地獄合宿~梅田・オブ・ザ・デッド

    作者:かなぶん

     大阪府梅田。その地下深くにかつて存在していた迷宮。梅田迷宮と呼ばれていたその場所の奥深くで、おびただしい数のアンデッドが確認された。
     それにはどうやら不死王戦争が関係しているらしい。
     おそらく、梅田迷宮の跡地とコルベインの迷宮とが重なり合っており、戦争の余波でアンデッドの一部が転移してしまったのだろう。
     その結果、梅田迷宮はアンデッドの群れがひしめく地獄と化してしまった。
     この事象が確認された丁度その時。
     武蔵坂学園の地獄合宿企画会議室では、今回の地獄合宿の計画が相談されていた。
    「そういえばまだ大阪の企画が決まっていなかったな」

    ●合宿のしおり注意書きより「グロ注意」
    「アアァ……アアアア……」
     こぼれたはらわたを引きずって歩く少女の死体。両足を失ってもなお這いずる老翁の死体。肉が腐り落ちて骨が露わになった犬の死体。
     地下迷宮は無数のおぞましい死体であふれかえっていた。
     壁にこびりついた血の手形。千切れた腕。こぼれた脳みそ。
     粘つく空気。充満する吐き気を催す悪臭。
     響く亡者達の足音。若者や老人や子供の呻き声。
     一歩足を踏み出すだけで、赤黒い血と汚物の水たまりがびちゃりと音を立てる。
     ここは大阪、梅田迷宮跡地。
     死が蔓延する無法地帯。
     それはまさしく地獄と呼ばれる光景そのものだった。
    「あれ? なあ、ちょっと俺達のところなんか雰囲気ちがくね?」
     拝啓。地獄のような合宿だと思ってたら、地獄で合宿でした。

    ●魔人生徒会告知(テープレコーダーで再生すると聞けるらしい)
    「諸君、地獄合宿へようこそ! この地獄を耐え抜けば君達はきっと、今よりも大きく成長できることだろう! 頑張ってくれたまえ!」
     再生ボタンを押すと、ヴォイスチェンジャーを使用したと思われるテープレコーダーの声が説明を始めた。内容は、
     大阪地獄合宿では梅田迷宮跡地で合宿をしつつ、アンデッドの掃討を行う事になった。
     アンデッドを相手に一人で無双したり、仲間と協力して戦ったり、撃墜数を競ったりして、梅田迷宮跡地の攻略を目指してほしい。
     といったものだ。
    「おっと、アンデッドを倒すだけなんて楽勝だと思っているならまだまだ甘いよ」
     テープレコーダーの声は、楽しそうに続ける。
    「これは合宿だと言っただろう?」
     合宿と言えばキャンプ。
     ということで、生徒達にはアンデッドうごめく廃墟の真ん中で寝泊りもしてもらう。
     アンデッド共の呻き声やうわ言をBGMに食事をしたり、夜は倒したアンデッドの死骸に添い寝されて眠りにつくのだ。
    「朝から晩まで、グロくて血生臭いアンデッドに囲まれたドッキドキの共同生活。どうだいゾンビ映画みたいでわくわくするだろう」
    「イヤだ、イヤ過ぎる……!」
    「え? 何これ新しい拷問?」
     これが大阪地獄合宿の概要である。この合宿に参加すれば、実践で戦闘力を鍛えつつ、ゾンビに囲まれた生活の中でも正気を失わない精神力を鍛える事が出来るのだ。
    「ホラー嫌いも、怖いもの知らずも、頑張ってこの地獄を生き抜くように。以上!!」

     どうやら、魔人生徒会からの告知テープの内容は以上であるようだ。


    ■リプレイ

    ●モウニゲラレナイ
     今ここに、どう足掻いても絶望的な大阪地獄合宿が幕を開けた。

     目の前に広がっていたのはゾンビゲームで見たことのある光景だった。
    「あーーうーー、ひなちゃんここどこ? どうしてこんな合宿組むの~~」
     雛にひしっとしがみ付いてエステルはぷるぷる震えていた。
    「どうしてこうなったのかしら、かしら」
     雛の足腰もプルプルしていた。
     涙目で震える二人に気付いたアンデッドが、ぐるりと泥のように濁った瞳で振り替える。
     恐怖が限界に達したエステルはサイキックをぶっぱした。
     大鎌で敵を刈る前に、燦太にはどうしてもこうツッコミを入れずにはいられなかった。
     ここが大阪である以上は言わねばなるまい。
    「何でやねん!」

    「……何でここ選んじゃったのかしら……」
     ゾンビの群れを前に「忘却の棄教会」の香は頭を抱えた。
    「あれ? 合宿ってことだから、キャンプだと思ったんですけど……」
    「アッシュ君! キャンプじゃないよ! ゾンビ狩るんだって!」
     三角巾にオタマ装備のアッシュは黒々に引きずられて迷宮の奥へと連行された。
    「魔人生徒会とやらも随分といい趣味してやがるな、いいぜ、ノってきた」
     ガトリングをぶっ放す煉夜。
     弾丸の雨が追い詰められた黒々をフォローする。
    「うわっとと! 煉夜先輩ありがとうございままま……!?」
     続けてミンチのお肉が降り注いだ。
     男子が守ってくれる気ゼロなので、香はゾンビに斬影刃斬影刃斬影刃!
    「微塵切りにして原型無くせば怖くなるんじゃないの。ナイスアイディア♪」
    「ゾンビと一緒に、トランプとか期待していたんだけどなぁ……」
     繰り広げられるスプラッタとオタマで特攻するアッシュに煉夜は、
    「…ま、いっか。先に進もう」

     暗闇の中、「朽葉」から凄まじい悲鳴が響き渡った。
    「い、いや……全然恐ないし! 男の子やもん!」
     足ぷるぷるしてる火花を見て透はニヤニヤ。
    「あれ? もしかして火花怖いのか? ぎゃあああ!」
     転がっていたゾンビの死骸に透は劇画調で絶叫した。
     その様子に火花は暖かい目で、
    「透おまッ! ……なんや、俺達仲間やな」
     うろたえる二人を見て志狼は苦笑する。
    「俺は怖くない訳じゃないけど、二人を見てたら落ちついちゃったかな」
    「むしろ……馬喰さんや土谷さんの顔のが怖い……でさぁ」
     浮雲がぼそっと呟いた。
    「だが! それでも俺は! 先輩の隣にいたい!」
     有真にしがみつく透は裏拳でぶっ飛ばされる。
    「……なんだ、土谷ですか。不用意に人の射程に飛び込むものではありませんよ」
    「冴樹さんのその容赦ないとこ……スゴイと思いまさぁ……」
    「これはこれでいい思い出になった、のかな?」

    「ヒャッハー!! 撃っていい的が10、20……えぇい数えるのもめんどくせぇ、兎に角いっぱいだ。こりゃまるでクリスマスだぜ。なぁ、吠」
    「リア姉は初っ端からテンション高いな……」
     ツェツィーリアとは対照的に、結葉はうんざり肩をすくめる。
    「危なくなったらライドキャリバー貸して貰って逃げていいかね?」
    「悪ぃな吠、キャリバーは弾撃つので忙しいんだ。あとトンズラこいたら追いかけてって搾る」
    「ですよねー、ははは」

     焔弥が喰らい、亜樹がその背中を守る。
     二人はありったけの火力を費やしてゾンビ達を制圧する。
    「旦那様との初めての共同作業です! どうせ入刀するならゾンビよりケーキのが良かったですけど……」
    「クハハ、血と硝煙の匂い漂う戦場が俺達夫婦の輝ける場所ってのも、らしいと言えばらしいな。だが、亜樹が背中を守ってくれるなら嫌いじゃないぜ。そういうのもな!」

    「ダーリンと二人で地獄合宿だなんてこれは……もう結婚なのねダーリン!? ハネムーンは梅田ァー! ……なにこの地獄」
     涙と鼻水垂れ流しで成美は青葉にしがみつく。
    「グフフでもダーリンにしがみついていればホラみて私は無敵!」
    「って、邪魔だ、どけ女ァ!」
     青葉は成美を群がるゾンビに投げ捨てた。
     奇声を上げてカサカサと戻ってきた彼女に彼は悪そうな顔で、
    「いい囮になるじゃねぇか。俺の役に立ってみせやがれぇ!」

    「くひひきひひ、楽しいなあ、悦楽だ! まるで『死』そのもののような場所だ!」
     ライドキャリバー「星屑」に騎乗し、ジェーンは地下通路を失踪する。
    「死に損ないども! 地獄を楽しみな!」
     ゾンビの只中に飛び込み、ルシフは刀を一閃した。
    (「18……19……20」)
     心の中で撃墜数を数えながら、愛用の刀「白銀」「黒鉄」で黙々とゾンビを切り捨てる。
     反撃の隙を与えず、激しく燃え盛るオーラで沙雪はゾンビを燃やし、叩き潰した。
    「はっ、機嫌の悪い俺の憂さ晴らしにちょうど良いじゃないか。纏めて相手してやるよ。覚悟しなっ!」

     勉強するより戦う方がマシだと思った「秘密部屋」の仲間達。
     ゾンビ蠢く迷宮にメイと一姫は、
    「しっかしリアルにホラー系ゲームの世界っスねェ……」
    「……超キモ。映画のセットかなんかだと思いたくて仕方ないわ」
    「ゾンビとらんらんらんでぶー♪ ゾンビとらんでぶーだもん、怖くないよ」
    「キ、気持ち悪くナンテ無いデスヨ…! ユーリのユは勇気のユ、デスカラ!!」
     歌うロゼッタと、仲間との初お出かけで強がるユーリ。
     その背後から願戒がビハインドの衣観と、
    「わっ!」
     と脅かして悪戯っぽく笑う彼女の背中を誰かが叩いた。
     振り返ると、目玉のこぼれたゾンビが!
    「わーっ!」
     どこからともなく無数に湧いてくるゾンビ達。
     居合の斬撃が両断し、ガトリングの銃撃が蜂の巣にする。
    「噛み付かれてお仲間に、なんてのは勘弁願いたいっス」
    「前衛少ねぇんだしオレらで頑張るぞ!」
     ティートはへっぴり腰なユーリの背を叩いて元気付けると、派手な炎でゾンビの群れを焼き払った。
     押し寄せるゾンビを、意を決してユーリと馴鹿が防ぐ。
    「こんなにゾンビ見るの初めてだよ俺。吐きそう」
    「ゴキブリみたい」
     湧き出るゾンビにロゼッタはポロリと呟いた。
    「数減ったように見えないけど。お疲れー、だね」
    「レティシアはどこ行った?」
    「あそこでゾンビに埋もれてる」
    「私はここですー!」
     群がるゾンビの山から小さいレティシアのサイドテールが存在を主張していた。

     轟と音を立て、一際激しい炎が地下迷宮を紅蓮に照らす。
     それは紛れもなく「炎血部連合」の劫火だ。
    「てめぇら、俺と一緒に来たからには簡単に休めると思うなよ?」
     豪快な笑みを浮かべ、淼は仲間を振り返る。
    「ここにいる全てのゾンビと合宿者に炎血部の炎を見せてやれ!」
     その言葉を合図に彼等は走り出す。
     迷宮を突き進む深隼は、
    「梅田ってほんま、進化するダンジョンやんなぁ……。まさか地下までこんな迷宮になっとうとは知らんかったけど」
    「もたもたしてっと置いてくぞ!」
     ゾンビ共をなぎ倒し、競うように熾苑は走る。
     しっかりとついて行く優夜はその地獄ぶりにため息をもらした。
    「ホントに地獄でびっくり、魔人生徒会って一体……」
     舞い踊る清香の炎が暗闇に赤い軌跡を描く。
    「この合宿が終わったら奮発して美味いもの巡りだな」
     今宵の安眠を守るため、林檎は転がるゾンビを消し炭になるまで燃やし尽くした。
    「ゾンビさん達と添い寝なんて……絶対イヤです……」
     戦と弥勒も灼熱の焔で歩く死者を焼き尽くす。
    「さてと、焼却処分といこっか? ……灰燼に帰せ!」
    「日本は土地狭いんだから、死人はちゃんと火葬して埋めないとねー」
     唯一無二の剣に炎を宿し、守は死者を葬る。
    「ゾンビどもは火葬するに限るぜ!」
    「ゴーゴー! 上手に焼けると良いネ!」
     シエラの槍がゾンビを串刺し、周囲の炎でこんがりと焼き上げる。
     侑二郎の斬撃が人体の油を抉り出し、より激しく炎を燃え上がらせた。
    「じゃあ景気よく火の海にしましょうか」
    「思う存分斬り刻み焼き尽くし、楽しませてもらいます。ク、クク……ヒハハハハ!」
     轟々と燃える炎の中で織久が哄笑を上げる。
     弟を見守るベリザリオは複雑な表情で、
    「これは頼もしくなったと喜べばいいんですかしら……」
     負けじと死者を灰に変えていく唯。まだまだ合宿は始まったばかりだ。
    「ね、ねむくなんかなーいっ! ゾンビなんて燃え尽きてしまえっ!!」
    「みんな無理すんなよー。そこ、後ろからきてるぞー」
     後方で桜太郎は何味かわからないドリンクを配る。
     休憩する彰二と勘九郎はのんびり豆腐を食べていた。
    「ダンジョンで食べる豆腐は格別だなぁ」
    「彰二、ホント豆腐好きだなー! 俺にもひとくちちょーだい!」
     一方その頃。
    「うわーん、ぞんびきもちわるいぞ! こっちくるなー!」
     百裂拳で腕をぶんぶん振るってゾンビを追い払う一一一。
    「ほーら、ペインキラーだよ、痛くないよ」
     注射器で仲間に鎮痛剤を打ち込む法子。ホラーゲームでは「よくあること」だ。
     グロ表現とゴア表現でモザイク必至の光景に、クリーニング担当の小夏は完全に泣き出してしまった。
    「きゃー! キモイキモイキモイキモイ! ほんと勘弁してください! お家かえる~!」
     ここが地獄か。
     七緒は目に付くアンデッドを片っ端から燃やし尽くす。
     地獄が煉獄に早変わり。
    「皆まとめて焼き尽くしてあげるよ! 巻き添えしちゃったらごめんね! あっはははははははは!!」
     テンションが上がってるだけで一応正気です。

    「よっしゃー、お泊りおとま……ってちょっとまとうぜ」
     双葉はもっと青春らしいキャンプを期待していたのに。
     何かを求めるように両手を突き出し、ゾンビ達が「緋坂」のメンバーに向かってゆっくりと迫ってくる。
     でも、高校生の先輩達が一緒だからかえでは怖くない。
    「怖くないもんね。怖く……ないもん」
    「へへ、仰山倒したるさかいみといてやー!」
     襲い来るゾンビを立夏とかえでは、槍の一突きで壁まで吹き飛ばす。
     しかしゾンビは倒しても倒してもボコボコと地面から湧いてくる!
    「僕がいる場所はどこなんだろう、ここはゲームの、なか?」
    「なあ、それ何体目え?」
    「現在の撃破数、7体だ」
     鉄の拳でゾンビの骨を砕き、徹也は立夏の問いに淡々と報告する。
    「クロ助、浄霊眼で援護だ。浜姫、サドンデスだけど折れるなよ……」
     霊犬に支持を飛ばし、実の槍がゾンビを貫いた。

    「……さて、始めるか」
     妖槍「アンサズ」を振るい、ヴェルグはゾンビ達を薙ぎ払う。
     戦闘訓練にこれほど丁度良いものはない。
    「……さて、っと」
     昌利は大きく息を吸い、長く、細く、吐き出す。
    「――闘るか」
     様々な縛りを己に課して、彼は死者の群れに飛び込む。
     状況が危険なほど、昌利は口の端を歪めた。
     死者の群れを前に、射緒はリュックを下ろし、オーラを身に纏う。
    「これぞ……修行……」
     呟くと、地を蹴り、彼はひたすらにアンデッドと殴りあった。
     空腹を無視しゾンビに殴られてもひたすらに。気を失って眠るまで!
     金剛杵槍に雷電光のオーラを纏い、バサラはゾンビのどてっ腹に大穴を穿つ。
    「ま、単純に修行と割り切りゃ悪くねぇか」
    「死の坩堝に身を置き、地より低き場にて己を奮励するが刃を砥ぐ事なり! 闇には死を! 魔には滅を!」
     ミゼは大鎌でゾンビの首を刈り取り、漆黒の弾丸で眉間を撃ち抜く。
    「さぁ狩って狩って狩りまくりますか!」
     途端、表情が一変。流鬼は魔槍鬼爪を構え禍々しい殺気を放つ。
    「楽しませてくれよ!」
     叫び、死者の群れの真ん中で槍を振るい、敵をなぎ払った。

    「体力作りってお誘いも、相当どうかと思ったけど。休日の過ごし方としては、センスを疑うわ」
    「何を怒ってるんだ」
     首をかしげる円理に、千花はため息をつく。
    「怒ってるわけじゃなく、呆れてるのよ」
    「飛び散る肉片、砕け散る脳漿、浪漫だな。夜には肉の丸焼きと子守唄もつけるから頑張ろう」
    「はいはい」
     なるべく変なのをリクエストしようと心に決めて、千花は面倒そうに銃を取り出した。

