北海道木彫りの熊ヒーロー(春なので)目覚めた筈が!

    作者:旅望かなた

     北海道もそろそろ春である。
     誰が何と言おうと春である。
     …………確かに4月の半ば過ぎに雪まで降ったけど春なんだってば!
    「そうだよ春なんだよ! だから俺も活動開始したんだよ!」
     北海道木彫りの熊ヒーロー・彫木・熊五郎。
     実家の観光客用商店の手伝いをする傍ら観光客の案内をし、ヒグマから守った観光客は数知れず……とまではいかないがそれなりに。
     活動期間は春から秋まで、登山道が閉鎖される冬はヒーロー業はお休みして雪かきに精を出す。
     だが!
     今年はまだ雪が溶けずに登山道が閉鎖されたままで!
     このままだと観光客に北海道の自然の魅力をアピールできないし、しかも登山客相手に商売をしている実家の財政が大ピンチ!
    「こうなったら――そうだ! 俺の力で、雪を全部溶かしちまえばいいんだな!」
     ぎらりと凶暴に輝いた瞳が、そしてその顔が、頭部が、木彫りの熊へと変貌していく。
     それは――ご当地を案じるあまりに一人のヒーローが、怪人へと堕ちてしまった瞬間。
    「待ってろよ残雪うううううううう!」
     熊五郎改め北海道木彫りの熊怪人の手には、ドラム缶と薪の束が握られていた。
     
    「えとえと、事件です~!」
     そう灼滅者達を見渡しながら、ひどく緊張した様子で天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)が口を開く。
    「え、えっと、ご当地ヒーローが、その、北海道の木彫りの熊ヒーローなんですけど、ご当地怪人に闇堕ちしちゃって……」
    「雪のため閉鎖された登山道を解放すべく、ドラム缶と薪の束背負って山の上に立てこもっちゃったんだずぇ!」
     横から嵯峨・伊智子(高校生エクスブレイン・dn0063)が出した助け舟に、こくこくと優希那は頷いて。
     一つ、深呼吸。
    「でもこの北海道木彫りの熊ヒーローさん……あ、彫木・熊五郎様という小学6年生の方なのですけれど、まだ元の熊五郎様の意識を持っていらして……ですので、またご当地ヒーローに戻って頂けるのかもしれないのです!」
    「元々ご当地ヒーローだったみたいだから可能性は高いと思うよ!」
     びしっと伊智子が親指を立てる横で、ぺこりと優希那が「ご協力お願いいたします」と頭を下げる。
    「熊五郎様……北海道木彫りの熊怪人様は、山の頂上で雪をドラム缶に入れて下から火で焚いて溶かしては、それを雪の上に撒いて雪を溶かそうとしていらっしゃいます。薪が足りなくなったら周りの木を切り倒して薪にしようとしているみたいですし……このままだと北海道の自然を知ってほしいという心が、逆に自然を破壊してしまうのです!」
     だから彼がその手で自然破壊をしてしまう前に、止めなければいけない。
     幸いサイキックアブソーバーの予知によれば、彼が行動を始めたすぐ後に介入することができるだろう。
    「熊五郎っちはご当地ヒーローと同じサイキックと、あと木を切る用のナタを龍碎斧的に使って戦ってくるっぽいずぇ! 広い範囲も攻撃できるから気を付けてね!」
     ――なお、熊五郎の心に呼びかけ、彼の悩みを解決することが出来れば、彼の心がダークネスを抑え込み闇の力は衰えるだろう。
     熊五郎を助けられるにせよ、一度は戦ってKOする必要があるけれど。
    「えと……自然が絡んでいる事ですから、解決するのは難しいかもしれないのです。それでも、熊五郎様の心が、何とかそれを受け入れたり、前向きになることができれば……」
     よろしくお願いします、と優希那と伊智子は、揃って灼滅者達に一礼した。


    参加者
    羽坂・智恵美(古本屋でいつも見かけるあの子・d00097)
    蒼月・杏(蒼い月の下、気高き獣は跳躍す・d00820)
    アイレイン・リムフロー(スイートスローター・d02212)
    桃野・実(瀬戸の鬼兵・d03786)
    雪片・羽衣(春告げ蝶々・d03814)
    天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)
    羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)
    村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998)

