幸福な悪夢~旋律を紡ぎ、愛を求める少女

    作者:篁みゆ

    ●彼女の夢の中へ
    「いくわよ……」
     杉本・沙紀(闇を貫く幾千の星・d00600)が眠っている楓香に手を伸ばす。
    「ああ、行こう」
    「楓香さんを救って差し上げませんとね」
     桐山・明日香(風に揺られる怠け者・d13712)と鎮杜・玖耀(黄昏の神魔・d06759)が頷き返して。
    「この子を救ってみせるわ」
    「はい、頑張りましょう」
     オデット・ロレーヌ(スワンブレイク・d02232)と支倉・月瑠(空色シンフォニカ・d01112)も意気込んだ。
    「……逃がさない」
     新沢・冬舞(夢綴・d12822)は逃げたシャドウ、カナフの事を思い。
    「楓香さんには現実で幸せになる努力をして貰いたいですね」
     楓香の寝顔を見てぽつり呟いたのは平田・カヤ(被験体なんばー01・d01504)だった。
     こくん……深見・セナ(飛翔する殺意・d06463)は静かに頷いて見せて。
     仲間達が頷いたのを見届けると、沙紀はそっと楓香に手を触れて、ソウルアクセスを開始した。
    ●『日常』
     そこは妙にリアリティのある、現実と変わらないような空間だった。
     よく見ればそれはあの、楓香の部屋の中だった。棚のひとつには高価そうな人形も並んでいる。
    「練習しなきゃ」
     小学校六年生くらいの少女、楓香が室内に譜面台を立て、ヴァイオリンを手にしている。
    「もっと、もっと練習して上手くならないと、パパもママも帰ってきてくれないわ」
     自分に言い聞かせるように呟き、弓に松脂を塗る彼女。
    「前はまだ小さかったから……練習が嫌でコンクールで優勝できなくてやめてしまったけれど、きっと今から頑張れば、コンクールで優勝できるはず……」
     楓香は視線を机の上へと移した。そこには楓香によく似た女性ヴァイオリニストの公演のチラシと、そのヴァイオリニストと同じ名字のピアニストの名前が書いてあった。
    「コンクールで優勝できたら、パパもママもきっと私を演奏旅行に連れて行ってくれるから……。誕生日やクリスマスに、前に贈ったことすら忘れて同じ人形ばかり送ってこなくなるよね」
     日本に置き去りにしがちの娘を気にかけているようで行き届いていない証のプレゼント。それがどれほど楓香の心を傷つけているのか両親は知らない。
     楽器の演奏は一日にしてなるものではない。経験があってもブランクがあればそれは同じ。けれども彼女が弓をあてたヴァイオリンから奏でられる音は、ブランクなど感じさせぬものだった。
     素人にもわかる。それは幼い頃に投げ出した者がすぐに奏でられるようになる音色ではないことが。
    ●これから
     楓香の日常を垣間見た灼滅者達は、これからの方針を話し合うことにした。
    「楓香さんにこの世界が夢の世界であると認識させることが出来れば、悪夢から覚まさせることが出来るのですね」
     セナがぽつり、呟いた。冬舞がそれに頷いて言葉を紡ぐ。
    「当然シャドウ……カナフの邪魔は入るだろうが、まずはどう説得するか、だな」
    「最悪、自分たちのサイキックを見せたり楓香を攻撃すれば、夢だと説明することはできるだろうね。でも……」
     明日香は自分の発した『最後の手段』に口ごもった。できるだけ使いたくないから最後の手段なのだ。
    「楓香さんが灼滅者を敵だと思ってしまうと、カナフに力を与えることになってしまうかもしれないね」
    「それは……避けたいところです」
     カヤの言葉に月瑠が眉根を寄せて呟いた。
    「カナフを倒せばそれも含めて全て解決するわよね」
    「でも、出来れば楓香が自分から目覚めようとしてくれるように頑張りたいわ!」
    「そうですね。何とかして、彼女にこれは夢であると気がついていただきましょう」
     沙紀の言葉はやはり最後の手段。オデットと玖耀の言うとおり、出来れば楓香が自分から目覚めようとしてくれるのが一番いい。
     何とかして彼女を目覚めさせるべく、灼滅者達は頭をひねるのだった。


