「やっぱり目覚めませんね……?」
ベッドで眠るカイト少年の無事を久世・瑛(晶瑕・d06391)が確認するが、やはり悪夢に捕らわれているせいだろう、少年が起きる気配は無い。
「さあ、早くソウルアクセスするわよ!」
「ちょっと待って、気持ちはわかるけど……少しだけ休みましょうよ?」
はやる神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)の肩に手をおいて、ゆっくり諭すのは羽嶋・草灯(三千世界の鳥を殺し・d00483)だ。戦闘が終わって落ち着いたのか再びオネエ言葉になっていた。
明日等も自分と仲間達の状況を見回し納得する。
「……あり……がと……」
先ほどの戦いでは、魂の力だけで最後まで立っていた橙堂・司(獄紋蝶々・d00656)が、自身の傷を癒すために精神を集中させる。
10分後――。
「そろそろ、行くぞ」
柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025)が言い、他の仲間達も立ち上がるとカイト少年の眠るベッドの周りに集まる。
「さ、特ダネを掴みに行きましょうか!」
神坂・鈴音(記者を目指す少女・d01042)がペンの代わりにバスターライフルを持ったまま宣言すると、横で緑釉堂・薄荷(ショコラに溺れるプラリネ・d01311)が飴玉をガリッと噛み砕く。
「ああ……これからが本番だ、暴れられなかったうっぷんはらせてもらうぜ」
薄荷が少年に手をかざし、ソウルアクセスを開始する。
「必ずカイトさんを、現実に連れ戻してみせますの! だからカイトさん、それまでどうか無事でいてください!」
ホイップ・ショコラ(中学生ご当地ヒーロー・d08888)の覚悟が響くと共に、少年の部屋から8人の姿が消えた。
その夢の世界は、周囲を崖に囲まれた白い砂と白い石の平地。
俗に言う石切場だった。
夢に入った灼滅者達が現れたのは、その石切場の崖の上だ。
眼下の平地では金髪の少年――たぶんカイト少年だろう――が胴着を着て腕立て伏せを行っているのが見えた。
一生懸命に腕立て伏せを繰り返す少年の脇に、黒い人影が現れる。それは男の子が好きそうな変身ヒーローの姿をしていた。
カイト少年が黒いヒーローに気が付き立ち上がる。
「先生、腕立て100回、終わりました」
「うむ、よくやった」
額の汗を拭いて言うカイトに、先生と呼ばれた黒いヒーローが偉いぞとカイトの頭をなでる。
「先生、僕はこれで……あの不良のいじめっ子達から、友達を守れるでしょうか」
「相手は高学年の小学生だったな……」
「はい……同じぐらいの子なら負けないのに……だけど、年が上だからって、そんな言い訳はしたくないんです。悪いことしている人を、見過ごすなんて、僕にはできない!」
少年の小さな拳がぎゅっと握られる。
黒いヒーローは膝を折り、カイトに目線を併せて肩に手を置く。
「カイト、力無き正義は無意味だ」
ヒーローの言葉にカイトが言葉に詰まる。いじめっ子を止められなかったあの時の事を思い出す。
「だがな、正義無き力もまた無力だ」
カイトの中で、正義の無いいじめっ子達の顔が思い浮かぶ。
「カイト、お前は努力をした。そして心にちゃんとした正義を持っている……もちろん、敵は強い。苦戦もするだろう。だが、最後まであきらめなければ、必ずお前は勝てるはずだ」
カイト少年がコクリとうなずく。
「教えただろう、この世界は絶対だ。最後まで自分の中の正義を信じろ――」
『正義は必ず勝つ!』
カイトと黒いヒーローの声がハモる。
崖の上に隠れながら、カイト少年と黒いヒーローの会話を聞いて状況を理解する灼滅者達。
「正義は勝つ……か、現実はそんなに甘くは無いさ」
刀弥が自身の過去を思い出しながらボソリと呟く、想いの力も、努力も、全て否定するわけじゃない、けれど世の中に絶対は無い。
「まぁね、どちらかと言えば、どうにもならない事の方が世の中って多いわよね」
ため息混じりに草灯が同意する。
「でも正義は必ず勝つって……私も信じたい、ですの」
状況を理解したからこそ、ホイップが辛そうに言葉を吐き出す。
「……でも、それを否定して……この世界が夢だと認識させないと……」
司が言うとおり、カイト少年にこの世界を夢だと認識させない限り、少年が悪夢から目覚める事は無いのだ。
その為には『正義は必ず勝つ』というこの世界が夢であると教え、説得する必要がある。
もちろん、説得が成功すればシャドウは邪魔しに来るだろうから、それを撃退する必要はある。
