幸福な悪夢~優しきセカイは誰が為に

    作者:月形士狼

    (「幸せな夢は覚めなければいい。けど、本当に目覚めないままじゃいけないんです」)
     ソウルボードに入る準備を進める仲間の後ろで、眠る少年を見つめながら折原・神音(鬼神演舞・d09287)は思う。
    (「だから、目覚めてもらいます。邪魔する相手は……しっかりと倒しますよ」)
     心の内で見定めるは、異形のダークネス。怯懦のダンドネス。
     この夢を終わらせようとする以上、あの相手ともう一度闘うのは避けられないだろう。
    (「怯懦のダンドネス。そして慈愛のコルネリウス」)
     ソウルアクセスを行い、悪夢の中へと足を踏み入れながら、殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)は胸の内で告げる。
    (「夢の中で幸せを得たところで、所詮はまやかしだ。それを教えてやる」)
     シャドウを狩る宿命を背負い、自らの宿敵へと宣言する。
     この世界を終わらせる為に。
    『一也! もう練習に来ていいのか!?』
    『うん! リハビリも上手く行ったから、今日から練習に参加していいってさ! もっとも最初は軽い筋トレからってキツく言われたけどね!』
     河原にあるサッカー場で、10歳程の一也と呼ばれた少年が、同じサッカークラブの仲間へと大きく手を振って、その輪へと加わった。
    『ほら健! この通り俺はもう大丈夫だって! だからもう気にしないで!』
     一也は涙を目に溜めた少年に声をかけ、笑顔を見せる。それに堪え切れなくなったように、健と呼ばれた少年が抱き着いて泣き出した。
    『ごめっ、ごめんな一也! 俺があの時飛び出して! 俺を庇ってお前の足が、足がぁぁぁっ!!』
     泣きじゃくる健に、一也は笑ってその背を叩く。
    『大丈夫だって。そりゃ手術は大変だったし、リハビリはすっごく痛かったけどさ。いつかまた、必ずお前にパス出すから。もう自分もサッカー止めるなんて、言い出すなよ』
    「……そういう事か」
     土手の上からその光景を見ていた焔月・勇真(フレイムアクス・d04172)が、やるせないような声をぽつりと漏らす。
    「一也と言うたか、あの少年。中々男前じゃの」
     複雑な笑みを零し、西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)が大人びた口調で少年を称えた。
    「……うん。優しい子だな」
     風に靡く金の髪を抑え、シュネー・リッチモンド(ナイトデザイア・d11234)が微笑みを浮かべた。ますます悪人かもと、声に出さずそっと呟いて。
    「あの子。昼間病院に言った時に見かけましたです」
     天鳥・ティナーシャ(夜啼鶯番長・d01553)が、昼間すれ違った少年を思い出す。その酷く思いつめた表情が、強く印象に残っていたのだ。
    「事情は掴めました。やるべき事を、整理しましょう」
     沈痛な思いを表情に出すのを堪えた古樽・茉莉(中学生符術士・d02219)が皆に声をかける。
    「この世界が夢の世界であると認識させれば、一也を目覚めさせる事ができるんだよな? で、それをしようとするとあのシャドウが邪魔にくると」
     中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)が、拳と掌を打ち鳴らせて気合を入れる。
    「その前に、どう説得するかを決めましょう。まずはそれからです」
     この夢を直に見て、ますます怒りを募らせる仲間達を柔らかく制し、茉莉が提案する。
    「手っ取り早く、俺達のサイキックを見せたりすれば、夢であると説明する事はできるよな」
     まあ本当に最悪だけどと話す勇真に、レオンが頷く。
    「一也に攻撃をしかけるという手もあるな。これが夢である以上、怪我もせんけぇの」
     よっぽどで無いとする気も無いがと話す二人に、シャドウハンターである千早が同意する。
    「そうだな。だが、この少年が俺達を敵だと思うと、それはシャドウに力を与える事になる」
    「あのダンドネスを倒してしまえば、それで解決にはなるんでしょうけど」
    「でも、あの子に直接話してみたい」
     神音の言葉を引き継ぐように、ティナーシャがぼんやりとした表情で口を開く。
    「同感だねー。頑張ってみよっか!」
     シュネーが元気よく立ち上がり、銀都が拳を力強く握りしめて、この世界のどこかにいるシャドウへと大声を響かせる。
    「それじゃ、正義を守りにいくか!」