    参加者
    杉本・沙紀(闇を貫く幾千の星・d00600)
    支倉・月瑠(空色シンフォニカ・d01112)
    平田・カヤ(被験体なんばー01・d01504)
    オデット・ロレーヌ(スワンブレイク・d02232)
    深見・セナ(飛翔する殺意・d06463)
    鎮杜・玖耀(黄昏の神魔・d06759)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)
    桐山・明日香(風に揺られる怠け者・d13712)

    ■リプレイ

    ●虚構の館
     美しい音色がその部屋からは聞こえてきた。値の張るであろうヴァイオリンの柔らかい音が、譜面通りに紡ぎだされていく。
     少女はラストの一音を長く響かせ、そして弓を上げた。音に酔うように閉じていた瞳を開けてぱあっと笑顔を浮かべた。
    「譜面通りに出来たわっ!」
     夢の中でも練習を繰り返していたのだろう、少女、楓香は嬉しそうに笑う。しかし幼い頃に少しやって投げ出したという長いブランクのある彼女が練習を繰り返したとしても、この譜面が弾けるようになるのはずっと後だ。ほぼ初心者同然の彼女が譜面を追うだけだとしてもすぐに出来るようになるものではない。
     けれども彼女はその点に疑問を持ってはいない。自分が繰り返し練習した結果が報われたと思っている。このまま練習を続けていけば、コンクールでも優勝できる、両親に演奏旅行に連れて行ってもらえる、そう信じているのだ。
     コンコン。楓香の演奏が終わるのを待っていたかのようにノックの音が響いた。いや、実際に待っていたのだ。
    「はい、どうぞ」
     楓香の返答を待って姿を現したのは執事の格好をした新沢・冬舞(夢綴・d12822)。
    「楓香お嬢様、お嬢様と共に楽曲を奏でたいという音楽家の方と、お嬢様の演奏をぜひ聞きたいという方々が参りました」
    「え? そんな予定あったかしら?」
    「お通ししてもよろしいでしょうか?」
     不思議そうに首を傾げる楓香に冬舞が尋ねると、彼女は少し考えて「お願い」と頷いた。
    「音楽家の方……もしかしてパパとママが手配してくれたのかしら」
     その嬉しそうな呟きを拾った冬舞は少しばかりの申し訳なさを残して一度楓香の部屋を辞す。
    (「なんとか助けたいが……果たしてうまくいくだろうか」)
     説得の言葉は用意した。だが接触については少し詰めが甘い部分もある気がした。どこまで彼女が灼滅者達の都合のいいように解釈してくれるか、そこに賭ける部分も大きい。けれども接触が始まってしまった以上、なんとかするしか無い。
    (「私は閉じ込められて育ったので親の顔を見たことないのですよね」)
     極度の緊張からくる震えを抑えようとしながら自身の手を握る深見・セナ(飛翔する殺意・d06463)。
    (「でも、仲良くしていただいている方たちと会えなくなるのは寂しいので、楓香さんの気持ちもなんとなくわかるかもしれません。本当は一人じゃなく、両親に練習を見て貰いたいのではないかと思います」)
     初対面の人を説得しなくてはならないというのは彼女にとっては拷問に近い。それでもやり遂げなくてはならない。少しでも、楓香の気持ちがわかるから。
    「現実のような夢はまさに素晴らしいものなんだろうけど……やっぱり虚構にいつまでの止まらせるわけにはいかないからね。楓香を無事起こしてあげられるよう、最大限努力してみようじゃないか」
     力強い意志を表すのは桐山・明日香(風に揺られる怠け者・d13712)。楓香を助けてあげたいという気持ちは他の皆と変わらない。
    (「一番近しいはずの家族に……それはさみしいのですよね。でも、そのために音楽をやってもきっと大嫌いになってしまうのです……」)
     音楽を愛する支倉・月瑠(空色シンフォニカ・d01112)は他の者達とは少し違った視点から楓香を案ずる。音楽を嫌いになってほしくないから。
    「楓香さんが囚われている夢は閉ざされた世界で、本当の意味で彼女の練習が報われる事はありません。彼女が夢から目覚めてご両親と幸せな時間を過ごせるように頑張りましょう」
    「楓香が夢のおかしさに自分で気がつくように、頑張るわ」
     鎮杜・玖耀(黄昏の神魔・d06759)にオデット・ロレーヌ(スワンブレイク・d02232)も強い意志を持っていて。
    「行こう。新沢さん、お願いします」
    「ああ」
     平田・カヤ(被験体なんばー01・d01504)に乞われ、冬舞は再び楓香の部屋の扉をノックした。

