地獄合宿~阿鼻叫喚の東名高速ゴミ拾いマラソン

    作者:日向環

     武蔵坂学園にて毎年この時期に行われる合宿。その内容の熾烈さ故、この合宿はいつの頃からか「地獄合宿」と呼ばれるようになった。
     毎年、多数の重傷者が出るとか、再起不能になる者が後を絶たないとか、闇堕ちする者が出たとか、果ては命を落とす者もいたとかいないとか。回を重ねる毎に、おどろおどろしい尾ひれが増えていくという恐ろしい合宿だ。

    「そういうことで、恒例の地獄合宿が開催されます」
     いつになく緊張した面持ちで、木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)がタブレット端末を操作する。どうやら、運営委員会から支給された物らしい。口調が丁寧なのは、緊張しているからだろう。
    「札幌、東京、名古屋、大阪、福岡と合宿場所は5つあるんだけど、ここは名古屋合宿になります」
     と、言っても今年は名古屋市内で合宿を行うわけではない。
    「去年がどんな内容だったのか、みもざは知らないけど、最終日まで無事だった人は、参加者の二割ほどだったとか」
     いったいどんな恐ろしい合宿だったのか。昨年の参加者は、その内容を決して口にしない。合宿の話題に触れると怯えたように体を震わせ、逃げるように去っていくという。
    「今年は新東名高速道路をマラソンで移動しながら、途中のゴミを拾うことになります」
     スタート地点は東名川崎IC。御殿場までは東名高速を利用し、御殿場JCTから新東名高速へ入る。その後は浜松いなさJCTまで新東名高速を利用、浜松いなさから三ヶ日JCTに向かい、再び東名高速に戻って名古屋ICまで目指すというルートだ。
    「迷って辿り着けなかった場合は個人の責任になります。また、辿り着けなかった人は途中で逃亡したとみなされ、更なる地獄を味わうことになります」
     タブレット端末に表示された映像を指先でスライドさせながら、みもざは合宿参加者達に説明する。
    「集めたゴミは、そのまま持って名古屋まで向かってください。途中で投げ捨てた場合は、スタート地点から強制的に走り直しとなります」
     つまりは「ふりだしに戻る」である。
    「誤ってゴミを落としてしまった場合も投げ捨てたとみなされますので、注意するように」
     拾ったゴミは決して放すなという。ゴミ拾いは強制なので、「拾わない」という選択はできない。一定区間でゴミを拾わなかった場合は、投げ捨て同様、強制的にスタート地点に戻される。
    「名古屋合宿の目的は、『高速道路で自動車を避けながらマラソンやゴミ拾いをすることで、体力・反射神経・奉仕の心を育てる』ことなので、各自それを心に刻んで合宿に参加してください」
     自動車を避ける?
    「高速道路なので当然です」
     いくら武蔵坂学園とはいえ、合宿の為に高速道路を借り切ることはできない。つまり、一般の自動車が猛スピードで移動している中を巧みにかいくぐり、散らばっているゴミを拾いながら名古屋まで走りきらなくてはならない。
    「走行する自動車の中には、武蔵坂学園関係者が運転する各種車両が混ざっています。関係者の車両は参加者の皆さんに故意にぶつけようとしますので、しっかり避けてください」
     一瞬たりとも気を抜けないということになる。
    「上り車線、下り車線、どちらを使っても可です。体力を養うマラソンなので、ゴミを拾うときも基本的には立ち止まってはいけません。走りながら、ゴミを素早く回収してください。なので、上り車線を逆走する方が、難易度は高いと思われます」
     東京への上り車線を逆走する場合、向かって来る自動車を避けることになるので、より高い反射神経が要求されるというわけだ。
    「後ろ向きで走るのも問題ありません。難易度は自分で調整してください」
     道中、大井川の河川敷でキャンプもある。お弁当を食べたり仮眠を取ったりと、1時間を自由に過ごして構わない。合宿なので、休息時間も1時間と決められている。因みに、休息はこの1時間のみである。
    「サーヴァントの参加も問題ありません。ただし、ライドキャリバーに騎乗するのは違反です。ライドキャリバーに乗って移動しているのが見つかった場合は、地獄の制裁が課せられます」
     制裁の内容は、みもざも知らないという。きっと恐ろしい制裁に違いない。
     当日は、合宿運営スタッフが大型バスから灼滅者達を監視しているらしい。
    「気分が悪くなった人とかは、直ぐに回収できる体勢になってるから、万が一のことがあっても大丈夫です。ただし、途中リタイアの方には、それ相応のペナルティが課せられます」
     途中リタイアしたとしても、待っているのは地獄というわけだ。
     尚、バベルの鎖があるので、たとえ自動車とぶつかっても、かすり傷ですむ。とはいうものの、一般人の迷惑になるので、ぶつからないように注意しなければならない。反射神経を養う合宿でもあるので、ぶつかりまくっては意味が無い。
    「地獄合宿の中では比較的ぬるい地獄だから、合宿初心者にお勧めとなっています」
     ちょっと棒読み気味に、みもざは言った。運営委員会からの指示書に、そう書かれているらしい。
    「合宿を無事に生き残ってください。できるだけ大勢の方と、GW明けに会えることを願っています。……それと、名古屋に到着するまでが合宿ですが、行ったら帰ってこなければなりません。もちろん、自力で」
     鬼である。


    ■リプレイ

    ●新東名下り
    「皆さん! 今回はルールを守り、高速道路を綺麗にして皆で青春の汗を流して頑張りましょう! ずるは絶対に行けません!」
     スタート前に大声で庵が叫ぶ。
     名古屋合宿の開始だ。

    「交通量多いとゴミ探すの大変…あ!見つけ…うぐあっ!?」
     路肩を走ってきたバイクに跳ね飛ばされ、お弁当入ったリュックもろとも宙に舞う菫。
    「路肩は走行禁止だよー…」

    「結構拾ったッスねキョーコ、そろそろお昼が近いみたいナー? ウヘヘヘ…」
     今日子の弁当に期待を膨らませて、にやけてクネクネと変な動きを見せる立夏。とはいえ、ゴミは器用に回収している。
    「何を奇怪な動きをしているのだ、真面目にやれ、リツ」
     ニヤニヤしている立夏を嗜める今日子。
    「お弁当を楽しみにしてくれるのは嬉しいが、そうだな、私よりゴミが少なかったらなしにするぞ?」
     ふふっと笑いながら今日子はそう告げた。

    「その場で焼却は、ダメスかね」
     亮平は、やる気はあんまりないっぽいが、目に付いたゴミは無難に集めて、完走だけはするつもりだった。

    「…誰だよチャイルドシートを中央分離帯に捨ててんのは…しょうがねえなぁ」
     中央分離帯に捨てられいるチャイルドシートを発見し、拾いに向かう勇飛。
     気付いた時には、ちょっと遅かった。
    「…さすがに…10tトラックは強かった…ぐふッ…」
     龍星号は器用にもリアカーに勇飛を積み込んだ。