     龍哉は学園行事に打ち震えた。
    「合宿でアンデッド退治って何事だよこの学校。何、ゾンビに囲まれて生活するような事あんの……」
     隣では牢也がノリノリで大鎌とナイフを構える。
    「さ、気合入れてハイスコア目指しちまいますかー」
     既に勝つ気の牢也。
     龍哉とアザミだって負ける気は無い。
    「うん、俺超強いからマジ負けねぇし」
    「あっでもアザミは癒し系だからねっ。ちゃんと回復もしたげるから大丈夫だよ!」
    「二人して癒しとか超強いとか力抜けること言わねーでくださいよ」
    「なにその顔ーアザミとっても遺憾の意!」
     三人の間で火花とジューシーなお肉が飛び散った。

    「魔人生徒会は悪い! すべての元凶なの! 引きずり出して逆さ吊りしてお礼を! ……無事で帰ってから、ね」
    「合宿といえば、地域貢献ですよね。実に、僕達の学園らしい趣向じゃないですか、えぇ」
     紅葉が制約の弾丸で動きを封じ、柊弥の影がアンデッド達をことごとく飲み込む。
    「ふふふ……。さぁ、僕の《まっくら森》に沈んで下さい」
    「怖くないの……全然怖くないです! 死んだアンデッドはいいアンデッド!」

     四肢や内臓、体の部位を欠損した様々な人や動物のゾンビが、這うように迫ってくる。
    「なんやゾンビにも個性あるんやねぇ」
     どうやって動いているのだろうと、伊織は飄々と感想を口にする。
     無数の亡者を前に「百鬼」のメンバーは不敵に笑んだ。
    「ここが地獄で亡者が暴れるなら、それを鎮める私達はさしずめ『鬼』ってとこかしら?」
    「さ~ってと、地獄の合宿ならぬ地獄で合宿始めましょうか」
     瞬は飛び上がりゾンビの頭上に手裏剣の雨を降らせる。
    「グルウウゥウ……」
     腐り落ちた口から牙を剥き、ゾンビが呻く。
    「鬼に刃向うとは、死者の分際でいい度胸ですね?」
    「みんな跳んで! 森羅万象、焼ぎ払うは炎刃……はぁぁぁぁあっ!」
     氷霧と朱海の操る劫火が、地下を一瞬にして火の海に変える。
    「ホントまぁ、攻撃は最大の防御を地でいく奴らだよなー……ったく、援護するのも一苦労だぜー」
    「出番作ってやったんだよ」
     ぼやきながら後方で援護する筑音に、チェーンソーでガリガリと敵を抉りながら、シーゼルは冗談めかして笑った。

     叶音の殺気が死者の群れを飲み込んだ。
    「さ、兄様に良いところ見せるために犠牲になってもらうぜ! 覚悟ー!」
     竜巻のように槍を振るい、叶音はアンデッドを切り刻む。
    「……この子に、あんた達の穢れた手は触れさせやしないっすよ」
     妹の足をつかむ死体を颯音が屠る。
    「弱い! 弱いぜっ、こんなの兄様の足元にも及ばないっ」
    「んー、叶音の可愛さにも強さにも、足下にも及ばないっすね! ねー」
     と言いつつ隙を見て颯音は妹にぎゅーぽふぽふ。

     響く呻き声や不快な水音に、イチは思わず感心の声を漏らした。
    「血とか、肉片とか臓物とか、別に平気、だけど……ニオイは、ね……。でも、食事も就寝も死骸と一緒。寂しくなくて、いいね」
     呟く彼の表情を霊犬だけが見ていた。
    「ガンガン行くよ、ぽち!」
     霊犬との連携で突き進む歩。目指すは最奥一番乗り!
     攻守を切り替え様々な連携でアンデッドを蹴散らす。
    「少しでも強くなれるように、頑張るぞ~っ!」

     周囲一帯の死者を凍てつかせるシャルロット。
     ハルトヴィヒとお互いに背中を預け群がる死者に挑む。
    「ハルト様、撃破数の少ない方が多い方の言うことを何でもひとつだけ聞くというのはどうでしょう?」
    「へぇ……勝負です? いいですね!」
     槍を振るいハルトヴィヒが死体をなぎ払う。
     取りこぼした獲物をシャルロットが奪った。
    「負けませんよ?」
    「あっ、やられました……まぁ、いいです。次!」

    「キャンプ……というかこの状況で寝ないといけないんですよね」
     葵は走りながら呟く。それにはまず彼らを振り切らねばならない。
     後ろを振り向くと、数百体のゾンビが全力疾走で彼を追いかけてきていた!
    「絶対生き残って見せます!」
     カキーン!
     ジャストミート。折花のフルスイングでゾンビの頭がスイカのようにはじけ飛ぶ。
    「走ったり飛んだり知性があったりしたら、もっと楽しかったんだけどね」
     と呟くと、ゾンビが全速力で走ってくるじゃないか!
     ゾンビ映画マニアの折花は目を輝かせて金属バットを構えた。
     楽勝などと大口を叩いてしまった参三は全速力ゾンビの大群を見て、
    「もうっ、やだー!! ゾンビ多すぎる~!! 私を、私を家に帰してよ~~!!!!」
     セーフポイントを求め、泣きながらヴィネグレットに乗って逃げ出した。
    「迷宮なんだからセーブポイントとかあってもいいはずだよ!」
     天星弓でヘッドショットを狙う朝乃。
    「たこ焼きが食べられるなんて理由で選んじゃ駄目だったんだよ……!」
    「ホラゲー主人公の気分を味わえるとかサイコーじゃないかヒャッフー」
    「やっぱ実物は違うって言うか、に、臭いが やべえ」
     ゲームの世界に思いをはせる「人部」の徹太と周。
    「アイツいつもこんな気持ちだったのか」
    「俺なんかもう既に帰って風呂入りたい。おおさかこわい」
    「右見ても左見てもゾンビだらけ……いっそ壮観ねこれ」
     夏輝の不安はもっぱら、精神的に合宿を耐えられるかということだった。

     銃を抱えて「梅田迷宮跡地調査チーム」が通路を走る。
     T字路に差し掛かった彼等は、真の合図で壁に張り付いた。
     慎重に曲がり角を覗けば、何かの肉を漁るゾンビがいる。
    「敵ですね……ハナちゃん、展開! まとめてなぎ払います!」
     獅子の指示と同時に、彼等は銃を一斉掃射する。
     摩那斗はゾンビの眉間を正確に撃ち抜いた。
    「う~ん……やっぱり手応えはないよね。ゾンビだし肉も腐ってるだろうからしょうがないかな?」
     アンデッドには統制もなく、彼等から情報を得ることは難しそうだ。
     通路の壁に発光塗料で印をつけながら、柚月は迷宮跡地内を走る。
     生徒以外に生きた人間は存在せず、物陰から襲い掛かるゾンビは容赦なく彼の手裏剣によってはらわたを曝すこととなった。
     物珍しそうに迷宮内を探索する悠樹。倒した死体に断末魔の瞳を使ってみたが、それらしい情報は得られないようだった。
     互いの情報を共有するため、仁人は迷宮内を駆け回る。
    「甘いぞ学園……阿鼻叫喚の戦場が当たり前過ぎて全然地獄になってない人間もいるんだ……」
     朔耶は物陰に潜み、息を殺して霊犬が帰ってくるのを待つ。
    「リキ、どうだった?」
     最低限の戦闘を避けて彼女は迷宮を進む。
     梅田迷宮跡地を彷徨うアンデッドは実に様々なものがいた。
     制服やスーツ、あるいは死装束を着た者。著しく損傷した体を引きずる者。人としての原型を辛うじて残している者。啼く者。呻く者。
     それらを記録し、巧はうっかり吐き気を催した。
    「なんだかちょっと探検隊みたいでわくわくするのよ!」
     梅田のご当地パワーを得た蜜花が、細い通路に隠れたアンデッドを駆逐する。
    「ヒーローへの道は長く険しいのよ!」

     写真を撮りながら、「路地裏談話室」は迷宮の構造を調査する。
    「しかし、せっかくのGWがこんな事になるなんて……」
    「全く。何考えてんだよウチの学園はさ……」
     縁と悠一のぼやきは迷宮の闇に虚しく消えた。
    「こうまで多いと夢に見そうです……」
     道中何回もアンデッドに襲われ、さすがの彩歌も憂鬱そうに肩をすくめる。
    「一応私、お弁当作ってきたんですけど。食べられます?」
    「私も作ってきたのよ。縁さんにあーんして食べさせてあげる」
     螢が差し出した暗黒物質は凄まじいオーラを放っていた。
    「彩歌と二人でコレを分け合おうかな! な!」

     「柴くんち一行」のお弁当を死守する戦いが始まった。
    「弁当が欲しければそれ相応の覚悟をなさい。向かってくるやつには容赦しないわ」
     実鈴はこの日のために用意した釘バットでゾンビをぐちゃり。
     ぶちまけられるミートなソースを避けながら、芭子はから揚げをつまみ食い。
    「ご飯の邪魔をする子は悪い子キーック!」
     子供には見せちゃいけないモツが降り注ぐ中、観月はふぁ~とあくびを一つ。
     ふと自分のお弁当に目をやると、豪華な臓物添えになっていて、
    「…………………………………ご馳走様でした」
     お弁当をそっと戻した。

     「部外者」の弥咲と麻美はお弁当を持って迷宮を進む。
    「フハハハ、たまにはこうしてピクニックもいいものだな!」
    「きゃーきゃー恐いの苦手。ホラー苦手。グロいの苦手! 弥咲部長シールド!」
     弥咲を盾にしてゾンビから逃げる麻美。
     弥咲は弥咲で容赦なくバスターライフルでゾンビを殴り飛ばす。ゾンビは空中できりもみし、ズザザザザァァァァッ!っと地面を滑って動かなくなった。
     バスターライフルはビームの撃てる鈍器だった。

     優樹の特製サンドイッチの味を噛み締める十夜。
     近づいてきたゾンビにも優樹は優しく微笑んで、
    「はいはい、ゾンビの皆にもちゃんとご飯あげるからね。もの欲しそうな顔して寄ってくんな。特製の鉛玉、お腹いっぱいになるまで味わってよね!」
     ガトリングを乱射する少女。飛び散る肉片を十夜は影を傘にして防いだ。
    「お~い、しっかりしろ真白」
    「なんで倒しても消滅しないのよ。アンデッドの死体って言葉の矛盾!」

     互いの絆を深めることを目標に、「LIFE PAINTERS」のメンバーは入り口までは正気を保っていた。入り口までは。
    「ヒャッハー!」
     開始間もなく煉火の正気はすぐに吹っ飛んだ。
     どこへいってもゾンビ、ゾンビ、ゾンビ。
     またしてもゾンビを見つけて零人は狂気の笑みを浮かべた。
    「さあ、破壊されてね」
    「見苦しい方たちはささっと滅してあげますね♪」
     ゾンビを殴り飛ばした椛は見たことのないくらいとてもいい笑顔だったという。
    「とにかく燃やせばいいんじゃない?」
     据わった目で呟いて、ふと律花は我に返る。
    「ここで私まで正気を失ったら阿鼻叫喚が更なる惨劇を呼ぶかもしれない……!」
     まだまだ先は長い。

    「ゴールデンウイークはゆっくりゴロゴロする計画だったのに……どこをどう間違えたらスプラッターな休日を過ごす事になるの」
     ラーメンを賭けてゾンビの撃破数を競う織玻と翼。
     二人は同時に百裂拳を叩き込む。
    「おい、織玻! 派手に暴れるのはいいが飛ばしすぎてばてるんじゃないぞ!」
    「勿論! まだまだこれからだからねー」

    「二人に伝えなくちゃいけないことがあるんだ」
     「ワンコインルーム」の仲間に奏は映画の死亡フラグっぽく言った。
    「実は武器、家に忘れて来ちゃった」
     彩良はにこりと微笑むと、
    「では恐縮ですが、ももちさんには壁になって頂きましょうか」
    「漢だなももち」
     その心意気にかなめも心を打たれ壁を譲る。
     そして奏さんは一人肉壁にされた。
    「かっこいいかっこいい、輝いてるよ」
    「露骨に棒読みしなわーっ今、銃弾が掠めたよ!」
    「わざとじゃないです、目印代わりになるなんて思ってないです」
    「殺される…ゾンビの前に彩良に殺される」
     数分後、生ける屍と化した奏がいた。

     紫翠の放つ矢がアンデッドの脳天を打ち抜いた。
     あらゆる場面を想定し、彼女は射撃の練習を重ねる。しかし時々、
    「あら、ごめんなさいね?」
    「わぁーっ!?」
     矢が仲間を掠めた。
     破壊力を増した妖槍がアンデッドをただの肉塊に変える。
     倒したアンデッドの死体をじっと見つめる焔迅は、
    「……肉は腐りかけが美味いと聞きますが、ではコレもあるいは」
    「早く野生が抜けてくれぬかのう……」
     源一郎は引率者として心配そうに呟いた。
     霊犬と保存食を分け合い、疾風は束の間の休息を得る。
    「あと少し頑張りましょう」
     迷宮内に生えた怪しげなキノコをむしり取り、眞は食べながら敵陣を突き進む。
     斬艦刀の凄まじい剣圧がアンデッド共をゴミのようになぎ払う。
     吹き飛んだ死骸はドバシャーっと愉快に肉片を撒き散らした。
    「ヒャッハー! ゾンビは灼滅だー!」
     仲間を庇いながら戦う蛇目。不意に彼の腹が空腹を訴える。
    「ついでに食べ物とかもらえないかなー」
    「……あー、汚い。ホントは殴りたくもないね。槍も汚れるし、最悪」
     緩慢な動きで掴みかかるゾンビの脳天を、叡智は平然と貫く。
    「なんだかハンバーグが食べたい気分だな」
     何十体目かのゾンビを掃討し終えた頃、紫音とジョイは壁に背を預け、束の間の休息をとった。
    「おにぎりだのサンドイッチだの、結構持ってきたぜ」
     食べ物を受け取り、ジョイは紫音の話に静かに耳を傾ける。
    「ホラー映画みたいで面白そうだと思ったけど、しっかしこれ、予想以上に多いよなぁ」
    「ま、退屈しのぎにはなる、かもな」

    「皆とお泊り嬉しいな♪ 例えそれがアンデッドうじゃうじゃでもー♪」
     歌声に誘われて現れたゾンビに迦南はにっこり笑い、デッドブラスターを撃ち込んだ。
     ゾンビ達が「自習室」のメンバーを囲む。
    「理に背きし哀れなる者達に、氷の女王の名の下に裁きを――以下、省略!」
     詠唱と同時に、真言を囲んでいたゾンビは一瞬で氷像になる。
    「さ、踊ろうか」
     けいは舞うように身を翻す。
     同時に振るわれる槍が、ゾンビに残された怒りの感情を呼び覚ました。
     微笑み、桜はチェーンソー剣のエンジンを唸らせる。
    「ふふっ、一杯いる……。私の為に消える奴らがいっぱい居るわ。返してもらいます……私の全てを……」
     回転ノコギリがゾンビをズタズタに切り刻んだ。

     カヤがガンナイフで死者を吹き飛ばす。
    「おかしいな、確か……合宿、だよねコレ……」
     ごめんね、と刀でゾンビを切り捨てる英太。
     死体に囲まれ、二人は背中合わせに会話する。
    「これさ、もしかしてさ、一掃するまで何日も出して貰えない、よ……ね……」
    「うーん……そうだね、頑張っても1日じゃ流石に難しそうだし……」
    「は。もしかしてここで寝る? ここで寝るの? 英太くんどうしよう?? テントとか持ってくるべきだった?!」
    「大丈夫だよ、その時はおれが守るから」