    ■リプレイ

    「豪雪? 雪って朝には溶けてなくなるだろ? むしろ12月になっても雨が普通に降るぞ」
     北海道上陸前の香川出身、桃野・実(瀬戸の鬼兵・d03786)の言である。
     そして。
    「久々の地元なの!」
    「雪が降るなんて、四月にまさか……そう思っていた俺がいた」
     そしてこちら、北海道上陸後で生き生きしている村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998)の隣で呟いた、実の言葉である。
    「うわぁ……、こんなに雪が積もってる」
     実が唖然とする目の前で、霊犬のクロ助が鼻から雪山に突っ込んだり、元気いっぱい駆け回ったり。
    「俺もちょっと人型付けてみていいかな……?」
     初めて見る雪でいっぱいの大地に、思わず実も霊犬に負けないくらいうずうず。
    「雪なのですよぅ! まだ此方は雪が残ってるんですねぇ~凄いのです~!」
     天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)も思いっきり瞳をきらきら。
    「しかしこの季節じゃ、雪は溶かしても夜にまた凍るだけだろーに……」
     スキーウェアにスノーブーツ姿の雪片・羽衣(春告げ蝶々・d03814)が悟りを開いたような顔で呟く。
    「と言う説得は今更かー。てゆか雪崩れない? この季節、ヘタすると」
    「けれど小学生にして地元を愛するその心意気は素晴らしい物だと思うのです」
     羽坂・智恵美(古本屋でいつも見かけるあの子・d00097)がご当地の心意気を忘れぬ少年に、感心して頷きながら拳を握る。
    「大好きな自然を自分で壊しちゃうなんて、そんなの熊五郎自身が絶対悲しむと思うわ。助け出さなくっちゃ」
     アイレイン・リムフロー(スイートスローター・d02212)が初めて見る広大な雪景色を感激と共に見渡し、頷いて。
    「木彫りの熊さんのご当地ヒーロー、熊五郎様をお助けするため頑張るのです~!」
     拳を握りしめた優希那の隣で、頷くは大きな黒い影。
    「木彫りの熊とは、北海道で製造される木製の手工芸品である、か」
     最近は職人も減っている、と。そう蒼月・杏(蒼い月の下、気高き獣は跳躍す・d00820)は呟き、「嵩張る土産物は最近敬遠されているからな」と付け加えてから首を傾げる。
    「しかし熊五郎……五男なのか気になるな」
    「そうですね、五郎様ということは太郎様とか次郎様もいらっしゃるんでしょうか?」
     優希那が合わせて首を傾げる。その隣で深く頷く智恵美。
    「絶対にこの方は助けないと! じゃないと熊太郎さんや熊次郎さん、熊三郎さんに熊四郎さんはきっと悲しむのです!」
     既に五人兄弟だと思いっきり決めてかかるポーズ!
     ところで何で防具がタヌキングスーツツヴァイ(着ぐるみ)なんですかね?
     よく見たら、優希那は白狐姿だし、杏もなんだか仰々しい姿だし。
    「ん? この着ぐるみは黒豹だぞ。なぜだろう。こういう格好で来なければならないという謎の強制力が働いたんだ」
    「三人とも暖かそうな格好。抱きつかせてー♪」
     アイレインが嬉しそうに智恵美に抱き着く。思いっきりぎゅぎゅっとして智恵美に頭をなでてもらってから、次は優希那や杏とも「ふかふかー♪」とぎゅー。
    「ともあれ、地元愛が故に闇堕ちなんて悲しいことは絶対だめなの!」
     地元愛っていう気持ちは一緒だから、通じるといいな、と寛子は願うように呟く。
    「……あ!」
     見上げた先には、狼煙のように沸き起こる湯気。
     灼滅者達は頷き合い、走り出す。一人の少年を、灼滅者を、救う為に。