「シャドウはもちろんだけど……でも、できればちゃんと説得したいですね」
瑛が言うのは至極まっとうな意見だった。だが、その意見に薄荷が別の選択枝を提示する。
「いひひっ、この世界が夢だってわからせりゃいいんだろぉ? なら説得なんてしないで、オレ様達のサイキックを見せつけてやりゃあいいんじゃねぇ?」
現実世界でのストレスもはらせるしな! と薄荷は笑う。
「でも、それだと私たちは敵だと思われない? そうしたらたぶん……」
鈴音の心配は的を射ている。
もし、カイト少年を説得せずに戦闘に入れば、シャドウに力を与える事になるだろう。
「もう、どっちだっていいわよ! そうなったら、そのままシャドウを倒しちゃえば良いんじゃない!」
強気に言い放つのは明日等だ。
「ま……私としては、どう説得すれば良いのか、先に話し合うのもやぶさかじゃないけどね!」
仲間からそっぽを向きつつ、ツンツンと明日等言った。
参加者 | |
---|---|
羽嶋・草灯(三千世界の鳥を殺し・d00483) |
橙堂・司(獄紋蝶々・d00656) |
神坂・鈴音(記者を目指す少女・d01042) |
緑釉堂・薄荷(ショコラに溺れるプラリネ・d01311) |
神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914) |
柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025) |
久世・瑛(晶瑕・d06391) |
ホイップ・ショコラ(中学生ご当地ヒーロー・d08888) |
●
石切り場で黒いヒーローに見守られ腕立てふせをしていたカイト少年が、ふと顔をあげると2人の男がいた。
「こんにちは強くなるための修行中かしら?」
「俺、体力ない方だから一緒に体力作りしてもいい?」
羽嶋・草灯(三千世界の鳥を殺し・d00483)と久世・瑛(晶瑕・d06391)だった。さらに「悪い人を懲らしめたくて」と瑛が少年に合わせて付け加えれば、少年は目を輝かせ一緒にやろうと笑顔で言ってくれた。
十数回の腕立てをして……。
休憩時間。
「カイトくんは、こんなに鍛えて何か目的とかあるの?」
「僕、正義の味方になるんだ!」
「それは、良い夢だね」
瑛がカイトに同意し微笑むと、少年も嬉しそうだった。
気が付けば黒いヒーローがいなくなっていた。2人を敵ではないと判断して立ち去ったのだろうか……。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね、アタシは草灯、こっちは瑛ちゃんよ」
「お兄ちゃん達はどうしてここに――」
カイトが質問したところだった。
「ちょっと2人とも、勝手にいなくならないでよね!」
「あれ? その子は誰ですの?」
神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)とホイップ・ショコラ(中学生ご当地ヒーロー・d08888)だった。
一瞬きょとんとするカイトだったが、瑛が自分達の仲間だと話し、さらに4人いると説明する。
「それで、2人は何をしていたんですの?」
とホイップが聞きカイトに説明を促し、その隙に明日等が他の4人へ合図を送っておく。
やがて……。
「残りの4人の仲間ってあの人達?」
カイトが指差す方向を見れば、残りの4人の仲間が歩いてくる所だった。
●
全員が揃い最初に口を開いたのは草灯だった。
「カイト君、こんなことを言って信じてくれるか解らないけど……貴方は今、夢の中なの」
「え?」
「貴方は今もお布団の中で、アタシ達は貴方を夢から取り戻しに来たの」
カイトが1、2歩下がって首を振る。
「夢……そんなわけ、ないよ」
信じられないと言うカイトにさらに草灯は。
「いいえ、この世界は貴方の願望が生み出した夢。努力した分だけ勝つ可能性は上がるけど、勝負は時の運で『正義は必ず勝つ』世界なんてないのよ」
カイトは悲しげに言い返す。
「違うよ草灯お兄ちゃん、最後に勝負を決めるのが運だなんて……そんなわけない。だって――」
「正義は必ず勝つ、か?」
カイトが言おうとした台詞を緑釉堂・薄荷(ショコラに溺れるプラリネ・d01311)が先に言う。
「でもよ、正義が必ず勝つなら、なんでいじめっ子がいるんだ?」
カイトの眉根にしわが寄る。
「そうだろ? 正義が必ず勝つんなら誰だって悪い奴になろうと思わねぇんじゃねえか? それとも正義を必ず勝たせるために悪がいるってことか? それっておかしくねぇ?」
「そ、それは……」