    参加者
    殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)
    天鳥・ティナーシャ(夜啼鶯番長・d01553)
    古樽・茉莉(中学生符術士・d02219)
    中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)
    焔月・勇真(フレイムアクス・d04172)
    西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)
    折原・神音(鬼神演舞・d09287)
    シュネー・リッチモンド(ナイトデザイア・d11234)

    ■リプレイ

    ●優しきセカイ
    (『なんか今日は、知らない人が多かったなあ』)
     帰り支度をしつつ、一也は内心で首を傾げて、今日出会った人達を思い返す。
    (『って、今は少しでも早く足を前の状態に治さないと。集中集中っ』)
    「一也、練習お疲れ様じゃ」
     西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)と名乗った入団希望者に挨拶され、明るく返事を返す。
    「無我夢中で何かに打ち込むのは気持ちいいものじゃ。ところでじゃが……」
    「……足、大丈夫です?」
     新たに声をかけたのは、もう一人の入団希望者。天鳥・ティナーシャ(夜啼鶯番長・d01553)だ。
    『大丈夫。もう治ったから』
     隠すつもりもないので、改めて事情を話して笑顔で答え、
    「夢みたいですね」
     眼鏡の少女に言われた言葉に、何故か胸がざわついた。
    「凄い……勇気があるんですね。ふふ、かっこいいです」
     それを聞いた、眼鏡の少女の姉という古樽・茉莉(中学生符術士・d02219)が褒め称える。その瞳に、本心からの賞賛を込めて。
    「本当にサッカーが好きなんだな」
     そう言ったのは、このクラブのOBである中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)先輩。
    「それにいいチームだ。本気で上を目指しているのが伝わってくるな」
     笑って声をかけてくる焔月・勇真(フレイムアクス・d04172)に褒められ、照れ笑いを浮かべる。この二人には練習中に付き合ってもらったりして、つい色々と熱く語ってしまったのだ。
    (「事情を知っているだけに、色々と考えてしまいますね」)
     そんな少年に、折原・神音(鬼神演舞・d09287)は胸の内で思う。この幸せな夢を。
    (「――幸せだと思います。きっと真実なら素敵だったのに」)
     セカイを見渡して、シュネー・リッチモンド(ナイトデザイア・d11234)は声に出さず呟いた。
    (「この世界は希望と嬉しい事で満ちている。けど……夢物語で」)
     昔行った事のある、ドイツのサッカー場の話を目を輝かせて聞いていた、この少年に教えなければならないのだ。
     これは、夢物語だと。
    「……一也。事故に遭ったのは何月か、もう一度教えてくれ」
     ――何か。
     抜身の刃を思わせるように鋭い、殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)の問いかける声が、時を凍らせた。