     縛霊手に紅蓮の炎を纏い、愛希姫はアンデッドを火葬する。
    「いくらなんでも、ここで合宿をすることになるとは……」
     休む間もなく集まってくるアンデッドを葬るため、彼女は拳を握り締めた。
     周は四方に注意を張り巡らせる。
    「ガァアアア!」
     ホラーハウスよろしくゾンビが頭上から降ってくる。
    「魂を込めた一撃の重み、存分に味わいな!」
     高所から戦いを見下ろしていた銃儀が、ゾンビの上に舞い降りる。
    「カカッ――ところがギッチョンってなァッ!! 四季流、春ノ舞――血桜」
     彼はゾンビを串刺し、朱色の華を咲かせた。
    「ふむ……これは又敵が多いか」
     昌之は援護射撃でゾンビの足を吹き飛ばす。
     動きの止まったゾンビ達に前衛の生徒が攻撃を集中させた。
    「この程度であたしを止められると思わない事ね」
     華麗に宙を舞う幸乃。彼女の放つ銃弾が無数の弾痕を刻む。
    「梅田最強の存在が誰かを、あなた達に思い知らせてあげるわ!」
     それでも動き続けるアンデッドには、鏡平のガンナイフがトドメをさした。
    「歯ごたえ無いね。所詮は動く屍……ってね。……さーて。次はどいつが僕に殺されてくれるのかな?」
    「雑魚すぎ。つまらん。うざー」
     ゾンビでは満足できないナディアは、他の生徒達の戦いぶりを羨ましそうに見つめる。
    「いーなぁ、あーいうのと殺りあいたいなぁ」
    「嫌いじゃないですよ、こういうの」
     冥の拳が電流を帯びる。老人ゾンビを殴り上げ、続けざま背後の女ゾンビを切り刻む。
    「まだまだ宴は始まったばかり、この程度でバテてる暇はありませんよ」
    「ほらほら、ちゃんと踊りなさい?」
     桐香はこれを機にガンナイフでの戦闘を研究する。
     ナイフを水平に突き刺し、零距離からありったけの弾丸を叩き込む。
     銃撃と斬撃を組み合わせ死者を葬っていく。
    「ほんと、こういうのもいいわね。癖になりそう」
     ガリガリガリ。
     斧を床に引きずりながら、宵がゾンビ目掛けて走ってくる!
    「ひゃほう!」
     一振りでゾンビをぶった斬り、壁に真っ赤な雨を降らせた宵。
     彼女は存分にスプラッター地獄を満喫していた。
     蠢くゾンビの真っ只中で、ミレーヌはひたすらに敵の首を刎ねる。
     より速く、より鋭く、刎ねる刎ねる刎ねる。
    「あははははっ! 首だけ置いていくか、首から下を置いていくか、さあ選びなさい!」
     絢音なりに地獄合宿の趣旨を汲み取った結果。
    「ふふ……戦うのって、痛いのって、とっても楽しいわねぇ!」
     轟く雷と燃え盛る火の海の中で、ゴスロリ服の少女が笑っていた。
    「こんな状況を見ながら考えるんもどうかとは思うんよ、思うんやけどね? テーマパークみたいでわくわくせん?」
     下手したら命を落とすのが玉に傷やけどねぇ、と泉霞は笑う。
    「これが役に立つのかしら……?」
     雛は槍で淡々とゾンビをざくざく刺していく。
     でも内心ではわくわくしながら死者の首をはねていた。
    「これで武蔵坂の仲間入り……」
    「不恰好なゾンビは私が綺麗にしてさしあげましょう」
     臙脂の着物を翻し、両手のガンナイフを振るい、百合亞はゾンビ共の体を切り落とす。
    「アハハ! ダンスみたいで楽しいですね!」
     装甲を纏う九十九院の影が、ゾンビの腐敗した体を宙へ跳ね上げる。
     宙に舞う獲物を追って高速の機動で飛び上がると、九十九院はナイフの追撃で奴等を切り刻んだ。
     初めは作業的に戦っていた虎鉄もいつの間にか、
    「ふははははははははっ、僕は戦いが好きだっ!! 甚振るような虐殺が、ギリギリの駆け引きの殺し合いが、強者を嵌める謀殺が大好きだっ!!」
     小奇麗なティーテーブルを用意し、由良は優雅にティータイムを満喫する。
    「狂ったお茶会へようこそ」
     彼女に近づくアンデッド達は例外なく、処刑具や拷問具となった彼女の影によって、周囲一帯に悲鳴と血しぶきを撒き散らした。
     悠仁の影がゾンビを丸ごと飲み込む。これならグロ描写にならない。
     バリッゴリッブシャアアアアアアアア!
     が、租借音はエグかった。
    「今晩は精がつくように肉料理にしましょうか」
    「ずーーっと戦っておけばいいなんてわかりやすいじゃん」
     ゾンビの返り血を避けつつ、海砂斗は遠い目をして呟いた。
    「こんなんで汚したら、ねーちゃんにおしおき食らっちゃうもんね」
     アンデッド共がにじりよる。
     そこに小次郎の投げ飛ばしたゾンビ手裏剣が敵をなぎ倒す。
     ここぞとばかりに彼は暴れまわる。巨大な瓦礫を振り回し、死者達を次々に粉砕した。
    「お前らはZQNか!? それとも「奴ら」か!? じゃなかったらウォーカーか!?」
     ハイテンションでゾンビ共を屠っていく生徒に混じって、海琴も負けじとガトリングを乱射する。
     凶暴化した犬のゾンビを、フィズィは文字通り千切っては投げ、千切っては投げ。
    「頭ぶっつぶしたり灯油かけて焼いたりしないと、赤くなって甦ってきそうでございます……」
     シスター服を返り血に染めていたケイはハッと我に返ってあたりを見回した。
    「……ここは何処でしょう? 道に迷ってしまったようです……。迷子になるのは人生だけにしたいものです」

     容赦なくゾンビを切り刻む柚羽と芥汰の前に現れたのは、もふもふの強敵だった。
    「ニ゛ャーー」
    「無理。俺、ゾンビでも猫を倒すとか無理……」
     現れた猫ゾンビに芥汰のはうろたえる。
     柚羽は後ろから彼に目隠しをすると、
    「もふもふが……あう……ごめんなさい」
     呟き、鋼糸を手繰る。
     猫を眠らせてくれた柚羽に、芥汰は小さく礼を言った。

     突然、通路の地面が崩れ、「カフェ Dog’s ear」は奈落の底へと突き落とされた。
    「天槻さん、お怪我はありませんか?」
     愛梨栖にお姫様抱っこされた空斗。
     近くには暗闇で泣きそうな店長の白夜だけ。
     ランプに明かりをつけると、周りをぐるりとゾンビに囲まれていた。
    「モンスターハウスだーっ!?」
     一方その頃、仲間とはぐれた十六夜、式。
     二人は京を引きずりながら、壁を壊して店長達を探していた。
     店長がいるから心配はないと思うのだが……。
    「十六夜さん助けてくださいー!」
     叫びと共に愛梨栖が走ってきた。
     その後方からは恐怖で我を忘れた白夜が、ハンマーを振り回して追いかけてくる!
    「待てっ!! ゾンビは俺が全て狩りつくすっ!」
     彼の通った後には屍の道が出来ていた。
    「よりによって何やってるんですかー!?」
    「大丈夫ですか~~?」
    「……面白そうな事を……でも、俺の愛梨栖を襲うのはよくないな……」
     その後、店長はお客三人に無事鎮圧された。

    「さ~て、ゾンビ狩りゾンビ狩り~」
     すれ違う死者達に虚雨はフォースブレイクを流し込み、バニシングフレアで焼き払う。
    「どっかにお宝落ちてないかな~♪」
    「ゾンビっこ千人斬っれるっかな♪」
     夏枝が鼻歌交じりにゾンビを切り倒していく。
     ギターをかき鳴らし、囃子は歌声をゾンビに披露する。
    「久々に大阪行けると思たらまさかのゾンビ狩りて…なんか他の地域の合宿と比べてここだけエラい毛色違わへんか……?」
    「地獄の沙汰も金次第。学園の食券やリボ払いもでもええで!」
     「アルカナ魔法商会」のベルタは路上に品物を並べ、商売をしていた。
    「ハーブも取り揃えてるで。なんでハーブかって? もちろんゾンビ相手にする伝統や」

     無数のゾンビと対峙する「DoHighGo!」。
    「さあ、還るのです……あなたの逝くべき場所へ!」
     せめて自分の手で彼等を葬る為、湯里は鬼屠の薙刃を振るう。
     ハンナも彼女に続き銃を構える。
    「ハンナ姉さん、灼滅者の戦い……勉強させてもらいます!」
     あるとに笑みを返し、照準はゾンビ共へ。
    「我が東大阪市のォォォ科学力はァァァ世界一ィィィ! 東大阪の地で生み出されたダンピールの殲術道具にィィィ討てぬものはなァァァい!」
     雄叫びを上げ、ハンナは激しい銃撃でゾンビを砕く。
     がくぶると武者震いが止まらない花子。
    「で、でもこの程度ではへこたれませんわ! 先代から受け継いだこの名に泥を塗る訳には……」
     不意に沢山の手に足を掴まれ花子が振り向くと……。
    「い、イヤァーッ!!」

     繰り広げられるパニック映画さながらの光景を眺めるディアス。
     集まってきたアンデッドにも彼はにこっと笑い、
    「わくわく! どうしましょうか?」
    「あう、マスクしててもくさい」
     紫苑は神薙刃でアンデッド達を一掃する。
    「わお、ぶちぐちゃでろーってなっちゃった」
     そこ、倒した後に死骸をつんつんしない!
    「リアルガンシューとかマジテンション上がるわ―」
     ゾンビゲーム気分で義治と涼はライフルをバンバン撃ちまくる。
     こうして見てみるとゾンビ達にも色んな顔があるもので、
    「あ、あのゾンビ涼にちょっと似てるー」
    「……似てないっ!」
    「えー。絶対似てるって。ほら、鼻の穴が二つある所とか」
    「鼻の穴が二つあるのはお前も同じだろうっ!」
    「一緒に頑張ろうね、伊月っ」
     現れるゾンビを次々と倒す陽規と伊月。
    「実に爽快でリアルだ。まあゲームだと臭いまでは感じない訳だし、こっちのほうが断然楽しいな」
     伊月に噛み付いたゾンビは容赦なく陽規に吹き飛ばされた。
    「伊月に怪我させた奴は即死決定だねー♪」
    「ドッキリ仕掛けるのもおもしろそうだ」
     にやり。二人は悪戯っ子の笑みを浮かべた。

     暗闇の中に人影が浮かび上がる。
     段々と近づいてくるそれらは、闇の中から灰色の肌と目玉のない顔を覗かせた。
    「知和々ちゃんも一緒ですから怖くありませんよ! こ、怖く……やっぱり怖いですごめんなさい!!」
     日和が霊犬と共に通り過ぎる。
    「わたし……この地獄を生き抜けたら、知和々ちゃんと遊ぶんです……! うわぁん!!」
     地下に日和の悲鳴が響いた。
     道中で直哉を見失ったレミ。不意に後ろから肩を叩かれ振り返ると、そこには懐中電灯で顔を照らした直哉の顔が!
    「……っきゃぁぁっ!!」
    「ごふっ!?」
     レミの右ストレートが直哉の顔面にめり込んで吹き飛ばした。
    「……くぅ、効いたぜ。ハッ殺気!」
     起き上がった直哉はこの日一番の恐怖を目の当たりにする。
    「わ、私にこんな悲鳴を上げさせるとは……直哉さん許すまじっす!!」
    「つ、つい出来心で、話せばわかる、な? ……に゛ゃー!?」
    「剣で切れるなら幽霊じゃない! でも、やっぱり怖いーーー!!」
     ホラー嫌いを直すために鈴は、泣きながら戦艦斬りを放っていた。
    「無理! もう無理! ぜーたい無理!」
    「ひっ……」
     ゾンビの泥のように濁った目に、アプリコットは小さく悲鳴を上げた。
     ビハインド「シェリオ」は涙目で抱きつく彼女を抱き上げ、二人でゾンビを掃討する。
    「……早く、帰りたいです…」
     迷子は意を決してゾンビを鬼神変で殴る。
    「ガァ、アアァ……!」
    「ご、ごめんなさい!」
     怒ったゾンビから逃げる迷子。
    「あ、うぅ……っ」
     人見知りで助けを頼めない!
    「ここはお任せ下さい!」
     ゾンビの群れに躍り出た明は両手の鋼糸で屍を斬り刻んだ。
     一人地下を進む暁は見知った背中を見つけた。
    「あれ、梓先輩……?」
     振り返った梓は涙目だった。
    「梓先輩もこっちに来たのか。……って、何かあったのか?」
    「……平気だ。何でもない。なんでもない」
     目元を拭って後ずさる梓は、転がっていたゾンビの腕を踏んで悲鳴を上げた。
    「……結局平気じゃないんじゃないか」
    「いいか、暁。私はスケルトンは怖くないんだ。だがな。ゾンビは……嫌だ」
     小高い場所を見つけると、娘子はライブ衣装に変身。ゾンビ達を観客にして高らかに音楽を響かせた。
    「唄っても唄ってもなお埋め尽くさんばかりの死霊様方! このにゃんこも唄い甲斐があろうというものに御座います……!」
    「テンションたけぇーなニャンコ!」
     普段の彼女とのギャップに驚きつつ、黒郎は彼女のステージに上がりこむゾンビを切り伏せた。
     こぼれたのうみそを追いかけたり、転んではらわたをぶちまけるドジっ子ゾンビが前を通り過ぎると、華は満面の笑みを浮かべ、
    「彰人せんぱい、見て、見て、かわいい子たち、が、いっぱいなの……!」
     グロい? そんなのは慣れっこ。
     むしろリアルでも、ゲームでも大好きである。
    「こいつらを可愛い、かぁ。そういうところは尊敬するかもね……」
     華に誘われてやってきた彰人は苦笑した。
    「あれ? 彰人せんぱい、が、ちょっと引いてる、です……?」
     しょんぼり。
    「まぁ、何もしないでも楽しそうだからいっか」
     杏子の提案で歌を歌いながら進む「糸括」。
    「こっこせんぱいもあんさんもいっしょに歌おー、なのよっ」
    「わらわ、怖いの苦手なのにー」
     ビハインド「暗」と手を繋いで目を瞑りながら歩く心桜。
     歌に吊られて闇の奥からゾンビがゆっくりと姿を現す。
    「うげ、ゾンビグロいっ!!」
     ゾンビのグロさに引く明莉の肩がぽむっと後ろから叩かれた。
    「ひぃぃぃぃっ!!!」
    「あかりんぶちょーどこいくの――?!」
     銘子は明莉と杏子がダッシュしてきた方向をランプで照らす。
    「洒落にならないわね!」
     心桜と暗を連れて銘子は箒に跨る。
     振り返った心桜は、通路を埋め尽くすゾンビの群れを見た。
    「いやじゃああああ」
    「うふふ♪ 何に使おうかしら?」
     ビデオカメラの映像を眺めながら、詠子は恍惚の笑みを浮かべる。
     もちろん録画されているのは、ここでの密着ホラー映像24時である。
    「これからの季節にもってこいですわ♪」

    「ガア……グルゥウ……」
     澱んだ血を啜り、死肉を漁るアンデッド達。
     「祓魔屋」のエクソシストとして、瞬兵、鞴、直哉は奴等を祓う。
    「我が神よ、世界線の理に基づき、在るべき姿に戻し給え」
    「輝く御名の下、迷宮の囚人達に導きの光を……」
     彼等の詠唱が迷宮に響き渡る。
    「「「御許に仕える事を赦したまえ……」」」
     解除コードと共に暗闇を神聖な光が照らし出した。
     裁きの光条が生ける屍を一瞬にして浄化する。
    「この輝きでせめて美しく、成仏してください」
    「ガ、ァイタイ、くラい……サミしイ……」
     もはや満足に喋ることも出来ない喉で、アンデッド達は声を振り絞る。
     彼等の魂に祈りをささげ、虚は死者を眠らせる。
     眠りを起こされた哀れな亡者達に、アンセムは再び安らかな眠りを与える。
    「立ち上がりし死者に二度目の安寧を……三度無きを祈る」
     彼は自らの使命を全うするために刀を振るった。
    「ゾンビゲームみたいに、うじゃうじゃいるな」
     ゾンビを切り倒し、流希は彼等の安らかな眠りを祈る。
    「人の形をしたものを切り伏せるのはやはり、抵抗があるな」
     巧は自身のサイキックエナジーを燃え上がる炎に変えて、哀れな死者達を焼き払う。
    「ならば、この手で、打ち倒し、せめて、この魂らに安らぎを……そして、この場に静寂を」
     裕也のチェーンソーがアンデッドを解体し、アルベルティーヌの炎が灰へと返す。
     断末魔の瞳が見せたのは、絶望の内に死んだ彼等の最期だった。
    「……静かに眠れるよう……」
     裕也は祈る。彼等の苦しみは確かにここにあったのだから。
     一刻も早く終わらせる為に、二人は迷宮跡を突き進んだ。

     撃破数を忘れないよう、きちんと定期的にメモを取る詩音。
    「皆さんあまり一人で進み過ぎないようにしてくださいね」
     食事のおごりを賭けて、「卓上競技部」はゾンビの撃端数を競う。
    「はいはい、汚物は消毒だー」
     椿はゾンビ共を容赦なく巨大な炎で包み込む。
     彼の背後から近づくゾンビを、物陰に隠れる朱梨がこっそり葬った。
    「椿さんに近づくなんて、許さないよ?」
     炎に包まれたゾンビを薙ぎ払い、鷲司は撃端数を大きく稼ぐ。
    「何があっても彩希に負けるわけにはいかねぇ!」
    「鷲くんに食事を奢るなら喜んで。……食事に盛れるし、ね。うふふ」
     ゾンビをナイフで解体し、彩希は確実に撃破数を稼いでいく。
    「怖いから俺の後ろに立つな!」
    「尋常じゃない数だな! これは! うおおおしッ! この地獄、買ったぞォッ!」
     雄叫びを上げる風吾郎。
     攻撃する度にこの調子なので、続々とアンデッド達が集まってくる。
     突然の光が暗闇の中のゾンビ達のグロさを照らし出す。
    「うわっ! 近くで見るゾンビやばい!!!」
    「火葬も考えたけどだからやめたんだよな」
     ゾンビを倒しながら休憩所を探す啓と輝生。
     やがて分かれ道に辿り着くと、
    「どっちに行こうか?」
     二人は同時に逆方向を指差した。
     こういう時は、
    「よし、最初はグー」

    「さーて、頑張っちゃうよ~」
     腕をぶんぶんぶんぶん振り回しながら、シェレスティナはアンデッドをざっくざく切り刻んでいく。殺伐!
     共に行く皇は、掴みかかるアンデッドを組み伏せ、格闘技のように流麗に殴殺した。
    「シェレ! どっちが一杯いけるか勝負やでー」
    「どっちがたくさんか? オッケーいいよーん!」
    「制限時間は次の休憩まででどうや」
    「あ、シェルが寝る時は織神ちゃんのお膝~♪」
     早々に今夜の寝床を確保した光は、安眠を守るために周囲のゾンビを一掃する。
    「この程度のスプラッタ、普段よりちょっと居心地が悪い程度ですが、ゾンビの添い寝は不要です」
    「グスン……興味本位で来た合宿がこんなに怖ろしい所だったなんて……」
     恐怖にかられた津比呂は一人暗闇へと走り出す。
    「もうこんな所に居られるか! オレは帰るぞ! ……ギヤアアアアア!!」
     そうして大阪地獄合宿に最初の夜が訪れた。