    ●虚構の旋律
    「いらっしゃいませ」
     礼儀正しくお辞儀をして顔を上げた楓香は、自分の演奏を聞きたいという客が現れて嬉しそうだ。けれどもその笑顔を見た杉本・沙紀(闇を貫く幾千の星・d00600)は強く思わずにはいられない。
    (「楓香さん目を覚まして! 練習の成果を両親に見せてあげたくない? 嫌な練習も乗り越えて頑張ろうとしてるんでしょう?」)
     そう直接訴えかけられれば楽なのだが、今回の場合そうもいかず。沙紀はおもわずきゅっと拳を握った。
    「楓香さん、こんにちは。今日は私と一緒に演奏してくれますか?」
     一歩進み出た月瑠は手にフルートを持っている。それを見た楓香の瞳が輝いた。
    「お姉さんはフルート奏者なのね。いいわ! 一緒に演奏しましょう!」
     曲は何がいいかしら? などと楓香は月瑠に話しかけている。その間に他の仲間達は執事見習い役の冬舞の用意した椅子に腰を掛けて演奏が始まるのを待った。
    「旦那様と奥様へ聞いていただける様に、録音致しましょうか?」
    「あなた……えっと」
    「執事見習いの新沢でございます」
    「そうそう、新しく入った人ね、気が利くじゃない!」
     冬舞の申し出に喜び、楓香は手を叩く。
    「宜しければ、聞かせていただいても構いませんでしょうか」
    「もちろんよ、あなたも聞いていってちょうだい」
     レコーダーを操る使用人の冬舞にも笑顔で許可を出して。
    「皆さん、聞きに来てくれてありがとう! 精一杯演奏するわね!」
     にっこり、笑む楓香。用意してきた説得の言葉はこの笑顔を壊してしまうだろう。それを思うと灼滅者達の胸は痛む。けれどもそれも楓香のためだと思えば……。
    「それでは始めましょう」
     月瑠がフルートに口をつけ、足でリズムをとる。打合せた拍子で、二人とも演奏を始めた。その曲はだれでも一度は聞いたことのあるクラシックの曲で、明るく楽しい旋律の曲だ。フルートのさえずるような音とヴァイオリンの滑らかで正確な音が絡みあって曲を紡ぐ。
     しかし、決定的な違いがあった。同じ曲を演奏しているはずなのに楓香の演奏はどこか型にはまった、本当に『譜面通り』に音をなぞっているだけに聞こえる。対する月瑠の演奏は、聞き手はもちろん演奏者本人も楽しくなるような感じがする。
     月瑠は自分が幼い頃『見た』音楽を思い出しながら演奏していた。上手いだけでなく、本人達がしても楽しそうで、まるで旋律が現実世界に出て来たような音楽。
     楓香も自分と月瑠の演奏の違いに気がついたのか、表情を固くし始めた。焦りなのか、少し音のズレも見え始めた。演奏が終わって拍手が送られると、彼女は俯いて。
    「ごめんなさい、あまりうまく演奏できなかったわ」
    「いえ……お上手でしたよ。小さい頃から練習を重ねてきたのでしょう? そこまで上達するのはさぞ大変だったと思います」
     まず彼女の警戒心を解こうとセナは言葉を送る。
    「素敵な演奏ですね。それ程の音色を奏でるには幼い頃から練習を重ねられたのですか?」
    「ううん、小さい頃にやめちゃって、最近練習し始めたのよ」
     玖耀の問いに首を振って。その様子を見て玖耀は眉をしかめた。
    「小さい頃にやめてしまったとしたらブランクもあるし初心者同然ですよね。それがこんなすぐに上達するものなのですか?」
    「それは、きっと私がパパとママの子だから……」
    「綺麗な音色だけど、それは本当にキミの音なの? 自分の音ってこんなすぐ出せるようになってしまう程度のものじゃないよね?」
    「え……」
     カヤの指摘が意外だったのだろう。楓香が目を見開いたところに沙紀も続ける。
    「楓香さんの演奏って誰かの演奏に瓜二つよね? 自力で覚えたなら、少しは癖があってもおかしくないと思うんだけど、どうかしら?」
    「そんな……わからないわ」
    「そういえばこの曲は知っている? 最近急に発表されたんだけど……」
     沙紀が口にしたのは楓香が眠っている間に発表された曲。
    「ぜひ弾いてほしいわ! あら、この曲知らない? 今すごく人気なのよ」
    「人気の……新曲? そんなの嘘よ。だってテレビでも言ってなかったし、街にCDも譜面もなかったわ!」
     オデットにも知らない曲をリクエストされ、楓香の中で何かがズレていく。
     今、急に上達したのは本当にたくさん練習したから? 最初は弦の抑え方すら忘れていなかった?
     最近発表されたという人気曲を自分だけ知らないのは何故?
    「っ……に、新沢っ!」
    「大丈夫です、お嬢様。最後までずっと楓香様の味方ですよ、俺は。だから、落ち着いてください」
     どうか信じてほしい、その為にここにいるのだから――。
    「確かに、すぐにすらすら弾けるようになったわ……小さい頃はなかなか上達しなくて練習も嫌になったというのに」
     なかなか上達しなかったのは幼かったからだと思っていた。
    「よく考えてみてください。音楽家の娘であるあなたならわかるでしょう? 上達するために、腕を保つためにはどれだけの時間と努力が必要か」
    「そうよ……パパもママも子供の頃からずっと練習していたって言ってたわ。こんな……これじゃあ、私に都合のいい夢みたいじゃない!」
    「!」
     楓香のその叫びを聞いて、灼滅者達は身構えた。楓香の側から見覚えのあるひょろひょろのゼリー型の影が現れたからだ。灼滅者達は楓香から距離をとって封印を解除、身構える。
    「こんにちはカナフさん、また会いましたね」
    「また邪魔をしに現れましたね……忌々しい」
     カヤの無自覚な嫌味にカナフは身体を揺らす。
    「しかしこの少女は未だこの場所を夢だと認めたわけではない。疑っただけです。これ以上、彼女の心を乱さないでくださいね」
    「……慈愛、か。変わらぬ世界、都合のよい世界、それに閉じ込めたとしてもなにも変わらない。……そう、なにも、だ」
     シャドウの醜悪さに自戒をこめて冬舞は嗤う。
    「今度こそぶちのめしてやろうじゃないか」
     明日香は前に出て、やる気満々だ。
    「楓香、あなたのヴァイオリンはとっても上手よ。でもなんだか寂しい音がするわ。きっと楓香の本当に望んでいることが、ヴァイオリンの上達じゃないからよ。楓香の本当の……心からの望みは何?」
    「私の望み……」
    「それはこの一人きりの夢の中で叶えられることじゃないはずよ」
     オデットの言葉に顔を上げた楓香。瞳を合わせれば、優しさが伝わってくる。楓香は視線を移す。自分を見つめている人達に。きついことを言う人達だと思っていた。けれどもよく考えれば彼らの言っていることは真実で、受け入れたくないと思うのは楓香の我がままだ。その証拠に、思い返せば彼らは最初から楓香を案じる瞳を向けているではないか。
    「起きて、パパとママの目を見て、あなたの気持ちを伝えましょ。きっと叶うから……!」
     その叫びをかき消そうとするように、カナフは大量の羽根をオデットに向けて放った。