    「これはこれでなかなかスリリングだな」
     紐で口を締められるナップザックを背負い、清香は走り高跳びの要領で車を避けていく。中央分離帯に着地できるように計算してジャンプしているので、着地の瞬間を狙われることもない。
     と思ったら、バイクが中央分離帯を疾走。
     跳躍した清香は、ライダーのヘルメットを足蹴にする。

     もう少し走れば沼津だ。右側に見える斜面は一面の茶畑。
     【りらくぜ~しょんぷらさ・びゃくりん 】の面々は和気藹々。
     小型のリヤカーに幌を被せ、真琴はそれを引く。
     因みに彼女の箒は、彼女の横をふよふよと飛行している。
    「しかし、高速で走るリアカーってのもシュールだな」
     リアカー見つつ、咲哉は不眠不休の勉強合宿よりはゴミ拾いの方が幾分マシかなと思っていた。
    「あぶなーい!」
     あまり緊迫感のない注意喚起が、後ろから聞こえてきた。殿を走る部長の向日葵だろう。
     直後、トラックが突っこんできた。避けきれないと思った真琴は、思わず咲哉を捕まえて空飛ぶ箒に跨がり、二段ジャンプで回避。
    「危ねっ」
     その咲哉の鼻先を、トラックが通過していく。
    「ねーねー、このタヌキちゃん可愛いよー。これもゴミなのかなー?」
     信楽焼のタヌキを引き摺りながら向日葵が寄ってきた。
    「信楽焼ですか? 部長。これは…」
    「…ちょっと待て、何処から拾って来るんだこんなもん!!」
    「咲哉ちゃん重たいもの持ってくれてるんのよね、ありがとー♪」
    「俺かよ!?」
     ズシリと重い信楽焼のタヌキを、咲哉に背負わせる向日葵。
    「ゴミ拾いが終ったら、みんなにジュースを奢ってあげるのー♪」

    「イフリートの本領発揮なんだよ!」
     四つん這いのまま駆け抜けるイフリートの着ぐるみ。毬衣だ。
     四足走法ならばオレも負けてはられないと、煉は黒猫に変身して追走し毬衣の頭の上に着地。
    「がぅー!」
     気分が高揚したのか、毬衣は頭に煉を乗せたままトラックを全速力で追い掛ける。
    「…がぅっ!」
    「にゃ、にゃあ…なぁう…にゃにゃっ! ふにゃーっ!?」
    「…が、がぅぅーっ!?」
    「にゃーっ!!」
     派手に吹っ飛ばされるイフリートの着ぐるみと黒猫。

     蓋付きの籠を背負って走る源一郎。見つけたゴミは背中の籠に回収する。
    「…うーん、眠い。眠いのう」
     机にかじりついていた東京の勉強地獄に比べれば、体を動かす分楽ではある。
     学園の車が突っ込んできたが、反射的に躱して回避。ペース配分に気を付けて、一直線にゴールを目指す。

     茶畑を横切り富士宮トンネルを抜けると、景色は一変山の中。
     兄妹で参加している瑛多とすずめ。
    「どっちがゴミ多く拾えるか競争しようよ! 賞品は名古屋名物でっ。名古屋コーチン食べたいなー♪」
    「じゃあ俺がかったら名古屋名物にプラスして、帰りは逆立ちして東京まで帰ってもらおうかな…。すずめならそれぐらいできるよ! 兄ちゃん信じてる」
    「え、何その苦行! ハードル上げ過ぎじゃない?」
     すずめは抗議するが、受け入れてくれそうな顔をしていない。
    「お、ゴミはっけーん♪ …は!!」
     咄嗟に犬変身。ワゴン車はすずめの頭上を紙一重で通過していく。
    「む、すずめめ。調子良さそうじゃないか。ちょっかいかけて邪魔してやる。必殺、すずめバリアー!」
    「にぎゃあ! バリアは反則だってー!!」
     名古屋までの道のりはまだ遠い。視界の右側には、未だに富士山が見えていた。

    「当たったら、痛いだろうね…」
     戯れている兄妹がトラックと激突している様子を横目に見ながら、寅綺は転がってきたミラーの破片を回収する。
    「ジン、ひかれない様にね?」
     振り返ると知り合い達の姿が。彼らが撥ねられたら、ジンにでも助けさせよう。

     激走する【風雲!ロストリンク邸】の面々。
    「…わたしのゴミ拾い量一番を邪魔する人は、何人たりとも許さない」
     ライラの目は本気モード。怪力無双を駆使して、小さいゴミだろうが大きいゴミだろうが根刮ぎ拾いまくる。ライラの通った後には、塵一つ落ちていない。
    「流石はライラ、とんでもない脚力だ…」
     爆走するライラの背を追う千尋。前回のマラソンでは後れを取ったが、今回はそうはいかない。眼鏡を押さえキリッと表情を引き締める。
    「こうして見ると、高速道路って結構ゴミ落ちてるんだねぇ…」
     軽やかに拾うも一個取り逃して目を奪われた隙に車線にはみ出し、
    「…え、うわぁ~ッ!?」
     思いっきり観光バスに衝突!
    「勉強するよかよっぽど楽しいよな。高速道路を走れる機会なんて早々ないしさ」
     マラソンは結構自信あるから走るのは苦じゃないぜと、トングとポリ袋持って緑郎はゴミを拾って回る。
     風で飛んだビニール袋を華麗にキャッチ…と思ったら目の前に観光バスが。
     寅綺のジンが飛び込んできてくれたお陰で、激突は免れたが今度はトラック。一難さってまた一難。
    「…大丈夫?気を付けて、ね」
     ライラが力任せに引っ張り、緑郎を救助。

    「ライラちゅわーん」
     ダイブする不志彦。だが、彼女は車と勘違いしてするりと躱す。
    「やるなら全力でやるのが楽しい! アッハッハッハッ!」
     そんな不志彦の背後に、迫る学園のトラック。

     ダブルジャンプを駆使しつつ「故意に狙わないと当たらないギリギリ」の動きで高速を突き進む榛。
    「強行した生徒会にも異論あるねん、呼び出し減点なんでもこいやぁ!」
     魔人生徒会と真っ向勝負だ。