    ●オナカガスイタ
     この頃にはもう、どちらがどちらの呻き声で悲鳴なのかよくわからなくなっていた。
     ゾンビを一体叩き潰すごとに、依子は自分のイメージと動きをすりあわせていく。
     臭いも忘れて鍛錬に没頭していた彼女は、ご飯の時間になるとぴたりと戦いをやめた。
    「皆さん食事にしましょうか」
     周囲のゾンビを片付けると、水菜はふぅと息を吐く。
    「なるほど、これはいい修行になりそうですね」
     今の内にと彼女はキャンプの手伝いを始める。腐臭に負けないよう、料理にはたっぷり香辛料を効かせるつもりだ。
     屍の山を築き上げた御都。高い場所を見つけ、ここをキャンプ地とする。
    「キャンプといえば飯盒炊爨です! たとえココが地獄でも私はここでカレーを食べるです。それがキャンプだからって聞いたから!!!」
     今、地獄のカレー作成が始まる……!
    「まるで、腐ったはらわたの中だな。酷い臭いだ、食事は喉を通りそうにないね」
     学生新聞「武蔵坂タイムス」の取材のため、はじめは生徒達に質問をしていく。
    「やあ、お疲れのところ悪いね。少し話を聞かせてくれないか」
    「ちょっとでも悪い事した奴は死ぬし! ちょっとでもエロい事したら死ぬのよ! 常日頃から世界がゾンビに支配されたらどうするべきかとか、そんなクダラナイ事を毎日真剣に考えて生きてきた成果を今こそ試す時が来たのよっ!」
     拳を握り締め、魅具はゾンビ世界の掟10か条を熱く語った。

     生徒達に炊き出しをする「家庭科部」。
    「こっち……、安全な場所、確保できてる……」
     休憩所を護衛するアリアーンと聖は、近づいてくるゾンビを潰して回る。
     アリアーンはゾンビ狩りが楽しくて仕方ない。
    「さあ、ゾンビ達。殺し合いしよう?」
    「……む? ゾンビがこの休憩所に向かってくるだと? 仕方あるまい、ここは俺に任せて皆は夕飯の準備を頼むぞ!」
     そう言うと、将真は休憩所を飛び出した。
     休憩所の中では雅が、用意してきたおにぎりや汁物、レーションやスポーツドリンクなどを配っていた。
     返り血に汚れて帰ってくる生徒達を京音がクリーニングで綺麗にする。
     しかし洗っても洗っても終わんないし、呻き声がうるさいし、
    「手間ァ掛けさせるんじゃないよ腐れ野郎共ッ! 大人しく斃れてな!」
     正気が振り切った京音が飛び出し、雅だけが残された。
    「皆さんいなくなってしまいました……」

     「ベースキャンパー」、それは清和を筆頭にこの地獄に快適をもたらさんと戦う者たちである!
    「俺が綺麗に快適な体にしてあげよう!!」
    「はーい、並んでくださいねー。一瞬で済みますのでー」
     汚れて帰ってくる生徒達にクリーニングを施す武と篠。
     キャンプには鋭二郎の持ち込んだ大量の消臭剤がぶら下がっていた。
    「効果と即効性は疑わしいが、探せばあるものなのだな」
    「まったく絵柄が無いからわかんねーなー」
     ミルクパズルを組む伊介は全力でベースキャンプを満喫していた。
    「ねーちょっと誰か手伝ってくんない?」
     美味しいブイヨンを煮詰めるのは百合の担当だ。
    「ナイト、そこで歌っているだけなら飯抜きだぞ? 働かざる者食うべからず、一体位倒して来ると良い」
    「さぁ、人よ! ゾンビよ! 俺の歌を聴けーーーーーーーっ!!」
     ナイトはセクシーコーデとラブフェロモンで魅力をアップ!
     聞こえてくる黄色い歓声。
    「ウウウゥウウ」
    「グァアアァァ」
     ではなくゾンビの呻き声。
    「ぶっ散らす! クハハハ! 楽しいぜ!」
     寄ってきたゾンビ達をゲルトのガトリング連射と、ジョアニィールの百裂拳が殲滅する。
     地獄に負けてなるものか!

     ゾンビの群れに慣れている慶次は、食料の確保と炊事を手伝う。
    「う゛~」
     じゅー。
    「あ゛~」
     じゅーじゅー。
     バーベキューだ!
     真樹はゾンビの呻きも気にせず威風堂々と肉を食べている!
    「あとで火の始末と虫刺され対策もしておかなくちゃ」
    「こっちもどう?」
     真白は北海道で取ってきた鹿肉のステーキを女の子に振舞う。
     腐臭に負けないよう強めの香りと味付けも忘れない。
    「眠れない子にはあとで子守唄も歌ってあげる」
    「ごはん~♪ ごはん~♪ ごは」
    「アゥアアァァアア……ッ!」
     戦い疲れたミカエラの食卓をゾンビが吹き飛ばす。
    「……むぅぅぅうううぅぅぅぉぉぉ!!!」
     ミカエラはバトルオーラ全開で激怒した。
    「一緒に過ごすなんて……!! 無理!! ダヨう!!」
     観光のつもりだったのに、チロルはすでに涙目だった。
     せっかく魚々の作ってくれたカレーも、
    「アンデッドに囲まれて、だと全然味がしない、なのよう……うう……」
    「薄味に、作りすぎましたかね……?」
     スプラッタ映画好きな魚々はむしろ楽しそう。
    「わー! アンデッド、が近づいてきた、ダヨ! に、逃げていい、カナ……!! もう限界ダヨー……!!」
    「結界符、作ってありますので大丈夫、ですよ」
    「もうこんな合宿、こりごりダヨ……」

    「あっ、今料理が出来たところなんだけど君も一緒に食べる? はい、どうぞ♪」
     竹緒が微笑んで皿を渡すと、彼はガツガツとそれを平らげた。
    「あらら、なんだかすごい食欲だねー。そんなにお腹減ってたのかな? ……ってよく見たらゾンビだった!」
     その後ゾンビはあっさり粉砕された。
     「料理研究同好会」の切丸と陽己は可能な限り清潔な空間で生徒に食事を提供する為、ありったけの荷物で半径10mを掃除し、食材や調理道具を貸してまわった。
    「美味いもの食べさせてやれるといいな」
    「用意できるものは、缶詰の具を乗せただけの丼とサバ缶を使った鯖カレーだけだが……」
     ミオはブイヨンでスープを作り、炒飯定食を丞に振舞った。
    「ホントは、もっとムーディーなディナーにしたいけど……」
    「ウゥウウ、アアァア……」
     BGMがムードをぶち壊すが、気にしないことにする。
    「ありがとな、ミオ。美味しいよ」
    「えへへ……♪」
     汚れた衣服のミオに丞はクリーニングを、
    「あー、その……失礼」
     お互いに照れながら、二人は汚れを浄化した。
    「……まさかこっちに参加するなんてね」
     漂う腐臭にうんざりしながら、山吹はごはんをもぐもぐ食べる。
    「あ、俺のご飯とらないでね」
     周囲に張り巡らせた鋼糸が近づくアンデッド達を切り刻んだ。
    「こんな所で寝泊まりをしては、気が狂う方が現れるかもしれませんね」
     ぷるぷるぷる。
    「おや、ルーチェ何故そんなに離れた所に?」
     隅っこで震えるナノナノに首をかしげながら、ギルバはトマトソースたっぷりのピザをほお張った。
     地下迷宮に響く呻きと悲鳴は果たしてどちらのものなのか。
     朱里と樂はイヤホンを分け合い、食事をとる。
    「樂、お前よく食えるなーもぐもぐ」
    「お前もしっかり食ってんだろ」
    「俺達成長期だぜー?」
    「そういう問題か?」
    「んー腹も膨れたし、どうしよ? 寝る前にひと運動するか?」
    「乗った」
     朱里はロッド、樂は槍をそれぞれ構え、死者の群れに対峙した。

    「もふもふー!」
     この地獄にもふもふを求めて進撃していた美海。
     ソウルフードの宇都宮餃子を食べて、白猫着ぐるみ型寝袋で眠りについた。
    「明日も、もふるの……」
    「北海道でイグルーを作り、東京の学校で古典の授業を教えて、名古屋までマラソンし、更にここまでダッシュで来た! 梅田ではしっかり休めると思ったがそんなことはなかったー!」
     各地を回った不志彦は叫ぶ。福岡こそは、福岡こそは……!
     ライドキャリバーの上で休息を取るティアナに足音が近づいてくる。
     すかさずキャリバーが先制攻撃で突撃。
    「あらまぁ、大勢で。……では、始めましょうか」
     目を覚ましたティアナはゾンビに銃を構え、告げた。
    「頂くわ、よろしくて?」
    「あぁ、またですか」
     休息もつかの間、鎮の元におぼつかない足取りで死者が近づいてくる。
     しかし振るう武器もどこか嬉しそうで、足元も踊るように軽い。
    「みんな、燃えてくださいませ。弔いの火もこれで必要なき事ですね」
     黙々と地下迷宮を突き進んできた密は立ち止まると、
    「……随分殺ったかな」
     壁に背を預け、来た道を振り返る。
     タンブラーの珈琲の香りはすっかり周りの死臭に掻き消されてしまっていた。
    「あぁ……服がドロドロだ。しかし懐かしい感じがするな……」
     横穴に潜み着替えをしながら芥は呟く。
     その時、入口に張った糸と鈴の罠が来客の訪れを告げた。
    「昔に比べれば楽しいキャンプだ」

     キャンプの準備を進める生徒達。
     トリハが周囲の見張りを提案した。
    「とりあえず全員で寝る訳にもいかないだろうし、交代制でどうだ? 俺は言い出しっぺだから最初に出るとして……後はくじで決めるか」
     初めはテンション高くはしゃいでいた詞乃は完全に沈黙していた。
    「そんな時は「助平」をぎゅっと抱きしめて、その可愛さで癒されるといいのじゃ」
    「新鮮な肉も手に入れたでござる」
     ナノナノと不信な謎肉を差し出す天音と弘務。
    「こんないつゾンビに襲われるか分からないところにいられるかっ! わらわは勝手にやらせてもらうのじゃっ!」
     詞乃はキャンプ地を飛び出し走り去った。
     その後彼女の姿を見た者はいない。
     いつまでも帰ってこない詞乃を心配して弘務も、
    「ちょっと様子見てくるでござる」
     それ以上いけない!
     遠く聞こえる地獄からの呻き声も茉莉には子守唄。枕元にゾンビが現れようものなら、彼女は容赦なくチェーンソーで肉片と腐汁を撒き散らした。
    「きゃーなんか飛んできた!」
    「あ、ごめんなさい」
     こちら「井の頭2G」テント。
    「ああ、風呂と寝床と食卓がある生活って、尊いんだなあ……」
     新は遠い目で呟いた。
    「確かこういうときは寝て朝を待つのがいいのだ!」
     男子に見張りを任せて女子は眠りにつく。
     目を閉じ、耳を澄ますと、ほら、遠くから無数の呻き声が。
    「わ、我は一人でもぐっすり眠れるけど、皆が心配なのだ。だから一緒に寝るべきなのだ……」
     がばっと起きる楼沙。
     クラレットは悪戯っぽく微笑むと、
    「その辺に幽霊も寝てるけど大丈夫?」
     その時、突如生首が飛んできた!
    「「きゃあああ!」」
     アリスティアは動じず生首を蹴り返す。
    「…誰の物かは…存じませんが…、御返し致しますわ…」
     級友の悲鳴が聞こえたが、新は寄ってくるゾンビの首をはねるので忙しかった。
    「みんなと一緒ならもう何も怖くない!」
     爽やかに微笑む「黒猫座談会」の咲桜は、ここで名状しがたい事態に気付いてしまう!
    「あ~っ!? 側に! 側に! ゾンビの頭が~!?」
     修行の為、そして生活スペースを得る為に、エインヘリアルはゾンビを掃除する。
    「流石に血生ぐさい寝床はいやよ……頑張ってやっつけましょう。こんなんじゃ本も落ち着いて読んでられないわ……帰りたい……」
    「うぉ、アニキアニキ、なんかきた!」
     大げさなくらい怖がる麻樹に篝は肩をすくめた。
    「ホラー映画好きが聞いてあきれるぜ」
    「ホンマはいややけど今日はアニキと一緒に寝たるわ、な!」
    「俺を盾にしようとしてるのが丸見えだ」
    「ギクリ」
     とはいえ弟を邪険にも出来ず、篝はため息をついた。
    「ってうぉぉぉぉ、ゾンビおるっ、ゾンビーーーっ!!」
    「うむ、とりあえず燃やしておこう」
     ディーンはこれ以上無い笑顔で、寝込みを襲うゾンビ共を灰にした。
    「つーか、死人如きが生きてる人間の睡眠を邪魔すんな。マジムカつく」
    「ひゃっほい☆クセェ! 洗ってねえ便所の何倍もクセェっす!」
     愛用の水着を着てきた絹代は後悔した。
     横になると素肌にぐちょぐちょに腐った生肉の感触が!
    「ヤバい……これヤバい……きも過ぎるっす! 寝れねえ!」

     ひた、ひた……。
     寝息を立てるシャルロッテに怪しい足音が近づいてくる。
     食われそうになった瞬間、寝袋が開く。彼女は目を閉じたまま死者を屠って再びすやすやと眠りについた。
     くしなに添い寝されて眠るビッグボディ。
    「あいじょー料理ですねっ! あーんっ♪ですっ」
     寝言を言いながら左右から抱きついてくるくしな。
    「左右から同時に抱きつくとか積極的すぎるだろう……ん? 左右から?」
     少女の安眠を守るためのサイレントな漢の戦いが始まった。
    「地獄だ」
     夜になっても眠れないまま、春杜は呟いた。
    「はるちゃんといっしょならおねーちゃんはどこでも楽しいよ?」
    「ゾンビの群れが嫌なんじゃない、ねーちゃんがいつも以上にベタベタしてくるのが恥ずかしいんだ……!」
     嫌がる弟を刹那はぎゅむっと抱きしめる。
    「照れちゃって可愛いなぁ♪」
    「オレを抱き枕にするなぁぁぁぁ!」
     この後、お約束のようにゾンビが押し寄せてきました。

    「夜風に当たりたい、けどそんな風流なモノも期待できそうもないわねえ」
     寝付けるまでの間、寵子はキャンプ地の周りを散歩していた。
     遠くから無数の呻き声が聞こえてくる。
    「ここがこうなる前、あの陽だまりのような女の子はどんな気持ちでここに居たのかしら?」
    「眠れないのか?」
     人の気配に気付き、舜は目を開ける。
     屍の中での睡眠も特に気にしている様子は無い。
    「いつ襲われるかわからないってのも、いい実戦経験になるな」
     安全圏で休息をとる榮太郎。未だ迷宮の奥からは何者かの奇声や呻き声が響いている。
    「やれやれ、文字通りの地獄で合宿、ですか……。学園の人、なんかネジ飛びすぎじゃありませんかね」
     迷宮跡地の探索に疲れた「ラジカル」のメンバーはキャンプで睡眠をとっていた。
     今夜はゆっくり休める、そう思っていた時期がイヅルにもあった。
    「ア゛アァアアア……」
    「ゥウウウウゥゥ……」
    「うるせぇ! 眠ることすら許されないのかよど畜生!」
     一は仲間を叩き起こし、枕投げを始める。
     眠そうにあくびをする陽彩の横を腐った生首がかすめた。
    「始めるぞ、ゾンビ投げをなぁ!」
    「枕投げ進化しすぎっしょ!?」
     枕の代わりに飛び交う生首、腕、脚、モザイク、モザイク、モザイク。
     それらを真顔で避ける氷空。
    「ま、この死臭の中、正気でいられる方がおかしいか……」
    「ってかトードーさん、さり気なくオレ盾にしてないっス!? うわーんオレの安眠返せー!」
     彼等が疲れ果てて眠るまで、阿鼻叫喚の悲鳴は響き続けたという。

     一匹の猫が丸まって横になっている。猫――夕霧は思う。かつてここにいた少女は、ここでどんな想いを抱いていたのだろう。
     少女を想い、猫はにゃあと鳴いた。
    「アロマなんて用意してくれたんだ?」
     気休め程度だけど、と湊はアロマキャンドルに火を灯す。
     不意に月子が寝袋にもぐりこんで来て少年は大きく戸惑った。
    「こうしたら温かいし……」
    「いやっ、確かにっ、そうだけどっ!?」
    (「嫌がってないよね」)
    (「うわー、月子さんの顔がめっちゃ近い!」)
     お互いのぬくもりを感じながら、二人はいつしか眠りについた。
     戦い疲れた煉と紋次郎は、おにぎりと缶詰を交換し、明日に備えて休息する。
    「唯の人混みでさえ疲れる先輩は、寝とかないと持たないでしょ」
     呻き声が気にならないようにと、煉は紋次郎の耳元で歌う。
    「……何ぞ年寄り扱いしとらんか。つか、何で校歌」
     言いつつ、寄りかかる少女の髪を彼はそっと撫ぜた。
    「お陰さんで呻きも……異臭も。あんま気にせんで済む」
    「……一緒で良かった。ありがとうございます」