    ●虚構瓦解の序曲
    「この一見優しい夢の中ならたぶん今以上傷付くことはないわ。でも心が震えるほどの喜びにも、きっと出会えないのよ」
     オデットが傷を物ともせずに捻りを加えた槍をカナフに突き刺す。沙紀は異形化させた己の腕を力任せに振るう。
    「大人というのは、時に自分達の判断が正しいと思い込んで子供の気持ちを忘れてしまうもの。夢から覚めて寂しい思いをご両親に伝えましょう」
     玖耀は上段の構えから真っ直ぐに重い一撃を見舞う。セナは瞳にバベルの鎖を集中させ、緊張を抱いたまま、言葉を紡ぐ。
    「自分の子供が眠り続けていると知れば、ご両親も心配するはずです。言わなければわからないこともあります。はっきりとご両親に自分の気持を言った方がいいはずです」
     闘気を雷にして宿した拳を明日香は躊躇わずにカナフにぶつける。
    「コンクールで優勝したり、ご両親と一緒にすごしたい。という願望よりも、まずは音楽が大好きになってくれますように。好きになれば、現実世界に戻っても上達できますし、練習が嫌。ということもなくなるはずなのです」
     好きという気持ちが何よりも一番大事、根源となるものだと月瑠は考える。だから、楓香にも音楽を好きだと思ってほしい。自身に光を纏わせながら、思う。
     解体ナイフを手に、冬舞は高速の動きでカナフの死角へ入り込み、斬り上げる。オーラを拳に集中させたカヤは、カナフに接近し、連打を繰り出す。
    「プレゼントは想われてる証拠。キミだって同じ人形だとしても大事にしてるんだよね」
     棚に並べられた人形を見て、現実世界でもこの棚を壊すことが無くて良かったとカヤは思う。
    「コルネリウス様の慈愛の御心を否定するとは……これ以上はさせません!」
     漆黒の弾丸が再びオデットを狙う。だがオデットの前に進みでた沙紀がそれを代わりに受け、キッとカナフを睨み据えた。