     重そうにゴミを運んでいる陽菜の元に、ミルミが駆け寄る。
    「わぁ、おねーちゃんありがとうで…それじゃあ、半分こなの…♪」
     むこー着いたら、おねーちゃんと一緒に遊ぶの…♪ と、ぱんぱんに膨らんだリュックを背負っている。
     どうでもいいが、ゴミがあんまり落ちていない。少し前を走っていたチームが、根こそぎ回収して行ったからだ。
    「乗っちゃダメって言われると、乗りたくなるのよ…」
     里桜はどうやら疲れてきたらしい。灰音をちらちら。
    「や、やらないのよ…? りお、いい子だから」
     魔人生徒会がいたので、きりりと表情を引き締めた。
    「必殺サイキック、ここほれワンワンです!」
    「おぉーみるみるちゃんリーダーからの指令なのよ。必殺サイキック、ここほれワンワンゴーなの」
     灰音は頭をぶんぶんと横に振る。
    「いいえできるはずです! わんこですし!」
    「大丈夫、なせばなるのよ…ほら、みるみるちゃんもいってるし」
     無茶振りである。
    「…む、道の真ん中に落ちてますね」
     スナイパーと同じように…車の流れを見切って、
    「…ここです!」
     素早く近づいてキャッチ。そのまま陽菜にトス。
    「おーらいなのー」
     陽菜は袋でキャッチ。
     お互い良い仕事をしたようです。

     富士川トンネルの長さは約4.5キロメートル。
     逆走などナンセンスだと、トンネルを通過し、真面目に下り車線をひた走る邦彦。何故か背中には、<東京名古屋間ごみ拾いマラソン実施中!>の垂れ幕が。
    「誰だ、こんな風習を考えたのは! 俺らの代でやめるべし!」

    「あおぎんが作るお弁当がゴールしたらあるかもってことで釣られて参加してるわけじゃないでさぁ。ゴミ拾いをしてエコを意識ってやつでさぁ!」
     真綾は張り切っていた。
     くろりんにあそこまで露骨におねだりされたら頑張るしかないと、瞭は腕によりを掛けてお弁当を用意してきた。彼女が大好きな醤油風味の出汁巻き卵も、ちゃんといれてある。
    「ゴールまでどちらが多くゴミ拾えるか競争でさぁ!」
    「って、えぇ、競争!? なにを考えてるんですか、もー!
     唐突に自分の手を握ってきた彼女の手を優しく握り替えし、一緒に駆けていこうと瞭は答える。

     クラスメイトで恋人同士の殊亜と紫。
    「ふふふ、ゴミの回収量一番は私が頂きます!」
    「え、ゴミ回収一番も目指すの!? なぜハード」
     唖然としている殊亜を横目に、機敏に動きゴミを拾う紫。こんな合宿が毎年行われてるなんて正気の沙汰じゃない。
     わんこ用座席を設置され、久遠を乗っけてディープファイアは、そんな2人の後ろをタラタラと走る。因みに、カーナビも搭載させられている。
    「後ろから車来たらクラクション頼むね」
    「お弁当落としちゃ…メッだよ?」
     オーケイ。グッと肉球を突き出す久遠。人間のライダーさながら、ゴーグルとスカーフを装備され、すっかりその気になっていた。

     ここはこたつ部の部室。僕は今、部室の炬燵で部員と一緒にミカンを食べているんだ。ああ、なんという幸せ…。
     エイジは逃避行中。
     どこが「合宿初心者にお勧め♪」なんだよ。せっかく『いつでもこたつ休憩できるように』と背負ってきたのに、休む暇なんて無い。
     あ、そうか。疲れたから休めばいいんだ。
    「アッシ、ゴミ拾いせずにサボろうとしてないでゲスよ?」

    「もうイヤだぁー! もう走れない!」
     息も絶え絶えに周りの生徒たちを見、その持久力に驚くネイト。
    「…よし! 逃げようかな!」
     ゴミ袋を抱えたまま、非常用階段をネイトは降りていく。
     だが、逃亡を許す魔人生徒会ではなかった。

    「あ、ゴミ袋がいっぱいだ。ミーティア~! こっちに来て~!」
     ミーティアを呼び寄せる鈴。ミーティアには予め予備のゴミ袋を積んでいた。手持ちのゴミ袋が一杯になってしまったので、新しいのと交換しようと呼び寄せたのだ。
    「車! っと危なかった~。これ、スリリングで、結構、楽しいかも♪」

     風呂敷で保護した45ℓゴミ袋を抱え、蝸牛が五連続のトンネルを駆け抜ける。
     腕に燦然と輝く光画部の腕章。
     得た情報は即座にツイート。もちろん、学生達の記録撮影も忘れない。
     カメラさえあれば、その好奇心は死にに逝く猫の如し。
     全ては謎の転校生・蝸牛は、転校生ネタっていつまで使えるんだろうかと疑問を抱えつつ、極薄の存在感を発揮し今日もゆく。

     最も長い粟ヶ岳トンネルから飛び出してきたのは、ゴミ袋をサンタクロースのように抱えている七波だ。
     闇を纏って疾走する七波。一般人を驚かせないようにする為で、決して学園関係者の目から逃れる為ではない。たぶん。
     いい笑顔を欠かさず、七波は一般車両を避けて走る。

     車と車の合間を器用に縫って、ごみ拾いをしているのは茜だ。多少危険な場面もあったが、常にぎりぎりセーフでここまできた。
    「あー、危なかった。気をつけないといけないね」
     自分でも感心するが、今の動きは奇跡的だった。
    「よかった。ごみを散らかさないで」
     ホッと胸を撫で下ろし、茜は走り続ける。

     アング・ロクエンにゴミを集めた袋を乗せ、マラソンを続ける有斗。脱落した人がいたら運んであげようと周囲を確認しながら走っているが、今のところ脱落しそうな学生は見掛けない。
     近くを走っている学生達に声を掛けながら、有斗は走る。そうすれば、少しは気が紛れるかもしれない。
     帰りはこのキャリバーに乗って、のんびりと戻りたいものだと思いながら。

    「それにしても、高速道路のゴミってとんでもないのが多いですねー。うわー、丸太まるごととか洒落になってませんなのですよー」
     かなめは丸太を抱え、新東名を疾走する。
     GW明け、車と併走する丸太を抱えた謎の巫女が新東名高速に出現するという「ターボ巫女マックス」という都市伝説が、まことしやかに囁かれた。

     別に女装趣味ではないのだが、何となくいつものカッコで参加してしまった、くろ。背中に籠を背負いトング片手に走る姿は、かなりシュール。見た目だけで言えば既に罰ゲームっぽい。
     こういうのも女の子と一緒なら楽しいのになぁ。ふと手が触れ合ったりなんかしちゃったりでへhぶほぉっ!!?
     妄想に耽るのもいいが、きちんと周囲を確認した方が良かったかもしれない。