    ●セカイの終わり
    『……え?』
     取材に来た人の言葉に、息が詰まる。
    『事故に遭ったのは今年の初め、1月です。それから、すぐに手術をして……』
     駄目だ、思い出すな。
     手術が上手くいけば、
     6か月で復帰出来ると言われた事なんて、
     決して思い出したらいけないのだ。
    「……一也、俺からも質問だ」
     銀都が、酷く真剣な表情で静かに指をさす。
    「そのテーピングの下。……手術の傷は、本当にあるのか?」
     その問いに傷跡を思い出そうとし、酷い頭痛に襲われて頭を抱えた。
     ナンダロウ。
     コノヒトタチト、コレイジョウ、ハナシヲタラ、イケナイキガスル。
     そんな一也の苦しみを見て強く手を握りしめた神音が、迷いを振り切る様に更に問う。
    「……リハビリの時、どんな事をしましたか? 担当の先生の名前は?」
    『……ア……アアアーッ!!』
     チガウ。
     チガウ!
     チガウ!!
     オモイダスナ。
     コレハ、ユメナンカジャ、ナイノダカラ!!
     一也の瞳に敵意が溢れ、ボールが少年の周りに漂うと同時。
     世界に亀裂が走り、異形の声が響いた。
    『おおお、お前らこんな所にまでえ!』
     ずるりと姿を現したのは、このセカイの番人。
     怯懦のダンドネスが侵入者達を排除しようと、無数の刃を翼のように広げた。
    『ガガガ、ガキィ! こここ、こいつ等を拒絶しろ!』
     その声に応じて、手下となったボール達に号令をかけようとしたその動きが、止まる。
     ――ナンデ。
     ……なんで、この人達は。
     こんなにも、辛そうなんだろう?
    「幸せを、現実で本当にしましょう」
     少女と見間違うような美貌の少年が、真摯に言葉を紡ぐ。
    「現実の不幸を、幸せに塗り替えましょう」
     体を震わせる少年に、千早が静かに問いかけた。
    「一也は手術が怖いんじゃないだろう? 手術が失敗して、健が悲しむのが怖いんだよな」
     真摯な声が、静かな声が染み入る様に響く。
    「ならばお前がすべき事は、この仮初の世界を壊して出ていくことだ。眠ったままのお前を、健が心配してないと思うか? 健を笑顔に出来るのは一也しかいないんだぞ」
     思い返すのは、ベッドで寝ている自分に、泣きながら謝る友人の姿。
    「家族や友達は眠ったままの一也を待っている。このままじゃと戻れなくなる、それでもいいのか」
     レオンの言葉に、視界が滲む。
     何度も謝る友人と、幾度となく自分を励ましてくれた家族を思い返して、涙が溢れる。
    『ききき、貴様らあ!』
     これ以上喋らせては不味いと悟ったのか、悪夢を司るダークネスがクローバー型の弾丸を降り注がせた。
    『これは……夢、なの? 本当じゃ、ないの?』
     涙を流して立ち尽くす一也の呟きに、音色と共に虹色の盾を展開させたティナーシャが、辛さを押し殺して口を開く。
    (「頑張って欲しいけど……私は無責任に、期待させるような事は言いたくないです」)
     故に淡々と告げる。現実と、自らの思いを。
    「この夢の中の健君や、他のみんなは本物ではないのです。このままでは、本物のみんなが悲しむのです。……私達は、夢から出るための手伝いができるのです」
     友人を事故から庇い、幸せな夢に囚われる程に、誰も傷つかないセカイを願った少年へと。
    「現実の健や皆に云いたい気持ち、あるだろ?」
     小光輪を盾のように自らの周りに浮かべた勇真が、優しく問う。言葉だけでなく伝えたい思いがある筈だと。
    「絶対に治るなんてことは言えないです。……でも、ここに居たら本当に友達とサッカーをすることは、二度と出来なくなるんです」
     病室で見た衰弱した姿を思い返し、悲痛な色を瞳に湛える茉莉が闘気を身に纏い、告げる。
    「だから……もう一度、勇気を振り絞ってください。あなたになら、きっと出来ます……」
     エンジンを唸らせて突撃し、襲いくる刃の軌道を逸らしたブリッツェンに感謝しながら、シュネーが声をかける。
    「一也、手術もリハビリも知ってる通り辛いかもしれない」
     癒しの矢を携えながら告げるのは、辛い現実。
    「でも、この『夢』から覚めたその先で……家族と、チームメイト……なにより、健が待ってるよ。また……パス出したいっしょ?」
     矢を放ち、もう一度振り返ると、笑顔で胸を張って言い放つ。
    「あたし達、あんたの『夢』と勇気の手伝いに来たよ!」
     ドイツに、世界に。健と一緒に挑戦したいと話したこの少年の『夢』を、叶えるんだと。
    『くっそーーー!!』
     かけられた数々の言葉に。励ましに。向けられた信頼の瞳に。
     一也は大声を張り上げると、大きく足元のボールを蹴り飛ばした。
    『……ななな、なんのつもりだガキィ?』
     ボールを顔面にぶつけられたダンドネスが、ぎょろりと睨みつける。しかし少年はその複眼を真っ向から受け止め、逆に睨み返した。
    『……帰せよ』
    『ななな、何?』
    『俺を帰せってんだよ! 健が、皆が泣いてんなら! 俺がここにいる意味なんてないだろ!?』
     大きく張り上げた声は、感情の爆発。現実への挑戦状。
    『絶対に治してやるからな!! 待ってろよ健!!』
     それは、子供らしい開き直りかも知れない。
     それでも少年の声は、力強くセカイに響き渡り。
     このセカイの終わりを、鳴り響かせたのだった。
     