    「…………誰だっ!?」
     木彫りの熊の頭部が、振り向いた次の瞬間。
    「日本列島! 全国各地! ご当地愛がある限り!」
     ふわふわの茶髪から角がのぞく!
    「北国のニュー☆ヒーロー羊飼丘・子羊、参上!」
     そう、羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)だ!
     角に宿るはご当地愛。瞳に宿るは救いの意志。
     ヒーロー☆スピアを手に飛び出し、くるりと穂先を回転させて、子羊は果敢に戦いを挑む。
    「ヒーローなら俺の邪魔をしないはず! ……つまり、悪の手先だな!」
     そして熊五郎は、即座に灼滅者達を敵と決めつけ鉈を手に向き直る。
    「さあ、来い……お前のご当地への思いと俺の炎、どちらが熱いか勝負といこうじゃないか」
     振るわれた鉈をその腕で受け止めながら、一気に手にした槍を燃え上がらせ、そのまま薙ぐ!
    「優希那さんいきましょう! ダブル肉球パンチですっ」
    「はいっ、智恵美様!」
     そして杏に続いて、飛び込んだのは智恵美と優希那のもふもふ神薙使いコンビ!
    「「肉球ぱ~んちっ!」」
    「くっ、ちょっともふもふと肉球に懐柔されそうになったが……負けるか!」
     熊五郎もこの鬼神変には歯を食いしばって対抗せざるを得ない!
    「ハール、行きましょ!」
     アイレインがそう一声かければ、封印を解かれ姿を現したビハインドのハールが黄金色の大剣を手に共に駆ける。アルレインがシールドバッシュを叩きつければ、ハールが霊気を大剣の一撃へと変えて勢いよく振るう。
     実がすっと息を吸う。ガイアチャージで得た北海道のご当地パワーを、一気にビームへと変換して――、
    「北海道パウダースノービーム!」
     解き放てば思惑通り、熊五郎の顔が怒りに染まる!
    「北海道の自然を甘く見る奴は、いくらおねーさんだからって容赦しないぜ!」
    「え?」
    「……え? えって……え?」
     あからさまに戸惑う実。それにつられて一緒に戸惑う熊五郎。
    「あの……おねーさんって、俺?」
    「え、あ、男?」
     沈黙。
    「桃野さーん! 雪の上にのの字書きながら戦線離脱しないでくださーい!」
     中学校女子制服だけど男だもん。
     男だもん……!