     合宿、キャンプ、女子、と言えばやはりこのイベントは欠かせないのではないだろうか。
     そう、好みのゾンビについて語り合うゾンバナである。
     「忘れられた一室」の女の子達。宗無、加古、黒那、真琴、智はゾンバナに花を咲かせていた。
    「抗雷撃で殴ったらボーリングのピンみたいに30体も吹き飛んだんですよ」
    「きっとこの人たちにも恋人みたいな人がいたのかもね、って思うと切ないよね。服装から察するにあの人は生前はモテたに違いないわ」
    「ゾンビのチャームポイントと言えば、腕とかが欠損していたりとか、考えが食欲しか無い所じゃな。ノロノロこちらに向かってくるゾンビなんか本当に可愛いと思うのじゃよ」
    「僕はあれ、生前の記憶が微かに残ってて本能で生きてた頃の動作をしちゃう系のゾンビが好きかな……」
    「そうですね……、わたしとしては部位無しゾンビは好きですけど虫湧きはちょっとポイント低めですね……。腐敗具合としてはつかんだ際につぶれないくらいがタイプ……かな」
    「「わかる!!」」
     こうして大阪地獄合宿の夜は更けていった。

    ●1日後…
     キャンプで一夜を過ごした黒鵜は、すぐさまアンデッド狩りを再開した。
    「好きなだけ暴れられるとか、最高じゃね?」
     食欲剥き出しで襲い来るアンデッドをすれ違い様に大鎌で刈り取る。
     迷宮跡内に流れていたであろう水路を「Charlotte」のメンバーは調べる。
    「ふああーもう二日目、いややっと二日目……かも……」
    「ふあ……あー、さすがに眠いかも」
     あくびをもらす実とあゆに雄大は、
    「注意力が散漫だぞ、少し目を瞑ったらどうだ」
     うつらうつらと舟を漕ぐアスル。
    「おぶろうか?」
     と草灯がたずねると、こくりと頷き、アスルはすぐに彼の背中で寝息を立てる。
     その油断を突くように、突如汚水の中からゾンビが飛び出した。
    「ほら、危ないよ」
     庵が咄嗟に仲間を庇い、ゾンビの頭に風穴を開ける。
     すると水面からバシャバシャとゾンビ共が這い出してきた。
    「一日過ごせば案外慣れるもんだね……この数戦うのは流石に疲れるけども」
     凪月は仲間と連携し、慣れた手際でゾンビを殺していく。
     たった二日で色々と鍛えられた気がする。
     アスルを背負いながら、草灯は晴れやかな笑顔で腐肉を斬る。
     雄大も普段抑えている感情をゾンビにぶつけた。
    「すげーなー」
    「ノリノリで楽しそうだね」
     喰らいつくゾンビの牙を受け流し、桔梗は素早く相手の急所を貫く。
    「くっそたれの親父の殺人鬼育成デスゲームを生き抜いたんだ……ゾンビの再殺望むところさ! せっかくの地獄だ……楽しくやろうぜ!」
     眠ることなく奥を目指す「不死奉行33」。
    「腐らず臭わず無に還れ!」
     真心の気合と共に、返り血の汚れが吹き飛ぶ。
     食事は燎のドリンクバーで補った。
     しかし出てきたドリンクは、
    「辛ッ! 炭酸きっつい!!」
     地下迷宮に爆音が鳴り響く。
     「3-0」の起こした巨大な爆発が死者達を呼び寄せる。
    「数多いって言っても3~5体ぐらいで来るなら大丈……」
     ゾンビを待ち構える京夜に、全速力ダッシュ系ゾンビ超団体様御一行が向かってきた。
    「聞いてない!」
     ひたすらゾンビを狩り続ける斎と七。
    「ゾンビが107匹ゾンビが108匹……」
    「もうイヤ……なにが悲しくてグロいウザいキモいあ゛あ゛あ゛……タライ。タライコントが見たいわ…」
    「よし、楽しく行こうじゃないか」
     誠士郎がハンマーで地面を叩き割ると、ゾンビ御一行はドミノ式に倒れていく。
     瞳孔の開ききった目で、七はトドメのタライを落とした。
    「よーし最後は爆発オチで締めればいいんだな」
     ドカーン!
    「恍惚……!! 気持ちいい!!」
     夜通しゾンビと戯れていた蓮二。ポン刀片手に目に入るゾンビを片っ端から蹴散らしていく。
    「そういやここってラグナロクちゃんが住んでたトコだよな。下心とかないよ!」
     疲れた様子も見せず、蓮曄は不眠不休で戦い続ける。
    「これならどうですか?」
     防護符がゾンビをはね返す。いつもの鉄面皮で仲間を援護しながら、ゾンビを相手に彼女は様々な戦法を研究した。
    「あ、あばばばばばば……。こ、こんなとこでキャンプとか拷問なんてもんじゃないよ……!」
     安心して眠ることも出来ず、新はひたすら遠距離攻撃でゾンビを遠ざけていた。
    「ひぎゃぁぁぁぁぁ!!! こっちくんなぁ――!!!!」
    「俺、帰還したらタコ焼き食うんだ……」
    「行けるといいな」
     次々とゾンビがあふれ出し、何かの恨み言を呟きながら慧樹と百舌鳥に迫ってくる。
    「ちょっと切ないけど、……感傷的になってるヒマないな」
    「過去がどうであれ今はただの屍。早く葬ってやろう」
     百舌鳥が十字を刻み、慧樹がゾンビを焼き焦がすが、続々とゾンビがあふれてくる。
    「どっから湧いてくんのコイツら!」
    「……殺技、旋風」
     闇に紛れて物陰から現れた文が、音も無くアンデッドの急所を切り裂く。
    「……ウチは刃。 ……あんたらを切り裂き、穿つモンや」
     日の光が存在しない闇の中、アンデッド達が一体、また一体と倒れていく。息を殺し、気配を殺し、白夜は死者を暗殺する。
    「……死も恐怖もない、もとより一度堕ちた身だから」
     緑にとってこれが初めての学園行事。
     戦い方にも慣れてきた。自分も力をつけていつかみんなに追いつき、追い越したい。
    「ううん、追い越す」
     そう心に誓い、彼女は斬艦刀を振るった。
     地面を踏みしめる星夜。
     彼は渾身の力でハンマーを振り抜きゾンビを吹き飛ばすと、一歩下がり自身の傷を癒す。
     無茶はしないように戦ってきたが、丸一日戦っていれば、戦い方も覚えてくるというものだ。

    「あ゛ー」
     これはゾンビの呻き声ではありません。
     名古屋合宿で力尽きた珠音は、桐斗に背負われて、ただの屍のようにぐったりしていた。
     珠音の面倒を見ながら、物陰から飛び出すゾンビを晃の光が焼き払う。
     珠音も加勢したけど邪魔なので大人しくしてるように言われました。
    「うわーん」
     時々ゾンビの群れに出くわすと、桐斗は珠音を放り投げて戦い、落ちてきた彼女を晃がトスしながら群れを一掃する。
    「固形食きつい…お粥食べたい…うまいお粥…かゆ…うま…あ゛ー…」
    「晩ご飯はおかゆですか」
    「闇…かゆ…」
     闇粥は晃に叱られました。
     死体の山に腰掛け、悠は休息をとる。彼女は眼光鋭く死体の山を睨み、
    「えーっと今何体だったか……、チッ、あー! めんどくせぇ!!」
     悠が休む間、周囲を警戒していた嘉哉は、
    「ヒャッハー! 汚物は消毒だぁ!」
     ハイテンションでゾンビを焼いては、その死骸に自分でドン引きしていた。
    「うわぁ……これはちょっと……」
     地下通路を進む光明。
     周囲を舞うリングスラッシャーが死者を正確に狙い打つ。
    「ラグナロクを秘匿して来た迷宮……興味が湧いて仕方無いな」
    「ゾンビウロウロしてる中でのキャンプとか、もう慣れたもんっすよハッハー」
     そういうと奏はため息を一つ。眠気覚ましのガムをかむ。
    「まあ、案の定食欲とかそういうのは湧かないんすがね。これも訓練ってことで」
     気を引き締め直し、彼女はアンデッドの群れに一人挑んだ。
    「ギィイエエッ!」
     次々とアンデッドの群れを切り倒していたラインを不意に襲ったのは、子供のアンデッドだった。
    「くっ」
     躊躇い刃を鈍らせた彼女を救ったのはエヴァンス。
     彼の投げた瓦礫が子供アンデッドをひき潰す。
    「助かりました。ありがとう」
    「アハハハハハハ」
     礼を言う間もなく、高笑いを上げながら敵を叩き潰していくエヴァンス。合宿を楽しんでいるようで何よりです。
    「ちょいと、あたしと斬った数で勝負しないかい?」
     解体ナイフと日本刀を構え、壱は敵を切り倒していく。
     その姿は渡世の修羅姫の如く。
    「ハハハ……こういう楽しみがあるなら、地獄も悪くはないねぇ! ビビってねぇで前に出な!」
     歩く死体が血を噴き、はらわたをぶちまける。「ゆりねこ」のメンバーはゾンビ共をバラバラに解体していった。
     どす黒い血がべちゃりと白焔の衣服に張り付く。
    「暗殺には邪魔だが……まあ良いさ」
    「みなさまといっしょはたのしいのです」
     巫女装束を返り血に染めながら鈴乃はにぱーと笑った。
    「背中はお任せを。こういう役割は楽しいものです」
     緋頼の表情に初めて小さな笑みが浮かぶのを、白焔は見た。
    「……へぇ。良いじゃないか」
    「鼻が、ききませんね」
     顔についた血を鈴乃に拭いてもらう鞠音。自分も拭いてあげようか、どうしようと首をかしげた。
     不眠不休で戦い続けるマキシミン。もうほとんど八つ当たりに近い。
    「情け容赦ないですって? 当然じゃないですか!」
     そういうと彼は今日一番の笑顔で、ゾンビを吹き飛ばす。
    「爽快ですね!」
     SAN値削れてる?  残念! 日ごろの欝憤で一時的狂気に陥っているのだ!

     迷宮を探索する「月光樹」だが、めぼしい発見はありそうにない。
     それにしても、
    「どうして防具ESPに【消臭】が無いのでしょう」
    「……うわ、くっせぇ。確かに【消臭】は欲しい気分だわ」
     風で臭いを吹き飛ばそうとする那岐に、智巳はゾンビを叩き潰しながら笑った。
    「えーい! あの世の果てまでとんでっちゃえー!!」
     みのりは涙目で鼻をおさえながら臭いの元を吹き飛ばす。
     悲鳴、血飛沫、グロ映像。ゾンビ達の死因を視た切は、
    「ねむってたの、起こされる……かわい、そう。……おやすみ」
    「にしても、こーじでこわれた次はゾンビだらけになるなんて、かわいそーなんだよ……も~、ゾンビじゃまーっ!」
     前線でゾンビの攻撃を防ぐ紗雪は、あまりの敵の多さに叫ぶ。
     苦手克服を目指するため合宿に参加した澪はすでに後悔し始めていた。
    「怖くない怖くない怖くない」
    「なんか、ずっと、うめき声を聞いてると、ちょっと気分が滅入りますよね」
     げんなりうなだれるめぐみ。
    「この合宿で得たものより、失ったものの方が多い気がします」
     主に正気度的な意味で。精神分析が必要か。

     ゾンビの群れを焼き払った優衣は、そこに知り合いをみつけてほっと息をついた。
    「良かった、やっと知った顔に会えた ね、一緒していいですか?」
     地下通路を探索していた「武蔵野幕府」は、地図で位置を確認し、最奥を目指す。
     物陰から現れたゾンビを譲治が強酸で溶かす。
    「ホラーアクションならファイルとか落ちてるのがお約束なんだけどな」
    「壁を蹴り飛ばしたら、隠し区画とか見つからないですかね」
     太郎は壁をげしげし蹴るが、びくともしない。
     腕を伸ばし掴み掛かってくるゾンビを、飴は渾身の一撃で殴り飛ばした。
    「お泊りなのにお風呂もないし、すんごくくさいし、私正気保てるかな」
    「……死をもう一度体験できるとは、彼らは幸福な存在です」
     道を阻むゾンビを切り刻み、奏は血と脂で汚れたナイフを拭う。
     奥へ進むほど、そこに救うゾンビ達は数を増していく。
     リーグレットは頭上に気配を感じて仲間を制止する。
     すると突然天井からバシャリバシャリと、大量のゾンビが落ちてきて彼等を囲んだ。
    「ふん、全くやれやれ、こんなもん合宿と言えるのか?」
     刀を一閃し、いろはは団員を振り返る。
    「さぁ……武蔵野幕府の本領を発揮する時間だよ?」

    「囲まれたな!」
     周囲を見渡し、利戈は不敵に笑む。
     アインもまたバスターライフルを構え、
    「いい状況じゃないか……。ノルマは一人10体。下回ったら、学食奢りだからな」
    「二人ともやる気満々みたいだね~。けどボクも負けてられないよ」
     ミカの武器がエンジンを轟かせる。
    「アンデッドにはやっぱりチェーンソーでしょ!」
     3人は一斉に死者の群れへと飛び込んだ。
    「……二人ともいくつやったか覚えてるか?」
    「ボクが一番だよね」
    「まだ勝負は決まっていない」

     絡みつく腕を振り払い、屍を踏み越えて「井の頭 3-G」は走る。
    「22! 23……24」
     迷宮を駆ける結弦がアンデッドを次々と炎に包む。
     罰ゲームを賭け、彼等は敵の撃破数を競う。
     密集したアンデッドをなをが十字架の光で焼き払い、一気に撃端数を稼ぐ。撃ちもらした個体を彼はナイフで解体した。
     亜理栖は罰ゲームのことを考え顔を赤らめる。絶対負けられない。
    「最下位の人は罰ゲームで初恋を語るんだからね!」
    「僕の能力と伐龍院一族の力、見せてあげます!」
     全力でゾンビを掃討していく黎嚇。決して罰ゲームが嫌なわけではない。

     孤独に戦場を駆ける緋弾。
     何だかゾンビの声も「ぼっち、ぼっち」と言っているように、
    「ボッチ、ボッチ……」
     言ってた。
    「……うるせー! ……ぼっちじゃねぇ、一緒に来る人がいなかっただけだ!」
     緋弾は泣いた。
     アンデッドの猛攻にサーカイザー「四天王寺・大和」は膝を突いた!
     もはやこれまでか、否! 君には仲間がいる!
    「そうや……あの時とは違う。俺は一人やない!」
     頑張れサーカイザー! 堺市を守る為に!
    「はーい元気出してね、戦いはまだまだ続くわ」
     紅葉の清めの風が地下を吹き抜ける。
     この合宿が夏でなくて良かったと彼女は思う。夏だったら臭い的に大変なことになっていたに違いない。
    「なんや騒がしゅうなってきたさかい、うちもお手伝いしまひょか」
     敵を見極め、ローズは二挺のガンナイフを構える。銃弾は迫るアンデッド達の足を吹き飛ばし、死者は無様に地面に手をついた。
     ふらふらと気の向くまま、亜美は出会ったアンデッド達を暗殺していく。
     じーっと倒したアンデッドを見つめる彼女。
    「このアンデッド食べれるんですかねぇ」

     爛れた腐肉を撒き散らし、骸が生者の血肉を求めて歩み寄る。
    「ふふ……あれ、今は悪夢かな? それとも現実だったっけ?」
     不眠不休の疲労と、ゾンビへの恐怖で、イーニアスの正気がガリガリ削られていた。
     完成した大鎌「Arioch Scythe」に炎を宿し、リステアはゾンビを焼き刻む。
    「私はこんなところで躓いてるわけにはいかないのよ。あの世に還してあげるからさっさと燃え尽きろ!」
    「Ja! コノ技のサエ! 遠慮ナク披露シマス!」
     気合一閃。ローゼマリーはゾンビの襟首を掴むと、容易くその体を持ち上げ地面に叩きつけた。いまだ蠢く死体を踏み潰し、ヴィルヘルムは左手のライフルでゾンビ共を一掃。
    「たかが死に損ないにくれてやるほど俺の命は安くねぇぞ!」
     理乃の刻む十字が死者を再び死者に戻す。
    「早く皆みたいに強くなりたいです」
     ドリンクを配る理乃に無愛想に応じるリステア。顔が赤いのは恥ずかしいから。

     「いも部」の皆を後ろで見守る詩月に、ゾンビの投げた腐肉がびちゃりとヒットした。
    「…………」
    「アビャアアアアア!」
     影縛りでゾンビをひしゃげた詩月先輩は、返り血まみれで艶然と微笑だ。
    「──ああ、すっきりした」
     その惨状にカグラは、
    「前に立つ以上、最低限後ろを守らないとカッコつかないからな。 来いゾンビども、仕舞いにしてやろう」
     後ろを庇うのは前衛の使命。決して詩月先輩の笑顔が怖いからではない。
     熾はいも部の盾だ。信頼できる仲間がいるから安心して背中を任せられ
    「って今後ろから蹴ったの誰!? バスターライフルも来たよ? ねぇ?」
    「問題は全くないわ」
     マヤはしれっとそう言ってまたライフルを熾すれすれで撃った。
     初めて日織はアンデッドたち、と熾に憐みを感じた。
    「(この人達を)敵に回しちゃいけないんだ……うん」
     日織はかしこさが少しアップした!
     おっと! 物陰から巫女服のゾンビが熾を襲う!
    「ダメだ! 逃げるんだ巫女ゾンビ達!」
     巫女服のゾンビは舞依にざくざく切り刻まれた。
    「うふふ、わたしがちゃんと全部倒しておくから安心してくださいね」
    「ああ貴重な巫女ゾンビがああああ!」

    「……わっ! ……きゃっ!?」
     悲鳴を上げながら無意識に杖を振るう山桜桃。杖に当たった瞬間ドボグシャッ!とゾンビが弾けた。
     襲い来るグロゾンビに山桜桃は目を瞑る。
     剣を模したファリスの影が、グロゾンビを切り伏せた。
     そのまま二人は背中合わせに立ち、ゾンビを迎え撃つ。
    「いい雰囲気だぜ」
     二人の様子を見守っていた等はにやりと笑う。
     この二人を守るのも「黒鉄の騎士団」の重要ミッションなのだ。
     二人の邪魔をする者は等によって石に変えられ、大輔の炎が焼き払った。
    「この身に宿る祀られし焔が、貴方達の魂を救う『送り火』になる事を願っていますよ」
     ファリスと山桜桃の迷宮デートを守る為、彩愛も果敢にゾンビと
    「待って~置いてかにゃいでー! うにゃあぁー!? くるにゃあぁー!!!」
     涙目で逃げ惑う彩愛は壁を蹴り、空中でガトリングを乱射する。
    「にゅふ……にゅは……にゃははは……はっ!」
     正気度がピンチ!
     『どきっゾンビだらけの地獄合宿!(頭とかが)ぽろりもあるよ!』絶賛開催中☆
     癒しの光で仲間を癒すアイティア。
     この合宿を企画した奴を殴るまでは、倒れるわけにはいかない!