     他の合宿よりだいぶマシって聞いてたんだけど…レベルおかしくね…? オレはもやしッ子なんだと、不満を口にする漣香。汗で眼鏡がずり落ちてくる。
    「だいじょぶだいじょぶ、わたしが後ろから押してあげるから!」
     笑顔で茜歌は漣香のジャージの裾を掴む。ちょっとバランスを崩す漣香。その目の前をトラックが通過する。
    「おおっ、上手に避けた! すごーい漣香くん尊敬しちゃう!」
    「なんであえてオレのジャージの裾掴んで足止めしたの? そういうプレイかなんか?」
    「あっ、だめだよ軽いゴミばっかり拾っちゃ! ズルと思われたらたいへ…」
    「今ゴミ拾おうとしてんだからちょっまっあ痛ー!!!」
    「…あ」
     後輩の身代わりとして跳ね飛ばされる漣香。
    「…漣香くんも拾っていった方がいい?」
     ひくひくしている漣香を見下ろし、真剣に悩む茜歌だった。

    「ヤハハ、危ない所なんて走ってられないデース」
     車の屋根から屋根へと、怪盗の如く飛び移るモーリス。車の上なら轢かれる心配は無い。
     下ではバロリがせっせとゴミを回収し、集めたものをモーリスに手渡していた。
     突っこんできた大型車両を華麗に回避。集めたゴミが散らばる。
     魔人生徒会がわらわらと出現しバロリを確保。
     逃げるモーリス。追う魔人生徒会。

    「ごめん、レナもこれ、持っててくれる?」
     ていうか秋のマラソンの比じゃないぞ、これ
     道路の隅っこを走りながら、項垂れる一樹。
    「後ろから車がこっちに迫ってく…うわああああああああ!」
     レナもろとも、学園の車に吹っ飛ばされる。ついでに集めたゴミも飛び散る。
     大井川の手前で、振り出しに戻る。

     上り車線と下り車線に別れて、並走する2人。上りを強引に走っている謳歌。学園の先輩として、お手本になれるように頑張りたいと勢い込む。
     対して、下りにいるのは桃花だ。師匠に負けじと奮闘中。環境美化に努めるのだ。
    「謳歌さん! あそこにもゴミが!」
     反対車線にゴミを見付けたので、桃花は指を差す。
    「よしっ!それじゃ車に気を付けて迅速に回収だよ!」
     桃花の様子を気にしつつ、謳歌はゴミに向かっていった。

     ご当地の良さに脇目も振らずゴミを拾って走り続けるだけとは、完全に拷問コースだとドロシーは嘆く。
     妙技を駆使してゴミを拾うが、目の前に学園の車が。
    「わ、私のほうが…ゴミのようだ、よ?」
     海の向こうの師匠、藍屋ドロシーは頑張っています、物凄く! 物凄くね!

     こちらは【闇堕ち被害者友の会 】。
    「まだまだいけるよ。さぁがんばろう」
     完全に力尽きた人がいたらオンブする覚悟のアトリ。仲間達に声を掛ける。
    「熱ぃ熱ぃ!」
     マナーの悪い車から煙草の吸い殻が投げ捨てられた瞬間を狙って、哲暁は回収。もちろん、直ちに火を消す。でも、ちょっと掌を火傷した模様。
    「!、こ、これはゴミじゃ、ないの! エメリーの体の一部、なの!」
     クマのぬいぐるみを抱き締め、ルビードールは必死にこぼれ落ちた中綿を回収する。
    「…ご、ゴミとして運ぶ、とか?」
     言ってしまってから、結葉はしまったと思った。
    「エメリーは、ゴミじゃないもん…! わたし、たいせつな…ッ」
     泣き出すルビードール。慌てて精神的支援に切り替える結葉だった。

    「車が! 車が!! きゃーーー! 怖い怖い怖い! ぎゃーーーっ!!」
     千珠は絶叫しながら走る。並走しているのはヤキマ。
    「これは地獄だ!地獄だ!! 絶対ゴールしてやるぅぅ!!」
     このマラソンを完走したとき、きっとまたヒーローとして一歩成長してるはずだ。

     学園の車が突っ込んできたので、咄嗟に壁走りで回避する光影。神風も器用に車を避け、ゴミ袋を死守している。
     地図を片手に、小町が光影達を誘導する。こんなところで迷子になるわけにはかない。
     2人同時に壁走りで車を回避。
     揃って忍装束を着ることができて、内心嬉しい小町だった。

     正義のヒーローの格好でゴミ拾いは何かのイメージ戦略みたいで嫌だと、今日の一二三は変身していない。
     無理な車線変更をしてきた学園の車の窓に、「車線変更は充分な車間距離を取ってお願いします」と書いた張り紙をペタ。

    「地獄というが、中々どうして悪くないな」
     どこぞの戦争映画のように歌を歌いながら、宮子は淡々とゴミを拾う。
     高速を堂々と自分の足で歩くことなど普通はできないと、ちゃっかり楽しんでいた。

     死体に見せかけたマネキンをトラップとして設置する菜々。しかし、彼女は知らない。蓋を開けるとおもちゃの蛇が飛び出す箱も、拾おうとすると爆竹がなる空缶も、全てゴミとして回収されている事実を。

    「このてーど、よゆーよゆー」
     上り車線。ゴミ拾いに夢中で車に撥ねられるシャルロッテ。ふりだしに戻る。
    「あっち、あぶねーし!? んじゃこっちだ!」
     下り車線。後ろから来た車に気付かず追突される。ふりだしに戻る。
    「さんどめのしょーじきってやつだー!」
     車に気をつけて走るもゴミ袋に穴が開いててゴミを落とす。ふりだしに戻る。
     以下、エンドレス…。

    「高速道路とか…馬鹿なの? 死ぬの? 死ぬよ」
     スーパーGPSを使うから迷うことはないはず。
    「頑張る頑張る頑張るがんばるがんばるガンバルガンバル…」
     玖真、精神崩壊。

    「…う、はぁ…くるし…足、動かな…でも、転んだり、したら…みんなにも、迷惑…かけ、ちゃう…」
     アラタカ先生が頑張ってゴミを集める中、花緒は倒れる寸前だ。
    「うぅ…ボク、もう死んじゃう…かも。これ以上走れないー…」
     足がもつれてふらふらし始めた蒲公英。ペナルティー覚悟で休息を取るしかない。
     よろける蒲公英をアゲハが支える。そんなアゲハの姿に勇気づけられ、花緒は元気を取り戻す。
    「休憩場所までもう少しのはずだから、がんばろう」
     アゲハはそう声を掛け、拾ったゴミをビハインドに手渡した。
    「もうちょっとで楽しい休憩時間っスよー死ぬなー」
     陽彩も友人達を励ます。
     へろへろの仲間の元からこぼれ落ちるゴミは、トメさんが上手に拾っている。
     クラブ【花氷】は支え合い、先ずはキャンプを目指す。