    「最初に言っておく」
    「……何だ?」
    「――気持ちはわかる!」
    「っ!?」
     いきなり羽衣に共感されてびっくりする熊五郎。
    「いつまでも雪が残ってると、確かにめんどくさいけど。雪って綺麗でいいじゃないですかとか、ふわふわいってる本州のヤツは、冬の幌加内あたりに引っ越して埋まればいいよ!」
    「おおおその通りだよなー!」
     しっかりと握手を交わす羽衣と熊五郎。
    「しかしそこまで詳しいってことは、もしかして君も道民……」
    「あ、それは教えられないのだ。謎の転校生設定なのでね!」
     羽衣さん堂々と設定って言い放った。
    「大変な事情なのはわかるわ。けれど、そんなに頑張らないでほしいの」
     そう仲間の傷を癒しながらアイレインが口にした言葉に、熊五郎はかっと木彫りの熊の瞳を怒らせ振り向いて。
    「内地の人間に……何がわかるってんだよ! 観光客だって、登山道が封鎖されてる間はすぐ帰っちまうんだぞ!」
     きついご当地キックと共に放たれた言葉に、けれどアイレインは必死に呼びかける。
    「アイ、こんな雪景色はじめて見たの。北海道の自然なんだなぁって。だからそんなに残雪を憎まれると、悲しくなっちゃう……」
     その言葉に深く、子羊は頷いて。
    「春になる頃にはうんざりする雪だけど、雪のない冬、雪のない北国はそれだけで魅力半減!」
     叫びながら熊五郎の懐へと飛び込み、先端に羊のついた杖を思いきり振り抜く。魔力を解放しながら「これは、僕からの愛だよ☆」とウィンク。
    「雪を無理矢理溶かしちゃだめですよ~。自然は自然の行くままに、この理を無理矢理変えてしまったら自然そのものがおかしくなってしまうと思うのです」
     妖冷弾を放ちながらかけた智恵美の言葉に、「だけど!」と熊五郎が必死に叫ぶ。
    「去年の冬はもっと短かったじゃないか! 去年の今頃はもっとあったかかったじゃないか!」
    「きっとこの冬が長いのは、そうしないといけない何かしらの理由があったのです」
    「だったらそれって何なんだよっ!」
     必死に言い募る熊五郎に、智恵美も必死に考える。
    「雪を無理に溶かそうとしなくてもいいと思うのですよぅ。私たちにとっては、雪は珍しくて綺麗で素敵な光景なのです」
    「それは普段から雪に触れてないからだ!」
     即座に熊五郎に言い返されて、でも、と優希那は必死に言葉を紡ぐ。
     ぐるぐる手を回しながらだだっ子ぱんちのように閃光百裂拳。幼げな仕草に見えるけれど、幼いなりに戦いも説得も必死。
    「それに周りの木を薪にしちゃったら、木彫りの熊さんを作る木がなくなっちゃうのですよ?」
    「考えろ、木がなくなったら木彫りの熊を作る材料がなくなると!」
    「っ!」
     優希那と杏の思わぬ鋭い指摘にたじろぐ熊五郎に、杏はそのまま拳を叩きつける。一撃目はそのまま、二撃目は炎に染めて。
    「そう、木を無駄遣いしちゃだめなの! 木彫りの熊さんの材料がなくなっちゃうの!」
     札幌クラークビームで熊五郎の注意を引きつけながら、寛子が必死に叫ぶ。ぐっ、と熊五郎が言葉に詰まり、その拳を震わせる。
    「お前の守りたいモノは今年だけどうにかなればいいのか!?」
    「そんなことはない! 俺は……俺は!」
    「違うだろう」
     熊五郎の叫びに、杏の瞳が幾分優しくなる。
    「この後、十年、二十年、ずっと……大切にしてもらいたいんだろう?」
    「う……うん……でもっ!」
    「でもじゃないの!」
     寛子が必死に叫び返す。生まれたのは関西でも、物心つく前に北海道にやって来た寛子にとっては、北海道こそがご当地だから。
     同じご当地を持つ仲間が、ただ堕ちるのを見てなんていられない。
    「山の頂上から雪を溶かしたら雪崩になって迷惑する人がいっぱいなの! 道も塞がって余計に観光客が来なくなるの!」
    「ぐっ! た、確かに!」
    「雪に負けて闇に堕ちるなんて、開拓精神どこ行ったー!」
     寛子の札幌テレビ塔ダイナミックを受けてその身を揺らがせる熊五郎に、羽衣が叫びながら思いっきり神薙の刃を叩きつける。
    「君が本当に相手にするべきなのは……」
     子羊がそこで一度言葉を切り――口を開くと同時に、拳を叩きつける!
    「雪国を愛するあまり雪を降らせ続けている(かもしれない)ご当地怪人(がいればの話)じゃないかな!」
     子羊さん括弧の中身多すぎるよ!
    「な、何だと!? そんなご当地怪人……許してはおけない!」
     ほら熊五郎が信じちゃってるじゃないか!
    「北国を愛し、魅力的な地元を守る為に戦うべきなのは、そういった怪人を従えるご当地幹部や、悪のご当地首領じゃないのかな!」
     そして熊五郎が動揺している間にすかさずまとめに入る子羊である。
    「一人じゃ無理でも僕等は同じご当地ヒーロー、一緒に戦おうよ!」
     輝く笑顔にサムズアップでキメ!
    「今年は雪が降って大変かもしれない。でも、それでもなお、大切なものをずっと愛されるように守り抜く、それがご当地ヒーローじゃないのか」
     ゆっくりと声を掛けながら、杏の炎が怪人としての心を溶かしていく。北海道の遅い春の日差しが、雪を溶かすように。
     そこに優希那が、智恵美が、アイレインが、ハールが畳み掛けるように攻撃を重ねる。杏が溶かした心に、今度は自分達の言葉よ届け、と。
    「雪が溶けた後、一気に財政盛り返せるようなすっごい作戦を考えるタイムだと思ってみたは如何でしょうか?」
    「作戦タイム? でも……」
     智恵美の言葉に心動かされながらも、不安げに熊五郎は眉を寄せる。
     やはり、溶けぬ雪が不安だったのだろう。そう言う事もあると、齢を重ねればわかっていくのだけれど――。
    「……お前の役目は雪が無くなって山のガイドしたり熊から観光客を守るだけじゃないだろ」
     ようやく本調子を取り戻した実が、槍の妖気を氷に変えて飛ばしながら、ゆっくりと問いかける。
    「一月二月に比べて雪は変わらないか? 俺みたいな初心者が雪山を見に行きたいって言った時、お前はそんな奴らを守れるんだ」
    「雪山ったって、ここの登山道は積雪時閉鎖で……」
     戸惑ったような熊五郎の言葉に、ふっと実は笑んでみせる。
    「北海道には、他にも雪山がいっぱいあるじゃないか」
    「……!」
     槍を手に地を蹴った実が、穂先を回しながら頷いて――熊五郎に届けとにっこり笑う。
     それに続いて、優しき異形へと変えた腕を、闇を削らんと伸ばすのは羽衣。
    「それにほら……さ。この雪解け水のおかげで、水芭蕉と水仙が育ってる。この二つが一緒に咲くとか、本州の人には考えられない奇跡なんだよ」
     まだ、花が咲くには遠いけれど――雪の下では、確かに根を張り育っているはずの二つの花の名に、はっと熊五郎は息を呑む。
    「燃やしたら、これも咲かなくなってしまうよ」
    「そ、そうだ……これだって、北海道の自然なんだ……」
     うん、と羽衣は優しい瞳で頷いて――閃光百裂拳を、解き放つ。
    「それに、だ。GWにも雪! GWにもスキー! それがこの北海道の大事な観光資源のひとつだということも忘れちゃいけないよ……って」
     思いっきり語り尽くしたところで、ふと我に返る羽衣。
    「何でご当地ヒーローでもないのに熱弁奮ってるんだろう……私」
     仕方ないね、ご当地ヒーローだったら出身ばれちゃうからね!
    「木彫り熊さん同様、このとっても素敵な景色も愛してあげてくださいですよぅ」
     清めの風を吹かせながら、優希那がにっこりと微笑んで。
    「春は遅くても必ずやってくるの! 落ち着いて待つの!」
    「……わかった」
     寛子の懸命の言葉に、灼滅者達の言葉に、ゆっくりと熊五郎は頷く。――今ならば、熊五郎は闇に勝てる。
    「行くよ!」
     角にビームを宿し熊五郎を指した子羊の合図で、ご当地ヒーロー達が己の得意技の構えを取る。
    「子羊☆ビーム!」
    「札幌時計台キック!」
    「これが俺のご当地――瀬戸内海の幸ビーム!」
     そして一気に――ご当地への愛が、解き放たれて。
     続けて槍を回し石突で放った実の手加減攻撃の前に、木彫りの熊と化していた顔は――ゆっくりと、小学6年生の少年の顔へと戻っていった。