     お土産に買った生八橋を食べながら、貴久はゾンビの眉間に弾丸を撃ち込む。
    「こんな合宿企画を考えた人は遭遇次第肉体言語でOHANASHIですね」
    「動きも緩慢、戦略もあったもんじゃぁねぇがこの肉を断つ感触はいいぜ」
     静月の刀が上段からゾンビを切り伏せる。もはや立ち込める死臭にも慣れてしまった。
     ゾンビの生気を奪いながら戦う宗佑。通りすがりに傷ついた仲間を見つけると、彼は無言でその傷を癒し、去っていく。
    「ゲームみたいで楽しくない事もない……かな」
    「さぁ……次だ」
     宙を自在に跳ね、守龍は鋭い斬撃を繰り出す。復讐を果たす為、強くなる為なら、いくらでも戦える。
    「さぁ……纏めてかかってこい、亡者ども」
    「うわぁ…本当にいっぱいだねー」
     ぞわぞわと蠢く死体の群れを前に、海松はニコニコと笑っていた。
     見渡す限り一面のグロゾンビを「Innocent Rose」はサクサク倒していく。
    「そっちはどうー?」
    「こちらはぼちぼち、でしょうか。相手の戦闘力低くて助かります」
     ゾンビを薙ぎ払いながら、苦笑気味に応える夜一。
    「お楽しみはこれからですよ?」
     癒しの矢を放ちながら、蓮月は楽しげに微笑んだ。
     夕眞は山ほど詰まれていく死骸を見て、
    「どうでもええけど、この死体って誰が片づけるのかしらねー」

     「ラグビー部」では熾烈な競争が繰り広げられていた。
    「よーし、ラグビー部1位はもらうよ!」
     群がるゾンビの間を縫うようになのはが駆け抜ける。
     振りぬき様にハンマーを叩きつけ、ゾンビを空高く打ち上げた。
     打ち上げたゾンビを櫂がらぶりん☆カイちゃんの魔法のステッキで打ち返す。
    「何だか削れるような音がしたけれど、まだ正常のはずよ」
    「自分がどこまでやれるか、限界に挑戦だ」
     冬崖が強烈なタックルでゾンビの群れをなぎ倒した。
    「く……くさい。もう鼻がおかしいんだけど……」
     鋼はゾンビに向かって消臭剤をぷしゅー。漂うフローラルの香りに、ゾンビはちょっと嫌がった。

    「新たな秘剣の切れ味、試させてもらうでござる」
     四方からあふれ出すゾンビ共は、幻霧斎の間合いに入った途端に切り刻まれ、倒れていく。彼の背後から忍び寄ったゾンビは零哉の銃弾に屠られた。
    「さて、スコアアタックと洒落込みますか」
     殺害衝動の赴くままに零哉はトリガーを引く。
     ビハインド「エルウッド」が咆哮をあげながら、大型のパイプレンチでゾンビを砕き、潰し、撲殺していく様に、ヴァイオラはクスクスと笑みをこぼした。
    「『鏖しの雄叫びをあげ、戦いの犬は野に放たれん』ね」
    「みっちり勉強とかじゃなくてよかった。……と、思っていたけど甘かったか」
     色んな意味で竜生の知ってる合宿と違った。
    「グァーッハッハッハッハァ!! 片っ端からあの世に送ってやるぜェェ!!」
     炎に包まれ逃げ惑うゾンビ共を、爆はガトリングガンで蜂の巣にする。
    「これが合宿ですって。責任者は直に出てきなさい!」
    「おいチャーハン女! 腹が減ったぜ、早くチャーハン作れよ!」
    「誰がチャーハン女よ!」
     抗議する里美だがその手にはしっかりと、「戦場の狼」特製チャーハン弁当が!
    「は……! こんな時まで何で私はチャーハンを用意してるのよ!」

    「いやー、銃乱射出来るなんてこんなにテンションが上がる合宿は初めてだ!」
     響き渡る銃声。立ち込める硝煙。ライフルとガトリングのフル掃射でフィンはゾンビを次々に肉塊へ変えていく。
    「生徒にトラウマ植えつけてどうするのですか?」
     フィンの撃ちもらしたゾンビを弥生のチェーンソー剣がバラバラに分解した。
    「こうなったら先輩にお土産でも持って行きますかね」
     潔癖症だったルコも、いつの間にか死んだ魚の目で返り血を浴びても平気な体に!
    「どうですか花子さん私の鎌さばき!」
     愛する花子と背中合わせに鎌をぶんぶん振り回す。
     花子は徹夜のテンションで、笑いながらゾンビを殴り飛ばした。
    「可愛い嫁には触らせませんよ、ゾンビさん。あははははゲームで5徹するよりはよっぽど楽だわ」
     「404教室」は考えた。
     どうせ眠れないなら寝なければいい!
    「先輩方ってば無茶いたしますね。そのヤケクソ論、乗りましょう」
     夜通しゾンビを狩り続ける彼等。
     斬艦刀の一薙ぎがゾンビを一斉に両断する。
    「24体目、と。そちらは何体やりましたか」
     舞い散る腐肉を浴びながら、想司は仲間を振り返った。
    「こちらは23体です。うわ汚い。腐臭もキュアできたら良いんですけどね」
     イブは想司の姿に気付き眉をひそめ、臭……集気法をかける。
     ガトリングでゾンビを一掃し、絢矢が指を刺して笑った。
    「これで26体目! はは、酷い恰好! どっちがゾンビだかわかんないねえ」
    「「お互い様」」
     尊人は壁を走り、すれ違い様、ゾンビを居合の剣閃で両断する。
    「劣悪な環境、膨大な敵、いい修行の場です」
     腹が減ってはなんとやら。ソフトボール大のおにぎりで腹ごしらえをすませる。
    「ゾンビ撃破数で一番低いヤツが皆にたこ焼き奢るとかどうだ?」
     「無銘草紙」の仲間に響が提案する。
    「それは負けられないね」
    「僕も乗った!」
     たこ焼きを賭けて、あすかは斬艦刀を振り下ろす。一直線に走る剣圧が、ゾンビ共を紙のように吹き飛ばした。
     響は最小限の動作でゾンビの牙をかわし、槍の一薙ぎで周囲を一掃。
     連戦続きで梗花の体力も少し上がった気がする。
    「……もう暫く、ゾンビとは戦いたくないけどね」
    「わたしも、この前ゾンビゲームを買ったばっかりだったけど、しばらくはやりたくない、かな……」

     押し寄せるアンデッドの群れに右九兵衛は告げる。
    「腐ったデートは嫌いやねん。それに、俺はもうちょいぴちぴちした子が好みやねんな」
     ドヤァ。と言いたげな顔で「夕鳥部」の仲間を振り返る。
    「ゃ、や、やだあぁっ近付かないでくださいぃぃっ!」
     アンデッド嫌いのティエは右九兵衛に引っ付き、文字通り足を引っ張っていた。
    「折角の合宿ですし、少しは楽しみませんとっ♪ きっと思い出の一つにはなるに違いませんっ♪」
     結実の生み出した夜霧が一層ホラーな雰囲気をかもし出す。
     鉄パイプが胸に刺さったゾンビや、あんこをぽろりしているゾンビを相手に、結衣は敵の急所を探る。
    「臓器系等は、あまり意味がない……のでしょうか」
    「灰すらも焼き、塵よりも砕く! ダークネスは全てだ」
     デルタのガトリングガンの銃声が地下迷宮に轟く。
     飛び散る肉片! 弾ける腐肉の香り!
    「これが夏だったらどんな大惨事になった事か……考えるだけでも恐ろしいですね」
     沙月は雪夜を一閃。ゾンビの足を分断する。
     各々フリーダムに戦う「夕鳥部」。
    「なんやチームワーク悪いな俺らッ!?」
     その言葉に部員は声をそろえて、
    「「「チームワーク? そういうの求められても」」」
    「急にその場で上手くいくわけないでしょう。特に右九兵衛さんは部長としての人望が皆無なんだから」
     影薙が淡々と言い放った。

     迷宮跡地の最奥を目指す「がれ庭」。
     道を塞ぐ瓦礫を夜トと心太が怪力で粉砕する。
     途端に開いた通路から、わらわらとゾンビがあふれてきた。
    「あー、これはなかなか……壮観やね」
     枢は棒読みで呟いた。
     腐敗と汚物の臭気を放つゾンビを、ディートリヒはオーラキャノンで吹き飛ばす。
    「くしゃいですが、がんばりましょう」
     歩く死体を殺して元の死体に戻す夜ト。
    「……二度殺さないといけないのは、面倒だな」
    「骨だけのゾンビでも出てくりゃテンション上がるんだけど」
     腐肉まみれのゾンビを殴り飛ばし、舜は肩をすくめる。
    「たく、数多すぎだっつの!」
     どす黒い液体ビシャー☆
     ドロドロお肉グチャー☆
     ぷちん。あまりの気持ち悪さにゆまの中で何かが切れた。
    「……わたし、闇堕ちする……。闇堕ちして、屍王になって、命令したら、ゾンビさんたちどっか行くかもしれない!  闇堕ちするーーーっ!」
    「落ち着け! ココで闇堕ち無理だから!」
     錯乱してみさかいなくサイキックを乱射する。
     止めようとした心太までが巻き込まれ壁に叩きつけられた。
    「かっ……はっ! 凄まじい威力ですね。まさか一撃で……全快するとは」
     ジャッジメントレイじゃなかったら死んでた。
     彼女の錯乱無双を離れて見ていた枢と律は、
    「……あー、別の意味で壮観やねえ」
    「てか……なんかアイツ、錯乱してた方が強くね?」

     「吉祥寺2F」の前には通路を塞ぐようにゾンビの群れが蠢いていた。
    「特訓! ですね」
    「シャルルちゃん楽しそうだね」
    「皆さんと一緒なら楽しいと思うんですよ。あ、せっかくの大阪ですし、たこ焼きとかも食べたいですよね」
     そうしていると、こちらに気付いたゾンビが迫ってくる。
    「さぁ、派手に暴れてきなさい」
     鶫が仲間をけしかける。
    「……このでかいざんかんとうはだてじゃないんだよ!」
     鏡が前線のゾンビを薙ぎ払い、その隙に誠が群れの中心に滑り込む。瞬間、狼を象った空色のオーラがゾンビ達を吹き飛ばす。
     ひゅ~と落ちて来たのは、虫の湧いたゾンビだった。
     それを間近に見た鶫は気を失ってしまう。
    「ぼーっとしてんじゃねぇ!」
     気絶した鶫を抱え、誠はゾンビから遠ざける。
     誠は急に赤くなって鶫を放り出した。
     ゾンビに追われる久美子はまっすぐに鏡へと向かい、ゾンビを押し付けた。
     鏡は咄嗟に斬艦刀でゾンビを薙ぎ払う。
    「なぜこっちに連れてくる!」
    「殴り愛とかクミやんないよ、鏡ちゃんやんなよ」

     ゾンビを蹴散らして楽しく遊べる合宿。そう思っていた時期が紫桜にもあった。
     通路の向こうから土煙を上げて何かが走ってくる。
     「蒼桜」のメンバーだ。
     彼らはゾンビを薙ぎ払い、何かから必死に逃げていた。
     だってもっと怖いものが追いかけてくるんだもの。
    「ほら、逃げるな? 捕まれば楽になれるぞ?」
     笑顔でゾンビを殺戮する奈津姫と、返り血にまみれた明が高笑いしながら追いかけてくる。怖い!
     全力で逃げるが、全く逃げられる気がしない。
    「……何故こうなっているのでしょう」
     ここで充の回想シーン。
     発端は明の一言。
    『もうすこし、恐怖を感じるくらいの方が、楽しくないか? ツマリ、だ――鬼ごっこをしようじゃないか。あっさり捕まったら……本当の地獄をミセテヤルカラナ?』
     かくして狂気の鬼ごっこが始まった。
     合宿ってもっと和気藹々とするものだったはず。なぜこのような地獄絵図が。
     大破はゾンビ達を障害物にして鬼の魔の手から逃れようと走る。
     しかし鬼はゾンビを全て薙ぎ倒して迫ってきた!
    「黒崎さん、君の犠牲は無駄にはしないよ!」
    「がんばってくださいね、兄さん♪」
     罰ゲームから逃がれようとする和真と雪音の妨害を、紫桜は必死に回避する。
    「逃げる、逃げ切ってや……」
     ガシッ!
    「ツ・カ・マ・エ・タ」
     地下に紫桜の悲鳴が響き渡った。

     こちら「黄昏の屋上」撮影会場。
    「何で俺とミストは女装させられてるの?」
     ミストと央の服装はフリフリの姫ファッションだった。
     ビデオカメラを構えるシュネー曰く、女装した二人の戦いを動画撮影。それを加工・合成して、クラブのPVっぽくするらしい。
    「だからぷりちーに戦って下さいよな」
     レイリアーナは遠目に二人を見つめ……放置することにした。
     お互いにあることないこと言い合いながら、二人はゾンビを倒していく。
     その時、全速力系ゾンビの大群が彼等に突撃してきた。
    「撤収! 撤収!」
     逃げる一同。
     しかしシュネーはライドキャリバーに後ろ向きに乗りながらも二人を撮り続ける。
     女装者二人は逃げる仲間の殿を買って出た。
    「はっ、こいよ塵屑共が。てめぇら纏めて地獄に叩き返してやる」
    「男にはプライドってものがあるんだよ!」
     女装してるけど。
     逃げながらも修李は背後のゾンビにライフルを構える。
    「央君! もうちょっと我慢してね~……もう少し引きつけてから撃つから!」
     銃声と共に弾丸は央の右頬をかすめた。
    「あら、はずしちゃった?」
    「どういう意味!?」
    「団長、アンデット連れて、こない、で?」
     円が殿二人を突き放す。
     逃げるミストはゾンビに服を破られ、扇情的に肌を露わにしていた。
     それを見たアルクレインはぽっと顔を赤らめて、ミサイルを乱射する。
    「アタシのミストくんにおさわりしたのは誰?」
     直後、本気を出したエリが大暴れし、付近のゾンビを一掃した。

     アンデッド達は倒しても倒してもキリがない。
     ブチッ!
     その時、无凱の中で何かが切れた。
    「なんか冷静でいるのがアホらしくなって……ちょいっと狂ったほうがよくね?」
    「ふは、ふはは、ふうひゃははあああっっ!!!!」
     戦ってる内にネジの外れたくろにゾンビが群がっていく!
    「いやああぁぁぁこういうのはヒロイン女子の役割だから」
     アレなシーンにつき、文章でのみお楽しみ下さい。
     隼人は凄まじい闘気を纏うゾンビと対峙していた。
     この気配、間違いない!
    「死して尚、決闘を求める……お前こそ決闘者の鑑。行くぞ、俺のタァーンッ!」
     俺達の闘いはこれからだ!
    「全然お宝落ちてないのです~」
     のろまなゾンビの間をすり抜けて、スィンは奥へ奥へと突き進む。
     ゾンビの密集した部屋でも少々の危険には怯まず突撃!
    「イケイケゴーですよっ☆」
     星流の箒にロープを繋ぎ、火華流はンラインスケートで通路を走るが、バランスを崩して転んでしまう。
    「うう、実戦には使えないかな」
     その時、通路の奥から巨漢のアンデッドが姿を現した。
    「ブルームロッド、ランスフォーム」
     すかさず星流は杖を槍のようにしてゾンビに突き刺す。
    「いっくよ、お兄ちゃんっ!!!!」
     火華流が回転力を加えたハンマーでさらに深く杖を突き刺す。
     瞬間、杖を通じて星流が極大の魔力を流し込み、ゾンビを内側から破壊した。
     マッピングをするクロノの前方から、夥しい数の足音が響いてくる。
     大きな瓦礫に身を隠したクロノは、なんとかゾンビ共をやりすごした。
    「俺はどうしてこんな所に来てしまったんだろう……」
     戦闘を宵帝に任せて、郁は後ろで黙々と読書にいそしむ。
    「今いいとこなんだけど。邪魔すんなよ」
     宵帝の死角から這い寄るゾンビの脳天を吹き飛ばす。
     ベチャッ! 勢い良くぶちまけられた返り血が郁の本をべっとり染めた。
    「大丈夫か? 悪いな、帰ったらまた本を買いに行こう」
     心配した宵帝が声をかけるが、
     ゴゴゴゴゴ……。
    「宵帝、加戦する。コイツら許さない」
    「アンデッドは消毒だー」
     晶子の炎がゾンビを焼き払う。
     続けざまに晶子は近くのゾンビの頭を鷲掴み、ミートなソースよろしく地面にべしゃりと叩き付けた。
    「そーら。頭を垂れて跪け」
     正気度なんて最初からなかったんや。
    「ヒャッハー!」
     かえりちっ☆も、はらわたっ!も気にせずゾンビを狩る光。
    「楽しいじゃないですか地獄合宿! ……あ、逃げんなこらゾンビッ」
     血塗れでめっちゃ爽やかな笑顔の光が追いかけてくる。怖い!