     プライドにかけて、昴は一番を目指していた。国道六号線を毎日走ってる成果を見せるときだ。垂直二段ジャンプで移動ロスを減らし、車を回避。
    「ゴミの量も判断材料になるの?」
     素朴な疑問が脳裏を過ぎった。

     ゴミをいっぱいひろって環境美化に努める。これぞヒーローというもの。
     美味しいものをいっぱいつめたお弁当と、おいしい長野のそば茶をつめた水筒をもってマラソン中の蜜花。
     お腹がすいたらお弁当を食べ、ゴールまで頑張るのだ。

    「フフフフフ、復讐の方法考えたら楽しくなってきたぞ。フハハハハハ」
     どす黒いオーラを纏いながら、未空が走る。
     翌日、『不気味な女の笑い声が聞こえる都市伝説』の噂が流れたとか。

     控え目なマイアの胸の膨らみの数センチ前を車が通過。もう少し大きかったら接触していたところだ。
    「こ、これから大きくなった時のために、もっとがんばらないとです!」
     可愛いファミレスの制服姿で、そう誓うマイアだった。

    「ふふふ、壁を歩けば車に当たらない! 完璧でござるな! …おや、あんな所にゴミが…ぷべらっ!」
     取りに行こうと壁から離れた瞬間、トラックのサイドミラーが顔面を直撃。
     包帯を巻いて応急措置をし、牽かれた時に潰れた「かつておにぎりだった物達」を弘務は悲しげに回収する。

     シロ太と一緒にごみを拾いながら走る直。
    「…ここどこですかーっ?!」
     迷子になったらしい。
     学園に来て早々、いきなり大ピンチだ。

    ●安らぎのひととき
     これだけの人数がキャンプを行うには場所も選ぶ必要がある。
     そういうわけで、大井川の河川敷がキャンプ地に選ばれた。

    「やれやれ、やっと半分か」
     入念にストレッチをして身体をほぐす龍一郎。途中、学園関係者の車を一台大破させたが、たぶん問題は無いだろう。
     しっかりと体を休め、10分前になったら準備体操。
    「さてと、後半も頑張るとしましょうかね」
     龍一郎は高速道路へと戻っていった。

     クラブ【空色小箱】の5人は、のんびりと休息中。
    「あぅ…さすがに走り詰めは疲れますね」
     すっかり重たくなってしまった足を引きずるようにして、紗月は川岸へ。
    「冷たい河って良い感じに脚が癒されるねー♪」
     大井川に足を投げ出し、クールダウンしているのは和佳奈だ。
    「…うん、丁度良い心地。皆さんもどうですか?」
     ちょっと恥ずかしいが、靴を脱いで足を川面に付けて暖まった体と冷やしつつ、紗月は友人達に声を掛けた。
    「出来ればこのままお昼も取りたいところですね」
     にこやかに笑む。
     ヒオが紗月の隣に腰を下ろした。
    「みんなの分も持ってきたからどぞですよぅ」
     川に入ってまったりしながら、ヒオはスポーツドリンクを配る。
    「ほぅあー…いやされますよぅ」
     素足を洗う水が心地よくて、ヒオはうっとり。
     みとわは川にほど近い場所に腰をおろして、こわばった筋肉をほぐし始めた。
    「名古屋といえばひつまぶし。完走したあとのご褒美はそれで決まり!」
     マラソン直後にそれを食べられる自信はないと、みとわは肩を落とす。
    「ところで、この大井川沿いに道の駅があるそうなんですよ…温泉つきの」
     みとわと共に旅人の外套を使って、常に道の端っこを走るように心掛けていた恵理。
    「…ついでにバイクとか車とか見れるの楽しいし、ゴミよりデジカメの方が大量なのは嬉しいんだけど♪ はぁ、さっきのバイクかっこよかったなぁ…」
     デジカメで和佳奈は休息中の友人達の姿を写す。
    「温泉賛成っ♪」
     元気良く手を上げる和佳奈。
     恵理は、サンドイッチと紅茶のお弁当を優雅に取出してつまむ。
    「皆で流しっこするですよ!」
     サンドイッチで腹ごしらえしながら、ヒオは賛同した。
    「そろそろ5分前です」
     時間を確認していた紗月が言った。
    「さて、終わった後の癒しもできたし、後半もがんばろうね!!」
     和佳奈の号令で、5人は立ち上がった。
    「えへへ、誰が最初にゴール出来るか…後半も頑張りましょう」
     景気づけのハイタッチ。
     ヒオも笑顔でハイタッチ。
    「また写真撮るの…じゃなくてゴミ拾いれっつごー!!」
     和佳奈は新東名へと戻っていく。
    「ひつまぶしがボクらを呼んでいる!」
     つい心の声がだだ漏れにと、みとわは苦笑いした。

     【ワンコインルーム】の3人は、揃ってキャンプ地に到着した。
    「お弁当作ってきたんです。よかったらご一緒にどうですか?」
    「彩良ちゃんも女の子だね、おにぎり好きなんで有り難い」
     川のせせらぎを耳にしつつ、かなめはおにぎりを頬張る。のんびりと料理を褒めながら、たまにはこういう時間も良いものだなと思う。
    「って、そろそろ一時間くらいか? おい二人とも――」
     かなめは言葉を飲み込んだ。2人とも、すっげぇわかりやすい悪い顔をしていた。
    「お礼に、かなめと生徒会がいないか見回って来るから、休んでて良いよ。疲れてるだろ? …帰りに、何かジュース買って来ようか? 奢ってあげるよ」
    「そんな、先輩に奢って頂くわけには参りません。私が行ってきます。ももちさんはおにぎり沢山食べてお昼寝していて下さい」
    「いやいや、女の子を働かせるわけにはいかないって。ここは僕達が…」
     振り返ると、左腕に「魔人生徒会」と書かれた腕章を付けた学生達が。
    「えっ、生徒会!? いえ、これはダークネスが出たので、おにぎりでおびき寄せる算段を…な、彩良?」
    「…全て百鳥先輩の指示です」
     隠れるのに失敗した彩良は、きっぱりと言い切った。
    「即答かよ、少しくらいは話を合わせろよ! いや、これはかなめが…いねーし!」
     いつの間にか、かなめの姿がない。
    「こいつも共犯です、むしろ主犯です!」
     彩良を指差した。
     因みに、生徒会に告げ口をしたのは、一人でさっさとコースに戻ったかなめである。

    「ぐっふおぉぉぉぉ…、 おかしい、これ絶対おかしい…! さっきのこっちに向かってきた車、絶対狙ってたよ…!」
     どうにかこうにか大井川キャンプまで辿り着いた新は、その場でぐったり。泥のようにダラダラと時間を過ごす。
    「…ねぇ、一応聞いときたいんだけど、本当にこれ初心者向けなの? 騙されてるとかじゃない?」
     人間が高速を身一つで走ってる姿って、ある種ホラーだ。