     急いで傷を回復する優希那に、熊五郎は大丈夫、と笑ってみせた。
    「熊五郎ちゃんは地元が大好きなの?」
    「もちろん! おねーさんは?」
    「寛子もね、大好きなの!」
     早速ご当地トークで盛り上がる寛子と熊五郎である。
    「もし宜しければ学園へいらっしゃいませんか? 熊五郎様とお友達になりたいのです~」
     そうじっと瞳を見つめて告げた優希那の言葉に、熊五郎はしばらく考えてからわかった、と頷いて。
    「北海道の素敵なとこ、広めにいくよ!」
     そう言って、にこりと笑った顔には決意が宿る。
    「熊五郎のお家に興味があるわ。五人兄弟だったりするの? お兄さんはいるの? お兄さんかっこいい?」
     矢継ぎ早にアイレインに尋ねられて目を白黒させながらも、「よくわかったな五人兄弟だぞ! 兄ちゃん達は狩猟免許も持っててかっこいいぞ!」と熊五郎は屈託なく笑う。
    「さて、と。せっかくだから北海道観光といくか」
    「お腹空いたのです~カレーラーメン食べに行きたいのです~」
     杏の言葉に無邪気に優希那が口を挟む。子羊が隣で「お土産に木彫りの熊が欲しいな♪」と言えば、父ちゃんのお手製があるぞとすかさず熊五郎が宣伝。
     わっと沸き起こる歓声の中――そろそろ春を感じさせる日差しが、灼滅者達を照らしていた。

    作者:旅望かなた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 4
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