カイトは少し考え、そして口を開く。
「それは……普通の人がいるからだよ、正義でも悪でもない一般人……だから、そういう人を守る為に正義の味方がいるのさ」
それは必死の反論だったが、ダークネスから一般人を助ける灼滅者達にとっては多少なりとも真実であった。思わず言葉に詰まる。
「……うん、正しいと思うよ……」
橙堂・司(獄紋蝶々・d00656)の澄んだ声に視線が集まる。
「……力に力で対抗するのはただの暴力……だから、キミは正義の気持ちが必要だと思ってるんだよね……」
「うん」
「でも……正義が必ず勝つっていうのは……夢や物語の中のお話だよ」
カイトの顔が真っ赤に染まる。
「な、なんでさ! それじゃあ、正義の味方が負けた時、やられてた人はどうするのさ! 正義が勝てなかったら……泣いてればいいって言うの!?」
怒りを露わに叫ぶカイトに、しゃがんで視線を合わせたのは神坂・鈴音(記者を目指す少女・d01042)だった。
「力と正義が両立したってその意味を間違えたらいけないの。あなたはいじめっこを倒したいの? それとも仲間を守りたいの?」
「そんなのもちろん……」
守りたい、そう答えようとして一拍の間が空いた。記者を目指す鈴音はその一拍を見逃さない。
「ヒーローには優しさが必要よ、でも、本物になりたいなら、そこで即答できないとね」
カイトは唇を噛みしめるようにぎゅっと結ぶと、両手をグーにして苦しい何かを吐き出すように叫ぶ。
「わかってるよ! 僕はヒーローなんかじゃない! いじめっ子にも勝てないし、守ってあげることもできなかった! 正義の気持ちだけじゃどうにもならないから……だから! 僕はここで努力してるんだ!」
「さっきから聞いてれば! アンタは仲間を守りたいの? それとも自分の考える正義を守りたいの?」
「そんなの仲間に決まってる!」
明日等の怒るような口調にカイトも叫ぶ。
その言葉に明日等は少年の胸元を掴み。
「だったら! こんな夢の世界に居ないで現実の世界で頑張りなさいよ! 此処に居たって守れるのはアンタの正義だけじゃない!」
明日等の言葉にカイトがハッとする。
それは自分でも気づかなかった本当の気持ち。
明日等が手を離すと、カイトはどさりと尻餅をつく。
呆然と座り込む少年の前にホイップが立つ。
「正義は必ず勝つとは限らないから鍛錬していたですの。でも……」
カイトがホイップを見上げる。
「ここにいても本当の友達を守ることにはなりませんの」
ホイップの言葉に瑛が続ける。
「夢の中にいるままでは大切なものを守れません。このままではあなたが守りたかった友達も悲しみますよ?」
カイトが8人を見回す。
草灯が優しく微笑み、薄荷がにやりと笑う。
鈴音が笑顔で、刀弥は短く、司が静かに、瑛がゆっくりと目が合った時に頷き返す。
明日等はツンをそっぽを向きながらも心配そうにこちらを見ていて……。
スッと座り込んだままのカイトへ手が差し出される。
「さぁ、私達と一緒に現実の世界へ帰りましょう!」
少年が流れそうだった涙を腕で拭い。
「僕、帰るよ。帰って努力して、今度こそ友達を守りたい!」
カイトの手が力強くホイップの手を握った。
●
「来たぞ……」
柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025)の視線の先で影が集まりボコボコと立体的に立ち上がる。
それは最初、カイトと共にいた黒いヒーローだった。
即座に体を膨張させ二周り程大きくし、その手足はどこかイナゴを連想するように細く、肥大した目と背中からはバッタのような羽が生えていた。
不気味に変化したヒーローの姿にカイトの顔が強ばる。
「下がっていろ」
刀弥が言えば、他の仲間が少年を岩影へと避難させる。
「カイトくん、信じてくれたんですね」
黒いヒーロー……シャドウから視線を離さず瑛が微笑する。
瑛の言う通りカイトが完全に信じてくれたからだろう。シャドウに配下はいない。
ずらりと相対する8人の灼滅者達。
「闇を討つ刃を我に……」
刀弥がチェーンソー剣を呼び出すと、続くように灼滅者達がスレイヤーカードを取り出し次々に殲術道具を解放する。
「さあ、始めようか正義の味方……テメエの力で語ってみろよ、テメエ自身の正義をな!」
チェーンソー剣をシャドウに突きつけ刀弥が宣言する。
それが戦いの合図となった。
「シャアアアアッ!」
シャドウが両手を広げ振り下ろすと同時、黒い巨大な竜巻が灼滅者達を飲み込む。
荒れ狂う巨大竜巻に満足するシャドウだったが、キラリと何かが竜巻の中で光り、次の瞬間。
ドッ!