     【分水嶺】の5人は、やっとの思いで大井川キャンプに到着。
    「なんなのこのキツさ。ああうん、知ってる、この担いでる米のせいだって…」
     綴は担いでいた米俵をドスンと地面に置く。
     後ろの方を走るとゴミが少ない。前を走っている者達が、ゴミを回収しているからだ。 後ろを走れば走るほど、ゴミを求めて縦横無尽に駆けずり回らなければならなくなるのだ。
    「アンタよくそれで走ってきたね…」
     慧杜が呆れた。
    「くっくたびれた。吐く。吐くけどオレたちがゴミは捨てられない…」
     ゴミの類を自ら出してどうすると、エルメンガルトは自重した。
    「みんな生きてる? ルーちゃんとケイト、参ってない?」
     見ると、怜示が朦朧としたまま遠い目をしている。
    「…あぁ、マスクのせいで、どうしても呼吸がしにくいものだから、少しぼんやりしてしまった」
     マスクのせいで呼吸がしにくいので少々酸欠状態。
    「な、なんとか生きて、る…けど、走るのって、たいへん、だねえ」
     ストレッチをしながら、「うぐー」と声を発する琉羽。
    「うげ…マジで吐きそうだわこれ、ここで温い方ってどういう事なんだよ…」
    「で、キャンプというのでハンゴウスイサンします!」
    「ハンゴウスイサン…? 1時間で?」
    「大丈夫このハンゴウは拾ったゴミじゃないから! カレー食べてみたかったんだよなー」
     そういう問題じゃないと思う。
    「ハンゴウスイサンするの? お手伝いしたいー!」
     琉羽がぴょこぴょこと近寄ってきた。
    「よし頑張れエル! 待ってるね」
    「俺たちの昼ごはんはエルの腕にかかってる! カレーも準備万端。水でも飲んで、待ってようか」
     後は任せたと、綴は休憩モードに突入。
    「ハンゴウスイサンの炊き方も勉強してきたよ。というわけでしばらくお待ちください!」
     ボン!!
     爆発四散する飯盒。
    「…び、び、び、びっくりした!!! 焦げるとか生じゃなくてとんでくとか! 予想外すぎる!」

    「キャンプと言えばカレーだよね…」
     こっちでもカレーを作っていた。波琉那、仁紅丸、葉月の3人だ。
    「みんな汗をかいているから、ちょっと塩分多めにしてミネラルを補給してあげたいな」
     一時間という限られた時間の中で完成させられるように、波琉那は自宅で予め下準備をしてきた。
     後半戦の長丁場を乗り切るスタミナになるように、頑張って作らればと、波琉那は勢い込む。
     かまどの代わりは仁紅丸だ。カレーの大盛りが報酬である。
     盛り付けの担当も仁紅丸だ。脱落だけは避けたいので、ここでしっかりと栄養補給をしなければならない。
    「カレー食べて後半もがんばろ〜!」
     ポニーテールを揺らし、葉月が気合いを入れる。

     ちゃっかりとカレーを確保してきたミカエラ。
    「みもじゃー。みてみてー、こんなにゴミ拾ったよ!」
     結婚式の車のように、腰から空き缶をがらんがらんとぶら下げながら駆け寄ってきた。
    「とりあえず繋げて持ってきたんだけど、このままだと周囲の人の迷惑なんだってー。全部潰すんだけど、手伝ってくれない~?」
    「了解であります!」
     べしゃっ。
    「べしゃ? …あたいのカレー!?」

    「や、や、やっと着いたよ休憩場所に! マラソンとかさ、精神追い込むみたいなことだよね…なんですんだろうね…」
     あよは膝に両手を付き、肩で大きく息をしている。
    「やっと休憩所か…やれやれだな」
     和希も、ほうと息を吐く。
    「とりあえず…ごーはーん! お腹減ってたんだよね!」
    「そうだな、食事にするか」
     和希は、あよにスポーツドリンクを手渡す。
    「ん、思ったよりゴミ拾えてるじゃないか」
     恐らく荷崩れして落ちたのだろう、木材に鉄屑もある。こんなものバイクや車が踏んだら大事故になる。
    「あたしこれぐらいとれたよー!」
     あよもゴミ袋の中身を見せる。ポイ捨て禁止だよね、とお互い苦笑い。

    「みんなの応援かな? お疲れ様♪」
     みもざを見付けて、思わず抱き締める舞。
    「ふお~」
     ジタバタするみもざを、舞は優しく『クリーニング』♪。

    「やっばい…疲れた」
     ホッとした瞬間ゴミを落としそうになるが、推治はフライパンでそれをキャッチ。
     すぐさま料理を開始。続々とやってくる学園の生徒達に、料理を振る舞うのだ。ただし、早い者勝ち。

    「ラブリン、ラブリン…っと。…ふぅ、結構楽になるもんだなぁ」
     淫魔アイドルのヒット曲を口ずさみながら、紫廉はストレッチ中。
    「寝過ごさないように気をつけないと…zzz」
     携帯のアラームをセットし、ちょっと昼寝をして体力回復だ。

    ●新東名上り
     正面から容赦なく突っこんでくる一般車両を巧みに躱しながら、ゴミを拾う強者達もいた。

    「わたしは生物兵器。この程度…楽勝!」
     開始早々、一つ目のゴミを無駄に華麗に拾いながらハノンは大型トラックに轢かれた。
    「ぐっ…これ、しき…」
     気合いを入れて再スタート。

    「なにこれすっごいたのしいっ」
     鋼糸を使って、巧みにごみを回収しながら、ユーリーは行進していた。
     一般乗用車は左右に回避し、先生の車だったら、迷わずボンネットに飛び乗り、車を踏み台にして回避していく。
     過酷なマラソンであるにも関わらず終始笑顔。何があっても笑顔。
     あまりの笑顔に、周囲がどん引きしているほどに――。

    「車ぶつけてくるとか何考えてんのさー!?」
     下り車線で、同じ井の頭キャンパス中学3年C組の瑛多とその妹が悲惨な状態になっているのを横目に、弥勒は焔と共に全力で車を避けていた。
    「そっちが事故っても、オレら知らないからねー!?」
     などと、口ではそう言っている弥勒だが、不測の事態に備えた心構えはしていた。人命救助が優先なのだ。とはいえ、飛び散った破片はゴミとしてしっかり回収するつもりだったりする。
     背中にゴミ入れの籠を背負い、預言者の瞳を駆使しつつ車を避けつつ、投げ捨てされたゴミなどをキャッチして回る焔。
    「このくらいの試練ならまだまだいけます! 刑務所にいたころはもっと酷かったですし!」
     まだまだ余裕らしい。