    ●怯懦の結末
    『ガガガ、ガキィ!』
     崩れ始めたセカイの中。
     少年を恐怖で押さえつけようと翻した刃が、巨大な刃で受け止められた。
    「よう。また遭ったな、平和は乱すが正義は守るものっ、中島九十三式・銀都だ」
     ハチマキを巻いた少年が、二つの刃越しに溢れる戦意を叩きつけて叫ぶ。
    「今度こそ決着だな、俺達の本気、今こそ見せてやるぜっ!」
     言葉と同時に全力で刃を跳ね除け、自らに降ろしたカミの力を込めて掌を突き出し、渦巻く風の刃で斬り刻む。
    (「立ち向かう決意をしたか、一也」)
     背後に庇う年下の少年に、レオンが笑みを浮かべてマテリアルロッドを振りかざす。
    「ならばわしらはわしらにしか出来んことをしよう。怯懦のダンドネス、覚悟!」
     振り下ろした杖が異形のダークネスの肩口を捉え、流し込まれた魔力が体内で弾けた。
    『おおお、お前ら如きが、このダンドネス様の相手になると思うかあ!』
    「ちょーしに乗らないでください? 彼方なんて私の敵じゃない!」
     先程の戦いでの鬱憤を晴らすように神音が間合いを詰め、巨大な刃を振り上げる。狙いはその巨体を支える、硬質な脚。
    「真っ二つにして、繋がらないようにしてあげましょう」
     全てを粉砕するような一撃が、数本を纏めて斬り砕き。巻き上がる土砂の中から、片腕を巨大な異形と化した千早が、拳を握りしめて飛び掛かる。
    「一也は自分の恐怖に打ち勝った。信じた通りにな」
     迎撃に迫る刃を異形の腕を大きく振るうことで打ち砕き、再度巨大な拳を振り被り。
    「お前などに。こんな自分だけ、一人きりの場所などに。捕らえられると思うな」
    『ぐぐぐ、ぐぉぉぉっ!?』
     拳を受けたダンドネスが、焦りの声を上げる。こんな筈ではない。先程自分は、あれ程圧倒していたではないか。
    「っ、ごほっ……まだ、です。このくらい……ひっ」
     クローバー型の弾丸で傷を負った茉莉が怯える様子に笑みを浮かべ、失っていた冷静さを取り戻す。
     そうだ。格下共は、こうして自分に怯えるべきなのだ。そんなシャドウの死角で、小柄な少女は口元を小さく笑みの形に歪めていた。
    「古樽!」
     傷ついた仲間の盾となるように突撃する、ライドキャリバーの後方。仲間の援護に向かわせた勇真が、龍砕斧に宿る龍の力を開放して傷を癒す。
    (「このセカイの一也のリハビリは、順調って言っていた。それは夢の中でも頑張ってたって事だよな」)
     溢れる闘志の宿る視線の先に立つのは、夢を弄ぶダークネス。自然と斧を握る手に力が入り。
    (「じゃなかったら、夢とはいえ掴めなかった未来って事だしさ」)
     ならば自分は、その手助けをしようと、心の中で決意する。少年の未来を切り開く為に。
     シュネーは自分に迫る刃を纏めて打ち払ったブリッツェンについた傷を指でなぞり、労うように呟いた。
    「こんな連戦初めてだよね」
     少し体を預け、信頼と共に言葉を紡ぐ。
    「そして……悪ぃけど、もっかい、一緒に戦ってよね!」
     応える声は、鋼のビート。力を漲らせる爆音で主に応えたサーヴァントが、守りの力を宿す護符で仲間を癒す主の信頼に応えるべく、突撃する。
    「一也さんはすごくかっこいいのです」
     現実に立ち向かう決意をした少年に、ティナーシャは淡々と呟く。
    「私も、負けていられないのです」
     そう口にする表情は乏しく、口調もいつもと変わらない。
     それでも胸の内の怒りと、漲る気合を乗せたその歌声は高く澄み、伝説の歌姫のような神秘的な歌声がダークネスを震わせ、振り上げたはずの刃が自分自身を切り裂いた。
     灼滅者達の怒りを受け、怯懦のダンドネスに再び怯えが走る。
     しかしこの中で、一人だけ自分に怯えている女が居る。ならばこいつを倒せば他の者も怯む筈だと考え、視界全てを奪うほどの分裂した刃で襲い掛かった。
    「くふ、ふ……」
     自分を貫いたシャドウへと、茉莉が笑みを零す。
    『ななな、何が可笑しい?』
     戸惑うダークネスに、嘲笑を浴びせる。自らの思い通りに動いてくれた、この臆病者を思い切り見下して。
    「盾役の私にかまけてくれて……ありがとうございました……」
     自分はもう戦闘不能だが、それと引き換えに致命的な隙を作ることができた。
    「後は……お願いします」
     そう呟くと仲間達に後を託し、静かに目を閉じた。
    「怯懦のダンドネス。恐怖を覚えるのは一也もだったが」
     レオンが怪腕と化した拳を握りしめ、驚愕と共に振り向くシャドウへと笑う。
    「お前とは、違うのじゃ」
     拳が顔面に突き刺さって明滅する視界に、闘気の上から影を宿した拳を構える千早が目に映る。
    「今度は俺がお前のトラウマになってやるよ」
     再度殴り飛ばした影が精神を揺り動かし、現れたトラウマが異形のダークネスに追い打ちをかける。
    「これ以上、邪魔はさせないぜ」
     勇真が光輪を飛ばして仲間を貫く刃を砕き、ライドキャリバーに乗せて下がらせ、
    「一也さんは返してもらうです」
     鮮血を思わせる緋色のオーラが白銀の笛を覆い、ティナーシャがぶよぶよとした胴体に斬撃を放つ。
    (「一也って仲間思いで優しいんだよな。それを思うと敵のこう……小さいこと……!」)
     ブリッツェンのタイヤが脚を砕くと同時に影を走らせ、シュネーが蔑む視線と共に、別の脚を斬り飛ばす。
    『ききき、貴様等あああ!!』
     咆哮と共に伸びた刃が高速で回転し、全てを切り裂く竜巻に絶対不敗の暗示をかけた銀都が対峙して叫ぶ。
    「俺の正義が深紅に燃えるっ! 悪夢を打ち砕けと無駄に吠えるっ!」
     足元に転がっていたサッカーボールを炎に包みながら蹴り飛ばし、その後を追うように駆け。
    「くらいやがれ、必殺! 未来へのキックオフ!」
     ボールを斬り飛ばす隙に間合いを詰め、斬撃と共に渾身の炎で焼き焦がす。
    「彼方はシャドウ。でも私の影のほうが優秀ですよ。粉みじんにして証明してあげましょう」
     死角から間合いを詰めていた神音が、間近で微笑み。
    「もう一度言いましょう。彼方なんて、私の敵じゃない」
    『ひひひ、ひぃぃぃーーーっ!!』
     力任せの一撃を急所に叩き込まれたダンドネスが、悲鳴を上げて空間の亀裂へ跳びあがり。
    『コココ、コルネリウス様ぁ、お助けをーーーっ!!』
     二つ名に相応しい捨て台詞と共に、精神世界に巣食っていたシャドウは逃げ去った。