    ●虚構瓦解
     今度こそカナフを灼滅するつもりで挑んできた灼滅者達。幸い人形が手下とならなかったことから、相手の手数は少ない。一撃は大きいとしても現実で戦った時ほどではない。傷を追ってもすぐに月瑠が癒したし、攻撃に重きをおいた隊列でカナフを追い詰めていった。
     カナフが羽根を嵐のようにばらまいて前衛を襲う。肌のあちこちを切り裂くような羽根によって血が流れ出る。だが灼滅者達は諦めない。
     オデットがロッドで殴りつけて魔力を注ぎ込む。沙紀の『シューティングスター』から繰り出される彗星の一撃がカナフを穿つ。玖耀が『魔装『影鵺』』の象る異形に突き刺さっている刃を敵に放つ。セナの冷気のつららがカナフの身体に穴を開ける。明日香の両手からオーラが放たれた。月瑠がギターを掻き鳴らし、前衛を鼓舞する。冬舞の漆黒の弾丸、カヤの影がカナフを苛む。
     このまま行けば、もしかしたら灼滅できるかもしれない――だが。
    「まあいい……後はコルネリウス様にお任せしましょう」
    「! 待て!」
     明日香が声を上げる。しかしカナフはそのままするっと消えてしまい……後に残されたのは驚いた様子で座り込んでいる楓香と灼滅者達だった。
     カナフを逃してしまったのは残念だったが、これで楓香は悪夢から逃れられる。気持ちを切り替えて、カヤは楓香に近寄った。
    「気になるなら手紙を書こ。両親だってキミが今何が好きで毎日をどう過ごしているか知りたいと思うな。練習してるよ、違う人形が欲しい、一緒に行きたい。例え上手く弾けなくてもお父さんに教えて貰うのだって楽しいと思うよ」
    「それもいいのかもな。きっと届くはずだから……またな」
     冬舞も楓香を励まし、そして別れの言葉を紡ぐ。

     楓香の目が覚めたら、こう言おう。
     おかえりなさい、おはよう、と。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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