    「せっかくですし挑戦してみましょう」
     と言い出して、悠花を誘って参加したのは自分だが、少々不安になってきたりんご。
    「なんだろう…銃口に向かって走っている気がする…」
     真横すれすれを通り過ぎていく車を見送りながら、冷や汗を掻く悠花。
    「油断禁物ですわね。悠花さん大丈夫です?」
     自分に向かって突っこんできた車をダイブして躱し、悠花に声を掛ける。
    「こっちは無事ですよー」
     ゴン!
    「りんごさーん、生きてるー?」
    「なんとか大丈夫ですわ…」
     安堵したのも束の間、今度はコセイに迫る車の影。
    「コセイあぶなーっ?!」
    「わふっ?」
     ガン。
    「これ…奉仕の心が育つ前に砕け散る気がする…」
     コセイは伏せて車を回避したが、悠花がトラックと激突。
    「ゴール…遠いなぁ」
    「うぅ、ひどい目に…」
     2人の視線は、どこか遠くを見詰めていた。

    「生徒に体当たりしてくるとはいい度胸です」
     理不尽さにムカつきつつも、スピードアップの訓練であると自分に言い聞かせ、上り車線を逆走している光。意識的に視界を広く持ち、側面の車などにも注意を払う。
     威嚇攻撃でもしてやろうかと思ったが、バベルの鎖によって意味の無い行為にもなりそうだったので、実際に行うのは自重する光だった。

    「施設に泊りがけではないんだから合宿とは言えなくね、というのは野暮か」
     旅人の外套でステルス性を確保しながら、車の流れを逆走する勇也。路肩をマイペースで走る。
     折り返しも走るのは御免なので、時間によっては一泊して新幹線等で帰ろうと計画している勇也だ。

     ヘッドホンと携帯音楽プレイヤー持参で参加した未来。
     アップテンポのリズムに合わせて、華麗なSTEPで車を避ける。
    「中々、踊り甲斐があるじゃないか!」
     歌詞を口ずさみながらの、未来の風変わりなトレーニングは続く。

     【光画部】は、部長の檄の下、上り車線を逆走していた。
     背中に竹編かごを背負い、手にはシャベルを持ったまぐろが、部員達を叱咤する。
    「いつも元気だなーまぐろさんはー、そこが好きなんですけれどねー♪」
     彼女に聞こえないように、ポツリと呟く仲次郎。
    「ライドキャリバー搭乗禁止…確かにの。しかし、それ以外の事は聞いておらんっ!」
     ティアマットにリヤカーを着け走らせるイルル。荷台には、何故か私物が満載。拾ったゴミは自身が背負った籠にポイ。
    「まぐろ殿、車が来たぞよ。トイヤ!」
     ボンネットに飛び乗り華麗にクリア。
     地面にシャベルを突き立て、棒高跳びの要領で車を飛び越えるまぐろ。スカートがひらり。
    「まぐろさんは流石の身のこなしですねー、あ、あんまり天井にあがると、わわわ」
     見たいけど見ちゃいけない何かが気になる仲次郎だった。

     突っこんできた外国車の前に、受けて立ってやると堂々と立ちはだかる虹路。
    「…あれでも車壊しちまった場合弁償とかしなきゃなんねーの?」
     ふと思いついて躊躇した。
     ガスン!
     外国車は器用にもゴミ袋だけを狙ってきた。
    「ちくしょー! 覚えてろよおお!」

     ファティシアと一緒に上り車線を走るナゾのキグルミ。走狗だ。
     ゴミを拾おうとした瞬間、学園のトレーラーに吹っ飛ばされて場外へ。

     ゴミはさくさく拾って対向車は避ける、避ける、当たる!!
    「…あれ? 最後だけなんか違うような」
     吹っ飛ばされてもゴミ袋は手放さない要。
    「…って木元さんなんでこんなとこで寝てんの!?」
     そんな要に荷物を押し付けたナディアだったが、何かに躓いたので視線を落とす。そこには明莉が。
     靴紐がぶっちぎれたので、大慌てで補修中だった。
     補修完了。要に向かってゴミ袋を放り投げると、
    「よっしゃあ――! 身軽っ!! これでゴールを目指っ…っ!?」
     靴紐がブチッ。転倒。車道の真ん中で。
    「あー、早く10tトラックとか来ないかなー。なんなら戦車とか象とか来ないかなー……げっ!?」
     集団で迫ってくる米国製の大排気量のバイク。その迫力たるや、戦車の比ではない。
     さらばナディア、明莉。君達の勇姿は、たぶん忘れない。
    「何で高速に草鞋とか落ちてるんだろ」
     そんな漢衆の生き様を見届けながら、ガールズトークを楽しみつつゴミを回収するかごめとユリア。
    「この学園にいると感覚麻痺してくるよね~」
     日頃から鍛えているから体力には自信はあるものの、やはり強引に突っこんでくる車を避けるとなると紙一重。
    「パインサラダ準備しておくから、無事に戻れたら御馳走してあげるねっ」
     謎の暗号で皆を鼓舞するユリア。
    「…普通の青春が恋しい。あ、パインサラダ私も食べたい」
     学園の車に弾き飛ばされる先輩達の姿から、そっと目を逸らすかごめだった。

     【テーブルゲーム研究会】は上り車線を挑戦中。
    「地獄道 共に走れば 何のその。皆さん! 大丈夫ですか?」
     後ろを走る後輩達を気に掛ける流希。
     登はゴミを運ぶ為のリヤカーを引いている。高速道路を走ったり、轢逃げアタックを仕掛けてくるのは公序良俗に反しないのかという疑問も浮かぶが、気にしても仕方が無い。
     その隣をティンと共に夕月が駆けている。一緒に走ればどんな事が起こっても大丈夫。ちゃんと皆でゴール出来るって信じていた。
     何故かメイド服を着て、無表情で走る遥香。リアカーからゴミが落ちないようにと、しっかり見ながら集中集中。しゅうち…ドテ。集中しすぎて転んだ。
     サムを紐でくくりつけ、体力に自信の無い清美は最後尾を走る。
    「走るも地獄、走らぬも地獄。だったら、走って地獄へ行こうかな」
     呟く明。
     皆で揃ってゴールする為に、仲間をフォローしつつ【TG研】の面々は走る。

     可愛い女の子が「合宿初心者におすすめ」って言ってたから参加したのだが、
    「ただでさえ危険極まり無いのに学園から刺客を放つとはどういうことでござるか!?」
     正気でござるかこの学園の運営者はと、木菟はそんな思いを胸に正面からすげぇスピードで突っ込んでくる車を避け…たつもりだったが、
    「避けられるかこんなもん! でござるうううううう!!」
     ハチロクに吹っ飛ばされ、宙を舞う木菟。