風の壁を突き破り紫の少女が槍を構えて飛び出して来た。
「……前回は防戦一方だった……今度はこっちが攻める番」
とっさに両手で槍の穂先を掴むシャドウだったが、螺旋状に回転する槍に両手が裂ける。
「……シャドウの思い通りにはさせないよ……」
ほぼ同時、竜巻が消え去ったそこには倒れぬ灼滅者達がいた。
「痛いけど、この程度なら」
鈴音の脳が高速で周囲の状況を高速に計算し始め、冷静に最適解の分析を開始。
「いひひっ正義が必ず勝つ世界ねぇ? オレぁそっこう倒されそうだぜ」
薄荷も竜巻の影響など無かったかのように前髪を額の上で結ぶ。
「なんせ、自分が正義だなんて思ってねぇからよぉ」
薄荷の言葉を聞いてか、シャドウが司の槍をいなして振り払うと、そのまま薄荷達に向かって地を滑るように走ってくる。
そんな中、シャドウの視線の端に日本刀を構える瑛の姿が写る。
「行きます……走れ、光!」
鋭い月の光が如く!
方向転換が無理と判断したシャドウは、その場で止まり両腕をクロスさせ防御する。
シャドウの視界が遮られたのは一瞬、しかしその隙に2人の灼滅者が走り込む。
「カイトさんを騙して! 許しませんの!」
鼻の先へと迫ったホイップの螺穿槍を、ぎりぎりバックステップで回避するシャドウだったが、下がった先で背中が何かにぶつかった。
「さんざん手間かけさせてくれた蝗ちゃんにはたっぷりお礼しないとね」
背後に回り込んでいた草灯に反応しようとするが。
「これがお前の最期に見る夢だ」
死角からの一撃が蝗の羽を切り裂いた。
ボタボタと地に落ちる黒い羽。
「シャアアアアッ!」
叫ぶと同時、シャドウは黒い雷をバリバリと周囲に放出、接敵しようとしていたホイップと草灯が跳躍して範囲外へ逃れようとする。
だがシャドウは両手を交差させると雷を圧縮し、跳躍中の草灯に狙いを定め。
ドッ!
直径1mはあるだろうか、巨大な雷の大砲が草灯へと撃ち放たれる。
「くっ」
避けられないと覚悟を決める草灯。
ドルルル――ンッ!
エグゾースト音も高らかに、ライドキャリバーに騎乗した明日等が射線上へと飛び出し、雷が明日等に命中する。
雷が消え、煙を上げる明日等は閉じていた目をゆっくりとあける。
「夢の中じゃこんなものなの?」
ライドキャリバーをふかすとキッとシャドウを睨む。
「この前は痛い目に合わせてくれたけれど……今度はこっちが反撃する番よね!」
現実であれほど苦戦したシャドウだったが、配下もおらず、さらに夢の世界で弱体化しているのだろう、戦闘は灼滅者側が有利に進んでいた。
だが、もちろん油断はできない。
タフさを武器に飛び込んできたシャドウが、魔力のこもった拳で薄荷を何度も殴りつけてくる。
「いってぇっ……がっ!」
ドカッとシャドウの腹を蹴って逃れる。
「あん時にくらべりゃへでもねぇぜ! おい、現実世界での屈辱、オレぁ忘れてねぇぞ!」
拳にオーラを纏わせ叫ぶと、今度は薄荷がシャドウの懐に飛び込んで行く。
「つか! なんで虫がヒーローになってんだよ……ゆるせねぇな」
シャドウのボディを何度も殴りつけ、ふらふらと後ずさるシャドウ。
ふと気配を感じれば、そこには同じくオーラを拳に纏わせた少女が待ち構えていた。
「……灼滅、するよ……」
再度振るわれる閃光百裂拳。
ゆらり、シャドウはぼろぼろになりながらも脱力し……。
「シャアアアアアッ!」
最後の命を燃やすように、一気に雷のオーラを放出。
思わず司と薄荷がバランスを崩す。
さらに追撃とばかりに、ダメージを与えた薄荷に向かって跳躍、拳に影を乗せて殴りかかる。
――だが、その拳は薄荷に届かない。横からハッシと腕を掴まれ止められたのだ。
「記事を書く手は汚したくないけど……」
シャドウの腕を掴んだままもう片方の手に炎を灯し、鈴音は勢いよく炎のアッパーをぶち当てる。
空中へと吹き飛ばされるシャドウ。
ギ、ギギギ……。
悔しそうに歯軋りし、空から灼滅者を見下ろす。
だがそこで見たのは、まるで終わったとばかりに構えをとく7人だった。
7人?