    ●コッチニオイデ
     もう今がいつなのか、昼なのか夜なのかさえ、わからなくなってきていた。
     玖真は考えた、戦いはあよに任せて、自分は普通に合宿をしていればいいのだ。
    「昂式君ーっ! あたし10体ゾンビ狩って来たよーっ!」
     呻きや悲鳴が響く中テントを立てたり。
     何かの飛び散る音をBGMに料理したり。
    「超無理!! この企画を考えたのは誰だ!?」
    「昂式君聞いてーっ!! 30体狩ってきたよーっ!! ほーめーてーっ!」
    「あよも頻繁に撃墜数の報告してこないで! 病んじゃうから!」

     「神野家」でもついにこの合宿の犠牲者が!
     翔太は空のポテチの袋をごそごそしながら、笑っていた。
    「俺は別に平気だけど別に此処じゃなくてもよかったんじゃないかなっていや別に俺はビビってないけどなポテチゾンビ味とか意外といけるんじゃねまじやべぇあははははは!」
    「翔太が笑っている……!?」
    「うめき声と悲鳴と笑い声が混ざり合って素敵なメロディだねアハハハハハハハハハ大丈夫大丈夫オレは正気全然平気あはは」
     一琉までが突如死んだ目で笑い出した。
    「……あ、こりゃ駄目だ。キュアで治るかな」
     冷静に分析する和尚。
     二人は狂ったように笑った後、気絶した。
    「翔太!? ポチ! どうした? おいしっかりしろ!」
     気絶した二人を運ぶイクト。
    「和尚くん、味見してもらえますか……?」
     まるで動じることなく宗次郎はカレーを作り続けていた。

     テントの隅っこ。仙花は体育座りでびくびく震えていた。
    「わっ」
    「あうあうあうあうあうーーー!!」
     秋空に脅かされただけでもこの怖がりようである。
    「何かあったらすぐ起こしてね」
     お兄ちゃんがいる安心感から、沙々耶と仙花は少しずつうとうとし始めた。
     深夜、二人は不意に何かの気配を感じて目を覚ました。
     目を開けるとそこにはゾンビの死体が!
    「うえぇぇぇぇん! おねえちゃああぁぁぁん!!」
    「秋やんひどいです!」
     悪戯に大成功した秋空に、沙々耶は涙目で講義した。

     璃沙が眠るのをそばで見守る雛。
     昼間、前衛で頑張ってくれた彼を、璃沙は心配そうに見上げる。
    「疲れてない? 大丈夫? 寝れないならリサが膝枕してあげよっか?」
    「膝枕!? え、や、嬉しいけどさッ」
     動揺度MAXの雛に璃沙は微笑み、
    「大丈夫。雛くんのことはリサが守るよっ」
     璃沙の頭を雛はくしゃくしゃとなでた。

     一人静かに眠る隼人の背後に忍び寄る影が!
     すかさず彼は犯人の頭にチョップを叩き込む。
    「すると思った! ぜってー何か仕掛けて来ると思った!!」
     隼人が振り返ると頭をおさえてうずくまる夏輝がいた。
     足元にはどこから拾ってきたのかゾンビの死骸が転がっている。
    「珍しい……お客様……」
     離れて寝ようとする隼人の服の裾を、夏輝が掴む。
     彼女は上目遣いで、
    「一人に……しないで……」

     皆が寝静まった頃、「フラサテ」はキャンプ地を出てゾンビの群れを探した。
     嫌々ゾンビを探す獅央。
    「俺は怪談とかお化けとかホラーが苦手なんだー!」
     でも罰ゲームは怖い。
     でもゾンビも怖い。
     呻き声と血の痕を辿ればゾンビの群れはすぐに見つけられた。
     八津葉は奇襲の鬼神変を叩き込む。
    「えっと、へるさん、なにしてるのかしら」
     目の前には100均で売ってそうなゾンビマスクを被る者がいた。一体何者なのかは全くの謎だがそいつは、
    「有栖川へるなんて美少女は知らないゾンビ」
     その後、撃破数競争は接戦でへるの最下位となった。

     「戦戦研」キャンプ設営地。
     高いびきをかいて爆睡していた剣は、目を覚ますなり「ヒャッハー」と雄たけびを上げて元気に飛び出していった。
    「どこの蛮族ですか」
    「…………」
     ようやく付近の清掃を終えた村雲は、無言で力尽きた。ゾンビ共の汚れは尋常ではなく、大量に積んできた石灰と漂白剤も既に底をついていた。
     松庵は思案顔で、
    「医療品や食料は多めに持ってきただけあって多少余裕があるが……さて」
     問題はこの呻き声と異臭を乗り切れるかだ。
     生者の血肉を求めてゾンビ共が迫ってくる。
    「チェストォォォォォォォォォ」
     気合の声と共にエールの戦艦斬りがゾンビを真っ二つにした。
    「さぁて、もっともっと倒さないとねぇ」
    「おお、いるいる! ウジャウジャいやがるぜ!」
     群がるゾンビを斬艦刀でバッタバッタとなぎ倒す紗矢。
    「万色の檻は血と骨で塗り固められ~♪ 悪魔の叫びさえ閉じ込められる~♪」
     陽気に歌いながら瑠璃はガトリングガンを乱射していた。
     ゾンビを切り伏せ、矧は刀についた血を振り払う。
    「……ずっと戦えるのは自分のような戦闘狂にはいいことなんですけどね」
     宗嗣とヴァイスは息の合った連携で、確実にゾンビを掃討していく。
     背中を合わせ互いを守る二人。
    「オルブライト、そっちは大丈夫か?」
    「お前の……に相応しいのは…わ、私だけ……だからな……ッ」
     呟いたヴァイスの顔は耳まで真っ赤だった。
    「キャンプに帰るまでが合宿、ってね」
     キャンプ地点にアリアドネの糸を張り、悠は迷宮の地図を作りながら進む。彼の作った地図を、凛音がコピーして仲間に配った。
    「こんな地獄でも、皆さんと一緒なら心強いです」
     ゾンビからご飯を守るため、狭霧は戦い続ける。
    「……今ので……えーと、何体目だったっけ? 二百超えた辺りまではおぼえてるんだけど」
     フォルケの正確な狙撃がゾンビの頭をスイカのように吹き飛ばす。
    「あ、部長も剣さんも派手に撃ってるな~。10時方向クリア……そういえばキャンプ班の人達どんな料理するんだろ?」
    「あ、お腹が鳴ったっす」
     バレットストームでゾンビにプレッシャーを与える鉱だったが、漂ってきたカレーとシチューの匂いに思わず、ぐ~。
     ベースキャンプでは大きな鍋の中でシチューがぐつぐつ煮えていた。
    「ん、ゾンビに食べてもらうご飯は作っていないよ」
     忍び込んだゾンビをライフルで撃ち抜くと、七葉は何事もなかったかのように調理に戻る。
    「七葉ちゃーん、お腹空いたー。ご飯まだ~?」
     瑞穂は背後から迫るゾンビを振り返りもせず叩き伏せる。
     キャンプを襲うゾンビに、夢乃は治療という名の安楽死を与えた。
    「私の治療は荒っぽいわよ♪」
     医療班強い!
    「味見で死傷者が出る可能性があるから救護体制は欠かせないな」
     ゾンビの撃墜数をカウントしていた玖韻は、ぽつりと呟いた。

     「HEROES」キャンプ地。そこを守る二人の人影。
    「来たな」
     暗闇からじわりと姿を現した複数の人影に、ガムは不敵な笑みを浮かべた。
    「ガムちゃん、援護宜しくね!」
     死者の群れに狙いを定め、飛鳥とガムは駆け出した。
     ガムは戦斧を振り上げ高く飛び上がり、落下のダメージを破壊力に変える。
     正面から迫る飛鳥の斬艦刀が激しく燃え上がる。
    「片っ端から焼き払う!」
     交代時間を2時間に定め、彼等は特訓を兼ねたキャンプの防衛を行っていた。
     キャンプ地前には焼け焦げた屍が積み重なっている。
     交代の時間。ガムと飛鳥は、矜人と銀都にバトンを渡し、休憩に入る。
    「カレーを作っておいた。スパイスたっぷりでな」
     それだけを伝え、矜人は死者達へ向き直る。
    「それじゃ、いってみようかっ!」
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
     銀都が押し寄せるアンデッドを足止めし、矜人がヴォルテックスを放つ。吹き荒れる竜巻が全てを巻き上げ地面に叩き付けた。
     2時間後やってきた稜は、乙女パワーでこじ開けたほうれん草の缶詰を銀都に手渡した。
     交代の間際太一は、
    「ドライカレーいなりには気をつけろ」
     と呟いたが、休憩中に何があったのか。
     気をとりなおし、稜、太一、リノは耐えることのない死者の群れを睨んだ。
     稜の龍砕斧がアンデッドの脚を断ち切る。バランスを崩した体を、太一の拳が天高く打ち上げた。
    「まだ終わりじゃないよ!」
     追い撃ちをかけるリノは、集めたオーラを拳で打ち出し、アンデッドの腹に風穴を開けた。

     夕食の準備を進める「枸橘庵」。
     ひき肉をこねる小梅。今日のメニューはハンバーグだ。
     ご飯を炊いていた彩葉が冗談まじりに、
    「ゾンビの血肉で作ったハンバーグだったりして」
    「あら、彩葉さんはそちらの方が宜しいですか?」
     ほほほ、と笑う小梅に彩葉は苦笑しつつ丁重にお断りした。
     途切れることの無い不快な呻き声と悲鳴。
     樒深がうんざりしていると、サラダを作っていた箏葉がやってくる。
    「……なにかしらこのヘンなもの」
     彼女が持ってきたのは前衛芸術、もとい奇抜な盛り付けのサラダだった。
    「よかったら代わりに盛り付けて……?」
     逆に関心しつつもかわりに盛り付けをする。
    「あら、樒深さんの盛り付け、素敵」
    「ドーモ」
     そっけない返事。でも、皆とする料理は悪くない。

     ここは「桜堤中2連合の家」と看板が立てられたテント。
    「綺麗になーれ、綺麗になーれ……よし! これで大丈夫!」
     ようやく掃除を終えた碧月。もの凄く、大変だった。
     汚れて帰ってきた仲間を咲耶が綺麗にする。
    「クリーニング終わったら鎬さんが作った食事が待ってるよ」
    「じゃあ、シノギがメシ作ってる間ここで護衛しとくぜーい」
     賢汰は寄ってくるゾンビを倒しては遠くへ投げるお仕事。
     鎬はカレーの鍋をかき回しながら、
    「任せましたよ、賢汰。ホームレス時代を思い出しますね」
    「臭いで食欲が…。眠れない…」
     イグニドはげっそり。
    「楽しくお泊り、楽しみだったのに! 枕投げにマイ枕用意したのに!」
     しかしあさひは諦めない!
     ギュスターヴも枕を構えて、
    「ニホンで学生同士がお泊りする時は必ずやるって聞いたよ」
     かくして地獄の枕投げが始まった。
     飛んでくる枕をかわし、枕を投げ返す。
     さらに飛んでくる生首をかわし、何かの腕を投げ返す。って枕に混じって別のモノが!
     気がつくとテントには大量のゾンビ共が集まってきていた。
     アヅマは枕投げを中断。
    「なんだこの数。いくらなんでも多すぎだろ…」
     迫るゾンビを深月紅が解体する。
    「あさひに、触れるな。四肢を、掲げて、息、絶え、眠れ」
     かくして枕投げは血みどろの追いかけっこに変わった。
    「みんなのこと……守り、ます」
     花緒がゾンビをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
     飛び散る血しぶきを笑顔で眺めていたキースは、
    「きもいねっ☆」
    「ゾンビと鬼ごっことか楽しそうじゃないですか?」
     夕月の正気度はもう……。
    「もうやだ帰りたい!」

     こちらは「世紀末荘」。
    「これから名状しがたいTRPG会を始めるの!」
    「「「「ヒャッハー!」」」」
    「話には聞いていましたが、実際にやるのは初めてなんですよ」
     お菓子と飲み物を準備する三成。
     この場所で平然と卓を囲む拓馬達の精神強度はすでにかなりのものだ。
     ダイスを転がし、その結果に頭を抱えるゴンザレス。
     その時、勇生が虚ろな目でランタンを掲げ、友人達の背後を照らした。
     ここで背後から近づく不快な足音に気付いてしまった君達は正気度が下がる!
    「ククク、さぁダイスを振れなの! ってゾンビ邪魔なのー」
     紫乃はゾンビを蹴り倒しながら、嬉々としてゲームを続けた。

     アンデッド共をひたすらに倒してきた真志と所在。
    「これで1000はいったか? どうだ?」
    「僕は1500は行ってるね! 多分だけど」
     真志が飯盒で米を炊く間、所在が死者達の相手をする。
    「面白い経験だが、煮炊きをしている間は始末はお前に任せる」
     ご飯には指一本触れさせない!
     両手に生卵と醤油を持って待機する所在。
    「大変だまさにー! 全然足りない!」
    「こら! 所在! 半分はちゃんと残せよ!」
    「えー、こんな量じゃすぐお腹空いちゃうよー?」

     BBQをする柚來と宗也。
    「呻き声を使ったホラーミュージックも思いついたぜ」
    「流石サウンドソルジャー侮りがたし!」
     邪魔する死者は容赦なく駆除していく。
     ドキ!アンデッドだらけのキャンプ大会☆(首が)ポロリもあるよ!
    「こういうホラーちっくな場所でキャンプも面白くていいなー♪」
    「ゾンビ味のBBQとBBQ味のゾンビどっちがいい?」
    「肉ならそこら中にあるけど流石になー」

     こちらは「ユカラ」のキャンプ地。
     テントの設営を進める鷹秋。
    「男衆で力余ってるやつぁーちょいと手伝ってくれねーかな」
     ザクッザクッ!
    「野菜切り終わりました」
     裏手からカレーの具材を持ってきた弥太郎は何故か返り血まみれだった。
    「たまねぎをーいためてー牛肉にんじん玉ねぎもいためてーローリエの葉をちょいっと入れて♪ 後の味付けは任せた! ちょっと戦ってくる!」
     そう言うとキャンプを飛び出したミケ。直後、チェーンソーの唸り声が響いた。
    「近づいてきてもご飯はあげないからね!」
    「うん、あんまりスプラッターなのもよくないよね」
     繰り広げられる惨劇にフィルマが呟いた。
    「んーとルーはどうしようかな。中辛と激辛をあわせてみようかな……」
    「カレ~カレ~♪」
     ルーを選ぶ夜月の目を盗んで、都々はこっそり甘口にすりかえる。
     バーベキューは恒汰達の担当だ。
    「火起こしなら任せろ!」
     ゾンビをお片付けしたら皆でご飯タイム!
    「ゾンビに囲まれて肉を食べる! これが醍醐味だよ!」
    「食料は取ったもん勝ちだよな! うまー!」
    「しっかしミケの作った奴って信用していーのかね?」
     ご飯を堪能した彼等はテントで横になる。
    「アンデッドに眠りが邪魔されませんよーに」
    「夜は怖いな、眠れないにきまってZZZ」
     すぐに寝ました。

     「空路」のキャンプ地。
     昼間の撃破数勝負は紡の勝利となった。
    「紡姫ステキ!」
    「えへへ、褒められるのは照れるね」
     戦いの後はキャンプの定番ゾンビに囲まれてのカレー作り。
     今、彼女達の女子力が試される!
    「姫以外の皆は、すずが包丁使ってる間守ってほしいよ……」
    「よし、ここは涼花センパイの親衛隊しちゃう。おいしいカレーの邪魔させないもん」
     ぷるぷる震える涼花を守る琥鳥。
     女子の料理が楽しみなはずなのに奈兎は、
    「俺はアンデッドより包丁を握るスズが怖ェです」
    「キャンプの醍醐味。美味しいごはんができるように頑ば、―-はっ!?」
     背後に気配を感じたホナミ。しかし振り返っても誰もいない。
    「気のせいかしら? よし頑張る、――はっ!?」
     火をおこすのは軍の担当。
    「なっち、扇いで扇いで」
    「に、にんじんは入れなくても良いと思う。にんじんなくてもカレーはカレーだよ、ね」
    「アストル君は人参嫌い?」
     隠し味を沢山持ってきた琴音。チョコ、ヨーグルト、大蒜、バナナ、砂糖、それから、
    「はっ! あ、あの、きっと甘いの苦手な人も居ます、し」
     華凜が止めようとしたその時。
     どぽん!
    「あ、苺ジャム一瓶入っちゃった……ま、いっか♪」
    「とてもワイルドな料理だぜ」
     食事を終えたら枕投げだ!
    「枕無ぇじゃん」
    「迂闊だったわ。枕投げのしろがうっかり枕を忘れて来るなんて」
     枕の代わりを探して一同はあたりを見回し、
    「や、まさか……なぁ?」
    「ナイナイ」
    「流石にダメ、ね」
     最後には全員で写メを撮影。
     その日、留守番組の元に「いるはずのない人が写った恐怖の集合写真」が、メールで送られてきたという。
    「ああ! 一斉送信だから私にも……無理ですーっ!」
    「これ、絶対に一生忘れない合宿だよ……」

