっと、何で子供ばかり狙うの?」
『さて……それに関してはこう答えるしかありませんね。コルネリウス様に直接お尋ねください、と。勿論可能であるかは別問題ですが』
紅葉の問いにまともに答えることなく、シャドウはその場に溶けるようにして消え去った。
本音を言えば倒しておきたいところであったが、部下が倒されるのをコルネリウスが黙って見てるとは思えない。
そんなことを考えながら、ミレーヌは里美へと視線を移した。
夢の中で幸せになっても意味がない。そう思っていた。
でも夢での思いが少しでも残るなら。それが現実での後押しになるのなら。それはとても素敵なことだ。
コルネリウスは間違ってるけど、その行動は無駄じゃない。今なら、そう思える。
まあでもとりあえずは。
「夢はここでお仕舞いよ。続きは現実でね」
一先ずこの悪夢に終止符を。
「最低の悪夢にも一つだけ良い事があるわ」
それは独り言のようであり、語り掛けているようでもあった。しかしどちらでも大して違いはない。
「それは幸せな朝を約束してくれるっていう事」
シズクはそう言って呟いた後で、里美に笑みを向ける。
そして。
「グッドモーニング。お目覚めね」
少しだけ早い、目覚めの言葉を口にしたのだった。
作者:緋月シン |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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