刹那の疑問。
その思考はチェーンソー剣の凄まじい騒音によって邪魔される。
「そのまま消えろ、ダークネス……」
大きく背中を切り裂かれたシャドウは背後を振り返る事なく消えていった。
●
「ほら、もう大丈夫よ! 出てきたら?」
明日等に言われ、岩影からカイトが現れる。
だが、少年はばつが悪そうにうつむいていた。
「夢からは覚めるよ……でも、正義が間違っているとは……」
自ら先生と呼んでいたヒーローに裏切られたような気持ちのまま、それでもカイトはその言葉をつぶやく。
あの日、いじめられていた友達をかばい、けれど年上の小学生達は力付くでカイトも友達もひどい目にあわされた。自分の中の正義が否定されたようで、悔しくて、泣くしかできなかった。
「あれは僕に力が無かったからで……だから……」
正義はある、そう言って欲しかった。
けれど、それを言ってくれた先生は悪者だったのだ……複雑な想いが、少年の中でごちゃまぜになっていく。
「……正義はあるよ……」
顔を上げる。
視界に映るのは紫髪の少女。
「……でも必ず勝つわけじゃない。負ける事だってある……だけど大事なのは、諦めない事」
司はカイト見る。
「……キミは正義を信じる気持ちを、諦めなかった、よね」
少年の目から涙が零れた。
スッと心の中が晴れ渡る。
「それにね」
瑛がハンカチを渡しながら言う。
「誰かに助けを請う事は弱さではないですよ。自分だけで背負う事は無いんです、そういう心の強さもあると……思います」
瑛が仲間達を見回すと、つられるようにカイトも灼滅者達を見る。
「大丈夫、カイトさんは本当に大切なものを持っているですの」
「本当に大切なもの?」
ぐっと拳を握ってホイップが言う。
「それは……誰かを守ろうとする気持ちですの」
カイトは再び溢れそうになる涙をぐっと堪え、きりりと唇を結ぶ。
「現実に戻っても、諦めずに自分の正義を信じて戦って欲しいですの……約束できますの?」
ホイップの差し出す小指に、カイトが自分の小指を絡める。
「うん、僕、約束する!」
少しだけ大人びた少年に刀弥が声をかける。
「だが、それは大変なことだ」
カイトが刀弥を見て、意を決したように聞く。
「なら、どうすれば良いの?」
刀弥は少年の純粋さに、思わずボサボサの髪で目を隠してから返す。
「強くなれ、己の意思を辛い現実でも貫き通せるぐらいに」
その言葉を心に刻むようにカイトがこくりとうなずいた。
「さ、それじゃあそろそろ夢から覚めましょう?」
パチリと手を叩き、空気を変えるように草灯が言う。
「だな、帰り道は用意しとくぜ?」
薄荷が現実へ戻る扉を開き、1人、また1人と夢の世界から消えていく灼滅者達。
自らも覚醒していく感覚に包まれながら、去りゆく灼滅者達にカイトが叫ぶ。
「ねぇ! お兄ちゃんやお姉ちゃんは、ヒーローだったの?」
消えていく灼滅者の中、鈴音が一瞬だけ振り返り。
「それは違うわ。目指したり名乗ったりしたらそれはヒーローじゃない……ヒーローって、そういうものよ?」
完全に夢の世界から消えた8人に、カイトはそれでも叫ばずにはいられなかった。
「だったら! 僕が目指すのは――」
それは幼い少年の覚悟、少しだけ成長した男の子の決意だった。
作者:相原あきと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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