     暗闇を進む「静かな礼拝堂」。
     由宇の懐中電灯が蠢く何かを照らす。
    「な、何!? ……鼠か、ビビった……」
     充満する死臭に直人はぐったりしていた。
    「……予想以上のキツさだな。喋りたくもないくらいだ……」
    「そんな時は、てれれってれー防毒マスク~~~~~」
     オリキアはアイテムポケットからマスクを取り出した。
     すかさず装着。
    「「コーホー、コーホー」」
     怪我をした仲間には砌がペインキラーを施した。
    「痛いの痛いのとんでけー! コーホー」
    「ヒャッハー、マジもんの地獄……泣けるぜ」
     由宇は天に祈るように、
    「主よ、我らに超絶なグロ耐性&精神力を得る為の機会を与えて下さり感謝しま……うぷっ!」
     一方キャンプ地にいる力生達は、
    「規則正しい生活リズムを崩さないのが大事だぞ。そろそろ寝る時間じゃないか? 俺は寝つきの良さには自信があzzzzz」
     もう寝た!
     遥香は他の生徒にドリンクを配る。
    「ん、どなたか帰ってきたみたいですね。……お帰りなさい。栄養ドリンク、いかがです? って。あ、なんだ。ゾンビさんでしたか。こんにちは。……ふ、ふにゃあーっ!?」
     悲鳴を聞きつけてやってきたシャルロッテ。
     不意に彼女の脚をブヨブヨした手が掴んだ。
    「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
     悲鳴を聞きつけて今度は稲葉がやってくる。
    「園観ちゃんどうし……~~~ッ!!?? 力生センパイ起きてえぇええ!!!」
    「敵か!?」
     飛び起きた力生が銃を乱射してキャンプは大惨事となった。
     場所は戻って、ゾンビ達の凄惨な死因を視た迦月は肩をすくめる。
    「こんな合宿誰が考えたんだよ、って生徒会だよ! くそ。……今、キャンプから妙な悲鳴が聞こえたような。気のせいだな、うん」

     カレー調理を死守する為、「武蔵坂HC」はわらわら寄ってくるゾンビ達と死闘を繰り広げていた。
     真剣にカレーを作る皆都。
    「あ、ちょっとそれ取って。ありがとう……と思ったらゾンビだったっ!」
    「そこのゾンビ邪魔するなー!」
     飛将がゾンビを蹴り飛ばす。
    「こんなの考えた人、おかしいんじゃないかな!?」
     織姫の叫びが迷宮にこだました。
     苦労の末に食べたカレーはすごく美味しい。
     食事を終えると京はある疑問を口にした。
    「ところでこの肉、俺らが用意した肉じゃない様な気がするんだが」
    「「え?」」
     凍る一同。
     何かわからない名状しがたいカレーの正体。その答えは闇の中である。
    「ごちそうさま~~これから勿論、怪談話するんだよね!?」
     夏奈は涙目で耳を塞ぎながら、
    「ゾンビ怖いー! 夢に出てきそうだよー……」
    「当面、どんなスプラッタホラーでも平気な気がする」
     鐐はぽつりと呟いた。

     お肉の取り合いをするゾンビ達。
     一心不乱に壁にぶちあたるゾンビ達。
     ここには色んなゾンビがいた。
    「最初はちょっとびっくりしたけれども、ゾンビさんがだんだん可愛く見えてくる不思議」
     ましろはすっかりこの状況に慣れてしまっていた。
     帷はましろの作ったちょっと甘いカレーに舌鼓を打ちながら、
    「そのパンダみたら、むしろ相手が逃げ出すかもしれません」
    「って、それどういうことー?」

     キャンプの夜と言えば怪談!
     火を囲みながら怖い話大会が始まった。
    「は、はは、お化けなんて、い、いないんだぜ?」
     涙目で強がる余市がかわいくて蓮璽はつい、
    「うえっぷ……」
     漂う腐臭で抱きしめるどころではなかった。
    「だ、大丈夫だぜ? ふ、震えてないんだじぇ……」
     ぷるぷるしながらさりげなく彼女は蓮璽の腕をつかむ。
     しかしその腕はぐちょっとしててまるで、
    「ぎゃあああ!」
     ゾンビを殴り飛ばし走り出す余市。
    「一人じゃ危険です……落ち着いて……うぇっ」
     今、二人の地獄が幕を開ける!
    「ア゛ァウウゥグゥゥゥ……」
     どこからか聞こえる呻き声に怯えながら、絢花はカレーを口に運ぶ。
     度重なる正気度チェックに彼女の精神は限界に来ていた。
    「もうこんな所にいられないでござる! 私はもう出て行くでござるよ!」
     そう叫んで走り去った彼女は、その日帰ってこなかったという。

    ●オオサカ・ウォーキング・デッド
    「ほら、ここを押して……」
    「うおっ! 光りやした!?」
     娑婆蔵にカメラの使い方を教える鈴音。
     二人は迷宮跡の構造を記録し、探索する。
    「もうここにゃあ何も残ってないんでございやしょうかねぇ」
    「迷宮には何か隠されてるがお約束だと思ったんだけどなぁ」
     優希は瞳を閉じて、じっと風の流れに耳を澄ます。
    「こっち」
     流れる自然な風音、戦闘音、語り合う声、何か見知らぬ音を目指して、地下深くへと彼女は駆け出した。
     箒に跨る音々子は、インソムニアで眠気を吹き飛ばし、これまでの間ずっと迷宮の地図を作成していた。
    「なんだかダンジョン探索RPGみたいでドキドキしますね」
     迷宮跡地を探索する「吉祥」。
     突然物陰から現れたアンデッドから、浩之は仲間を庇って傷を負う。
     すかさず鏡は彼を後ろへ引き戻し、チェーンソー剣でアンデッドをバラバラに解体した。
     尚竹は注意深く周囲を見回すが、通路に落ちているものと言えば、アンデッド達の物であろうどこかしらの部位や、R指定必至な忘れ物。壁や床もアンデッド達にあちこちと弄られて血と汚物に汚れている以外は、それらしい発見もないようだ。
    「奥へ進もう」
     他の生徒とも情報を交換し合い、リーファは最奥を目指す。
     スーパーGPSで位置を把握し、彷徨うアンデッドには零距離からガンナイフの弾丸を叩き込み、彼女は下を目指した。
     ただひたすらに武器を振い続け、翔は迷宮跡の最深部に辿り着いた。
     なぜそう思ったのかはわからない。けれども知らなければならないと思ったのだ。あの少女がいた場所を。
     そこにあったのは伽藍の空間とこれまでと同じ死者の群れだった。

    「ゲームなら奥に宝物か、開けちゃいけないものがあるのがお決まりなんだけど」
     あったのは後者らしい。
     待っていたのは宝ではなく大量のゾンビだった。
     智は見渡す限りのゾンビに、
    「いやーしっかしまあ……埋め尽くされてるね。どこもかしこも」
     「TYY」に気付いたゾンビ共が空洞になった眼窩でこちらを睨む。
    「ゾンビ怖いゾンビ怖い……!」
     ぴー助のそばでぷるぷる震える奏恵。
    「江東さんと奏恵は突っ走らないで下さいね」
     釘を刺す春翔に桜子は肩をすくめる。
    「グロ注意の所はつっぱしれないのよ……頑張ろう、ぴー助」
     桜子に霊犬はわんと一つ吠えた。
    「アセント! 渓流戦士ストラウター、参上!」
     バトルコスチュームを纏う鐡哉がゾンビ共を押し止め、正確な狙いで奏恵のライフルがゾンビの頭部を吹き飛ばす。
    「ひゃっっはーゾンビは残らず駆逐するぞー!」
     斬艦刀を肩に担ぎ、智はゾンビを薙ぎ倒す。
    「そらそらそら! くたばりたい奴は前に出な!」

    「恐怖感はないが、これだけいると少しはご遠慮願いたいものだ」
     迷宮跡地の最奥までやってきた銀嶺と真夜は、そこに巣食うゾンビの数に呆れた。
    「一人で行かせなかったのは正解だったな」
    「それにしても、見事にアンデッドばかりなのね」
     それ以外がいなかったことを喜ぶべきか、ともあれここを戦い抜かなければ帰れそうもない。二人は殲術道具を展開した。
     アンデッドひしめく地獄でユイが出会ったのは、流水だった。
    「やあ、君もここに来てたのか」
     競争を持ちかける流水にユイはアンデッドを蹴飛ばしながら、
    「競争? いちいち数えるのとか面倒じゃない? オレ、ばらばらにブッ散らばすの好きだから、判んなくなりそうだし」
    「そう? 面倒ならいいや、最後の一匹まで潰し尽くした方が勝ちでね」
     その提案に彼はカラリと笑った。
    「いいね、面白そう」
     地下通路の壁に空いた小さな穴。そこから一匹の犬が顔を出す。
     変身を解いた某は癒しの光で仲間を照らす。そしてありったけの力を使い、ゾンビ共を駆逐していく。

    「アアァア、ゥウウウウ……」
     闇から這い出す不気味なゾンビ共に「PKN」は殲術道具を構える。
    「おぅヤローども、やっちまえ」
     惡人の合図とともにイチが跳躍。ゾンビの群れに飛び掛る。
    「学園一の変人集団、PK NETWORKたぁ、あちしたちの事ザンス! ボゴォッ……!?」  一瞬で返り討ちにされた。
    「雑魚だ」
    「雑魚キャラだ」
     倒れたイチをももが介抱する。
    「回復は任せて下さい」
     新鮮な血肉を求めて、飢えたゾンビ共が殺到した。
    「守りはガザ美ちゃんに任しねぇ!」
     シールドを展開したガザ美が死者を押しとどめる。
    「ガザ美が盾なら私は矛だ! 行くぞッ!」
     槍を構え鉄子は敵の頭上から槍を振り下ろす。
     倒れたゾンビはローアングルから神秘の三角形を見た。
    「ミエタ……!」
    「ここは私に任せて下さい! ふほぉぉぉっ!」
     仲間を庇った花はゾンビにがじがじかじられた。
    「凍……ッ」
     フリージングデスがゾンビ共を凍てつかせる。
     鞘を腰だめに構え、涼重は刀を奔らせる。
    「閃……ッ」
    「ヒャッハーハッハッハッ! 彷徨エル魂ヲ救イマショウ!」
     凍った死者をジャックがデスサイズで刈り取っていく。
    「アンデッド退治ハ神父ノ使命デース。サア、大人シク天ニ召サレナサーイ」
    「……できればお近づきにはなりたくないのですががが……!」
     あふれるご当地パワーが桜湖に力と勇気をくれる。
     炸裂する烏賊焼ダイナミックでゾンビ共は吹き飛んだ。
    「……ゾンビリーバボー。魂を持たぬ者に響く音楽……なかなかの難題だ……」
     後に無常はこの経験からアンデッド用の新たな殲術実験音楽【ゾンビネーション】を作曲したという。

    「討伐数で勝負や! 負けたほうがヤキソバ代奢りやで! ぱーっと片付けて美味い飯食うて帰ろや!」
     互いの背を守りあい、悟と武流は戦場を駆ける。
     敵の只中で刃を振るう悟をアンデッドの爪が切り裂く。膝をついた彼を武流の炎が包み、癒した。
    「倒れるにはまだ早いぜ!」
     ハンバーガーの奢りを賭けて撃墜数を競う「KILL SESSION」。
     地面に折り重なるようにアンデッド達が這い回る。
    「わーアンデッドだーアンデッドの群れだー。まあさくさくお掃除しますか!」
     エルメンガルトの言葉を合図に、彼等は一斉に銃を掃射した。
     回転する銃身がその身を震わせ、次々と弾丸を吐き出す。
     ふと由乃の頭にトリガーハッピーという言葉がよぎった。
    「それもなかなか悪くないですね」
     焦げたタンパク質の臭いが鼻を突く。
    「前略おふくろ様、ゾンビがとても臭いです」
     葉がエルメンガルトの獲物を討ち取ると、
    「それオレのだろ!?」
     腐った肉と鈍色の血塊にすえた屍臭に、香艶は眉をひそめる。
    「つか、皆、ドンだけ攻撃特化だよ……」

    「いっけぇ!」
     悠と瀝は激しい炎でゾンビ共の侵攻を蹴散らした。
     炎に焼かれたゾンビが苦しんでいる隙に、疲れ果てた瀝はわずかな休息をとる。
     悠は霊犬「虹」と共に、相棒の『神閃・焔絶刄』と『神戟・焔ノ迦具土』を振るい、瀝を守る。
    「コウ! ご主人様を護る為にも、もうひと踏ん張り頑張ろうぜっ!」
    「ゲームにはこんなシーンあったかな」
     小太郎と木鳥はお互いの背中にもたれかかる。
     涼しげにゾンビを焼き払う相棒を見て、囲まれているというのに小太郎は薄く笑みを浮かべる。
    「きとりんを敵に回したら怖いなぁなんて」
    「ふふ、楽しみすぎて足元掬われないようにね!」
     襲い掛かるゾンビに、二人は同時に閃光の拳を叩き込む。
     交互に打ち込まれる打撃の連打は、相手が砕け散るまで続いた。

    「梅田地下マジ地獄。魔人生徒会何考えてんだ! 最高だ!」
     柚羽は死者達に祝詞を捧げる。
    「狸森って神薙使いだったんだな」
    「礼儀は済んだ! どのみち倒さねば成仏もできん! 共に一体でも多く倒してやる事こそ手向けだ!」
     大地を強く蹴り、柚羽と貫は生ける屍の群れに拳を叩き込む。
     全力のサイキックが屍を粉砕する。
    「背中任せたぜ狸森! 二人一緒なら地獄の底だろうが笑いながら突っ込める」
     ゾンビに囲まれた真琴と恋は、背中合わせにして戦う。
     相棒がいる限り負ける気がしない。
    「さぁ、行くよ! 真琴ちゃん! どっちが多く倒せるか競争、だよ!」
    「倒す数の競い合いねぇ……ボクには恋さんにないものがある。それはこれだ!」
     真琴の槍が周囲を巻き込み、薙ぎ払う。
     生き延びたゾンビを恋の護符が狙い打った。

     ゾンビの群れに囲まれ、弦真と麗華は背中合わせに笑みを交わす。
    「随分な数に囲まれてしまったな、どうする? 彩辻」
    「残り時間は僅か、これを倒し終わる頃には訓練も終了ですわ」
     手刀で戦う弦真にゾンビがしがみ付く。
     すでに全身は傷と血でボロボロだが、構わず麗華は銃の照準を敵に合わせ、彼を庇った。
    「……お怪我は……ないかしら……」
    「……あぁ、怪我は無い。後は任せておけ」

     迷宮跡地を穢す冒涜的な光景を前に、正気を保ち続けることは難しい。
    「ァギャハハはハははハァ! 全員バラバラになっちまえよォ!」
     狂笑するヘキサの頬を彩喜の弾丸がかすめた。
    「落ち着いて。仲間が、います。一人ではなく、皆で、戦いましょう」
    「ヘヘッ…やっぱ大切なのはダチだなッ!」
     大牙と御咲のシールドがアンデッドの牙を弾く。
    「へっ、指一本触れさせはしないぜ」
     余裕を失い瓦礫に話しかける名月を、桜香は闘魂を込めて殴った。
     「吉祥寺6蘭組」の仲間は頷きあう。
    「今こそ一致団結の時、気合を入れるであります!」
    「よし、皆の力で一気にケリを付けるぜっ!」
     放たれた七つの光弾が月光のように煌めき、炎が牙となってアンデッドの群れを喰らう。
     無尽蔵の殺気がアンデッド共を薙ぎ祓う。
     曇りの無い一閃と、生気を喰らう光輪は、一切の撃ち漏らしも許さない。
    『月牙ッ!!』
    『黒!』『誠!』『緑!』『風!』
     蹴り下ろされた暴風を纏うキックが周囲一帯を吹き飛ばした。

     文字通りの死屍累々。
     迷宮跡地の奥に蔓延っていたアンデッドの群れは一掃され、再び元の死骸へと戻った。
     地獄合宿は終わったのだ。
     ようやく地獄から這い出た者は、ある者は笑顔で、ある者は這いずるように歩き、ある者はやつれ、ある者は泣きじゃくり、ある者は放心状態だったという。
     こうして無事、絶叫と惨劇に彩られた大阪地獄合宿は幕を閉じたのである。

    作者:かなぶん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月13日
    難度:普通
    参加:618人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 48/感動した 7/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 74
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