    ●贈る言葉
     本格的に崩れ始めたセカイで、一也は助けてくれた人達と向かい合っていた。
    「夢から覚めても頑張ってほしいのです」
     淡々とした口調に、心からの応援の気持ちを込めてティナーシャが告げ、
    「お前なら頑張れる。目が覚めた後も大丈夫って思うぜ」
     勇真が笑って保証する。
    「手術は失敗した訳じゃない。成功して健と笑いあう夢を……現実に変えてくれ、一也」
     激励の言葉を千早が口にし、
    「元気になったらサッカー、やろうぜ?」
     ボールを一也に渡した銀都が笑いかけた。
    「幸せを手に入れて下さい。今度は現実の世界で」
     神音が柔らかく微笑み、
    「あんたの『夢』、楽しみにしてるからね」
     シュネーが元気づけるように笑いかけ、
    「自分と仲間を信じて。君の力を信じている」
     レオンが大人びた表情で笑みを零した。
     光の粒子となって消えていくセカイで、茉莉は病室の枕元に置く為に、予め紙に書いておいた言葉を口にする。
    「がんばれ」
     勇気を出した少年が、二度と迷わないようにと。
    『ありがとう、でした!』
     セカイに、感謝の声が木霊する。
     未来に希望を抱く、力強い声が。

    作者:月形士狼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 4/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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