     後ろからの不意打ちよりかははるかにマシなはずと、上り車線を走る菫だったが、宙を舞う人影が目に入ると、果たして自分の選択は正しかったのかと、疑問が込み上げてきた。
     リーアは、ただひたすらに菫が集めたゴミを回収。
     車が突進してきたので、咄嗟に子犬に変身して菫は回避した。

     大きめのゴミをチェーンソー剣で持ち運びやすい大きさまで解体したのち、弥生はそれをワイヤーに括り付けてゴールまで引きずることにした。体が小さいので素手では持ちきれないのだ。
     ノノが小さいゴミを、みくるは大きいゴミを集める。高速道路を走るなど普通では考えられないが、ゴミ拾いは良い事だ。みくるは細かいことは気にせず、ゴミ拾いに全力で取り組む。

     修行の為にスタート前に両腕両足に重りを、さらに背中に愛用の槍を装着した翔子は、相棒の箒星と共に逆走していた。
     槍を振るい、風圧で浮いたゴミを箒星がキャッチ。見事な連携である。

     【黒虎隊】の初陣だ。
     先陣を切るのは万鬼のチハヤ。
    「さぁこの空中舞踏にご満足頂けたら拍手喝采!」
     風小僧と呼ばれた日もあると、万鬼はひらりひらりと車を躱す。
    「お、流石は芸達者」
     惜しみない拍手喝采を送る優京だったが、そんな場合ではない。突っこんできたトラックを咄嗟に回避。
     優京に続けと車を迎え撃つが、判断を誤り遼平は見事に車に吹き飛ばされる。何故か記憶が走馬灯のように。
     落ちる寸前の遼平を、万鬼と優京が救う。仲間とはありがたいものだ。

    「合宿とは『いかに行事をサボるかを考え抜く』この一言に尽きます」
     黒いゴミ袋を手に、魔人生徒会の目をかいくぐり非常階段から逃亡した信は、下で待ち構えていた生徒会に、きっぱりずばっとそう言い放った。

    ●ゴールへ
     命からがら…というか、ヘトヘトに疲れ果てた参加者達が、続々とゴールしてくる。

     東京合宿で受けた補習という名の調教で、人語を忘れてしまった珠音。
    「62535…45、3367…!(ウチのことはいい…先に…!)」
     歩を決死の覚悟で送り出す。
     女の応援に応えず自分は男を名乗れるのか? 答えは断じて否!
     目付きを変え、思考を切り替え前を向く。
    「0113、59493…(一番、目指すんじゃよ…)」
     珠音の言葉を背中で聞き、歩はゴールを目指した。
    「ハッ、俺を轢きたかったら最低でもF1程度は用意しておけ!」
     怒濤の如く突っこんでくる学園関係者の車を悉く躱し、歩はついにゴールイン。
    「おめでとうございます。一番でゴールです!」
    「お疲れ様」
     みもざと大津先生から祝福を受け、
    「青春、駆け抜けたぜ!」
     大空に浮かぶ珠さまの笑顔に、歩は笑みを返す。

     走り去る歩。小さくなっていく背中。
     珠音は歩の背中を見詰め満足そうに肯くと、その場で力尽きた。
     その上を大型バスが無情にも通過していく。
    「9~…(きゅ~…)」
     だが、彼女は大空に向かって笑顔を向けた。
     補修確定。

    「な、長い戦いだった…」
     少々バテ気味の凍矢。手には、大量のゴミが詰まったゴミ袋。
    「おほほほ、これが私の実力なのよー! っと、……あ、キミにこれ渡せば良いのね」
     楽勝よとばかりに高笑いをキメ、見事に完走した由良は、ゴミが詰まったゴミ袋をゴール付近にいた魔人生徒会に手渡した。
    「お嬢様、大丈夫か?」
    「えぇ、大丈夫」
     気遣う凍矢に、由良は元気そうに答えた。

     フラフラになりながらも、雪花の進行方向にゴールが見えてきた。途中、女の子に見取れている間に、不覚にも拾ったゴミを落としてしまい、スタート地点からやり直しを食らってしまった。
     ゴールラインを超えたのを確認すると、その場にバッタリと倒れ込む雪花だった。

     無難に仕事をして慎重なペースで走ってきた明。ゴールは目の前だ。
    「高速を使ってマラソンとは剛毅というか何と言うか…」
    「はぃっ!! やっ!」
     ポニテを揺らしながら、ひらりひらりとバク転したり宙返りしたりと、ダンスのように車を躱しながら、葉月が駆けてきた。
    「よく頑張ったな、こんなものだがご褒美だ」
     タオル越しに葉月の頭を撫でてやる明。
    「座り込んだまま涙目で見上げて。明先輩、もうわたし、ダメです」
    「名古屋で観光の約束だったな。…まずは名古屋名物とも言える喫茶店で一休みでもしてから観光するか」
     その言葉を受けて笑顔の花が咲くのを見ると、自分の疲れも吹き飛んでいくような気がした明だった。

    「この程度が地獄とはね…」
     しかし油断は禁物と、ヘッドライトや背籠を含めた出来る限りの準備をした舞斗。ノンストップで自分の体重の10倍に相当する質量のごみを拾っての旅は、スーパーGPSのアシストもあって、難無く完走だ。
     此処の前のマラソン大会は不覚を取ったが、かつては通学の為に山野を往復10キロを走っていたから舞斗にしてみれば、今回は48時間もあれば余裕な距離だ。
    「おめでとう、素晴らしい走りだったよ! 今の気持ちを一言、聞かせてくれないか」
     笑顔で話し掛けてきたのは、はじめだ。学生新聞「武蔵坂タイムス」で地獄合宿に関する記事を作成する為、インタビューをして回っているらしい。もちろん、本人もマラソンに参加し、しっかりと完走している。
    「小田原付近で『大名行列』を見かけたんですが、アレは都市伝説ですか?」
    「……」

    「着い、たー!」
     身も心も疲れ果て、嘉哉はどうかにゴール。途中、クラクションなしで突っこんでくる車に何度はね飛ばされたことか。だが、ゴミ袋だけは死守した。
    「君のおかげで東名高速にはチリ一つ落ちてない! 途中危ない場面もあっただろうけど、何が君をゴールまで駆り立てたのかな」
     インタビューに答えてやる元気は残っていない。この後、自力で帰らなければならないのだ。
     無言で嘉哉は、インタビュアーにゴミ袋を手渡した。

    「…マラソンはここまでや♪ 次は自転車は!! 待っとけ玄海灘!!」
     恋人に模擬戦で負け、リベンジを誓ったクリミネルは、休む間もなく福岡へと向かった。ママチャリで。

     合宿は終わった。
     翌日、塵一つ落ちていない東京-名古屋間の東名高速の様子が、怪奇現象としてニュースで取り上げられたそうな。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月12日
    難度:普通
    参加:141人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 43
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